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肺動脈弁欠損根治術後遠隔期に呼吸器症状の再発を認めた1例

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日本小児循環器学会雑誌 9巻5号 674〜679頁(1994年)

肺動脈弁欠損根治術後遠隔期に呼吸器症状の再発を認めた1例 本症患児の呼吸不全に関する一考察

(平成5年9月1日受付)

(平成5年12月21日受理)

大阪府立母子保健総合医療センター小児循環器科1),心臓血管外科2),放射線科3}

*;現 大阪大学医学部小児科,**;現 国立循環器病センター心臓血管外科      松下  享1*)前野 敏也1) 稲村  昇1)

     岸本 英文2) 飯尾 雅彦2) 久米 庸一2)

     森本 静夫3) 八木原俊克2**)中田  健2)

key words:肺動脈弁欠損,呼吸不全,肺換気・血流シンチグラフィー,気管支圧迫

      要  旨

 ファロー四徴兼肺動脈弁欠損の根治術後遠隔期に,仰臥位時の呼吸苦を認めた症例を経験した.心臓 カテーテル検査や気管支ファイバー,肺換気・血流シンチグラフィーから,患児の呼吸苦の原因は,① 進行してきた肺動脈弁狭窄と逆流により,異常に拡張した肺動脈が主気管支を圧迫していた,②本疾患 が有する肺動脈の分岐様式の異常が,末梢気管支を圧迫していたことによるものと考えられた.再度3 弁付き心膜ロールを用いて右室流出路再建術を施行し,肺動脈弁狭窄を解除し逆流を止め,さらには充 分な肺動脈縫縮術を施行したところ,気管支の閉塞性病変は改善し患児の呼吸苦も消失した.本症例は,

肺動脈弁欠損の呼吸不全の原因を考える上で貴重な症例であり,このような病態生理を考慮して術前後 の呼吸管理にあたることが重要であると思われる.

      はじめに

 肺動脈弁欠損は比較的まれな疾患で,そのほとんど は心室中隔欠損やファロー四徴など他の先天性心疾患 と合併することが多い1).新生児期発症の本症は,陥没 呼吸や努力呼吸などの呼吸器症状が著しく,早期の外 科的治療を必要とするものであるが,その成績は未だ 満足できるものではない2),

 今回我々は,乳児期に根治術を施行したが術後遠隔 期に再度呼吸器症状を主訴に再発した症例を経験し,

再手術を施行して良好な結果を得た.本症の呼吸器症 状に対し,肺シンチグラフィーや気管支ファイ・9 一を 施行し,その原因について興味ある知見を得たので若 干の考察を加え報告する.

      症  例  症例:9歳,女児,

別刷請求先:(〒565)大阪府吹田市山田丘2−2      大阪大学医学部小児科   松下  享

 主訴:仰臥位時,運動時の息苦しさ.

 現病歴:在胎39週,2,830gで出生.出生直後より心 雑音を聴取し,超音波検査および心臓カテーテル検査 にてファロー四徴を合併した肺動脈弁欠損と診断し た.全身状態は比較的安定していたことから経過観察 していたが,生後4ヵ月時と6ヵ月時に感染を契機に 呼吸困難となり人工呼吸管理を必要としたことから,

生後7ヵ月時(体重5,330g)に径14mmのHancock

valve付Conduitを用いた右室流出路再建術および心 内修復術を施行した.この時肺動脈の縫縮は行わな かった、術後経過は良好で術後43日目に退院した.2 歳時に行った心臓カテーテル検査では血行動態的な問 題はなかったが,8歳時の心臓カテーテル検査では右 室一肺動脈での圧較差は44mmHg,逆流は中等度で あった.9歳頃から就寝時に仰臥位になると息苦しく なる訴えがあり,側臥位もしくは腹臥位で就寝するよ うになった.また口常生活でも階段昇降時の疲労感が 強いなど,運動耐容能の低一ドを認めるようになったこ

(2)

日小循誌 9(5),1994 675−(61)

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図1 胸部レントゲン写真(左,術前,右,術後)

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図2 術前肺動脈造影像(収縮期).肺動脈は異常に拡大している.

とから入院の上精査となった.

 入院時現症:身長125.5cm,体重23.9kgと身体発育 は正常であった.呼吸音は臥位・座位ともに肺胞音を 呈し,明らかな気道狭窄音などは聴取しなかった.心 音は純で,胸骨左縁第2〜3肋間に最強点を有する Levine 4/6度の収縮期雑音を,また同じく第3肋間に 最強点を有する2/6度の拡張期雑音を聴取した.腹部は 平坦であったが肝を2cm触知した.

 検査所見:胸部レントゲン写真(図1左)では,CTR 60%と心拡大を認め,肺血管陰影は軽度減少していた が,局所的な透亮性異常は認めなかった.心電図検査 では,洞調律であるがP・Q間隔は0,32秒と1度のA−V

blockを認め,また完全右脚ブロックを呈していた.超

音波検査では,右室一肺動脈での圧較差は約60

mmHg,逆流の程度は中等度と評価された.心臓カ

テーテル検査では右室一肺動脈の圧較差は58

mmHg,右室圧は81mmHg,右室・左室の圧比は0.76 であった.右室造影では,Conduit内は全体的に狭細化 しており,Hancock弁の動きは認めなかった.また肺 動脈造影上,左右肺動脈径はそれぞれ26mm,37mmと 著しく拡大し(図2),肺動脈弁逆流は中等度であった.

以上の検査結果からConduitの入れ替え術を行う方 針としたが,患児の仰臥位時の呼吸苦について評価す べくXe−133を用いた肺換気シンチグラフィー3)(換気

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676−(62) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第5号

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図3 換気シンチグラフィー(左;術前,右;術後).検査開始後30秒間隔で,左上から右横方向に  順次撮影している,2段目から肺内のXeの洗いだし(wash out)をさせている.術前では右S6  部の排泄遅延(air trapping)を認めるが,術後は同部の排泄遅延が改善していた.

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図4 血流シンチグラフィー(左;術前,右;術後).左図の左上(P→A),右上(A→P),右図  の左上(A→P),右上(P→A)像で右肺門からS6部の血流低下を認める,術前後で大きな変化  は認めなかった.

シンチ)および99m−TcMAAを用いた肺血流シンチグ ラフィー(血流シンチ)を座位と仰臥位にて施行した.

換気シンチ(図3左)では右S6領域でのair trapping

(排泄遅延)を,血流シンチ(図4左)でも右肺門部〜S6 部の血流低下を認めたが,座位・臥位といった姿勢に よる変化は認めなかった.

 手術:患児は9歳6ヵ月時,ブタ心膜にて作成した

径21mmの3弁付き心膜ロール(国立循環器病セン

ター方式;valved pericardial roll(VPR))4)5)を用い て,Conduit置換術を施行した.術前挿管時の気管支 ファイバースコープによる検査では,拡張した肺動脈 によると考えられる右主気管支の圧迫を認めたことか ら,岸本らの正常肺動脈径6)を規準にして左右肺動脈 をできるだけ末梢側にまで縫縮する方針とした.右肺

(4)

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 嬉燕蒙野 図5 術後肺動脈造影像(拡張期).肺動脈は術前に比し充分に縫縮されている.3弁付き心膜ロー  ルにて作成した肺動脈弁は,形態的にも充分に閉鎖しており,肺動脈弁逆流は軽度であった.

動脈は下葉枝まで剥離し前壁を切除して縫縮したが,

左肺動脈はその分枝が比較的近位から出ており切除範 囲が限られることから内腔から後壁を幅5〜6mm,長 さ15mmに渡り縫縮した.縫縮後の肺動脈径は右13 mm,左17mmのブジーが通過するまでになり手術を 終了した.術後の気管支ファイバースコープでは,術 前に認めた右主気管支の圧迫は解除されていた.

 術後経過:患児の術後経過は良好で,術前に認めた 仰臥位時の呼吸苦は消失した.胸部レントゲン写真(図

1右)でも,心拡大は改善し肺血管陰影も正常化した.

また術前に認めた左第2弓の突出も軽減し,肺動脈の 拡大は改善されていた,術後27日目に施行した心臓カ

テーテル検査では,右室一肺動脈の圧較差は15

mmHg,右室収縮期圧は38mmHgと改善していた.肺 動脈造影でe# ,左右の肺動脈径はそれぞれ18.6mm,

23.4mmと充分に縫縮されており,肺動脈弁逆流はご く軽度認めるのみであった(図5).しかしながら同時 期に行った肺シンチグラフィーでは,術前と変化なく 改善されていなかった.患児は術後29日目に退院と なったが,呼吸器症状も消失し元気に通学している.

術後1年目に再度行った肺換気・血流シンチでは,右 肺門部を中心に認めた血流低下は残存していたが,air trapping像は改善していた(図3右,図4右).

      考  案

 肺動脈弁欠損は,新生児早期から重篤な呼吸器症状 を呈することが多い.本症の呼吸器症状の原因は,肺 動脈弁位での逆流が肺動脈を異常に拡大させ,この拡 大した肺動脈が気管支を前方から後方に圧迫して起こ るとされている7)8).一方Rabinovitchら9}は,本疾患児 のautopsyによる検討から肺内肺動脈の分岐形態の 異常について報告している.すなわち通常肺内肺動脈 は順次2分岐していくが,本疾患児の肺内肺動脈は房

(tufts)のように一度にたくさん分岐し,これが伴走す る気管支にからまるように走行しながら同部を圧迫し ていることを指摘しており,このような末梢気管支の 圧迫も本疾患児の呼吸不全の原因の一つであるとして いる.これらの原因を我々の症例で考えてみると,仰 臥位時には呼吸苦を訴えるが腹臥位または側臥位では 改善すること,肺動脈縫縮後の気管支ファイバーで気 管の圧迫が解除されていたこと,肺換気・血流シンチ で右肺門部からS6部にair trapping像を認め,同部の 閉塞性病変が考えられること(血流の低下は恐らく気 道の閉塞性病変による2次性のものと考えられる),こ れら全ての結果は上述した中枢性および末梢性気管支 の圧迫病変を示しているものと思われる.

 本疾患に対する外科的治療成績は未だ満足できるも のではないが,その理由は術前および術後も持続する

(5)

678−(64) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第5号 r−PA

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図6 肺動脈径の経年的変化.右肺動脈径(r・PA)および右肺動脈断面積指数(r−PAI)は,肺動脈  狭窄(RV・PA)と逆流(PR)の増強に伴い,経年的に増大していた. PRの程度は4段階で表示  している.

呼吸不全によるところが大きい1°).呼吸不全の主要因 が上述した中枢性または末梢性の気管・気管支の圧迫 にあることから,手術には肺動脈の縫縮を充分に行い,

肺動脈逆流を止め,遺残短絡を残さないようにして正 常な肺循環とすることが最良と思われる.我々の症例 においてもできる限り肺動脈縫縮を行い,VPRにより 肺動脈狭窄と逆流を充分に修復したことにより呼吸器 症状は劇的に改善した.また1年後の肺シンチでは air trapping像も改善されており,末梢性の気管支圧 迫の程度も軽減してきたものと考えられる.本疾患の 呼吸不全を管理する際にはこのような病態生理を考え て行うことが重要であると思われる.

 本症例の肺動脈径と心臓カテーテル検査結果の経時 的変化を図6に示した,体格による肺動脈径の大きさ を補正するために用いた右肺動脈断面積指数(r−PAI)

(右肺動脈断面積を体表面積で除した値)は,生後7カ 月時に行った根治術後も徐々に増大しており,肺動脈 が経年的に拡張していくものと思われた.このような 肺動脈の拡張には,肺動脈狭窄と逆流の増強が関与し ているものと思われるが,Mommaら11)は本疾患の肺 動脈の拡張は肺動脈狭窄の程度が強いほど軽度である

としていることから,本症例の肺動脈の経年的拡張に は肺動脈逆流の増強が関与しているのかもしれない.

いずれにせよ,本症例のごとく術後長期遠隔期に再度 気管支圧迫症状を呈した症例の報告は我々が調べた範 囲内ではなく,このような変化が術後長期遠隔期にも 起こりうることは,今後本疾患児を管理していく上で 注意を要するものと思われる.

 以上,肺動脈弁欠損患児の再手術例を経験し,本疾 患の主症状である呼吸不全の原因について考察した.

本症例に施行した肺シンチグラフィーの結果は,本疾 患の呼吸不全の原因を考える上で貴重な情報を提供す

るものと考え報告した.

 本症例に対して行った肺シソチグラフィーは,「母と子の すごやか基金」の援助にて行った.

      文  献

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ACase with Dyspnea Late after Repair of Absent Pulmonary Valve

 Tohru Matsushital}*, Toshiya Maenol), Noboru Inamura1), Hidefumi Kishimoto2},

      Masahiko Iio2), Youichi Kume2), Shizuo Morimoto3),

       Toshikatsu Yagihara2)**and Takeshi Nakada2}

Departments of Pediatric Cardiologyi), Cardiovascular Surgery2) and Radiology3), Osaka Medical       Center and Research Institute for Maternal and Child Health

      Department of Pediatrics, Osaka University Medical School*

        Department of Cardiovascular Surgery, National Cardiovascular Center**

   We experienced a 9 years−old girl with dyspnea late after repair of tetralogy of Fallot with absent pulmonary valve. By cardiac catheterization, cineangiography, bronchofiberscopy and lung scin−

tigraphy using Xe−133, it was clarified that the cause of her respiratory symptom resulted from the compressed main and peripheral bronchi by markedly dilated pulmonary artery and abnormal branching arteries. We performed re−operation consisted of reconstruction of right ventricular outflow tract using heterograft valved pericardial roll and plication of aneurysmally dilated pulmonary arteries.After re−operation, her respiratory symptom was dramatically desappeared and postoperative lung scintigraphy showed no air trapping lesion.

   We though that it was an important case in showing the cause of respiratory distress in absent pulmonary valve.

参照

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