《温故知新プロジェクト》
「再家族化」と「インフォーマライゼーション」
〜地域密着型サービスに見る新しい「生活支援」へのかかわりと「地域の互助」〜
(最終年)
松 岡 洋 子
*
Re-Familization and Informalization:
A Life Support and a Mutual Aid
in the Community of the Community-Based Services
Yoko MATSUOKA
1. 背景と目的
1990年代の議論を経て、2000年に介護保険制度がス タートした。17年の経過のなかで、利用者は約2倍に、
給付費は3.6兆円から10兆円へと3倍に増加し、大規模な 改革が幾度となくなされてきた。
2005年の改正では要支援認定が2段階となり、筋力ト レーニング・栄養改善・口腔機能向上など予防的な視点が 加えられた。また、地域支援事業が創設されて「地域包括 支援センター」が開設された。「地域密着型サービス」が 創設されたのも2005年改正である。2012年改正では定期 巡回・随時対応型訪問介護看護が創設された。
団塊の世代が75歳以上になりきる2025年を見越して
「地域包括ケア」が進められている。重度の要介護状態に なっても、住み慣れた地域で自分らしく住み続けられるよ うに、医療・介護・予防・住まい・生活支援が連携して一 体的に提供されるシステムである。この中でとくに、自分 のことは自分で行なう「自助」、ボランティア活動や地域 住民が支え合う「互助」に焦点が当てられている。とく に、地域包括ケアは植木鉢に例えて説明される。医療・保 健・介護・予防など既定の報酬が給付される制度的サービ スを葉に例え、植木鉢の土(地域)が豊かな土壌でなけれ ばならないとしている。さらに、団塊ジュニアが高齢者と なる2040年を見据えて、「地域共生社会」構想も出されて いる。
中でも近年の大きな改正は平成26年介護保険改正であ り、これまでの「介護予防事業」が大きく改変され、全国 一律の予防給付(要支援者の訪問介護、通所介護)を市町 村事業として展開する「介護予防・日常生活支援総合事業
(以下、総合事業と略す)」へと置き換えられた。具体的に は、要支援の認定者がこれまでの予防給付から切り離され、
総合事業として自治体の運営下に置かれたわけである。市 町村事業の中では、住民主体による活動に期待が寄せられ、
交流サロンや見守り、安否確認、家事援助などについて、
ボランティアなどの活動によって推進していくインフォー マライゼーションの方向が打ち出されたわけである。
介護保険制度は介護保険法に裏打ちされたフォーマルな サービスであり、「介護の社会化」を重要な理念の一つと してスタートした。しかしながら、昨今のこうした動きは
「介護の社会化」に逆流するような形で、地域での助け合 い(インフォーマルケア)を促進しようとするものとして の側面を含んでいる。
そこで本研究では、介護保険が施行される前の措置の時 代に遡り、措置の時代におけるサービス提供の状況を探 り、介護保険法が施行されてからの変化を明らかにし、総 合事業の時代における新しい「地域の互助」のあり方につ いて考察することを目的とした。
2. 文献レビュー
措置制度とは、介護サービス利用や施設入所について、
行政の判断で措置を行なう制度である。自分が抱える生活 課題を解決するサービス利用について個人は相談すること はできるものの、自己決定に基盤を置くものではない。個 人の権利に基づくものでなく、弱者を保護するというパ ターナリズムに立脚する制度である。2000年にスタート した介護保険は利用者の自己決定に基づき、サービス事業 者との契約によるサービス利用が原則であり、「措置から 契約へ」「措置制度から社会保険方式」への大変革が行な われたものとして位置付けられている。
変更のポイントは次のようにまとめることができる。ま ず、措置制度では低所得者や独居高齢者などの家族支援が ない者が対象とされていたが、介護保険では家族や所得の 状況に関係なく、要介護認定で認定された者が対象とされ
* 東京家政大学(Tokyo Kasei University)
た点である。第2に、措置制度の下では、行政が必要な サービスの種類・時間量・時間帯・事業者を決定していた のに対して、サービスの受給は要介護認定とケアマネジメ ントを通じたサービス事業者との契約を基本として対等な 関係が保障されている点である。第3に保険料を支払って 社会連帯の一部を担い、サービス利用料の1割を自己負担 して社会サービスの利用主体として位置付けられている点 である(松田ら、2013;堀田、2010;佐藤、2010)。
介護保険におけるサービス利用の権利保障、サービス選 択の自由と利用者の権利擁護は措置制度の対極にあるもの である。また介護保険は、「利用者の権利と選択権が保障 されていない硬直的な制度」である措置制度に対する批判 に立脚しているということができる(伊藤、2003)。
以上のように、介護保険は「措置から契約」へのパラダ イムシフトを障害者福祉・児童福祉など他の制度に先駆け て推進するものである。しかしながら、文献で確認するこ とはできないが、「措置の時代には地域での互助が豊かに 行われていたが、介護保険が始まって互助の姿を見かけな くなった」ということがよく言われている。
また介護の社会化を戦後間もなくから始めている欧米に おいても、高齢化の急激な進展と予算の限界を背景要因と して、近年では家族やボランティア活用で特徴づけられる インフォーマルケアへの期待が大きく高められている(松 岡、2015)。
3. 調 査 概 要 1) 調査目的
本研究では、家族介護や地域での助け合い、ボランティ ア活動によって構成される「インフォーマライゼーショ ン」に焦点をあて、措置の時代から介護保険法が施行され てからの変化について明らかにし、総合事業の時代におけ る新しい「地域の互助」のあり方について考察することを 目的とする。
本報告では、初年度報告書に、今年度新しく調査した内 容を加えることで、最終的な報告とする。
2) 調査対象と情報収集法
調査対象は以下の二つの基準で選定し、専門職10名に インタビュー(表1)を行った。
・ 介護保険事業の中でも、地域密着型サービスである「定 期巡回・随時対応型訪問介護看護」または「小規模多機 能型居宅介護」サービスに従事している、または従事し たことのある介護福祉士、ヘルパー2級以上(介護職員 初任者研修)、サービス提供責任者
・ 措置の時代の経験が2年以上あること
1時間から1時間半をメドに半構造的インタビューを
行った。措置の時代を経験しているということは、16年 以上のベテランであるということである。
半構造的インタビューでは、インタビューフローとして、
表1 インタビュー協力者一覧
名前 K氏 Mさん H氏 Mさん Tさん
年齢(性別) 40代(男性) 60代(女性) 40代(男性) 60代(女性) 60代(女性)
所在地 O市 N市 K市 K市 K市
現在の仕事 小規模多機能型居宅介護
(サービス提供責任者)
NPO法人理事長 社会福祉法人にて施設と在 宅統合主任
居宅介護支援 小規模多機能型居宅介護
(サービス提供責任者)
資格 介護福祉士 ヘルパー2級 社会福祉士
ケアマネジャー
介護福祉士 ケアマネジャー
介護福祉士
過去の経験 特養で働いた後小規模多機 能の責任者。措置の時代の 特養の経験あり。
家族介護の経験が長く、介 護者の立場で措置の時代の 経験が長い。
障害者福祉を経て措置時代 の特養を経験。その後も介 護の仕事に関わる。
平成3年よりデイサービス で11年。
措置時代の特別養護老人 ホームで15年勤務。
名前 Iさん Mさん Jさん Kさん Iさん
年齢(性別) 60代(女性) 50代(女性) 50代(男性) 60代(女性) 50代(男性)
所在地 K市 K市 N市 K市 K市
現在の仕事 民生委員として地域のボラ ンティアコーディネート
グループホーム管理者 定期巡回随時対応型訪問介 護責任者
NPO法人の居宅介護支援 事業責任者
地域包括支援センター統括 所長、主任介護支援専門員
資格 (寮母) 介護福祉士 介護福祉士 介護福祉士
主任ケアマネジャー
社会福祉士、主任ケアマネ ジャー
過去の経験 昭和60年から17年間特別 養護老人ホーム勤務。
措置時代の特養で2年。そ の後グループホーム。
特養で働いた後、訪問介護 を経験
特養、養護老人Hで働い た後、H13年よりケアマネ ジャー
養護老人ホーム、訪問介護 の後定期巡回随時対応型訪 問介護看護従事
「措置の時代と介護保険、あるいは地域密着型サービスが 始まってからの違いはどんな点でしょうか」とオープンエ ンドな形で質問を投げかけて自由に発言していただいた。
ほとんどの方が自由に発言してくださり、インタビュアー は不明点を確かめ、一部発言を促すのみであった。調査者 としては、利用者の変化、事業所の変化、地域住民の変化 の三側面から回答が得られるであろうと予測していた。
よって、これにこだわることなく、発言を促すためにもこ れら三側面の情報が満遍なく入手できるように気をつけた。
インタビューの所要時間は、1時間から1時間半であった。
3) 分析法
インタビュー内容は、許可を得てICレコーダーで録音 してテープ起こしを行なった。分析法はグランデットセオ リー・アプローチの骨格をなす「絶えざる比較法」(メリ アム、2004)を使用した。得られたデータ(情報)に密 着して、そこから概念を抽出していく手法である。
分析の際には、「措置の時代のサービスと介護保険の地 域密着サービスの違いは何か」を軸に据えて概念抽出を 行った。客観性を担保するために、2人以上での分析を原 則とした。
4. 結 果
絶えざる比較法で分析した結果、図1のような31の概 念と6つのカテゴリーが抽出された(概念には下線を引い
た。見出しがカテゴリーである。インタビューで語られた 内容はイタリックで表記した)。
1) 行政機能カテゴリー
行政は措置権者として責任をもって決定し、行政機能が 強かった。しかし、現在はケアマネジャーに「丸投げ」の 感がある、という意見が聞かれた。
「介護保険の改正がある時もケアマネジャーが説明します が、説明責任は行政にあるのではないでしょうか。保険料 が上がるなどの説明もすべてケアマネジャーがしていま す。丸投げの感じがします。ケアマネジャーはケアのマネ ジメントはしますが、説明責任までは(負うものではない のではないか)、、、」
「相談窓口が役所にあるのではなく、地域包括支援セン ターが行うようになりました。行政の仕事は何なのか?と 思うことがあります」
2) サービス意識カテゴリー(罪悪感・自己努力から権 利意識・依存へ)
措置の時代には、サービス利用への抵抗があった。民生 委員が地域の様子や各家庭を訪問することで、生活に課題 を抱える人をアウトリーチして行政に連絡するのであるか ら、サービス利用者は生活に何らかの課題がある人という ことになる。よって、サービス利用に対して、罪悪感や抵 抗感が伴った。このことを「高い敷居」と表現した人も
図1 「措置」から「介護保険(契約)」の時代への変化
あった。また、サービスは絶対的に不足しており、財源も 限られていて、利用者は提供されるサービスで生活しなけ ればならないので自己努力を行なっていた。
「事業者が少なく社会福祉法人のサービスしかなかった。
限られたサービスでやらないといけないので、自己努力し ていましたね」
「民生委員が地域を掘り起こして、困った人を探していく 感じ。だから、サービス利用に対しての罪悪感がありまし
た」
「敷居が高い感じがありました」
「デイサービスに対しては、タクシー業界や銭湯業界から クレームが来たりした」
しかしながら、介護保険が始まってからはサービスが充 実して、大盤振る舞いとも言える状況が続いた。利用者は
「使わなきゃ損」「やってもらわないと損」という権利意識 が蔓延してきた。これは、保険料を支払っているのだから 利用するのは当然であるという意識である。
同時に、サービスの種類も増えて複雑化し、どんなサー ビスがあるのかわからず、どれが適しているのか全くわか らないという状況を招いた。
なかでも、簡単にサービス利用できるために依存心が高 まっていったという指摘も多かった。サービスが多様化し て不必要に利用するようになり、その結果として依存心に つながっていくのである。自分で食事が作れなければ訪問 介護の調理を利用し、買物に行きづらい場合は同買物サー ビスを利用する、という具合である。介護保険サービスが 利用できるので、「自分でしなければ」というぎりぎりの ところでの努力がなくなっていった、ということである。
「予防の人の家にも電動ベッドがレンタルで入っていまし た。最初はケアマネジャーもわからないわけですよね」
「罪悪感がなくなって、使わなきゃ損!という気持ちが強 くなった」
「デイサービス利用の際、食事・入浴などをこの時間で やってもらわないと損だという意識があった。自宅では自 分で入浴できる人がこのように考えるようになった。自分 でできるのだから、ご自分でやってくださいと言っても、
やってもらわないと損だという考えが高まった」
「措置の時代には家政婦さんが時間1500円前後していまし た。介護保険では1割負担で時間200円くらいで来てもら
えるようになりました」
「サービスが多様化して不必要に利用するようになって、
依存心が高まりました」
「サービスが多いので、利用者はわかりづらさを感じてい ました」
3) 家族力(かぞくりょく)カテゴリー
措置の時代には、「家族は夫婦や親の世話をするのは当 たり前だ」という意識があり、そこでがんばっていた。ま た、親の世話をする子どもには覚悟というものがあった。
さらに、世話する家族に病院の看護師が介護法を教えた り、リハビリ目的で入院させたりしていたので、理学療法 士などの専門職からの支援があり、リハビリを受ける事な どを通じて家族がそれを学ぶことができた。
「家族が家でみるしかない。脳卒中で倒れて入院したら、
退院のあとは病院に理学療法士や作業療法士がいたのでリ ハビリしてくれた。医師や看護師も、家での介護の仕方を 指導してくれていた」
「親の世話をする、という子どもの覚悟があった」
「措置の時代は子の責任感があった」
しかしながら介護保険が始まってからは、介護サービス を利用することができるようになったため、「自分の親を 世話しなければならない」という家族介護の意識が低下す るようになった。同時に、介護サービスの利用に伴って家 族の困窮度が低下し、「家族が学ぶ場」も不足するように なった。以前は、病院や社会福祉協議会などが作り出して いたものである。
「介護保険を使わなきゃ損」という意識とともに、家族 の理不尽な要求も聞かれるようになった。この根底には
「保険料を払っているのだから」という意識が見え隠れす る。
「家族が世話をするという心構えが、少なくなった」
「介護について、学ぶ場もなくなった」
4) 施設入所意識カテゴリー
措置の時代には、「24時間の介護が必要になって、家族 がいなかったり、倒れたりすると、施設入所が当たり前」
という意識が存在した。
そうした施設は市街地ではなく、地価の安い山の奥に建 てられており、まさに姥すて山、閉ざされた空間であっ た。また、入所してしまえば介護だけでなく、生活に関わ る世話はすべてしてもらえる。家族は自宅で負っていた責 任から逃れることができた。また、本人は「寮母さんに何 でも頼めばいい」と言われて、施設での暮らしはどんどん 依存的なものとなっていった。また施設入所者は「気の毒 な人」という位置づけで、慰問の対象であった。
「特別養護老人ホームは姥すて山のイメージが強くて、そ こに入ったら最後という閉ざされた空間でした」
「施設に預ければ、施設に任せばよい。全く責任ない。と 家族は考えていました」
「踊りやレクリエーションなどのお楽しみを携えて行う訪
問は、慰問と呼ばれていました。施設で暮らす気の毒な人 を慰問する、という意味です」
介護保険が始まった2000年は、特別養護老人ホームに おける「個室・ユニットケア」の議論が盛んになった時期 でもある。「生活の再構築」を目指して「普通の生活」と は何かについて、施設関係者やケア・ワーカーは考えるよ うになった。
「慰問」という言葉は姿を消し、「発表会」「交流」とい う言葉が使われるようになったのも、施設が「個室・ユ ニットケア」をとおして「生活の場」として生まれ変わっ ていく過程と重複しているであろう。
「介護保険が始まってからは、慰問と言わずに、交流とか 発表会とか言うようになりました」
5) 施設ケアカテゴリー
措置の時代、施設においては「やってあげる」「おもて なし」サービスが主流であった。ニーズ・アセスメントに 基づいたプランが立てられるわけではなく、ケア・ワー カーの「勘」に頼るプランなしの介護が提供されていた。
「できないことをしてあげる」というサービス提供を通じ て、利用者は重度化していったという事実がある。
また、施設の中では、「寮母さんに何でも頼めばいい」
という文化があった。
「何とか食べられる人も介助していました。介助した方が 早いからです。食べこぼしなどが出るのもイヤでした。し かし、そんな中で、利用者は自分で食べられなくなるので
す」
「食べられない人には介助する、というように業務的な発 想の仕事をしていました。結果的に利用者は状態が悪く
なって、介護を増やすことになるのです」
「(特別養護老人ホームでは)寮母さんに何でもやってもら いなさい、と言ってました」
介護保険では「自立支援」が謳われ、ケアマネジャーに よる科学的なニーズ・アセスメントに基づいたケアプラン が立てられるようになったが、そのマネジメントを貫く理 念は「自立支援」であった。その人のできる事(ストレン グス)に焦点を当てるICF(国際生活機能分類)の考え 方も導入されるようになり、自立支援への挑戦がなされる ようになっていった。
しかしながら近年では、そうした「自立支援」が介護し ている家族にとっては阻害要因になるケースも生まれてい る。自立して動き回るより、寝たきりで動かない方が介護 がラクであるという発想である。
「平成19年頃からICFの考え方が入って来て、お客様サー
ビスではダメ!と言われるようになった。上げ膳・据え膳 から、自分でできることは自分でしてもらうような介護へ と変化していきました」
「自分でできるようになって動き回られると困る、と言わ れる家族がいます。こちらでトイレに行けるようにしま しょうと提案しても、『オムツにして下さい』と仰るので す。家族がトイレ介助するのが大変なのです」
6) 地域カテゴリー
措置の時代には、行政からのサービスは敷居が高く、一 部の人のものであったため、自分達でなんとかしなければ ならない、という意識があった。こうした意識が互いの助 け合い精神につながり、地域にも認知症高齢者をやわらか に受け入れる素地があった。また、地域に多くの資源が存 在した。そして、自宅や地域で亡くなる人が多くいた。
近隣同士の見守りや助け合いは日常的にあって、民生委 員もそれを支えていた。
「自分たちで何とかしよう!という気持ちがありました」
「助け合い精神がありましたね」
「おかずを作りすぎたらご近所に配ったり、老人クラブの
〇〇会があったり、一人ぐらし高齢者を招いた園遊会など が開かれていました。盛んにやっていました」
「角のあのじいちゃん、ウロウロしているけど大丈夫かな あ〜と、近所の人が心配してなんとなく見ていました」
しかし、介護保険サービスが始まると、デイサービスに 頻繁に行く高齢者が現れるようになった。家にいる時間が 短いので、声が掛けにくいという事態が起こるようになっ た。日中自宅にいないので、声を掛けるにも掛けようがな いのである。
また、「ヘルパーさんが来ているから大丈夫」という安 心感が生まれるようになった。「地域のネットから漏れて いく感じ」「だんだん遠のいていく感じ」と表現されてい るように、関係は希薄化し、お年よりは日常的な地域の視 界から姿を消し、介護保険サービスの制度空間へと移って いったのである。
また、介護保険によって有料老人ホームなども建設され るようになり、友人が施設入所することで、地域に残る高 齢者は孤立化するような傾向も見られることが指摘され た。
このような形で、サービスが入ることで互助が崩れてい く過程は複数の人から語られた。しかし、地域力がなく なったのではなく、互助を必要とする場面がなくなったの ではないか、という声も聞かれた。これは裏返せば、互助 が必要な場面では地域の人々は力を発揮するということで ある。
今では、「認知症の人が地域で生活すると火事を出すかも」
というように、地域から排除するような動きも見られる。
「デイに週4回行っている人には、声も掛けられなくなっ た」
「地域のネットから漏れていくような感じがありました」
「友人が施設入所することで、地域で孤立化する高齢者が 多くなったように感じます」
「介護保険が始まって、みんながサービス利用するように なると、だんだん遠のく感じがしました」
「サービスが入ると、互助は崩れます」
「地域力がなくなったのではなく、互助を必要とする場面 が少なくなったのではないでしょうか」
「サービスが少ない方が、互助が育つと思う」
「今は、ボケたら火事出される!と言う見方をされます」
「市の土地に小規模特別養護老人ホームを建てようとした ら、子どもを安心して遊ばせられないという声が出る。お 年寄りからは、子どもがうるさい、という声が上がる。人 間としてのキャパシティが小さくなったように思う」
7) 新しいサービスカテゴリー
介護保険が始まってからの変化を踏まえて、これから目 指したい方向性についても情報が得られた。
背景としては、人材が本当に不足して本体は対応に追わ れているので、地域開発の余力が不足している。限られた 資源を有効に使おうというのが介護保険の改正の方向であ り、これには多くの方が賛同していた。
その上で、施設や事業所は特徴を出して「利用者に選ば れる」ように工夫と努力をかさねなければならない、「地 域に開かれた施設づくり」を進めなければならない、とい う意見があった。これは、非常に難しい問題である、とい う前提があっての話である。
また、利用者のネットワークを活用して、地域の方々に 支えてもらうような「地域を巻き込むケア」のような新し い互助の形もあるはずである。それを専門職として支援し ていくようなサポートのあり方が示唆された。
さらに、資源がない中で無駄の多いケアプランも立てら れている。国民が賢くならなければならない、という意見 も聞かれた。
「介護保険の事業所として、特徴を出して来ていくように しないといけない」
「地域に開かれた事業所づくりが求められている」
「地域行事に職員や利用者も参加するようになっている」
「利用者の方が培ってきた関係性がある場合は、お願いす るようにしている」
「措置の時代の互助ではなく、今の時代の互助があるはず だと思う。新しいシステムを造らないといけない。有償ボ
ランティアなどがその一つで、専門職の介入が必要になっ てくると思っています」
「必要をどうアセスメントするかは難しいが、必要以上の ものを提供しないためにも、きちんと自己選択をしてケア マネジャーにお任せにしない、という国民の賢さが大事だ と思います」
5. 考 察
措置の時代から介護保険へ、地域密着型サービスの時代 へ。地域包括ケアの時代へ。さらに、移行期間としての平 成27年度〜29年度を経て、平成30年度からは総合事業に ついても本格的なスタートがなされる。
調査においては、31の概念・6つのカテゴリーが得られ た。
介護保険の導入によって、高齢者本人の依存性が高ま り、家族の介護力は低下した。ケア概念は何でもやってあ げる「おもてなし」から「自立支援」へと変わり、施設も
「普通の暮らし」の場を目指すようになった。しかしなが ら、「自分達でなんとかせねば」と皆で助け合っていた地 域では、介護保険のサービス利用や施設入所を通じて高齢 者は地域から姿を消し、地域に残った高齢者は孤立して 人々の関係も希薄化していった。認知症高齢者排除の実態 も垣間見られる。
措置から介護保険の時代へ向けての変化が整理された が、地域における互助のあり方にも新しいアプローチが必 要であることが明らかとなった。これらを踏まえて、当初 の課題でもある「再家族化」と「インフォーマライゼー ション」の視点から「地域の互助」のあり方について考え たい。
1) 「再家族化」の視点
まず「家族力」についてであるが、介護労働としての能 力の低下ではなく、「家族が支えなければならない」とい う意識や覚悟の低下に焦点化した発言が多く聞かれた。介 護保険という公的サービスの提供によってこれまで家族が 行なってきた介護の負担が代替されて軽減されたのである から、それに伴って介護力が低下するのは当然の結果であ ろう。しかしながら現実問題としては、介護保険が「介護 の社会化」を目標にかかげているにも関わらず、日本にお いては要介護高齢者の60%が家族からの介護を受けてい るのが現実である(厚生労働省、2010)。また、このこと が高齢者虐待や介護離職の温床ともなっている。この観点 から、日本における「再家族化」については、きわめて慎 重に考察する必要がある。
海外においては世代間介護が少なく、介護の社会化がよ く推進されている。オランダなどではそうした社会的基盤
を背景として、家族をインフォーマル資源の一つとして捉 え、自立して生活行為ができない場合は家族による支援も 動員することが奨められている(松岡、2015)。もちろん、
家族に過重な負担がかからないように、介護家族支援の視 点からも十分な配慮がなされている。この時、近隣の互助 についても期待がなされており、家族のみではなくさまざ まなインフォーマル資源の可能性を指摘している。「再家 族化」を論議する時、家族のみに責任を再度負わせるので はなく、まず介護保険が基本であって、インフォーマルな 家族介護は制度の隙間を埋める補助であることを忘れては ならないだろう。
また、日本においては、家族が介護に参加する際次のよ うな課題が起こっていることも注意しなければならない。
家族が介護職に要求を出しすぎるため、「介護職が家族 に怯えている」という側面である(神戸新聞2017年1月 13日)。こうした場合には、家族とサービス提供者が対立 するのではなく、「高齢者のためにともに考え、ともに支 える人」という視点で協働していくことの必要性が指摘さ れている。
介護を要する高齢者の家族は、その高齢者の家族でだけ でなく、地域の一員として地域の仲間につながっていく視 点が求められるのではないだろうか。それは、要介護高齢 者の生活の実態を知る人として、つらさも含めて、その情 報を自宅内に閉じ込めるのではなく、地域の課題として オープンに開示して課題を提言したり、解決のための資源 開発に動いたり、そのような地域住民につながる行動の可 能性がでてくるはずである。
2) 「インフォーマライゼーション」の視点
措置の時代には、サービスの不足を背景に当たり前のこ ととして、地域の助け合いがあった。地域住民がお互いの 存在を認識して暮らしており「知らぬ顔」はできなかっ た。互助は所与のものとして存在していたのである。
「地域カテゴリー」の中で、介護保険スタートによる地 域住民の関係性の希薄化が課題として上げられていた。
「週4回デイサービスに行くようになって、声掛けのしよ うがなくなった」という発語があったが、これは公的サー ビスが拡充される中での典型的な地域の絆の希薄化であ る。
しかしながら、「措置の時代に『地域の互助』があった」
というのは幻想であり、「地域力がなくなったのではなく、
互助を必要とする場面が少なくなったのではないか」とい う発言があった。こうした複数の方からの発言は、ノスタ ルジックに「地域の互助があった昔に帰ろう」ではなく、
「新しい価値に基づく地域の互助を創造する」ことの重要 性を示唆している。
そこで、分析結果や文献レビューから、新しい時代の
「地域の互助」の可能性を考えてみたい。二つの方向性が 挙げられる。
①有償ボランティアなどのシステムをつくることによる
「新しい互助」づくり
②高齢者本人のネットワークを活用した互助の醸成 まず、システム構築を通した互助づくりである。例え ば、地域包括ケアでも挙げられている「生活支援」につい て、互助を構築するシステムが考えられる。電球交換や散 歩同行などの軽微な生活支援を通じての「助けてほしい」
「助けたい」をマッチングする有償ボランティアなどであ る。5分100円で家事代行を行う「御用聞き」サービス
(板橋区高島平、株式会社御用聞き)などが例として挙げ られるだろう。
さらに、高齢者本人のネットワークを活用した互助の醸 成では、次のような例が挙げられる。広島県福山市鞆の浦 にある小規模多機能型居宅介護「鞆の浦・さくらホーム」
では、認知症高齢者の自宅での生活を支えているが、「介 護をとおした地域づくり」を合言葉として、見守りを地域 住民や商店、民生委員に依頼して、まちを上げての支え合 いを「介護」というサービスをとおして展開している(羽 田、2014)。
総合事業などを通して新しい形で「地域の互助」を醸成 していくためには、過去の措置の時代へのノスタルジック な回帰ではなく、時代の変化を見据えた上での新しいシス テムづくりが必要である。
また、平成30年度より本格的に開始される「総合事業 B型(住民主体のサービス)」は、こうした地域での支え 合いを介護保険という制度によって自治体が支援しようと いうものである。「地域の互助」づくりの意義あるきっか けになるものである。
この報告書は最終年度にあたり、昨年度報告書に新しく 追加した調査結果を加えて分析を行い、加筆したものであ る。助成の対象年度は終了したが、この調査を継続してで きるだけ飽和点に達するまでインタビューを展開して有用 な提言へとつなげていきたい。
調査にご協力くださった事業所の方々に御礼申し上げま す。
この調査研究は、東京家政大学生活科学研究所の「総合 研究プロジェクト温故知新」の助成を受けて行われたもの です。記して感謝の意を伝えます。
文 献
伊藤周平:『社会福祉のゆくえを読む:介護保険見直し・保育制度 改革・支援費制度』,大月書店(2003).
神戸新聞:「高齢者の立場で改善を(はんしんの現場):西宮市で介
護の実態語り合うつどい」,(2017年1月17日).
厚生労働省:「平成22年国民生活基礎調査」,(2010).
堀田義太郎:「障害者政策および研究動向について」『保健医療社 会学論集』21–1,9–16(2010).
松岡洋子:「インフォーマライゼーションと再家族化」『いい住ま い,いいシニアライフ』Vol. 129, pp. 8–15(2015).
松田智行,田宮菜奈子,柏木聖代,森山葉子:「介護保険制度導入 前後における在宅サービス利用の変化」『日本公衛誌』60–9,
586–595(2013).
佐藤英晶:「特別養護老人ホーム入所に関わるアカウンタビリティ とアドボカシー」『帯広大谷短期大学紀要』No. 47. pp. 1–10
(2010).
一般社団法人長寿社会開発センター,国際長寿センター「平成29 年度 先進各国における小野太一:『制度と施策まとめ(各 国の高齢者ケアに係る発展経緯を比較して)』高齢者の介護 予防に資する自助又は互助も含めたサービスの仕組みに関す る国際比較調査研究 報告書」平成30年3月,pp. 158–170
(2018).