九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
イギリス農業環境政策の展開に関する研究
田代, 正一
https://doi.org/10.11501/3100012
第3章 E C農政改革とイギリス農業環境政策
1992年6月, E C農相理事会はかねて懸案となっていたCA Pの抜本改革に 正式に合意した。 改革の要点は, (1)農産物の過剰生産に歯止めをかけるため 主要農産物の価絡を大幅に引き下げる, (2)価格引き下げに伴う農業所得の減 少を直後所得支払いによって補う, (3)補償支払いの条件として, 一定規模以 上の農業者に耕地のセット ・ アサイドを義務づけるというものである。
改革では, こうした価絡 ・ 市場政策を補足するものとして, (1)農業環境行 動計画, (2)農業者早JVJ引返制度, (3)農場内値林の奨励, などに関する付帯情 置も導入された。 その中でもとくに農業環境行動計画は, E S A 1IJlj度と生産粗 放化措置に関する従来の規則を統合し強化するものであり, E C農業環境政策 の新たな展開といえる。
今11, 先進諸国の農政は, 歴史的な農業保護主義がもたらした現実に直而し て苫悩している。 EC農政改革はそのような先進国農政の試糾を代表するもの である。 今回の改革によってCAPの核心は制lí絡支持政策から所得文持政策へ 移されることになった。 同時に, 環境に配慮した農業政策の必要性もうたわれ ている。
本章では, 1992年CAP改革の背景とその概要を明らかした上で, E Cおよ びイギリスにおける農業環境政策の新たな展開について考察する。 さらに, 近 年, わが国でも注目を集めているE C型直接所得支払い制度の問題点について も言及する。
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第1節 EC共通農業政策(C A P)の改革
1. C A P改革の背景
周知のように, E Cの共通 農業政策(C A P)は 3つの基本原則から成り立 っている。 すなわち, 単一市場の創設と維持, 共同体の域内優先, および財政 の連帯責任である。 これらは互いに関連しており, いずれも他の2つの原則な しには十分に機能することが できない。 CAPの基本的な目標はEC設立に関
す るローマ条約で次のように定められている1 )。 すなわち, (1)農業生産性の 増大, (2)農業者 の生活水準の向上, (3)農産物市場の安定, (4)食料供給の安 定性の確保, および(5)消費者に対する合理的な価格での食料供給である。 C APの3原則はこれらの目的を実現するための手段である。
ま ず, 農産物の域内単一市場を創設するために 価格の統ーがはかられた。 そ の際, どの国の農業者も 価格引き下げの被害を 被らないように, 加盟国の中で 最も高い農産物 価格が 統一 価格として採用された。 それゆえ, 当時すでに高水 準にあったEC域内価格と世界価格の格差はますます開くことになった。
また共同体の域内優先の原則を尊重するため, E C市場に おけ る域内産品の 価格を輸入品よりも安く維持しておく必要があった。 そのため輸入品に対して は関税または課徴金がか けられた。 同様の理由から, 世界市場でE C産品の競
争力を維持するために輸出補助金の制度が設 けられた。
CAP財政は欧州農業指導保証基金(FEOGA)に よってカバーされるこ とになった。 加盟国はもはや自国の農業者に直接支払うのではなく, E C予算
への拠出を通して間接的に費用負担を行うことになった。
ところで, C A Pの核心は生産物に対する無制限の価格支持にあった。 EC
の 介入機関によって過剰イEJÜfとして保管され, の ちに|世界,UJ-J,jに補助金什きで 輸出される農産物に対しても農業者は最低のúUí絡を保証された。 こうした1dli絡
支持制度によってECの食料生産は地強され, 自給ブJは111J 1二していった。
たとえば, 表m
-
1に示すように, 小麦, 乳製品, 家禽肉の臼給率は1973il:までに100%を越えた。 加問国が9カ国から12カ国に増加した刻イE, 多く の日 一寸eカが〈刈し、ずれも生産過剰であるo E Cは域内で必要とされる量より20%も多く穀 物を生産している。 輸出や戦略的備蓄に必要な分を考慮、しても, この生産量は
明らかに多すぎる。
現在,
E
Cの農業生産は年率2%の割合で上昇している反面, 需要は停滞な いし減少傾向にある。 何らかの対策を講じなければ市場の不均衡は拡大するこ とが予想される。 消費者の健康志向によって赤身肉や乳製品に対する需要の減 少が著しいことも一層, 需給のアンバランスを拡大する安凶となっている。 ま た, 1111糧穂子やその他の穀物代替品はJ!I�税で輸入されるため, 域内産の飼料川 穀物の需要が減少を続けているという要因も大きい。ところで, 表凹-2に示すように, E Cの農業予算は1978)1�の96位ECUか ら1992年には347億ECUにまで増加した。 しかも予算の大半は炭産物のfùli料 支持, 累積在庫の処理とその後の世界市場への輪山を可能にする補助金の支払 いなどに充てられてきた。 その結果, 最近ではCAPの財政支/1\の80%以上が 農場数でわずか20%の大経営に流れているものと批計されている。
その一方で, 小規模の家族農場はCAPから速い存在となりつつある。 彼ら は新しい技術や 集約的な生産方式から十分に利益を得る立場にはない。 小規模 な農業者はもはや農業で生活できなくなっており離農が地加している。 このよ うにECでは農地の一部は肥料と農薬の集約的な利用によって搾取され, その
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表皿- 1 ECの農産物自給率
(単位 ・ %)
EC6 EC9 E C
10E C
121968/69 1973/74 1973/74 1985/86 1985/86 1989/90
穀物(コメを除く) 94 97 91 121 114 120 小麦 112 114 103 132 126 127 野菜 100 97 93 101 107 106
ノ〈ター 113 116 93 133 105
チーズ 102 106 107 107 106
牛肉・ 子牛肉 89 96 100 108 107 101 羊肉・ 子羊肉 56 74 67 76 80 82 家禽肉 98 101 103 107 104 104
出所: CEC (1993)
表凹-2 ECの総予算と農業関係予算の推移1)
(単位:億E C
U)
E C
農業関係 価格支持年度 総予算 予 算 関係予算
B/A C/B
(A) (B) (C) (%) (%)
1976 88 68 65 77 96
1977 105 78 75 74 96
1978 120 96 93 80 96
1979 144 109 104 76 96
1980 163 119 113 73 95
1981 178 116 110 65 95
1982 204 131 124 64 95
1983 243 166 158 68 95
1984 275 191 183 69 96
1985 284 207 199 73 96
1986 352 231 221 66 96
1987 362 240 230 66 96
1988 438 290 275 66 95
1989 449 276 257 61 93
1990 471 292 264 62 90
1991 557 337 311 61 93
1992 586 347 314 59 90
1993 656 390 351 59 90
1994 700 414 375 59 91
注1 )決算ベース, 1993年度と94年度は予算ベースO 出所: J良林水産省経済局国際企画課(1989/1994)
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一方で限界的な農業地域における離農者の増加が加速している。 CAPは袋小 路に陥っており, なんらかの抜本的な対策が必要とされていたのである。
2" 1 980年代までのCAP改革
これまでE Cでは支出の削減と生産過剰のJf!J市IJを目的とした改革が幾度とな く試みられてきた。 しかし, それらは部分的にしか成功を収めなかった。
でその経過をごく簡単に振り返っておこう。
CAPの基本的な運営原則は1958年にイタリアのストレーザ( Stresa )で開 催された農相会議で定められた。 その後, 1962年に最初の農産物市場規則が定 められ, さらに1968年に初めて共通価絡が導入された。
ところで, 1970年代後半になると, 早くもCAPのもつ硬直性が過剰生産の 原因であることが指摘されるようになった。 そして1979年には1n�制限の価絡文
持ffJlJI立に対する修正が試みられている。 すなわち過剰乳製品の貯必保管費およ
びそれらを世界市場に補助金十J"きで輪山する貨JT]の一部に充てるため, 階農家 に対して共同連帯課徴金が賦記長されたのであるが, しかし, この的世によって 牛乳生産を1fll mりすることはできなかった。 そのため, 1984年には牛乳の山荷主IJ
当制度( milk quotas)が導入された。 この制度は競争を制限し円台農業における
生産性向上や規模拡大を阻害するといった批判を受けながらも, 牛乳部門の過 剰対策としてはかなりの効果を発揮した。
さらに1988年には, より広範な改革が実施された。 第lに, J長業予算のj膨娠 を打IJえるため, 農業関係の財政支出のi'llび率はE Cの国内総生産( C 0 P )の 1111び率の74%以下に抑制されることになった。 第2に, 主致:な農産物のfûfi棉支 持に数量制限が導入された。 それはスタビライザー( stabilizer )と呼ばれ, 11lfi
絡支持の ための財政支山を制御するメカニズムであった。 すなわち, 生産が 定水準(最大保証数量: M G Q)を紐過した場合には, 農業者に対する印lî絡支 持支払いは自動的に 削減される仕組みである。 しかも支持の削減はMGQを』ほ える部分についてのみなら ず生産物全体にも及ぶ。 穀物 を例にとると, 最大保 証数量は年間l億6, 000万トンに設定された。 仮に生産がこれを上回った場合,
翌年の穀物価格は3%切り下げられることになった。
スタビライザ-制度は, しかしながら, ほんの部分的にしか成果を上げられ なか った。 世界市場における穀物価格は低迷を続け, E C通貨に対する米ドル 相場の下落もあって内外価絡差は拡大し, 輪山補助金の支出が地加する結巣と なった(表皿- 3参照)。 さらにECは伝統的な輸出市場のいくつか を失った。
すなわち, 旧ソ連は国内経済不振のために輸入が困難となり, また湾岸戦争後 には寸l束の一部(イラク)でも市場を失った。 1988il:の改革がわずか3年で失
敗に終わった理由のlつはそこにある。
3. 1992年C A P改革の概要
1991年2月, E C委員会はCAPの抜本的改革案を提案した。 それは当時の 農業担当委員の名にちなんでマクシャリー提案と11ヂばれた。 委只会が提示した 政策は, 国際競争に伍していける農業の確立一一つまり長則的に凶際Ílllî絡と比 肩しう るfIllí絡水準の達成であった。 そうすることによっての みE Cは域内市場 および世界市場で、競争することができるというものである。 また, 改革のj品位 で農業者は投入を抑えた判i政な生産方式の導入を奨励され, その結;↓L, 環境に 対する負荷は軽減され, 農産物の過剰圧力も緩和されるとするものである。
1992年6月, 1年以上に及ぶ討論と交渉の末, マクシャリー提案が一部修圧
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表1II-3 ECの農産物輸出補助金の推移1)
(単位:億E
C U)
農産物
合 計 穀物 乳製品 牛肉 砂糖
1980 57. 0 11. 8 27. 5 7. 2 2. 9
1981 52. 1 12. 1 18. 9 8.3 4. 1
1982 50. 5 10.7 15. 2 6. 4 7.4
1983 55. 6 15.3 13.3 8.3 7.6
1984 66. 2 9. 5 19.4 13. 9 11. 9
1985 67.2 10.8 20. 3 13.4 13.5
1986 74. 1 17. 1 21. 5 12. 1 12.4
1987 91.5 31. 6 24.3 8. 8 15.2
1988 97. 9 30. 8 30. 8 7.7 15.7
1989 97. 1 26.6 29. 2 13. 4 14.5
1990 77. 2 25. 0 19.5 11. 1 9. 3
1991 101. 8 37.3 23. 2 12.8 12.6
1992 93. 5 32. 8 21. 4 11. 2 13.5
1993 103.2 38.4 24. 1 15.4 15. 4
1994 76. 7 20. 1 22. 7 9. 0 16.8
注1 )決算ベース, 1993年度と94年度は予算ベースO
WTfr :農林ノk産省経済局国際企画課(l 989/ 1994)
の上, 採択された。 それは1958年にCAPが導入されて以米, 段大の改革であ るといわれている。 EC農業が高価絡と過乗IJ生庄の悪循環から抜け山すために はI C A Pの大改革が不可欠であった。 今回の改革の主なb-UIなは次の5つであ る。 すなわちI (1) E C域内市場や輪山市場において競争力のある農業者を庁 成し, 主要な農業生産国および輸出国としてのECの立場を維持するI (2)生 産を市場の需要に適合させるI (3)凌Il)J をもっとも必要としている民業者の所 得に支持の焦点を当てるI (4)農業者が農村にとどまるよう奨励するI (5)環境 を保護し, 田園地域の自然の可能性を発展させる。 以上である( CEC, 1993 ) 。 このような目的をもっ包活的CAP改革の'I=l心となる政策手法は, 重要農産 物の価格引き下げと農地のセット ・ アサイドであった。 たとえば, 穀物の{Jlfi絡 は1993/94年度から3年間で29%引き下げられることになった。 この引き下げ によってECの穀物価格は世界価格に近づくことになる。
さらに毎年の市場需安の見通しにもとづいて, j定地が一定の害IJ合で穀物生産 から引き上げられる。 初年度は15%の農地がセット ・ アサイドされることにな った。 ただしEC平均で20ha以下の小規模農業者はセット
・
アサイドの義務を 免除された。 またセット ・ アサイドされた農地は燃料用穀物生産のような非食 料目的に利川することが可能である。穀物生産者は制lî絡引き下げに伴う収入の減少に対して十分かつ直接的な補償 支払いを受ける。 その際, 穀物I i由糧極子, 蛋白作物(豆類)を作什けしてき
た農地の15%をセット ・ アサイドすることが補償支払いの前提条件となる。 補 償額は各々の地域における平均収量を基準に計算される。 補償はセット
・
アサ イドされた炭地に対しても|司じ基準で支払われる。 小規模炭業者は燥地をセッ ト ・ アサイドすることなく補償文払いが受けられる。 そのため小規模な穀作炭97
業者の所得は改革によって増大することも考えられる。
牛肉のú耐各も3年間で15%引き下げられる予定である。 それに対して牛肉生 産者は次の2つの方法で補償を受ける。 第lに, 放牧地で肉牛を飼養する農業 者は頭数を基準に特別奨励金を交付される。 これによって集約で工場的な形態 の畜産から粗放な畜産への転換が促される。 牛舎で|勾,q二を飼養する農業者はこ の奨励金を受給できない。 とはいえ, そのような農業者は穀物価絡の引き下げ に伴う飼料費の削減によって, 牛肉価格の低下を補うことができる。 第2の補 償として, 雄牛( bull) , 去勢牛(steer )および皮乳牛(suckling cow)に 支払われている現行の奨励金が地額されることになった。 この改正によって,
粗放な家畜飼養を行う農業者の収入は以前よりも増加するとみられている。
一方, 今回の改革によってECの財政負但は軽減されるであろう。 改革が笑 施されなかった場合, 1997年のCAP予算は420イ立ECUに達すると見込まれ るが, 改革によって392倍ECUに打Ilえられるという。イE Jlil処担および愉山川 助金のための支出は大幅に削減される結以, 予算の大部分は農業者に対する|直 接支払いに充てられることになる。 共通悩絡の引きFげにより, E C J農産物の 域内市場fillî絡と世界市場úllj絡の格差が縮小され, 輸出補助金は減少することが 予怨されるからである。
米国産大豆粕などの穀物代替品の輸入地加により, これまでECの穀物は 年 間200万トンの割合で市場シェアを 失ってきた。しかし, 今後は29%という穀 物価絡の引き下げにより, E Cの穀物生産者は飼料穀物のシェアを1. 000万ト
ン程度回復できると見込まれている。
改革によって生産はECの消費の範囲内の水準に抑えられることになる。 将 来, 生産を拡大させることがあるとすれば, それは新しい市場が聞けたときだ
けであるが, もちろんその市場は輸出補助金に依存するものであってはならな い, とされている。 仙絡引き下げは履終消費者に安fllliな商品の提供をもたらす であろう。 専門家の計算によれば\仮に倒絡引き下げの効果が小売段階にまで 及ぶとすれば‘, 包指的なCAP改革により消資者は年間120{怠ECU相当を節 約できるものと見込まれている(CEC. 1993 )。
第2節 CAP改革後のイギリス農業環境政策
E Cの農業環境行動計画
1992年のCAP改革には, 以上のような価格 ・ 市場制度の改革を補完するた めに, 社会情造政策の分野における3つの付帯措置が盛り込まれている。 すな わち, (1)農業環境行動計画, (2)農業者早期引退奨励*11J3t, ( 3) J.農場内M林奨 励策である。 これらのHr置はすでに1985年農業椛浩規J!iJ (797/85)などにもと づき以前から笑胞されてきたものであるが, 今回それがさらに強化されること になった。 その円的は, より粗欣的な生産方式の普及, 55段以上の農業者の雌 農と青年農業者の就燥機会の創出t Ji&剰農地への植林などにより, 環境保全的 な 農業を推遊し, 併せて過剰生産問題の解決に資することである。
ここで は 農業環境行動計画を中心に検討してみた し1
。
この 計画は, これまで のESA制度と生産相l般化情置を統合したものである。 計画のもとになる規JliJ は「環境保護および崇観維持と両立する農業生産方法に関するE C血事会規J!iJ (2078/92号)Jであり, その概要は次のiillりである( CEC. 1り92b)。まず計画の基本目的として, (1)改革で導入された市場 . fllfi栴制度の変吏を 補完する役割を果たすこと, (2)農業と環境に関する共同体の政策目標の達成
99
に脊与すること, (3)}農業者に対する適正な農業所得のiJ'{g似に寄与すること,
以上の3つがうたわれている。 この計画が単に環境保全をめさすだけ でなく,
所得支持の役割をも担っていることが示されている。
より具体的な目的として, 農業環境行動計画に次の事項が剥げられている。
( 1 )農業のもつ環境汚染を軽減する営農万法の普及,
(2)耕種農業ならびに羊 ・牛飼養など畜産における粗放化,
(3)環境, 畏観, 自然資源, 土壕および生物種の保護・改善に配慮した農JTJ地 利用の促進,
(4)放棄された農用地および林地の維持管理(環境的理由または自然災害や火
災の発生の恐れから必要とされる)ならびに農業地域の人口減少に伴う危険の
口l避,(5)環境保全のため, 必要な地域で農用地の長則的なセット ・ アサイドを促進 すること,
(6)パブリック・ アクセス(通行権〉および余1I1�活動のための土地管出の促進,
(7)環境保設 ・ 景観維持の袋詰と両立する農業タイプに関する農業省の教育お よび訓練。 以上の7つ である。
これらの目的を達成するために計画では, 次のような農業者に媛l1)Jを行うと している。 すなわち,
(a)化学肥料や植物保護薬剤jの使用量を削減しようとする者, 使用量を低水準 に維持しようとしている者, 有機農業への転換をはかろうとする者, あるいは 有機農業を続けようとする農業者,
(b)上記(a)で述べられた以外に,
飼料作物ないし牧草を含む粗政な作物生産
に転換しようとしているか, あるいはす でに導入したねl 政な生産方法を継続し
ょうとしている炭業者,
(c)家畜の飼養密度の低減, すなわち飼料作面積当たりの芋,
LI二のかl養頭数を
少なくしようとしている農業者,
(d)田園地域や景観を維持し, 環境や自然資源の保護と調和した農業活動を行 うか, 絶滅の危機に瀕している地方特有の家畜c日種)を飼養している農業者,
(e)耕作放棄地や林地の維持管理を行う農業者,
(f)環境と関連した諸Il的, とくにビオ卜ープ(biotope )保護区や自然公凶 の設立, あるいは水の循環系の保護のために少なくとも20年間農地をセット ・ アサイドする農業者,
(g)公衆のアクセス(通行権〉や娯楽活動のために土地を管理する農業者。 以 上である。
計阿笑施の方法としては, 地域的アプローチにfll当する「多年次区域フ。ログ
ラムJ (multiannual zonal programmes )と水平的アプローチに相当する「一般的
制度
」
がある。 多年次区域プログラムの場合には, 計画を笑胞する地域を指定 し, 最低5年間事業を継続しなければならない。 指定地域は農業条件ならびに 環境条件がほぼ均質な地域が選ばれる。 加盟国は, 環境条件, 炭業桃造, J実業 類型をJS慮に人れ, それぞれの地域の特性を生かしたプログラムを実施するこ ととされている。 他方,r一般的制度」は加盟国の領域内で水平(I�Jに適川され
るものであり, 地域が限定されることはない。農業省は各プログラムのもとで定められる営農方法を笑行することにより交 付金を受け取る。 支給される交付金の矧は表III-Ljに示す通りである。J足業環 境行動計画の財政負担は加出国とECの共同負担であり, E Cの負担率は条件 の厳しい未開発地域で75%, その他の地域で50%である。 財政支出はrEOG
101
表皿-4 農業環境行動計画の交付金支給額1)
共通市場規則にもとづくha当たり 支払いがある一年生作物 その他の一年生作物および牧草地 羊・牛飼養頭数の縮小
消滅のおそれのある家畜品種の飼養 特定のオリーヴ国
手付属類
その他の多年生作物およびワイン 放棄された農林地の維持
セット・ アサイドされた農地
150ECU/ha
250E C U/ha
210ECU/家畜単位100ECU/家畜単位
400E C U/ha1000E C U /ha 700E C U/ha 250E C U/ha 600 E C U/ha
注1) E C基金から払し1戻しを受けられる交付ー金の段高額。山所 是永ほか
(
1994)
八の保証部門からなされる。
このように, 新規則は従来のESA制度の基本を引き継さ・つつも, 新たに次 のような要素を導入している。 第lに, t麦11))の対象となる環境保全的な営農の 範囲が拡大され, 飼養密度をおさえた家畜飼養, 過疎地に放棄されている炭用 地や林地の維持管理などが含められた。 従来のES A f!�IJ皮は, 草地畜産におけ る過剰政牧の問題や過疎化に伴う環境問題に対処することができなかった。 今 回の改革では, E C農業の多様性に配慮して, 北欧諸国で広範にみられる環境 問題, すなわち水質や土壌の汚染, 景観やビオトープの保護などのほか, 南欧 諸国や山岳地帯の農村の過疎化に伴う環境問題も政策の対象に含められること になった。
第2に, 従来から行われていた特定地域に対する胞策のほかに, より広い地 域を対象とする一般的施策が導入されたことである。 こうした媛助手法の多係 化により, 従来のESA制度では解決できなかったInj泊ーが媛11))の対象とされる ようになった。
第3に, これまでECの費用負但はFEOGAの指導部門が行っていたが,
それが保証部門に修され, E Cの負担率も引き上げられたことである。92年の 改革によりfîlfi {各政策の役割が低下する反町, J足業f荒境政策がもつけd!J維持機能 が強化されることになった。 そこで問題となるのは, 環境保全のために所得支 持が必要な農業者とそうでない農業者を見極めることである。 場合によっては,
股業環境政策が本来の目的から離れて, 環境保全の仮而をかぶったlìiなる炭業 者保護に終わる地域が現れる可能性も残されている。 そうした問題点を含みな がらも, 農業環境政策はCAPにおいてますます重要な地位をl片めるようにな っている。
l03
2. イギリスの農業環境計画
ところで, E C加盟国は, それぞれの実↑百に日IJした農業環境行動計画を具体 化し, 1993年7月末までにEC委員会に提出しなければなら なかった。 イギリ スでもそのための諮問文書が同年3月に発表されている(MAFF, 1993)。 次 にその内容を検討してみよう。
MAFFは農業環境計画の目的として次の3つを挙げている。 すなわち, (1) 野生生物生息地および自然資源の保護と増進, (2)魅力あふれる崇観の保護と 増進, (3)国民が田園の快適さを享受できる機会の拡大である。 MAffが笑 胞を予定している具体的施策は次の7つである。
(1) E S
Aの追加指定:既存のESAに加えて, Blackdown Hills, CotswoJd HiJJs, Dartmoor, Esscx Coast, Shrnpshire HiJJs, Upper Thames Tributariesの6カ所を迫力日 指定する。 その結果, イングランドのESA指定而秘は刻イEの83万2,000haか ら117万haに拡大することになる(図m-
1参照〉。(2)
ES Aにおける市民のアクセス機会の剣山:ESAの美しい景観や快適 さを享受できるように,
ES A域内の農地への市民のアクセスの機会を拡大す
る。(3)硝酸塩監視地域( NS A)計画の拡大: 1990年に開始されたパイロ ッ|
事業であるNSA計画をさらに発展させ, とくに地下水を飲料水としている地 域の的酸底濃度を低減するため, 指定地域を拡大する。 NSA域内の農業者は,
(a)耕種作物経営における窒素肥料の使用削減,(b)耕種作物から牧草への転換,
(c)集約(1な牧草地から粗政的牧草地への転換, という3つの選択肢の中から1 つをillび, 自発的に事業に参加していく。
(4)ムーアランド(
moorland)事業:畜産経営による過剰放牧などのI荒波破
凶皿- 1イングランドにおけるESA指定地域(1993年現イE)
必!���:. ENVI RONMENTALLY SENSITIVE
� 対応 AREAS
IN ENGLAND
- Stage 1ESAE Stage 2 ESAs
Stage 3 ESAS - 既存のESA
口 指定予定のESA 口 Stage 4 PrOpOSed
Deslgnatlon 1994
=JL
、
""'" Pennln・
Jごふ ヨ マ
c.. Nortn Pea
‘…[
P山万 ゅ
ん ~ …
ぷ
KIIO庁、trltl
出所: MAFF(1993)
105
壊に対して, E S Aに指定されていない地域のムーアランド(湿地)を対象に 粗放な高産経営を奨励する。
(5)セット ・ アサイド農地の管理:CAP改革によって義務づけられたセッ ト ・ アサイド農地において, ローテーションおよび非ローテーションの両方の 場合について, 環境保全に資する適切な土地管理を奨励する。
(6)野生生物生息地の管理:貴重な野生生物の生息地を保護するため, そこ での農業生産をやめるよう奨励する。
(7)有機農業の助成:安全な食品を求める消費者の要求に応えるため, イギ リス国内で絶対的に不足している有機農産物の生産を拡大する。 その安定供給 をはかるため, 既存の有機農業者, およびこれから有機農業に転換しようとし ている農業者に, 5年間の別限付き助成を行う。 その際,
í EC有機農業基準」
や「イギリス 有機食品基準登録Jの要件を満たすことを条件とする。
イギリスでは, 以上のようなプログラムの実施が予定されている。 このよう に, イギリスは農業環境政策への取り組みにおいてきわめて積極的である。 E C諸国の中で最も経営規模の大きいイギリスでは, それだけ炭業環境の{波地が 進んでおり, 環境保全を組み込まなければ農業政策が完結しなくなっているの である。 さらにもう1つ, このような積極姿勢の背景には イギリスのしたた かな対EC政策がある。 すなわち, 環境政策を通して E C 財政からの純受け取 り分( E C 財政からの受け取り額マイナスEC 財政への拠Ll\額〉を最大化しよ うとする戦略である。
とはいえ, E C農業環境行動計画の最も大きな問題点は, やはり予算が限ら れていることであるo !!L任のところ, 農業環境行動計画に支出される予算は4 低ECU強といわれ, E C農業予算全体の1 %桂皮にしかすぎない。 このよう
にj足業環境行動計画に文出される予算は, そのJVJ待とは袋J!反にきわめて少ない という問題を抱えている。
さらに農業環境行動計画を実胞するための共通ルールがECレベルでいまだ 確立してないことも問題である。 各国政府による不適切な交付金支給を防止し,
汚染者負但原則を厳絡に適用するためのルールの笠怖が必要である。
第3節 E C型直接所得支払い制度の諸問題
所得補償の根拠
1992年の改革によって, E Cでは主要農産物を対象とする直接所得支払い制 度が導入されたが, しかし, これが最善の方策であるという保証はない。 この 制度の最大の問題点は所得補償の根拠が唆l沫なことである2
)。
ム凹の改革のように, fil6t'各政策の変更によって所得の出失が生じた場合, そ れを公的に補償する恨拠はどこに求められるのだろうか。 たしかに西欧社会に おいては低所得者層に対する所得補償は, 社会政策的な観点からある程度認め られている。 CAPの目的のlつに「農業人口に対する公正な生活水準の雌保」
が挙げられているのはその現れである。 ところが, 改革によって導入された|白 技所得補償は, あらゆる階層の農業者を対象としており, l古硲なj設業主fも所得 補償を受けられることになっている。
所得補償の1つ似拠として次のような考え方がある。 すなわち, )民業政策の 突然の 変更は一種の契約破棄であり, それによって生ずる大幅な所得損失は補 償されてしかるべきだ, というのがそれである。 多くの農業者は政府の農業政 策に従って多大の投資と事業選択を行ってきている。 大I�日な文持細川各水準の 変
107
更によって鍋失が生じる場合, そのショ ックを緩和するための補償は当然であ るというのである。 そして, この場合には, 社会政策的な考え方と異なり, 経 営規模階層によって補償額に絡差を付けるのは望ましくない。 なぜなら大経営 はより多くの投資を行ってきており, したがってより多くの補償を受けるのが 当然と考えられるからである。 しかし, このような怠味の補償であれば長く続 ける必要はなく, ある期間行えばよいことになる。
CAP改革は所得補償を導入しながら, その似拠を明確にしておらず, 恒常 的か一時的かもl凌昧なままである。 この制度を恒常的なものとするには様々な 困難が予想される。 たとえば, イギリスやフランスの大規模な穀物生産者が年 々受け取る補償金額の大きさ(1994年現在, 1 E C U
=約130rg,
単収6トン とすると, 100 ha規模の経営では約351万円, 200haでは;約702万円〉を考えると,それが恒常的な制度として公衆に受け入れられるかどうか疑問である。
そもそも, これまでの大経常の高所得は誤った農業政策の結�であり, 過去 の誤った公的政策が是正され, 結果として損害が生じても, それに対して補償 を請求する権利など誰にもない, といった議論さえある。 いずれにしても, 似
j処が|慶昧なままの直接rJï-得支払い制度は将来に問題を伐す可能性が大きい。
2. その他の諸問題
直接所得支払い制度はこのほかにも問題点を抱えている。 第lに, 直接支払 いは基準年の作付面積や 単収にもとづいて支払 われるが, 国により, また地域 により補償額は呉なるものの, その額は固定化される傾向がある。 凶定化され るなかで, それは次第に媛11))を受ける権利, すなわち「受益権」とでも日子ぶべ きものを発生させる。 こうした補償の固定化, 権利化はEC農業政策の「阿国
家化J ( re-nationa1isation)を意味し, 共同市場内部における凶際的, 地域的 分業の発展を妨げるととも に , 主要国の国内生産情造の固定化をもたらす危険
性がある。 改革後 に 導入された耕極作物音I� II�に対する補償支払い制度や|勾L1二お よび肉羊に対する奨励金制度は, 国別, 地域別または個人別の基準数量にもと づし1た一種の「受益権害IJ当制」 と でも呼ぶべきものであり, 競争条件の歪山 と
それ に伴う生産 情造の固定化をさら に1ft!し進めるこ とが予想される。
もちろん,
E Cでは「再国家化」をめざすようなCAPの運営は公式にはタ
ブーとされているが, 地域間の調和ある発展をめざす地域主義の原理はタブー ではない。 こうした地域主義が, 生産条件の優劣を問わずそれぞれの地域農業 の娠輿をはかる形でCAPの「再国家化」を押し進めて行けば, 共同市場が本来的にもっ
て
いる域内比 較 優 位
の原 則
は大きく制約されることにな
る。第2に, 個別経営レベルで作付面積やセット ・ アサイド而積を確認し, その 上で補償金 を 支払うl直接支払い制度は, 多数の 小経営 を抱えるE C J造業情jitの もとでは, 大きな行政コストと不正を生むnJ能性がある。 峯*111経営が数多くμ 在する南欧諸国では, とく に その弊害が深刻なもの に なると子怨される。 c八 P創設の父であり, すで に 引退の身であるマンスホルト( S. Mansholt )は,
I�
Cの所得補償fljlJk支は不正の発生と透明性の欠如の 放に5年以内に川地するであ ろうと予告したといわれる。
第3 に , 直接所得媛ll)Jは農業者の社会的
・
職能的イメージを11打場 に 依存す る尚業的農業者」から「公的援助に依存する農業者」へと転換させる。 それは「独立自営の企業将」という職能観念のもとに農民運動を進めてきたE Cの農 業団体にとって容易に受け人れ難し1ものである。
しかし, こうした農業団体の考え方 に 対してエコノミストの批判がある。 す
109
なわち, I炭業者たちは被扶助者であることを欲しないというが, こうした態 度は正当ではない。 農業者はすでに社会全体から所得移転による利益を受けて いる。 ただ, それが隠蔽され, i夏日h額の一部のみが予算書にあらわれるすぎな い。 直接援助と同様に価格支持も農業への援助であることに変わりはない。 問 題は援助の形態ではなく, その所得移転が正当化され, 合目的的であり, 透明 性と効率性を備えているかどうかである」と(是永ほか, 1994)。
ただし, 直接援助の場合は, そのための予算が毎年の議会審議の対象となり,
社会的な所得移転としての性格が価格支持の場合よりも明確になる。 また, イ ンフレの進行とともに援助額の実質的な目減りが考えられる。 こうしたことは 農業団体にとって望ましいことではない。
このような問題点を残しながらも, 農産物の輸出地域となったECは直接支 払い制度を採用せさるを得なかった。 既存の農業支持制度が完全に行き詰まっ たからである。 恒常的な輸出国の場合, 国内価格を|世界市場f1lfi桁から完全に切 り離すことには無理がある。 そのため, 農業者の所得支持は直接支払い方式に 転換せざるを得なかったのである。
;主
1 )ローマ条約は正しくは欧州経済共同体(E E C)の設立に|刻する条約であ る。 また, E Cは1993年11月のマーストリヒト条約締結以降, 名称を欧州.ii合
(E U)に変えている。 しかし, この論文では, 便宜上これらすべてをECと 11手ぶことにする。
2)本節の記述は, 是永束彦氏の研究(是永ら, 1994)に負うところが大きい。
第4章 結
三A日開第2次大戦後, 世界経済におけるイギリスの地位は低下し, その貿易上の 立場もきわめて悪化した。 交易条件の悪化によりイギリスはしばしば‘外貨不足 に悩まされた。 また戦後初期の食料不足は世界的規模のものであり, 国民の食 料を確保するには, 園内で農業生産を拡大するほかに道はなかった。 当H寺, 政
府の農業支持政策に異論を唱えるものは少なかった。
しかし, その後, 食料の欠乏状態が解消されても, 政府は国内農業に対する 支持を止めるわけにはいかなかった。 国際収支の赤字に苦しむイギリスは, 外 貨節約のためにできるだけ輸入を抑制する必要があった。 経済理論の上では,
食料の国内生産に資源を集中することが外貨節約のための最善の方法であると は必ずしもいえない。 にもかかわらずイギリス政府は, 国際収支上の観点から 国内農業に対する支持を正当化した。 そうした政府の政策の背後にはNFUを 中心とする農業者からの圧力があった。 戦時中お よび以後初期に政府が農業在 に作った借りはそれほど大きかった。 それは単なる口約束によるものではなく,
「農業法」という証文を残していた。
1947年農業法は, 農産物の「価格と市場の保証」を「国民的利益の見地から イギリス園内で生産することが望ましい部分」に限定したが, その具体的な数 最は示されなかった。 農業者の利益を代表するNf.'Uは, 当然のことながら,
国民の食料需要を満たすために国内農業を最大阪に発展させ, どうしても不定 する分を海外から輸入すべきであると主張した(NFU,
1945)。
しかし海外か ら輸入するのに必要な費用以上の費用をかけ て国内で生産することが, はたし て健全な経済であるといえるのかどうか疑う人々も少なくなかった。 食料不足111
が解消され, さらに一部の農産物に過剰生産が生じると, エコノミストたちは 農業補助金に対して激しい批判を加えるようになった( Nash, 1955 )。
たしかに政府の補助金にも問題があった。 販売量に比例して支払われる価絡 補助金の多くは大規模な農業者が受け取っており, その他の生産補助金につい ても大規模な投資を行った農業者ほどそれを多く受けることができた。 すなわ ち, 成功している農業者には最高額の補助金が与えられ, 貧困な農業者は厳低 額しか受け取れない仕組みになっていたのである。
戦後, イギリスでは戦略的な理由から国内農業を保護すべきであるという考 え方は次第に力を失ってきた。 すなわち, 核兵器の登場によって戦争は短期間 で終わる公算が大きく, 仮に大規模な戦争にでもなれば‘, それは苛烈で最終的 なものになるであろう。 少なくとも小さな島国の大部分の上地と農産物は放射 性降下物によつて汚染される可能性が大きいO そのようなH
べき戦争に備えて国内}農農業を保護すべきでで、あるといつた議論は成り立ちにくしい、O したがつて政府が食料白給率の向上を正当化する4拍似l民4υJ拠処は, I国際収支に対する 農業の寄与」以外にはなかったのである。
1973年のE C加盟によってイギリスは共通農業政策( C A P )の原fliJを受け 入れた。 CAPのもとで農業生産の拡大, 機械化, 化学化はこれまでになく急 速であった。 しかし80年代に入ると, イギリス農業は環境問題という新たな記長 題に直而することになった。 生産の拡大を至上目的とするこれまでの農業の在 り方が, 農村の環境や景観の保全, 生態系の保護などをおろそかにしてきたか
らである。
1980年代以降, イギリスでは, I適正な土地管理と適正な農業経営」の内実 が改めて問われることになった。 現在, イギリスでは農業者に対する普及活動,
法的規制, 経済的誘凶などをAI切に組み合わせることによって, 農業活動と喋 境保全の調整がはかられつつある。 本論文の第2章で考察したESA計回は,
環境と調和した農業活動の在り方を模索するlつの試みであり, 経済的誘因を 利用した環境保全策の一例であるo E S A計画は, これまでのところ, 良好な
成果を収めつつある。
2. ところで, 本論文では直接取り上げなかった農業環境政策のlっとしてE Cの条件不利地域(LF A)対策がある。 これとESA政策とを対J!日すること で, E S A政策の特徴を浮かび上がらせてみたい。 ECでは, 1975年以降, L FA地域の農業者を援助し, そこにおける最小限の人円の維持と景観や環境の 保全をはかるための対策が保られてきた。 E CのLFA地域は, (1)山岳地域,
(2)過疎および保全地域, (3)その他の特別小地域に区分される。
ここで「山岳地域」とは, 標高が高いため作物の生育JVJ I剖が短く, また傾斜 が急なために機械の利用が制限されるなど, 土地 利用上のハンディキャップを 負っている地域である。 次に,
r巡!lf%および保全J山城Jとは,
劣忠な-j二境条件 下にあって経済状態が平均以下であり, いま以上に農業人口の減少が進めば,地域社会が崩域しかねない地 域である。 最後に, r特別小地 域Jとは, 環境保 全や観光資似の維持のために農業の継続が必要な縦島などの特別地 域であるo ECでは, 1993年現在, 全農地の約55%はLFA地域内にある(CEC, 1994 )。
LF'A 地域に対する特別援助は主として農業者に対する直接所得支払いによ
って行われている。 所得補償は, 家畜生産の場合には家畜単位当たり, 作物生 産の場合には而積当たりで支払われる。 そのほかに優遇惜置として, L F A 地 域で は 農業投資に対する 補助が通常の地域よりも高く設定されている。
113
このよ うな L FA対策は, 農業の多面的機能に配慮し, 地域農業の担い手を 確保するために登場してきた政策である。 すなわち, 農業の基礎的条件が劣悪 な地域では, {両絡引き下げを中心とするCAP改革を機械的に適用すれば農業 経営の存続が困難になる。 そうなると地域の人口も減少して農村社会の維持が 難しくなり, 農業活動と密接な関係にある景観や生態系の保全ができなくなる。
農村の環境や景観を保全することは社会にとって望ましいことであり, そのた めに必要なコストは農業者だけでなく社会全体で負担すべきである。 ECの L FA対策の般底にはそうした考え方があるとされている(合田 ・四津, 1992)。
ところが, このLFA制度も実際にはいくつかの問題を抱えている。 第lは,
地域指定にまつわる問題である。 地域指定の基準は, I山岳地域」に関しては かなり明確であるが, その他の条件不利地域では必ずしもそうではない。 たと えば「過疎および保全地域」の場合には, 地域指定の要件として自然条件だけ でなく社会経済的条件および人口動態的指標がJHいられている。 そのため地域 指定の基準が必ずしも客観的であるとはいえず, 政治的な圧力などによって指 定地域が徐々に拡大されやすいという問題がある。
第2は, L F A制度の目的と政策手法との聞の整合性の問題であるo L r A 対策には環境や景観の保全あるいは地域社会の維持といった政策目的があるが,
この目的を実現すべき政策についての具体的な規定がない。 原flIJとして3 hö以 上の土地を経営している農業者は5年間の営農継続を約束するだけで所得補償 を受けられる。 そのため L FA制度が生産を過度に刺激し, 環境破泌をもたら すケースも少なくない。
たとえばイギリスでは, L F Aの大半は「過疎および保全地域」として指定 されており, そこでは牛や羊に対する補償金は家畜頭数に上限を設けることな
く支払われた。 その結巣, かつては粗肢であったLFAの畜産が過度に集約化 され, 環境破壊を引き起こすまでになった。 こうした状況は, イギリスの特殊 事情も影響しているとはいえ, L A r制度に内在する問題点として指摘で-きる。
3.
それに対して, 農業環境政策としてのESA制度は, その政策手法のユニ ークさが注目される。 それは公的機関と農業者との問で結ばれる管理協定のも とで実施されている。 すなわち, 農業者は環境保全的な農業活動に関し, 公的 機関と協定を結び, その 活動の見返りとして一定の交付金を受け取る。 環境保 全的な農業活動は, それぞれの地域の実情に合わせて作成される農地管理規程 の中に具体化されており, 管理内容に応じて段階的に交付金が支給される。 E SA 地域内の農業者がこの管理協定を結ぶかどうかは, すべて農業者の意志に ゆだねられている。ところで, このようなES^制度を「環境Jltの市場」として説明する試みが ある。 E S A mlJ度のもとで特定の営農方法が環境や景観の保全に寄与する場介,
そうした営農方法の実胞に対する支払いは, 環境JI�ーを供給する}�業布-の企業所 思Jに対する支払いであるとみなされる( Marsh e( al.. 1991 )。 つまりこの場合,
農業者は農産物の生産者であるとともに環境JlJの生産者でもある。
このように, そもそも市場メカニズムに乗りにくい農業の環境保全機能や景 観維持機能に対する支払いを, 市場の理論によって説明し, 市IJ J変化することに は少なくとも2つの意味がある。 第lに, 農業環境政策に賀川
・
似疏の観念が 導入されることである。 それは政策によって生み山される便益を誰が享受し,そのための費用を誰が負担すべきかという問題にもつながる。 市場の理論から すれば, 環境11オの市場が地域的
I
rT場である場合,
費用はその地域によって負担115
されることが望ましい。 たとえばESA計画についても, 本来ならEC JIJ政で はなく各国政府ないしは地方政府による負但が望ましいことになる。 もちろん,
その場合には, とくに地方政府の財政力の強化が前提となる。
第2は, 環境政策による直接支払いは環境JIJへの対価である, という擬制的 な考え方は, 自立志向の強い農業者にも受け入れられやすいことである。 さき に述べたように, 農業 者は直接支払い制度が 「社会的扶助 」 と同一視されやす いことから, それに対しては心理的な抵抗感を抱いている。 そこで, 環境財や サービスの需要に対して農業者は企業家的な態度でのぞみ, それらの供給に対 しては正当な報酬を受けるべきである, といった発怨の転換が試みられつつあ る。
4. E S A制度は, イギリスおよびECにおける農業環境政策の典型として位 置づけられる。 それは, 1992年のCAP改革によって導入された主要農産物に 対する直接所得支払い制度やLfA地域における直接所得補償市IJJ立とは明確に 区別される性格のものであるo E S A制度ーの実績はいまだ限られており, その 評価líも定まってはいないが, しかし, 先進諸国の農業 ・ 農村政策においてES Aの手法は今後ますます重要性をもってくるであろう。 保全すべき地域と性相 を明確に限定し, そこに政策的支援を集中する手法は, わが閃の'1'1.111山地域対 策などにおいて必要とされてくるものと思われる。
問題は, 保全すべき地域を誰がどのように選定するのかである。 イギリスの ESAの場合には, 候補地の選定は凹園地域委員会や自然保謎協議会, 文化財 保護協会などの第三セクターによって行われた。 それらは, 政府のJI-1"1改媛11))を 受けてはいるが, 日常的な活動はきわめて草の般的であり, どちらかというと
N G 0 (非政府組織)に近い間体である。 政府は, これらの凶体によって批成 された候補地の中からESAを指定しているo イギリス農業環境政策は, こう
した団体や個人の活動に負うところが大きい。
ところが, わが国では民間レベルや地方レベルにおいて政策形成・担当能力 のある個人や団体はそれほど多くない。 このことはES^の手法をわが国に導 入しようとする場合のネックとなる可能性が大きい。 ESAの政策手法をわが 国の農業 ・ 農村政策において生かすことは, はたして可能であろうか。 残され た今後の研究課題である。
117
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