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[講演記録] インターネットをめぐる政治的状況

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[講演記録] インターネットをめぐる政治的状況

著者 岡本 哲和

雑誌名 関西大学図書館フォーラム = Kansai University Library forum

巻 1

ページ 17‑20

発行年 1995‑10

URL http://hdl.handle.net/10112/1690

(2)

講演記録

インターネットをめぐる政治的状況

岡本

折ロ

はじめに

インターネットと政治との関係について考察する 場合には、二つの視点が考えられる。第一は、 イン ターネットの発達カざどのように政治の様態に影響を 与えるかに焦点を当てるものである。第二は、それ とは逆に、政治的要因を独立変数と見て、 それ力封従 属変数としてのインターネットにどのような影響を 与えるかを考察する見方である。

情報と政治の関係を扱った従来の研究においては、

もっぱら前者の視点が強調されてきた( 1 )。それに 対し、後者の視点からの研究は、政治学の領域にお いてさえもほとんどなされてこなかったと言ってよ い。

本稿の目的は、アメリカ政府情報のインターネッ トによる提供活動に焦点をあて、提供される情報の 範囲及び内容カゴ様々な政治的要因によって規定され ることを明らかにすることにある。 さらに、 そのこ とによって、 クリントン政権の情報政策についての 従来の見方に一定の修正を加えるつもりである。

集や処理、 そして提供などの作業をある程度個別に 行うという、 いわゆる「分散型」の形態をとってい る。 また、 インターネットにおいても各政府機関が 独自のサイトを運営している。このような状況にお いて、大統領のイデオロギーのみでは各政府機関の 扱う情報の流れを変化させることは困難である。

しかしなカゴら、 イテオロギーは特定の制度と結び つくことにより、実際の政策を動かす推進力となり 得る(2'。 ここで、政府情報に関わる重要な制度と して「文耆業務削減法(Paperwork Reduction Act)」を取り上げたい。同法は、 1980年12月11日

にカーター政権の下で成立した政府情報管理に関わ る法律である。 1995年の1月には改正案が成立し、

現在は「1995年文書業務削減法」 という名称で呼ば れている。

ここで注意せねばならないのは、 この法律のネー ミングである。そのネーミングにかかわらず、同法 の目的は単に政府が扱う文書ないし情報の量を削減 する、 ということだけにあるのではない。それ以上 に、同法はアメリカ連邦政府の情報管理政策におい て、基本的なフレームワークの位置を占めるもので ある。同法では、政府機関が新たに情報を収集する 時には、大統領府にある行政管理予算局(Office ofManagement andBudget.以下、 OMBと略 記)の審査一実│際に審査にあたるのはOMB内に設 置された情報規制問題室(Office of lnformation 1 制度の重要性

インターネットで提供される情報の範開ないし内 容は、政治的な要因によって規定される。それでは、

具体的にどのような要因がそれらに影響を与えるの か。 まず考えられるのは、 その時の政権のイデオロ ギー及びそれに基づく政策の内容である。大統領あ るいは彼と同様の信念体系を共有する特定の組織が、

提供される情報の選別を行なって各政府機関の情報 提供活動をコントロ しすることにより、最終的に インタ ネットで市民に提供される情報の規制力ざ実 現される。

だが、先進民主iミ義国において、 ましてやアメリ カのような多元的な政治構造を有する│到家において このような形で情報の流通を完全にコントロールす ることはほとんど不可能であると言ってよい。アメ リカの政府情報システムは、各政府機関が情報の収

1ヶ LJ

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図書館フォーラム創刊号(1995)

得が困難になったり、情報の入手に以前よりも高い 料金が課せられる、 といった状況が発生し、全米の 研究者や図書館関係者の中から不満が噴出した。

クリントンの登場は、 このようなレーガンからブ ッシュへ続く流れの逆転を期待させた。クリントン とゴアのコンビは選挙戦において公的情報へのパブ リック・アクセスの促進を強調していたし、副大統 領のアルバート ・ゴアが促進する情報スーパーハイ

ウェイ (NationallnformationlnfraStructure)は そのための重要な基盤に成り得ると考えられた。

しかしな力ざら、政府情報の提供に関して、 クリン トン政権の現在までの政策には厳しい批判が寄せら れている。その勢力の中心となっているのが、いわ ゆるRighttoKnowCommunityである。Rightto

KnowCommunityとは、公的情報へのパブリック・

アクセスの促進に強い関心を持つ人々や組織の総称、

あるいはそれらの間の緩やかなネットワークであり、

図書館関係の団体や様々な公共利益団体によって構 成されている。

いくつかの問題を取り上げてみよう。第一に挙げ られるのは、政府印刷局の問題である。 1993年にク リントンはtheGovernmentPrintingOfficeElec‑

troniclnformationAccessEnhancementActとい う法案に署名している(5)。この法律によって、政 府印刷局力:これまで印刷していた情報、資料を電子 的手段を用いて提供することカゴ促進された。その結 果、 インターネットからも資料の検索と一部の資料 の入手が可能になっている。

その一方で、 クリントン政権は政府印刷局に対し て、 きわめて敵対的な態度をとっている。 1993年に ゴアカゴ中心となって、アメリカ政府の行政改革につ いての基本的なう。ログラムであるNational Per‑

formanceReviewが発表された。それに関する

Fγ0加尺〃nzpe功Rgs""sと題された報告書の中で

は、政府印刷局による政府刊行物出版の「独占」が 批判されている(6)。報告書は、政府印刷局は民間 の印刷業者との競争にさらされるべきであると主張 する。仮に競争の結果として政府印刷局が敗れるこ

とになったとしても、それは納税者の利益につなが る。 このような考えに基づき、政府印刷局の権限と 予算は縮小される傾向にある。これに対し先述の RighttoKnowCommunityは、政府出版の民営化 は政府情報の獲得コストの増大と一部情報の入手の 困難化を招くとして、 クリントン政権の政策を批判

している。

andRegulatoryAffairs)−を事前に受けねばなら

ないことが規定されている。この場合の情報収集と は、政府機関及びその職員以外の10人以上の人に対 して報告書やアンケートの形で事実や意見などを獲 得することを意味し、審査の対象は若干の例外を除 いてほぼすべての政府機関に及ぶ。

このことは、情報収集要求に対する承認と拒否を 使い分けることによって、大統領府が政府機関に流 入する情報を極めて強力なやり方でコントロールで きる、 ということを意味する。審査の基準について も、かなりの程度OMBの裁量が認められる内容と なっている。 日本においても、各省庁が指定統計調 査以外の統計を徴収する場合には総務庁長官が承認 を行う、 との同様の規定が統計報告調整法の中に存 在する。 しかし、総務庁がアメリカのOMBほどに 強い権限を行使しているということはないようであ

る。

先述のように、一見アメリカ政府の情報管理は分 権的なスタイルで行なわれているような印象を与え る。だが、そのような見方は単に施行段階のみに着 目した皮相的なものであると言わざるを得ない。実 際は、情報収集要求審査を用いて、各政府機関へ流 入する情報のインプットを「入り口」のところでO MBがコントロールすることが可能になっている。

それゆえ、 OMBの審査のスタイルやイデオロギー といった要因が、最終的にインターネットなどで提 供される情報の範囲及び内容をある程度規定すると

いった事態も起こり得るのである。

現実に、 レーガン政権時代には環境問題や安全衛 生といった特定分野についての情報収集要求力罫、O MBによっていわば「狙い撃ち」される、 といった 問題が噴出している(3)。クリントン政権は環境に 関わる情報収集要求審査に「好意的」であると言わ れるが、最終的に市民に提供される政府情報の範囲 及び内容に特定の政権のイデオロギーやスタイルが 反映されることを容易にする要因が、制度に内在し ていることは強調しておかねばならないだろう(4)。

2 クリントン政権とインターネット

先述のように、 レーガン政権時代には情報要求審 査の悲意的な運用が問題となった。 また、 レーガン は「小さな政府」を推進する中で、政府保有のデー ダベースの民営化を積極的に行なっていった。それ によって、従来なら容易に入手できていた情報の獲

(4)

インターネットをめぐる政治的状況

て、 インターネットで提供される公的情報の拡大と それへのアクセスの無料化を求める運動を政府に対 して展開している。ネーダーらを中心とするRight

toKnowCommunityは、現在この方面で一定の成

果を収めつつある。たとえば、 1995年文書業務削減 法の改正案に関し、彼らの働きかけによって、大手 データベース業者による政府情報の独占的取り扱い を可能にする条項力苛削除されることになった(7)。大 手ベンダーに対するRighttoKnowCommunityの

「勝利」は、いわゆる「アイデアの政治」の勝利と して説明可能かもしれない(8)。

これらのインターネットをめく・る政治的状況を概 観すれば、情報化をめぐる政治において一本の対立 軸が浮かび上がりつつあると考えられる。一方にあ るのは、公的情報の提供を出来る限り民間に委ね、

コストの削減を指向する立場である。 これは「効 率」重視の立場と呼び得る。現在のクリントン政権 はこちらにスタンスを移しつつあると考えられる。

さらに、データベースの大手ベンダーや印刷業者ら は、そのようなクリントン政権の姿勢を支持してい る。 もう一方は、政府が主導権を握り、公的情報へ の出来る限り自由なアクセスを保証すべきであると 主張する立場である。 こちらは「有効性」重視の立 場と呼び得るであろう。その主たる推進者がRight toKnowCommunityである。

今後のインターネットに関わる政治の中で、効率 対有効性の対立軸をめぐる政治的争いは、 ますます 顕著になってくると考えられる。その争いの過程及 び結果は、政府情報の提供に関する政策に大きな影 響を与える。 また、今後のわが国においても、同様 の対立軸の出現が予想されうるであろう。

第二は、 インターネットなどを通じた政府情報の 提供の問題である。 クリントン政権の登場によって、

自由にアクセスできる公的情報の範囲が拡大された のか、 という点については若干の留保を付けざるを 得ない。 インターネットによる政府情報の提供にお いては、確かにアメリカ政府は泄界の最高レベルに ある。だが、現時点においてインターネットからで は取得できない、あるいは取得できたとしても有料 である公的情報が多く存在する。その中には、政府 活動の国民への周知という観点からして、 また専門 家力ざアメリカの政治や経済についての研究を行なう 上で、 きわめて重要性が高い情報が含まれている。

たとえば、大統領あるいは行政府が公布した規則

などを収録した凡庇7'Iz/Ragfs花γについて言えば、

インターネットからは自由にその内容にアクセスす ることは困難である。いくつかのサイトからのアク セスは、今までのところ有料となっている。ただ、

先述の政府印刷局のホームページからは無料でその 内容を手に入れることが出来るカゴ、そこからは2年 間分の内容しか入手できない。

また、立法府に関しても、連邦議会の委員会報告 書及び公聴会記録はインターネットからは無料で入 手できない。これらの情報は、アメリカにおける特 定の政策の決定過程を分析する際には必須のもので ある。連邦議会の情報を提供するためにThomasと 名付けられたシステムが1995年からインターネット 上で運用されているが、そこからアクセスできる Co"g7'Ess/0"α/Rcco噸の内容には公聴会記録は含ま れないし、委員会報告書も稀にしか収録されない。

このような状況の改善に対して、 クリントン政権は 消極的な態度をとっている。

さらにつけ加えれば、 クリントン政権の下におい ても、公的情報に関するデータベースの運用を民間 に委ねようとする、 レーガン政権と同様の動きが見 られる。一例を挙げれば、 1994年1月にクリントン 政権は司法省の法律データベースであるJURISを 停止させている。

これらの状況に対して、Right toKnowCom‑

munityは積極的な活動を繰り広げている。その中 心の一つであるのが、Essential lnformationとい う公共利益団体であり、そのリーダーは消費者運動 で著名なラルフ・ネーダーである。ネーダーは現在 公的情報へのパブリック・アクセスを促進する運動 に力を入れており、Essential lnformationと密接 な関係を持つTaxpayer'sAssetsという団体を率い

おわりに

アメリカにおいては、ほとんどすべての重要な政 府情報がインターネットを通じて提供され、誰もが 自らの望む情報を簡単に入手することができる、 と いったことが一部で喧伝されている。だが、すでに 見たように、そのような見方は幻想に過ぎない。実 際には、提供される公的情報の範囲や内容は、政府 の政策や制度、そして様々なアクター間の政治的相 互作用などの政治的要因によって規定されているの

である。

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