研究
著者 伊多波 良雄, 壁谷 順之
雑誌名 經濟學論叢
巻 63
号 1
ページ 29‑63
発行年 2011‑07‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013625
1) 本稿は,2009年10月の日本財政学会第66回大会(於:明治学院大学)での報告に加筆修正 したものである.討論者である大阪産業大学教授・戸谷裕之氏より貴重なコメントをいただいた.
また,本稿の作成にあたり,同志社大学教授・川浦昭彦氏,八木匡氏より的確かつ有益なコメ ントをいただいた.ここに,記して謝意を表したい.なお,本稿の内容に関する一切の責任は,
筆者達にあることを明記しておく.
2) ここでは,それ以前の「規制改革・民間開放推進3ヵ年計画」(平成17年3月25日閣議決定)
および総務省自治税務局長通知「地方税の徴収に係る合理化・効率化の一層の推進について」(平 成17年4月1日付)を受けて述べられている.
3) 林宜嗣(2008)6頁.
【論 説】
滞納と脱税を考慮する時の 地方税滞納対策に関する研究
1)伊多波 良 雄 壁 谷 順 之
は じ め に
地方自治体の税収格差が指摘される中,各自治体の税収確保に向けた取組 が重要な課題となっていることは言うまでもない.平成18年9月13日付の 総務省自治税務局資料では,「地方財政が非常に厳しい状況にある中,収入確 保に向けた一層の努力が求められており,(中略)このため,地方税の徴収率 の向上を図ることや滞納・脱税を防止して国民の納税についての不公平感を 払拭することは,ますます重要な課題となっている」と地方税徴収関連業務 について具体的に指摘している2).このように,政府からの通知を受けて各 自治体が懸命に取り組む中,近年の地方税徴収率はやや上昇傾向にあるもの の,全体で93%程度に止まっている.この点については,以前から滞納繰越 分の徴収率低下が指摘されており3),全体の徴収率を引き下げる要因となっ
ている.こうした中,全国の各自治体では,コンビニ徴収,クレジット収納,
共同徴収機構といった,滞納・脱税の両方を視野に入れた試みが活発になっ ている.これらの手法導入による効果は期待されており,本稿においても改 めて現状と課題を整理する.その上で,いくつかの問題点が明らかになる.1 つ目は,地方税が滞納された場合,これまで各自治体が行ってきた回収業務 が今後は機構へ移管されることから,自治体の税務行政を怠慢と判断して住 民監査請求や住民訴訟に発展する危険性である.2つ目は,国・都道府県・
市町村のいわゆる三重行政との兼ね合いから,地方自治体の自主性の欠如が 問われる点である.そして,3つ目は,上述のように滞納・脱税双方の防止 を目指しながらも,実際に機構では滞納中心の取組が行われており,脱税対 策は国税庁(あるいは税務署)に依存せざるをえない実情についてである.こ のような問題点を1つ1つ整理しながら,今後の地方自治体の滞納・脱税政 策を検討していくのが本稿の目的である.
第1章では,近年のデータから地方自治体の徴収状況を把握し,さらには 地方税法の規定を整理して,滞納・脱税に関する概要を整理する.
第2章では,近年,各自治体が取り組んでいるコンビニ徴収,クレジット 収納,共同徴収機構の事例を挙げて,現状分析および問題点の指摘を行う.
第3章では,滞納・脱税の理論分析を試みる.機構における滞納中心の取 組が,脱税・滞納にどのように影響を及ぼすのかを検討する必要がある.こ れまで,滞納あるいは脱税に関する研究は多く見られるものの,滞納・脱税 を総合的に研究する例はあまり多くないことからも一定の意義があるものと 考える.
第4章では,理論分析によって得られたインプリケーションを基に,今後 の共同徴収機構のあり方について整理する.
最後に,本稿をまとめて,閉じる.
1 地方税の滞納と脱税の現状 1. 1 地方自治体の徴収状況
各自治体では,厳しい財政状態を打開する対策として,収入面である地方 税の徴収率を現在水準よりもさらに高めていくために必死に取り組んでいる ところである.そこで,まずは近年の徴収率の推移を見ていく.
第 1 図によると,平成10年度以降,道府県税は横ばい,市町村税および 地方税全体は低下傾向にあり,平成14年度においては道府県税95.0%,市町
村税91.8%にまで低下していた.そして,この平成14年度を境にして右肩上
がり傾向に転じ,直近の平成19年度は道府県税96.8%,市町村税93.7%,地
方税全体95.0%となっていることが分かる.一般的にいう徴収率とは,現年
課税分および滞納繰越分を合わせた総額で表示されたものである.例えば,
平成19年度は全体の徴収率が95.0%であったが,その内訳は現年課税分が
95.4%95.2%95.5%95.6%
95.0%95.3%95.7%
96.3%96.7%96.8%
92.5%92.3%92.0%92.0%91.8%91.8%92.1%92.7%
93.3%93.7%
93.6%93.3%93.4%93.4%
93.0%93.1%93.5%94.1%94.6%95.0%
89%
90%
91%
92%
93%
94%
95%
96%
97%
98%
H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 年度
徴収率
道府県税 市町村税 全体
(出所)総務省『地方財政白書』(各年版)を基に作成.
第 1 図 地方自治体の地方税徴収率の推移
98.4%,滞納繰越分が21.1%であった.つまり,計算上,滞納分の徴収率が 低いため,全体の徴収率が低下することになる.この辺りについては以前か ら異議を唱える見解が多く,特に滞納分に対する定義付けや自治体間で不納 欠損処理取扱いに温度差が見られることなどが挙げられる4).
次に,徴収漏れである滞納残高の状況を見ていく.第1図では,平成14年 度を境に平成15年度以降の直近5年間は徴収率が上昇傾向にあることが把握 できた.そこで,第 2 図では,その直近5年間の税目別の滞納残高がどのよ うに推移しているのかを見ていくことにする.なお,税目については,大き なウエイトを占める個人住民税と固定資産税の推移と,それ以外の税目の3 種類に整理している.
4) 同様の指摘をしている例として,以下の論文を参照.寺崎(2006)46-53頁.林宜嗣(2008)
6-11頁.林智子(2009)116-118頁.鈴木(2008)152-154頁等.
5,861 5,503 5,051 4,665 4,309
8,893 8,651 8,233 7,622 7,199
7,753
7,450
7,092
6,958 8,253
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000
H15 年度
億円
個人住民税 固定資産税 その他
H16 H17 H18 H19
(出所)総務省自治税務局資料「地方税収等の状況」を基に作成.
第 2 図 地方税の滞納残高(累積)の推移
これによると,平成15年度の2兆2,507億円から年々減少傾向にあり,直 近の平成19年度はやや増加したものの1兆9,761億円となっている.税目別 では,各々減少傾向にあるが,平成18〜19年度にかけては,個人住民税単
独で約1,300億円も増加していることが分かる.この動向については,平成
19年度からの三位一体改革により,所得税から個人住民税への税源移譲が行 われたことが影響している.つまり,税源移譲によって地方税収の拡大がもた らされると同時に,滞納も増加するという現象が生じた訳である.第1図では,
徴収率が上昇傾向にあることを確認できたものの,第2図では,滞納残高が 再び上昇したことが判明したことになる.このように,税収規模が大きくな ると,滞納額のインパクトも大きくなり,滞納整理の重要性が高まる.そして,
平成20年後半から始まった世界同時不況のあおりも追い風になって,平成20 年度,平成21年度データも滞納残高が増加する可能性があると思われる.こ のため,いかにして徴収率を高めるのかという点と,いかにして滞納整理を 進めていくかという点は共に地方自治体の重要な課題であることが言える.
1. 2 地方税法における滞納・脱税の概要
前節では,徴収率と滞納残高の状況を見ることによって,地方自治体の税 収確保の重要性を確認した.本節では,地方税の未徴収分である滞納と脱税 について,地方税法における現行制度を確認していく.なお,滞納・脱税に 関する地方税法の規定といっても,膨大な条文に加え,施行令,施行規則といっ た関連規定まで考慮すると,相当の記載があると言わざるをえない.そこで,
本節では,滞納者の分類,滞納・脱税に対するペナルティ(加算税率),個人・
法人別の規定,滞納整理手続き・不納欠損処分の観点から整理していく.
まず,滞納者の分類についてである.滞納については,滞納者が納期限ま でに納付しない原因や事情が様々ある.納付すべき財力が無い場合だけでな く,納税意思の欠如やうっかり忘れなども該当する.そこで,地方税法・国 税通則法・国税徴収法の諸規定では,滞納者を4類型に定めていることから,
ここでは簡単に整理していくことにする5).
第 3 図は,滞納原因に基づく滞納者の類型を表したものである.「a:交渉型」
や「b:猶予型」は,期限には間に合わなかった者や,うっかり忘れなどで支 払が滞った者が含まれ,簡単な督促や支払日数延期などで回収が図れるいわ ば程度の軽い滞納者と言える.問題なのは,「c:停止型」や「d:差押型」で ある.前者は,納税資力を失っているため,払いたくても払えない者が含ま れており,自治体も手を出せない状況となる.後者は,納税資力があるにも 関わらず,納税意思の欠如で払わない悪質な滞納者と言える.当然,この者 には強制的な滞納処分を下すことになる.
一方,滞納と同様に未徴収の税源対策として,脱税への取組も指摘されて いる.かりに,脱税が実行可能な状況にあるとすれば,課税サイドは真の所得 を知らないで課税を実施していることになり,納税者間の公平性の観点から も抑制すべきである点は言うまでもない.これまで,脱税などの課税の公平 に関しては多く議論されているものの,実際には9・6・4(クロヨン)や10・5・ 3・1(トーゴーサンピン)といった所得捕捉率の問題も存在したままである.所 得税や法人税といった国税に関しては,国税庁をはじめ各地域の税務署の専
5) 杉之内(2006)7-8頁.
(出所)杉之内(2006)8頁.
第 3 図 滞納原因に基づく滞納者の類型 a 交渉型
※納付交渉によって完納に導くことのできる滞納者 徴収猶予(申請により期間的猶予を与える)
b 猶予型
換価の猶予(職権判断により期間的猶予を与える)
滞納者 ※期間的猶予を与えることによって完納に導くことのできる滞納者 c 停止型
※滞納処分の執行を停止する滞納者 d 差押型
※財産を差し押さえて強制徴収しなければならない滞納者
門職員が租税回避防止に向けて取り組んでいるが,地方税に関しては自治体 職員が通常の課税業務と並行して滞納・脱税対策に関わっていることは対比 的であると思われる.
なお,現行制度では,ペナルティ(加算税率)などが厳格に規定されている.
第 1 表によると,脱税(①〜⑤)の中で最も重いペナルティが課されるのは⑤の
40%である.一方,滞納者(⑥〜⑦)に対しては延滞税が最高14.6%課せられる.
第 2 表では個人事業者と法人の滞納・脱税の適用可否について,国税・地 方税別に比較する.これによると,個人事業者については,延滞税の適用の みで脱税(①〜⑤)の規定はない(法人のみ対象).つまり,主要な地方税目の うち個人事業税には延滞税の規定は明記されているものの,脱税の規定はま だ整備されていないのである.これは,脱税という行為が発覚した際の対処 方法として,国税庁主導で地方自治体が遂行する姿勢が伺われる.つまり,
第 1 表 滞納と脱税のペナルティ一覧
ケース 名 称 税 率
① 税務調査で修正申告や更正があった場合 過少申告加算税 10%
② 源泉徴収される所得税を期限内に納付しなかった場合 不納付加算税 10%
③ 期限内に申告書を提出しなかったり申告を怠った場合 無申告加算税 15%
④ ①〜③において仮装・隠蔽があった場合 重加算税 35%
⑤ ③の無申告において仮装・隠蔽があった場合 〃 40%
⑥ 期限内に納付しなかった場合(1ヶ月以内) 延滞税 7%
⑦ 〃 (1ヶ月超) 〃 14.6%
(出所)『地方税ハンドブック』を基に作成.
個人事業者 法人
所得税(国税) 事業税(地方税) 法人税(国税) 事業税(地方税)
滞 納 ◯ ◯ ◯ ◯
脱 税 ◯ × ◯ ◯
(出所)『地方税ハンドブック』を基に筆者作成.◯印は各種税法に規定有り,× 印は規定無し.
第 2 表 課税主体別の滞納・脱税規定一覧
現行制度では,個人事業者の脱税については,地方税法による対処法が規定 されていないのである.
さらに,滞納者・脱税者に対する租税回収方法として,地方税法に規定し ている滞納整理手続きや不納欠損処理について見ていく.第3図で取り上げ た滞納者の分類において,「c:停止型」および「d:差押型」に対しては,滞 納整理手続きを実施していくことになる.督促・滞納処分に係る規定につい ては,市町村民税を例にとると,納税者が納期限までに納めない場合,自治 体職員は納期限後20日以内に督促状を発送し,それから10日経過しても納 めないときには滞納者の財産を差し押さえなければならないと規定されてい る(地方税法331条1項1号).地方税法では,この他にも固定資産税などの各 税目に同様の督促・滞納処分に係る規定がある.つまり,納税者が滞納して 約1ヶ月経過すると,財産の差し押えにかかることになるのだが,実際は規 定通りに運用されていることはほとんどない6).その理由は,同じく地方税 法の規定に明記されている.地方団体の長は,納税者が一定の事由に該当す る場合,1年間の徴収猶予ができるとされ,その上,やむを得ない事由があ る場合には,さらに1年間の期間延長ができると規定されている(地方税法15 条3項).この規定により,滞納者は最大2年間の猶予・延長が認められるだ けでなく,5年間の消滅時効にも関係してくることになる7).
また,一般的に納期限から5年間経過して消滅時効が成立した租税債権に 対して,不納欠損処理が行われる.この点については,各自治体の条例や規 則等で明記されている.ただし,不納欠損処理はあくまで会計上の内部的な 整理手続きであり,それ自体は何ら法的効果をもつものではないのである.
つまり,一度不納欠損処理が行われても,いつでもこれを復活させて徴収す ることができることになる8).
6) 日下(2009)93-94頁.
7) 民法の規定では,滞納者に文書や電話などで催告すると,時効中断の効果はあるものの,催 告後6ヶ月以内に滞納処分を行わなければ時効中断の効力は生じないとされる(民法153条). 8) 日下(2009)86頁.
以上のように,滞納・脱税に関する規定を整理してきたが,特に滞納者に 対する滞納整理手続きでは,実際にあまり活用されていないことが問題点で ある.というのも,近年では,この問題点について住民が税務行政の怠慢を 指摘し,自治体の長あるいは税務担当責任者に対する住民監査請求や住民訴 訟にまで発展するケースも珍しくないからである.例として,茨城県つくば 市や三重県御浜町が挙げられる.一般的に,税務訴訟は行政側の勝訴に終わ るケースが多い中で,上に掲げた住民訴訟のうち,三重県御浜町のケースは 原告側(住民)の勝訴に近い結果となっている9).このため,今後は自治体側 も滞納・脱税債権管理の慎重な対応が望まれると考える.
2 滞納・脱税解消に向けた自治体の対策
冒頭にて述べたように,政府は平成17・18年度頃より,地方税の徴収業務 について具体的な指示をしながら,税収確保を促してきている.この要因と して,地方税における課税の公平あるいは税業務の効率化といった観点を中 心に,近年低い水準で推移してきた徴収率の向上に向けた期待が挙げられる.
これまで,地方自治体は様々な取り組みを実施してきている.その中でも,
本章では,近年業務運営が開始されたコンビニ徴収,クレジット収納および 共同徴収機構の例を挙げて,これらを整理・検討する.
2. 1 自治体の取組事例①(コンビニ徴収・クレジット収納)
地方自治体の取組事例の中でも,今日,一般的に浸透しつつあると思われ る手法がコンビニ徴収およびクレジット収納である.
まず,コンビニ徴収については,東京都が平成16年度から自動車税の取 扱を始めており,以後,横浜市,川崎市,神戸市,福岡県といった大都市を 中心に国民健康保険料や地方税の一部の徴収業務をコンビニに委託している.
コンビニ徴収のメリットは,言うまでもなく,コンビニ各社の店舗網の広範
9) 日下(2009)82-111頁.
囲と営業時間の長さ(24時間)であり,納税者による利便性の高さによって徴 収業務の推進が図れる点である.これまでにも,コンビニ徴収による結果から,
滞納件数の減少やコスト削減といった効果が挙げられている10).
一方で,コンビニ徴収に伴う問題も指摘されている.コンビニ徴収では,
納税者がコンビニで支払った税が実際に自治体に収納されるまでに約2週間 程度のタイムラグが生じる点である.このタイムラグによって,督促状・催 告書の発送や納税証明書の交付といった最新の納付情報を反映させる事務面 や,もしも当該期間中にコンビニが破綻・倒産した場合のリスク問題も指摘 されよう11).こうした問題点については,各自治体共通の問題点であり,す でにいくつかの自治体が比較・検討を行って整理したノウハウ等を活用しな がら取り組むことによって,解決への道に繋がるものと推測される.
次に,クレジット収納については,平成17年度に総務省が水道料金などの 公共料金の支払いにクレジットカードが使用できるとする方針を決定し,翌 年に国会で地方自治法の改正が実施されたことにより,本格的に業務開始可 能となった.クレジット収納のメリットは,納税者が現金を持ち歩かなくて も支払可能な点,インターネットや電話を使えば自宅に居ながらにして24時 間決済可能な点,実際に口座からの引き落としは約1ヶ月以上先になるため 資金繰りに余裕ができる点,カード利用による獲得ポイントの有効利用の点 など,前述のコンビニ徴収とは違ったメリットが様々挙げられる12). クレジットカードは今や国民の多くが所有している資金管理方法の1つで あり,地方税納付においても本来は,コンビニ徴収と共に社会に急速に進展 しても不思議ではないと思われる.しかしながら,実際にはコンビニ徴収が 大都市をはじめとして各自治体間に広がりを見せているのに対して,クレジッ
10) 一例を挙げると,朝日新聞2005年5月14日朝刊では,東京都が平成16年から始めた自動
車税について記載している.具体的には,コンビニ納付によって,納付期限内納付率は台数で 2.2%,約6千台増え,平成16年9月末段階での滞納件数は前年度より2万7千件(12.7%)
減少し,徴収の効果は上がっていることが明らかになっている.さらに,納税の前倒し効果に よって督促状を作成しない分だけのコスト削減があった事が指摘されている.
11) 柏木(2006)68-69頁,伊多波(2005)13-15頁.
12) 柏木(2006)59-60頁.
ト収納は遅れをとっている感がある13).この要因としては,クレジット収納 によるデメリットが関係していると思われる.平成17年2月に富士通総研 が自治体に実施したアンケート調査によると,クレジット収納の課題として,
手数料,導入費用・予算,導入効果,プライバシー問題などが上位にあると 指摘されている14).柏木(2006)では,例えば最も指摘の多かった手数料につ いては,1件あたりの手数料がコンビニ徴収では50円程度に対して,クレジッ ト収納では定率でかかるという.定率の手数料とは,税額が小額の軽自動車 税などでは設定率によってコンビニ徴収よりも低い金額になる可能性もある が,固定資産税のような税額の高いものは当然手数料自体も高くなる.なお,
クレジット収納のスキームには,立替払い方式と債権譲渡方式があるが,地 方税法では第三者納付を導入する場合には立替払い方式を採用するものとし て規定されている(地方税法20条6項).各自治体がクレジット収納を利用し た場合,万が一,納税者の口座から残高不足等で引落不能になると,カード 会社が立替をして自治体に納付する仕組みになるため,自治体側には滞納が 発生しないことになる.その代わりに,自治体はカード会社に定率の手数料 を支払うことになり,この点が導入上最も懸念される問題点となっている15). 以上のように,コンビニ徴収およびクレジット収納のメリット・デメリッ トを中心に整理してきたが,いずれも地方税における滞納・脱税対策に有効 な手段として期待されているものであることは言うまでもない.特に,クレ ジット収納においては,上述の通り,立替払い方式によるカード会社の第三 者納付によって,自治体側の滞納を防ぐ効果も期待されることから,今後さ らに慎重な検討が求められるものと考える.
13) クレジット収納は平成18年度にようやく取扱開始が認められたのに対し,コンビニ収納は
既に昭和62年にセブン-イレブンが東京電力の電気料金を収納しており,以後,ガス,電話,
水道などに広がっている.平成15年の地方自治法改正によって,地方税も取扱開始となった.
開始後は取扱が急増しており,平成17年2月期の取扱額は4兆2,195億円(取扱総件数は4 億8,806万件)に上っている(朝日新聞2005年10月23日朝刊).
14) 柏木(2007)12-20頁.
15) この他,伊多波(2007)では,費用便益帰着構成表を用いてコンビニ徴収・クレジット収納 導入による社会全体の純便益について分析している.
16) 林智子(2009)および鈴木(2008)は,茨城租税債権管理機構(平成13年4月設立)が全 国初の県内全市町村参加組織であると述べている.
17) 柏木(2007)26-28頁.
2. 2 自治体の取組事例②(共同徴収機構)
2. 2. 1 共同徴収機構の現状
地方自治体の地方税徴収率向上に向けた取組として,近年,注目されてい るのが共同徴収機構による徴収である.では,こうした動きはいつ頃から見 られるのか.柏木(2009)の調査によると,古くは昭和30年代の岡山県市町 村税整理組合や滋賀県の甲賀広域行政組合などの小規模な広域連合が見られ る.近年では,茨城県や三重県などを始めとして数県で全県的レベルの機構 が設立されており,今後も各地に広がっている16).このように,共同徴収の 組織には規模に相違が見られるため,柏木氏は共同徴収を目的別に類型化し ている(第 3 表参照).
分類方法の詳細については,柏木(2009)に掲載されているため省略する17). なお,上に挙げた茨城県や三重県などの機構は,県や市町村がこれから先も ずっと共同して徴収しようと考えている「協調型」の中の「県・市町村一体 型」であり,将来的には共同徴収・共同課税も視野に入れた「広域連合」に 分類される.最近では,平成20年1月設立の静岡地方税滞納整理機構や平成 21年8月設立の京都地方税機構も同じ分類に該当する.このような,規模を 問わず共同徴収を行う組織は,全国で約40団体近く見られ,今後さらに増加
第 3 表 共同徴収の類型
(出所)柏木(2009)28頁.
パターン 形態 備考
協調型
県・市町村一体型 広域連合 共同課税も視野に設立 任意組織
市町村共同型 一部事務組合 広域連合
自立型 県主導型 一部事務組合 時限的組織も存在する 任意組織 時限的組織も存在する 庁内税・料一体徴収型 該当市町村
していくことが予想される.
2. 2. 2 共同徴収機構の費用対効果
次に,最近の共同徴収における効果はどのようになっているのかについて 見ていきたい.この点については,各機構の組織性やデータ公表等の観点から,
統一的な基準での分析はほとんど見られなかった.しかし,先述の柏木氏は 数箇所の機構に対して独自のヒアリング調査等を実施して,その分析結果を 公表しているため参考にしたい.
第 4 表は,7団体の直近データを一覧するためのものである.各項目のうち,
徴収額の算定基準,引受件数の数え方,負担金の考え方等において各団体間 で異なるため,同一基準に基づく比較表ではないものの,これまでに共同徴 収を実施している団体の状況を並べた表は存在したことがなかったことから,
渡島・檜山北海道 茨城 静岡 三重 和歌山 愛媛 千葉 一部事務組合 一部事務
組合 広域連合 一部事務組合 一部事務 組合 一部事務
組合 任意組織 年度 H20 H19 H20 H18 H20 H20 H20
徴収率 31.25% 28.75% 15.09% 24.81% 23.59% 35.45% 21.08%
引受(移管)件数/人数 310 1,244 966 644 853 824 2,375 引受(移管)額 348 2,699 3,579 1,391 1,312 1,122 2,906 徴収額(徴収率のベース) 108 776 540 345 309 398 612
①効果 251 2,991 3,800 1,901 2,025 1,276 2,187
②移管予告効果 127 1,380 3,100 1,161 1,075 769 -
③徴収額 108 910 540 641 580 506 312
④納付約束額 15 700 240 99 1,198
⑤差押による保全 369 676
⑥参加市町村の負担金の額 39 278 225 166 113 93 0 費用対効果
機構(③+④)/⑥ 3.1倍 5.7倍 3.4倍 4.4倍 8.3倍 5.4倍 100%
全体①/⑥ 6.3倍 10.7倍 16.8倍 6.9倍 17.9倍 13.6倍 100%
第 4 表 共同徴収の費用対効果
(金額単位:百万円)
(出所)柏木(2009)を一部加工して掲載.
18) 平成21年8月に実施したヒアリング調査に基づく.
一定有意義な調査結果であると思われる.柏木氏は費用対効果の測定方法を,
「機構による効果」と「全体の効果」の2通りに分けている.前者では3〜8 倍の効果が出ており,後者では6〜17倍の効果が出ていることが分かる.
2. 2. 3 共同徴収機構の問題点と課題
これまで,共同徴収機構の効果について見てきたが,その反面,自治体の 税務行政における自主性について,いくつかの問題点も浮き彫りになってき ているため,ここでは指摘しておきたい.
まず,近年全国的に共同徴収機構が設置されつつある状況ではあるが,一 部の地域では未設置あるいは未加入の自治体が存在し,自治体間での足並み の不一致が見られる点である.例えば,今年8月に設置された京都地方税機 構では,京都市を除く全ての市町村が参加を表明している.現状,徴収率の 高い一部の都市等では,共同徴収機構を活用しなくても従来通りの単独方式 で課税・徴収を実施することを選択している様子が伺える.仮に,共同徴収 機構による滞納債権回収は効果が大きいと認識するのであれば,全国的に一 刻も早く都道府県等が中心になって積極的に機構設置を促していくべきであ る.設置が遅れると,それだけ納税の公平性を欠くことになるからである.
また,共同徴収機構による高い効果は,主に自治体職員の業務運営面の違 いによるものであることを指摘しておく.これは,共同徴収機構が特段画期 的な徴収対策等を実施していると言うよりも,滞納債権回収のみを取り扱う 専門組織を立ち上げた効果である.これまでの各自治体職員は,課税,徴収,
窓口対応といった幅広い対応に追われ,さらには自治体財政難から職員数の 削減によって,1人当たりの業務負荷が相当に大きくなっているケースも想定 される.この点については,筆者が独自にヒアリング調査を実施した結果に よると,ある関西圏の地方都市(人口2万人程度)では,徴税職員2人で約1,000 件の滞納債権管理を行っていた18).もちろん,債権回収以外にも通常業務が
多く割り当てられているのは言うまでもない.共同機構では,滞納金額の大 きい案件や滞納常習者などを中心に移管・回収を目指していることから,少 額案件やいわゆる「うっかり納税忘れ」案件は引き続き各自治体職員が担当 すると思われる.
今後,各自治体が共同徴収機構に依存するようになると,現状の国・都道 府県・市町村のいわゆる三重行政との兼ね合いから,地方自治体の自主性の 欠如が問われる可能性が高いと思われる.そして,機構設置の目的である滞納・
脱税双方の防止を目指しながらも,実際には滞納中心の取組が行われている ことから,脱税対策は国税庁(あるいは税務署)の主導で対応せざるをえない ように思われる.このような問題点から,果たして望ましい滞納・脱税対策 とはどのようなものなのかという新たな疑問が生じる.それに答えるために,
次章において滞納・脱税の理論分析へすすむことにする.
3 滞納・脱税の理論分析 3. 1 滞納と脱税のモデル
現在,様々な方法によって滞納をなくす試みが行われている.しかし,そ のような試みが効果を発揮するかどうかについて,脱税についてとは異なり,
理論的な分析が十分行われているとは言えない.この意味で滞納の理論的分 析モデルを提示する必要がある.
滞納の理論分析に当たって,脱税の分析が参考になる.脱税の理論の先 駆的研究としては,個人の脱税を明示的に取り扱ったAllingham and Sandmo
(1972)が代表的である.彼らは,主に税率,脱税の発見確率及び罰金率の上
昇が個人の脱税行動にいかなる影響を与えるのかについて分析を試みている.
その後,Yitzhaki (1974)など,脱税に関しては様々な形で研究が展開されている.
これらの論文は,個人の所得に対して政府が課税する際,その所得水準を何 らかの形で偽ること(過少申告や隠匿)が可能であれば,個人は脱税を行うイ ンセンティブが働くので,その抑制のためには,税務当局が個人の真の所得
をより正確に把握するように調査の精度を高め,あるいは脱税に高い罰金を 課すなどの方法を提案している.
これらの研究は様々な方向に発展している.労働供給を考慮したモデルも あるし,Gordon (1989)はモラルを考慮しながら分析を試みている.また,加 藤(2004)は脱税を考慮した内生的成長モデルを分析している.柳原・加藤(2006)
は世代重複モデルを援用しながら,年金と脱税に関する分析を試みている.
本章では,従来の脱税モデルに税の滞納を考慮しながら,脱税と滞納の同 時決定モデルを提示する.脱税と滞納との間には何らかの関係があると予想 されることを考えると,このような形でのモデル化は一つの妥当な方法と思 われる.
3. 2 モデルの構築
滞納と脱税のモデル化に当たって,申告所得を想定する.所得を申告する 納税者の真の所得をWとするとき,納税者は真の所得を申告せずにEを脱 税するものとする.脱税に成功する確率はp,失敗する確率は(1−p)とする.
モデルは2期間から成り,第1期は所得の申告時,第2期は住民税支払期で ある.また,所得の申告が行われる第1期に国税所得税は納付されると考える.
脱税は第2期の住民税支払期に発覚すると想定すると,脱税の成功如何に関 わらず,申告時においては真の所得Wから脱税額Eを控除した金額に国税 所得税率tがかかるので,国税所得税納税後所得はW−t(W−E)となる.脱 税が発覚する時期は,申告期ではなく住民税支払期としているので,第 5 表 で示されているように,脱税が発覚すると,住民税支払期において脱税額にt を掛けた金額にペナルティkを掛けた金額が追徴される.そして,住民税率 をθとすると,住民税の納付額は真の所得Wにθを掛けた金額となる.ここ で,住民税を支払う際の費用を一定額fとする.住民税支払期の所得をYと すると,住民税課税後所得は Y−(1+k)t E−θW−fとなる.
他方,脱税が成功するとき,住民税支払期にMだけ滞納するものとする.
滞納する際にも,滞納が成功することも失敗することもある.滞納が成功す る確率をqとすると,納税額は,申告所得(W−E)に住民税率 を掛けた金額 から,滞納額Mを控除した金額となる.滞納が成功するときでも一定額の住 民税を支払うものと考えられるので,やはりfの支払費用が発生する.したがっ て,住民税支払期の所得をYとすると,滞納が成功するときの住民税課税後 所得は,第5表におけるようにY−[θ(W−E)−M+f]となる.滞納が失敗す るときは,滞納額にペナルティαを掛けた金額をMに加えた金額(1+α)Mが 徴収される.この時点では脱税は発覚していないので住民税は,θ(W−E)で ある.したがって,滞納が失敗するときの住民税課税後所得は,Yから既に 納税した住民税θ(W−E)−M, (1+α)M,および住民税の支払い費用をf控除 した金額となる.住民税の支払い費用は,滞納しない分を支払う際の費用fと 滞納が失敗したときの支払費用fの2fとなる.滞納が失敗したときの支払費用 は滞納しない分を支払う際の費用と同じと想定している.したがって,滞納が 失敗するときの住民税課税後所得は,Y−θ(W−E)−αM−2fとなる.
通常の効用関数をu(課税後所得)とすると,申告期における期待効用関数 は次のように表される.
V=p[u(X)+β{qu(Z)+(1−q)u(J)}]+(1−p)u(X)+(1−p)βu(R)
=u(X)+pβ{qu(Z)+(1−q)u(J)}+(1−p)βu(R) (1)
ここで,
X=W−t(W−E) (2)
脱税 第1期:申告期
(同時に国税所得税を納付) 第2期:住民税支払期
p(成功) W−t(W−E)
q(滞納成功) Y−[θ(W−E)−M+f]
(1−q) (滞納失敗) Y−[θ(W−E)−M+f]
−(1+α)M−f
=Y−θ(W−E)−αM−2f
(1−p) (失敗) W−t(W−E) Y−(1+k)tE−θW−f
第 5 表 脱税と納税の構造
Z=Y−[θ(W−E)−M+f] (3)
J=Y−θ(W−E)−αM−2f (4)
R=Y−(1+k)t E−θW−f (5)
である.また,βは住民税支払時の金額を現在価値に修正する割引要素である.
脱税額Eと滞納額Mは,期待効用を最大にするようにして求められ,第1階 の条件は次のとおりになる.
VE=uXt+pβθ{quZ+(1−q)uJ}−(1−p)βuR(1+k)t=0 (6)
VM=pβ{quZ−(1−q)uJα}=0 (7)
(6)式は,Eを決定する条件を示している.(6)式の1項と2項はEを限界 的に引き上げたときの限界便益を,3項は限界費用を示している.(6)式は,
Eの限界便益と限界費用が等しくなるようにEが決定されることを要請して おり,VEを脱税の純限界便益と呼ぶことにする.(7)式は,Mを決定する条 件を示している.(7)式の { } 内の第1項はMを限界的に引き上げたときの 限界便益,第2項は限界費用を示している.(7)式はMの限界便益と限界費 用が等しくなるようにMが決定されることを要請している.(7)式のVMを滞 納の純限界便益と呼ぶことにする.
3. 3 比較静学
ここでは,本稿の分析に関係のある,先に述べられた住民税を支払う際の 費用と滞納の成功確率qに注目し,これらのEとMに及ぼす影響を見てみる.
まず,ME平面で(6)と(7)式を充たす曲線を見てみる.(6)式から次式が 求められる.
dE dM V
E=0
=−
(−)
VEM
VEE (?)
(8)
ここで,
VEM=pβθ{quZZ−(1−q)uJJα} (9)
VEE=uX Xt2+pβ{quZZθ2+(1−q)uJJθ2}+(1−p)βuRR(1+k)2<0 (10)
である.同様に,(7)式から次式が得られる.
dE dM V
M=0
=−
(?)
VMM VME
(−)
(11)
ここで,
VMM=pβ{quZZ+(1−q)uJJ(−α)2}<0 (12)
VME=pβθ{quZZ−(1−q)uJJα} (13)
しかし,VEM(=VME) の等号は明らかでないので,ME平面で(6)と(7)式 を満たす曲線を描くことはできない.そこで,VEMがプラス,ゼロ,マイナ スの3つのケースに分けて説明する.
3. 3. 1 ケース1 VEM>0
もし滞納が成功する確率qが十分に小さいなら,VEM>0となる19).そう すると,(8)と(11)式はプラスとなるので,横軸と縦軸をそれぞれMとEと するME平面上では右上がりの曲線になる.後で分かるように,第 4 図にお けるように十分条件から(11)式のVE=0の曲線の傾きは(8)式のVM=0の曲 線の傾きより小さい.
ここで,住民税を支払う際の費用fの変化と滞納の成功確率qの変化のE とMに及ぼす影響を見てみる.最初に,住民税を支払う際の費用fについて 見てみる.(6)と(7)式から次式が得られる.
VEE VME VEM
VMM dE
dM=− VEf
VMf df (14)
ただし,
VEf=−pβθ{quZZ+2 (1−q)uzz}+(1−p)βuRR(1+k)t (15)
VMf=pβ{−quZZ+(1−q)uJJα}<0 (16)
である.(16)式において,VEM>0の時,VMf<0である.これより,
19) (13)式から,もしq< α
uZZ/uJJ+α
なら,VME>0となる.仮に,uZZ=uJJなら,α=0.146と すると,q=0.127となる.
dE df =1
(+)A
−VEfVMM+VEMVMf
(?) (−) (+) (−)
(?)
? ifVEf>0
<0 ifVEf=0
<0 ifVEf<0
(17)
dM df =1
(+)A
−VEEVMf+VEfVME (−) (−) (?) (+)
(?)
? ifVEf>0
<0 ifVEf=0
<0 ifVEf<0
(18)
が得られる.ここで,十分条件より,
A=VEEVMM−(VEM)2>0 (19)
である.VEfの符号は確定しないので,(17)式の符号はVEfの符号により変化 する.(17)式で示されているように,VEf≤ 0のとき,Eは低下する.また,
VEf≤ 0のとき,(18)式からfを引き上げるとMは低下する.
第 5 図では,VMf<0なのでVM=0曲線は左にシフトし,VEf<0のときVE=0 曲線が下方にシフトしているケースが描かれている.VEf=0のとき,均衡は(E , M )から(E1, M1)に変化している.また,VEf<0のときは(E2, M2)になる.
第 4 図 VE=0曲線とVM=0曲線 E
M VM=0
M* E*
VE=0
次に滞納の成功確率qの影響についてみる.(6)と(7)式から次式が得られる.
VEE VME VEM
VMM dE
dM=− VEq
VMq dq (20)
ただし,
VEq=pβθ(uz−uJ)<0 (21)
VMq=pβ(uZ+uJα)>0 (22)
である.Z>Jとすると20),uz<uJが成立する.したがって,(21)式はマイナ スになる.これより,次式が得られる.
dE dq=1
(+)A
−VEqVMM+VEMVMq
(−) (−) (+) (+)
(?)
(23)
第 5 図 kの影響:VEM>0のケース M*
E
E*
E1
VEf<0
E2
M2 M1 M
VE=0 VM=0
20) fが十分小さいと成立する.
dM dα=1
(+)A
−VEEVMq+VEqVME
(−) (+) (−) (+)
(?)
(24)
括弧内の変数の符号より,(23)と(24)式の符号は確定しない.
第 6 図を用いて説明すると次のようになる.qの上昇はVE=0曲線を下方に,
VM=0曲線を右方にシフトさせる.その結果,EはE からE1に減少し,M はM からM1に増大しているが,シフト幅の大きさによって新たな脱税額と 滞納額はそれぞれ増大したり減少したりするので,qの影響は確定しない.
3. 3. 2 ケース2 VEM=0
この場合,(8)式のVM=0の曲線と(11)式のVE=0の曲線の傾きは,次の ように示される.
第 6 図 qの影響:VEM>0のケース E
E*
E1
M* M1 M
VE=0 VM=0
dE dM V
E=0
=0 (25)
dE dM V
M=0
=∞ (26)
これらより,第 7 図におけるように,VE=0曲線は水平に,VM=0曲線は 垂直になる.(13)式と(16)式から,VEM=0のとき,VMf=0が成立するので,ケー ス1のときと同様の分析を行うと,fの影響は次のようになる.
dE
df=1
A −VEfVMM
(?) (−)
>0 ifVEf>0
=0 ifVEf=0
<0 ifVEf<0
(27)
dM df=1
(+)A
VEkVME =0
(−) (0) (28)
第 7 図 fの影響:VEM=0のケース E
E*
E1
M* M
VM=0
VE=0
fのEへの影響は,VEfの符号に依存しているが,fはMには影響を及ぼさ ない.第7図にはVEf<0のケースが描かれている.このとき,fの上昇はVE
=0曲線を下方にシフトさせ,EはE からE1に減少する.
qの影響も同様に行うと次のようになる.
dE
dq=1
A −VEqVMM <0
(−) (−) (29)
dM
dq=1
(+)A
−VEEVMq >0
(−) (+) (30)
つまりqの上昇はEを引き下げ,Mを引き上げる.第 8 図におけるように,
qの上昇はVE=0曲線を下方にシフトさせ,VM=0曲線を右方にシフトさせ 第 8 図 qの影響:VEM=0のケース
E
E*
E1
M
M* M1
VE=0 VM=0
るので,EはE からE1に減少し,MはM からM1に増大する.
3. 3. 3 ケース3 VEM<0
滞納が成功する確率qが十分大きいときに,成功するケースである.VEM<0 なので,(8)式のVM=0の曲線と(11)式のVE=0の曲線の傾きは,
dE dM V
E=0
=−
(−)
VEM
VEE
(−)
<0 (31)
dE dM V
M=0
=−
(−)
VMM VME (−)
<0 (32)
となり,EM平面上では右下りになる.十分条件が満たされていると,第 9 図のとおりに描かれる.
fのEとMに及ぼす影響は次のようになる.ケース1と同様に分析すると,
(33)と(34)式で表される.
dE
df=1
(+)A
−VEf VMM+VEMVMf
(?) (−) (−) (+)
(?)
? ifVEf>0
<0 ifVEf=0
<0 ifVEf<0
(33)
dM
df=1
(+)A
−VEEVMf+VEfVME
(−) (+) (?) (−)
(?)
? 0 ifVEf>0
>0 ifVEf=0
>0 ifVEf<0
(34)
(13)式と(16)式からVEM<0のとき,VMf>0が成立している.VEM<0の場合,
fのEとMへの影響はVEfの符号に依存している.VEf≤ 0のとき,fの増大は Eを引き下げ,Mを引き上げる.第9図では,fの増大がVE=0曲線を下方に,
VM=0曲線を右方にシフトさせている状況が描かれている.VEf=0のとき,均 衡は(E , M )から(E1, M1)に変化し,VEf<0のとき(E2, M2)に変化する.
qのEとMに及ぼす影響は,次のようになる.
dE
dq=1
(+)A
−VEqVMM+VEMVMq<0
(−) (−) (−) (+) (35)
dM dq=1
(+)A
−VEEVMq+VEqVME>0
(−) (+) (−) (−) (36)
これより,qの増大はEを引き下げ,Mを引き上げる.
第 10 図で示されているように,qの増大はVE=0曲線を下方に,VM=0曲 線を右方にシフトさせるので,EはE からE1に減少し,MはM からM1 に増大する.
第 9 図 fの影響:VEM<0のケース
E VM=0
E*
E1 VE=0
E2
M* M1 M2 M
3. 4 結果の直観的解釈
これまで説明してきたように,比較静学の結果はVEMとVEfの符号に大き く依存している.脱税Eと滞納Mの関係が特に重要なので,ここではVEMの 符号に注目しながら,これまでの結果を直観的に説明する.VEfの符号も重要 であるが,説明の便宜上,特に断りがない限り,VEf=0を仮定する.
最初に,地方税の支払い費用fの影響を見てみよう.VEf=0を仮定すると,
fの増大は脱税の決定式である(6)式,つまり脱税の純限界便益VEに影響を 与えない.他方で,fのVMに及ぼす影響は,VEMの符号に依存し,VEM>0 (<0) のときVMf<0 (>0) となる.したがって,VEM>0のときVMf<0なので,fの 増大は滞納の純限界便益VMを引き下げる.このため,最適化行動から滞納額
第 10 図 qの影響:VEM<0のケース E
E*
E1
VE=0
VM=0
M* M1 M
Mが減少する.これは,VEに影響を与えることによって,Eの変化を通じて Mに影響を及ぼす.最終的にMどのように変化するかはVEMの符号に依存する.
VEM>0であれば,滞納額Mの減少は脱税の純限界便益VEを減少させるの で,脱税額を減少させる.VEM>0のとき,Eの減少はさらにMを減少させ る.このようにして,最終的には,VEM>0かつVEf=0のとき,fの増大はE とMを引き下げる.
もし,ケース2のおけるように,EとMがそれぞれVEとVMに影響を与え ないなら,つまり,VEM=0なら,VEf=0のとき,fは脱税に影響を及ばさない.
VEM=0のとき,VMf=0が成立するので,fの変化は脱税と滞納に影響を及ぼ さない.
ケース3のようにVEM<0なら次のようになる.このとき,VEf>0なので,
fの増大は滞納の純限界便益VMを引き上げる.このため,最適化行動から滞 納Mが増加する.VEM<0なら,Mの増加はVEを引き下げる.これは,Eの 減少をもたらし,fの増大はEを引き上げ,Mを引き上げる.
次に,第 6 表を用いて滞納の成功確率qの影響を見てみよう.qの増大は 脱税の純限界便益VEに影響を与える.この場合,VEはマイナスになるため,
脱税額Eは減少する.この脱税額の減少は滞納の純限界便益VMに影響を与 える.他方で,qの増大は,滞納の限界便益を引き上げるので,滞納の純限 界便益VMはプラスになるので,滞納額Mを増大させる.この滞納額の増大は,
VEに影響を与える.これが,第6表の当初の効果である.
VEM=0なら,ケース2 (VEM=0)で見たように,qの増大は滞納額を増大させ,
脱税額を減少させる(第6表の①と②).
第 6 表 滞納の成功確率qの影響
当初の効果 if VEM=0 if VEM<0 if VEM>0 VE⇩なのでE⇩ ①VEに影響なし ③VM⇧なのでM⇧
(当初のM⇧を強める) ⑤VM⇩なのでM⇩
(当初のM⇧を相殺)
VM⇧なのでM⇧ ②VEに影響なし ④VE⇩なのでE⇩
(当初のE⇩を強める) ⑥VE⇧なのでE⇧
(当初のE⇩を相殺)
ケース3のようにVEM<0なら次のようになる.もしVEM<0なら,Mの 増大はVEを更に減少させる(第6表の④).これは,Eの減少をもたらす.他方,
当初の効果のEの減少は,もしVEM<0なら,VMを更に増大させる(第6表の③). これは,Mの増大をもたらす.したがって,VEM<0の場合,qの増大は滞納 額を増大させ,脱税額を減少させる.
もしVEM>0なら,qの増大による当初の効果のMの増大によりVEは増大 する(第6表の⑥).これは,Eを増大させる.このため,qの増大による当初 の効果であるEの減少を相殺することになる.この結果,最終的にqの増大 により,Eがどのように変化するかは分からなくなる.また,qの増大により 当初の効果のEが減少するとき,もしVEM>0なら,VMは減少するので,M は減少する(第6表の⑤).これは当初の効果のMの増大を相殺するように機 能する.したがって,最終的にqの増大により,Mがどのように変化するか は分からなくなる.このように,もしVEM>0なら,qの影響は確定できない.
4 理論分析から得られた今後の機構のあり方
各自治体が現在取り組んでいる滞納対策については,第3章の理論分析を 通じて,幾つかのインプリケーションを得ることができる.
まず第1に,地方自治体が行っているコンビニ徴収とクレジット徴収につい てである.これらは理論分析の支払手数料fの低下をもたらすものと考えるこ とができる.fが低下するとき,滞納行動と脱税行動が関係しない場合(VEM=0), 本稿のモデルでは滞納に影響を及ばさない.滞納行動と脱税行動が関係する 場合には,fの低下の影響は一概には言えなくなる.
第2に,共同徴収機構の創設は滞納の成功確率qを引き下げる試みと解釈 できる.qの引き下げは,滞納行動と脱税行動が関係しない場合(VEM=0),滞 納を引き下げる.しかし,他方で脱税を促進することになる.滞納行動と脱 税行動が関係する場合には,コンビニ徴収とクレジット徴収の場合と同じよ うに,fの低下の影響は一概には言えなくなる.