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CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方

著者 太田 進一

雑誌名 同志社商学

巻 60

号 5‑6

ページ 143‑158

発行年 2009‑03‑15

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007403

(2)

CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方

太 田 進 一

はじめに

CSRへの企業による取組状況 中小企業におけるCSR コミュニティ・ビジネスとCSR おわりに

は じ め に

本稿では,CSR(企業の社会的責任)に関する,企業,とりわけ中小企業における取 組の状況や認識,取組の姿勢,歴史的な経緯,CSRを検討する理由や背景などの概況 をまず取り上げることにより,近年のCSR の高まりの状況を把握する。次いで,中小 企業におけるCSRへのアプローチや手がかり,CSRの方法,中小企業にとってのCSR のあり方を探ることにする。そして最後に,中小企業における社会性や社会貢献の役割 から「コミュニティ・ビジネス」に着目している。また,そのコミュニティ・ビジネス である中小企業の企業事例3社を紹介している。

本稿では,近年の社会的にCSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)

という意識の高まりの中で,単に受身としてのCSRではなく,企業が主体性を涵養し た積極的な経営戦略の一環としてのCSR,ミッション・マネジメントや経営理念とし てのCSRを展開するためには,どうすればよいのかという視点から取り組むことにし たい。

CSR への企業による取組状況

1.CSRの意味と企業での取組の動向

CSRは英語のCorporate Social Responsibilityの頭文字をとったものであり,企業の社 会的責任という意味である。経済同友会が2003年に「市場の進化と社会的責任」とい うタイトルで第15回の企業白書を出してい

1

る。当時の経済同友会の代表幹事である小

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社団法人経済同友会『「市場の進化」と社会的責任経営−企業の信頼構築と持続的な価値創造に向けて

−』(第15回企業白書)社団法人経済同友会,20033月,「まえがき」から引用。

日本における「企業の社会的責任論」に関する雑誌論文記事から時期的区分が行われたものによる と,全体を4期に区分し,すでに第1期:1948年〜62年初頭の時期から提唱されており,ことに第 !

335)1

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林陽太郎氏は,以下の通り述べている。これは,基本的には2000年12月に発表された

『21世紀宣言』で主張されている企業として「経済的価値」のみならず,「社会的価値」

「人間的価値」をも創出する責任を有することを改めて再認識している。その上で,「市 場の進化」が,欧米では一方では「社会的責任投資(SRI ; Socially Responsible Invest-

ment)」として投資家側が市場機能を活かしつつ,企業を総合的に評価しようとの動き

があり,他方では企業側から自らの社会的責任を明確に定義し,社会に対して発信し,

実践する事により,自らの競争力を高め持続的発展を目指す動きとして「企業の社会的 責任(CSR)」が活発化していることを捉えており,これを「市場の進化」への企業の イニシアティブとして把握している。

CSRを日本の企業で捉えなおすと,第一に,市場機能の活用を通じて収益力と競争 力を高め,より効果的な経済的価値創造を行うことにより,低迷する経済を活性化する こと。第二に,すべてのステークホルダーに対する義務を履行するという理念を固め,

実現するためのガバナンスを確立すること,としている。

また,社団法人日本経済団体連合会(2007年6月現在で1662社と団体が加盟,以下 経団連と略称)では,CSRに関するアンケート調査を会員企業向けに2005年3月〜4 月に実施して,まとめてい

2

る。

CSRを意識して活動している企業は75.2% に達しており,経営理念や企業行動と社 員の行動や倫理に関する方針を持っている企業は8割を超えている。CSRへの社内的 な取組みは,2年以上前からが過半数に達し,トップダウンで取り組んでいる企業は8 割近くに達した。また,CSR への取組みを開始した契機は,半数以上の企業が,マス コミ・世論の盛り上がり,経団連などの経済団体の活動を挙げている。CSR の対象範 囲は6割超の企業が連結会社とし,CSRを推進する社内横断的な機関の有無について は,半数以上の企業が設置している。CSR推進部署や専任担当者の有無については,

66.3% の企業が設けている。ただ,その部署や担当者の所属は多岐に渡っているのが特 徴である。また,CSRに関する報告書を発行しているのは全体の55.4% に達してい る。取組み分野については,現在,将来にわたって「コンプライアンス・法令遵守」が 最も多く,今後は「リスクマネジメント」の重要度が高まり,逆に「個人情報保護・情 報セキュリティ」の重要度が低下しているのが顕著である。

東洋経済新報社調

3

査によると,大企業では2005年に比較して2006年は,CSRの担

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! 2期の1970年〜83年には,「企業の社会的責任論」の隆盛期を迎えているとしている。第3期が1991 年〜94年,第4期を1996年〜2004年としている。その意味では,今日の「企業の社会的責任論」は,

4期の延長上に位置しているといえよう。堀越芳昭「第3 日本における企業の社会的責任論の生 成と展開」松野弘・堀越芳昭・合力知工編著『「企業の社会的責任論」の形成と展開』株式会社ミネル ヴァ書房,20062月,64〜66ページ。

社団法人日本経済団体連合会企業行動委員会/社会貢献推進委員会/社会的責任経営部会『CSR(企業 の社会的責任)に関するアンケート調査』200510月。

東洋経済新報社『CSR企業総覧2007』東洋経済新報社,20072月,29ページ。

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当部署を設置している企業数が急増している。2005年では,CSRの担当部署アリと,

CSRの担当部署を設置予定が,全体の35% 程度であったが,2006年には,CSRの専 任部署アリと兼任部署アリが全体の60% を超えている。ほとんどの大企業でCSRの 担当部署を設置しているといっても良い。この傾向は,2007年に入ってさらに強くな っているものと推測される。

中小企業における「企業の社会的責任(CSR)」についての認識状況を見ることにし よう。東京商工会議所調

4

べによると,「見聞きしたことがあり,内容について詳しく知 っている」9.4%,「見聞きしたことがあり,内容については大まかに知っている」が 48.3%,合計57.7% の中小企業がCSRについて知っている。また,大阪市信用金庫調

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査によると,2007年4月中旬現在の時点で,中小企業の86.7% が「CSRを意識した取 組」があると回答している。

このように,中小企業においても,CSRの認識や取組の姿勢は,かなり高まってい ると判断できる。

2.石門心学と近江商人にみるCSR

企業の社会的責任という考え方は,最近になって急に出てきたものではない。日本で は江戸時代からあったと言えよう。西欧でもキリスト教的な奉仕精神の考え方が昔から あった。日本の江戸時代の企業の社会的責任の考え方は,江戸中期の石田梅岩を開祖と する石門心学の教えにある。「実の商人は,先も立ち,我も立つことを思うなり」とし て,営利活動を否定せずに,むしろ事業の持続的発展という,本業から社会的責任を果 たしていくことを考えてい

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た。その点では,本業以外での寄付や援助などの社会貢献を 考えていた西欧的な企業の社会的責任とは異なっている。また近江商人の考え方にも企 業の社会的責任感に相当する経営理念が伺える。近江商人の家訓には直接的には,「売 り手よし」「買い手よし」「世間よし」という表現は見られないものの,結果的には今日 言われている「三方よし」という事が唱えられている。世間よしとはその当時の社会一 般にとっても恩恵がなければならないとした考え方である。近江商人の経営理念は,CSR の思想そのものであると評価されてい

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る。近江商人は行商から出発し,やがては固定店 舗を持つに至ったが,行商にとってはことに信用を第一としなければ継続的な商いがで

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東京商工会議所『企業の社会的責任(CSR)についてのアンケート調査』(図表編),東京商工会議所,

20057月,第1図を参照。中小企業の回答企業798社による集計。

大阪市信用金庫『中小企業のCSRについて』大阪市信用金庫,20075月,第1表−1を参照。有効 回答数1,226社による集計。

企業の社会的責任を,その淵源を石田梅岩や二宮尊徳,福沢諭吉,渋沢栄一に求める見解に対して,む しろ基底的な「経済と道徳」の関連に関わる「経済倫理」の問題とする見方もある。堀越芳昭,前掲論 文,松野・堀越昭・合力編著『「企業の社会的責任論」の形成と展開』所収,63ページ。

末永國紀『近江商人学入門』サンライズ出版,2004年,21ページ。

CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方(太田) 337)1

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きなかった。そのためには,当時の社会にも認められ,何らかの恩恵を世間に対して与 える商売を展開する必要があった。

資生堂の元社長の弦間明氏は,今日では「六方よし」ぐらいでないといけないと指摘 してい

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る。つまり,「理念的な責任」「経済的な責任」「法律的な責任」「倫理的な責任」

「社会的な責任」「「文化的な責任」である。文化的な責任を入れているのが,資生堂ら しい考え方だと思われる。

近江商人の典型的な出身地域は,五個荘,八幡,日野である。この地域は琵琶湖の東 側である湖東に当る。このほか,湖西地域(琵琶湖の西側)にある高島などがある。ち ようど,五個荘の対岸になる。

3.企業が社会的責任を検討する理由

第一に,社会と企業が互いに与える影響度合いが高まってきていることがある。こと に,日本企業がグローバル化により,海外へと進出して行き,否が応でも現地との文化 や宗教的な交わりが求められ,おのずと企業の社会的責任を求められてくる。

第二に,社会の企業を見る目が変化してきている。これはIT化(情報)の影響も拍 車をかけている。情報化の進展により,社会と企業との物理的な距離も縮まって来てい る。

第三に,他方ではNPOやNGOといったボランティアグループの増加と活躍が増え て来ている。NPOやNGOが企業と同様なサービスや製品を生み出し,企業との競合 も増えてきている。ボランティアは原則的に無償の奉仕活動であり,コスト的に企業は 刃が立たない。このように,企業にとって新たな競争相手が登場してきていることか ら,社会への奉仕といったことを考え,消費者や社会から支持されないと企業の経営の 維持・存続さえ困難となってきている時代を迎えている。

第四に,商法の改正により,日本の企業も株主への配当を優先することを求められ始 めている。日本のこれまでの大企業における系列集団での株式の相互持合いによる安定 株主工作は,長期的な設備投資による安定的な経営の維持・発展を可能にさせてきた。

しかし,アメリカ型の短期的な株主への配当利益の還元は,これまでの日本的な中長期 にわたる安定的な設備投資等を不可能にさせるものであり,行き過ぎた「株主資本主 義」や欧米型株主優先策に対して是正も求められ始めている。ことに,最近の欧米の投 資会社や年金投資機関による日本企業の買収劇には,企業経営のあり方については対照 的で,考えさせるものがある。

また,第五に,個人の価値観も変化してきており,多様になってきていることがあ

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弦間明・小林俊治監修『江戸に学ぶ企業倫理−日本におけるCSRの源流−』生産性出版,20063 月,77ページ。

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る。新しいライフスタイルの追求は,企業にとっても,これまでの経営方針や経営理念 のあり方に反省を加えていくことになろう。

4.最近の企業不祥事の発生

アメリカの不正経理や不正取引による2001年「エンロン」破綻や2002年7月の「ワ ールドコム」倒産,日本での2000年の「雪印乳業」の集団食中毒事件,「雪印食品」の 牛肉偽装事件,「三菱自動車工業」,「三菱ふそう」のリコール隠し,2004年の「NHK」

の番組制作費着服事件,「TBS」の連続不祥事,「松下電器」の石油温風機の一酸化炭素 中毒事故,2005年の「カネボウ」粉飾決算,「JR西日本」の福知山脱線事故,「ヒュー ザー」による耐震偽装事件,2006年「パロマ」ガス湯沸かし器中毒事件,「明治安田生 命」による生命保険金不払い,「ヤマハ発動機」無人ヘリ不正輸出事件,「日興コーディ アル」不正会計,「村上ファンド」インサイダー取引,「ライブドア」証券取引法違反,

等に始まり,2007年の「コムスン」不正請求,「山田洋行」の防衛庁接待,「フルキャ スト・グッドウイル」の違法派遣問題,「不二家」の賞味期限切れ,2008年の「NHK」

職員の株式のインサイダー取引,「日本製紙」「北越製紙」「王子製紙」などの古紙配合 偽装,公認会計士インサイダー問題など,報道では大企業での不祥事が目立っていた。

しかし,中小企業でも2007年から2008年にかけて,相次いで食品を中心に不祥事が 続いている。生活にとって欠かせない衣食住の3要素の一つである食は,われわれの健 康を左右するだけにことは重大である。札幌市の白い恋人で有名な「石屋製菓」の賞味 期限の改ざん,伊勢市の「赤福」の賞味期限切れや材料である生地の冷凍化,大阪市で の料亭の「船場吉兆」の虚偽表示や使い回し,札幌市の「ミートホープ」の偽装表示,

養老市の「丸明」の飛騨牛の虚偽表示,大阪市「魚秀」と神戸市の「神港魚類」のウナ ギの国産虚偽表示,「三笠フーズ」による汚染米・事故米の不正流通,などが相次いで 摘発されている。

これらは,売れ行き低迷に対する「対策」として,あるいは売れ行き拡大や経費削減 の一環として,消費者を欺き,これまでも何年間か実施され続けてきた節がある。いわ ば,利潤追求への誤った現場担当者や経営者による無責任な判断と行為である。

5.CSR論が台頭してきている背景

まず,漓上述した相次ぐ企業の不祥事の発生がある。滷SCM(サプライ・チェーン

・マネジメント)の進展により,企業間の関係が変化し,また相互の結びつきが強まっ てきている。澆商法の改正により,株式会社の設立が容易になるとともに,企業の責任 もやや曖昧となった反動がある。さらに,潺グローバル化の進展により,企業が国際的 に進出し交流が活発になってきており,欧州のようにCSRに対する認識が強い諸国の

CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方(太田) 339)1

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影響を受けやすくなってきている。潸ISOでも26000を制定の方向で2006年から策定 に入っている。企業の社会的責任は,いわば規格化,国際標準となりつつあるといって も過言ではない。澁企業経営も変遷しており,利潤追求から従業員,顧客の重視へ,さ らには株主重視へ,近年の社会重視(CSR)へと変化してきている。澀日本的経営であ る長期的な経営から,商法改正等による短期的な利益重視や,株主重視へと変化してき ており,コーポレートガバナンスにおいても,日本の大企業では社外重役の導入の実施 がなされている。しかし,他方では日本的経営の長所も残そうとしており,いわば日本 型と欧米型のハイブリッド型のコーポレートガバナンスが実施されている事例も増えて きている。潯1990年代における日本企業の国際競争力の低下から,最近は日本企業も 経営戦略重視へと転換してきた。CSRにおいても受身型から積極的な経営戦略の一環 としてのCSRの展開へと変化し,攻めの経営姿勢へ転換している。

6.企業不祥事を防ぐには

このように,相次ぐ企業不祥事が発生してきている。これらの企業不祥事が発生しな いようにするにはどうすればよいのだろうか。企業内と企業外に分けて考えてみたい。

まず,企業内での対策であるが,企業で経営理念や倫理綱領,スローガンに沿って,

「企業憲章」を全社的に制定し,その実施のチェック体制をこしらえることである。い わば,社内統制の仕組みを整備することを意味する。中小企業にあっては,充分な人員 体制が敷けない場合も多いだろう。経営トップが自ら襟を正し,重点的に当たる必要が ある。また,自社内の生産やサービスのプロセスを再度チェックし,この手順でよいか どうかも検討しておく必要があろう。さらに,「CSR(企業責任)対策室」を設置する 必要がある。内部告発者に対しても,解雇等がなされないように保護措置も講じておく 必要がある。

次に,企業外での対策である。企業の取引先や地方自治体,さらに日本政府の関係・

監督部署を中心として,対策室を設置し,恒常的に防止措置を講じていく必要があろ う。マスコミや市民団体などの組織も絶えず目を光らせ,企業に不正がないかをチェッ クする必要があろう。また,現行の「公益通報者保護法」の実施と通報者の保護措置を 講じる必要がある。さらに,現行の法律で不十分でないかどうかの改正への準備も怠ら ないようにしなければいけない。

中小企業における CSR

1.中小企業におけるCSRと社是・社訓

中小企業はどのようにCSR に取り組めばよいのか,あるいはどこから取り組めばよ

同志社商学 第60巻 第5・6号(29年3月)

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(8)

0 20 40 60 80 100 % より良い製・商品,サービスを提供する事

法令を遵守し,倫理的行動を取ること 収益をあげ,税金を収めること 人体に有害な製・商品,サービスを提供 しないこと 地球環境の保護に貢献する事 人権を尊重・保護する事 貴社・貴方が所在する地域社会の発展に 寄与する事 新たな技術や知識を生み出すこと 株主やオーナーに配当する事 雇用を創出する事 フィランソロピーやメセナ活動を通じて,

社会に貢献する事 世界各地の貧困や紛争に貢献する事 項目

社是・社訓等 CSR CSRに含まれる項目と社是・社訓・経営理念等に含まれる項目

いのか解りにくい中小企業の経営者も多いのではなかろうか。しかし,中小企業は,CSR こそ取り組んでいないものの,企業として社是や社訓,経営理念を保有している中小企 業は案外多い。これを手がかりとしてCSRに取り組めば,導入し易い。第1図に見ら れるとおり,社是・社訓や経営理念と,CSRの項目は連関性が高い。社是や・社訓を もとにその延長上にCSRを考え,取り組めばよいことが理解できる。

CSRとしての回答数の多い順に掲げると次の通りであ

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る。「よりよい製・商品,サー ビスを提供」「法令を遵守し,倫理的行動をとる」「収益をあげ,税金を納める」「人体 に有害な製・商品,サービスを提供しない」「地球環境の保護に貢献する」「人権を尊重

・保護する」「貴社・貴方が所在する地域社会の発展に寄与する」などとなっている。

企業としての基本的義務に属する項目と,さらに環境や人権,地域社会への貢献などの いわゆる企業の社会的責任とが混在している。しかし,中小企業の経営に余裕ができて くれば,社会的責任の割合が高まっていくことが予想できる。

2.中小企業にとってのCSR

中小企業は大企業と比べて,資金的にも人材的にも余裕がない。今日,CSRに関連

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東京商工会議所,同上,第2図を参照。

1 中小企業における社是・社訓・経営理念とCSR

出所:東京商工会議所『企業の社会的責任(CSR)についてのアンケート調査』

(図表篇)東京商工会議所,20057月。

CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方(太田) 341)1

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企 業

消費者・顧客 サプライヤー

地域社会

NGO/NPO

マスコミ 政府・監督官庁 債権者

株主・投資家 販売チャネル 従業員

した企業のステークホルダーがいかに広がりつつあるとは言え,大企業と同様なCSR の取組みには中小企業自体に限界がある。もし,理想的なCSRが実現したとしても,

その際に中小企業経営の利益の創出や存続という点から問題を生み出している可能性も 高い。おのずと,CSRに対する取組みは中小企業としての経営戦略を構築する事が前 提となろう。つまり,限りある経営資源を,自社の得意とする分野へシフトするととも に,CSRにおいても特定の特徴あるCSRに取組む必要があろう。

漓中小企業では,まず足元を固めて,経営を確固としたものへとしなければならな

い。これには自社にとって得意とする分野がどこにあるのか,他社と比較してどこ が強いのか,これまでのキャリアも含めて検討し,他社との差異化を進め,限りあ る経営資源を特定分野へ集中する必要がある。これが経営戦略の構築である。

滷CSRに取り組むことは,中小企業としての利益追求を何も否定しているのではな い。適度な利益がなければ企業の存続は困難である。また,企業の社会的責任も果 たしえない。石門心学の考え方でも,本業重視の持続的な発展の延長上に社会的責 任があった。

澆中小企業経営にとっての基本は何かを考えると,次の3点にいきつくであろう。つ まり,従業員の重視,顧客の重視,地域の重視である。このいずれが欠けても中小 企業経営は成り立たない。これこそが中小企業経営にとってのCSRの原点であ る。

3.大企業と中小企業のステークホルダー

企業を取り巻くステークホルダーは,第2図に見られるとおり,今日の大企業では,

従業員,消費者・顧客,株主,投資家,サプライヤー,販売チャネル,地域社会やNGO /NPO,さらには政府・監督官庁,債権者などと広範である。中小企業でも,今日では ステークホルダーは広がってきている。この第2図に見られる関係者は,中小企業でも 同様に関係しており,大企業と中小企業で大きな相違はないかもしれない。しかし,中 小企業では,すべてのステークホルダーと関係を維持し,きめ細かく対応する事は難し

2 大企業のステークホルダー 同志社商学 第60巻 第5・6号(29年3月)

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中小企業 顧客 従業員

地域

い。それは資金的,人材的に制約されているからである。

中小企業の経営を基本として考察したのが,第3図である。大企業を中心としたステ ークホルダーの第2図に比較すると,かなり絞り込まれている。これは,地域を中心と したCSRに思い切って特化している。中小企業が立地しているのは,地元の地域であ り,従業員も地元の人たちが占める割合が高い。また,顧客については,広域的に日本 全国や世界市場を対象にしている中小企業ももちろんあるだろう。しかし多くの中小企 業では地域を対象としたビジネスを展開している場合がほとんどである。中小企業は地 域に根ざした経営を展開している。CSR に取り組んだり,これから展開する場合には 地域性を考慮する必要がある。そこに,中小企業のCSR の特徴を持たせても良い。

コミュニティ・ビジネスと CSR

また,最近増えてきている中小企業には,地域性に根ざした「コミュニティ・ビジネ ス」と呼ばれる中小企業が誕生してきている。このコミュニティ・ビジネスについて は,地域貢献型事業として『中小企業白

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書』2004年版で,初めて取り上げられ,詳細 に紹介されている。

コミュニティ・ビジネスの起源は,1980年代のイギリスのスコットランド地域にお ける「コミュニティ協同組合」(community cooperative)にあると見られてい

11

る。サッ

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0 中小企業庁『中小企業白書』2004年。ただ,コミュニティ・ビジネスという用語は,すでに2000年度 の国民生活白書で取り上げられており,コミュニティ・ビジネスの定義として「生活者の立場に立ち 様々な形で地域の利益増大を目的とする事業であり,NPOと中小企業にまたがる存在」として紹介さ れている。

なお,本稿では,ステークホルダーの一員である中小企業たる下請企業やサプライヤーの視点や,SCM

(サプライ・チェーン・マネジメント)におけるサプライヤーの役割の視点からの考察を,紙幅の関係 から割愛している。機会を改めて考察したい。

1 堀内信孝『コミュニティ・ビジネス』中央大学出版部,1999年,77ページ。

3 中小企業の経営戦略的CSR

CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方(太田) 343)1

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チャー政権下での過疎の農山村で仕事がなく,郵便局や地域の商店等地域コミュニティ に必要な基本的サービスの不足を補うために,必要なサービスを提供し,雇用を創出す る「コミュニティ協同組合」を立ち上げたのが,モデルとされている。日本におけるコ ミュニティ・ビジネスという用語が利用され始めたのは1994年ごろからで,1995年の 阪神淡路大震災を契機として,コミュニティの重要性に対する認識が深まり,98年12 月に施行された特定非営利活動促進法により非営利組織の法人格取得が容易になったこ とも追い風となって,その存在感を増してきた。今後,高齢化の進展とともに,地域内 の自己の居場所を確保する事が重要となり,受け皿としてもコミュニティ・ビジネスが 重要な役割を担うものと予想される。

コミュニティ・ビジネスの共通点として,次の6点が挙げられている。漓地域住民が 主体,滷利益の最大化を目的としない,澆コミュニティの抱える課題や住民のニーズに 応えるため財・サービスを提供,潺地域住民の働く場所を提供,潸継続的な事業または 事業体,澁行政から人的・資金的に独立した存在である。

また,コミュニティ・ビジネスの事業分野を見ると,高齢者福祉(39.3%),障害者 福祉(35.5%),地域内交流活性化(31.9%),教育(31.3%),情報交流促進(27.7%), 環境保全(25.4%),子育て支援(24.7%),文化・芸術・スポーツの振興(24.1%),他 団体の活動支援(23.9%)などとなっている。全体に計上されている事業分野は16分 野に及んでおり,幅広い事業分野で多岐にわたっている。

日本のコミュニティ・ビジネスを見ると,地域社会への貢献という信念を抱きつつ,

強力なリーダーシップを発揮している代表者もしくはメンバーが中核となっている。コ ミュニティ・ビジネスの活動を開始する動機は,「社会に貢献したかった」が最も多 く,社会貢献性が非常に高い。ことに,地域社会への貢献を目指している。第4図に見 られるとおり,コミュニティ・ビジネスは社会性が高く,NPOやNGO が出自である ケースも多い。

また,コミュニティ・ビジネスは,地域の住民等のネットワークを活かしつつ,きめ 細かいサービスを地域に継続的に提供している。これらは,地方自治体が提供する行政 サービスの行き届かない部分を補完するものである。行政側がこれらコミュニティ・ビ ジネスを活用する事は,ミッション事業,収益事業ともに黒字事業を生み出すことによ り,コミュニティ・ビジネスの事業基盤を強化する事になる。ともに協働する事によ り,マンパワーや財源の限られた地方自治体等にとっても,コミュニティ・ビジネスは 地域住民に細やかなサービスを低コストで提供する事につながる。

これら地方自治体においても取り組まれている。たとえば長野県では,ビジネス・コ ミュニティの先進事例として,地場産品加工108件,福祉・介護59件,雇用支援34 件,情報ネットワーク37件,里山保全40件,伝統工芸43件,地域づくり46件などが

同志社商学 第60巻 第5・6号(29年3月)

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行政 教育 警察

水道 電気 ガス 社会性高い

社会性低い

営利性低い 林業 営利性高い

農業

営利企業 コミュニティ

ビジネス コミュニティ

ビジネス

紹介されてい

12

る。

以下にコミュニティ・ビジネスの企業事例を紹介することにすることにより,具体的 なイメージを形成したい。

1.株式会社カスタネッ

13

株式会社カスタネットは,2001年2月に大日本スクリーン製造株式会社の社内ベン チャー第1号として設立された。文房具の通信販売会社でスタートし,現在,オフィス 用品の法人向け販売や,オフィス家具の販売,ファシィリティ・マネジメントの指導,

工場作業用品,クリーンルーム用品の販売,キャスター(車輪)の販売などを行ってい る。

2002年2月には「21世紀型ビジネスモデル」を構築した。これは,NPO活動と事業 活動の融合である。トナーカートリッジのリサイクルによるカンボジア教育環境整備の 支援を実施する。法人顧客から使用済みトナーカートリッジを無料で回収すると共に,

リサイクルトナー製造業者へ売却してリサイクルトナーを仕入れて販売する。また,机 の引き出しに眠っている中古文房具を提供してもらい,FIDR(財団法人国際開発救援 財団)を通じて中古文具をカンボジアの小学校へ寄贈する。使用済みトナーカートリッ

────────────

2 長野県商工部『はじめよう! コミュニティ・ビジネス』長野県商工部,200312月,10ページ。

3 株式会社カスタネットのホームページより。URL : www.castanet.co.jp/profile/index.html, 2007813 日にダウンロード。

4 コミュニティ・ビジネスの位置

出所:長野県商工部『はじめよう! コミュニティ・ビジネス』長野県商工部,

200312月,2ページ。

CSR(企業の社会的責任)と企業経営のあり方(太田) 345)1

(13)

ジの売却益は,文房具の送付費用や小学校の校舎改築費用に充てられている。また,環 境への負担の少ない商品やサービスを優先的に購入する「グリーン購入」を実施し,推 奨している。

代表取締役社長の植木力氏は,2005年4月には社会貢献室を設置し,自ら社会貢献 室長になっている。

2.株式会社美交工

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株式会社美交工業は,ビルメンテナンス業を営んでいるが,知的障がい者や野宿生活 者の雇用促進に努めている。取引先は,大阪市交通局や財団法人大阪市公園協会,交通 サービス株式会社−などである。また,環境への取組みとして,ISOの認証取得や,環 境の及ぼす様々な改善活動,環境への配慮,ボランティア活動に取り組んでいる。ISO 14001を2004年1月に取得している。その後,ISO 9001も取得している。天然ガス自 動車を利用したり,清掃道具を購入直後に補強して耐用年数を長くしたり,公園の清掃 活動を通じて回収した古紙やペットボトルをリサイクル業者へ引き渡したりしている。

1980年3月に大阪市西区9条南にて,株式会社美交工業を設立した。同年4月に は,大阪市交通局駅構内の清掃業務を受託する。82年4月には大阪市交通局地下鉄駅 構内の照明器具清掃業務を受託する。83年5月には大阪市内の公園維持管理業務を受 託した。89年4月には,大阪市交通局森之宮検車場での社内広告取替え業務を受託す る。翌90年4月には大阪市交通局鶴見乗務所の清掃業務を受託した。93年10月には 福田丈人が代表取締役に就任する。2000年4月に,大阪市土地開発公社管理地の除草 清掃業務を受託した。

2003年1月から,大阪市内の公園清掃業務において,知的障がい者の就労支援を事 業とする,大阪知的障がい者雇用促進建物サービス事業協同組合(通称:エル・チャレ ンジ)の協力を得て,知的障がい者の雇用を開始する。同年4月には,大阪市交通局地 下鉄駅構内の広告取替え業務を受託する。同年5月に当社は,公園清掃業務でのサービ スとして,大阪市内の公園内に居住するホームレスの人たちの青いテントを減らすこと に取り組むことを決めている。西成区の「福祉のまちづくり」に取組み,株式会社ナイ スのホームレス支援事業部「くらし応援室」との協働作業により,ホームレスの人たち の雇用を開始した。

2004年4月には,大阪市内の公園内維持管理業務として,除草作業を追加受託し た。除草作業員の80% をホームレスの人たちに依存している。ホームレスの人たちを

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4 中小企業大学校人吉校で2007721日に開催された「経営トップセミナー」での株式会社美交工業 の専務取締役福田久美子氏による報告を引用。株式会社美交工業の「会社沿革と活動」より引用。株式 会社美交工業のホームページからの引用。URL : www.bikoh.biz/ 2007814日にダウンロード。

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アルバイトとして雇用し,自立へのステップ準備期間の職場として提供している。ま た,刈った草の収集を各地域の知的障がい者の作業所に依頼し,就労体験の場として活 用した。ホームレスの人たちと知的障害者とのコラボレーションが確立している。同年 9月には,大阪府のハートフル企業貢献制度にて「ハートフル企業貢献賞」を受賞した。

2005年3月には,大阪市の総合評価一般競争入札により,大阪市庁舎清掃業務を落 札している。大阪市庁舎を就職困難者の人たちに職場として提供しており,エル・チャ レンジ,大阪市地域就労支援センターの協力を得て,知的障がい者,身体障がい者,母 子家庭,ホームレス,中国帰国者2世などの多くの就職困難者の人たちにより,大阪市 役所の清掃活動が支えられている。同年9月に,大阪府のハートフル企業顕彰制度にて

「ハートフル企業大賞」を受賞する。同年10月には,特別養護老人ホームなどの総合福 祉施設の清掃業務を受託した。同年11月に,大阪府の指定管理者制度により,NPO法 人釜ヶ崎支援機構とのジョイントベンチャーによる府営公園,住吉公園の指定管理者に 選定される。同年12月には,福祉施設への環境福祉施設サービスとして,「NPO法人 たかつき」とのコラボレーションにより,「園芸福祉活動」を始める。同年12月に,ISO 9001を取得した。また,同年12月にニート層を対象とした「NPO法人おおさか若者 就労支援機構」が取り組んでいる「若者自立塾」での就労体験としての職場を提供す る。

2007年2月に,CSR を支援するNPOネットワーク主催による,「関西の中小企業の ためのCSRセミナー」において,「CSRに取り組む企業からの事例報告」を行った。

3.NPO法人ローズリングかの

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鹿児島県鹿屋市にある「NPO法人ローズリングかのや」は,バラ園を母体としたNPO 法人である。前身の「霧島ヶ丘公園」を「かのやばら園」として,1995年に設置して いる。さらに,「NPO法人ローズリングかのや」を,2005年10月の設立総会を経て,

2006年1月に設立した。2006年4月には,それまでのバラ園の規模を拡充し,1,300 種類,17,000株の西日本一のバラ園へと発展させた。

これまで,鹿屋市では「かのやばら園」と,ばらの魅力を最大限に活かした「ばら」

をシンボルにしたまちづくりを進めてきた。2005年3月に市民と行政が一緒に「バラ を活かしたまちづくり計画」を策定している。この計画に基づいて,民間団体と鹿屋市 で構成する「バラを活かしたまちづくり計画推進委員会」を母体にして,市民会議「ロ

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5 中小企業大学校人吉校で2007721日に開催された「経営トップセミナー」でのNPO法人ローズ リングかのやの専務理事神薗清広氏による報告を引用。配布物「NPO法人ローズリングかのや」,かの やばら園のホームページから引用。URL : www.baranomachi.jp/index/html. 2007814日にダウンロ ード。他にバラの香りのする焼酎「薔薇の贈りもの」については,URL : www.edita.jp/nihonshu/archive/

200611−44.html 2007817日にダウンロード。

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ーズガーデンCityかのや」が実施部会となって,計画実現のための事業が進められて きた。市民団体で,より自主的な運営を行うために,市民会議を発展拡充させて,前述 のとおり「NPO法人ローズリングかのや」が2006年1月に設立されたのである。

2006年には,「かのやばら祭り2006」が4月25日から6月4日まで開催され,この 間にイベントと出展等の企画参加団体を募集するとともに,祭りを盛り上げるためのボ ランティアスタッフを募集した。この「かのやばら祭り」は2007年度も同様に企画さ れた。他方では,バラ園内の市民ガーデンに植栽するバラの苗木のオーナーを募集し た。500株に対して1株1万円で名前の入ったプレートを立てて,市で管理し,3年後 にはオーナーに苗木が返還される。

この他にも,「かのやばら園アカデミー」として,定期講座を開催している。純銀細 工粘土や,クレイアート,押し花,折り紙フラワー,ブリザーブドフラワーアレンジメ ント,ボトルフラワー,初級木目込み,トールペイントなどとバラを対象とした講座か ら,周辺講座へと広がりつつある。なお,講師や講座の開催を募集しており,バラの花 の輪はさらに大きくなりつつある。

当初目標として,年間有料入園者数は75,000人であったが,9ヶ月間で156,000人が 訪れ,当初の目標を大きく上回った。また,1,500人ものボランティアが参加した。

事務局長である専務理事の神薗清広氏は,「ないものねだりから,あるものを活かす まちづくり」を目指して,バラを中心とした様々な地域資源を組み合わせた活動を展開 している。もともと,鹿屋市内には昔から「野ばら」があって,その延長上でバラ園が 企画された。

「かのやばら園」は,オリジナルなバラである「プリンセスかのや」という赤い小さ なバラを開発し,このバラをシンボルとしている。また,バラの香りのする焼酎である

「バラの贈り物2006原酒」をサツマイモを原料として,コメ麹で,香料バラである「ダ マスク・ダマッセナ」の花びらを入れて開発した。そのために,2年前から香料バラを ブルガリアから輸入して,園内で育成し,1年目は輸入バラの育成の定着に失敗して,

2年目に再び輸入してようやく育成に成功し,限定生産で売り出した。たちまちにして 売切れてしまい,現在は同好者の間で,ヤフーのオークションにて5千円の価格で取引 されているという。

お わ り に

近年,CSR論が台頭してきている。CSR への最近における企業の取り組みも,2005 年の経団連調査で調査対象企業の3/4以上にみられる。東洋経済調査によれば,2005 年調査でCSR の担当部署が何らかの形で置かれている企業の割合は6割を超えてい

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る。また,中小企業を対象にした調査においても,2005年の東京商工会議所調査によ ると,CSRを知っている企業は6割近くを占めている。大阪市信用金庫調査でも,2007 年で9割近くの中小企業がCSRを意識した取組を行っている。

CSRの議論の台頭は,最近の企業の不祥事に端を発しているとみられるが,もとも と欧米においても日本においても,古くからCSRに近い社会貢献や社会奉仕的な発想 はみられた。日本では,江戸時代の石門心学に見られる本業による事業の持続的発展を 考えており,近江商人の家訓でも「売り手よし,買い手よし,世間よし」という「三方 よし」が唱えられている。

企業が社会的責任を検討する理由は,漓社会と企業の影響の度合いの高まり,滷社会 が企業を見る目が近くなっている,澆NPOやNGOの立ち上げによる企業への影響,

潺企業の株主配当への配慮の高まり,などである。

また,他方では,CSR論が台頭している背景には,漓企業の不祥事の発生,滷SCM の進展による企業間の結びつきの強化,澆商法改正による株式会社設立の簡素化と反動 としての企業責任感の台頭,潺EUなどの企業との交流を通した影響,潸ISO 26000制 定の方向での国際標準化への方向,澁企業経営での利潤追求から従業員,顧客重視,株 主重視,社会重視への変化,澀日本型と欧米型のハイブリッド型のコーポレート・ガバ ナンスの企業事例の増加,潯日本企業の経営戦略重視への転換とCSRの積極的導入,

などである。

しかし,中小企業では,社是・社訓や経営理念から取り組むことで,CSR へと近づ き易い。資金的人材的な制約の多い中小企業では,むしろ戦略的に取り組むことにより CSRにも特徴をもたらすことが可能である。中小企業経営の基本から発想すると,漓 従業員の重視,滷顧客の重視,澆地域の重視により,経営とCSRの取り組みへの原点 とすることが可能になる。

大企業でのステークホルダーは,従業員,消費者・顧客,株主,投資家,サプライヤ ー,販売チャネル,地域社会,NPO・NGO,さらには政府・監督官庁,債権者などと 広範になる。しかし,中小企業ではすべてのステークホルダーと関係を維持し,きめ細 かく対応することは難しい。種々の制約から思い切って,地域を中心としたCSRへと 特化すべきであろう。中小企業にあっては,従業員も顧客も地域とのかかわりが強いの が一般的である。

最近では,中小企業が地域性に根ざした「コミュニティ・ビジネス」が誕生してきて いる。コミュニティ・ビジネスは,共通点として,漓地域住民主体,滷利益の最大化を 目的としない,澆コミュニティの課題やニーズに応える財やサービスを提供,潺地域住 民の働く場を提供,潸継続的な事業,澁行政からの人的・資金的独立,などである。ま た,対象事業分野は,高齢者福祉,障害者福祉,地域内交流活性化,教育,情報交流促

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進,環境保全,子育て支援,文化・芸術・スポーツ振興他団体の活動支援,などと広範 に及んでいる。コミュニティ・ビジネスの活動動機は,社会貢献性が非常に高いのが特 徴である。

また,コミュニティ・ビジネスの事例として,「株式会社カスタネット」(京都市),

「株式会社美交工業」(大阪市),NPO法人ローズリングかのや(鹿児島県),を取り上 げた。これら3企業は,ボランティア活動と強く結び付いており,NPO的な性格を保 有しているのが特徴である。また,積極的に社会との関わりを強めており,絶えず新た な提案力・企画力・組織力を持っておりイノベーティブな企業でもある。

なお,本稿は2007年度商学研究科高度化研究の研究成果に掲載したものに若干の修 正を加えたものであ

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る。また,日本経営学会のシンポジウム参加を機会に,CSR 関連 の論文

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集が組まれた。そこにも,太田が論稿を掲載しており,本論文と内容や趣旨は重 複していることをお断りした

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い。

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6 太田進一「CSR(企業の社会的責任)と企業経営」同志社大学大学院商学研究科ニュー・イノベーショ ンと国際競争研究プロジェクト『ニュー・イノベーションと国際競争−産業・企業における理論的・実 証的研究−』(大学院研究高度化推進研究計画報告書)所収。

7 太田進一「第5 中小企業経営とCSR」小林俊治・齋藤毅憲編著『CSR経営革新−組織の社会的責 任・ISO 26000への拡大−』中央経済社,2008年所収。

8 本論文は,これまでに公開シンポジウムや,ワークショップ,研修会講師としての参加などの機会を通 じて考察してきたことを反映している。漓日本経営学会第3回公開シンポジウム『企業と社会と−CSR の新たな展開』が,20061117日に早稲田大学小野講堂で開催され,譁資生堂顧問弦間明氏,横 浜市立大学影山摩子彌氏,松下電器産業譁池田耕一氏,慶應義塾大学十川廣國氏の報告に対して討論者 として質問・コメントした際に作成した資料,滷同志社大学大学院ビジネス研究科の拡大ワークショッ プが,20061222日に中小企業大学校東京校で開催された際に,太田が「CSR(企業の社会的責 任)と中小企業」のテーマで報告を行った。澆中小企業大学校人吉校で2007721日に「経営トッ プセミナー」が開催された際に,太田が「CSRの経営戦略としての意義」について基調講演を行っ た。潺中小企業研究機構近畿支部主催,「UMEDAセミナー「日本流CSR経営」」2008828日開 催,経営支援プラザ梅田(大阪市北区梅田駅前第3ビル19階)において太田が報告を行った。それら を基にしながら,本稿の構成を考えてきた。

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参照

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