依頼および提案表現の統語分析 : politenessの特 徴
著者 野木 麻美
雑誌名 主流
号 47
ページ 73‑89
発行年 1986‑02‑20
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014975
73
依頼および提案表現の統語分析
一一一一Politenessの特慣一一一
野 木 麻 美
I
最近,第二言語又は外国語としての英語教育 (TESL/TEFL)の分 野で,コミュニケーション能力 (commumc乳tivecompetence)という概念が,
学習者の最終ゴールとして注目されている。コミュニケーション能力とは,
文法的に正確な文を作り上げるだけでなく,種々の社会場面の中で,それぞ、
れに適
L
た言語を運用できる能力を指す.すなわちp 学習者が第二言語,或 いは外国語を学ぶ際には,いつ,誰に対して,どのような言葉を使うべきで あるかという事を習得することが大切になってくるO 言い換えれば,あるひ とつの発話行為 (speechacr),例えば依頼 (request)に撞々の表現が可能 であるとするならば9 学習者はそれぞれの社会的内包を知り,その時々に応じた適切な言語を選ぶ能力を養わねばならなしhのである,
Close the window It's cold in here.
W ould you ple呂S巳closethe windowコ
上の3文iム表現形態こそ異なるが,窓を閉めることを依頼している,と いう点では共通している.このように,ひとつの意味を伝えるにも多様の言 い回しが可能であり9 英語を母国語とする者は, 日常生活の中で自然に使い 分けているのである.このコミュニケーションの多様性という問題は,表現 形態と社会的要因の組織だった関係を示すことから論考することができる.
すなわち,我々が多くの表現方法の中からひとつを選び出すプロセスにおい て働く種々の要素を明らかにすることにより,この問題を解決することがで
きるのである
まず第一の要素として,コミュニケーションの物理的な環境を挙げること ができる.例えば,大学教授は講義中には形式ばった言葉を使うが,教室の 外で学生と話す際には,比較的くだけた口調でしゃべる,ということが多い.
この表現の違いは,講義中と講義の外という環境の違いから来るものである.
又,我々が電話を借りたい時に,傍に電話機がある場合には, いいですか (0. K.?)"というだけで意志を伝えることができるのも,この物理的な環境 があってこそである.第二に,会話の内容も言語を左右する.映画の話には スラングゃくだけた言葉が飛ぴかうが,政治問題の討論では,少々意識して 囲い言い回しが好まれるというのは, 日常よく見られる例である. しかしな がら,これらの二つの要素以上に,我々の言語選択に重要に働くのは,話し 相手との社会的な相関関係,という要素である.David Wilkinsは,この点 を次のように強調している. .• the dimension of the interpersonal rela. tion requires that form of an utterance should be appropriate to one's rela. tionshi p wi th the person addressed. ,,2
すなわち,我々は通常,話じ相手との相対的な社会的地位や親しさの度合,
といった点を意識して言葉を選択しているのである.
ここで, politenessという次元が特に深くかかわり合いを持ってくる.つ まり,人間関係が変わるにつれて,要求される politenessの度合も異なっ たものになるということである.Robin Lakoff は,かなり簡潔な形で polit巴nessの規則をまとめ,話者がどのように聞き手と対応すべきであるか を示している.
(1) Don't impose; remain aloof. (2) Allow the addressee his options
依頼および提案表現の統語分析 75 (3) Act as though you and the addressee were equal; make him feel good.3
例えば,目上の人との対話では,規則(1)を適用して,形式ばった言葉を用い るが,そのような言葉は,親しい友人や目上の者には堅苦しく聞こえて返っ て失礼になる.この場合には,規則(3)を当てはめて,もっと打ち解けた表現 を使用する.このように, Lakoff'土,話し相手によって異なった規則を適 用し,人と人とが面と向かいあってコミュニケーションをする時におこりが ちな摩擦を,最小限にとどめることがpolitenessであると述べている.又,
同じ論文の中で,種々の言語形態の特徴にも触れており,中でも文の種類の 区別はpolitenessの面ではっきりと階層をなしていることを指摘している.
すなわち,聞き手が語り手の依頼を容易に拒むことができるような表現をす ればする程,その語り手はpoliteである,という主張に基づき,疑問文 (interrogative)は平叙文 (declarative)よりも丁寧であり,その平叙文は 命令文(imperative)よりも丁寧な表現だと説明している.つまり, A question requires a response (verbal), a declarative utterance requires the
品ddressee'sbelief and an imperative requires the addressee's act of com‑
pliance."4ということである.例を,窓を聞けることを依頼する表現にとれ ば,疑問文 Willyou open the window?"は,平叙文 守τ'It'
よりも丁寧でで、あり,この平叙文は, Openthe window."という命令文より も丁寧な表現だというわけで、ある.
以上,考察してきたように,あるひとつのことを表現するにあたっては,
様々の形態が可能である.本稿では,英語を母国語とする成人の,口頭によ る依頼 (r巴quest)及ぴ提案 (suggestion)の表現形態を分析し,さらにこ れらの表現に反映する politenessーこれはまさにコミュニケーション能力の 大きな構成要素のひとつである に注目するものである。従って,以下の二 点を問題とする。
A 英語を母国語とする者によって使用された種々の依頼/提案表現を統 語上から分析する.
B 彼らが,種々の表現形態を,コンテクスト(文脈)によって,いかに 使い分けているのかを調べ,各形態に含まれている politenessの度合
を検討する.
E
本稿では,上記の問題に解答を出す為に, role‑playingを行って,データ を収集した.ここで,その手)11貢を紹介する.
A 被験者
アメリカ英語を母国語とする成人(UCLA大学院生)50名で,男女の比 は等分された.平均年令は26.3才であり,その過半数が,カリフォルニアの 出身である
B コンテクストの設定
被験者が,依頼/提案表現を引き出せるような8種類のコンテクストカ宝設 定された.各コンテクストは,語り手と相手役との聞の,相対的なた社会的 地位ミとそ親しさの度合ミというこ要素を紬にして作られている.この二要 素は,人々のpolitenessの概念に深く関わるものであり,従って,被験者 が言葉を選択する際に重要な鍵となって働く.各要素には以下のように二つ のレベルを設けた。
「語り手にとって目上の入 社会的地位 │
」語り手と同等の人
「語り手と顔見知りの人 親しさの度合│
」語り手と親しい人
被験者が学生であるので,コンテクストの中では,目上の人は教授,同等の 人は学生,という設定になっているO これら二要素が,依頼/提案の場面に 組み込まれ,その結果,以下の8種類のコンテクストが用意されたのであるO
依頼および淀案表現の統語分析 77 顔見知りの教授「 顔見知りの教授「
親しい教授 寸 親 し い 教 授 寸
│への依頼 │ への提案 顔見知りの学生斗 顔見知りの学生ーイ
親しい学生 」 親しい学生 」
以下は,設定されたコンテクストの例である.
1
1
衣車長:Y ou are seated in th巴classroomwaiting for a lecture to start. Since you missed the class yesterday, you want to ask a classmate, who is your close friend of yours, to show you his/her notesWhat do you say?
2 提 案 :Y ou found a very good book on the topic that your class is discussing. Y ou want to su沼 田tto your professor, who is a casual ac‑ quaintance, that s/he introduce it in her/his class. What do you say? C 手段
以上のように設定されたコンテクストの中で,被験者がrole田playingに参 加した.Role‑playingとは,ある状況に自分が居合わせているように想定し,
特定の役割を演じるものである.被験者は,すべての8場面を通して,生徒 としての自分を演じ,実験者が相手役となって4種の人物(顔見知りの教授,
親しい教授,顔見知りの学生,親しい学生)を受け持った.
D データ分析
被験者の発話はテープ録音され,その後,文字に写し変えられた.彼らは,
いかにも自分がその場に居るつもりで演技するようにと指示されたので,大 低の場合,挨拶の台詞から始め,依頼/提案そのものの表現を経て,感謝の 言葉で締めくくっている。以下は,顔見知りの教授に推薦状を書いてくれる
ように依頼オる場面での発話例である.
Hi, Dr. ]ones, remember me? Ineed a letter of recommend旦tionfrom a professor that 1 had as a 1呂boratory t巴ach日r,and you're the only
teacher that 1 had, 50 1 wonder if you could write one 1ψfor me. I'd real‑ ly appreciate your consideration
本稿の目的は,依頼/提案表現を統語面から分析することにあるので,挨拶 や理由イ寸けの部分は考察の対象外である.従って,上の例では,イタリック の箇所のみを取り上げて,分析する.
E
A 統語上のバリエーション
最初の問題は,依頼/提案の表現形態を統語面から整理することであった.
データ分析の結果,これらは,まず4種の型,すなわち疑問丈 (questions), 叙述丈 (statements),条件丈 konditionals),その他 (others)に区分でき,
さらに,疑問文と叙述文は,いくつかの下位区分に分けられることが明らか になった.
図1 依頼/提案表現の統語上の分類
パ
a)単純yes‑no疑問文 (simpleyes‑no questions) l疑問文f‑(b)単純WH疑問文 (simpleWH questions)Lぺc).埋め込みyes‑no疑問文 (embeddedyes‑no questions)
L r
l)疑問文に埋山れているものし
ベ
2)叙述文に埋め込まれているもの「
ベ
a)単純叙述文 (simplestatements) 2叙述文 iLイb)埋め込み叙述文 (embeddedstatements) 4 : : 恥 … … も の
2)叙述文に埋め込まれているもの 3条件文 (conditionals)
4その他 (others)
依頼および提案表現の統語分析 79 1 疑問文
(a)単純yes‑no疑問丈 これはyes‑no疑問文が単文として独立している ものである.
(ex) Could you write rne a letter of recornrnendations? W ould you rnind doing that for rne? (推薦状を依頼)
(b)単純W H疑問文 同じく単文として独立したW H疑問文である.デー タに表われたものはすべて否定形であった.
(ex) Why don't you take it to the lost and found?
Why not take it to the lost and found? (落とし物を係へ届けるよ うにと提案)
(c)埋め込みyes‑no疑問丈一これは疑問丈が従属節となって他の節に埋め 込まれているもので, if節に形が変化し,形態、はもはや疑問形ではなく なっている.主節が疑問文か叙述文かにより 2グループに区別される.
(1)疑問文に埋め込まれたもの
(ex) Would you rnind i{ 1 asked you to write it? (推薦状を依頼) W ould you rnind if 1 asked your notes? (ノートを貸してくれな いかと依頼)
(2)叙述丈に埋め込まれたもの
(ex) 1 wondered if you could write rne a letter of recornrnendation.
2 叙述文
1 was wondering if you could consider giving rne呂letterof re‑ cornrnendation. (推薦状を依頼)
(a)単純叙述文単独で成立している叙述文である.
(ex) You rnight want to take it there.
You should take it to the lost and found. (落とし物を係へ埴ける ようにと提案)
(b)埋め込み叙述文一疑問文の場合と同様に主節の形により 2グループに区
別される.
(1)疑問文に埋め込まれたもの
(ex) Do you think you could write one up for me?
Do you think you would be able to do it? (推薦状を依頼) (2)叙述丈に埋め込まれたもの
(ex) Ithink you should probably take it to the lost and found. (落と し物を係へ届けるようにと提案)
1 thought you could use it in the class.
(ある本を,授業で使用してはどうかという提案)
3 条件丈一疑問文や叙述文の他に,条件文も同じように,依頼や提案の表 現として使用された
(
巴x)It would be helpful for me if you could write it over. This would look better if you would rewrite it.
(レポートをきれいに書き直してはどうかという提案)
4 その他一これは,これまでの発話例のように,明瞭な依頼や提案の言葉 を使用せずに,相手に行動をおこさせるようなヒントのみを与えている ものである.
(ex) Did you know that th日reis a confetence coming up next month?
(大会に出席してはどうかという提案)
1 can't read this. (レポートをきれいに書き直してはどうかという 提案)
B 各表現形態のコンテクスト別分析
二番目の問題は,どの表現形態が,どんな場面で,どれだけ頻繁に使用さ れているのかを観察し,その結果を基にして, polit巳nessを検討することで あった.ここではまず最初に,分類された各表現形態のコンテクスト別分布 を調べ,その後, politenessについての考察を行なう.便宜上,次のような 省略形を用いる.
依頼および提案表現の統語分析
S‑A:目上 (superior)で顔見知り (acquaintance)との会話
S‑c:
目上 (superior)で親しい人(close)との会話 E‑A:同等 (equaI)で顔見知り (acquaintance)との会話 E‑C:同等(巴quaI)で親しい人 (clos巴)との会話81
前述の通り,すべての依頼/提案表現は,下位区分を含めると,統語上9種 類に分類されるが,ここで各々のコンテクスト別分布を考察するにあたって,
埋め込み丈の主節の違いによる細かい区分は,大まかな分布状態を把握する 為に考慮に入れないことにする.
Role‑playingの結果, 200の依頼表現と, 200の提案表現の,計400の 発 話 が収集された.次の2つの表は,各表現形態のコンテクスト毎の分布状態を 示している.
表1 依頼表現の形態分布 形態 単 純 単 純 埋め込み
単叙述純文 埋め述込み
コンテ 疑yes問‑ll文o W H 疑yes問‑ll文o 叙 文 条件文 その他 合 計
クスト 疑問文
S‑A 10 O 25 3 12
。 。
50 S‑C 16。
15 7 12。 。
50 E‑A 18 1 26 2 3。 。
50 E‑C 29 1 12 1 4。
3 50表2 提案表現の形態分布 形態 単 純 単 純 埋め込み
単叙述純文 埋め込み
コンテクスト 疑yes問‑[文10 疑問文W H 疑yes問‑ll文o 叙 述 文 条件文 その他 合 計 S‑A 5
。
8 11 24 2。
50 S‑C 1 O 3 16 20。
10 50 E‑A 2 13。
13 18 2 2 50 E‑C 1 13 5 10 13 3 5 50これらの表を一見すればわかるように,単純yes‑no疑問文,埋め込み yes‑no疑問文,単純叙述文,埋め込み叙述文の4形態は,全コンテクスト を通して,かなり頻繁に使用されている.一方,残りの3タイプ,すなわち,
単純WH疑問文,条件文,その他は,比較的,使用回数が少ない.又,こ れらが 5つの例外を除き,すべて提案表現として使われていることから,
依頼表現の全んどが主要 4形態に限定され,従って,提案表現に比べて多様 性に乏しく,比較的固定した形態になっていることが明らかである
疑問文と叙述文の主要4形態のコンテクスト別使用頻度に,有意差がある のかどうかについては,得られたデータを
x
2検定(カイ自乗検定)する ことにより判断した8表3 依頼表現のX2検定
(a)
30
(
(c)
(d)
表4 提案表現のど検定
(a)
Xobs.=20.24 df= 3 Xcri.=7.81 P<O.05
Xobs.=3.92 df= 3 Xcri. = 7 . 81 ll.S
Xobs.=33.69 df= 3 Xcri.=7.81 P<O.05
Xobs.=41.13 df= 3 Xcri.=7.81 P<O.05
Xobs.=17.50 df= 3 Xcri.=7.81 P<O.05
依頼および提案表現の統語分析 83
(b) I ケヌト │ 椛 同 人I~世間人|肌四人|肌地入 IXobs.=26.60 df= 3
(c)
(d)
Xcri.=7.81 P<O.05
Xobs.=27.24 df= 3 Xcri.=7.81 P<O.05
Xobs.=11.69 df= 3 Xcri.=7.81 P<O.05
これらの表は, S‑C依頼場面を除くすべてのコンテクストで,統計学上 から,各形態の使用頻度の有意差が認められたことを示している. S‑C, すなわち,目上で親しい人への依頼場面でのみ 4つの形態が無作為に使わ れたことになる.まず,依頼場面に関して観察すると, S‑Aコンテクスト では,埋め込み疑問丈が最も頻繁に使用され,これに埋め込み叙述文,単純 疑問文の}II買で続き,単純叙述文の使用回数は,非常に少なくなっている. E
‑A
コンテクストでは,埋め込み疑問丈の使用度が最高で,続いて,単純疑 問丈となっている.E‑Cコンテクストでは,単純疑問文が非常に高い頻度 で使われており,これに続く埋め込み疑問文は,これの半数にも満たない程 である.提案表現に関しては,全コンテクストを通して,埋め込み叙述文の 使用回数が最高で、あり,単純叙述文がこれに続いている.疑問文の使用頻度は,全体を通して,比較的低いものとなっている.
N
これまでに,依頼/提案の表現手段には,種々の形態が可能であり,それ ぞれが使用される頻度が,コンテクストにより異なることが判明した.ここ では,その結果を基に,各表現形態のpolitenessの特徴に焦点をしぼって 考察する.以下に示す図は,各形態の使用頻度(パーセンテージ)をグラフ
化したものでコンテクスト毎の分布状態の差異を視覚でとらえやすいように した.まず最初に依頼表現,続いて提案表現の考察を行う.
(%) 100
90 80 70 60 50
図2 依頼表現
一一一一一一一単純疑問文
『一一一一ーー埋め込み疑問文 ーーーーーー・一‑単純叙述文 一一一一一一一埋め込み叙述文
: : l j J f f : : : : : : : : ふ ー
。
(%) 100
90 80 70 60 50 40 30 20 10
。
S‑A
¥ ¥
、 ¥ ¥
S‑C E‑A E‑C
図3 提案表現
¥ ーー
一一一一一一一一単純疑問文 ー一一ー・一一一埋め込み疑問文 ーーーー一一一単純叙述文 一一一幽・ー一一埋め込み叙述文
" " " , . ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ー ¥ 、 、 、
¥ミミ〉・ ‑ ‑
S‑A S‑C E‑A E‑C
依頼および提案表現の統語分析 85 A 依頼表現
全コンテクストを通して,依頼表現には,叙述文よりも疑問文の方が,は るかに頻繁に使用されている.すなわち,典型的な依頼表現は,単純疑問文,
例えば, Couldyou write me a letter of recommendation?"という形態や,
埋め込み疑問丈 1was wondering if you could write me a letter of recom‑ mendation." などの*~であると言える.“ 1 thought you could writ巴mea let‑ t日rof recommendation."や, I'dlike you to write me a letter of recom‑ mendation."といった叙述形態は,依頼表現としては,あまり適していない ことが理解できる.前述の, L呂koffの「疑問文は平叙文(叙述文)や命令 文に比べて丁寧な形である」という主張を考慮に入れると,依頼表現には最 も丁寧な形態が使用されている,ということになる.これは,依頼するとい うことが,とりもなおさず,自分の利益になることを他人にしてもらう行為 である,という理屈を考えればi十分納得のいく結果である.
それでは, 2つのタイプの疑問文には,どんな違いがあるのだろうか.デー タを観察すると, S‑Aコンテクストでは,埋め込み疑問丈が単純疑問文を 圧倒している
( 2 5
囲vs.1 0
回). しかしこの差異は,E‑A
コンテクストで 縮まり (26回vs.18回),ついに,E‑C
コンテクストでは,逆転し,単純疑 問文が埋め込み疑問文の2倍を越える頻度で使用されている (29回vs.12 回).S ‑ A
コンテクスト(目上で顔見知りの人への依頼)はE‑A
コンテク スト(同等で顔見知りの人への依頼)に比べ,より高い丁寧度が要求される 場面であり,そのE‑A
コンテクストは,E‑C
コンテクスト(同等で親しい 人への依頼)に比べて,より丁寧なコンテクストである.従って,上に見た 頻度数の変化から,埋め込み疑問文は単純疑問丈よりも,より politeな表 現形態であると結論づけることができる.例を挙げれば, "1was won凶1吋de釘enng if you c∞
0¥ロlldg♂ive me a letter of recommendation."という形態まlはi,you give me a let抗t巴釘r吋0fr閃ec
∞
ommen吋1吋da抗油tio叩n?"よりも一層p肝olit民eな表現として 認識されているわけでで、ある.この結呆は,我々が普段からなんとなく,言葉を複雑にすれば,丁寧度が増すのではないか,と感じていることを証明する ものである.
B 提案表現
前述の通り,提案表現としては,全コンテクストを通して,錠問文よりも 叙述文の方が高い頻度で使用されている.すなわち, You might want to use it."という単純叙述文や, 1thought you might want to use it."などの 埋め込み叙述丈の形態が適当であると理解されているのである.再ぴ,前述 のLakoffの説を考慮すると,提案表現は依頼表現に比べて, politenessの レベルが低いのだと解釈できる.このことは,依頼が他の人に物事を頼む行 為であるのに対して,提案が,相手の利益になるような意見を提供する行為 である,という点を考えると,納得のいく結果である.
次に2種類の叙述丈の違いを検討してみる.すべての提案場面で,埋め込 み叙述丈が単純叙述文よりも高い頻度で使用されている. しかし,前者の使 用率は,国3からも明らかなように, S‑AコンテクストからE‑Cコンテク ストへ移行するにつれて,徐々に低下している.換言すれば,埋め込み叙述 文は,最も丁寧な場面において最も頻繁に使用され,場面が要求する丁寧度 が低下するにつれて,この形態の適用度も低くなるということである.
従って,依頼表現として使われた疑問文の場合と同様,複雑な形態の埋め 込み叙述丈,例えば, 1thought you should take it to the lost and found."
は,単純な形態の叙述文 Youshould take it to the lost and found:"よりも politenessの度合が高いのだと解釈できるわけである.疑問文と叙述丈にみ た以上の結果より, 1was wondering"や 1thought"といった前置きの言 葉は,中に埋め込んだ実際の依頼や提案表現の響きを和らげ,全体の口調と
して,椀曲的で丁寧な表現を作り上げていると言うことができょう.
最後に,少数派である W H疑問丈,条件文,その他について簡単に述べ ておく.これらは,ほとんどすべてが提案表現として使用されている.まず,
W H疑問文の分布を観察するとすべてが同等レベルの人へ向けての発話に
依頼および提案表現の統語分析 87 なっており,これは,この形態が決してpolitenessの高い表現ではないこ とを示している.従って, Whydon't you take it to the lost and found?"
や Whydon't you rewrite it?"というような形態は,目上の人への丁寧な提 案表現としては,あり得ないわけである.条件文を用いた依頼表現は, It would be the best if you take it there."というような椀曲表現である.ミそ の他ミに分類されている発話,例えば, Areyou going to attend it?" (大 会に出席してはどうかという提案)や, 1can't read this." (レポートを書 き直してはどうかという提案)は,単にヒントを与えることにより,提案行 為を達成しているものである.これらは,控え目な口調であり,ややもすれ ば,意見の押しつけととられてしまう提案行為を,巧みに言い表す方法だと
︑ っ
トAF
一 ぇ 一
= 口
V
本稿では,統語上から politenessという概念を検討した.すなわち,疑 問文か叙述文かという違い,及ぴ,文構造が単文であるか,或いは複文であ るか,という違いを基にpolitenessに論及したが,他にも種々の言語上の 特徴が,この点を支配していることは明らかである.例えば,法助動詞 (modaI)がそのひとつである.本稿では, 1was wondering if you could write me a letter of recommendation."と 1was wondering if you would write me a letter of recommendation."の表現を,同じカテゴリーの中で、扱っ たが,この両者にはpolitenessの面で何らかの差異があるのかもしれない.
又,法助動調の時制(canとcouldの区別など)を考慮すると,問題はさら に重要となる.今後の課題として,大いに研究されるべきである.
最後に,生徒のコミュニケーション能力の養成を目的とする英語教育の分 野では,種々の依頼及び提案表現を,いかにクラスに導入するべきかという 事を検討する必要がある.構造的にも単純なものから複雑なものまで幅が広
く,又,各形態が持つ社会的内包も様々であるから,教師には,効果的な指
導法が要求される.又,現存の教科書に白を通して,依頼,提案表現として,
Would you please pass me a sa!t?"や, 1suggest that you go th巴re."とい う よ う な , い わ ゆ る 教 科 書 英 語 だ け を 紹 介 し て い な い か , と い う 点 に も 注 意 を払うべきであろう.
注
l 本稿では,コミュニケーションにおける言語形態の多様性という問題を,社会言 語学的見地から論考しているが,これは又,発話行為理論 (speechact theory)の 立場から論じることもできる.この理論は,我々があるひとつの文を使い,それに 全く別の意味を持たせて会話を行なうことができる,ということを指摘している.
例えば, Canyou swim?"という発話は,本来は水泳能力に関する質問であるにも かかわらず,水泳のデモンストレーションを依頼するという意志を伝えることがで きる.又, Doyou have a pen?"と問いかけて,実際はそれを貸してほしいという 意味を持たせている,というのである.発話行為理論では,この場合,我々が「質 問をする」という locutionaryactをすることにより, ["依頼する j という illocu‑ tionary actを達成している, と説明するが,この詳しいメカニズムについては,以 下の論文を参照されたい.J.L.Austin, HowωDo Things with Words (London: Ox‑ ford U niversity Press, 1962); J.R.Sear!e,Indirect Speech Acts," Syntax and Semantics, Vo.l3: Speech Acts,巴ds.P.A.Cole and J.L.Morgan (New York Academic Press, 1975) ; W.Labov and D.Fanshel, Therapeutic Dおcourse:Psychotherapy as Con‑ versation (N ew Y ork: Academic Press, 1977)
2 D.A.Wilkins, Notional SyZZabusω(Oxford: Oxford University Press, 1976),p.62 3 R.Lakoff,What Y ou Can Do with Words: Politeness, Pragmatics and Per‑
formatives," Proceedings of the Texas CO"(lference on Performatives Pres
. u
ゑtositions, and lmplicatures, eds. A.Rogers, B.Wall, and J.P.Murphy (Ar!ington, Va.: Center for Applied Linguistics, 1977), p.884 Ibid., p.lOl.
5 本稿はアメリカ英語のみに関する研究であり,いわゆる,ブリティッシュイング リッシュやオーストラリア英語など,その他の地域で話されている英語は考慮され ていない.
6 条件文と埋め込み疑問文は両者共にif‑clauseを伴い混同しやすい.が,後者の 場合,ijを凹,hetherに置き換えてもさしっかえないが,前者ではそれが不可能である,
という違いがある.例)埋め込み疑問文 Iwondered whether you could write me a letter of recommendation."は可能.条件文 Itwould be helpful for me whether
依頼および提案表現の統語分析 89 you could read it over."は不可能.
7 W H疑問文やその他に分類される形態が例外的に依頼表現として使用された発話 は以下の通りである.
Why don't you show m巴yournotes?" (ノートを貸してほしいという依頼) Y ou've got notes from yesterday戸(同上)
Why don't you help me with this project?" (自分の研究の手伝いをしてほしいと いう依頼)
8 X2 (カイ自乗)検定とは,得られたデータのカテゴリー別使用頻度の差が,統 計学的に見て,有意なものであるか,それとも実験の誤差値にすぎないものなのか を判断する検定である.まず,データ頻度に有意差がないという仮説を立て,その 仮説に対する期待値(例えば合計50のデータにつき, 4つのカテゴリーがある場合 は, 50‑7‑4 =12.5)と,実現{直(各カテゴリーに表われた実際の数値)との差の自 乗の総和を求め,これを期待値で、割った値 (Xobs.)が,基準値 (Xcri= 7 . 81)よ りも大か小かにより仮説の検定を行う.大きい場合には,仮説を放棄する(頻度差 が有意)必要があり,小さい場合には,仮説が正しい(頻度差が誤差の範囲)とい
うことになる.
(例) コンテ
クスト
Xobs=
形態 実現値a,b,c,d (a+b十c+d=50) 期待値 50‑7‑4 =12.5 (12.5‑a)2+ (12.5‑b)2十(12.5‑c) Z+ (12. 5‑d) 2
12.5
なお, dfとは自由度 (degreeof fr巴edom)を表す.例えば50のデータにつきカテ ゴリーがひとつしかない場合,データ間に頻度差がつくはずがなく,この時を自由 度ゼロという.従って自由度は,カテゴリーの数マイナスlという計算になり,上 の例では 4ー1=3となる.基準値は,頻度の有意差が認められるか否かを決定 するボーダーラインの数値であり,詳しい算出法は省略するが, df= 3の時には 7.81と計算されている.又, P(probability)<0.05というのは, 5 %の危険率でもっ て,最初に立てた仮説,すなわち有意差がない,ということを否定することを意味
している.