Discourseの構造と"elliptical"な文の生成
著者 村上 扶美枝
雑誌名 主流
号 48
ページ 75‑88
発行年 1987‑02‑20
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014983
D i s c o u r s e の構造と e l l ip t i c a l " な文の生成
村 上 扶 美 枝
言語の分析において一つの丈を最大単位として扱う sentencegrammarに 対して, discours巳grammarは二つ以上の丈の集合をその分析対象とすると 一般的に定義されているが,この場合 r丈Jそれ自体の定義lが,まず問題 となる.文をひとつのまとまった意味,つまり主題と述部を必然的要素とし て持ったひとつの命題と結びついた言語記号の連続として定義した伝統丈法 とは異なり,現代の文法においては,その構成要素が命令,質問等のある機 能をになったひとつの発話2が文であるという定義が,広く受け入れられて いる.この定義に従えば,ある主題を表わす部分と,それに対して何かを述 べる述部を持つという最も基本的な型はもちろん,主題だけ,述部だけ,あ るいは動詞がないという型も,何らかの機能をになっているかぎり,文とし て認められる.たとえば,
(0.1) How wonderful it is !
という,いわゆる伝統文法的感嘆文としての必然的構成要素をすべて持ち,
意味部門仁おいてひとつの命題,言いかえれば主題と述部の連続構造に対応 する構造を持った意味内容,に対応する発話も,
(0.2) Wonderful !
という伝統文法的には丈の断片でしかないが,感嘆を表わす機能を持った発 話も,文としての条件を満たしている.つまり現代の文法において支配的な 観点となっているのは,機能という概念である.
76 Discourseの構造と elliptical"な文の生成
しかし,上にあげた二つの文のそれぞれの文法的性質あるいは生成過程が どのように現代の文法において説明されているかに目を向けてみると,必ず しもこの機能的視点が活用されていないことに気づく.(0.2)はεllipsis"
(省略)としてとらえられ,その基底構造として完全な構造を持っている(0.1) を持っと分析されているのである.つまりこの ellipsis"の問題に関しては,
完 全 な 構 造 を 持 っ て い て 意 味 的 に も ひ と つ の 完 全 な 命 題 と 対 応 す る 丈という,伝統文法的な丈の定義が生きているのである.この理由として考 えられるのは,初期の変形生成文法において基本的公理として提示された丈 の定義が,この点において伝統文法的視点と一致しているということである.
変形生成文法においては,文は基底の句構造規則によって,始発記号
z
から 生成された一連の記号列によって表わされる.丈は最初の規則Z→Mod十S(5は文の核, Modは疑問,否定,受動などの法,態)から展開されたも ので,ヱの派生より成り,最後はヱの終端記号列に達する.このように,最 初に生成される構造が完全な形を持つと仮定されている以上,断片的な終端 記号列でしかないものは,統語的変形によって「完全」から「不完全」へと 生成された, ellipticalsentence"と定義されるのである.このいわゆる el1ipsis"においてとられているのは,機能的視点ではなく,従来の構造的 視点であると言えよう.
しかし(0.2)のような発話の「省略された部分」は実際に基底構造に存在 するのだろうか. もしそうだとすれば,このような el1iptical"な発話の連 続であるようなdiscourseの意味構造は,その発話の数に対応する数の完全 な命題の集合ということになり, sentenceの上に discourseという単位を設 定することにより生じるべき記述的経済性は否定されることになる.この論 文では, question.answer sequenceや,いわゆる gappmg 空所化変形) 等を例にとり, elliptical"な発話は文法的に完全な基底構造やひとつの完 全な命題とは対応しないことを示し, elliptical"な発話の分析における discourseのレベルという概念の必然性と,その生成過程における grammar
のレベルの自律的側面を論じたい.
1
.E l l i p s i s " の分析における方法論的問題
もし変形生成文法の理論を用いて elliptical"な文が生成されることを説 明できるなら,この種の丈が完全な基底構造を持ちひとつの完全な命題と対 応することが証明できるが,基底部生成的な lexical‑interpretivemodelを 用いて, Bresnanは,疑問丈等は統語変形によって生成される「構造依存」
型の文だが, elliptical"な文は統語変形によって生成されない「機能依存
J
型の文であることを示しているたとえば,
(1.1) A: Does Sally still get silly at staff parties? B She tends to.
において,変形生成文法は ellipsis"を含む(1.1)Bの方が, 日llipsis"を含 まない(1.1)Aよりも,削除変形等を経ているので派生的複雑さがより大き いと説明する.しかし Bresnanは,この文は変形によってではなく,基底 部の機能構造 Uunctionalstructure)によって生成されるとし, (1.1) Aよ りも(1.1)Bの方が,派生的により単純であると説明する.つまり, tend という動詞は基底部において
(l.2) tend: V, [一一一一VP,]TEND((NP1)VP)
という lexicalfunctional structureを持ち ,tendの主語(NP1)と補文の主語 が一致することが示され,NP1=i, ( )VP(=補文)=fという指標がそ れぞれ与えられる.この最初の解釈が成された後に,同様の過程が今度はf に適用されるのである.言いかえれば,補文を解釈する前に主語と動詞の関 係の部分のみを解釈することが可能なのである.ゆえに(1.1)の場合は,
Aの質問を解釈するにあたってBの発話者はすでにf= get silly at staff parhesであると解釈し,それをそのまま,答えとなるべきBの丈の主語と
78 Discourseの構造と elliptical"な文の生成
共に ,tendの機能構造に当てはめたと考えられる.Bresnanのこの理論は,
elliptical"な発話は表層に存在しない基底構造の部分に潜在的に支えられ ていて,ひとつの完全な命題,たとえば(1.1)の例では(f (i))(i), に 対応するという仮定を否定するものである.つまり,この理論によると, (1.1)
Bにおいていわゆる「省略された部分jであるとされる補丈 fは(1.1)Aに 存在し,基底構造に潜在するのではないと結論することが可能である.dis‑ courseのレベルで分析した場合, (1.1) Bは完全な,省略のない発話であり,
Aの命題の極性 (polarity)を決定し,新たな情報(ここでは tendの意味内 容)をその命題につけ加えるという機能を持つ.
次に,変形生成文法の基本概念を否定したという意味で, Hudsonの理論 に目を向けてみたい.彼は,以前のdaughterdependency theorlにおいて は,変形生成文法の抽象性に対し,変形によって後に削除されてしまう要素 を持つような基底構造や変形そのものを否定し,基底部と終端記号列が同ー であるような,具体性の強い文法を提示し,その中において,末端のnode
よりも高位のnodeにも素性(feature)を付与した.これは丈の各構成要素 の機能的独立性を高め,先に示したBresnanのl巴xicalinterpretive model のメカニズム同様に, discourseの線状的かつ機能的分析を可能にするよう な性質のものであったが, Hudson自身がこの理論を発展させずに放棄して いる.彼の最近の理論である wordgrammar5も,構成要素の階層性や統語 変形を認めない依存文法であるが,そこにおける reducedconjuncts"や gapped conjuncts"の扱われ方は,変形生成文法と同様に,完全な形を提示 する基底構造と命題構造に概念的基盤を求めている.
Hudsonは,いわゆる elliptical"な文の文法的生成のメカニズムの中に はその一段階である基底構造というよりは,むしろ背景的な概念構造として,
hypothetical conjunctsが存在すると説明する.たとえば (l.3)
J
ohn came in and sat down.は, (1.4)のようにbracketingされ, (l.5)のような想像上のconJunctを 持っと考えられる.
(1.4)
! ( J
ohn came in) and (sat down)1 (l.5) J ohn sat down.(l.3)のようなreducedconjunctsの意味処理には(1.5)の構造を仮定す るのが不可欠であるとされ,また, (1.6)のようなgappedconjunctsも同 様に処理される. (l.6)のhypotheticalconjunctは(1.7)である.
(l.6) J ohn invited Mary to the party, and Bill, Sue. (l.7) Bill invited Sue to the party
この,彼の基本的姿勢に反してきわめて変形生成文法的な分析方法の根拠と してHudsonは,実際の会話等の言語活動の場面において,発話されなかっ た語の連続が情報として処理される場合があり, hypothetical conjunctsの 概念は正当性を持っとする.たとえば, (1.8)Aの発話者はBの発話の「言 われなかった部分」をただちに理解する.
(l.8) A: I'm g巴ttingsomeone to write my thesis for m巳.
B Who?
しかし, Hudsonがここで自分の理論を妥当であるとするために持ち出した discourseの情報処理のメカニズムにおいて,彼が見落しているものが二つ ある.ひとつはentailmentによる情報構築, もう一つはfocus (焦点)等 の問題である.まず, (l.3)は,次のようにbracketingし直すことが可能 である.
(l.9) John !(came in) and (sat down)1
(1.4)のbracketingの方法では前後の部分が並列関係でしかないので主語
80 Discourseの構造と 巴lliptical"な文の生成
を仮定して後部に補う必要が生じたと考えられるが, (1.9)の場合はentail‑ ment (論理的必然による合意)によって(l.5)を生じさせることができる.
そして,このentailmentのメカニズムを統語論的記述の一部として組み込 む必要はない.また, (1.3)に関しては,いかなる「言われなかった主語j も存在しないと結論できる.
それでは(1.8)の例はどうだろうか. (1.8)Bのみからは,もちろんsp巴‑ cificなものがより genencなものを合意するという entailmentのメカニズ ムを利用して情報処理することは不可能である. しかし,この(1.8)の discourseを全体として見た場合,ここで問題とされているのは someone"
の指示物を特定することであることに気づく.つまり, (l.8) Aはfocusが someone"にありかっそれは不特定な意味内容を持っている.そして(1.8) BはAのfocusのみを抜き出し,それを特定化するように要求する機能を 持った発話である.要するにこのdiscourse全体が,一つの命題を完成させ
ようという作業なのである.
(l.6)の場合も focusの概念を用いて説明できる.つまり,この文が含 む四つの NPはfocusをになった新情報7であり,最初の二つは, invited, to the partyという旧情報,またはより正確にはfocusをになわない情報と共 にひとつの情報単位を構成していて,後ろのこつはこの前半の情報単位の focusの流れに同じ形で、乗っていると考えられる.
(l.10) John invited Mary to the party and
NPl NP2
Bill Sue
NP3 NP4
ここで、注意すべきことは, (1.8)のようなfocusの点的な対応とは異なり,
(1.10) は, NP,(=S)‑NP2(=O)に NP3(=S) ‑NP. (=0)カf対応しなけ ればならない線的な対応であるということである.この意味において, gap‑ ped conjunctsは機能(=情報単位中の機能)依存型であると同時に,構造
(=統語構造)依存型であると言えよう.
81 以上見てきたように,文の生成の出発点として完全な基底構造や概念構造 を仮定する必然性はなく,情報構造,機能構造, discourseにおける機能等 の複数の視点が必要である.
2 E l l i p s i s " の分析
Z. 1 discourseにおける命題構造
ここでは発話と命題の対応関係という観点から ellipsis"を分析してみた い.第1章で見てきたように,いわゆる gap"のある ellipti cal"な丈でも,
受容可能である限り, discourseのレベル,または情報伝達のレベルにおい ては, "gap"のない,完全な命題的textureを持つ.ゆえに,あえ3要素,ま たは要素の集合が抜け落ちた構造の丈として,また,変形によって生成され た断片的表層構造として扱う必然性はない.そこで,文や発話ではなく,命 題という観点から考えると, (1.8)の分析でふれたように,ひとつの命題に はひとつ以上の数の発話が対応すると言える.そしてその数がごっ以上にわ たる場合,その命題に対応する発話の集合は,いわゆる "elliptical"な発話 を含む傾向がある.以下,これらの点について説明していきたい.
Berryは会話構造の多層的観点からの分析において, Hallidayの言語の三 つの機能的側面 ideational, interpersonal, textuaトーを応用したが,
discourseのideationalな層では命題関の関係と,話者間で相互的に,かつ 連続的に,ひとつの命題を完成させていくメカニズムを示した8まず彼女は,
ひとつの命題に対応するのは,対話の最小単位であるexchangeであると定 義する.たとえば, (2.11)のような対話である.
(2.11)A In England, which cathedral has the tallest spire? B: Salisbury
A: Yes
これは教室やクイズ番組の中で聞かれる種類の対話であるが, Berryはこの
82 Discourseの構造と elliptical"な文の生成
三つの発話それぞれに命題を完成させるという作業における機能を付与して いる.まず, (2.11)の第一のAは完全な命題に基礎となる形を提供し,続 くBの発話の型や意味内容の範囲を予見するという意味で, pb"つまり propositional baseという機能的labelを付与される.そしてBの発話は必 要な情報を与えることによって命題を完成させるので'~",つまり prop
ositional completionのlab討を与えられる. (ここで下線はこの機能が必然 的なものであることを示している.)最後に,
A
の第二の発話は完成された 発話を貢定し支持する機能を持っているので, ps",つまり propositional support の label を与えられる.また,~のみが必然的要素であると定義さ れていることから,そして,対話の相手の発話を空集合を考えた場合にはひ とつの発話のみではchangeを構成することができるということから,当然,完全なひとつの命題が, pcの機能を持ったひとつの発話と対応する場合が ある.次の (2.12)がその例である.
(2.12) Salisbury is the English cathedral with the tallest spire
以上のことは,伝統文法的意味において完全な文同様に, elliptical"な discourseも命題完成の機能を不足なく満たすことができ
J
省略された部分」は存在しないということを確認する.
(2.11)のような例は, (1.8)と同様に, discourse表面にひとつの命題を 完成させる機能が分散し,その命題のfocusが,特定されるべき変数と一致 していたが, (2.12)のような区の連続でdiscourseが構成されている場合 は,新情報と旧情報のtextureであり変数を含まない情報単位である発話の 連続となる.そしてこの場合は(1.10)の例のように既に存在する情報単位 の新旧の情報の型に新たなfocusを上乗せすることによって経済的な情報構 造を持つdiscours巴を構成することが可能である.
(2.13) l'm tir巴dof listening to him today. But 1 wasn't yesterday
83 上の例において,第二の発話は第一の発話の情報の一部,つまり, tiredof listening to him"を旧情報として利用し,自らが提示するのは, focusをに なった新情報である三つの要素一現在に対して過去という時制,否定, to‑ dayに対してyesterdayという時を表わす副詞句ーのみである.このように,
discourse において既に存在する情報を利用して命題を完成させようとする 時にも,いわゆる ellipsis"の現象が生じる.もっと大きなdiscourseの単位,
たとえば, narrativeを形成するようなmonologueや社会問題に関する討論 等を分析の対象とした場合も, discourseの進行につれて情報が畜積され,
隣接しない発話や,畜積された情報の集合又は部分集合からのentailment を旧情報として利用し,新たな情報単位を構成していることに気づくだろう.
discourseにおける発話は,完全な文のモデルからparadigmaticな基底構造 の集合を経て生成されるのではなく, discourseの発端からsyntagmaticな, 連続的分類9を経て生成されると考えるのが,より適切である.
以上,この節では,discourseの命題構造が,時には命題完成のための異なっ た機能をになう複数の発話に分散して提示され,また時には他の発話の情報 構造の一部を利用することによって完成されることを示した.
2 ̲ 2 Ellipsis"に関する自律的な文法的制約
変数であるfocusを特定することを目的としたquestlOn‑answersequ印 C巴
とは異なる, (2.13)のような pcのsequenceである discour田においては,
既存の構造に上乗せされるべき新情報というのは,この例の場合のように,
時制であったり,あるいはpolarityであったりすることが多い.しかし,
この例のように旧情報として利用されている他の発話の部分と新情報として elliptical"な発話で示されている部分を単純に組み合わせると文法的に完 全な丈を作ることができるというのは,すべての類似した例に当てはまる一 般的な規則ではない.
まず把握しておく必要があるのは,いわゆる 日lliptical"な丈の三つの型 である.Hallidayは, operational ellipsisとlexicalellipsisの二つの型を
84 Discourseの構造と elliptical"な文の生成
次のように説明する10 operational elli psisというのは,主語と動詞句の最 初に示された定形の要素,たとえば,
(2.21) He has been 1aughing.
の Hehas"を必然的に「省略」し, lexical verbである laughing"さえ残 せば, Hehas been"の部分全部を「省略
J
しでもよい.言いかえれば lexical verbにあるfocusを示せばよいのである.反対にlexicalellipsisで は, laughing"を必然的に「省略J
1.‑,あとは主語と定型動調の Hehas"さえ残せば, been"も「省略」しでかまわない.
それではこの動詞句における省略型の自由さは,どの部分を旧情報として 発話の基盤とし,どの部分を新情報として提示するかという選択の自由さを 表わしているのだろうか.複雑な時制の構造を持つ次の例文を見てみよ
う 14
(2.22) He could have been going to be consulted
この発話に続いて,さらに念を押すように言おうとする場合,次のような複 数の elliptical"な変異体が考えられる.
(2.23) a) He could have been going to be b) He could have been going to c ) He could have been.
d ) He could have、
e) He could
この (2.23)がそれぞれ異ったfocusたとえば aはcouldという法助動詞 の意味内容に支配された中における過去における未来の受身,そしてeは couldの意味内容のみ,を示しているとすれば, 2.1の節で述べたような,情 報の流れの必然として説明できるが, Hallidayは,この種の例は lexical
verb,つまりここではconsulted,を前提(=旧情報)としているばかりでは なく,これらの変異体全てが同様に全ての時制的選択を前提としていると分 析している.発話時点で時制を示す特定の要素に強勢が置かれない限り,ま た (2.13)のように他の時制が示されない限り,どのように複合された時制 でも一つの統一的な構成体として旧情報として扱われるのである.そしてこ こでfocusをになっているのはpolarityの方である.このように,時制の表 現に関しては, "ellipsis"は情報構造的ではなく文法規則的なメカニズムを 持つ, ellipsis"において文法的規則が自律的に機能するもうひとつの例と して態の問題をあげてみたい.まず, lexicalelli psi♂の基本的な条件とし て次のような受容可能で、ある例を見ておく必要があるだろう 12
(2.24) Are you dieting?ー ← ‑1 have been for some tim巴
以前の議論からも理解できるように,答えの発話の方では時制が変化しそれ が新情報として与えられている.そして注意すべきことは, (2.23) とは異 なり, (2.24)はその新情報である時制が複合時制であるということを示す ために,定型動調だけではなく他の操作子的要素もすべて示さなければなら ない.さらに, ellipsis"が許されるのは,旧情報とすべき lexicalverbが 新たに示された時制に,そのままの形でつながる場合のみである.さもなけ れば, lexical verbを適切な形で示すか,またはそれを代動詞で示さなけれ ばならない.たとえば,
(2.25) I'm going to s巴eher this afternoon. 1 haven't seen her for months
しかし, Hal1idayが指摘しているように,たとえlexicalverbをそのまま の形を保って旧情報として扱うことが可能な場合でも,態が変化する場合は
ellipsis"は認められない13 たとえば,
86 Discourseの構造と elliptical"な文の生成
(2.26) They haven't finished the picture. If it had been, 1 would hav巳
brought it
のようなdiscourseは不可能である.要するに, lexicalelli psis"の場合,
時制はさまざまに変化することが可能だが,態は常に旧情報としか扱われず,
discourse表面において自由に操作することはできないのである.
この問題は,先にあげた動詞の機能構造に関する Bresnanのモデルを用 いて説明できるだろう.Bresnanによると,能動態と受動態は変形操作によっ て関連しているのではなく,それぞれが異なった機能構造を持つことによっ て区別される.以下,彼女の方法に従って, (2.26) の二つの丈の機能構造
を示してみよう.
(2.27) finish: V, [ NP NP,]
,
FINISH NP,
(ヨx)(xFINISH NP,)
(2.27) は (2.26) の能動態である第一の発話の機能構造であり, NPに与 えられた指標は語1)慣の関係を示すので, NP,
=
They, NP,=
theρictureであ る.さらにこれを論理構造としてまとめると,(2.28) NP ,:They
=
i NP, :theρicture=
j (ヨx)(xFINISH j & xニO
となる.受動態である第二の発話を同様に分折してみると次のようになる.
(2.29) finish十 ed:V, [be一一[ppby NPll (ヨx)(xFINISH NP, & x
=
NP by) (2.210) NPc It (= the picture) = jNP by: (them)
=
i (ヨx)(xFINISH j & x=
z)これは発話者が意図したと考えられる機能構造であるが,それではなぜ、
(2.26)が不適格な形であるかというと,第一の能動態の文から利用しよう としたfinishedは,時制の影響でこの形になったのであり,態の影響でそ の形をとっている第二の受動態の丈のfinishedとは異なる.そして動詞の 機能構造は他の elliptical"な発話において│日情報として利用される時にも そのまま保持されるので, NPlニ iという関係が保たれず次の elliptical"
な発話でNPl= jとなってしまうような連鎖は認められない,と説明する ことが可能で、ある.
以上,この節では, discourseの命題構造や情報構造では説明しきれない,
elliptical"な発話が受ける文法の自律的制約について論じた.
3 結 論
いわゆる"elliptical"な文は,その名に反して,何らかの完全な基底構造 や概念構造からいくつかの要素を省略した丈ではなく, discourseにおける さまざまな機能,またそれらの分散的構造という観点から見れば,何の欠落 もない発話である. しかし,完全に機能依存で生成されるわけではなく,文 法的な制約を受ける場合もある.
この論文で、扱ったような丈が ellipsis"として定義されてきたのは,ある 主題について何かを述べるという命題構造と,必然的な新情報を含んだ情報 構造の,最大かつ唯一の単位として,主語と述語を含んだ文法的単位として のひとつの文が考えられがちであったということに原因がある.
文,または最小の発話の単位は, discourseやsituationから完全に切り離 されては存在せず,ゆえに, discourseというより大きな単位をふまえた機 能的定義が必要なのである.主に文法的な観点から説明されてきた ellip‑ sis"の概念札機能的,かっ多元的なdiscourseの観点からとらえる必要が ある.
88 Discourseの構造と elliptical"な文の生成 注
l 伝統文法,現代文法,及び変形生成文法の文の定義は,
r
ラルース言語学用語辞典j に基づいた.J.デュボワ他『ラルース言語学用語辞典j伊藤他編訳(東京:大修 館, 1980)2 発話と文は同義に使われる場合も多い均三本論文では,発話はdiscourseのレベ ルにおける,文はsentencegrammar的な文法のレベルにおける単位であるとする.
3 J oan Bresnan,A Realistic Transformational Grammar," Linguistic Theory and Psychological Reality, eds. Halle, Bresnan, Mill訂 (Cambridge,Mass: MIT Press, 1978), pp. 26‑7, pp. 45‑8
4 Richard Hudson, Arguments for a Non‑Transformational Gram問 r.(Chicago:The University of Chicago Pr巴ss,1976)特にp.23及びp.46を参照.
5 Richard Hudson, Word Grammar (Oxford: Basil Blackwell, 1984) gap"のある 文に関する議論は, pp.228‑35に詳しい.
6 文の意味と, focus, entailmentの関係は, SmithとWilsonが,下記の第七章で 詳しく論じている.Neil Smith alld Deirdre Wilson, Modern Linguistics: The Result of Chomsky's Revolution (Harmondsworth: Penguin, 1979)特にp.160及 ぴp.165 を参照.
7 Halliday等の用語では, New‑Giv巴nという対立になっている.旧情報,あるい はGiveninformatiorr,はdiscourse表面に存在しないpragmaticな前提であること もある.情報構造のHallidayの定義は下記を参照.M. A. K. Halliday, An lntro‑ duction to Functio叩 lGrammar (London: Edward Arnold, 1985), pp. 274‑5.
8 Margaret Berry,Systemic linguistics and discourse analysis: a multi‑layered approach to exchange structure," Studies in Discourse Analysis, eds. Coulthard and Montgomery. (London: Routledge & Kegan Paul, 1981). pb, pc, psの定義につい ては, pp.140‑41を参照.
9 Cf. J McH. Sinclair and R. M. Coulthard, Towar.ゐanAnalysis of Disco昨 "Se(Ox‑ ford: Oxford University Press, 1975), p. 120. SinclairとCoulthardはこの con‑ tm加ω classificationを,次の基本的概念に基づかせている: themeaning of an utterance is its predictive assessment of what follows."
10 M. A. K. Halliday and Ruquaiya Hasan, Cohesion in E冗glish(London: Longman, 1976), pp. 173‑4上記が最も詳しい ellipsis"の分折をしてあるが, Hallidayは他 の著作でも ellipsis"に関して同じ考えを示している.
11 lbid, pp. 173‑4 12 lbid., p. 189. 13 Ib払 p.183.