Absalom, Absalom!のRosaの語りにみられる神話的 世界の意味
著者 遠藤 芳江
雑誌名 主流
号 41
ページ 114‑127
発行年 1980‑03‑20
権利 同志社大学英文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014937
114
A b s a l o m , A b s a l o m ! の Rosa の語り にみられる神話的世界の意味
遠 藤 芳 江
I
William Faulknerの最高傑作と世評の高い Absalom,Absalom! i:l:,南部の大 荘園主, Thomas Sutpenを対象とした四つの語りから成立している. まず第一に Sutpenの義妹, Rosa Coldfieldの語りラ第二に QuentinCompsonの父の語り,
第三に Quentinの級友 ShreveMcCannonの語り3 そして最後に Quentin自身 の語りがきている.この四つの諮りの中で, Rosa Cold五eldの語りは他の三つの語 りにp 特に Quentinのそれに大きな影響を及ぼしているが, この Rosaの語りを 批評家たちはどう捉えかっ評価しているだろうか.
まず顕著なのは Rosaの語りを Gothictale又は melodramaと捉える見方で ある.O. Vickery,1 P. Swiggart," Lynn G. Levins3などの Rosa観がそれである.
O. Vickeryは Rosaの語りが Gothicthrillerである根拠として, 彼女の語りに gl
∞
.my castles," dark, evil vi11ains," innocent victims "等の Gothicnovel の特徴がみられるとするえ他の論者もこの点で Vickeryと共通した見方をしてい る. 又IrvingHoweもRosaの語りを Gothicnovelと断言しないまでも full of frenzy, symbolism and melodrama" 5であるという評価を下しているのである.しかし Faulkner'sOlympian Laughの著者, Walter Brylowskiの見解はこれら の批評と違っている.彼は Rosaの語りに神話の要素を認め,それを克明に提示し てみせる.彼がFaulknerの作品にみられると主張する神話の四つのレベノレ6のうち,
特に「レトリック」のレベルに主として Rosaの語りの神話的要素を見出している ように思われる.彼は神話を表現する「レトジック」として allusionと analogy をあげているが,これらこそ Rosaの語りの神話的要素を端的に示唆するものであ
Absalom, AbsalOin!のRosaの語りにみられる神話的世界の意、味 115 るから,この小論でも念入りにとりあげ検討してみたい.その過程で,先ほどあげ た批評家たちに Gothicthrillerの要素とみなされている言葉が, Rosaの語りを神 話的観点から捉えることでどのように違った様相を呈するかも明らかになろう.
ただし, Rosaの語りにみられる神話的要素は神話の allusionと analogyのみ ではない.確かにそれらは Rosaの語り中で最も直接的に訴えかけてくる神話的要 素ではあるが.それらに触発されて浮び上がってくる他の神話的要素をも加えて確 認することで Rosaの語りが「神話」であることを証明し,そしてそれら一つ一 つの要素が Quentinの語りにどのような影響を及ぼしたのか, いかなる係りをも つのかを考察したい.それによって Faulknerが Rosaの語りに「神話」の形をと
らさざるを得なかった必然性が明らかになるであろう.
H
前述したallusionの例として,まず holocaust"という語と jVIoloch's paよate"
という語に注目したい. holocaust" (p. 136)という語は RosaがSutpen屋敷 を holocaust"にも焼け落ちなかったと描写する箇所に見られるが,これはもとは ユダヤ教の「矯祭」という祭認を示す語である.それは祭麿に羊を供えてそれを焼 き,煙を天に昇らぜることで神を慰撫する儀式である.Rosaの語りでは, Charles Bon,その息子, Ellenそして Henryたちが犠牲の羊と重ねられているのである.
又 jVIoloch'spalate" (p. 137)は, Rosaが神の正義をこれになぞらえる箇所に使 われているが, Moloch"とは西セム族の神で,旧約聖書にはしばしば異端の神と
して登場する. その礼拝儀式は子供を焼いて捧げるというものであったという このような儀式は原始共同体では広く行われていたものであり 神話と分ち難く 結びついた儀礼の一つであったことはIB約聖書に照らしてみても明らかである.こ れらの諾が神話の allusionであるとL、う所以である. さらにこれらの語ば新たな る「生費」という宗教的かつ呪術的イメージを触発する.Brylowskiもこの「生 賛」のイメージが彼の言う「神話的行為Jのーっとしてこの作品に見出されると
し そ の 役 割 を 担 っ て い る の がCharl巴sBonだと指摘している10
次に神話の allusionとして Cerberus"と Chimaera"をあげるべきであろ う Rosaは, Sutpenと黒人女との混血である Clytieを S百 秒 間'51うrivatehell"
116 Absalom, Absalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 の Cerberus"(p. 136)11ときめつけ, Sutpen屋敷で{動く poorwhiteの Wash Jonesを Chimaera"12 (p. 141)と形容するのである.以上あげてきた語は全て 神話の allusionでありかつ analogyと言えるが,加えて神話のallusionとまでは 呼べなくとも analogyとなるものをあげてみよう.
一つは「光」と「暗黒」の対比である. その対比は Sutp己nの求婚を受諾した Rosaが, 自身を太陽になぞらえ, 暗黒に属する者 Sutpenの救済を自覚する箇 所 (pp.167~8) に示されている.加えてもう一つは, Rosaの .. . she (ClytieJ . . . inherited from an oldケ anda purer race thaπmine. . . ." (pp. 137ーめと いうせりふに見られる, Clytieの象徴化である.これはRosaが,自身を原始へと 還元しさらに純化させた者として Clytieを評価しているのである.人類の起源と して Clytieを位置づけているのである.即ち Clytieを原始│生を具現する一つの象 徴とみなしているといっても過言ではないだろう.
このように Rosaの語りには!日約聖書の,あるいはギリシア神話の,又その他の 神話の allusionや analogyが多々含まれている.そしてそれらは即旧約, Tl
P
ギリ シア神話を連想さぜるがゆえに, Quentinや読者に「神話」というものをごく自然 に意識させるという点で効果的に機能しているといえる.さらにそれらはその宗教性と呪術性ゆえに Rosaの語りに密集しているそれら 以外の宗教的なあるいは呪術的な語をひきつけ,それらと呼応し合って幾重にも重 なり, 増幅し, 復雑化してゆく.そのような複雑なイメージは,神話の allusion, analogyだけでは生み出し得なかったものである.即ち Rosaの語りの世界で,宗 教的,呪術的象徴をあらわず語が,神話の allusionや analogyにひき寄せられ,
さらに互いに触発し合って, Quentinの中に,さらには読者の中に新しいイメージ を喚起するのである.神話が「言語であり語と祭式によって喚起されたイメージを ともなうJ13というのであれば allusionや analogyばかりでなしそれらと結 びつき,数々のイメージを生み出す助けをする宗教的,呪術的象徴を示す語も全て Rosaの語りを「神話」として成立させる必須条件といえるだろう. では一体この 宗教的,呪術的語は具体的にどのようなものであろうか.
まず「呪い」という語に注目したい.Rosaの綿々と続く訴えは, Sutpenという
「悪魔」を南部社会が容認したため,神から永遠の「呪い」を受けたというところ
Absa1om, Absa1om!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 117 に集約される.彼女はこう嘆く.
But that our cause, our very life and future hopes and past pride, shou1d have been thrown into the ba1anc色withmen 1ike that to buttress it‑men with va10r and strength but without pity or honor. Is it any wonder that Heaven saw五tto 1et us 10s色?"
ぺ..
as though there were a fata1ity and curse on our fami1y and God Himself w巴rese巴ingto it that it was performed and discharged to the 1ast drop and dreg." (pp. 20‑21)Sutpenという「悪魔」を受け入れてしまったため, 現世は没落という憂き目に会 い,生きている人間ですら生きながらにして死んだも同然だと Rosaは考えている のである Rosa自身も, Sutpenを「悪魔Jと知りつつ,戦争から帰還したSutpen の求婚を一度は承諾してしまう.これは「悪魔」を容認してしまったことを意味す る.そのためそれ以後は神の「呪い」を受けてしまったと断言するのである.この
「呪い」という概念は宗教的であると同時に呪術的でもある.
Rosaの語りの中で頻発される「悪魔」という語も非常に宗教色, 呪術色の濃い 言葉である.というのは,神がこの世に秩序をもたらす以前の混沌を悪魔が支配し ていたというのは,多くの宗教に共通してみられる悪魔観だからである.
1
悪魔」は,世界の起源を示す神話の中では,神とこの世界の主導権を対等に争うものとし て描かれていることが多い.又,この「悪魔」を払おうとするかのように Rosaの 発する語, demon," devi1,"五end," ogr己"は,彼女の「悪魔」に働きかけ 制する意志を物語るがゆえに「呪文」と考えられる.
このように!日約,ギリ、ンア神話,その他の神話のallusionや ana1ogy,加えて宗 教的,呪術的象徴を示す語を無差別に並べたてたのは Fau1knerが意識的に特定の 神話にだけこだわるのを避けたためと思われる.彼にとって大切なのはなにか特定 の神話を呈示してみせることなのではない.彼は,西洋人が常識として知っている 神話を超えた普遍的な神話,いわば神話の共通項とでもいうべきものを Quentin に,さらには読者に感知させようとレているのである.原始人であろうが現代人であ ろうがその共通項を擁する人間の原始的心│生に訴えかけることを試みているのであ
118 Absa1om, Absalom!の Rosaの語りにみられる神話的世界の意味 る.宗教,呪術が生まれそして神話が発生した土壌としての原始的心性を, Qu巴ntin がそして読者がまだ失わずに持ちつづけているならば,それが Rosaの語りにみら れる神話の al1usionやanalogy,あるいは宗教的,呪術的象徴を示す諾に触発され めざめることは疑い得ないからである.では具体的にこれらの語やそこに生み出さ れたイメージが Quentinにどのような影響を及ぼしたか見てみたい.
まずはじめに Rosaが語り始めてすぐに Quentinが抱いた印象をあげてみよ
')
.
Quentin seemed to watch them CSutpen and his negroes) . . ,.cr己atingthe Sutpen's Hundred, the Be Sutpen's HunGかedlike the oldentime Be Light.
(pp. 8‑9)
これは創世紀の allusionであるが, 多くの神話で「光」が神によってこの世の混 沌に最初にもたらされた秩序を象徴することを考えると,神話の普通的な analogy
とも言えるだろう.
次に Qu邑ntinが Rosaの部屋の異様な雰囲気と彼女の異常な姿を形容する語を あげるべきであろう.彼女の部屋は長い間閉めきっていたのと気温が高いのとでま るでむせかえるようで Quentinには tomb"(p. 10)のように思われたし,庭 も co伍n.sm邑I1ing" (p. 8)がすると感じられた. 彼女はといえば, crucified child" (p. 8)といった様子で高い椅子に腰をかけ ineternal black" (p. 7)と いう服装で綿々と語り続ける.これらの tomb," ∞伍n," crucified"という語 が宗教的象徴であることは改めて指摘するまでもないだろう.
そのような宗教的,呪術的雰囲気の中で, Rosaの呼び出したSutpenの ghost"
は,彼女の益々エスカレートする呪誼の言葉をうけて, e笠luviumof hell"をそ して auraof unregeneration" (p. 13)を帯びつつ膜想にふけるが Quentinの 幻視のうちにやがてそれは彼の子供たちである twohalf.ogre children" (p.13)
と妻の ghost"を誘い出す. このイメージはきわめて強烈で印象的であるから,
Rosaの語りを間接的に聞いた Mr.Compsonでさえ Sutpen屋敷が pur1ieusof Styx" (p. 69)であるというイメージを抱くほどである.
以上を総合すると, Rosaの語りにみられる神話の allusionや analogyはまず
Absalom, Absalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 119 その語り中の他の宗教的,呪術的イメージをよびさまし,ついにはこれら全てのイ メークが統合して神話へとつながるさまざまなイメーヅを喚起することになるので ある. これらのイメークは Gothic novelsのイメークのように単に恐怖をかきた てるのではない.又この世ならぬ怪奇と幻想、の世界へひきずりこむ目的をもってい るのではない.これらはその宗教性と呪術性という共通項で結びつき,不合理では あるが魅力的なそれゆえに,理性に訴えるだけでは入りこめない神秘の世界へと Quentinを誘う.いわば彼の原始的知覚力とでもいうべきものに強く働きかけるの である.一見リアリティを欠いた,そして神話の allusionや analogy,宗教的,呪 術的イメージ議れる Rosaの語りを Quentinがいったんそのまま受け入れること で,南部社会の,全体とはいわないまでもある部分の真実が9 本質が,彼Jこ理解さ れはじめるのである.それはリアリスティクな描写では衝くことのできない南部共 同体の深層であり9 理性によってでは理解不可能なものである Rosaの語りのよ うな非常に偏りデフォルメされた描写を使うことによってのみ,その不可解な一端 が暗示されうるのである.作者は, Quentinが,さらには読者が9 その本質をその ようなイメージにどっぷりとつかることで感覚的に知覚することを望んでいたと思 われる.即ち神話の象徴を駆使することで, Quentinのそして読者のいわば原始的 心象ー無意識とよびかえても良いがーに訴えかけ,合理的叙述では描写しきれない 南部の実体を明らかにしているのである.神話とは,人がそこから宗教や呪術を生 み出さず、にはおかなかった原始的感生を言語化したものである.だからそれは当然 その受けとめ手の原始的感性を刺激するし,それに付随している宗教的かつ呪術的 イメーゾをもうかび上がらせる.そしてその受けとめ手に,そのイメージの源であ る神話の創り手の,言い換えれば神話をもっ共同体の原始的感性を理解させるので ある.これが Rosaの語りの中で神話の allusion,analogy,宗教的p 呪術的語が大 きな比重を占めている理由と考えられる.
E
さらに論をすすめて, Rosaの語りにみられる allusion,an旦logy以外の神話的要 素を探ってみたい.その第ーにあげられるのは Rosaの語りが起源神話の体裁をと っている点であろう.Harvard大学へ出発する直前の Qu己ntinをわざわざ自宅に
120 Absalom, Absalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 招いてまで彼女に語らせたものは9 何とかして Quentinに南部没落の原因を知っ てもらいたいという彼女の一念であった.なぜ、彼女の一族,由緒ある Coldfield家 が子孫一人残さず絶えなければならないのか,言い換えると,なぜこの誇り高い南 部が敗戦の憂き目をみ,現在のような類廃に身をまかせる有様に落ちぶれてしまっ たのかという聞いを発しているのである.彼女は彼女なりにその聞いに答えを出そ うとする.それが彼女の語りの眼目といえる.
e .
Qち彼女の語りは南部没落と頚廃の 起源を示す試み以外のなにものでもない.Brylowskiもこの点を次のように指摘する.
1t is her vision that r巴achesback through layers of time to find the de五nite beginning, positing a genesis of forces that later五ndtheir de五nit巴forms in th巴personsof the story.. . .14
Rosaは南部社会をいわゆる「南部神話」通りの倫理的欠陥のないものとし, その 素晴しい南部が敗戦に甘んじ,衰退の一途をたどっていることを神が南部にかけた
「呪い」のせいにする.それも Sutpenのような「悪魔」を社会の一員として容認 したがために,南部社会が敗戦と没落という苦い罰を神から下されたと信じて疑わ ない.
e .
Pち彼女は南部の没落を Sutpenという「悪魔」の登場に起源をたどって いるのである.神話は物事の起源を示すものであるから15 この Rosaの語りはそ の条件を満たしているといえる.では Quentinはこの Rosaの語りをどのように受けとめたのでゐろうか.彼は 当然次のような疑問を抱いたことだろう.果して南部社会には Rosaの言うように 倫理的誤りはなかったのであろうかと.彼はこの R団aのSutpenー「悪魔」起源 説に刺激されて,彼自身が品断専できる南部没落の原因を探求する.そしてついにそ れを発見するが, それは Rosaの言うようなものでは決してなし皮肉にも Rosa をも含む南部の人間全部の倫理的誤りであった. 即ち R口saの語る「起源、神話」
は Quentinの語りにそれと対応した「起源神話」を創造せしめる役割を果してい るといえよう.
第二に神話の空間観が Rosaの語りにみられる点をあげたい. 神話の空間観は
「中心のシンボリズムJ16という語が最もよく説明するだろう. 聖なる建造物が世
Absalom, Absalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 121 界の中心,即ち天,地,冥界の接合点になるというこの空間観は Rosaの語りでは Sutpen屋敷の描写に見出される.Rosaにとって屋敷は spirit"(p. 160)を感じ させるものであったと語る箇所〔聖なる建造物〉に RosaがIH己nryが Bonを 射殺」という知らせで駆けつけたとき,屋敷の入口に地獄の番犬 Cerberus"が 立ちはだかったと語るところ(冥界との接点〕に Rosaが自分自身を Sutpenを 暗黒から救い出す太陽になぞらえるところ(天との接点〉に I中心のシンボリズ ム」を満たす条件がそろっている.さらに Rosaが塁敷を sルhell"(ωp. 1臼36的〉と形 容したり札,
seの叫lfhad crア問r.eιω
,
atedabおoz叫ωtthμZ口7押m叫包 4ωs the sweat of his body m~危ght h伯aτωv杷eep台rod必u町s町 附Cαed some (μe叩τve開2見乞i
グf、i仇?刀wisi訪Mたe) c印oωc,'oon‑like and complementary shell...." (p. 138)と語るところにもこの「中心のシンボリズム」が見出される.
神話の登場人物の行動も,神話的空間の中では「中心」へ向かうものとして描か れる.それは Rosaの語りでは,屋敷へ駆けつけた Rosaが何としても奥へ入りこ もうとするところによくあらわれているだろう Rosaにとって屋敷の中へ入るこ とは,失われた「愛」と「信頼」を探しあてる意味を持っていたのである.南部社 会が戦争によって崩壊してしまった以上,頼るものは「愛」と「信頼」しかないと 彼女は叫ぶ.
¥. . but love and faith at least above the murdering and the foZ仇 tosal咽
vage at least jト'Om the humbled indicted dust something anyway of the old lost enchant押zentof the heart." (p. 150)
この彼女の「愛」と「信頼」の対象は, 南部のため戦った CharlesBonであり Henryであっただろう.彼女は, この対象をどうしても探し当てなければ
WOl叫uldha仰t叩)edenied t幼hat1 ωzv乙ase白叩t甘lerbor冗 "(ωp. 1臼3〉 とまで思思8⑨ lいつめていた が,結局は Ju収凶ld必iit出h に阻まれて「中心」へ到達することカがEできなかつた. そこで彼 女はこの「愛」と「信頼」の対象を,帰還し彼女に求婚した Sutp叩に転化する.
その時には, Sutpenはもはや ogre"ではなく,南部の英雄と彼女には映るので ある.しかしながら彼女の希望も Sutpenによってもろくも破壊される結果となっ た.これは Rosaの initiation"といえるだろう. 彼女の「愛jと「信頼」を求
122 Absalom, Absalom!のRos且の語りにみられる神話的世界の意味 める必死の思いは,額廃と混沌の円周から,中心に位置する絶対的価値 これが彼 女にとっては「愛」であり「信頼」であるがーを指向するベクトルで表示されるは ずである.
この「中心」へと向かう登場人物の行動は Rosaの語る Sutp却の最後にも見出 される.Sutpenが abysmaland chaotic dark"から eternaland abysmal dark"へと下降してゆく (p.171)と形容されている箇所がそれである. 彼女は Sutpenが自らの運命を完結するために, 単なる暗黒から永遠なる暗黒へ入ったと 考えているのである. これは Rosaの中での Sutpenの「俗」から「聖」への initiation"ととらえるべきだろう.というのはそれ以降, Rosaの中でSutpenは 完全に「悪魔」としての地位を確立したのであるから.以上を総合すると「中心のシ ンボリズム」で示される「中心jはRosaの場合も Sutpenの場合も initiation"
のベグトルの目標であり到達点を意味することになる.
この空間観は Qu巴ntinの語りの中に対応してゆく. かりに彼の語りの世界を円 で表わすとしたら,それは Rosaの語りの世界を示す円と対応しかっそれを包括す る大きな円で示されるはずである.Rosaの円に, Mr. Compsonの語りや Shrev邑
の語りの面積を足したものが Quentinの円になるからである.但し Quentinの円 の円周から中心へ向かうベクトルの到達点、は「愛」や「信頼」ではなし彼自身も 含む南部人の心に存在する「悪」であった.それが Quentinの initiation"の到 達点、だったのでゐる.即ちこの場合ふ起源神話の場合と同じく Rosaの語りの 神話的要素である「中心のシンボリズム」は Quentinの語りの中の, それと対応 する「中心のシンボリズム」を読者に精示する役割を果しているといえる.
第三に神話的時間観が彼女の語りにみられるかどうか探ってみたい.神話的時間 観は, E. Cassirerが考察するように「周期性」と「循環性」に要約できるだろう17
又, M Eliadeもそれを, 創造一破壊一新生成というサイクルで、とらえている18
神話の,原初時での出来事を再演するという働きも,この時間観から考えると当然 のことである.原初時の出来事を,それが消失していた一定の期聞を経て再演し,
再び語ることで再構成してみぜるのが神話なのである.この場合,破壊や消失は常 に再生へのポテンシャルな意味をもつことになる.
RosaがSutp邑n屋敷へ踏みこみ奥へと入りこもうとしたことは先ほど述べた通
Absalom, Absalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 123
りであるが, それを Judithに阻まれ, 彼女の手にある Bonの写真入れをみた瞬 間記憶がよみがえってくる.それは彼女の Bonへの, 愛とまでよび得ないような 憧慢の思いである.彼女は Bonが 彼 女 の お 庁'enyouth" (p. 144)に some seed" (p. 146) を植えつけたのだと語り, さらに
g刀mαf泊Jんedf0匁1]go耐tte舟nr何00ωtmz令}旨
,
μht河 即ωOt blωoom... becauω4ωse the 担 即eglec仰tedr向.'00ωtωGωS planted τω:v印d町7穴:アμPedan包dlay冗加ωOtdゐ.'eadbut mne叫ア吋elか:ys.必Jんρeψ〆
tf0匁1]goωt?"(ωp. 14〉の4 と訴え る.ここには「再生jを期す彼女の思いが印象的に明示されている. そして Bon の写真入れが,彼女に,そういう「再生」へのポテγシャノレな力をもっ自分を思い 出させたのは,彼女が以前に Judithの鏡台に飾られたBonの写真を盗み見たこと があり,その後もまるで素人役者のようにその場面を 同町ω円 し , .rehearse "(p. 147)していたからである.これはまさしく神話の「再演」である.RosaのBon へとつながるこの回想は可;vistariaの花とも分ち難〈結びついている. というのは,
彼女は,彼女の身代りともいうべき JudithがBonと一緒に wistariaの花の下を 散歩する夢想、にしばしば耽ったことがあるからだ.wistariaの花は彼女にこの愛の 場面を想起させ再演させるのである.彼女のこのような神話的時間観は,次の箇所
に集約されている.
. . at the prime fo叩 ゐtionof this factual scheme from which the pris. oner soul. . . prisoning in its turn that spark, that dream which, as the globy and complete instant 0/ its jトeedommirf"ors and repeats (rψeats? creates, reduces to a fragile evanesce月tiridescent s1うhere) all of space
4河dtime and masり earth,relicts the seething and anonymous miasmal
仰 55which 仇 allthe years of time ha5 taught itself... how to recreate,
問neω.. . . (p.143)
ここでは世界は常に recreate," reneω"されるものとみなされ,魂も repeat"
しつつにじ色の ψhe向"へ環元するものと捉えられているのである,
この Rosaの語り中の神話的時間観は,神話的空間観と同じように, Quentinの 語りの世界に対応してゆき,その対応、関係を読者に理解させる機能をもっ.という のは, QuentinはRosaの語りに触発されて9 それに Mr.Compsonや Shreveの
124 Absalom, AbSalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 語りを加えて,彼の納得できるSutpen物語を構築するからである.これはSutpen の「再生jである Rosaの言葉を借りれば SutpenがQuentinによって re‑ create"されたわけである.この場合も Rosaの語りの神話的時間観がQuentinの 語りに対応してゆくことで,彼の語りの「神話{生Jを読者に示唆しているのである.
言葉を換えると, 読者が抵抗なく Quentinの語りの神話的要素を受け入れること を可能にしているわけである. このようにしで読者は QuentinがSutpenを「再 生」し, それによって南部人のもつ「悪」に気づくという彼の initiation"の跡 を Rosaのおかげで抵抗なくたどることができるのである.
第四に, Rosaが Quentinに彼女の語りを伝承することを期待していたという点 にも神話の要素が見出されることを述べたい.彼女はQu巴ntinに, Sutpen物語を 語る理由を次のように説明する. Somaybe you wi11 enter the literary profes‑ sion . . . and maybe some day you wi11 rem巴mberthis and write about it." (p合. 9‑10)これは彼女が Quentinに, 彼女の話をそのまま受け入れて後陸に伝承して
もらおうと期待していたことを示している.神話は共同体の中で initation"の擦 に伝授されるものであるから19 R,口saはここで Quentinの initiation"却をばか り
, 南部共同体の象徴とでもいうべき rSutpen神話」を彼に伝授したのである.
この時の Rosaは亙女の役割を演じていると考えられる..ll
P
ち,共同体の代表と して, 共同体の聖なる言語である「神話Jを口授しているのである. そのような Rosaの姿を Quentinは, トロイの滅亡を予言したというギリツア神話の女予言者 Cassandra" (p. 22)になぞらえているが, これは亙女の analogyとみなすべき だろう.このような亙女の analogyの別の例として, Rosaが, Bonの写真を飾っ ている Judithの鏡台を thebalγ'en miげ'oraltars" (p. 147)と形容している箇 所や,彼女が南部社会の運命をうたう thecountry's poetess laureate" (p. 11)と描写されているところもあげておこう Rosaはその生い立ちと育司た環境に極 度に女としての本性を歪められ,大人なのか子供なのかわからない扱い方をされ,
成熟しても処女のままでいつづけたという非常に中途半端な立場におかれているが,
このようなあいまいさ,不安定性こそ最も霊的,神秘的性格を付与されやすいとい える.この Rosaが
A
女であるというイメージはかなり強烈に押し出されているも のであることは疑い得ない.Absalom, A̲bsalom!のRosaの語りにみられる神話的世界の意味 125
百
ここまで Rosaの語りの神話的要素を調べてきた. 即ち Rosaの語りが「神話」
と考えられる理由を列挙し,合わせてそれが Quentinの語りに有機的に対応して,
それに「神話」としての姿をとらせていることを確認してきたわけである Rosa の「神話」は, いわば Quentinの「神話jを引き出すための道具だてになってい るのである.ではなぜ, Quentinの語りは「神話」の形をとる必要があったのであ ろうか.
Quentinが,南部没落の原因が南部人自身の心に潜む「悪」であることを発見し たと前に述べたが,彼はこの「悪」を自らの中にも見出すことでどうしたであろう か.彼の最後の叫仇 1 dont hate it(the South) !" (p. 378)はその「悪」を認 識しようとしつつもまだ受け入れることのできない者の悲痛な叫びに他ならない.
彼の苦悩は余りにも深い.共同体の人々が彼らが語りついでいる神話中に「慰めと 運命を受け入れるてだてを見出すことがあり9 そのおかげで不安と苦悩による人格 の崩壊を防ぐことができる
J 2 1
というのであれば, Quentinも自分の「神話」から 現在の不条理を受け入れ9 それに耐える力を与えられるはず、である.なぜ彼の祖先 は,そして何よりもつらいことに彼自身は,心の中に克服できない「悪」を持って いるのか,なぜ罪の子なのかという疑問に答えることはできな〈とも.r
神話Jの コスモスでは苦しむことそれ自体に意義があるのである.そのコスモスの中では,苦しみが「偉大な意義深い全体の一部である
J 2 2
と感じられるからである.これが Quentinの語りが「神話Jの形をとらなければならなかった理由である.Faulkner は「答え」を出そうとしているのではない.Quentinの苦しみ自体が意義あるもの であり,その苦しみの深さに彼の救済の可能性を示唆しているのである.Rosaの語りは以上の理由で必然的に「神話」の形をとらねばならなかったし,
Q田ntinの「神話」の,ひいてはこの作品全体の土台の役割を果しているといって も過言ではないであろう.
126 Absa1o, mAbsalom!の Rosaの語りにみられる神話的世界の意味 注
Absa1om, Absalom!はRandomHouse版 (NewYork; 1964)を用い, その 引用頁数は引用文の末尾に付した数字で示した.
1 Olga Vickeryは TheNovels
0 1
William Faulk:ner (Louisiana Stat巴Univer明 sity Press, cl964)で .. . Sutpen takes the main role in Miss Rosa's Gothic thriller. . . ." (p. 87)と,又 ...MissR田a's account on Sutpen and of the past in general is rank melodrama...." (p. 88)と述べている.2 Peter Swiggart, The Art
0 1
Fau.l加er's Novels (Austin: University of Texas Press, c1962)に As且narratorMiss Rosa invest8 th巴melodramatic events of th己pastwith a Gothic atmosphere of social sin and moral damna‑tion." (p. 151)とある.
3 Lynn Gartrell LevinsもFaz点目er'sHeroic Design (Athens: The Univer喝 sity of Georgia Pr己S8,c 1976) で Rosa Cold五色ld's narr乱tionof the Sutp己n story is, 1ike the conventional Gothic tale... ." (p. 13)と述べている.
4 The Novels
0 1
William Faulkner,
p. 88.5 William Faulkner (Chicago: University of Chicago Press
,
1975),
p. 75. 6 彼は Faulkner'sOlympian Laugh (Detroit: Wayne State University Press,
c 1968), pp. 12‑17でFaulknerの作品にみられる神話の四つのレベルとして,
(1)レトリック (allusionとanalogy),(2)神話的テーマと神話的行為, (紛神話 的思考様式, (4) Y oknapatawpha郡の神話をあげている.
7
W
塁書辞典IJ(東京:新教出版社, 1968).8 James Frazer, The Golde耳 Bough(abridged ed., London: Macmillan,1963 ,) p.385.
9 Faulkner's Olympian Laugh, p. 13. 10 Ibid., p. 27.
11 高津春繁Iiギリシア・ローマ神話辞典IJ(東京:岩波書広, 1975)によると
「ケルベロス」とは,ギリシア神話に登場する三つの頭をもち地獄の番をすると いう怪獣のことである.
12 同じく『ギリシア・ローマ神話辞典』に「キマイラ」はケルベロスの兄弟で,
ライオンの頭,蛇の尾3 山羊の胴をもち口から火を噴く怪獣とある.
13 ウェイン・シューメーカー
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言語・神話・文学IJ, 木回錫一郎,北市陽一訳 (東京:文理, 1973), p. 162.14 Faulkner's Olym.戸'anLaug ,hp. 35.
15 Encyclopaedia Britanica (London: ¥Villiam Benton, 1964), Vol. 15,Myth"
の項iこ
Absalorn, Absalorn!のRosaの百五りにみられる神話的世界の;意味 127 the fab!ed time of the beginnings '."とある.
16 ミノレチャ・エリアーデ, iJ永遠回帰の神話ふ
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一郎訳(東京:未来社, 1978), pp. 22‑28.17 エノレンスト・カヅシーラー, J象徴形式の哲学i, 生松敬三訳(東京・竹内書 広, 1970), pp. 108‑9.
18 ~永遠回婦の神話1, p. 152. 19 Myth," Encyc,Zフ'paediaBritanica.
20 W. Bry!owskiはFaulkner's Olympian Laughで initiation"を二大神話 的行為のーっとしながら (p.13)もQuentinにはこれを適用していない.
21 W. R コムストックラ f宗教, t京始形態と理論ム祁11)11啓一監訳(東京.東京 大学出版会, 1978), p. 28.
22 向上書, pp. 91‑2.