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イングランドにおける労働立法とコモン・ロー(その2) : 主従法・団結禁止法と雇用契約法について

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めしたことにあったということができる。そして,その背景には,下部構 造としての資本主義経済の展開があったことは容易に想像できる。 しかし,賃金裁定条項と徒弟修業要件条項の廃止によって,徒弟や労働 者が法的拘束から解放されたわけではない。実は,産業の資本主義化が進 み,営業の自由の考え方が普遍化してくる18世紀前半になると,イングラ ンドでは,農業を主な規制対象としていた職人・徒弟規制法とは別に,台 頭しつつあった産業における徒弟や労働者の雇用への法的拘束を強化する ための主従法と称される一連の労働立法を制定するようになる。それは, もはや従来の身分的な拘束ではなく,雇主と労働者との合意に基づく労務 契約の履行を刑罰によって強制するというかたちのものであった。そして, ほぼ同じ時期に,契約内容の改善を求める労働者の集団的活動を,刑罰を もって,禁止する団結禁止法と称される一連の労働立法も制定されるよう になった。 その主従法と呼ばれる一連の労働立法は,1349・51年労働者規制法や 1563年職人・徒弟規制法のような包括的な法律の一部として労務放棄処罰 条項を定めたのではなく,まさに労働者の労務からの離脱という労務契約 違反に対し,使用者を救済するための手段として刑罰を定めるものだった のである3。それらは,職人規制法のような農業の住み込み奉公人に限定 して適用されるものではなく,特定の職業ないし産業における日雇い労務 者や有期の雇職人にその適用範囲を拡大して行ったのである4。労働者規 制法及び職人・徒弟規制法にあった労務放棄に対する処罰を特定の職種ま たは産業ごとに規定するものであり,そのため,職人規制法が1814年に廃

3 R. J. Steinfeld, Coercion, Contract, and Free Labor in the Nineteenth Century (Cambridge, 2001), pp.42―43

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止されても,それを上回る広い範囲の労務契約違反に対する刑罰による制 裁が続けられたのである。他方,団結禁止法と称される労働立法は,最終 的には一般的な団結規制立法が制定されたものの,そのほとんどは特定の 職種または産業における労働者や雇職人の団結による賃上げ等を禁止する ものであった。こうした団結禁止に関する諸立法の詳細な検討は後日に期 さざるを得ないが,実は,これらの立法と主従法に属する諸立法とは,完 全な別物ではないことは指摘しておかなければならないであろう。すなわ ち,団結禁止条項を含んでいるものを団結禁止法,労務放棄処罰条項を含 んでいるものを主従法と呼んできたにすぎないのである5 主従法の諸立法は,当時拡大しつつあった経済市場によって創造された 労働需要の高騰に直結していたのは疑いない。繁栄を謳歌していた産業の 使用者にとって,労働者をその雇用契約に拘束できることが必須だった6 そして,1688年の栄光革命以降に,王立裁判所だけでなく,議会も産業か らの圧力の下,営業の自由を重視する方向に向かったことはすでにみたと おりである7。したがって,主従法も産業の利益を増進するのみならず, 営業の自由を妨げる効果をもつ労務放棄を規制しようとする点において団 結禁止法と共通の目的を有していたものと推測される。 松林教授の優れた分析によれば,主従法に分類される諸立法には,「労 務放棄処罰条項」のほか,「治安判事紛争解決条項」,「原料横領処罰条 項」及び「酷使・虐待禁止条項」(これらの名称は全て松林教授が前掲論 文で用いたものである。)が定められることが多かったとされる。「労務放 棄処罰条項」とは,奉公人や職人等が仕事を完成する前にその履行を放棄 5 松林和夫「イギリスにおける『団結禁止法』及び『主従法』の展開」高柳信一・ 藤田勇編『資本主義法の形成と展開二:行政・労働と営業の自由』(東京大学出版 会,1972年)223頁以下

6 R. J. Steinfeld, Coercion, Contract, and Free Labor in the Nineteenth Century (Cambridge, 2010), pp.41 and 43

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することに対する処罰を定めるものであり,この条項はまさに主従法の心 髄をなすものである。「治安判事紛争解決条項」とは,労働者の賃金その 他の要求または不完全履行の争い及び公正な賃金の決定を治安判事に委ね る条項である。「原料横領処罰条項」とは,原料等を横領または窃盗した 職人等を処罰するための規定である。これは,当時,委託製造させるため に製造に必要な原料等を職人宅に供給していたため,その原料等が横領又 は窃盗されることが多かったことによる。「酷使・虐待禁止条項」は,労 働者及び徒弟に対する酷使,虐待等を行った雇主を罰金刑等で罰するもの である8 また,団結禁止立法についていえば,1799年及び1800年の一般的な団結 禁止法が制定される以前の団結禁止立法の主たる目的は,団結そのものの 禁止そのものではなく(団結することは黙認する),「賃金決定(fixing of wages),横領又は損害の予防(the prevention of embezzlement or dam-age),雇用契約の強制(the enforcement of the contract of service),徒弟 のための適正な取り決め(the proper arrangements for apprenticeship)」 にあったとされる9。そして,松林教授は,前掲論文において,団結禁止 諸立法が「協定・団結禁止条項」(契約,捺印証書または協定による賃上 げと時短の協定を違法無効とする条項)の他,「原料横領処罰条項」,「労 務放棄処罰条項」,「労働条件法定・裁定条項」(賃金及び労働時間を定め 又は治安判事にそれを決定する権限を与える条項),「賃金支払保護条項」 (不払い賃金の徴収手段を定め通貨以外の支払いを禁止する条項)などか ら構成されていたことを明らかにしている10 筆者は,中世以降の労働者規制立法とコモン・ローの相互関係を考察し て,イギリス雇用契約法の特質を解明するとの視点にたって,1349・51年 8 松林・前掲論文252∼267頁

9 B. & S. Webb, the History of Trade Unionism(3rded.)(London, 1920), p.65

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上記の製造業に雇われるすべての者の違法な団結を防止するための法律」

(本法は,通常,団結禁止立法の一つに分類されている。後掲2!の「協 定・団結禁止条項」を参照。)

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その徒弟がその親方にいくら賠償すべきかを決定する。そして,その徒弟 がその決定にしたがって賠償をなす確約を与えない場合には,その治安判 事がその徒弟を3か月を超えない期間,矯正院に収監することは適法であ る。 第2条 但し(provided always),本法は,親方がその徒弟につき礼金10 ポンドを受領した場合には適用されない。 第3条 但し,契約した期間の満了から7年を経過した後は,親方に対し どのようなときまたは期間に関しても就労または賠償を為すことを強制さ れない。 第4条 職人,更紗捺染工(callicoe printer),手細工人,鉱夫,炭坑夫, 石炭運送船人夫,鉱員,陶工,労務者,その他の者が何らかの時または期 間にある者と契約をして,その契約期間が満了する前にその労務を離れ, または,その他の非行を行った場合はいつでも,その者が発見された州ま たは地域の治安判事は,職人,更紗捺染工,手細工人,鉱夫,炭坑夫,石 炭運送船人夫,鉱員,陶工,労務者,その他の者が契約した相手,もしく は,その相手の執事または代理人による宣誓に基づく申立につき,その申 立の本質を審理するため,その職人,更紗捺染工,手細工人,鉱夫,炭坑 夫,石炭運送船人夫,鉱員,陶工,労務者,その他の者をも逮捕するため の令状を発することができる。 ! 1771年法(ジョージ3世・第10年法律第53号)=「テームズ河畔で働 く石炭荷揚夫の救済のため,また,彼らが疾病,不具,老齢となったとき 及び彼らの寡婦や孤児に対する給付を可能にするための法律」と題された ジョージ2世の治世第31年に制定された法律を廃止するため,並びに彼ら の労働の報酬(price)を規制し,その労務者達の詐欺と欺罔を防止し, また彼らに更なる救済を与えるための法律

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定款,規約,規則または指令を実施または実施しようとする場合,そのす べての違反者は,その違反が行われた州,市,町,地域の2人以上の治安 判事の前で1人または複数の信頼できる証人の宣誓に基づき・・・・有罪 とされ,それらの治安判事の裁量に基づく命令によって,3か月間を超え ない重労働を科せられるか,または理由がある場合は,・・・3か月間を 超えない期間,釈放または条件付釈放(mainprise)なしで一般監獄に収 監される。

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! 1749年法(ジョージ2世・第22年法律27号)「帽子のマニュファク

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紙製造業に雇用され雇職人または雇用される予定の雇職人に対し,その労 務を辞するように,何らかの手段で,直接または間接的にそそのかし(de- coy),懇請し(solicit),脅し,働きかけ(influence)または仕向け(pre-vail),もしくはそうしようと試み,あるいは,その技術または奥義に従事 する親方が,自らその工場において適格と考える者を雇用することを禁止 し(proscribe),妨げ(hinder)または妨害し(prevent),もしくはそう しようと試み,あるいは,自らが雇用されている間に,その技術または奥 義に従事する親方が雇用に適すると考える者を一緒に働くことを拒否する 場合,(前条と同様の手続で,同様に処罰される)。 第5条 ある者(紙製造工場に雇われているか否かを問わない)が,本法 によって違法と宣言された集会または団結体に参加し,もしくは,紙製造 業に雇われる紙製造雇職人その他の者に対し,これらの違法な集会または 団結体に参加するように呼び出し,通知し,呼びかけ,あるいは,上記の 目的でそのような雇職人その他の者から何らかの金銭を集め,要求しまた は受領し,あるいは,彼らがそのような集会または団結体に参加しまたは 関係するように,もしくは,彼らの雇用期間中にその親方紙製造業者と敵 対させ,またはその労務または雇用を辞めるように説得し,おびき寄せ, 誘い込みまたは脅し,あるいは,そうした違法な集会または団結体の支持 又は奨励するために金銭を支払いもしくは何らかの寄付金または分担金制 度を設けまたは加入した場合,それらの罪を犯したすべての者は,その犯 罪が行われた各行政区(county, riding, division, city, liberty, town or place)の1人以上の治安判事の前で,1人以上の信頼できる証人の宣誓 よって適法に有罪とされ,治安判事の裁量により,その各行政区の一般監 獄または矯正院に送られ,2か月を超えない期間,保釈または条件付保釈 なしで収監される。

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! 1800年法(ジョージ3世・第39年法律106号)「労働者(workmen) の不法な団結を防止ための法律と称される議会の前会期に成立した法律を 廃止し,その代わりに他の諸規定に置き換える法律」 *この法律については,以下にその概容を記すに止めたい。 1 同法は,次の行為を禁止した。 ! 雇職人,製造者(manufacturer)その他の者の間の自己または他人の ためにする賃金引き上げまたは労働量削減のためのすべての契約(con-tracts, covenants and agreements)の締結の禁止。但し,雇主と個々の労 働者または製造者の間の賃金に関する契約は除外する(1条)。 " 他の者が雇用するのが適当と考える者の雇用を阻止または妨害するた めの契約,もしくは他の者が営業もしくは管理することを支配もしくは影 響を与えるための契約の締結の禁止(1条)。 # 賃金引き上げ又は労働時間の削減もしくは変更または本法に違反する 他の目的のためにする雇職人,労働者その他の者の団結の禁止(3条)。 $ 金銭の供与または説得(persuasion),懇請(solicitation)もしくは脅 迫(intimidation)またはその他の方法で,故意かつ悪意(willfully and ma-liciously)をもって,失業中の(unhired or unemployed)雇職人,労働者 その他の者の雇用されることを阻止しようと試みることの禁止(3条)。 % 賃金引上げまたは本法の規定に違反する他の目的のため,故意かつ悪 意をもって,雇職人,労働者その他の者にその仕事を辞めるようにそその かし(decoy),説得,懇請,脅迫,働きかけもしくは仕向け,または仕 向けようと企てもしくは試みることの禁止(3条)。 & 雇主が雇用するのが適当と考える雇職人,労働者その他の者を雇用す ることを妨害することの禁止(3条)。 ' 正当又は相当な理由なく,雇用されている他の雇職人,労働者その他 の者と一緒に労働することを拒否することの禁止(3条)。

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4 仲裁による紛争解決 雇主と労働者が工場(manufacture)で実際に行われた仕事に対する価 格(price)または労働者が仕事に与えた損害(injury or damage),もし くは,労働者の側の仕事の遅れに関するまたは優良かつ手際よく仕事を完 成しないことに関して,または,契約に従って合意が達成できない場合, あるいは,両者の間でお互い調整し解決できない労働または賃金の契約も しくは合意に関する何らかの紛争(dispute or difference)がある場合, その雇主と労働者の双方またはその一方がその問題を仲裁(arbitration or reference)にかけまたは仲裁を要求することは適法である。雇主と労働 者のいずれかが1人の仲裁人を指名し任命し,仲裁事項を書面で付託し, 同事項を相手方当事者に通知して,その通知後2日以内にその相手方当事 者も同様に仲裁人を指名し任命するように求めることができる。任命され た仲裁人達は,当事者及び証人達を召喚し,宣誓下で審問(examine)し, 当事者達の主張,争いの事項の審理,判断を進めて,一定の期間内に為さ れた仲裁人の裁定は当事者間で最終的かつ決定的なものとなる。仲裁に召 喚されたのに仲裁に出席せずまたは審問されるのを拒否した当事者または 証人達は,治安判事の権限により逮捕され,なお,審問または証言を拒否 する場合は,矯正院に収監されて,審問に服するかまたは仲裁裁定がなさ れるまで禁固の刑に処せられる(18条)。因みに,前述した一方当事者の 仲裁付託及び仲裁人指名がなされていたのにもかかわらず,その付託書に 署名し自己の仲裁人を指名しない者は,有罪として10ポンドを没収される (22条)。また,仲裁人が,仲裁付託後,3日以内に仲裁裁定に署名しない 場合は,当事者は仲裁人らが1人以上の治安判事に彼らの意見の違いを述 べさせ,その治安判事が最終決定する(18条)。仲裁人による仲裁裁定は, 最終的なものとして争えず,裁定を履行しない者は,2人以上の治安判事

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