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著者 上田 誠一郎

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契約内容の透明性に関するEU指令国内法化の透明性 について

著者 上田 誠一郎

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

巻 10

ページ 113‑115

発行年 2009‑03‑31

権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター

URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015952

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《分科会3 EUにおける企業活動とその法的基盤》

契約内容の透明性に関する EU 指令国内法化の透明性について

上田誠一郎

(同志社大学法学部教授)

ドイツにおいて契約に約款が用いられた場合,契約内容が透明で理解しやすいものでなけれ ばならないという法理が判例により発達した。これを透明性の要請 Transparenzgebotという。

これがヨーロッパ共同体の消費者契約における不公正条項に関する理事会指令(93/13/EEC)

に採用され,ヨーロッパ共通のルールとなった。加盟国は指令を国内法化する義務を負うが,

このルールの起源となったドイツにおいて,新たに国内法化の措置を講ずる必要があるかをめ ぐり,さまざまな議論が起こった。これがここで取り上げようとするテーマである。

現行のドイツ民法307条第1項は透明性の要請を次のように規定する。「約款中の定めは,

それが信義誠実の原則に反し不当に約款使用者の相手方に不利益なものであるときは,無効で ある。不当な不利益は,その定めが明確かつ理解しやすいものでないことからも生じうる。」

すなわち,約款の定めは,明確でわかりやすいものでなければならない。そうでない場合には 契約の相手方を不当に害するものとして無効になる場合があるという規定である。

たとえば借主が毎年生じる金利と元本の一部を一定額ずつ返済していく抵当銀行貸付におい て通常用いられていた約款に「元本及び利息は,四半期ごとにわけて,3月15日,6月15 日,9月15日,12月15日に支払われるものとする。」という条項と「年間の利息は,それぞ れの暦年の前年末の残高により計算される」という条項があった場合,それぞれの条項の意味 は明確であるが,この二つの条項が合わさると,その間に返済が進んでいたとしても,それぞ れの年の年末まで,前の年の年末の,より大きな元本額にもとづき消費貸借利息が計算される という結果が生じる。BGHは,このような利息計算条項は,典型的な平均的顧客の理解可能 性に照らして要請される明確性,明瞭性をもって,このような結果を示していないとして無効 であると判断した。

上述のものを含む多くのBGHの判決から,約款は,契約相手方の権利と義務を,ふさわし い構成と適切な表現で,見通しが利くように正確かつ確定した形で,可能な限り明確に記述し なければならないという法理が発展してきた。これが透明性の要請の法理である。透明性の要 請はドイツでは完全に判例として定着したが,学説上はその根拠や適用範囲などの解釈をめぐ って激しい議論が存在した。BGH は約款規制法9条を透明性の要請が根拠としたが,この規 第蠢部:巨大市場圏としてのEUと北米経済圏 113

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定は「約款条項は信義誠実の原則に反して約款使用者の契約相手方に不当な不利益を与える場 合に無効である」(1項)とするもので,この条文自体は,透明性の要請を明示的に規定して いなかった。

このような状況において1993年に消費者契約における不公正条項に関する指令が出され,

その5条1文に「消費者を相手方とする契約条項の全部あるいは一部が書面によるときは,そ れらの条項は常に明確かつ理解しやすく書かれなければならない」と透明性の要請が明文化さ れた。これを受けてドイツで起こったのは,このドイツ生まれではあるがドイツでは一義的な 明文の規定がないこのルールを,指令の国内法化のために明文化する必要があるかという問題 であった。ドイツ法上の透明性の要請の法理が指令の要求するところを内容的に満たすかが一 つの論点であったが,もっとも問題になったのは果たして判例が指針の国内法化として十分か という点であった。これは当初から一部の論者の間では議論がされてきた問題であるが,ドイ ツの法学界で俄然危機感がもたれるようになったのは,ヨーロッパ司法裁判所がまさにこの指 針の透明性の要請について,オランダ政府に対して下した判決による。

EU/ECの指令は,加盟国にその指令の目的を達成することを義務付けるが,その形式およ

び方法の選択は各国の機関に委ねるという形の立法である。したがって私法についての指令が 実際の当事者に適用されるためには,各国の立法その他により国内法化される必要がある。国 内法化期限までに立法措置が行われなかった場合,EC条約249条3項によれば指令の目的の 達成を義務付けられるのは各加盟国の機関であり,そこには各国の裁判所が含まれるから,国 内裁判所には国内法を指令に適合するように解釈する義務が生じる。すなわちその場合には実 際上判例による指令の国内法化がおこなわれることになる。それでは,指令の要求する内容 が,すでに加盟国の判例上実現されている場合に,加盟国は新たな国内法化のための措置を取 る必要はないのか。

指令の国内法化に立法措置が必要かについては,それまでもいくつかのヨーロッパ司法裁判 所の判決が存在した。それらによると「指令は達成すべき目標としてそれが向けられた各加盟 国を拘束する。その形態と手段は国内の機関に任される。」しかし「その際完全に自由なので はなく,その目的を考慮した指令の実効性を保証する措置をとらなければならない。」その際

「国内法化義務は,常に明文の特別の法律の規定で形式的かつ文言どおりの指針の定めの再現 を求めるわけではない。」指針の内容にもよるが,「指令の適用を完全かつ特定の仕方で保証 し,その結果利益を受ける者が自己の権利すべてについて認識し,必要があれば国内裁判所に おいて主張できる場合」には,たとえば裁判官による国内法の一般条項あるいは不確定概念の 解釈で足りる。これに対して単なる指針適合的な行政実務は,国内法化としての性質を認めら れないなどである。

このような状況の下で,ヨーロッパ司法裁判所2001年5月10日判決は,指令の国内法化 は,常に加盟国の立法行為を必要とするわけではないが,問題となっている国内法が現実に加 114 ワールド・ワイド・ビジネス・レビュー 第10巻 公開セミナー特集号

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盟国官庁による指針の完全な適用を保証するものであること,この方から生じる法律状態が十 分確定的で明確であること,そしてその指針の利益を受ける者が,とりわけ自己の権利を認識 することができ,場合によってはこれを国内裁判所で主張することを可能にすることが不可欠 であるという理由で,ある指令が消費者保護を目的として消費者に一定の請求権を与える場 合,国内法化は明確かつ一義的な形でなされなければならない。国内法上の法規定を指令に合 致するようにみえる意味に解釈する判例があったとしても,法的安定性の要求を満たすのに必 要な,明確性と確定性があるとはいえないと判決した。

この判決の結果,当初指令の国内法化にあたって透明性の要請についての明示的な規定を置 かなかったドイツにおいても,民法307条の規定により透明性の要請が明文化されるという結 果となった。

この間の一連の議論から読み取れる点がいくつか存在する。立法は,官報などに公示され,

法律状態の変更は一応客観的かつ明確に読み取れる,あるいはそうあるべきであるのに対し て,判例の場合,判決文からのルールの抽出が必要であり,特に複数の判決群から一般化可能 なルールを引き出すには,一定の法的素養が必要である。特に消費者法の領域において,消費 者に情報を提供し,それにもとづいて自らの権利を実現してもらうのを原則とし,それで足ら ないところを立法・司法・行政による規制で補うというというモデルを実現しようするなら ば,そもそも権利行使の前提となる契約内容・法規範の内容が明確でなければならないのは当 然の要請になる。日本法において事前規制から事後規制へという司法改革の流れの中で,現在 作業が行われている民法の大改正への準備作業において,判例法規範の明文化の必要が強調さ れているが,まさに共通する問題意識が存在するといえよう。しかし一般条項による調整の柔 軟性と法的ルールの明確性は,いずれも重要であるとともに相容れない性質を持つ以上,どこ で両者のバランスを取るかということが重要になる。さらには消費者保護立法の立法技術にお いても,規範の明文化が消費者にとり明確な規範につながっていない現状には問題があるよう に思われる。

第蠢部:巨大市場圏としてのEUと北米経済圏 115

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