立教大学 教職課程 2021 年 1 月
はじめに
世界的な covid19 の流行の中で、日本でも安 倍晋三首相(当時)が 2020 年 2 月 26 日、多く の人が集まるイベントの2週間の中止、延期、
または規模縮小を要請した。翌 27 日には、全 国のすべての小学校・中学校・高等学校に対し て、3 月 2 日からの休校が要請され、この発表 を受けて、筆者の勤務校でも休校措置が取られ た。2 月 28 日から休校となり、予定されてい た 3 学期末考査および学校行事は中止となっ た。
2020 年 3 月(2019 年度最後の 1 か月間)と それに続く休校期間の 2020 年 6 月までの、オ ンラインを通したシティズンシップを育成する 授業実践の試みと共同体意識を促すHR指導等 を記す。オンライン授業の可能性等については 現在様々な取り組みや提案・提言がなされてい るが、その一つとして筆者の実践を紹介する。
1.本校における休校期間中の対応 1)2020 年 3 月 学年のHR対応
急な休校決定でHRでは詳しい指導はできな かったが、本校では 1 人 1 台 iPad を持ち、授 業やその他の活動でICT化が進んでいた(欠 席連絡は Cyber Campus 使用、保護者への連 絡も同様)ことにより、その後の指示はオンラ インを通じて行われた。学年(当時中等科 2 年
オンライン授業を通じたシティズンシップの育成
-中学公民の授業実践を通じて-
中田 奈穂美
担当)生徒間、生徒と教員・学校間をつなぐ取 り組みを模索した。例えば「ロイロノート」を 使用して、「毎日日直」を開始、などである。
通常、クラスの日誌を記入している学級日誌と 同じように、日誌形式のワークシートにその日 の取り組みと感想を記入。回答をクラスで共有 して他の人がどのように過ごしているかを知 り、人とのつながりを感じられるようにと学年 担任団で考えた。
これは終業式前日(3 月 17 日)まで実施し たが、最終日参加者は 30 人だった。はじめは 45 人クラスのほぼ全員が参加していたが、緊 急事態から常態になって安心したのか、慣れる につれて参加者は減少していった。春休み期間 は通常の春休みの課題(この場合は卒業論文の テーマ決め、参考文献探し)が配信された。
終業式は登校、それ以降は登校はできないも のの通常の春季休業と同様となった。
基本的に連絡は Cyber Campus を使用した。
2)2020 年 4 ~ 7 月
4 月以降も休校が続くこととなり、4 月 1 日 には新クラスの発表、遠隔ホームルーム、オン ライン個人面談など新年度の体制が生徒保護者 へ通知された。教員(講師含む)は 4 月 4 日に ICT研修を受け、配信授業の研修(Zoom、
iTunesU)を受けた。
4 月 8 日からは遠隔HRとオンライン個人面 談(Zoom 使用)が始まり、4 月 9 日からは配 信授業が開始された。5 月 9 日にはオンライン 保護者会が開かれた(新入生は iPad を持って いないことやICTに慣れていないことなどか ら、これらとは別な動きをした。入学式も動画 配信であった)。
筆者は中等科 3 年生を持ち上がりで担当する ことになった。新 3 学年は学年主任と担任 2 人
(4 クラス中)が継続、他 2 名の担任も前年度 に授業を担当していたので、関わりのあった教 員が複数いたことは生徒にとって安心感を得ら れたようだった。教員側もあらかじめできてい る関係性から開始できたのでスムーズに新学期 を始めることができた。その一方、授業でも担 当したことがない生徒の担任に入った先生は、
顔もわからない生徒との付き合いが遠隔HRか ら始まるので関係性の構築に苦労されていたよ うだった。
授業開始に先立ち生徒には時間割が配られ た。9:00 ~ 9:15 朝のHR(点呼と連絡の伝達 など)。9:15 ~ 9:55 個人面談(1 人約 10 分、1 日 3 人程度。面談が一回りすると 5 人程度を残 して卒論の意見交換会を実施)。毎週水曜日は 9:00 ~ 9:55 に L HR(中等科 3 年生は主に卒 業論文の指導など)。生徒は月~金曜日に、朝 のHRと 1 日 4 時間の授業配信がある(時間割 例:4 月 13 日 配信授業 1:英語 配信授業 2:
数学幾何 配信授業 3:社会公民 配信授業 4:
音楽)。オンライン授業ではなく配信授業が採 用されたのは Wi-Fi 環境によっては入れないこ とや配信授業なら繰り返しみることができる等 の理由からだ。オンラインではあったが毎朝H
Rがあることで生徒の心身の様子を把握するこ とが多少なりともできたように思う。また、生 徒にも、よい生活リズムとなった。
さて、学年の取り組みとしては、昨年度末に 実施した毎日日直を再開した。新しいメンバー だったためか提出率が悪く、当初から、提出す る生徒は 30 人前後だった。動機づけに毎日の テーマ(好きな漫画、行きたい場所など)を決 めたが、6 月 9 日の分散登校開始時には 15 人 程度にまで半減していた。4 クラス中参加者が 多かったクラスは教員が毎日参加したり、一人 ひとりに毎日コメントをしているクラスであっ た。このことは授業実践の項で後程触れたい。
新しいクラスでの関係性を作るため、生徒か らも提案があった。HR内の礼拝では式文を生 徒が持ち回りで読む(本校はキリスト教の教え にもとづく教育を行っているため毎朝礼拝を実 施している)。Zoom だと名前が出るので名前 と顔を覚えられる。ロイロノートで「今週の 1 コマ」の写真を提出。自己紹介を提出、等である。
Zoom 自習もあった。これは Zoom に入って皆 で自習をするというものだ。1 人での学習はつ いつい怠けてしまうけれど、他の人の頑張って いる様子を感じることで自分もまた頑張れる、
ということである。生徒たちも慣れない在宅の オンライン学習でいろいろ工夫をしているよう だった。
5 月半ばからは Zoom での質問時間の設定、
Zoom による補習(高等科 3 年生対象)も始まり、
教職員会議、学年会議、教科会議等が Zoom で 行われた。質問への対応、通信ならではの問題 点も多かった。技術的な面は本校ICT委員会 の先生方が対応していたが、相当ご苦労されて
いて、休校期間を乗り切れたのも、その先生方 のおかげと感謝している。
2. オンライン(配信)授業について 1)授業準備
各教科の授業は iTunesU が学校から指定さ れた。それ以外には、これまで授業内で使用さ れていたロイロノートが多く使われていたよう だ。
配信授業の開始に伴い、筆者は iPad を固定 する機材、大きめのホワイトボード、ボードペ ンを購入した。ホワイトボードを壁につるして 通常の授業と同じように板書をし、小テーブル に機材を固定して iPad で録画、配信。通常の 授業と異なるので留意した点は、動画は単元ご とに区切るということである。1 時間の授業で 動画は 5 ~ 8 分のものを 3 ~ 4 本(長いと通信 状況によりダウンロードできない、集中力が続 かない。あまり細切れだと授業内容が切れてし まい、内容理解が途切れてしまうので)、状況 に応じて対応した。
今年度筆者は中 3 の公民と高 3 の選択世界史
(4 単位)を担当したが、成長段階と科目の特徴、
目的から授業での留意点は異なるものとなっ た。事実中 3 と高 3 では生徒の取り組む姿勢は かなり違っていた。中 3 では後述するようにシ ティズンシップの育成を主として考えることを 心掛けた。高 3 では受験科目として必要な生徒 がいるので進度を進めること、知識の伝達とそ の理解を目標とした。
世界史の授業では図説にマークをして説明を 吹き込む画面収録も並行して配信した。あらか じめホワイトボードに地図やその単元の流れを
記入。冒頭でこの時間に行うことと時代の説明 を行った。このことは普段の授業でも心掛けて いるが、配信授業では特によかったらしい。配 信授業では、次の動画に移る際にホワイトボー ドを書き換えて準備ができるので、黒板を消す といった時間がなく効率的だった。効率的とい えば、配信授業には入念な準備が必要だったた めコンパクトに要点をまとめていた。そのため、
通常の授業より良かったという生徒も何人かい た。またその一方で、効率的である分無駄がな く、授業内で話している歴史のエピソードや裏 話があると楽しくて忘れないと思う、という意 見もあった。
2)本校における公民学習の概略
本校では公民の授業は中等科 3 年次に 3 単位 が設定されており、年度にもよるが、教員 2 名 で分担している。今年度はそのうち 2 時間を筆 者が受け持っている。割り当てとしては筆者が 第 1 章~第 3 章、もう一人の担当者が第 6 章で ある。3 年次は政治分野を学習し、3 年次に扱 わない第 4 章~第 5 章の経済分野は高等科 1 年 次の政治経済の授業で詳しく学習することに なっている。
教科書は教育出版の『中学社会 公民 ともに いきる』を使用。資料集は浜島書店の『最新図 説 現社』で、こちらは高等科 1 年次の政治経 済の授業でも継続して使用している。
教科書のもくじを以下に挙げる。
第 1 章 私たちの暮らしと現代社会 第 2 章 人間を尊重する日本国憲法 第 3 章 私たちの暮らしと民主政治 第 4 章 私たちの暮らしと経済
第 5 章 安心して暮らせる社会 第 6 章 国際社会に生きる私たち 終 章 私たちにできること
3)休校期間中の授業実践
ⅰ)シティズンシップについて
学習指導要領の改訂により高等学校公民科に は新科目「公共」が設置され、小中学校では「公 民的資質の基礎」の育成が継続して目標に定め られた。シティズンシップとは市民性とも云わ れ市民として必要な素養であり、シティズン シップを育成するとは政治的リテラシーを備え た「能動的な市民」を教育することである。能 動的な市民をつくること、オンラインではそれ がどのように可能だろうか。自分が主権者、つ まり社会の構成員であるという意識を持ち、社 会で起きている問題の解決に動くことができる 生徒を考えている。そのためには何が必要か。
ひとつには政治に対する知識がある。必要な知 識がないと自分が社会を変えられることも分か らない。そして社会の構成員、共同体の一員だ という意識。社会をより良いものにしていくた めに、世の中で何が起こっているのかに目を向 ける関心と問題の争点を考える力。解決のため に必要なコミュニケーション能力を含む行動 力。このようなことが考えられる。
社会や政治のしくみは教科書で確認すること ができる。共同体意識は、世の中で起こってい ることが自分につながっている自分の身近な問 題に引き付けて考える経験をする。世の中への 関心の喚起はニュースの紹介と報道に対する意 見の構築。解決のためのコミュニケーション能 力はほかの生徒たちと意見交換をすることで新
たな視点を知り自分の考えとの調整をする。そ のような方法が考えられる。実際の授業の中で は上記のことを目標にした。その方法として は、授業プリントに必ず考察する箇所を設ける こと、何らかの形で他の生徒の意見を紹介する こと、時事ニュースを扱うことである。
ⅱ)指導計画
前掲の教科書の配列を見ると、第 1 章で自分 たちの身近な事柄から社会を考える内容となっ ており、個人と社会のかかわりを考えさせると いう、公民科の目的に沿った単元となってい る。多様性や個人の尊重など身近な事象が公民 科で学ぶものとつながっていることに気づく単 元である。この章で生徒の関心を喚起しながら 次章以降に導いていくことを年度当初は想定し ていた。しかし、対面で授業中に生徒とのやり 取りができない中、配信授業でこれを行うこと は難しいと判断した。折しも連日のニュース番 組冒頭で首相や都道府県知事が画面に出て、各 地方公共団体の感染状況やお知らせを放映して おり、かつ生徒の日常ではあまり目にしないで あろう経済再生担当大臣や厚生労働大臣などが 並んでいる。国会の様子も放映されていること から、行政(国会)の単元、第 3 章の途中から 授業を始めることにした。
実際に 4 ~ 6 月の配信授業で行ったのは以下 のとおりである。
第 3 章 4 節 国会の決定は国民の意思
(4/13 実施。以下()内は実施日)
5 節 二つの院をもつ国会(4/23)
6 節 国会議員が果たす役割(4/28)
7 節 内閣と国会の関係(5/14)
8 節 行政をまとめる内閣(5/21)
中央省庁(5/26)
9 節 暮らしとかかわる行政(6/9)
1 節 国民の代表を選ぶ選挙
(6/11。ここまでが配信授業)
2 節 願いをかなえる政党政治 3 節 マスメディアと政治
上記の他に「新聞を読もう(5/11)」「みんな の意見(5/29)」を追加して、それまでのプリ ント内の個人の感想や意見、調べた事柄につい て配信授業動画内で紹介した。
ⅲ)指導の実際
以下に各授業ごとの生徒が考察する箇所を挙 げる。
プリント1
〇(国会 三権分立の導入)新型コロナ特措 法とは、2020 年可決、14 日施行の「改正 新型インフルエンザ等対策特別措置法」を 一般的には指しています。この法案の審議 の際に問題になったことを調べてみましょ う。
プリント2
〇(国会 二院制について自分の地域を考え る)自分の住んでいる地域について調べま しょう。衆議院選挙区定員 参議院選挙区 定員 衆議院議員名 参議院議員名
〇(国会 立法について一つの法案が作られ る過程を実際に追う)(1)現在国会では新 型コロナウイルスに関する法案以外にも 様々な法案が審議されています。両院でど
のように審議されていくのか、「検察庁法 改正案」の審議過程につて調べて、今後の 経過を追ってみましょう。(2)審議過程(こ の部分は休校期間が明けても記入していき ます。
〇プリント提出時までに動きがあったら記入 して下さい)2020 年 4 月 16 日 衆議院本 会議で審議入り
※この法案は結果的に廃案となったが、廃案 になった場合や世論が政治を動かすことの学習 にもつなげることができた。
プリント3
〇(国会議員 プリント冒頭で国会議員が 持っている特権についてのクイズを行い問 題意識を喚起 その後国会議員の役割につ いて説明)なぜこのような待遇や特権があ るのか、考えて書きましょう。
→解説(動画で説明したことを記入する欄を 作っておく)
〇教科書 p86 5(内閣と議員が提出した法 律数の推移。提出件数と成立件数をみると、
圧倒的に議員提出のものが少ない)のグラ フを見て、気づいたことを書きましょう。
〇どうして上記のようなことが起こるのか書 きましょう。
→動画で解説。大阪府のパチンコ店に対する 休業要請に従わない店舗を報じる新聞記事
(4/26 東京新聞朝刊)を見せる。その政策 を実行するのに法律を作ることが適当なの か、それ以外の方法がいいのか、法律は憲 法に適合しているのか、他の法体制との調 和がとれているか、法律を作ることの意義 と作成の困難さを説明。
〇教科書p 86 1~3(1:2017 年の衆議 院議員総選挙で当選した議員:世襲、官僚 出身、初当選、女性のそれぞれの割合。2:
衆議院議員総選挙における、女性の立候補 者数と女性の当選者の割合の推移。3:女 性国会議員比率の国際比較)からどのよう な課題が見つかりますか。
→解説。ルワンダのクォータ制の紹介。女性 議員の割合が低いとなぜ悪いのかというと 多様性が確保できないから。多様性が確保 できないと多数派にも生きづらい社会とな る。民族、年齢、性別の他にどのような立 場があるか考えてみよう。
プリント4
〇(9 月入学をめぐっての議論がちょうど盛 んであったため)東京新聞 2020 年 5 月 9 日の新聞記事①②を読んでどちらに賛成か 答え、9 月入学の利点と欠点を書いたうえ で、あなたの意見を書きなさい。1:賛成 するのは①・②・どちらでもない 2:9 月入学の利点 3:9 月入学の欠点 4 あな たの意見 (結論として、7 対 3 で反対が 多かった。現状追認となるのは仕方がない ところだが、どちらでもないも数名いた。
これはのちに時間をとって賛成派の主張、
反対派の主張、どちらでもない派の主張を 紹介した。記事を読んで論点を見つけさせ るところから始めたので、この後、論点を 絞って意見を深めさせることも考えたが、
タイムラグが生じることも考えて見送っ た。)
プリント5
〇内閣の主な仕事を教科書 p88 を参考に書
いてみましょう。
〇日本の議院内閣制をアメリカの大統領制と 比べましょう(ベン図へ記入)。時期的に アメリカ大統領選挙の話題も増えてきてい たので例年よりも関心は高かったように思 う。
プリント 6
〇みんなの意見~プリントに記入された意見 9 月入学はどうなる。
プリント7
〇知っている省庁を書きましょう。
プリント8
〇小さな政府と大きな政府のそれぞれの特徴 を確かめましょう。
〇自分が今一番政府に力を入れてほしい政策 は何か書きましょう(コロナ対策以外)。
※この回の動画では、都知事選挙のポスター 掲示場がたてられ始めた時期だったので筆 者自宅そばのものを写真に撮り、次回予告 として利用した。
生徒が考えた箇所は動画で解説したが全員の 意見に言及することはできない。プリントは毎 時提出させているので添削して返却(ロイロ ノート使用)する必要がある。これから主流と なっていく探求学習・調べ学習についても学習 者内のヒドゥンカリキュラムではないが、誤り に言及しないと生徒の中ではそれでよいものと 定着してしまうので、フィードバックが重要で ある。かつ他の生徒の意見の紹介など、教員は ファシリーテーターとなることが、オンライン ではこれまで以上に重要になる。誤った取り組 み(考え、争点がずれている場合等)も指摘し
なければならない。教員の負担増を避ける事務 的なことをICTに手伝ってもらい、思考の部 分に時間をさけるような仕組みツールとしてI CTに期待している。
また、気を付けなければならないのは、紹介 するものに対しても公平・中立を保たねばなら ないことである。名前の非公表など個人情報へ の配慮も必要である。ICTの長所でもあるが、
記録として残るからこそ細心の注意をしなけれ ばならない。
ⅳ)生徒の状況
授業ではその時実際に起きているニュースを 取り上げ、普段の生活が公民の学習につながっ ていることが実感できるようにした。非常事態 で家にいることが多く、ニュースに触れる時間 は通常時よりも多いようだったが、教員が考え ているほど報道番組を視ている生徒は多くはな かった。
また、生徒によって反応が大きく異なり、自 己管理が求められる自宅学習では、登校してい るときよりも、自己学習ができる生徒と苦手な 生徒との差が大きく開いた。公民の授業はプリ ントを印刷して空欄を教科書を参考に補充す る、その後受講、(毎時間の提出課題は負担に なるので)ロイロノートの提出箱へこの穴埋め をした授業プリントを写して提出することで課 題と代えた。しかしそれすらも出せない生徒が 各クラス数名おり、授業を視ていない(理由は 様々)可能性もぬぐえず、自己管理意識の必要 性を感じた。
通常の学校生活では普通に学習をすすめられ ていた生徒が、提出物を複数の科目で出せなく
なったりする一方、自分で学習をすすめられる 生徒は時間を有効に活用して普段できない自主 学習をどんどん進めていた。
5 月以降、塾の配信授業・オンライン授業も 始まって、負担感を訴える生徒もいた。また、
受講確認のためには出欠確認用受講シートへの チェックの記入と毎時間の提出物が出席要件と なっていたが、生徒には負担が大きかったよう で(特に中等科生)授業内容の見直しと提出物 の緩和が教務部から提案された。
受講チェックは締め切り時間に間に合わない と出席したことにならない。何度 Cyber Cam- pus やロイロノートで呼びかけてもチェックを 行わない生徒や電話がつながらない生徒も複数 おり、担任はそのことに毎日多くの時間を費や すことになった。
3)休校あけ 1 学期の授業
その後 6 月の分散登校を経て一斉授業が始 まった。授業で扱ったのは「1 節 国民の代表 を選ぶ選挙」「2 節 願いをかなえる政党政治」
「3 節 マスメディアと政治」と、教科書に沿っ て選挙に関する仕組みや制度、課題などを確認 した。その後 7 月5日投票日 都知事選挙につ いて候補者調べ 氏名・所属政党・政策(景気、
社会保障、教育、雇用・労働、エネルギー・環 境、コロナ対策、オリンピック)。新聞などで 取り扱われることの多い、山本太郎・小池ゆり こ・宇都宮けんじ・小野たいすけの 4 人とそれ 以外の候補者を自由に調べるグループを座席の 列ごとに割り当てた。調べた結果はロイロノー トで公開し、他の生徒が調べたことも参考にし ながら、図説掲載の方法に準じて各候補者の優
先順位を決めることとした。
この取り組みも通常ならばグループを作って 候補者を選び、各候補者をアピールして投票、
ということもあり得たが、今回は個人作業とし た。学校の方針でグループワークが解禁になっ ていなかったので、調べたことの共有もロイロ ノートの提出箱の回答を共有することで各自が みられるようにしただけで、特に話し合いを持 つこともしなかった。
4)総括
1 学期終了後(中間考査はなし、期末考査は 実施。日程は例年と大幅に異なり、1 学期終業 式は 7 月 30 日となった)夏休みの課題として、
1 学期公民科(中田担当部分)についてアンケー トを行った。以下に内容と結果を記す。方法は Cyber Campus のアンケート機能を利用。
1. 配信授業と対面授業では対面授業のほうが 理解が高まった
(はい 132 いいえ 3 どちらともいえない 20)
2・3は省略
4. 国会のしくみがよく分かった
(はい 139 いいえ 2 どちらともいえない 14)
5. 内閣の働きがよく分かった
(はい 140 いいえ 1 どちらともいえない 14)
6. 都知事選に限らず、選挙について関心が高 まった
(はい 138 いいえ 3 どちらともいえない 14)
7. 配信授業ではほかの人の意見を聞く機会が 欲しかった
(はい 66 いいえ 39 どちらともいえない 50)
8. 7 について、配信授業で他の人と意見交換
をする良い方法があれば記入して下さい。
9. 対面授業ではグループ学習や共同作業があ るとよかった
(はい 81 いいえ 27 どちらともいえない 47)
10. 感染防止対策中の授業で、意見交換をする 良い方法があれば記入して下さい。
問 4・5 は配信授業で行った内容だが、対面 で行った問 6 と「はい」と答えた数があまり変 わらないので、知識や内容の理解に関しては配 信授業は有効であると考えられる。但し問 9 の
「はい」が「いいえ」の 3 倍いることで、配信 授業では仕方がないと考えているものの、対面 授業では人との交流を求める傾向があるのでは ないか。問 7 で「はい」と答えた生徒の多くは 問 8 や問 10 でも回答をすることが多く、対処 法を本人なりに考えていたことが分かった。プ リントを見せ合う、ロイロノートの回答共有 機能などが挙がったが Zoom を使用した意見 交換を挙げた生徒も多かった(この後教室内 で Zoom のブレイクアウトルーム機能を使用し た意見交換の時間を設けたが、教室内ではイン ターネット環境の制約からうまくいかなかっ た)。休校期間中にHRで Zoom を利用した際 に、本人たちの中で人とつながれたという感覚 ができたのだと思われる。新しいツールとして 効果的な利用法を考えていきたい。
公民の学習とは本当に実際の生活を学ぶこと だと実感するほど、休校期間中の日々のニュー スが公民の授業と結びついており、教材には事 欠かなかった。しかし、そのことについて実際 に教員生徒間、生徒間で話し合いをして深める
ことができずもどかしさを感じた。そのため、
生徒の意見をできるだけ紹介するようにした。
熱心な生徒は授業の範囲外のことでも調べ学習 を行い、ロイロノートで送ってきてくれたので、
これも紹介した。他の生徒の良い取り組みを紹 介して、自分でもやってみようという意識を育 てたい。但し、生徒から提出される調べ学習の 内容が正しいものか、適切かどうかの確認作業 とフィードバックには非常に時間が取られた。
「毎日日直」と同じで、教員からのフィード バックの有無は生徒の意欲やモチベーションに 大きな影響を与える。これは授業以外でも同じ で、朝のHRに入らない生徒など等にもいえる ことである。配信授業であるからこそ、この部 分が重要で、特に自己管理の苦手な生徒には有 効で必要なことだと感じた。
また、共同体意識の形成もそこにつながるの ではないだろうか。
3)HR担任の視点
今年度は多くの学校行事が中止となった。
中 3 に関わるものだけでも、運動会、バザー、
修学旅行、夏合宿、平和学習(広島・沖縄)等 があり、朝の礼拝も学校再開後いまだホールで は行われず、放送礼拝である。
この中で唯一行われた学校行事がヒルダ祭
(文化祭)である。今年度は保護者、本校受験 予定者、校友生を含む外部からの参加はなく、
在校生のみとなった。筆者の担当クラスでは当 初ヒルダ祭に参加しないという意見が主流だっ たが、そこを押して参加に踏み切った。結果、
ヒルダ賞(生徒の投票で選ばれる賞)を獲得す ることができた。はじめ乗り気でなかった生徒
たちの感想は「はじめはどうなるかと思ったが やってよかった」「話したことのない人とも話 せた」「他の人のいいところが分かった」とい うものが多かった。また、この時にまとめ役と して活躍した生徒の多くが後期クラス委員とし て推薦されていた。
文化祭に限らず、2 週間ごとの席替え、お弁 当を座席のグループで向かい合って食べるこ と、授業内のグループワークなど、当たり前の 小さなことがコミュニケーションとなっていた ことを再認識する。おそらく清掃活動でさえも そうなのだろう。日常の関係性が授業での話し 合いに影響を与えるのは間違いなく、安心して 意見を言い合える状況をつくることが他者との 関係性の構築やシティズンシップの育成に大切 なことなのだ。
4.「教職実践演習」における話し合い 筆者が担当する「教職実践演習」のクラス別 授業第 2 回においてもオンライン授業を扱っ た。資料は以下の 3 点である。
• VTR
東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹先 生の授業実践(2020 年 9 月 1 日 日本テレビ
「news every」放送)※ 1
• こぐま会 週刊こぐま通信 「室長のコラム」
※ 2
第 726 号 2020 年 6 月 26 日
「休校期間中に経験したことを、これからの 指導にどう生かすか」(抜粋)
第 734 号 2020 年 8 月 28 日
「オンライン学習は幼児期の基礎教育にはな
じまない」(抜粋)
•「会うよろこび」ブレイディみかこ
『JAFFMATE 2020 年 8・9 月号』
学生たちは、資料と自分たちの体験からオン ライン授業の可能性と限界を論じたが、限界に ついてはやはり人間関係の構築についての意見 が多かった。自分たち大学4年生はいいけれど 新入生にとって関係性の構築からスタートする ことは難しいのではないか、ということである。
改めて学校の役割を考えると、知識の教授以 上に関係性の構築という大きな役割を担ってい ることに気づかされる。上記のVTRの中で鈴 木先生が言っていた「学校は余白が大事」とい うことは今回の covid19 の流行の中で大変実感 している。
4.おわりに
2020 年 11 月 23 日の日本経済新聞に、「全教 員にデジタル指導力 専門家派遣、最大 9000 人 政府目標」という見出しの記事が掲載されてい る。教育のデジタル化がすすめられ、政府はデ
ジタル活用の能力を備えた小中高校の教員育成 に乗り出す。また、2020 年度末までに全国の 小中学校で一人 1 台タブレット端末を配布する ことを 3 年前倒しの目標としている。
11 月 21 日には「2020 福井大学東京サテライ トラウンドテーブル」(主催 福井大学連合教職 大学院 東京サテライト)が開かれ、「ICTで 探求と協働はどうはぐくまれるのか?」と題さ れたシンポジウムとラウンドテーブルが行われ た。
新学習指導要領で掲げられている主体的な力 やシティズンシップの育成を教育のデジタル化 の中でどのように育んでいくか、今後の課題と なるであろう。その中で教員の役割を考えてい きたい。
参考資料
※ 1 期 間 限 定 ア ー カ イ ブ 版 https://www.
news24.jp/articles/2020/08/12/23698758.
html
※ 2 https://www.kogumakai.co.jp/column/pr esident/index.html