7 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ
2.1
原理と特性、構造
2.1.1
発光原理と分類
(1)どうしてガスが発光するのか 封入されているキセノンガスが光るのは、キセ ノンの原子あるいは分子の励起によって光が発生 することによる。原子内の電子は普通の状態では いずれの内核電子も、定常状態としては、それぞ れの電子に規定されたただ一つの特定状態しか持 ちえないという、フェルミ分布に従って最低準位 の状態から順次席を占めている。最外殻電子も同 時に取りうる準位のうちの最低の準位に位置して いる。この状態を基底状態という。外部から光や X線があたったり、あるいは運動電子が衝突した りすると、内核電子は基底の状態よりも高いエネ ルギー準位に移ることができる。このような現象 を励起と呼び、その状態を励起状態という。励起 状態は非常に不安定で、短時間(約10−8秒)でも との基底状態に戻る。しかし水銀や不活性ガスに おいては、これよりずっと長く10−2秒程度励起状 態にとどまる場合がみられる。このような状態を 準安定状態と呼ぶ。原子が励起状態から低いエネ ルギー状態にもどる時に、余ったエネルギーを光 として放射する。このエネルギー差によって放射 される光の波長が違う。言い替えると色が違って くる。図2-1に代表的なキセノンのエネルギー準位 を示す。 キセノンランプには以上のような線スペクトル が発生する他に、イオン化エネルギー以上のエネ ルギーでたたき出された自由電子が、イオンと再 結合する時に放出される連続スペクトルと自由電 子が原子の強いクーロン場の中で加速・減速運動 することにより放出される制動幅射による連続ス ペクトルを発生する二つの機構があり、キセノン ランプの場合は、これがむしろ線スペクトルを凌 駕するほどである。そのため図2-5のような特徴 的スペクトルを発生する。 さてこの光を励起するためには上に述べたよう に最初に運動している電子が必要となってくる。こ の電子は電極から最初に引っ張り出す必要がある。 (2)電極からの電子放出 電極の中には自由電子がたくさん存在するか ら、これらの電子に十分なエネルギーを与えると、 電子は電極から外へ飛び出す。この電子に十分な エネルギーを与え、電子を電極から外へ飛び出さ せる方法には次のような方法がある。 ・電極に熱を与える。 ・電極の表面に光を与える。 図2-1 キセノンのエネルギー準位 図2-2 電子なだれ8 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ ・電極に強電界を与える。 ・イオンを当てて二次電子を励起する。 これらの方法で飛び出してきた電子が加速され陽 極に向かいながら図2-2 のように次々と電離と励 起を起こし、電子なだれが発生し放電が開始して いく。キセノンランプではイグナイタと呼ばれる 高電圧の発生装置(約30kv)で電極に強電界をか けて電子を飛び出させる。この電子によって次々 に発生した電子あるいは陽イオンが電極に衝突す ることによって、電極に熱を与えさらに多くの電 子を飛び出させることになる。 (3)分類 キセノンランプは点灯する方法によって直流型 と交流型に分類される。直流型は電極の片方が陰 極になり他方が陽極となる。電極の温度が高すぎ ると電極材料であるタングステンが蒸発して管壁 内壁に蒸着し照度の減衰になる。そのため、特に 電子が衝突する陽極は陽極温度が高くなるため、 熱容量を大きくして温度の上昇を押さえるよう に、陰極に比べて大きくなっている。交流型は両 電極が交互に陽陰極になるためどちらも同じ大き さである。その為、交流型は電極の温度が直流型 に比べ高くなりタングステンが蒸発し易い。しか し点灯装置において電流を整流する必要がないの で小型で安価にできる利点がある。
2.1.2
構造
キセノンランプはそのシール構造によって断継 ぎランプと箔シールランプに分類される。 (1)段継ぎシール(グレーデッドシール) 図2-3に段継ぎシール型キセノンランプを示す。 陽極あるいは陰極には高融点金属棒を使用して、 電極とは反対側に金属棒とほぼ同一の熱膨張率を 有するガラスを溶着し、さらに熱膨張率の異なる ガラスを段々に継いで最後は容器とシールされて いる。段継ぎシールランプは金属棒(φ3mmから 7mmのタングステン棒)を使用しているため大電 流を流すことができるが、段継ぎガラス部分の耐 熱温度が約500℃であるため発熱源のアークから の寸法を長くとらなければならず、ランプ寸法が 長くなってしまう。キセノンランプには数気圧か ら数十気圧のキセノンガスが封入され、発光部の 温度は数千度にも達するため、ガスを封入してい る容器は丸型の石英ガラスが使用されている。 (2)箔シール 図2-4 に箔シールランプを示す。箔シールラン プは薄い金属箔(モリブデン)を使用しているた め、膨張係数は石英ガラスが6×10−7/℃でモリ ブデンが57×10−7/℃であるにもかかわらずモリ ブデンの塑性変形によりクラックを起こさずシー 図2-4 箔シールランプ 図2-3 段継ぎシールランプルされている。しかし導電部分に薄い金属箔(普 通は厚さ10∼40μmのモリブデン箔)を使用して いるため大電流が流されない。そのために大電力 のランプでは箔を5枚まで組み合わせて約130Aま で流せる構造をとっている。また箔シールランプ は金属箔を使用しているために、段継ぎランプに 比べて全長を短くすることができる利点がある。 (3)陽極 電子が突入してくるため温度が数千度近くなる ために、タングステンが使用される。それでもア ークがあたる先端部分はタングステンの融点であ る3300℃近くになるため、できるだけ体積や表面 積を大きくして陽極温度を下げて、タングステン の蒸発を抑えている。また先端の形状や大きさも アークの安定度や大きさに関係するため、設計に 工夫がなされている。 (4)陰極 電子が陰極先端から安定して飛び出しやすくす るため、タングステンに約2%の酸化トリウムを 入れ適当な熱処理を施すと、点灯時に表面に金属 トリウムの単原子層が形成される。原子内の電子 配列によってこのトリウム原子は電気双極子とし て表面電位障壁を下げるように働き、仕事関数が 著しく小さくなって2.63eVぐらいになる。このタ ングステンをトリエーテッドタングステンとい い、使用温度はタングステンより低くても、2000 ∼2400℃で熱電子放出が大きくなる。先端部も熱 電子放出や電界放出をし易くするため鋭角になっ ており、先端径もそれぞれ工夫がなされている。
2.1.3
特性
(1)分光分布 図2-5 にキセノンランプと太陽光との分光分布 を表す。このようにキセノンランプと太陽光との 分光分布は非常に似ているためキセノンランプは 凝似太陽として使用されている。800∼1000nmの 近赤外部分に強いピーク波長があるため熱源とし ても使われている。 (2)輝度分布 図2-6 に示すように陰極先端部分の輝度が一番 図2-5 キセノンランプと昼光のスペクトル比較 図2-6 輝度分布 9 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ10 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 高く、陰極輝点と呼ばれ、普通数千万cd/m2の ものまで作られており太陽の輝度(2.07×199cd/ m2)を超えるような設計のランプもできる。この ように輝度が高く、発光部の面積も小さいので、 光学設計では点光源として設計されている。 (3)配光分布 図2-7のようにランプ軸方向の配光には電極の 先端角のため両端に影ができる。ランプ軸に対し て垂直方向が最も明るい方向となる。 (4)寿命特性 図2-8 に照度の点灯による減衰特性を示す。電 極材料が蒸発し発光管の内壁に蒸着し管壁が黒く なるためガラスの透過率が低下して点灯時間とと もに照度が低下してくる。電極先端部分が蒸発し アークにより損傷を受けるため放電が不安定にな りアークは時間とともにゆらいでくる。 (5)電気特性 キセノンランプは水銀ランプに比べて、ランプ 電圧が低く電流が大きい。また常時高圧(数十気 圧)が封入されているため絶縁破壊するために高 い電圧を印加する必要がある。そのため図2-9 に 示すような特別な回路が必要である。その反面、 始動に時間を要せず瞬時再点灯ができると言う利 点がある。
2.1.4
製造工程
キセノンランプの製造工程は次のようにランプ の構成部分により大きく分けられる工程からなり たっている。 (1)電極 ①機械加工により設計通りの寸法に切削する。 図2-8 全光束減衰曲線 図2-9 起動装置回路図 図2-7 配光分布図11 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ ②表面及び内部の不純物を取り除く。 ③トリエーテッドタングステンは熱処理により活性化 する。 (2)発光管 ①石英ガラス管を設計通りの寸法形状に加工する。 (3)芯線 ①電極に圧入するように先端部分を機械加工する。 ②他端部分にシール用の段継ぎガラス加工をする。 (4)シール 電極、芯線、発光管を一体にシールする。 (5)排気 ①ランプの中を真空に排気する。 ②キセノンガスを封入する。 (6)仕上げ 口金を取り付ける。 (7)梱包 最終検査後箱づめする。 (吉良健裕)
2.2
特徴と用途
2.2.1
キセノンランプの特徴
次のような長所がある。 ①分光分布が太陽光に類似しているため昼光色と 同じで演色性が良い。 ②紫外域から赤外域まで連続スペクトルである。 ③点光源である。 ④輝度が高い。 ⑤瞬時再点灯ができる。 ⑥安定時間が短い。 ⑦赤外部に強い輝線スペクトルがある。 ⑧電気入力の変化に対して分光分布は一定である。 また反面次のような短所もある。 ①高圧ガスが封入されているため取り扱いには注意 が必要で使用時以外は保護カバーが必要である。 ②ランプを始動するために高電 圧を発生させる イグナイタが必要である。 ③ランプを安定して点灯させるために安定器が必 要である。 ④ランプが高温であるため冷却系が必要である。2.2.2
用途分野
上記長所を生かして照明分野、理化学分野、計 測分野などで利用されている。2.2.3
用途例
①分光分布が太陽光に類似しているため昼光色と 同じで演色性が良い。 映写機・プロジェクタ・スポットライト・標準 白色光源・内視鏡・人工太陽灯・製板・環境試 験機・植物栽培・集魚灯・手術灯 ②紫外域から赤外域まで連続スペクトルである。 分光器・光学実験 ③点光源である。 顕微鏡・映写機・プロジェクタ・スポットライ ト・投影機・サーチライト・手術灯 ④輝度が高い。 映写機・プロジェクタ・スポットライト・投影 機・サーチライト ⑤瞬時再点灯ができる。 サーチライト・手術灯 ⑥安定時間が短い。 サーチライト ⑦赤外部に強い輝線スペクトルがある。 光溶接機 ⑧電気入力の変化に対して分光分布は一定である。12 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 分光器
2.2.4
取り扱い上の注意
①高圧が封入されているため持ち運び、保管時に は保護カバーに入れておく。 ②封体は石英ガラスでできているため、直接手で 触れない。 ③ランプに曲げ・ねじりの応力を加えない。 ④ランプに強い衝撃を加えない。 ⑤ランプを落とすと破裂するのでたとえ保護カバ ーに入れていても落下させない。 (吉良健裕) 参考文献1)Jack Kline : CHRISTIE KINO NOTES Fall, 1997 1∼6 (1997) 2)Frederic J. Kahn: Projection Display , SID Seminare Lecture Notes
May 26 (1995)
2.3
映写機用光源
2.3.1
要求される特性
(1)映写機をとりまく状況─映画館用映写機 に求められるもの 当たり前のことだが、映画館は足を運んでくれ る観客があってこそ初めて成立しうる。映画産業 と映画機材産業もしかりである。「なにをはなか ら悠長な」という読者のお声が聞こえてきそうだ が、何ごとも当たり前のことを充分把握すること が大事なのである。三波春夫氏のかの有名な言葉 ではないが「お客様は神様です」ということにな る。そういうことだから、映写機用光源に要求さ れる特性という事項は、この神様である映画観客 の皆様の、スクリーンに映写された映像に対する ご要求をうかがうことから当然始めなければなら ない。そこから、映写機に対する要求や映写機用 光源に対する要求が出てくるのであって、そうい うアプローチこそがマーケットインの発想を満た すのである。先ずランプありきではなく、お客様 ありきなのである。「先ず光ありき」の聖書の世 界とはかなり様相が違うのである。かといって 「先ず光ありき」のプロダクトアウトの発想が常 に正しくないと主張しているわけではないので、 誤解の無いようにお願いしたい。なお、映画はそ の映像のみならず音響も楽しむものだが、本項の 主旨から音響面での考察は除外させていただく。 (2)映画観客の要求 ウシオグループで映画観客にアンケートを取 り、彼らの要求をつかんだりしたということは聞 いたことがない。しかし、筆者を含めたウシオグ ループの構成員が、ランプとランプ装置製造販売 に従事していると同時に映画観客であるから、自 らの経験から映画観客の要求は何か経験則的にま とめ上げることができるのである。宇宙飛行士の 特殊光源に対する要求というようなことになる と、そう簡単には行かないが。仮にスクリーン映 像に対するアンケートを取ったとすると、要求の 大多数は次のような事項に収斂するのであろう。 観客の各要求の左側に、それに応じた映画館の映 写機に対する要求を併記する。なお、スクリーン 自体に対する要求事項も存在するのだが、本項の 目的上割愛する。 ①映像の色がきれいで自然であること→色の再現 性が良いこと ②映像にひずみが無く細部まで見えること→解像 度が高く歪みのないこと ③映像が充分明るいこと→光出力が必要十分であ ること ④映像の明るさがほぼ一様であること→光出力が 映写角度内でほぼ均一であること ⑤映像が安定しちらつかないこと→光出力が安定 しちらつかないこと ⑥映像が中断されないこと→光出力が予期せずと 切れないこと これら6点の内何点かは、モノクロ(白黒)映 画しかなかった時代のことを知っている方になら13 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 容易に理解されよう。その頃は画面が暗く、歪ん でいたり、おまけにと切れたりするということが ままあったからである。また光源のせいではない が、フィルムを使い回したあげくフィルムに傷が つきそれが画面に雨が降っているように見えたり した。その頃と比べると、現在の映画館の映像は 格段に良くなっている。映写がと切れたりして、 観客が口笛を鳴らし足を鳴らして抗議するという ようなことが本当に無くなった。 (3)映画館の映写機に対する要求 映写機に対する要求は、上記の(2)の①から ⑥に加えて、映画館運営上の理由から次のような 事項が出されるであろう。各要求事項の下あるい は右に映写機の光源に対する要求を併記する。な お(2)の②「映像に歪みが無く細部まで見える こと」という映画観客の要求事項は、光源よりむ しろ映写機の解像度、映画フィルムのサイズ、映 写機光学系の解像度などに依存するので、以下で は取り扱わないことにする。 ①既定の映画館運用プログラムシークエンスに応じ て、確実に始動すること、更に安定時間が短い こと→光源が確実に始動し安定時間が短いこと ②効率の高いこと→光源の発光効率が高いこと ③連続映写が可能なこと→光源の連続点灯が可能 なこと ④装置の寿命が長いこと→光源の寿命が長いこと ⑤装置のメンテナンスが容易なこと→光源のメン テナンスが容易なこと (4)映写機の光源に対する要求 上記の(2)の①から⑥、(3)の①から⑤を、 映写機の原理、構造面を考慮し映写機の光源に対 する要求事項として把握し、読者がご理解しやす いように恣意的に配列すると次のようになる。各 項目に該当する光源(ランプ)候補を併記する。 なお、これら候補はすべて空冷方式のものであり、 キセノンランプ、メタルハライドランプ、水銀ラン プはショートアークタイプ、ハロゲンランプ、白熱 ランプはフィラメントが比較的小さいタイプを念 頭に置いた。また、一部の国で今なお使用されて いるカーボンアークはここでは除外して進める。 ①演色性の良いこと→DCキセノンランプ、DCメ タルハライドランプ ②点光源に近いこと─輝度が高いこと→DCキセ ノンランプ、DCメタルハライドランプ、ハロ ゲンランプ、DC水銀ランプ、白熱ランプ ③確実に始動し安定時間が短いこと→DCキセノ ンランプ、ハロゲンランプ、白熱ランプ ④発光効率の高いこと→DCメタルハライドランプ ⑤出力が安定していること→DCキセノンランプ、 DCメタルハライドランプ、ハロゲンランプ、 DC水銀ランプ、白熱ランプ ⑥出力の光軸対称性がよいこと→DCキセノンラ ンプ、DCメタルハライドランプ、ハロゲンラ ンプ、DC水銀ランプ、白熱ランプ ⑦連続点灯が可能なこと→DCキセノンランプ、 DCメタルハライドランプ、ハロゲンランプ、 DC水銀ランプ、白熱ランプ ⑧寿命が長いこと→DCキセノンランプ、DCメタ ルハライドランプ、ハロゲンランプ、DC水銀 ランプ、白熱ランプ ⑨メンテが容易なこと→DCキセノンランプ、ハ ロゲンランプ、白熱ランプ 前述の通り映写機用光源として、DCキセノン ランプ、DCメタルハライドランプ、ハロゲンラ ンプ、水銀ランプ、白熱ランプが候補に上げられ る。この内、DCキセノンランプは①から⑨の、 ④を除く8項目を満たしている。 さて、ビデオに駆逐されたのか8mm 映写機は 今日ではほとんど見かけなくなった。また“2.3.3” 「最近の映像施設の動向と光源」で触れる、フィ ルムを使用しないまったく新しい世代の映写装置 の登場とともに、16mm映写機もうかうかできな くなってきている。前置きはこれまでとして、 8mm映写機にはダイクロイックミラー(コールド ミラー)付ハロゲンランプや白熱ランプ、16mm 映写機にはDCキセノンランプが使用されている。
14 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 35mmフィルム以上の映画館用、劇場用の映写機 には、必要とされるスクリーン上照度の面から、 上記9項の内8項目を満たすDCキセノンランプが 主に使用されている。 (5)映写機用光源に要求される特性 上記の通り、映画館用映写機の光源に要求され る9項目を最も多く満たすのは、現存するランプ のなかでは、DCキセノンランプである。したが って、ここでは映画館向け映写機用DCキセノン ランプに要求される諸特性について、それをいか に実現するかというキセノンランプメーカとして の当社の視点から概括する。以下では“DC”は 省く。 ①演色性の良いこと キセノンランプは主にキセノン発光を利用す る。その発光スペクトラム(分光分布)は可視光 領域では太陽光のそれに良く似ているが、近赤外 領域では可視部より強い輝線放射が存在し、太陽 光のそれにはあまり似ていない。この近赤外放射 は、キセノン発光に必要な自由電子が電場により 加速・減速される際に生ずる制動放射に起因する から、取り除くことが原理的にできない。この近 赤外放射を含めたキセノンランプ出力光がそのま まフィルムに投射されると、フィルムに過剰な熱 負荷を与えることになり、ひいてはフィルムが焼 けてしまう。したがって、この近赤外放射は映写 機サイドで、熱線透過なりの処理を施した集光鏡 (コールドミラー)を使用するなり、赤外線吸収フ ィルターを使用するなりの対応をしていただかね ばならない。 こうしてフィルムに投射され、フィルムを経た 光を映写レンズ系によりスクリーン上に連続的に 映写するのが映写機なのであるが、スクリーン上 に映写された光がスクリーンにより反射され観客 の眼に入るわけである。人間の眼は昼間に太陽光 にさらされるという条件下で進化し、発展してき たものにほかならないから、太陽光に近いスペク トラムを持ったキセノンランプの光は映写機には うってつけの、演色性が良い光源ということにな る。なお、現在では当たり前のカラー映画の場合 にこの点が大きく効いてくる。 このキセノンランプの演色性を確保するため に、キセノンガスをランプ入力に応じた必要ガス 圧(ガス量)で、許容される公差内に収まるよう に封入することがキセノンランプの重要工程の一 つなので、それに応じた管理が当社ではなされて いる。 ②点光源に近いこと─輝度が高いこと キセノンランプのキセノンからの発光は極間で なされる。極間に発生するアークの長さ、つまり アーク長は極間距離よりやや長くなるものの、極 間距離により決定される。したがって、極間をな るべく小さくすることが点光源に近づけることに つながるが、実際極間はランプ入力により4mm 程度(入力500Wクラス)から15mm程度(入力 10kWクラス)にわたっている。一方、アーク輝 点が陰極先端近傍に存在するので、映写距離が十 分長い映画館用映写機用途では、集光鏡や映写光 学系の設計上ほぼ点光源と見なしうる。しかし、 現実的には極間が長くなるほど、アークの輝度分 布を考慮することが正確な設計には必要となる。 なお、極間が4mmから15mm程度の範囲にあるの は、ランプ入力、ランプ寿命との兼ね合いからで ある。ランプ入力に比し極間を極端に短くすると、 ランプ寿命もまた短くなるので、それにも限度が ある。ランプに期待される寿命の範囲内で、でき るだけ極間を短くし輝度を高くしたランプを開発 する努力が必要に応じて当社ではなされている。 ③確実に始動し、安定に要する時間が短いこと キセノンランプの安定時間は映写機用途では充 分短いので、確実に始動することについて以下に のべる。現在の映画館は、照明の点滅、スクリー ン幕の上げ下げ、映写機の始動などを含めた一連 の動作が自動化されていることが一般的になって きている。したがってキセノンランプが確実に始 動する必要がある。キセノンランプが保証時間内 に確実に始動しなくなることを「点灯困難」不良、
15 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 全く始動しなくなることを「不点灯」不良と映画 業界、映画器材業界、ランプ業界では称している。 合わせて「点灯不良」あるいは「点灯性不良」と いう呼び方もされている。これらの点灯困難や不 点灯不良は、ランプ口金内の電気的接触の劣化、 電源側の問題などを除けば、陰極からの熱電子放 出がうまくいかなくなることに主に起因する。こ の熱電子放出が保証時間を通し安定して行われる よう、当社では陰極の材質や加工工程の管理を日 常的に実施するとともに、更に改善すべく努力を 続けている。 ④発光効率の高いこと ランプの発光効率(Rm/W)は、ランプの全 光束(Rm)をランプ入力(W)で割った値である。 キセノンランプの発光効率は、ランプ入力が高く なるにつれ高くなる傾向があり、ランプ入力に応 じ32∼50Rm/W(500W∼10kW)程度の幅があ る。キセノンランプの価格は、通常ランプ入力が 高くなるにつれ高くなるが、映写機により熱負荷 で許容されかつ映画館の経営面で許容される限 り、必要な範囲で入力の高いものをなるべく使用 したほうが良いことになる。なお、このキセノン ランプの発光効率は、ハロゲンランプの 26 ∼ 29Rm/W(500W∼10kW)程度とメタルハライ ドランプの72∼85Rm/W(125W∼575W)程度 の中間であり、この点ではメタルハライドランプ の方が格段に優れていることが分かる。 ⑤出力が安定していること キセノンランプの光出力が安定しているという ことは、数分から数時間の比較的長時間に発生す る光出力変動(ドリフト)が小さいことと、数ミ リ秒から数秒の比較的短時間に発生する光出力変 動(フリッカ)が小さいということを意味してい る。映写機用の場合、後者のフリッカが小さいこ とが重要である。フリッカは電源出力のリップル にも左右されるが、ここではそれを度外視しラン プ自体に起因するフリッカを取り上げる。キセノ ンランプの光出力がフリッカを引き起こすと、そ れが映写機の投影光学系で拡大され、スクリーン 上に投影される。フリッカの程度や起こり方に応 じて、スクリーン上の画面全体が揺らいだり、画 面中心や画面の四隅が揺らいだりする現象がおこ る。それらが著しい場合、観客から苦情を出され ることがあるが、通常映写技師あるいは映写担当 者が目視で判断している。 このフリッカは、キセノンランプの陰極からの 熱電子放出が比較的短時間内で不安定になること やアーク輝点が移動することは、キセノンランプ 内のガス対流の乱れに起因している。当社では、 前者に対しては、熱電子放出が短時間内でも安定 しかつアーク輝点の移動が極力抑えられるよう、 陰極の材質や加工工程の管理を日常的に実施する とともに更に改善すべく努力を続けている。後者 に対しては、ガス対流の乱れを極力抑えうる電極 形状や構造を採用したり、アーク輝点をランプ内 の適切な部分に配置することなどにより対応して おり、今後も改善努力を継続していく。 ⑥出力の光軸対称性が良いこと キセノンランプの光出力が光軸対称性から外れ ていたり、使用中に外れてくると、映写機の光出 力の光軸対称性も外れ、結果的にスクリーン上の 映像の明るさの対称性や一様性がくずれてくる。 したがって、光出力の光軸対称性がキセノンラン プに求められる。 光軸は、陰極側口金先端の中心から陰極先端と 陽極先端の中心を経て、陽極側口金先端中心を通 る中心軸を言うが、設計上は一直線となる。この 設計中心軸に許容公差範囲内でこれらのランプ各 部が乗るようにキセノンランプを製造すること で、この光軸対称性を実現できる。製造上特に重 視されるのが、陰極口金先端中心からの陰極先端 と陽極先端の位置関係が正しくきちんと光軸に乗 ることである。陰極側口金から極間中心、場合に より陰極先端中心までの距離を、光中心距離 (LCL=Light Center Length)と言うが、これを基 準に装置側の光学系が通常設計され、かつキセノ ンランプの支持、固定が通常陰極側口金でなされ るからである。当社では、これに対応するため、
16 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 当該の工程でビデオカメラを用い、陰極先端と陽 極先端の位置をモニタするなど、格別の配慮がな されている。 また、光軸対称性はキセノンランプの発光管の 形状と厚さの一様性が確保されないと実現できな い。これらの点でも当社では格別の配慮がなされ ているのは言うまでもない。さらに、キセノンラ ンプ使用中に陰極と陽極それぞれの材料が不均一 に変形したり、蒸発していったりすると、光軸対 称性が失われることになる。したがって、この点 でも当社では格別な配慮と継続的な改善努力が行 われている。 ⑦連続点灯が可能なこと キセノンランプは連続点灯が可能なように熱設 計面で充分配慮がなされている。しかし、使用さ れる石英ガラスやタングステンといった材料それ ぞれに固有な特性やランプの構造面から、発光管 や口金各部の許容上限温度が存在する。この許容 上限温度が守られるよう、各映写機メーカに冷却 系をご設計頂くとともに、各映画館に対しても冷 却系が常時正常に動作するようお願いしている。 それと同時に冷却系の不可を抑えるべく、これら の許容上限温度を少しでも下げられないか、当社 は研究努力を継続している。 ⑧寿命が長いこと 当社のキセノンランプカタログには、品種毎の 平均寿命(品種により500∼2000時間)を記載す るとともに「寿命とは次の 1、2 のいずれかが 発生したときをいいます」と記載している。 1水平放射照度または全光束が初期の70%に なったとき。 2 点灯不能になったとき。 1 が発生する主な要因は、陽極材料のタング ステンが蒸発し発光管内表面に付着すること (スパッタリング)により発光管の可視光透 過率が下がることである。保証時間内にこの ようになることを関連業界では黒化不良と通 常称している。当社では、それを極力抑制す るよう陽極の最適設計に努め、タングステン 材質および加工工程を日常的に充分管理して いる。 2が発生する要因にはすでに述べた不点灯不 良と点灯困難不良があるが、シール部不良は 現象的には不点灯不良となってあらわれる。 このシール部不良には色々なモードが存在す るが、それらの主な要因は石英ガラスなどの 材料に発生する熱歪みである。当社では、こ の熱歪みの発生を極力抑えるべく、シール部 構造に格別の配慮と加工上の工程管理を充分 に行っている。 実は、上記の 1 と 2 以外にキセノンランプが 寿命に達する要因には、発光管の破裂不良が存在 する。当社の長年の努力により、保証時間内の破 裂不良はほぼ撲滅されている。破裂不良に至る主 な要因は、キセノン発光スペクトラム中の短波長 紫外線により発光管に使用されている石英ガラス に歪みが発生することである。この紫外線による 歪みの発生メカニズムについてはここでは割愛す るが、発光管に使用する石英ガラスに特殊な処理 を行うことにより、この歪みを抑制できるので、 そういう配慮を当社では実施していることのみを 記しておく。 なお映画館のキセノンランプ使用時間は世界各 国それぞれの国に特有な慣例により異なる場合が あるので、一概には言えないが、少しでもランニ ングコストを下げるためにできるだけ長く使用す る傾向がある。したがって、当社としてもキセノ ンランプの平均寿命を少しでも長くできるよう日 常的に改善の努力を行っている。 ⑨メンテが容易なこと 光源としてのキセノンランプ単体は比較的安定 しており、その電気的、機械的、熱的点灯諸条件 が整備されていれば、映画興行上妥当な長期間の 使用が可能である。逆に言えば、映写機側のこれ らの諸条件を定期的にメンテすることが、キセノ ンランプを長時間にわたりご使用頂く秘訣であ る。以下にそれぞれの点灯諸条件の必要とされる 主なメンテ項目についてのみ述べる。
17 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 電気的点灯条件: ・始動装置(イグナイタ)の出力が劣化していな いか。 ・安定器(バラスト)の出力が劣化していないか。 ・ランプへの配線がゆるんでいないか。 機械的点灯条件: ・ランプの支持、固定が緩んでいないか。→ラン プが映写機の光軸上にあるか。 熱的点灯条件: ・ランプの口金が変色していないか。 ・冷却用ブロワーが劣化していないか。→必要と される風量、風速が出ているか。 ・フィルタなどに目詰まりはないか。 以上、キセノンランプメーカの立場から、映写 機用光源としてのキセノンランプに要求される特 性について主に述べたが、映画観客と映写機メー カ各位のご要求を充分網羅しきれておらず、かつ 表現に不適切な点もあるかもしれない。そういう 点があれば、率直なご指摘をお願いしたい。 (南雲秀夫)
2.3.2
映写機用光源の変遷
映写機用光源の変遷について記すためには、結 局映写機発達の足跡をたどらねばならない。それ は一個人には膨大な作業量と時間を要することに なり、一筋縄には行かない。幸い、社団法人 日 本映画機械工業会が1995年11月に上梓した、口石 弘敬著「シネマ100年技術物語」という映画機材 関係の商売に携わる方にとっては必読と言っても いいほどの大変貴重な労作が存在する。そこで本 項ではその労作の映写機と大型映像装置の発達に 関する部分を参考にしつつ、日本における主に映 画館向け35mm映写機用、16mm映写機用および 大型映像装置の光源の変遷について述べていくこ とにする。また要所要所で日本の映画館数の推移 についても触れ、現在の映画館と映画の置かれた 状況が、過去との対比で比較的容易に理解しうる ように心がけることにする。 (1)白熱電球、ライムライト、カーボンアー クの時代─明治時代 <サイレント映画の黎明期> 1879年(明治12年)にエジソンが白熱電球を発 明した。その16年後の1895年(明治28年)にル ミエール兄弟がシネマトグラフという装置を使っ て、パリ市の「サロン・アンディアン」という劇 場で、布製スクリーンに映画を初めて映写して見 せた。このシネマトグラフの光源は白熱電球であ った。面白いもので“ルミエール”と発音される フランス語の単語は手元の和仏辞典では1つしか ないが、第1番目の意味は「光、光線」である。 単なる偶然なのか、それともこの兄弟がその姓か ら「光、光線」を用いて何か発明しようと考えて いたのだろうか。さて、このシネマトグラフを見 たエジソンが、1896年(明治29年)にキネマトス コープを開発した。この光源も白熱電球であった。 “ルミエール”の源を発明したエジソンが、映画の 面ではルミエール兄弟に先を越されたことになる。 1897年(明治30年)にはルミエールのシネマト グラフが吉沢商店によって日本に輸入され、横浜 住吉町の湊座で公開された。当時の電力事情や発 電機の騒音から、光源としてやむなくライムライ トが用いられた。このライムライトは、水素と酸 素の混合ガスを燃やし、炎を生石灰(ライム)に 吹き付けると白色に発光するもので、水素の代わ りにアセチレンなども使える。点火器は溶接バー ナーの口火と同じ物が使われた。ライムライトと いうとチャップリンの「ライムライト(街の灯)」 という映画を思い出される読者もおられるだろう が、こうしてみるとライムライトが街灯の光源と しても使用されていたことがうかがえる。アセチ レンライトは、お寺や地蔵尊や神社の縁日などで 昔よく見かけられた読者もおられるだろう。 一方、エジソンのキネマトスコープは、パテン トを譲り受けた会社が改造し、バイタスコープと 改称したものが同1897年(明治30年)に日本に輸18 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 入され、東京と大阪でカーボンアークとライムラ イトで公開された。このバイタスコープが神田の 錦輝館で公開された時には、なぜかきわめて原始 的な光源が用いられた。それは塩酸カリと過酸化 マンガンを混合したものを七輪で焼き、発生した ガスをゴム袋に蓄え、このゴム袋を2∼3人がか りで締め上げて圧力を上げ、ノズルからガスを吹 き出させて点火した炎であったという。ガスの量 に限界があるため、映写時間が短く画面もほの暗 かったそうである。現代の感覚からすれば、まこ とに原始的かつきわめて物騒な話である。 1898年(明治31年)には、縫製用ミシンを作っ ていた高橋弥惣吉という人が御国工場を創設し、 ミクニ映写機を生産開始した。光源はアセチレン ガスを燃やすライムライトだった。その頃のフィ ルムは燃えやすいセルロイドで出来ていたので、 ライムライトであれ前述の物騒なガスであれ、映 画を上映するのは危険極まりなく、映写に携われ るのも映画を見るのも、ある面で命懸けだったか もしれない。 その後1903年(明治36年)に浅草電気館をはじ めに、東京・大阪などの都市部で映画館の開館が とりざたされ、1907年(明治40年)になると日本 にもいっせいに映画館が誕生し始めた。2年後の 1909年(明治42年)には、人口250万の東京の映 画館が30館に達していた。ちなみに人口750万の ロンドンには映画館がすでに600館あった。明治 末期は進取の気風に満ち好奇心旺盛な時代だった のである。 (2)白熱電球、カーボンアークの時代─大正 時代および昭和初期から終戦まで <サイレント映画の隆盛、カラー化追求とトーキ ー映画の驀進の時代> 1914年(大正3年)になると、直流点灯カーボ ンアークが登場したり、効率のいいガス入り白熱 電球が開発され、映写機用光源の幅が広がるとと もに危険度も減ってくる。1918年(大正7年)に 高密工場(後に高光工業)が、国産初のモータ駆 動式映写機を作ったが、光源はカーボンアークを 使用した。これは映画館向けの業務用の本格的映 写機で、その後毎年モデルを更新し、1924年(大 正13年)にはE型まで進んだ。こうして高光の映 写機は高級機となっていった。1926年(大正15年) になると高光は500W白熱電球を使用したポータ ブル35mm映写機を発売した。その間、高光に引 き続いてローラーという会社ができ、高光の高級 機に対して、普及機を手がけた。こうして高光と ローラーが大正から昭和初期の日本の2大映写機 メーカとなっていった。 1927 年(昭和 2 年)になると、娯楽中心の 35mmに対して教育中心の16mmに特化した横浜 シネマ商会が、国産初の手回し式16mm映写機を 完成しエルモA型と命名した。翌1928年(昭和3 年)には小型モータと50V250W白熱電球付きのB 型を完成した。その頃は、モータもランプも国産 品はなく、三菱電機にモータを、東芝にランプを 新規に作ってもらい、ようやく1930年(昭和5年) に完全国産のD型を完成し、翌1931年(昭和6年) には明るい75V500W白熱電球付きのF型を完成し た。このF型は光学面、機械面、冷却面で満足す べき小型映写機になり、当時一番明るい映写機と して需要に追いつかない程の売れ行きとなった。 この実績を背景に横浜シネマ商会は合資会社エル モ社と改称した。 “エルモ”は“ELMO”で「エレクトリック・ ライト・マシン・オーガニゼーション」の頭文字 をとったものである。一方、同1931年(昭和6年) 前出の高密工場がミラー式ピアレスアークランプ を完成し、長岡市上越線全通記念博覧会で功労賞 をもらっている。これはカーボンを縦形から横位 置型つまり水平に置き変え、電源が交流から直流 に変わり効率がよくなったランプハウスであっ た。これにより以前のような15mmという太いカ ーボンでなくともすむようになり、陽極8mm陰 極6mmのカーボンとなった。 当時はカーボンアークを使う35mm映写機と比 べると、白熱電球を使う16mm映写機はスクリー
19 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ ンがどうしても暗かった。1935年(昭和10年)に エルモは、16mm映写機の名誉挽回をめざし、従 来4本だったフィラメントを、倍の8本にしたダ ブルフィラメント方式75V750W白熱電球を東芝 に特注し、それを光源に採用した8mm/9mm半 16mm兼用映写機「躍進号」を世に送り出した。 この躍進号にはエルモの総力が結集されており、 国産の映画技術を世界に問う意気込みと小型映画 の地位向上の悲願が込められていた。 こうしてみると、高密工場やローラのカーボン アークを光源とした映画館向け35mm映写機と、 エルモの白熱電球を光源とした教育用の16mm映 写機がいい意味で張り合いながらともに成長して いったのが、大正、昭和初期の時代であったと言 えるだろう。その後終戦を迎えるまでの約10年間 は、映写機用光源の動きに目新しいものは出て来 ない。カーボンが手送りでなく自動送りになると いった既存光源の改良止まりであった。日本全国 の映画館数はトーキー映画の驀進とともに増え続 け、1944年(昭和19年)には2,500館に達してい た。しかし戦時の様々な事情により、細々とでも 営業できたのはその内440館位であった。そして 1945年(昭和20年)8月15日の終戦を迎えること になる。 (3)カーボンアーク、ハロゲンランプ、 キセノンランプの時代─昭和20年∼35年 <カラー映画、ワイド映画の隆盛の時代> 1944年(昭和19年)には全国に2,500あった映 画館が、終戦時は休館を含めると1,500館に、そ の内営業ができた映画館は850館に激減していた。 戦時に工場などに転換した映画館もあったが、米 軍の空襲、空爆で破壊されたものも多かったであ ろう。娯楽が多種多様になった現在では想像し難 いが、戦後は娯楽といえばラジオと映画ぐらいし かなかった。日本占領軍の進駐とともにもたらさ れた米国映画は、米国文化の香りに満ちていて国 民を魅了した。 そういう状況で、1946年(昭和21年)に東京航 空計器がドイツのエルネマンをモデルにニュース ターという新顔35mm映写機を世に出した。1947 年(昭和22年)には映画館数は1,900館に回復し ていた。1948年(昭和23年)にはビクター、平岡 工業、三社電機がフジセントラル映写機を世に出 した。戦後の映写機の販売合戦でこのフジセント ラル映写機は全国シェアの60%を押さえた。残り はニュースター、ローヤル(高密工場のブランド)、 ニッセイ、日本電気工業の西川氏が作った映写機、 韓国の李氏が作った映写機、その他の国産映写機 が押さえた。 こうして1950年(昭和25年)には映画館数が3, 100館に達し急上昇期に入り、1960年(昭和35年) にピークの7,457館を迎えることになる。この終 戦から1958年(昭和33年)の時期は、映画館向け 35mm映写機の光源はカーボンアーク全盛であっ た。カーボンアークの安定器には、出力電流リッ プルが激しい水銀整流器が使用されていた。 1956年(昭和31年)にウシオ電機が垂直点灯方 式のキセノンランプを開発していた。1957年(昭 和32年)にウシオ電機とマツダ研究所がキセノン ランプを世に出し、1958年(昭和33年)にはウシ オ電機、日本音響精機が共同で、日本初のキセノ ンランプによる映画上映を新宿松竹第一劇場で実 現した。この年、日本音響精機は、2kWキセノン ランプ、ランプハウス、電子式映写機切り換え装 置オートコンダクタ、フレックス映写機を発売し ている。 1959年(昭和34年)になると映画館向け35mm 映写機用キセノンランプがますます世に出てくる が、水銀整流器で点灯されるとスクリーン上に明 暗のフリッカが出るし、おまけに電極が過大電流 で破損してしまい、ランプ寿命が短くなるという 重大な問題があった。この問題は、水銀整流器を セレン整流器に交換することで解決されていく が、セレン整流器自体がセレン整流体の非封止構 造のため湿気に非常に弱く、寿命が短いという問 題を抱えていた。1960年(昭和35年)になると、 大電流、大電圧に絶えうる寿命の長い封止型シリ
20 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ コン整流体が登場し、キセノンランプ用電源の道 を拓いた。同年、同潤光機が3kWキセノンランプ ハウスを発売した。こうしてキセノンランプがカ ーボンアークに代わり本格的に使用されるように なっていくのである。 一方、1951年(昭和26年)に設立された常盤精 機は、国内での据え付け型劇場用35mm映写機の 乱売合戦、過当競争を避け、輸出をねらった白熱 電球使用の重さ45kgのポータブル35mm映写機を 設立早々開発した。常盤精機が狙っていたインド にこのポータブル35mm映写機が輸出されると、 本来意図していた移動用ではなく、白熱電球に変 えてカーボンアーク用に改造されて劇場用として 使われた。その後常盤精機は1958年(昭和33年) になって標準型の劇場用トーキー映写機を作り、 東南アジアに輸出し韓国、台湾ではシェア80%以 上という人気を博した。ポータブルの人気もいっ こうに衰えない。そこで、白熱電球をハロゲンラ ンプに変えたモデルを1960年(昭和35年)に発売 した。35mm映写機用ハロゲンランプの規格はな くランプも存在しないから、特注で作ってもらっ た。しかし、このハロゲンランプは明るくなかっ た上に、よく切れた。そこで、キセノンランプに 切り換えると同時に、スタンドに乗せて劇場用の 据え付け型としたのである。 こうして、映画館用35mm映写機用光源は、カ ーボンアークからキセノンランプに、白熱電球か らハロゲンランプを経てキセノンランプに移行し ていったのである。「まさに時は秋、映画館数す でにピークに達したカーボンアークの全盛期、あ あ果たしてキセノンランプにはいかなる運命が待 ちかまえているのでしょうや? 次の細項を乞うご 期待!」とサイレント映画の弁士ではないが、声 をあげたくなる佳境に本項もやっと達するのであ る。 しかし、その前に「なぜカーボンアークからキ セノンランプに移行する必要があったのか」その 背景について触れておかねばならない。当時の映 画用フィルムは可燃性であり、空気中で燃焼させ るカーボンアークを映写機の光源として使用する ことは、常に火災の危険と隣り合わせであった。 火災防止の点から発光部を封止したランプが求め られていたわけである。更に、白黒からカラー映 画の転換期にあり、色が忠実に再現でき、かつ大 画面でも明るく映写できる高輝度ランプ化が時代 の要請でもあった。2.3.1(5)「映写機用光源に 要求される特性」でも述べたように、キセノン発 光を利用するキセノンランプは、可視光部の発光 が太陽光に近く、したがって演色性が良く、しか も発光効率が白熱電球やハロゲンランプより格段 に優れている。このように、火災防止、演色性、 発光効率の3点から、キセノンランプがカーボン アークの代替え光源として要請されていたのであ る。また、カーボンの寿命、つまり燃焼し尽くす 時間が一般的な映画の上映時間より短く、長時間 の連続上映ができないという上映上の理由、カー ボンが発煙し燃えかすが出るなど、映写室の環境 衛生上の理由も無視できない。 (4)キセノンランプの時代─昭和36年∼昭和 59年 <テレビの普及と映画斜陽化、大型博覧映像開花 の時代> 1960年(昭和35年)に映画館数は7,457館にな りピークを迎えたが、この年を峠に映画ブームは しぼんでいった。同年NHKと民放4社がカラーテ レビの本放送を開始した。翌1961年(昭和36年) に新東宝が倒産し、映画製作を中止した。1962年 になると松竹が京都撮影所を閉鎖し、新宿第一劇 場を三越に売却している。 東京なら町内に何軒もあった東映系、大映系、 日活系などの小さな映画館がつぎつぎと閉鎖さ れ、跡地にスーパーマーケット、パチンコ店ある いは住居などが建設されていった。筆者が子供の ころ住んでいた墨田区寺島町内の「ふる玉(玉の 井映画館)」や「しん玉(新玉の井映画館)」、近 辺の「大成館」や「南竜館」もそういう運命をた どっていった。そして閉鎖されずに営業を継続で
21 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ きる映画館は、新装備の映画館として生まれ変わ っていった。その際、キセノンランプが光源とし てどんどん採用されていったのである。こうして キセノンランプが映画館向け映写機の主流となっ ていった。 さて、(3)に記したようにカーボンアークは 水平で点灯され、カーボン自動送り機構が採用さ れていた。これに対して、代替え光源として出始 めた頃のキセノンランプは垂直点灯方式だった。 キセノンランプ後部に設置した反射鏡が、キセノ ンランプ後部からの光を捕捉するのだが、前面か ら出た光は捕捉できなかった。キセノンランプの 前面にも小さな反射鏡を置き、前面からの光を捕 捉する工夫もなされたが、光出力の効率的な利用 の点ではまだ不十分だった。そういうわけで、放 物集光鏡や楕円集光鏡で効率よく集光が可能とな る、水平点灯方式のキセノンランプの開発が要請 されたのである。 この水平点灯方式を可能とするには、発光管 (封体)内の対流で持ち上がろうとするアークの 制御技術の確立や、熱に強い集光鏡の開発が必要 であった。前者は主に永久磁石による制御で解決 された。また、発熱の元になる赤外線を後方に透 過するコールドミラーを、山田光学工業と田村硝 子製作所が1960年(昭和35年)にすでに開発して いた。したがって、1961年(昭和36年)にはすで に水平点灯方式キセノンランプを世に出せる下地 はあったのである。 この頃ウシオ電機はすでにキセノンランプを水 平点灯していたし、日本で最初に開発した映写用 キセノンランプを拡販する必要に迫られていた。 一方、全国制覇なるかに見えたニチオン(日本音 響精機より昭和38年に改称)が映画館の急激な落 ち込みに抗しきれず1966年(昭和41年)に倒産す る。ニチオンの本体、営業部門を東芝系の日本映 画資材が引き継ぎ、技術部門のニチオン・エンジ ニアリングをウシオ電機が引き継いだ。抗して引 き継いだニチオン技術部門を元に、ウシオ電機の 100%出資で同年日本ジーベックス(ウシオユー テックの前身)が設立されたのである。このよう にウシオ電機は、映画の全盛期が過ぎた後、カー ボンアークの時代ではなく、キセノンランプの時 代を拓く目的で映画界に参入したのである。 1966年(昭和41年)に設立早々日本ジーベック スが、この水平点灯方式キセノンランプを使った 水平点灯キセノンランプハウスを開発した。同年 試作1号機を神戸オーエス劇場に設置し、映画館 用としては世界初のキセノンランプ水平点灯の快 挙をなしとげた。水平点灯方式には色々な批判が 続出したが、垂直型の半分の電力ですむという省 エネ製品であることが評価されて、順調に普及し ていった。また、この年ウシオ電機は、70mmシ ネラマ映写機用6.5kWキセノンランプを開発して いる。 キセノンランプの水平点灯方式が普及し、また 入力の大型化が進行するに連れ、映画館数は減少 の一途をたどっていった。1960年(昭和35年)の 7,457 館が、1971 年(昭和 46 年)には 2,900 館、 1975年(昭和50年)には2,453館にまで減少して いった。そういう時代背景のなか、1970年(昭和 45年)に大阪万博が開催された。この時の話題は、 フジパビリオンに設置された、カナダのアイマッ クス社の70mm15p(pはパーフォレーションの略)、 史上最大の画面サイズを誇るオムニマックスとい う映像システムであった。 オムニマックスはアイマックスドームとも呼ば れているが、アイマックスの平面スクリーンへの 映写に対し、ドームスクリーンへ映写するタイプ である。アイマックスの70mm15pフィルムの画 像面積は、35mmフィルムの実に10倍以上である。 アイマックスやオムニマックスにより映写された 画像がいかに大きいか、容易に想像がつくであろ う。大阪万博で大画面の本領をいかんなく発揮し、 アイマックスは日本での博覧映像の地位を不動の ものにしていった。これらアイマックスやオムニ マックスは、これもカナダの会社であるデューロ テスト社の水冷15kWキセノンランプを通常使用 光源としていた。ウシオ電機がアイマックス用の
22 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 水冷15kWキセノンランプを開発するのは、様々 な理由から大阪万博の実に24年後の1994年(平成 6年)になってである。この点については次の細 項で詳しく述べる。 次の細項に移る前に、この時期の16mm映写機 とその光源についておおまかに触れておこう。 1953年(昭和28年)に設立された映機工業という 会社がある。ここは戦後派の視聴覚用スライド映 写機・16mm映写機の専業メーカであり、したが って過去の遺産に引きずられることなく、まった く新しい発想で16mm映写機に取り組んでいた。 1961年(昭和36年)になると映機工業は、ウシオ 電機が開発した500Wキセノンランプをいち早く 光源に採用した、EX2000型という世界初の水平 点灯方式 16mm 映写機を世に出した。映画館用 35mm映写機で、日本ジーベックスが世界初の水 平点灯を成功させたのが1966年(昭和41年)だか ら、5年も早く16mm映写機でキセノンランプの 水平点灯を実現していたことになる。同年には 1kWの水平点灯キセノンランプ映写機を市民会館 や大会場向けに開発している。これに対して 300Wキセノンランプを搭載した小会場用のポー タブル型も作った。1966 年(昭和 41 年)には、 2kWキセノンランプ搭載で6300ルックスという世 界最高の明るさを実現したEX8000型を同社は世 に送り出した。5年間に16mm映写用キセノンラ ンプが300W、500W、1kW、2kWと飛躍的な進歩 を遂げていた。 こうしてキセノンランプは、300Wから6.5kW までのフルレンジを揃えるに至り、遂に16mmの みならず35mm映写機用光源の主流となっていっ たのである。そしてキセノンランプの中でも、水 平点灯方式が主流となっていったのは言うまでも ない。しかし、残念にもキセノンランプを買って くれる当の映画館は激減していた。そういう状況 で、ウシオ電機はなお市場規模の大きい欧米市場 に積極的に乗り出していった。 (5)キセノンランプ、水冷キセノンランプの 時代─昭和60年∼現在 <複合映画館、超大型映像、テーマパーク映像展 示館と映画再生の時代> 1975年(昭和50年)に2,453館にまで落ち込ん でいた映画館数はさらに減っていった。1989年 (平成1年)になると、遂に2,000館を割り込んで 1,912館に落ち込んでしまう。現在の映画館数は 1,800館程度である。欧米では何年も前から普及し ていた複数のスクリーンをもつシネマコンプレッ クス(複合映画館)が、日本でも1993年以降普及 しはじめ、現在では20カ所程度ある。映画館数 1,800館に対して、スクリーン数は1,900程度と推 測される。なお、現在のシネマコンプレックスの 建設は主に米国資本が中心となって推進してい る。こうして映画館と映画の再生努力が映画館業 界でなされてきており、映写機材業界、ランプ業 界にとっても明るい展望が開けつつある。その背 景と現状については、“2.3.3”「最近の映像施設の 動向と光源」でより詳しく述べるが、結局テレビ やビデオに取られてしまった映画観客の取り戻し と同業間の観客確保競争が主な動機であり、その 具体的方策は映画選択肢を多くし、映画観賞だけ でなく飲食、買い物、その他を同時に楽しめる機 会を提供することにより映画館の魅力を創造して いくことである。 一方、映画館数が減少しつづけ、映画も映画機 材も劇場や映画館以外にも生きる道を模索せざる をえない状況に追い込まれていた1985年(昭和60 年)、筑波研究学園都市で国際科学技術博覧会が 開催された。大阪万博から15年ぶりの本格的な国 際博覧会であったが、そこには大阪万博以上の数 の大型映像、特殊映像が採用されていた。アイマ ックスもアイマックスドームもあった。その光源 はすでに述べたデューロテスト社の水冷15kWキ セノンランプであった。この時点でもウシオ電機 はまだその同等品を開発していなかった。しかし ウシオ電機はすでに独自の水冷 15kW、25kW、 30kWキセノンランプを製造していたし、この国
23 第 二 章 / キ セ ノ ン シ ョ ー ト ア ー ク ラ ン プ 際博覧会以前に垂直点灯方式ならびに水平点灯方 式の水冷10kWキセノンランプを完成していた。 ウシオユーテック(日本ジーベックスの後身)が、 三井館で滝をスクリーンとして映写する35mm映 写装置に、この10kW水冷キセノンランプを光源 とした世界で初めての水冷10kWキセノンランプ ハウスを用いた。こうして15kW水冷キセノンラ ンプに加えて、水冷10kWキセノンランプが映写 機光源としてもデビューしたのである。しかし、 その後空冷10kWキセノンランプが世に出ると、 冷却システムも含めて高価につく水冷10kWは活 躍の場を失っていった。 その3年後の1988年(昭和63年)に高山博覧会 が開催された。そこでウシオユーテックは、カナ ダのアイマックス社のアイマックスドームに代わ りうる、米国のオムニ・フィルム・インターナシ ョナル社の“オムニU”というドーム映写装置を 日本で初めて設置した。光源はカナダのデューロ テスト社の水冷12kWキセノンランプであった。 ここで成功をおさめたウシオユーテックは、以後 2年間にオムニUを6カ所の博物館、テーマ館な どに導入していった。こうして水冷12kWキセノ ンランプの光源としての活躍の場が広がっていっ た。一方ではカナダアイマックス社のアイマック ス、アイマックスドーム、アイマックス3Dがそ の他のテーマ館などに導入されていった。こうし て、水冷15kWキセノンランプの活躍の場も増え ていった。 そういう背景で、アイマックス社はデューロテ スト以外の水冷15kWキセノンランプメーカを望 むようになり、何度かにわたりウシオ電機に打診、 接触してきたのである。デューロテスト製の 15kW水冷キセノンランプの構造は、ウシオ電機 の水冷キセノンランプとかなり異なっていた。そ の後の紆余曲折をへて、1994年(平成6年)にな ってウシオ電機は形状、電気特性がデューロテス ト品と同等の水冷15kWを開発し世に出したので ある。後発としてのメリットを出すため、ウシオ 品は極間をデューロテスト品より短くしてあり、 光出力はランプ単体で30%、スクリーン上で50% デューロテストより明るいという結果が、日本の あるアイマックスシアタで出たのである。1996年 (平成8年)にウシオ電機はデューロテストの水冷 12kWキセノンランプ同等品も開発した。こうし てウシオ電機は、大型映像装置用の10kW、12kW、 15kW水冷キセノンランプを持つに至った。 こうしてみると昭和60年から現在は、映写機用 光源としてのキセノンランプが10kWにまで展開 され、大型映像装置用として水冷10kW、12kW、 15kWキセノンランプが普及していった時代と言 えよう。このことは欧米やアジア地域にも当ては まることであり、ウシオグループの出番がますま す多くなってきている。 以上、明治から現代までの映写機用光源の変遷 について、おもに日本における映写機メーカとそ の映写機の変遷をたどりながら概略を述べてき た。光源の変遷という本項の主旨から、映画機材 業界を語るときに欠かすことのできない次のよう な諸点について今回は触れなかった。 例えば、日本での映写機や周辺機器を語るとき、 ウシオユーテックが日本に紹介し広めていった、 イタリーのシネメカニカや米国のクリスティを抜 きには語れない。ドイツのKTVやキノトン、米 国のセンチュリー、インドのシネスタといった映 写機メーカもまた取り上げる必要がある。日本の 映写機材業界に関連することを語るには、ウシオ ユーテックのみならず、東芝電興(旧東芝ホトホ ーン)やビクターアークス(旧ビクター音響)を 取り上げる必要がある。映画館の形態としては、 ドライブインシアタも考慮に入れる必要がある し、その際は日本初めてのドライブインシアタで ある“船橋ララポート”にまつわる話も避けては 通れない。映写機の運用形態としては、1つの映 画がいくつかのフィルムに分かれていたことによ る映写機2台運用の必要性と、オートワインドつ まりフィルム自動巻き取り機の発達による、映写 機1台での運用に至る経過と光源に対する影響も 重大な要素である。16mm映写機については、横