世界と協力して温暖化防止に貢献
「農業由来の温室効果ガス削減技術」
八木一行
農業環境技術研究所
IPCC 第4次評価報告書(AR4) (2007)
大気CO
2濃度の変化
―実態と予測-
300 400 500 600 700 800 900 1000 1960 1980 2000 2020 2040 2060 2080 2100 大気 CO 2 濃度 年次 A1B A1T A1FI A2 B1 B2 IPCC の各種CO2排出シナリオIPCC(2001)から
気温上昇の程度と様々な分野への影響規模
0 1 2 3 4 水 生態系 食糧 沿岸域 健康 5℃ 0 1 2 3 4 5℃ 数億人が水不足の深刻化に直面する 小規模農家、自給的農業者・漁業者への複合的で局所的なマイナス影響 低緯度地域における穀物生産性の 低下 中高緯度地域におけるいくつかの 穀物生産性の向上 世界の沿岸湿地 の約30%の消失※ 毎年の洪水被害人口が追加的に数百万人増加 ※罹(り)病率:病気の発生率のこと 湿潤熱帯地域と高緯度地域での水利用可能性の増加 最大30%の種で絶滅 リスクの増加 地 球 規 模 で の 重大な※絶滅 サンゴの白化の増加 ほとんどのサンゴが白化 広範囲に及ぶサンゴの死滅 種の分布範囲の変化と森林火災リスクの増加 陸域生物圏の正味炭素放出源化が進行 ~15% ~40%の生態系が影響を受けることで、 洪水と暴風雨による損害の増加 栄養失調、下痢、呼吸器疾患、感染症による社会的負荷の増加 熱波、洪水、干ばつによる罹(り)病率※と死亡率の増加 いくつかの感染症媒介生物の分布変化 医療サービスへの重大な負荷 海洋の深層循環が弱まることによる生態系の変化 中緯度地域と半乾燥低緯度地域での水利用可能性の減少及び干ばつの増加 低緯度地域における 全ての穀物生産性の低下 いくつかの地域で穀物生産 性の低下 ※重大な:ここでは40%以上 ※2000~2080年の平均海面上昇率4.2mm/年に基づく 1980-1999年に対する世界年平均気温の変化(℃)少なくとも、2℃以内の上昇に抑えることが必要!
IPCC 第4次評価報告書(AR4) (2007)
世界の温室効果ガス排出量内訳(2004年)
IPCC 第4次評価報告書(AR4)
CO2: 化石燃料 56.5% CO2: 土地利用変化 17.3% CO2: その他 2.8% CH4 14.3% N2O 7.9% ハロカーボン類 1.1% 運輸 13.1% 生活 7.9% 産業 19.4% 農業 13.5% 林業 17.4% 廃棄物 2.8% エネルギー 25.9%ガス別
分野別
農業と林業の合計は全体の約1/3農業由来の温室効果ガス排出
CO
2
N
2
O
N
2
O
N
2
O
CH
4
CH
4
土壌
肥料
水田
畜産
CO
2
吸 収土壌有機炭素 (SOC)
N
光合成CO
2
化学肥料 有機物農業生態系(農地)における
温室効果ガスの発生と吸収
光合成 と呼吸C
N
2
O
N2O CH4 有機物C
CH
4
土壌呼吸 微生物に よる分解 硝化と脱窒 メタン生成 リターや残渣 の供給 光合成 と呼吸課題番号
:
B-2)-(2)-ab
総合的な温暖化緩和策の定量的評価
農業環境技術研究所中期計画(平成18~22年度)
B-2)-(2)
農業活動等が物質循環に及ぼす影響の解明
(温室効果ガス排出削減部分)
農業活動由来の温室効果ガス、窒素等に関する地域・地球
規模での環境問題の解決に貢献するため、農業活動が物質循
環に及ぼす影響を解明し、負荷軽減策を確立する。
温室効果ガスについては、栽培・土壌管理技術による温室効
果ガス発生抑制効果を定量的に評価することによって、効率的
な負荷軽減技術体系を提示する。
同時に、土壌関連データベースを活用し、土壌炭素の動態を
記述するモデルを検証・改良して、日本の農耕地土壌における
気候変化、人為的管理変化に伴う土壌炭素蓄積量の変化を予
測する。
土壌からの温室効果ガス発生計測
クローズドチャンバー法
マニュアル(手動)チャンバー 自動連続モニタリングシステム 農業環境技術研究所 温室効果ガス発生制御施設田畑輪換試験
農業環境技術研究所温室効果ガス発生制御施設
-50 0 50 100 150 200 CH 4 f lu x (m g C H4 m -2 d -1 ) -5 0 5 10 15 20 水田 転換畑(大豆-小麦) 転換畑(陸稲) 0 5 10 15 20 N2 O f lu x (m g N m -2 d -1 ) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 水稲 大豆 小麦 陸稲 メタン発生 一酸化二窒素発生 水田はメタンを放出 一方、転換畑は 一酸化二窒素を放出 Nishimura et al., 2005 その発生メカニズムは 不明な点が多い農水省生産局委託 土壌由来温室効果ガス計測・抑制技術実証普及事業
新たな水管理技術によるメタン抑制実証試験
参加都道府県(実証試験実施地点) ■灰色低地土 ■グライ土 ■灰色台地土 ■多湿黒ボク土 ■ 山形県(山形市) ■ 山形県(鶴岡市) ■ 福島県(郡山市) ■ 新潟県(長岡市) ■ 岐阜県(岐阜市) ■ 愛知県(長久手町) ■ 徳島(徳島市) ■ 熊本県(合志市) ■ 鹿児島県(南さつま市) 目的: 中干し期間の前倒しや期間を延長した水 管理など、各地で可能な水管理による水 田からのメタン発生抑制技術を実証する。 全国のデータを取りまとめて排出削減係 数を求め、京都議定書第一約束期間中に 「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」 に反映させる。 全国各地で試験研究および普及担当者向 けの説明会を開催し、技術の普及を図る。Yamagata Date 6/1/08 7/1/08 8/1/08 9/1/08 10/1/08 -10 0 10 20 30 40 50 60 70 0 40 80 Conventional Front-loaded MD Extended MD
メタンフラックスの結果(庄内・山形・福島)
0 40 80 Yamagata Shonai Date 6/1/08 7/1/08 8/1/08 9/1/08 10/1/08 CH 4 f lux (mg -C H4 m -2 h -1 ) 0 10 20 30 40 50 Conventional Front-loaded MD Fukushima Date 6/1/08 7/1/08 8/1/08 9/1/08 10/1/08 11/1/08 4 4 0 10 20 30 40 Conventional Front-loaded MD1 Front-loaded MD2 Rai nf al l (m m / day ) 0 40 80 削減分 増加分 慣行(中干し2週間) 中干し3週間 中干し4週間 メ タ ン フラ ッ クス (mg m -2 hr -1) 青線:慣行区 緑・オレンジ:改良区 9地点中8地点で、水管理の改良により、慣行に比べてメタン発
生量を平均30%程度削減できた。
このことから、日本の多くの水田におけるメタン発生の削減に
対して、中干しの強化が効果的であることが明らかになった。
改良水管理では、慣行水管理区に比べて精玄米重が平均4%
低下する傾向がみられたが、登熟歩合の向上や蛋白含量の減
少など品質の向上がみられた。
これらの成果を「技術指導マニュアル」として準備中
水田からのCH
4
発生量評価と削減ポテンシャル
25.1 Tg/yr
CO
2換算で年6.4億トン
95%信頼区間:14.8~41.5 Tg/yrYan et al., 2009
2000年における発生量の地理分布
常時湛水の潅漑水田に間断潅漑 を導入することにより、 4.1 Tg/yr (CO2換算で年1.0億トン) のメタン発生を削減可能硝化抑制剤による
一酸化二窒素(亜酸化窒素)の発生抑制
0.19 0.29 0.91 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 処理区 亜酸化窒素の発生量( m g N m -2 ) 発酵鶏糞区 発酵豚糞区尿素区 0 10 20 30 40 6/11 6/21 7/1 7/11 7/21 7/31 8/10 8/20 8/30 9/9 9/19 9/29 10/9 10/19 Date (月/日) N2 O F l u x (μ g N m -2 h -1 ) 被覆肥料区 硝化抑制剤区 通常肥料区 追肥 基肥N
2O
播種 収穫0
5
10
15
20
25
N2 O 発生量 ( m g N / m 2 ) 被覆 肥料区 硝化 抑制剤 区 通常 肥料 (尿素) 区 淡色黒ボク土の畑にニンジンを栽培した試験結果(Akiyama et al., 2000)農耕地と草地の土壌炭素賦存量の分布図(表層30 cm)
地力保全代表断面 データ 0 ~ 5 5 ~ 10 10 ~ 15 15 ~ 20 20 ~ (kg C m-2) tC ha-1 0-50 50-100 100-150 150-200 200-0 ~ 5 5 ~ 10 10 ~ 15 15 ~ 20 20 ~ (kg C m-2) tC ha-1 0-30 30-60 60-90 90-120 120-農耕地 平均:81 tC ha-1 合計:4.2億tC 草地 平均:119 tC ha-1 合計:2.4億tC 国土数値情報土地 分類メッシュデータ 植生調査 ベクタデータ 土壌図 ベクタデータ 草地の分布図 炭素量の情報を持っ た土壌図 炭素量の情報を持っ た土壌群の分布図 メッシュ化(1km) した 土壌炭素賦存量 分布図 重ね合 わせ農地炭素循環モデルによる土壌炭素蓄積
効果の将来予測
シナリオ別炭素投入量(tC/ha/年) シナリオ 水田 畑 作物残渣 堆肥 作物残渣 堆肥 1.有機物未投入 0.46 0 0.41 0 2.堆肥 0.46 1.0 0.41 1.5 3.水田二毛作 0.46 + 0.70 0 0.41 0 4.堆肥+水田二毛作 0.46 + 0.70 1.0 0.41 1.5 シナリオ 水田 畑 作物残渣 堆肥 作物残渣 堆肥 1.有機物未投入 0.46 0 0.41 0 2.堆肥 0.46 1.0 0.41 1.5 3.水田二毛作 0.46 + 0.70 0 0.41 0 4.堆肥+水田二毛作 0.46 + 0.70 1.0 0.41 1.5 水稲の 根+刈株 麦・大豆の 根+刈株 麦の根+刈株 水田で10t/ha、畑で15t/ha施用。堆肥の 現物あたりC含有率を10%として計算。 1990年時点での炭素蓄積量を初期値とし、 1)全ての農耕地に堆肥を投入した場合 (堆肥シナリオ)、 2)全ての水田で裏作に麦を作付けした 場合(水田二毛作シナリオ) 3)堆肥+水田二毛作シナリオ について、 1kmメッシュごとにモデル計算を行った。 RothCモデル(Rothamsted Carbon Model)
CO2 *堆肥 RPM BIO HUM IOM DPM DPM/RPM CO2/(BIO+HUM) BIO/HUM *植物遺体 DPM:易分解性炭素 BIO:微生物バイオマス RPM:難分解性炭素 HUN:腐植 IOM:不活性な炭素 潜在的分解率 低 高 Total 炭素
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 1990 1995 2000 2005 2010 2015 未投入シ ナ リ オ と の差( M t C ) 堆肥+二毛作 堆肥 水田二毛作
全国の農耕地における各シナリオの土壌炭素蓄積効果
土壌炭素
蓄積効果
水田 畑 合計 堆肥 18 14 32 水田二毛作 11 - 11 堆肥+水田二毛作 29 14 4325年間の土壌炭素蓄積効果(MtC)
Yokozawa et al. SSPN (2010)IPCC 第4次評価報告書(AR4)第3作業部会報告(2007)
農林業分野からのGHG排出とその緩和策
農林業分野からのGHG排出 農業分野からの排出は地球全体で5.1-6.1 Gt CO2 -eq/yr (人為起源の13.5%)であり、そのほとんどがCH4 と N2Oによる。 森林破壊などの土地利用変化による林業分野からの CO2排出は地球全体で5.8 Gt CO2-eq/yr であり、その 他の排出も含めて人為起源の17.4%に相当する。 農林業分野を合計すると全GHG排出の約1/3に達する。 農業分野のGHG緩和策(排出削減策) 非農業分野(エネルギー、運輸、森林)のものとコスト的に競合出来る。 長期間の効果が期待出来、全体として大きな貢献が可能である。 緩和(削減)ポテンシャルの約70%は開発途上諸国にある。 その適用について、持続的開発政策と一致させることにより、削減の 可能性をいっそう前進させると予測される 。IPCC AR4 WG3 Ch8 (2007)
農林業分野からのGHG排出削減ポテンシャル
2030年までの削減ポテンシャルの地理分布
どのように、研究成果を世界に
展開するのか?
どうしたら、世界と協力して、
温暖化防止に貢献できるのか?
研究資源を有効活用して世界の研究機関・研究者との連携
を強化し、
共同研究や研究協力
等の取組を推進する。
国際的に活躍する
人材を養成
するとともに、諸外国の研究
機関から研究者を招へいする等、国際的な
人的交流
を進める。
温暖化防止のための
国際的な組織・枠組み
に積極的に参
加し、研究成果を提供する。
アジア地域における農業環境研究に関するイニシアチブを
確保するため、複数の国・機関が参加する
国際研究コンソー
シアム
の構築を図る。
3つの作業部会 「評価報告書」の発表 WG I 気候システム及び気候変動に関する科学的知見 WG II 社会経済システムや生態系の脆弱性と気候変動 の影響及び適応策 WG III 温室効果ガスの排出抑制及び気候変動の緩和策 タスク・フォース 「ガイドライン」の策定 「排出係数データベース(EFDB)」の構築 NGGIP (国別GHGインベントリータスク・フォース) 国別温室効果ガス目録プログラムの推進
IPCC
Intergovernmental Panel on Climate Change
(気候変動に関する政府間パネル)
人為的な気候変動のリスクに関する最新の知見の
とりまとめと評価。1988年設立
。
政府単位で加盟する、農業分野におけるGHG排
出緩和に関する国際研究ネットワーク
2009年12月のCOP15(Copenhagen)にて閣僚宣言
により設立
農業生産におけるGHG排出の削減や土壌炭素貯
留の可能性に寄与することを目的とする
2010年4月にニュージーランドにて、第1回高級事
務レベル会合を開催
2010年8月時点で、30か国が加盟済み(アジアか
らは、日本、ベトナム、マレーシア、インド、インドネ
シア、フィリピン、パキスタン)
農業分野の温室効果ガスに関する
グローバル・リサーチ・アライアンス
クロスカッティング課題
研究グループ
農業分野の温室効果ガスに関する
グローバル・リサーチ・アライアンス
事務局
ニュージーランド
畜産
ニュージーランド オランダ農地
米国
水田
日本
CN循環
フランス オーストラリアインベントリー
カナダ オランダ運営委員会
アドバイザリーボード体制とコーディネート国
MARCO/GRA Joint
Workshop
On Paddy Field Management and
Greenhouse Gases
September 1-3, 2010
Tsukuba, Japan
計測中の試験サイト 過去の試験サイト 農業環境技術研究所
農耕地温室効果ガス
モンスーンアジア農業環境研究コンソーシアム
Monsoon Asia Agro-Environmental Research Consortium