加地修一郎
神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科
はじめに
急性大動脈解離の治療において,内科治療と外科
治療のどちらを選択するかは,最も重要な臨床判断
である.この判断には,患者背景はもちろんだが,大
動脈解離の形態を正しく理解することが必要不可欠
である.本稿では,急性大動脈解離の診断,なかで
も画像診断におけるポイントと,それに基づいた内
科治療の適応について概説する.
急性大動脈解離の診断
急性大動脈解離の存在診断において,重要なこと
は,「まず疑うこと」である.典型的な強い胸背部痛
があって,血圧の上昇や左右差が認められれば,大
動脈解離を疑うことは容易であるが,いつも典型的
な症状を呈するとは限らない.麻痺などの脳梗塞の
症状で発症する場合や,ショックや意識障害が主な
症状である場合もある.急性大動脈解離の多彩な症
状を念頭におき,疑ったら造影CTを撮像するべきで
ある.最近,Dダイマーの上昇が解離の診断に有用
と報告されている.急性大動脈解離の存在を,発症
早期のDダイマーが0.5μg/mLを超える基準で診断す
ると,感度96〜100%,特異度54〜61%と報告されて
いる
1)2).Dダイマーの性質上,特異度は高くないが,
臨床には非常に有用なマーカーと思われる.
大動脈解離の画像診断では,部位診断と真腔と偽
腔の形態を鑑別することが重要である.まず部位診
断では,解離が上行大動脈に及ぶかどうかを診断す
る必要がある.上行大動脈に解離が及ぶ場合,心タ
ンポナーデや大動脈弁閉鎖不全症などの致死的合併
症を起こす可能性が高く,緊急手術が勧められる.ス
タンフォード分類はこの原則に沿った分類で,すな
わち上行大動脈に解離があり緊急手術が推奨される
A型と,上行大動脈に解離がなく内科治療が勧めら
れるB型に分けられる.また,部位診断では,主要
分枝への解離の波及も把握する必要がある.頸動脈
や上腸間膜動脈に解離が及ぶと,脳梗塞や腸管虚血
などの致死的な合併症を引き起こすため,早急な治
療介入が必要である.
次に,真腔と偽腔の形態の観察も重要である.偽
腔の形態は,予後に大きな影響を与えることが多く
報告されている.そのため,日本循環器学会が上梓
した大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年
改訂版)では,偽腔の形態により偽腔開存型,偽腔閉
塞型,ULP型の 3 つに分類されている
3).一般に,偽
腔閉塞型解離は,欧米ではaortic intramural
hema-tomaと呼称され,内膜亀裂(tear)および偽腔内血流
を認めない解離のことを示している.これに対して,
内膜亀裂と偽腔内に血流を伴う解離は偽腔開存型と
呼ばれる.偽腔閉塞型解離は,偽腔開存型解離と同
様に,胸痛および背部痛を主訴に発症し,画像診断
上,三日月型の偽腔を認め,かつ偽腔が造影CTで造
影されないのが特徴である(図 1).欧米では,この病
態を,大動脈を栄養する血管の破裂による大動脈壁
内の血腫,すなわちaortic intramural hematomaとし
てとらえ,疾患名の由来となっているが,病因につ
いては異論も多く,病因に基づいたaortic intramural
hematomaという呼称はふさわしくないのではないか
という議論がある.偽腔閉塞型解離の 1 つの特徴は,
偽腔が徐々に退縮する一方で,偽腔内に血流が出現
し,潰瘍様病変を形成したりすることである.このよ
うにしてできた潰瘍様病変をulcer-like projection;
部下行大動脈に内膜亀裂を有するA型逆行解離で上
行大動脈が血栓化した場合である.
① A型偽腔閉塞型解離
偽腔閉塞型解離は,経過中に偽腔がしばしば退縮
するため,A型であっても内科的に治療することが
ULP(潰瘍様突出像と邦訳)と称する.ULPの部分に
は内膜亀裂が存在するため,ULPが生じた以上,偽
腔閉塞型の定義は満たさないのであるが,しばしば
偽腔閉塞型と称され,混乱が生じていた.そのため,
2011年に改訂された先述の診療ガイドラインでは,
ULPを有する解離例(発症時からULPを有する例も含
む)をULP型と,偽腔閉塞型解離とは別個の病態とし
て定義している(図 2 )
3).
急性大動脈解離の内科治療
急性大動脈解離の治療においては,先述のように,
スタンフォードA型は緊急手術,B型は内科治療を施
行するのが原則とされる.しかしながら,一部のA型
に対しては,内科治療が行われることがあり,またB
型においても,合併症のある症例に対しては,急性
期にステントグラフト内挿術による治療が施行され
ることがある.そこで,A型とB型の内科治療の適応,
注意点について述べる.
1.A型急性大動脈解離の内科治療
A型解離であっても,上行大動脈が血栓化してい
て血流がない場合,保存的に加療することが可能で
ある.具体的には,A型偽腔閉塞型解離の場合と胸
図 1 スタンフォードA型およびB型の偽腔閉塞型 急性大動脈解離のCT画像 A:A型偽腔閉塞型解離例;上行,下行大動脈に三 日月型の造影されない偽腔を認める. B:B型偽腔閉塞型解離例;下行大動脈に三日月型 偽腔を認める. A B 図 2 ULP型解離と偽腔閉塞型解離 A:Ulcer-like projection(ULP:矢印)を認めるULP型 解離の例. B:内膜破綻を認めない偽腔閉塞型解離の例;内膜破綻 を認めず,偽腔内に血流を認めないのが特徴である. A Bうか検討することが今後の課題である.われわれの
施設ではA型偽腔閉塞型解離については,表のよう
な治療方針をとっている.
② 胸部下行大動脈に内膜亀裂を有するA型逆行解離
一般にA型偽腔開存型解離は上行大動脈内に内膜
亀裂が存在することが多く,そこから順行性に解離
が進行する.しかしながら,一部の症例では,上行
大動脈内に内膜亀裂がなく,胸部下行大動脈(あるい
は稀に腹部大動脈)に存在する内膜亀裂から逆行性に
解離が進行する.このような逆行解離例は,順行性解
可能である.現在まで,本邦や韓国から内科治療の
良好な成績が多く報告されている
4)〜 7).図 3 に内科
治療により偽腔が消失した 1 例を示す.一方で,内
科治療中に約40%の症例で偽腔開存型へ進行するこ
とが報告されており,内科治療をするべきかどうか
議論がある.特に,欧米では偽腔開存型と同様に外
科治療をするべきという意見が強い.ここで注意す
べきは,初期に内科治療を選択したとしても,厳重
な降圧治療および画像診断による経過観察が必要な
ことである.内科治療を施行した報告では,約30〜
40%の症例で解離の進行が認められ,手術を施行し
ている
6)7).この“watchful waiting”が内科治療で最
も重要なポイントである.われわれの施設では,偽
腔が拡大した場合や上行大動脈内に血流が生じた場
合(多くはULPとして観察される)は準緊急手術を施
行するようにしている.また, 2 週間たっても偽腔が
退縮してこない場合も手術を考慮している.そこで,
このように偽腔が進行して手術が必要になる症例を
予測できないか,いくつかの報告がなされている.例
えば,大動脈径が50mm以上
6),55mm以上
7)あるい
は血栓化した偽腔の径が11mm以上
9)の例は内科治療
中に解離が進行する率が高いと報告されている.こ
れらの高危険群について,緊急手術をするべきかど
図 3 内科治療を施行したA型偽腔閉塞型 急性大動脈解離例 A:発症時のCT画像 B: 2 カ月後のCT画像 上行大動脈および下行大動脈の偽腔は消 失している. 表 A型偽腔閉塞型大動脈解離に対する当院の治療方針 • 大動脈閉鎖不全症や,心嚢水貯留,心筋虚血を合併した症 例は緊急手術を施行する. • 上記以外で血行動態が落ち着いた症例は,降圧を中心とし た内科治療を施行.具体的には,動脈圧モニターを施行し ながら集中治療部で経過観察.画像診断は 3 日以内と 1 週間前後にMDCT検査を行う. • 上行大動脈径が50mm以上ある症例は,偽腔の縮小が認め られなかったら早期の手術を考慮する. • 経過中に,上行大動脈に血流が認められた場合は,ULP型 へ移行したと考え,準緊急手術を施行.また偽腔が拡大し た症例も準緊急手術を施行. • 2 週間以上経過して,上行大動脈の偽腔がほぼ退縮した症 例は退院可能である.これに対して,合併症を有しない例に対しての治
療については,多くの議論がある.まず,B型大動
脈解離の退院時生存例の 3 年生存率は75〜80%と報
告されており
14),良好とは言い難い.このような慢性
期の予後を改善するために,胸部ステントグラフト
内挿術が有効ではないかと考えられている.現在,合
併症のない例に対して実施済み,あるいは進行中の
無作為試験がいくつかあるが,有効であるという報告
はいまだない.特に,2009年に発表されたINSTEAD
トライアルでは,胸部ステントグラフト内挿術の有
用性は証明されなかった
15).したがって,現時点で
は胸部ステントグラフト内挿術は合併症のある症例,
あるいは将来,大動脈関連事象を起こす可能性があ
る事例に対して施行される方向性にある.そこで,将
来,大動脈関連事象を引き起こすような危険因子を,
画像診断で評価することが重要と考えられている.
B型大動脈解離の画像診断での危険因子について
は,初期の研究で,大動脈径が40mm以上
16)でかつ
偽腔が開存している症例が予後不良であることが報
告されている.一方,Songらは,偽腔の径が22mm
以上が危険因子であると報告している
17).さらに,偽
腔に血流があるかどうかも重要な因子となり,偽腔
が開存して偽腔内に血流がある例は,偽腔内に血流
離と同様に治療されることが多いが,上行大動脈が
完全に血栓化している症例では内科治療が可能であ
る.われわれは,14例の上行大動脈の偽腔が完全に
血栓化した逆行解離例を内科治療した結果, 5 年生
存率が93%と良好な成績であったことを報告してい
る
10).したがって,このような症例はたとえA型偽腔
開存型であっても,A型偽腔閉塞型と同様に“watch-ful waiting”によって,内科治療することが可能であ
る.
2.B型大動脈解離の内科治療
合併症のないB型解離の場合,内科治療による30
日間の死亡率あるいは院内死亡率は約10%と報告さ
れているのに対して,外科治療の成績も同等である
ため,降圧を中心とした保存的治療が推奨されてき
た.しかし,ショックや血圧低下,治療抵抗性の疼
痛,下肢虚血,腸管虚血などの合併症をきたした症
例は極めて予後不良なため
11),外科的な治療介入が
必要である.近年,胸部ステントグラフト内挿術は,
合併症を有するB型大動脈解離の治療法として,比
較的良好な治療成績が報告されており
12)13),致死的
合併症を有するB型大動脈解離に対して,第 1 選択
になりつつある.
図 4 偽腔が部分血栓化しているB型偽腔 開存型解離の自然経過 A:発症時のCT画像;弓部の最大大動脈 短径は50mmで,偽腔は部分血栓化 していた. B:発症 3 年後のCT画像;弓部大動脈の 最大大動脈短径は58mmに拡大して いる. A B9)Song JM, Kim HS, Song JK, et al : Usefulness of the ini-tial noninvasive imaging study to predict the adverse outcomes in the medical treatment of acute type A aor-tic intramural hematoma. Circulation 2003 ; 108(Suppl) : II324-II328
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にB型大動脈解離が,慢性期に大動脈径の拡大を呈
した例を示す.一方,B型偽腔閉塞型解離については
どうだろうか.われわれは,経過中に生じたULP,な
かでも下行大動脈近位部に生じたULP(すなわちULP
型解離への移行)が有意な予後不良因子であったこと
を報告した
19).今後は,これらの危険因子をもつ群に
対して,早期治療介入の妥当性を検証していくこと
が重要と思われる.おそらく,大動脈径40mm以上,
ULP型解離などを対象に,発症早期に胸部ステントグ
ラフト内挿術を施行していく方向になるのではない
かと考えている.近年,MDCTの登場により,偽腔も
含めた大動脈解離の形態が,詳細に観察できるよう
になってきた.今後,ますます画像診断が治療方針
決定に重要になってくると思われる.
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