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以 上 のような 理 由 から, 最 近 では, 関 係 者 の 証 言 だけ からではなく,DNA 鑑 定 [7], 指 紋 鑑 定 [8], 繊 維 鑑 定 [9] 等, 技 術 的 に 裏 付 けがされた 客 観 的 証 拠 を 積 極 的 に 収 集 し, 多 角 的 に 事 件 の 検 討

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SCIS 2010 The 2010 Symposium on Cryptography and Information Security All rights are reserved and copyright of this manuscript belongs to the authors.

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Takamatsu, Japan, Jan. 19-22, 2010 The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers

痴漢冤罪対策の一方式の提案

A proposal of a defense against a false accusation of sexual molestation

藤井裕樹*

中澤優美子** 安倍史江**

山本匠

†, ††

西垣正勝

†††

Yuki Fujii

Yumiko

Nakazawa Fumie Abe

Takumi Yamamoto Masakatsu Nishigaki

あらまし 痴漢被害が被害者の証言のみで簡単に立証できるようになり,痴漢被害の受理件数が増加 するとともに,痴漢冤罪という新たな問題が発生している.痴漢冤罪は,冤罪を証明するための客観 的証拠が得られることが少なく,また,事象の存在を証明することに比べて不存在の証明が法律的に 困難であることから,容疑者(冤罪被害者)は圧倒的に不利な立場に置かれる.そこで我々は,痴漢 冤罪を証明する客観的証拠の確保を技術的にサポートするため,(i)痴漢の犯行により当事者に生じた 体内状態と(ii)痴漢発生時の当事者の接触状態の 2 つの観点から冤罪対策方式を提案する. キーワード 痴漢冤罪 人体通信

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はじめに

しかし,痴漢の立証が容易に行えるようになったこと で,満員電車での意図しない接触を痴漢と誤認(勘違い) されたり,真の痴漢加害者と間違えられることによって, 実際には痴漢行為を働いてはいない無実の人を罪人(痴 漢加害者)として逮捕し立件する,いわゆる痴漢冤罪の問 題が新たに浮上した.また,実際には痴漢の事実は存在 しないにも関わらず,示談金・ストレス解消・個人的な 恨み等を目的として,痴漢被害をでっちあげる虚偽告訴 も増加した. 近年,痴漢が社会問題となっている.痴漢行為とは相 手の意に反してわいせつな行為を働くことを意味する. 痴漢行為は犯罪行為に相当するため,逮捕者は法律に基 づいて罰せられる. 痴漢が社会問題として注目される以前は,痴漢事件が 発生しても立証できた事例が稀であり,痴漢被害に遭っ ても泣き寝入りをする被害者が多かった.しかし,1997 年に男女共同参画審議会が設置されたことが,この問題 に大きな影響を与えることとなった.男女平等の動きが 活発化し,特に,女性に対する暴力・嫌がらせ・迷惑行 為を無くす運動が盛んに行われるようになった[1].これ により,痴漢等の性犯罪に対する取締りが強化されるよ うになり,被害者女性の証言のみで痴漢を立証できるよ うになった. このような誤認や虚偽告訴によって,痴漢冤罪が起き てしまう主な原因は,冤罪を証明するための客観的証拠 が得られにくいこと[4]や,そのような客観的証拠が無い 痴漢事件において,被害者に対する情動から,被害を訴 える人間の「証言」が最も優先度の高い証拠として取り 扱われることが多いからと考えられる.また,「悪魔の証 明」という言葉が示すように,法律の観点から,事象の 存在(痴漢行為を行った)を証明することよりも,事象 の不存在(痴漢行為を行っていない)を証明することの ほうがはるかに困難であるため,冤罪の立証は非常に難 しいとされている. このような背景から,近年,痴漢被害の受理件数が急 増している.さらに,女性のみ乗車可能な女性専用車両 [2]や,容易に目撃者の証言を得ることのできる目撃者カ ード[3]といった,様々な痴漢対策が導入され始めるよう になった. さらに悪いことに,容疑者を取り調べる警察官も,被 害を訴える人間(痴漢被害者や冤罪加害者)の証言から, 容疑者は痴漢行為を行ったと決め付けて捜査を進めるこ とも少なくないとされており,長時間にわたって容疑者 を拘留し執拗に取り調べを行うとも言われている[5].長 期にわたる拘留の末,自分の身の潔白を証明できたとし ても,長い間痴漢の容疑で拘留されていたことが周りに 知られるだけで,自分や親族の社会的立場まで脅かされ てしまう. *静岡大学情報学部,〒432-8011 浜松市中区城北 3-5-1,Faculty of Informatics, Shizuoka University, 3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan

*静岡大学大学院情報学研究科,〒432-8011 浜松市中区城北3-5-1, Graduate school of Information, Shizuoka University, 3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan

† 静岡大学創造科学技術大学院,〒432-8011 浜松市中区城北 3-5-1, Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University, 3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan

†† 日本学術振興会特別研究員(DC)

Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science (DC) ††† 独立行政法人科学技術振興機構,CREST,Japan Science

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以上のような理由から,最近では,関係者の証言だけ からではなく,DNA 鑑定[7],指紋鑑定[8],繊維鑑定[9] 等,技術的に裏付けがされた客観的証拠を積極的に収集 し,多角的に事件の検討を試みることで,痴漢冤罪事件 を撲滅していこうとする動きがみられている[6]. そこで著者らは,事件の多角的な検討をサポートする 新たな技術として,(i) 痴漢の犯行により当事者に生じた 体内状態,(ii) 痴漢発生時の当事者の接触状態,の 2 つ の観点に注目し,痴漢事件の客観的証拠を集める方式を 提案する. 以下,2 章で現状取り組まれている客観的証拠の収集 技術を紹介する.3 章および4章で新たな客観的証拠を 集めるための2種類のアプローチを提案し,それぞれの 方式ついて議論する.最後に.5 章で本稿をまとめ,今 後の課題を示す.

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現状の取り組み

痴漢事件の客観的証拠を集める技術的なアプローチ として,現在までのところDNA 鑑定[7],指紋鑑定[8], 繊維鑑定[9]の 3 種類がよく知られている. z DNA 鑑定 DNA 鑑定とは,遺伝子情報を担って いるDNAの中の核酸塩基配列の繰り返し回数が個 人により差があることを利用し,その繰り返し回数 を数えることで個人を特定する方法である[7]. DNA は人の体を構成するすべての細胞に存在する ため,他人の皮膚に触れただけで他人のDNA が自 分に付着し,他人にも自分のDNA が付着すると言 われている.このDNA を調べることで誰が触れた かわかる方式である. z 指紋鑑定 指紋鑑定とは,指先の皮膚にある模様を 利用して個人を特定する方法であり.大きく分けて 三種類の方法に分けられる.指紋の隆線の形で鑑定 する「隆線縁鑑定法」,隆線にある汗腺孔の形や間 隔・位置などで鑑定する「汗腺孔鑑定法」,特徴点 間の距離や角度を測り鑑定する「特徴点鑑定法」が ある[8].手の表皮には多くのしわ模様があり,更に 表面はいつも無色透明な汗が出ている.この汗によ るしわ模様が触れた物に付着することで指紋が残 留する.この模様を前述した鑑定法によって鑑定し, 人物を特定するのである. z 繊維鑑定 繊維鑑定とは,身体を触られたと訴えて いる人間の衣服や下着の繊維が容疑者の手に付着 していないかどうかを確認する方法である.訴えて いる人間の衣服や下着の繊維が容疑者の手から発 見されれば,容疑者は訴えている人間の身体を衣服 の上から意図的に強く触れていた(痴漢行為を働い た)と推測することができる[9]. これらの技術は,痴漢冤罪を撲滅していこうとする社 会的な動きから,現在積極的に取り入れられつつある. しかし,これらの客観的証拠(DNA,指紋,繊維等)は, いつも精度よく収集することができるとは限らない.ま た,満員電車の中で意図せず他人に触れてしまったこと で,相手の衣服の繊維等が自分の手に付着してしまった り,相手の衣服に自分の指紋が残ってしまったりするこ とも考えられる.そのような状況で,万が一痴漢に間違 えられたら,自分の身の潔白を証明するためには,別の 観点からの客観的な証拠が必要になってくると考えられ る.また,客観的な証拠が集まれば集まるほど,裁判で 間違った判決がくだされることも少なくなると考えられ る. そこで本稿では,従来とは異なる方法で,客観的な証 拠を技術的に集める方式を提案していく.提案方式は従 来の客観的証拠と併用することでも,大きな効果を発揮 すると考えられる.

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ドキドキ検知方式

3.1 コンセプト

痴漢事件の客観的な証拠として,著者らは,丸岡らが 提案した「不審な挙動の検知による内部犯対策」[10-12] に注目した.丸岡らの方式は,不審者が不正を行う際の 通常とは異なる心理状態(緊張感や罪悪感)を,生理的 側面(心拍数の変化)および行動的側面(横目で周囲を 確認する(チラ見))から観測することによって,不正検 知を試みた方式である. 同様に,痴漢加害者にも痴漢行為を働く際に,通常と は異なる心理状態が起こりうると推測できる.つまり容 疑者の心理状態を生理的側面および行動的側面から観測 することで,容疑者が本当に痴漢行為を働いたかどうか を明らかにすることができると考えられる.

3.2 心理状態の観測による不正検知

痴漢加害者は痴漢行為を働く際に,罪を犯すことへの 緊張感や罪悪感を覚えたり,性的興奮を得たりすると考 えられる.それに伴い,痴漢加害者の身体には,生理的 または行動的に何らかの変化(脈拍数の上昇,視線をキ ョロキョロさせる等)が生じると考えられる(図 1).

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⎪ ⎪ ⎪ ⎩ ⎪⎪ ⎪ ⎨ ⎧ 変化無し 図1 検出したい容疑者の状態変化 通常電車内では起こりにくい異常な心理状態を測る 生理的または行動的尺度として,以下に示す情報等が挙 げられる. (1)心拍数の変化 (2)体温の変化 (3)発汗量の変化 (4)表情(視線など)の変化 上記のような情報を乗車中漏れなくログとして残し, 痴漢被害が起きたとされる時間帯には,心理状態には問 題は無かった(脈拍数・発汗量・体温・視線の動きに変 化が見られない等)ことを示すことで,万が一痴漢に間 違われたときでも,容疑者の身の潔白を示す客観的な証 拠として利用することができると考えられる. さらに,被害者に注目すると,痴漢行為を受けている 間は,恐怖感や緊張感を覚えたり,性的ストレスを感じ たりしているはずである.それに伴い,被害者の身体に も,生理的または行動的に何らかの変化が起こると考え られる.痴漢被害が起きたとされる時間帯の,被害を訴 える人間の心理状態のログを確認することで,本当に痴 漢の被害を受けていたのか,すなわち,痴漢被害をでっ ちあげていないのかを確認することも可能だと考えられ る. また,痴漢の容疑者と被害を訴える人間の心理状態の ログを照らし合わせ,両者の間の同期を検査することで, 両者の間に痴漢の事実(加害者と被害者の関係)が存在 したかどうかを確認することも可能であると考えられる (図 2). 以上から,本方式では以下のことがいえる. 1). 痴漢が発生したとされる時間帯の痴漢容疑者の 心理状態のログに,(性的興奮や罪悪感等から生じ る)生理的または行動的変化が確認されなければ, 容疑者が痴漢加害者である可能性が低く,変化が 確認されれば,容疑者は痴漢加害者である可能性 が高いと言える. 2). 痴漢が発生したとされる時間帯の被害を訴える 人間の心理状態のログに,性的ストレス等から生 じる)生理的または行動的変化が確認されなけれ ば,痴漢被害をでっちあげている(虚偽告訴)可 能性が高く,変化が確認されれば,痴漢被害が実 際に存在した可能性が高いと言える. 3). 痴漢が発生したとされる時間帯において,痴漢の 容疑者と被害を訴える人間の心理状態のログが時 間的に同期していなければ,両者は無関係である (痴漢加害者と痴漢被害者の関係ではない)可能 性が高い.一方,同期が確認されれば,両者には 関係があった(痴漢加害者と痴漢被害者の関係で ある)可能性が高いと言える. 図2 検出したログの比較

3.3 検討・考察

本方式は,電車に乗っている人間の心理状態(生理的 または行動的な変化)を常時観測しログに残しておくこ とで,被害者側と容疑者側の双方から客観的証拠を得る ことができると考えられる.本方式を導入することで以 下のような効果が期待される. 1). 女性が悪人(痴漢冤罪加害者)の場合,虚偽告訴 の抑止力となる 2). 男性が悪人(痴漢加害者)の場合,痴漢の抑止力 となる 3). 女性が善人の(痴漢被害者)場合,痴漢があった ことの証明となる 4). 男性が善人の場合(痴漢冤罪被害者),痴漢冤罪 脈拍数↑ ⎪ ⎪ ⎭ ⎪ ⎪ ⎬ ⎫ ・ 視線など 表情    発汗量・    脈拍数・     体温・ ) ( 変化した状態 発汗量↑ 脈拍数一定 発汗量一定 変化した状態 痴漢加害者 痴漢被害者 乗客 脈拍数などのログ 脈拍数などのログ 脈拍数など一定 脈拍数の上昇 二人の間に 痴漢事件は無かった ログの同期がない 0 5 10 15 20

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の証明となる 以上に挙げる4 つの条件から,本方式は痴漢冤罪対策 としてだけではなく,痴漢対策としても効果が期待でき ると考えられる.以下では,提案方式において考慮すべ き点にについて簡単に議論する. 提案方式では,痴漢事件が起こり易い環境(電車内等) において,常時心理状態のログを取得する装置を身につ ける必要があり,ユーザの負荷や抵抗感は大きいように 感じられる.しかし,携帯電話のように,多くの人達が 常時携帯している機器に,心理状態を観測する機能やロ グ記録機能を追加することができれば,乗客の負荷や抵 抗感はそれほど大きくならないと考えられる.また,痴 漢に間違われた際の社会的な立場への影響を考慮すれば, 自己防衛のために本方式の導入(心理状態のログを取得 する装置を装着すること)をそれほど躊躇しないのでは ないかとも考えられる. 痴漢や冤罪加害者が自身の心理状態ログの改ざんを 試みる可能性もあるだろう.ログの改ざんについては既 存のデジタル・フォレンジック[13]により対策が可能で あると考えられる. 提案方式は,電車内等の公共の場では通常起こりえな い異常な心理状態(性的興奮や性的ストレス)により引 き起こされる生理的または行動的変化が,その他の通常 起こりうる心理状態(怒りや興味等)によって引き起こ されるものと有意に差があることを前提として話を進め ている.この前提が正しくなければ提案方式は正しく機 能しない.今後,痴漢を働いたとき,および,痴漢被害 に遭ったときの生理的または行動的変化が,その他の場 合と比べ有意に差があるのかについて調査を行う必要が ある.

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接触状態検知方式

4.1 コンセプト

痴漢事件では一般的に,加害者は被害者の身体に触れ ると考えられる.そこで,著者らは電車に乗っている間, 誰と誰が接触していたのかを示す情報をログ(接触ログ) に残しておく方式を検討する.万が一痴漢に間違えられ た際には,痴漢が発生したとされる時間帯に,被害を訴 える人間に接触したことを示す接触ログが存在しなけれ ば,容疑者は痴漢加害者ではない可能性が高いと言える.

4.2 人体通信技術を用いた接触検知

誰と誰が接触したかを検知するために,著者らは人体 を通信路とする人体通信技術[14,15]に着目した.人体通 信技術に着目したのは,人体通信装置を所持した2人が お互いを触れるだけで,2人の間に通信路を形成するこ とができるためである(図 3).すなわち,2人の間に通信 路が形成されたかを確認することで,2人の間に接触の 事実が存在したかを示すことができる. 図3 人体通信技術を用いた通信 以下に人体通信技術を利用した本方式の前提および, ログの記録・検証手順を簡潔に示す. 【前提】 z 全ての乗客は人体通信装置を予め装着している ものとする. z 全ての人体通信装置には異なる固有番号が割り 振られている. z 人体通信装置は,人体通信機能の他に接触ログ記 録機能を持っている. z 電車に乗り始めてから降りるまでの間,漏れなく ログが記録されているものとする. 【接触ログの記録手順】 1). 痴漢加害者が乗客の身体に触れると,痴漢加害者と 乗客の間に人体通信路が形成される. 2). 通信路形成後,2つの人体通信装置は通信相手に自 身の固有番号を送信する. 3). 人体通信装置は受信した相手の固有番号を通信路 形成時刻とともにログとして記録する. 4). 痴漢加害者がその乗客との接触を止めれば,人体通 信路が消え,人体通信装置はその時刻をログに記録 する(図 4). 図4 接触することで互いの固有番号を送受信 【接触ログの検証手順】 A が B に痴漢されたと訴える場面を想定する.

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1). 痴漢が発生したとされる時間帯の 2 人の接触ロ グを照らし合わせる. 2). ログの確認の結果,接触の事実が無かった場合, B が A に対して痴漢行為を働いた可能性は低い と考えられ,B の身の潔白を証明することができ ると考えられる.(ただし,A と B の人体通信装 置が安定的にログを記録していたことが保証さ れていることを前提とする.) なお,接触の事実があった場合,その結果によって痴 漢行為があったと判断することは危険である.なぜなら, それが故意によるものなのか,どちらが触れてきたのか, ということまでは本方式では把握することはできないか らである.

4.3 検討・考察

提案方式は,人体通信技術を用いることで,痴漢の被 害を訴える人間と容疑者との間に,接触の事実があるか どうかを示すことが可能である.ただし,満員電車の中 で偶然接触してしまった場合にも接触のログが記録され てしまうことや,どちらが触れてきたかを判断すること が難しい.すなわち本方式は,DNA 鑑定,指紋鑑定, 繊維鑑定等の手法とほぼ同等の証拠を電子的に取得する 技術であると言えよう.乗客は,本方式の機能を有する 装置を身に着けることによって,DNA,指紋,繊維に匹 敵する客観的証拠を自動的かつ定常的に取得することが できる.以下では,提案方式において考慮すべき点にに ついて簡単に議論する. 提案方式においては全ての乗客が人体通信装置を持 っていることを前提にしている.装置の所持に関する乗 客の負荷に関しては,ドキドキ検知方式同様,携帯電話 のように多くの人達が常時携帯している機器に人体通信 およびログ記録機能を追加することができれば,乗客の 負荷もそれほど大きくならないと考えられる.また,提 案方式では電車内で接触した乗客どうしの間でお互いの ログが自動的に交換されてしまうため,プライバシに関 する乗客の負荷が発生する.これに対処するために, RFID 情報の匿名化技術等を導入する必要があると考え られる. 痴漢加害者はログを残す機能をオフにした上で犯行 に及ぶかもしれない.しかし提案方式は,万が一痴漢加 害者に間違えられたときに自分の身の潔白を証明するた めのものである.このため,ドキドキ検知方式同様,自 己防衛のために本装置を所持するという状況が期待でき るものと思われる. 提案方式はどちらが触れたかまでは判断することが できないため,逆に被害をでっちあげようとしている人 間から積極的に接触を試みるかもしれない.そのような 場合を考慮し,提案方式だけでなく,ドキドキ検知方式 の併用によって対応することが必要となってくるのでは ないかと考えられる. 痴漢が自身の接触ログの改ざんを試みる可能性もあ るだろう.ログの改ざんについてはドキドキ検知方式同 様,既存のデジタル・フォレンジック[13]により対策が 可能であると考えられる.

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まとめと今後の課題

本稿では,現在社会問題となっている痴漢冤罪を撲滅 していくために,DNA 鑑定,指紋鑑定,繊維鑑定とは 異なる方法で,客観的な証拠を技術的に集める方式のコ ンセプトを提案した.提案方式により新たに客観的な証 拠が増えることは,取り調べや裁判において間違った判 決がくだされることも少なくなると考えられ,社会への 大きな貢献が期待される. ただし,ドキドキ検知方式においては,痴漢行為や痴 漢被害によって引き起こされた,加害者および被害者の 生理的または行動的変化が,その他の通常起こりうる心 理状態(怒り,興味等)によって引き起こされるものと 比べ,有意に差があることを十分調査していく必要があ る.接触状態検知方式においては,人体通信によってど の程度精度よく接触の有無を検知することができるかに ついても調査していく必要があるだろう.一方,接触状 態検知方式においては,プライバシ保護技術の導入が必 須となると考える. また,提案方式で取得するログの信頼性についても考 慮すべきである.ログの信頼性を保証するようなデジタ ル・フォレンジック対策についても十分検討を行ってい く必要があるだろう. これらの提案方式のおける多くの課題については今 後,早急に調査・検討を行っていく予定である.

謝辞

本研究に関する議論に対し,NTT 情報流通プラットホー ム研究所 間形文彦様に感謝致します.また,本研究は一 部,(財)セコム科学技術振興財団の研究助成を受けた.

参考文献

[1] 男女共同参画審議会 http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/boryoku/houkoku/ index_hbo04.html [2]ありがたい女性専用車両 http://www.yomiuri.co.jp/donna/do_050517.htm [3]神戸新聞|社会|痴漢目撃情報のカード作成 県警 http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0002520405. shtml [4]朝日新聞,“痴漢事件で逆転無罪 「被害者証言に疑 問」 東京高裁”,2009 年 06 月 12 日,pp.38 [5]長崎事件弁護団,「なぜ痴漢えん罪は起こるのか―検 証・長崎事件」,現代人文社,2002/02

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[6]アエラ,“女性の「じんわり恐怖感」 「痴漢被害」 で逆転無罪判決”,2009 年 04 月 27 日,pp.69 [7]超簡単!DNA 鑑定@法科学鑑定研究所 http://www.e-kantei.org/DNA/004.htm [8]指紋の識別方法 2@法科学鑑定研究所 http://www.e-kantei.org/shimon/012.htm [9]朝日新聞,“痴漢捜査にミクロの目 「繊維鑑定」依 頼急増 物証にも冤罪防止にも”,2007 年 04 月 14 日, pp.13 [10]丸岡弘和,西垣正勝,“不審な挙動の検知による内部 犯行策”,情報処理学会研究報告,2005-CSEC-28, pp.363-368 (2005.3) [11]丸岡弘和,杉村敏文,西垣正勝,“不審な挙動の検知 による内部犯行策(その 2)”,情報処理学会研究報告, 2006-CSEC-32,pp.203-208 (2006.3) [12] 三井賢治, 淺間 一, 羽田靖史, 川端邦明, 山口伸 一朗: “エレベータ内映像からの人の移動軌跡の計測”, 日本機械学会, ロボティクス・メカトロニクス講演会’05 (ROBOMEC ‘05), pp.2P1-N-058(1)-2P1-N-058(4), 神 戸, 6 月(2005). [13] 芦野他佑樹,藤田圭祐,入澤麻里子,佐々木良一, “デジタルデータ証拠保全プラットフォーム『Dig-Force シリーズ』の開発と評価”,DICOMO2008 論文集, pp.1523-pp.1530,2008.7 [14] 加藤康男,秋岡幸,三林浩二,“ユビキタス人体通 信による脈拍計測”,電子情報通信学会技術研究報告, MVE2005-37,pp.61-64 (2005.9) [15] 日本電信電話株式会社,レッドタクトン, http://www.redtacton.com/jp/index.html

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