わが国の認知症高齢者数は、高齢化とともに増加しており、2025 年には約 700 万人、65 歳以 上の高齢者の5人に1人に達すると見込まれています。本稿では認知症の現況や新オレンジプラ ン(認知症施策推進総合戦略)の概要についてご紹介します。
1.認知症の現況
(1)75 歳以上の人口推移 75 歳以上人口(後期高齢者人口)は、公的介護保険が創設された 2000 年以降急速に増加し、 今後も 2025 年まで大幅な増加が続くと推計されています。2030 年頃からは 75 歳以上人口はほ ぼ横ばいで推移すると見込まれていますが、85 歳以上人口は 2040 年頃までは増加傾向が続くと 予想されています(図表1)。 図表1 75 歳以上の人口推移 678 870 1,037 1,138 1,252 1,460 1,458 1,258 1,216 1,307 1,453 1,418 1,235 224 294 383 494 620 720 831 1,002 1,024 970 964 1,029 1,152 901 1,164 1,419 1,632 1,872 2,180 2,288 2,260 2,239 2,277 2,417 2,446 2,387 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 2060 75歳~84歳 85歳~ (年) (万人)認知症の現況と新オレンジプランの概要
【ポイント】
●2025 年まで後期高齢者人口は大幅な増加が継続。また年齢が上がるにつれて認知症の有病率も上 昇するため、2025 年には 65 歳以上高齢者のうち5人に1人が認知症と推計されている。 ●認知症は「アルツハイマー病」などが主因。その症状には「中核症状」と周囲の人との関わりで 起きる「行動・心理症状」(BPSD)がある。 ●認知症の早期発見・早期対応は ADL(日常生活動作)低下や介護負担の軽減等につながる。 ●国は認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続 けることができるよう、2015 年より新オレンジプランを策定。7つの柱で「認知症高齢者等にや さしい地域づくり」を推進。(2)年齢階級別の認知症有病率 全体として年齢が上がるにつれて認知症の有病率は上昇します。60 歳代後半の 2.9%から 80 歳代前半の 21.8%までは比較的ゆるやかにとどまっていますが、それ以後は急速に上昇してい ます。また男女別に見ると、男性より女性の有病率のほうが高く、特に 90 歳以上ではその差は 10 ポイント以上になっています(図表2)。 図表2 年齢階級別の認知症有病率 出典:厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活 機能障害への対応」総合研究報告書より老健局総務課認知症施策推進室作成 (3)認知症高齢者の将来推計 2012 年の認知症高齢者は 462 万人(65 歳以上人口の 15%)と推計されています。将来推計に ついては、各年齢層の認知症有病率が①2012 年以降も一定と仮定した場合、②糖尿病有病率の増 加により上昇すると仮定した場合、があります。2025 年には①の場合は 675 万人(同 19.0%)、 ②の場合は 730 万人(同 20.6%)にまで認知症高齢者は増加すると予想されています。その後も 増加傾向が続く見込みです(図表3)。 2.9 4.1 13.6 21.8 41.4 61.0 79.5 2.8 4.9 11.7 16.8 35.0 49.0 50.6 3.8 3.9 14.4 24.2 43.9 65.1 83.7 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 6 5 ~ 69 7 0 ~ 74 7 5 ~ 79 8 0 ~ 84 8 5 ~ 89 9 0 ~ 95 9 5 ~ 全体 男 女 (%) (歳)
図表3 認知症高齢者の将来推計 出典:厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「日本における認知症の高齢者人口の将来推 計に関する研究」をもとに作成
■ 2.認知症の症状
(1)認知症の症状 認知症の症状を引き起こす原因はさまざまですが、最も割合の高い「アルツハイマー病」をは じめ、「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」等があります。 また認知症の症状には、脳の神経細胞が壊れることによって直接起こる「中核症状」と周囲の 人との関わりのなかで起きてくる「行動と心理症状」(BPSD)があります(図表4)。 「行動と心理症状」(BPSD)は「周辺症状」とも呼ばれ、脳の障害が直接の原因ではなく、「中 核症状」に対する混乱や気持ちの落ち込み等が原因であり、本人を取り巻く環境や性格、人間関 係が影響するため、症状の発生には個人差があります。そのため、周囲の環境や人間関係を調整 することで BPSD がなくなったり、軽くなったりすることもあるとされています。※BPSD とは、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の英語の頭文字。 462 517 602 675 744 802 797 850 525 631 730 830 953 1,016 1,154 15.7% 17.2% 19.0% 20.8% 21.4% 21.8% 25.3% 15.0% 16.0% 18.0% 20.6% 23.2% 25.4% 27.8% 34.3% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 2012年 2015年 2020年 2025年 2030年 2040年 2050年 2060年 各年齢の認知症有病率が一定の場合の将来推計人数 各年齢の認知症有病率が上昇する場合の将来推計人数 各年齢の認知症有病率が一定の場合の将来推計率 各年齢の認知症有病率が上昇する場合の将来推計率 (万人)
図表4 認知症の症状 出典:厚生労働省老健局高齢者支援課資料等をもとに作成 (2)認知症の一般的な経過 認知症は全く症状のない前臨床期(注)から、「軽度認知障害」(MCI)を経て長い期間にわた り、(初期)から(中期)(末期)へと機能が低下します。また介護負担という点では、BPSD(行 動・心理症状)が最も大きく、ADL(日常生活動作)の低下、合併する身体疾患も負担の要因とな っており、早期からの対応が ADL 低下や介護負担軽減につながります。認知症に早く気づくこと により、「今後の計画を立てやすくなる」「適切な治療やケアができる」「薬などにより進行を遅ら せることができる可能性がある」といったメリットがあります(図表5)。 (注)前臨床期 発症原因を有するものの、まだ症状は現れていない段階 図表5 アルツハイマー型認知症の一般的な経過 発生するか個人差があります 認知機能障害 必ず発生します 性格 素質 ・記憶障害 新しく経験したことを記憶にとどめることが困難 ・見当識障害 ここはどこで、今がいつなのか、わからなくなる ・判断力低下 計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化 する、判断するということができなくなる ・言語障害(失語) 環境 ・失行 心理状態 ・失認 ほか 思考・推理・判断・適応・問題解決 中核症状 行動・心理症状(BPSD) ・不安 落ち着かない、イライラしやすい ・抑うつ 気持ちが落ち込んでやる気がない ・徘徊 無目的に歩き回る、外に出ようとする ・不眠 ・妄想 物を盗まれたと言うなど 認知症の症状 10 20 30 知 的 機 能 障 害 MMSE点数(世界的使用の認知症テスト) 軽度 (発症前期) (初期) (中期) (末期) 不安、抑うつ、もの忘れ(MCI) 記憶・記銘力障害、失見当識(時間) 失名詞、着衣失行、構成失行 視空間失認、錐体外路障害 人格変化、無言・無動 失外套症候群 精神症状 問題行動
3.認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
厚生労働省は、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分ら しく暮らし続けることができる社会の実現をめざし、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプ ラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」を 2015 年に関係府省庁と共同で策 定しました。 そして「認知症高齢者等にやさしい地域づくり」を進めていくため、以下の7つの柱に沿って、 それぞれの施策を総合的に推進する方針です(図表6)。 図表6 新オレンジプランの7つの柱 出典:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(概要)をもとに作成 (1) 認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進 認知症は身近なものであることを、普及・啓発等を通じて改めて社会全体として確認していき ます。具体的には以下の取組みを行なっています。 ①広告等を通じ全国的なキャンペーンを展開 ②認知症サポーター(注)の養成と地域・職域などで活躍できるような取組みの推進 ③認知症の人を含む高齢者への理解を深めるような教育を推進 (注)「認知症サポーター」認知症について正しく理解し、認知症の人や家族を温かく見守り、支援する 応援者です。市町村や職場などで実施されている「認知症サポーター養成講座」を受講した人 が「認知症サポーター」となります。地域住民、金融機関の従業員、学生などさまざまな人が 認知症の人を支援しています。 〈参考1〉認知症サポーター目標人数と養成状況 認知症サポーターの目標人数は 2017 年度末で 800 万人でしたが、結果は 1,015 万人と目標 を達成しています(図表7)。 厚生労働省は、2020 年度末までの新たな目標を 1,200 万人としました。 〈参考2〉認知症サポーターの活動状況 認知症サポーターの活動状況として「見守り」が最も多く、次いで「オレンジカフェの開 認知症高齢者等にやさしい地域づくりの推進 ① 普 及 ・ 啓 発 の 推 進 ③ 若 年 性 認 知 症 施 策 の 強 化 ② 適 時 ・ 適 切 な 医 療 ・ 介 護 等 の 提 供 ④ 介 護 者 へ の 支 援 ⑤ 認 知 症 な ど 高 齢 者 に や さ し い 地 域 づ く り ⑥ 研 究 開 発 と そ の 成 果 の 普 及 の 推 進 ① 普 及 ・ 啓 発 の 推 進 ⑦認知症の人やご家族の視点の重視図表7 新オレンジプランにおける認知症サポーター目標人数と養成状況 出典:厚生労働省老健局認知症施策推進室資料をもとに作成 図表8 認知症サポーターの活動状況(複数回答) 出典:厚生労働省老人保健健康増進等事業「認知症サポーター等の資質向上に関する調査研究事業」をも とに作成 (2)認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供 3 18 47 96 171 252 330 413 499 611 750 883 1,015 目標100万人 目標400万人 目標800万人 0 200 400 600 800 1,000 1,200 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 目標:2017年度末 800万人 ▼ 2017年度末現在約1,000万人 (年度末) (万人) 2017年度末 1,000万人達成 2012年度 400万人達成 2009年度 100万人達成 認知症サポーター キャラバン開始 目標 121 81 80 73 45 41 39 36 28 22 9 30 0 20 40 60 80 100 120 140 見 守 り オ レ ン ジ カ フ ェ の 開 催 ま た は 参 加 認 知 症 サ ポ ー タ ー 養 成 講 座 開 催 協 力 傾 聴 認知 症 の 人 ・ 家 族 対 象 サ ロ ン の 開 催 介 護 予 防 教 室 へ の 協 力 認 知 症 サ ポ ー タ ー が い る 店 舗 の 登 録 SOS ネ ッ ト ワ ー ク 等 へ の 登 録 通 所 施 設 ・ 入 居 施 設 等 の 行 事 協 力 キ ッ ズ に よ る 認 知 症 の 人 と の 交 流 外 出 支 援 そ の 他 (自治体数)
図表9 認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等が提供される仕組み 出典:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」(概要)資料をもとに作成 (3)若年性認知症施策の強化 65 歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」といい、全国で4万人近くいると言われていま す。若年性認知症の人は、就労や生活費等の経済的問題が大きいこと等から、居場所づくり等の さまざまな分野にわたる支援を総合的に講じていきます。 若年性認知症の人は、高齢者と比べると症状の進行が早い、体力がある、社会的役割意識が高 いなどの特徴があります。これまでの経験や趣味、性格といった「本人らしさ」や本人の思いを 理解し、それを活かした個別性の高いケアを行なうことが必要と言われています。 (4)認知症の人の介護者への支援 認知症初期集中支援チーム等による早期診断・早期対応を行なうほか、認知症の人やその家族 が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う認知症カフェ(注)等の設置 を推進し、認知症の人の介護者の負担軽減を図ります(図表 10)。 (注)認知症カフェ 認知症の人やその家族が地域の人や専門家と相互に情報を共有し理解し合う場 図表 10 「認知症カフェ」都道府県別実施状況(設置カフェ数) 発症予防 発症初期 急性増悪時 中期 人生の最終段階 住民主体のサロン や体操教室など、 地域の実情に応じ た取組み 認知症の人の生活を支える医療・介護 等の提供 本人の尊厳が尊重され た医療・介護等を提供 都道府県 カフェ数 都道府県 カフェ数 都道府県 カフェ数 北海道 81 石川県 33 岡山県 44 青森県 20 福井県 25 広島県 52 岩手県 17 山梨県 12 山口県 17 宮城県 69 長野県 45 徳島県 25 秋田県 14 岐阜県 45 香川県 14 山形県 42 静岡県 30 愛媛県 20 福島県 36 愛知県 161 高知県 22 茨城県 10 三重県 39 福岡県 73 栃木県 12 滋賀県 38 佐賀県 3 群馬県 9 京都府 97 長崎県 12 埼玉県 143 大阪府 106 熊本県 55 千葉県 67 兵庫県 206 大分県 38 東京都 226 奈良県 20 宮崎県 16 神奈川県 61 和歌山県 8 鹿児島県 33 新潟県 76 鳥取県 20 沖縄県 21 富山県 29 島根県 11 計 2,253 市町村 11% 地域包括 支援セン ター 21% 認知症疾 患医療セ ンター 1% 介護サー ビス施設・ 事業者 27% 社会福祉 法人 9% NPO法人 6% その他 25% ~設置主体~ n=2,253(複数回答あり)
〈参考〉「本人ミーティング」の実施 多様な場を活かして、多様な人が開催している「本人ミーティン グ」が全国的に行なわれています。「本人ミーティング」とは、認知症の本人が集い、自分たち のこれからのよりよい暮らし、暮らしやすい地域のあり方を一緒に話し合う場です。認知症の人 の視点を重視した地域づくりを具体的に進めていくための方法です。 ※「本人ミーティング」実施例 ・認知症カフェ(国立市)主催:地域の医療機関/在宅療養相談室 ・町役場多目的室(綾川町)主催:地域の医療機関/在宅療養相談室 ・介護施設の交流スペース(大牟田市)主催:ケア関係者の研究会 (5)認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進 生活の支援(ソフト面)、生活しやすい環境(ハード面)の整備、就労・社会参加支援および安 全確保を行ない、認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりを推進します。 初期段階の認知症の人などの生きがい支援となる社会参加は、その人の QOL(生活の質)の向 上につながり全国的な取組みが行なわれています。 〈参考〉【秋田県羽後町の事例】 ・キャラバン・メイト(注1)と認知症サポーターが、集いの場「キャラバン・ラジオ屋(電 気店の空店舗を利用)」を開店し、そこで初期段階の認知症の人や若年性認知症の人がスタ ッフとして活躍しています。 (注1)キャラバン・メイト 「認知症サポーター養成講座」の講師役 【藤沢市の事例】 ・「藤沢モデル」として注目を集めている小規模多機能型居宅介護事業があります。認知症の 人を「被介護」ではなく「社会資源」として、地域貢献などで元々持っている能力や得意な ことなどが発揮できる機会を作り、その人らしい QOL(生活の質)を最大限に高めています。 (6)認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発 およびその成果の普及の推進 認知症の病態解明を進め、早期発見や診断法の確立、さらに根本的治療薬や効果的な症状改善 法、有効な予防法を開発します。 認知症の進行を止める薬剤は現在ありませんが、世界中で開発が進められています。安全な薬 剤の開発には、厳密な治験により効果を検証する必要があります。わが国ではこれまで治験がな かなか順調に進まない状況でしたが、前臨床期・軽度認知障害(MCI)などの人が登録されてきて おり、認知症治療薬の治験やさまざまな予防研究の基盤が整備されつつあります。 (7)認知症の人やその家族の視点の重視 認知症の人やその家族の視点を重視し、プランの柱の一つとして他の6つの柱のすべてに共通