J. Jpn. Acad. Mid., Vol. 14, No.2, pp.28-38, 2001.2
原
著
初 産婦 の分 娩期 に出現 す る嘔吐 と
分 娩 進行 との 関連
On the
Relationship
between
Stages
of
Labor
and
the
Instances
of Vomiting
吉 田 安 子(Yasuko YOSHIDA)*
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Abstract
This study examined the pattern on vomiting during labor and investigate a relationship between the stage of labor and vomiting in primiparae. The participants were thirty-seven
(37) low risk primiparae. They were admitted for labor.
A researcher cared for the woman and observed them according to observation guidelines . Then, the vomiting group and non-vomiting group were compared . There were no signifi-cance difference found in the demographic data between the groups .
The data from the vomiting group suggested that there was a relationship between the
*札 幌 医 科 大 学 保 健 医 療 学 部 看 護 学 科(Department of Nursing, School of Health Sciences , Sapporo Medical
University)2000年4月18日 受 付
初 産婦 の分 娩期 に出現 す る嘔吐 と分 娩進 行 との関連
stage of labor and the vomiting.
1) 17 (46%) low risk primiparae were vomiting. 2) Vomiting appeared in every stage of labor :
a) when the contraction suddenly became strong b) three hours after a meal
c) when the cervix was 3 cm dilated.
3) When laboring woman vomited, her cervical ripening was good, duration of labor was become shorter than the primiparae's average. In this situation, the midwife should give information to the woman about the progress of labor for the purpose of her taking and feeling in control of the experience.
4) When laboring woman vomited, her cervical ripening wasn't good, she lost energy and became tired psychologically and physiologically. It became uterine inertia. In this situation, the midwife should relieve the woman's anxiety and fatigue, coordinate suitable nourish-ment, and fulfill her physiological function.
Key Words vomit, labor, intrapartum care
1緒 言 産 婦 に嘔 吐 が 出現 す る こ とは,臨 床 で助 産 婦 が しば しば遭 遇 す る こ とで あ り 「陣 痛 開 始 後 に嘔 吐 を す る人 は進 行 が 速 い 」1)「嘔 吐 が 出 現 す る とそ の 後,分 娩 は速 や か に進 む」 等 とい わ れ る よ う に,嘔 吐 は 分 娩 進 行 と関 連 づ けて 考 え ら れ て い る。 これ は臨床 経 験 に よ り得 られ た 分 娩進 行 を判 断 す る観 察項 目 とい え る。助 産 婦 は産 婦 の状 態 を 総 合 的 に観 察 し,分 娩 の経 過 を判 断 す る能 力 が 必 須 で あ る。 特 に その 観 察 の 中 で も,分 娩 進 行 に伴 い出 現 す る生 理 的 変 化 は分 娩 の進 行 を判 断 す るた め の 重 要 な指 標 に な る と考 え る。 産 科 学 の専 門 書 に も,分 娩 中 の産 婦 は食 欲 の 減 退 や消 化 機 能 の 衰 え と同時 に,嘔 吐 しやす い傾 向 に あ る とい わ れ て い る2),3)。嘔 吐 の 出 現 は身 体 的 苦 痛 を伴 う もの で あ り,こ の よ うな産 婦 に対 し安 楽 の援 助 を す る こ とは 重 要 な ケ ア の 視 点 と い え る。 また,嘔 吐 の 出現 と分 娩 進行 との関 連 を明 ら か にす る こ とは,分 娩 進 行 の 予測 を裏 付 け る指標 の一 つ に で きる と考 え る。 II文 献 検 討 一般 的 に嘔 吐 が 引 き起 こされ る原 因 と して ,中 枢 性 嘔 吐,反 射 性 嘔 吐,精 神 性 嘔 吐 の3点 が挙 げ られ る4)。分 娩 進 行 中 に出 現 す る嘔 吐 の 原 因 と し て は さ まざ まな説 が あ る。 マ イ ル ズ5)は,産 婦 の 分 娩 時 に お け る食 事 摂 取 が 不 適切 だ っ た場 合 グ ル コー ス の欠 乏 で ケ トー シス とな り,嘔 気 ・嘔 吐 が 引 き起 こされ る場 合 が あ る と述 べ て お り,こ れ は 中枢 性 嘔 吐 に該 当 す る。安 田 ら6)は子 宮底 の 収 縮 に よ る上 腹 部 腹膜 刺 激,胃,十 二 指 腸,腸 管 へ の 圧 迫 が,Greenhill7)は 子 宮 頸 管 開 大 時 の 求 心 性 刺 激 が,そ れ ぞ れ 嘔 吐 を 引 き起 こす と述 べ て お り,こ れ は反 射性 嘔 吐 に該 当 す る。 岩 崎8)は 「と くに初 産 婦 は,陣 痛 が 強 くな る に した が って 次 第 に苦 痛 が 増 し,不 穏 とな り,分 娩 に対 して 恐怖 を 抱 い て軽 い悪 寒 ・悪 心 ・嘔 吐 を もよお す こ とも あ る」 と述 べ て お り,こ れ は精 神 性 嘔 吐 に該 当 す る。 さ ら に分 娩 中 は プ ロ ゲ ス テ ロ ンの働 きで 胃 内 容 物 の消 化 が遅 れ るた め9),産 婦 は嘔 吐 す る可 能 性 が 高 い状 態 に あ る。 嘔 吐 の 出現 時 期 に関 して,多 くの文 献 で は分 娩 第1期 の母 体 の生 理 的 特 徴 として お り,そ の 中 で もFriedman子 宮 口開 大 曲線 の 最 大傾 斜期 か ら減 速 期 に み られ る と述 べ て い る も の も あ る10)。一 方 「頸管 が全 開 大 す る と陣 痛 は増 し,嘔 気 を も よ お し,嘔 吐 す る こ とが あ る」11)と分 娩 第2期 に は い った徴 候 と して い る もの もあ る。 分娩 中 自然 に 出現 す る生 理 的 嘔 吐 と は別 に,故 意 に 嘔 吐 を誘 発 し て い た と い う記 述 が あ る。 Laget12)やBroachJ.ら13)に よ る と,17世 紀 末 日本助 産 学会 誌 第14巻 第2号(2001.2) 29
初 産婦 の分娩 期 に 出現 す る嘔吐 と分娩 進行 との 関連 の 欧 州 や ア メ リカ植 民 地 時 代 に,分 娩 が 進 行 しな い ケ ー ス に吐 剤 等 を利 用 して故 意 に嘔 吐 を引 き起 こ し,分 娩 の進 行 を促 す とい う最 終 手 段 と して の 方 法 が あ った。 これ らの記 述 か ら,嘔 吐 に伴 う腹 圧 は 分 娩進 行 を促 す効 果 が あ る と考 え られ て いた こ とが 推 測 され る。 分 娩 時 の 嘔 吐 に関 す る研 究 と して は,主 に経 口 摂 取 と の 関 連 性 か ら調 査 さ れ て い る。長 澤 ら14) は産 婦 の 陣 痛 時 に お け る適 正 な食 事 の あ り方 を探 る 目的 で 調 査 を行 い,嘔 気 は初 産 婦43.8%,経 産 婦18.3%に 出現 し,固 形 物 摂 取 者 よ り全 く何 も 口 に し なか った 者 に嘔 気 の割 合 が 高 か った と報 告 し て い る。0'Reillyら15)は,低 リス ク 産 婦 の 経 口 摂 取 パ ター ン と,嘔 吐 と他 の合 併 症 の 発 生 率 につ いて 調 べ て い る。 これ に よ る と,分 娩 時 に経 口摂 取 を した 産 婦106人 の う ち,嘔 吐 した の は20%の みで あ り,低 リス ク産 婦 に経 口摂 取 を制 限 す る こ とは意 味 が な い と結 論 して い る。 以 上,分 娩 進 行 中 に 出現 す る嘔 吐 に関 して は, そ の出 現 要 因 や 出現 時 期,食 事 摂 取 との 関 連 につ い て報 告 され て い る。 しか し,嘔 吐 の 出 現 が 分 娩 進 行 と何 らか の 関連 を もつ と臨 床 的 に考 え られ て い る に もか か わ らず,嘔 吐 と分 娩 進 行 との 関 連 に 焦 点 を あて た報 告 は あ ま りみ られ な い。 III目 的 分 娩 の 進行 を予 測 す る観 察 項 目の 一 つ として 嘔 吐 の出 現 が 有効 で あ るか を検 討 す るた め,嘔 吐 と 分 娩 進 行 との 関連 を明 らか にす る こ とを 目的 とし て本 研 究 を行 っ た。 IV研 究 方 法 1.対 象 者 1997年6月 ∼10月 に東 京 都 内 の産 科 専 門 病 院 で 出産 した低 リス クの初 産 婦37名 。 2.予 備 調 査 産 婦 の 嘔 吐 出現 頻 度 の把 握 と,嘔 吐 と分 娩 進 行 を観 察 す る観 察 ガ イ ドの作 成 を 目的 と した 。 分 娩 終 了 者 の うち正 常 分 娩 の初 産 婦,経 産 婦 それ ぞれ 35名 を ラ ンダ ム に選 択 し,カ ル テ よ り嘔 吐 に関 す る情 報 を抽 出 し た。 そ の 結 果,初 産 婦8名(23 %),経 産 婦1名(3%)の 記 録 に 「嘔 吐 」 の 記 載 が あ り,嘔 吐 は比 較 的 初 産 婦 に出 現 す る傾 向 に あ る と考 え,今 回 の研 究 対 象 者 を初 産 婦 に しぼ っ た 。 次 にデ ー タが 一 定 の観 察 基 準 下 で得 られ る よ う に分 娩 進 行 観 察 ガ イ ドを作 成 した。 3.デ ー タ収 集 方 法 条 件 を満 た す 産 婦 が 入 院 した時 点 で,産 婦 に研 究 の 主 旨 を説 明 し,研 究 へ の 協力 を依 頼 し承 諾 を 得 た 。 研 究 は途 中 で辞 退 で き る こ と,ま た辞 退 し た として も受 け るケ ア に差 が 生 じる こ とは な く, デ ー タ は研 究 以 外 の 目的 で は使 用 せ ず,プ ラ イバ シー を保 持 す る こ とを保 証 した 。 産 婦 よ り承 諾 を 得 た 後,分 娩 開 始 時 あ る い は分 娩 第1期 の途 中か ら分娩 第2期 終 了 まで の 間,研 究 者 が 参 加 的 観 察 を行 い,分 娩 進 行 観 察 ガ イ ドに基 づ い て デ ー タ を 収 集 した 。 分娩 後24∼48時 間 以 内 に,褥 婦 に分 娩 時 の感 情 を想 起 して も らい,感 情 プ ロ フ ィー ル 検 査(以 下,POMSと 記 す)の 記 入 を依 頼 した 。 4.測 定用 具 1)デ モ グ ラ フ ィ ッ クデ ー タ 分娩 進行 に影 響 を与 え る こ とが 予 測 され る因 子 をカ ル テ よ り収 集 した。 母 体 側 因 子 は,母 体 の 身 長 ・非 妊 時体 重 ・入 院 時 体 重 ・子 宮 底 長 ・腹 囲, 新 生 児側 因 子 は在 胎 週 数 ・体 重 ・頭 囲 で あ る。 2)分 娩 進 行観 察 ガ イ ド 主 な観 察項 目 と観 察 基 準 は表1参 照 。 3)感 情 プ ロ フ ィー ル検 査(POMS) 産 婦 の感 情 を客観 的 に 測 定 す るた め,横 山 ら16) に よ っ て 日本 語 版 と して 標 準 化 さ れ たPOMSを 利 用 した 。POMSは 感 情 ・気 分 に 関 す る6項 目 「緊 張 ・不 安 」 「抑 鬱 ・落 込 み」 「怒 り ・敵 意 」 「活 気 」 「疲 労 」 お よ び 「混 乱 」 を5段 階 リカ ー トス ケ ー ル に よ り測 定 す る。 被 験 者 の一 時 的 な感 情 ・ 気 分 の 状 態 が 測 定 で き,設 問 を工 夫 す る こ とで感 情 状 態 を評 価 す る期 間 を変 更 す る こ とが 可 能 で あ る17)。本研 究 で は褥 婦 が 分 娩 時 の感 情 を想 起 して 回 答 で き る よ う,評 価 期 間 を「 入 院 か ら赤 ち ゃん が 産 まれ る まで の気 分 を あ らわ す の に一 番 あ て は ま る もの を」 と し,8名 の褥 婦 に プ レテ ス トを行 った 。 そ の結 果,わ か りに くい 表現 はな く設 問 の 30 日本 助 産 学 会 誌 第14巻 第2号(2001.2)
初 産婦 の分娩 期 に出現 す る嘔 吐 と分娩 進 行 との関 連 表1分 娩進 行観 察 ガイ ド 量 等 も適 切 で あ る との 回 答 が 得 られ,POMSを 採 用 した。 5.分 析 方 法 質 的 デ ー タ で あ る各 ケ ー ス の分 娩 進 行 状 況 は, Excelで 子 宮 口開 大 曲線 を作 成 し,ケ ー ス ご とに 分 析 した 。 量 的 デ ー タ はSPSSで 記 述 統 計 処 理 を行 っ た。 V結 果 1.対 象 の 属 性 と分 類 対 象 者 は37名 で あ った 。対 象者 の平 均 年 齢 は29 ±2.8歳,平 均 分 娩 所 要 時 間14.8時 間 で あ っ た。 自然 分娩 者25名,促 進 分娩 者9名,鉗 子 分 娩 者3 名 で あ っ た。 表2は,デ モ グ ラ フ ィ ック デ ー タ の 平 均 値 で,今 日の 日本 の標 準 的 な値 で正 常 範 囲 内 で あ った 。 対 象 者37名 中,嘔 吐 の出 現 した 「嘔 吐 あ り群 」 は17名(46%),嘔 吐 の 出 現 しな か っ た 「嘔 吐 な し群 」 は20名(54%)で あ った 。 嘔 吐 あ り群17名 で は,分 娩 所 要 時 間 の範 囲 が2.4時 間 か ら44.9時 間 と大 き くば らつ きが あ った 。 嘔 吐 あ り群17名 の 分 娩 進 行 状 況 を比 較 した と こ ろ,一 括 りとみ な し 表2対 象 の 属 性(n=37) て分 析 す る こ とは 困難 と判 断 し,よ り正 確性 を期 すた め以 下 の2タ イ プ に分 類 す る こ と と した 。 そ れ は,分 娩 経 過 中 に異 常 が 出現 せ ず 分娩 が ス ム ー ズ に進 行 し た 者11名(以 下,タ イ プAと 記 す) と,分 娩 経 過 中 に異 常(続 発 性 微 弱 陣 痛)が 出 現 し 分 娩 が 遷 延 した 者6名(以 下,タ イ プBと 記 す)の2タ イ プで あ る。 2.嘔 吐 あ り群 と嘔 吐 な し群 の 比 較 嘔 吐 あ り群 と嘔 吐 な し群 の2群 間 に お い て母 体 の 身 長 ・非妊 時 体 重 ・入 院 時 体 重 ・子 宮 底 長 ・腹 囲 ・在胎 週 数,児 の体 重 ・頭 囲,分 娩 所 要 時 間 の 日本 助 産学 会誌 第14巻 第2号(2001.2) 31
初産 婦 の分娩 期 に出現 す る嘔 吐 と分 娩 進 行 との関連 表3感 情 プ ロ フ ィー ル検 査 の 平 均 値Mean±SD 平 均 値 でt検 定 を行 っ た が 有 意 差 は な か っ た。 POMSの 結 果 は 表3の とお りで,嘔 吐 あ り群 が 嘔 吐 な し群 よ り 「緊 張 ・不 安 」 「抑 鬱 ・落 込 み」 図1分 娩 開始 か ら嘔吐 出現 まで の時間(n=17) 図2最 終食事摂取か ら嘔吐 出現 までの時間(n=17) 図3嘔 吐 出現 時の子 宮 口開大度(n=17) 「混 乱 」 が 高 く,「 活 気 」 が低 くな っ て い た。 3.嘔 吐 の 出現 状 況 嘔 吐 あ り群17名 の 嘔 吐 出 現 状 況 は 次 の とお りで あ った 。1回 の み嘔 吐 した 者 が13名(76%)と 最 も多 く,2回 嘔 吐 した の は3名(18%),5回 嘔 吐 した の は1名(6%)で あ った 。 吐 物 は,嘔 吐 前 に摂 取 して い た食 事 の食 物 残 渣 で あ り,1回 の 嘔 吐 量 は70∼500認 で あ っ た。 最 終 の 食 事 摂 取 か ら嘔 吐 出現 まで に12時 間 要 した ケ ー ス で も,吐 物 は最 後 に摂 取 した 食 事 の 食 物 残 渣 で あ っ た 。 図1は 分 娩 開 始 時 か ら嘔 吐 が 出 現 す る まで の 時 間 を示 した。15名(88%)が 分 娩 開 始 後7時 間 以 内 に嘔 吐 して お り,中 で も分 娩 開始 後1時 間 と7 時 間 に4名(24%)が 嘔 吐 し て い た 。 図2は,食 事 摂 取 後 か ら最 初 に 嘔 吐 が 出 現 す る まで の 時 間 で あ る。12名(71%)が 食 事 摂 取 後3 時 間 以 内 に嘔 吐 して お り,特 に食 事 摂 取 後1時 間 以 内 に6名(35%)が 嘔 吐 し て い た。 図3は,嘔 吐 出現 時 の 子 宮 口 開 大(cm)を 示 し た。 嘔 吐 が 最 も多 く出現 した の は子 宮 口 が3cmに 開大 した 時 で あ り,5名 だ っ た 。 表4は,嘔 吐 が 出現 す る1時 間 前 後 の子 宮 収 縮 を 比 較 し た も の で あ る。 嘔 吐 出 現 後 で は 発 作 54.1秒,間 歇3.1分 へ と変 化 し,嘔 吐 出 現 後 の 発 作 が 有 意 に 長 く(p<.01),間 歌 が 有 意 に 短 く (p<.01)変 化 して い た。 表4嘔 吐出現 前後 の平 均 発作 ・間歌 時間(n=17) 32 日 本 助 産 学 会 誌 第14巻 第2号(2001 .2)
初産 婦 の 分娩 期 に出 現 す る嘔吐 と分娩 進行 との 関連 注)細 線 は,ケ ー スの子 宮 口開 大 曲線,太 線 はFriedman子 宮 口開 大 曲線 図4タ イ プAの 子 宮 口 開 大 曲 線(嘔 吐 あ り経 過 正 常 群n=11) 表5タ イ プ 別 分 娩 所 要 時 間 とBishop Score得 点 4.タ イ プAの 分 娩 進 行状 況 嘔 吐 あ り群 の 中 で も,分 娩 経 過 中 に異 常 が 出 現 せ ず 分 娩 が スム ー ズ に進 行 した タ イ プAは11名 で あ った 。 図4は,タ イ プAの 子 宮 口開 大 曲線 を ま とめ た もの で あ る。 タ イ プAの 平 均 分 娩 所 要 時 間 は9.5時 間(表5)で,子 宮 口 開大 曲線 の 多 く は Friedman子 宮 口 開 大 曲 線 内 に位 置 して い た 。 タ イ プAの 分 娩 開始 時 お よび入 院 時(分 娩 開 始 後5 時 間 以 内)Bishop Score平 均 値 は9.2で あ り, 子 宮 頸 管 の 熟 化 が 完 了 して い た。 嘔 吐 の 出 現 は Friedman子 宮 口 開 大 曲 線 の潜 伏 期 に1名,加 速 期 に6名,最 大 傾 斜 期 に5名,分 娩 第2期 に1名 で あ っ た(重 複 嘔 吐 あ り)。 表6は,タ イ プAの3事 例 を紹 介 した もの で あ る。 ケ ー ス21と37は 分 娩 開 始 と同 時 に嘔 吐 して い た 。 ケ ー ス21は,嘔 吐 後 間 歇 が10分 か ら2分 へ と 急 速 に短 縮 し,分 娩 開 始 か ら1時 間10分 で 子 宮 口 全 開 大 に至 った 。 ケ ー ス37は,1回 目の 嘔 吐 後 約 3時 間 の 潜 伏 期 を経 過 し,2回 目の 嘔 吐 後 よ り発 作 時 苦痛 様 表 情 とな り加 速 期 へ と変 化 した 。 ケ ー ス24で は,朝 食 摂 取 後 よ り子 宮 収縮 が 強 くな り, 嘔 気 が持 続 して い た 。 嘔 吐 出現 後 よ り発 作 時 の 痛 みが 増 強 し嘔 吐後25分 間 の 間 に 子 宮 口 が6cmか ら 急 速 に 全 開 大 とな っ た 。 これ らの ケ ー スで は分 娩 開 始 時 か,子 宮収 縮 が 急 激 に変 化 した 時 期 に嘔 吐 が 出現 して い た 。POMSの 結 果 は 「抑 鬱 ・落 込 み 」 「怒 り ・敵 意 」 「混 乱 」 の項 目が 嘔 吐 な し群 よ り高 く,「活 気 」 が 嘔 吐 な し群 よ り低 い 傾 向 に あ っ た 。 5.タ イ プBの 分 娩進 行状 況 嘔 吐 あ り群 の 中 で,分 娩 経過 中 に異 常(続 発 性 微 弱 陣痛)が 出現 し分 娩 時 間 が遷 延 した タ イ プB は6名 で あ っ た。 図5は,タ イ プBの 子 宮 口開 大 曲 線 を ま とめ た もの で あ る。 タ イ プBの 平 均 分 娩 所 要 時 間 は28.1時 間 で 全員 がFriedman子 宮 口 開 大 曲 線 を超 えて い た。 タ イ プBの 分 娩 開 始 時 お よ び入 院 時(分 娩 開始 後5時 間以 内)のBishop Score 平 均 値 は5.2で,子 宮 頸 管 が 熟 化 して い な か った 。 嘔 吐 の 出 現 時 期 は潜伏 期 に4名,最 大 傾 斜 期 に2 名 で あ った 。 表7は,タ イ プBの2事 例 を紹 介 した もの で あ る。 ケ ー ス20と29で は嘔 吐 が 出 現 した 時 子 宮 口 開 大 速 度 が1cm/時 間 で,各 ケ ー ス の 分 娩 進 行 中 最 も子 宮 口開 大 速 度 が速 い 時 期 で あ っ た。 しか し時 間 の 経過 と と も に子 宮 口の 開 大 が 緩 徐 とな り,子 日本 助 産学 会誌 第14巻 第2号(2001.2) 33
初 産婦 の分娩 期 に出現 す る嘔吐 と分娩 進 行 との関 連
表6タ イプAの 分 娩進 行状 況
注)D=子 宮 口開 大B.S.=Bishop Score ☆食 事 摂取 ▼ 嘔 吐 出現 ◆嘔 気 出 現 ▲発 作 △ 間歌 ↓児 娩 出
初産 婦 の分娩 期 に 出現 す る嘔吐 と分 娩進 行 との 関連 注)細 線 は,ケ ー ス の子 宮 口開 大 曲線,太 線 はFriedman子 宮 口 開大 曲 線 図5タ イ プBの 子 宮 口 開 大 曲 線(嘔 吐 あ り続 発 性 微 弱 陣 痛 群n=6) 宮 収 縮 が 弱 くな って い っ た。 タ イ プBは 嘔 気 や 再 嘔 吐 の心 配 等 の た め に嘔 吐 出現 以 降,経 口摂 取 が あ ま りで き ず 嘔 吐 後 の 平 均 摂 取 カ ロ リー は12.O kcal/時 間 で あ った 。POMSの 結 果 は 「緊 張 ・不 安 」 「疲 労 」 「混 乱 」 の項 目が 嘔 吐 な し群 よ り高 い 傾 向 に あ った 。 VI考 察 嘔 吐 あ り群 と嘔 吐 な し群 の,分 娩 進行 に影 響 を 及 ぼす 背 景 要 因 を比 較 した が差 は認 め られ ず,嘔 吐 あ り群 の,嘔 吐 出 現 と分娩 進 行 の 関連 に焦 点 を あ て て分 析 す る。 1.嘔 吐の 出現 状 況 嘔 吐 あ り群 で は,嘔 吐 がFriedman子 宮 口開 大 曲線 の潜 伏 期(5名),加 速 期(6名),最 大 傾 斜 期(7名),分 娩 第2期(1名)の 各 期 にお い て 出 現 して い た が 分 娩 第1期 に 多 く認 め られ て い た 。O'Reillyら の 研 究15)で も同様 の 結 果 が 得 ら れ て お り,嘔 吐 は分 娩第1期 に お い て産 婦 の観 察 項 目 と して重 要 で あ る こ とが本 研 究 にお い て も支 持 され た 。 さ らに嘔 吐 は,子 宮 収 縮 が 急激 に強 ま り子 宮 口開 大速 度 が速 くな った 時,子 宮 口 開大 が 3cmぐ らい の 時,食 事 摂 取 後3時 間以 内 に 出現 す る傾 向 が み られ,分 娩 進 行 時 にお い て上 記 の よ う な時 期 に は,嘔 吐 や それ に伴 う苦 痛 緩 和 へ の ケア を行 う こ とが 重 要 であ る と考 え る。 2.タ イ プAの 嘔 吐 出 現 の意 味 とその 看 護 一 般 的 に初 産婦 ・経 産 婦 共 に分 娩 開 始 の 時 点 で Bishop Score値 が 高 い ほ ど分 娩 所 要 時 間 が 短 縮 す る と いわ れ て い る18)。Bishop Score平 均 値 は タ イ プAは9.3で あ り,子 宮頸 管 が 熟 化 して いた 。 実 際 に タ イ プAの 平 均 分 娩 所 要 時 間 は9.5時 間 で あ り,一 般 的 に いわ れ て い る初産 婦 の分 娩 所 要 時 間 よ り短 くな っ て いた 。 さ ら に タイ プAの 特 徴 と して 嘔 吐 の 出現 が あ る。 嘔 吐運 動 時 に は腹 圧,つ ま り腹 壁 諸 筋 ・横 隔膜 お よび骨 盤 底 諸 筋 が 同時 に 協 力 的 に緊 張 し,収 縮 す る こ とに よ る腹 腔 内 圧 の 上 昇 が 生 じて い る。Laget12),BroachJ.13)ら の 文 献 で分 娩 進 行 を促 す た め に故 意 に嘔 吐 を引 き起 こ して い た とい う説 が あ っ た よ うに,分 娩 進行 中 に嘔 吐 に伴 って 生 じた腹 圧 は,娩 出力 と同 様 の 作 用 を もつ こ とが 推 察 さ れ る。 ま た,分 娩 開 始 後 は,下 降 胎 児部 分 に よ っ て子 宮 腟 神 経 叢 が圧 迫刺 激 され,い っそ う子 宮 収 縮 が 増 強 す る とい わ れ て お り19),嘔 吐 に伴 い腹 圧 が生 じた こ とで下 降 児 頭 部 に よ る子宮 腟 神 経 叢 へ の 刺 激 が増 し,子 宮収 縮 が 強 くな っ て い った こ と も考 え られ る。 タ イプAの よ うに,嘔 吐 が 出 現 し分娩 進 行 が早 くな る と予 測 され る産 婦 に対 して,産 婦 は 嘔吐 出 現 に対 す る不 快 感 や,分 娩 が順 調 に進 行 して い る の か 等 の疑 問 や 不 安 を抱 く こ と が 予 測 さ れ る た め,分 娩 進 行 状 況 に関 す る適 切 な情 報 を与 え る援 助 が必 要 と考 え る。 これ に よ り産 婦 は 自 らの身 体 に起 きた 生 理 的現 象 と分 娩 進 行 との 関連 を知 る こ とが 可 能 に な る と同時 に,分 娩 進 行 を把 握 す る こ とに よ り,自 ら分 娩 の ゴ ー ル に 向 か っ て 方 向 づ け 日本助 産学 会誌 第14巻 第2号(2001.2) 35
初 産 婦 の分 娩期 に出現 す る嘔吐 と分娩 進 行 との関 連
表7タ イプBの 分 娩進 行状 況
注)D=子 宮 口開 大B.S.=Bishop Score☆ 食 事 摂取 ▼ 嘔吐 出現 ◆嘔 気 出 現 ▲発 作 △ 間 歌 ↓児 娩 出
初 産 婦 の分娩 期 に出 現 す る嘔 吐 と分娩 進 行 との 関連 を行 い,急 速 な経 過 に対 処 す る こ とが 可 能 にな る と考 え る。 3.タ イ プBの 嘔 吐 出 現 の 意味 とその 看 護 援 助 タ イ プBで は,分 娩 の開始 時 点 でBishop Score 平 均 値 が5.2と 子 宮頸 管 が 熟 化 して お らず,分 娩 所 要 時 間 の延 長 が 予 測 され,す べ て の ケー ス に続 発性 微 弱 陣痛 が 出現 して い た。 一 般 的 に続 発性 微 弱 陣 痛 は,母 体 や 胎 児 の 異 常,低 栄 養,睡 眠 不 足,疲 労,精 神 的 因 子 等 に よ り引 き起 こされ る。 1回 の分 娩 に要 す る総 エ ネ ル ギ ー量 は初産 婦 で 約2012.8kcal,母 体 の エ ネ ル ギ ー代 謝 量 は分娩 第 1期 の 初 産 婦 で 約120.Okcal/時 間 と い わ れ て い る20)。タ イ プBで は嘔 吐 後 の エ ネ ル ギ ー 摂 取 量 が12.Okcal/時 間 で あ り,低 栄 養 状 態 に 陥 っ て い た とい え る。 続 発 性 微 弱 陣 痛 の 要 因 の 一 つ と し て,こ の 影響 が考 え られ る。 POMSを 用 い 回顧 的 に調 査 した 分 娩 中 の 産 婦 の感 情 で は,「 不 安 ・緊 張 」 の 項 目 が タ イ プBは 他 の 群 よ り高 くな っ てい た 。嘔 吐 は,何 らか の生 理 的 な 病 気 の 状 態 に あ る と い う 徴 候 を示 す の で21),産 婦 は嘔 吐 を異 常 が 出現 し た サ イ ン と し て とら え,こ れ に よ り不安 感 を抱 いて いた こ とが 推 測 され る。 さ らに,不 安 が高 くア ドレナ リンが 分 泌 され た 状 態 で は子 宮 収 縮 が 弱 め られ る22)と の 報 告 が あ る よ うに,不 安 に よ り続 発性 微 弱 陣 痛 が 引 き起 こされ 分 娩 が遷 延 し,そ れ に よ りい っ そ う不安 が増 強 す る とい う悪 循 環 が 生 じて い た と推 察 され る。 タ イ プBで は,嘔 吐 は心 身共 に産 婦 へ マ イ ナ ス の影 響 を与 えて い た と考 え られ る。 タ イ プBの よ うな産 婦 に は,嘔 吐 に伴 う不 快 感 や苦 痛 を軽 減 させ る よ うな ケ ア を行 い,ど の よ う な方 法 で エ ネ ル ギ ー を貯 え るか を考 え る必 要 が あ る。 同 時 に,子 宮頸 管 の未 成熟,低 栄 養 状 態,嘔 吐 出 現 に よ る不 安 等 に よ り分 娩 の遷 延 が 予 測 され るの で,リ ラ ック ス を促 し心 身 を安 静 に保 ち,休 息 が とれ る よ うに人 的 ・物 的環 境 を整 え るケ ア も 必 要 で あ る。 しか し,こ れ らの ケ ア に よ って も健 康 状 態 が 改 善 し ない場 合,分 娩 進 行 に伴 って 生 じ る疲 労 や,そ れ に よ る続 発 性 微 弱 陣 痛 を予 防 す る た めの 積 極 的 な処 置 を図 り,補 液 に よ る栄 養 や ビ タ ミン類 の補 給 等 に よ り産 婦 の 体 力 を維 持 し,自 然 の娩 出力 の 回復 を促 す ケ アが 大 切 とな る。 VII お わ り に 分 娩 進 行 中 に 嘔 吐 が 出 現 し た 場 合,そ の 後 分 娩 が 急 速 に 進 む場 合 と,分 娩 進 行 が 遷 延 す る 場 合 が あ り,嘔 吐 の 出 現 と分 娩 進 行 と 関 連 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 し た が っ て,嘔 吐 の 出 現 と同 時 に 出 現 時 の 産 婦 の 訴 え,心 理 状 況,Bishop Score, 栄 養 状 態 等 か ら産 婦 の 状 態 を 総 合 的 に 判 断 す る こ と に よ り,そ の 後 の 分 娩 進 行 の 予 測 が よ り正 確 に 立 て ら れ る で あ ろ う。 産 婦 に と っ て 「い い お 産 」 と は,母 児 共 に安 全 で 身 体 に 組 み 込 まれ た 自 然 の メ カ ニ ズ ム を十 分 に 機 能 さ せ て,労 力 お よ び 不 快 感 を 最 小 限 に と ど め る 出 産 を す る こ とで あ る 。 嘔 吐 の 出 現 が 産 婦 へ 与 え る 影 響 を 知 り,こ れ に対 し て 的 確 な ケ ア を 行 う こ と は,産 婦 の 労 力 お よ び 不 快 感 を最 小 限 に と ど め,産 婦 の 身 体 の メ カ ニ ズ ム を十 分 に 機 能 さ せ る こ と に つ な が る と考 え る 。 謝 辞 本 研 究 に 協 力 し て くだ さい ま し た 産 婦 の 皆 様,看 護 総 婦 長 様,病 棟 婦 長 様,病 棟 ス タ ッ フ の 皆 様,ま た,研 究 の ご指 導 を し て くだ さ い ま し た 日 本 赤 十 字 看 護 大 学 教 授 平 澤 美 恵 子 先 生 に 深 く感 謝 い た し ます 。 本 研 究 は 日本 赤 十 字 看 護 大 学 修 士 論 文 の 一 部 を 加 筆 修 正 し た もの で あ り,第13回 日本 助 産 学 会 学 術 集 会 で 報 告 した 。 参 考 文献 1)杉 山貴 子: オ ラ ンダ 自宅 出産体 験記, 助産 婦雑 誌, 54 (1), p.67, 2000. 2)矢 嶋聰編: THE産 科 学, p.121, 南 山堂, 1994 . 3)真 柄正 直著, 荒 木 勤改 訂: 改訂 第20版 最新 産 科学 ・正 常 編, p.224, 文光堂, 1993. 4)中 野 昭 一 編: 図 説 体 の 事 典, p.421, 朝 倉 書 店, 1992.
5)Margaret F.Miles:10thed Text book for Midwives, 1985, 松 本 清 一 ・前 田 マ ス ヨ監 訳, マ イ ル ズ助 産 婦 マ ニ ュ アル 第2版, p .280, 医 学 書 院, 1987.
6)安 田孝, 本 田洋: 16分 娩各 時期 に母 胎 に起 こ る変 化, 周産 期 医学, 18(6), p.119, 1988.
7)Greenhill, J.P.: Asian Ed.13thed. Obstetrics , P. 347, W.B.Saunders Co., 1965 .
8)我 妻 亮, 前 原澄 子編: 分娩 の経 過 とス ク リー ニ ング, 助 産学講 座4助 産診 断 学, p.76, 医 学書 院, 1991.
初 産婦 の分娩 期 に 出現 す る嘔吐 と分 娩 進行 との 関連
9 ) A. J. Levy & V. Roch S. : Midwifery Practice Intrapartum Care — A research-based approach-— p. 59, Macmillan Education Ltd., 1990.
10) Jeannette L. Sasmor, : Child Birth Education : A Nursing Perspective, p. 240, John Wiley & Sons. Inc., 1979.
11)Garrey, M, M., Govan,A.D.T., Hodge, C.&Call ander,R.:ObstetricsIllustrated, 1974, 林 拓 朗 監 訳, 目 で 見 る 産 科 学, p.208, 廣 川 書 店, 1978. 12)Laget, M.: Naissances, 1982, 藤 本 圭 子, 佐 藤 保 子
訳, 出 産 の 社 会 史 ま だ 病 院 が な か っ た こ ろ, pp. 133-134, 勤 草 書 房, 1994.
13) Broach, J. & Newton, N. : Food and Beverages in Labor. Part1 : Cross-Cultural and Historical Practices, Birth, 15 (2), 82, 1988.
14)長 澤 信 江, 土 井 正 子, 武 藤 静 子, 堀 口 貞 子: 陣 痛 時 の 食 事 摂 取 と 諸 条 件 と の 関 係, 周 産 期 医 学, 14(5), pp.821-825, 1984.
15) O'Reilly, S.A., Hoyer, P. J. & Walsh, E. :
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21) Rhodes, V.A. : Nausea, vomiting, and Retching, Nursing Clinics of North America, 25 (4), pp. 885-900, 1990.
22)橋 本 正 淑 監 修, 郷 久 鍼 二 編: 女 性 の 心 身 医 学, p.239, 南 山 堂, 1994.