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メディアワークショップ これからの知覚心理学教育を考える―小・中学生を対象とした心理学実験ワークショップを通して―

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Academic year: 2021

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.28 180 基礎心理学研究 第34巻 第1号

メディアワークショップ

これからの知覚心理学教育を考える

―小・中学生を対象とした心理学実験ワークショップを通して―

池 田 ま さ み

a,

*・渡 邊 淳 司

b

・上 田 祥 代

c

吉 田 成 朗

d

・茅 原 拓 朗

e

・北 崎 充 晃

f a十文字学園女子大学人間生活学部・b日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 cお茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科・d東京大学大学院学際情報学府・ e宮城大学事業構想学部・f豊橋技術科学大学情報知能工学系

Media Workshop Series

“Brain and Mind” Science Education for Elementary

and Junior high school students

Masami Ikeda

a,

*, Junji Watanabe

b

, Sachiyo Ueda

c

,

Shigeo Yoshida

d

, Takuro Kayahara

e

, and Michiteru Kitazaki

f

a Faculty of Human Life, Jumonji University,

b NTT Communication Science Laboratories, Nippon Telegraph and Telephone Corporation, c Graduate School of Humanities and Sciences, Ochanomizu University, d Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, The University of Tokyo,

e Faculty of Project Design, Miyagi University,

f Department of Computer Science and Engineering, Toyohashi University of Technology

In science education, it is crucial to create teaching materials that are directly linked to students’ individual ex-periences. On “The Japanese Psychonomic Society Committee for Developing Teaching Materials for High School Students,” using computer graphics technology, we developed a visualization system called “Face Homunculus Viewer” (FHV) that provides an opportunity for students to gain a deeper understanding of the relationship be-tween brains and minds. Additionally, we conducted a workshop on human touch perception using FHV. In the workshop, we defined the two-point discrimination threshold of touch as “tactile acuity,” and students measured their tactile acuity with the methods used in psychological experiments. Our contributions are the development of an interactive system for visualizing differences in tactile acuities between bodily sites within each individual and differences between individuals. We believe that this study will indicate a new direction in science education in which computer graphics can be applied.

Keywords: media workshop, “Brain and Mind” science education, tactile acuity, Face Homunculus Viewer

(FHV), elementary and junior high school students

は じ め に 心の実験パッケージ開発委員会は,科学教育の推進や 生涯学習の充実など社会的要請に応えるべく,日本基礎 心理学会内に2012年に発足した。 本委員会が発足した背景には,心理学に対する一般的 な理解やイメージが学術としての心理学のあり方と乖離 していること,また教育現場では,児童・生徒の科学 The Japanese Journal of Psychonomic Science

2015, Vol. 34, No. 1, 180–183

報  告

Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. * Corresponding author. Department of Human Developmental

Psychology, Faculty of Human Life, Jumonji University, 2–1–28 Sugasawa, Niiza, Saitama 352–8510, Japan. E-mail: [email protected]

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181 池田他: メディアワークショップ: 脳と心の科学教育 的・批判的思考力を育成すべき効果的な教材やメソッド が不足していることなどの問題があげられる。子どもた ちに,人間を対象とした実証的な研究手法や研究の面白 さを伝えることは,人文・自然に共通する「科学的なも のの見方」や「探究心」を育み,ひいては,心理学の理 解に留まらず,心理学研究者の誕生や心理学研究そのも のの発展につながる可能性がある。 今回,委員会では,心理学と脳科学をつなぐ題材とし て「触二点閾」を採用し,測定データを可視化する教材 「Face Homunculus Viewer (以下,FHVと呼ぶ)」を開発 した。また,FHV を用いて,「“触力”を測定しよう」 と題したワークショップを科学館などで実施してきた。 約2年にわたる本委員会の取り組みは,日本基礎心理学 会第33回大会(2014年12月7日)においてワークショッ プ形式で発表,報告する機会を得た。本稿はその報告書 である。大会での発表に基づき,「教材開発の背景」「触 二点閾を採用した理由」「ワークショップの実践と研究」 「FHVの開発」「FHVを用いた授業」について,発表を 担当した各委員から以下に順次報告を行う。 (池田まさみ) 背景: メディア芸術から教材開発へのシークエンス 2000年代より,インタラクティブ技術を利用したメ ディア芸術1と呼ばれる分野の裾野は大きく広がり,体 験型・観客参加型の展示が多く行われるようになった。 近年,その技術やノウハウは,エンタテインメントや広 告の分野に取り入れられている。今後は,科学教育分野 においても,生徒の体験的理解を促す,インタラクティ ブな要素を取り入れた教材の開発が重要になると考えら れる。自身の動きに反応する,自身が映像に取り込まれ るなど,自身が学習内容と関係を持つことは,単に知識 として理解するだけでなく,自分事としての理解につな がる。「“触力を測定しよう”わたしの顔で見るホムンク ルス」と題したワークショップと題したワークショップ では以下の手順を経ることで,生徒は知識と体験的理解 を結びつけることになる。 1.触二点閾の説明(知識の獲得) 2.腕・顔の触二点閾の計測(実行) 3.FHVによる視覚化(意味の実感) 4.身体全体への拡張(知識の操作) (渡邊淳司) 触二点閾 の測定と実践 最初のコンテンツとして触二点閾測定実験を採用した 理由には,①特別な装置やソフトウェアが不要であるこ と(スピアマン式触覚計は樹脂製の安価なノギス(工具) で代用した),②計測値が目視でき直感的に理解しやす いこと,③単なる現象記述にとどまらず神経表現(ホム ンクルス)との関連づけることができること,④実験者 と被験者の役割が明確で実験参加者同士のコミュニケー ションが生みやすいこと,などがあげられる。 計測では,実験参加者がペアを組み,ファシリテータ の教示に従って実験者役と被験者役を交代しながら行わ れた。測定値記入シートに記入された各人の測定値は FHVのデータとして可視化され,また,全体の平均値 をその場で算出して,その値に基づきホムンクルスの解 説が行われた。 これまでの「触力を測定しよう」ワークショップの参 加者は,学会シンポジウム等で開催した場合を除き,心 理物理学の知識がない人びとが中心であったが,計測は 問題なく行われ,過去のデータとの比較からも妥当な計 測が行われたことが伺えた(ばらつきは見られたものの 「腕>額>唇」という関係は一貫していた)。計測の際, 2点の提示が同時ではなかったために閾値が小さくなっ てしまったケースや触覚が順応してしまったため判断に 苦しみ,時間がかかってしまったケースについては, 「刺激提示は2点同時にチョンと軽く行う」という教示 を加えることで改善した。 (茅原拓朗) 実践と研究: 脳と心の関係 理解について 子どもたちは触二点閾の実験を通して,身体部位に よって触感度が異なることを理解する。それをFHVに よって脳内ホムンクルスシミュレーションとして体験す る。そこで,「感度の高い(触解像度の高い)身体部位 は脳内では大きく表現されている」という知識を獲得し た子どもたちが,それを顔から全身に拡張して考えると どのようなホムンクルスが描けるかを調査した。子ども にとっては,顔の2つの部位のデータと知識に基づき, 日常経験からそれを全身に適用・拡張するという科学的 思考の訓練となる。一方,研究者としては,子どもたち が身体のどこを感度が高いと考えているかを知る方法と 言える。その結果,小学生も中学生も共通して身体の物 理的形状からそれほど乖離しない身体像を描くことがわ 1 文化芸術振興基本法(2001年12月7日公布)第九条  国は,映画,漫画,アニメーション及びコンピュー タその他の電子機器等を利用した芸術(以下「メディ ア芸術」という.)の振興を図るため,メディア芸術 の製作,上映等への支援その他の必要な施策を講ず るものとする.

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182 基礎心理学研究 第34巻 第1号 かった。つまり,感度は身体部位によってそれほど違わ ないと思っているか,身体の絵を実際よりも大きく変え て描くことに抵抗を感じるということが示唆された。実 験で学んだ唇に加えて,手や耳が大きく描かれており, 実際の脳のホムンクルスに類似した傾向が見られた (Figure 1)。一方興味深いことに胴体(腹)や足が非常 に大きく描かれることが少なからず見られた。これは, 柔らかい部分は触感度が高い,くすぐったい部分は触感 度が高いという子どもの仮説によると思われる。 (北崎充晃) FHV開発: 測定結果の可視化 FHVは,実験で測定した額と口の二点弁別閾の値を もとに顔画像を変形し,その人の脳内にある「ホムンク ルス顔」を提示するためのソフトウェアである。自然で 高速な顔画像の変形は,筆者らが開発した「自身の表情 が変化したように錯覚させて感情を変化させる表情変化 画像処理プログラム」(Yoshida, Sakurai, Narumi, Tanika-wa, & Hirose, 2013)を利用することで実現した。

FHVには主に2つの機能がある。1つは顔の撮影機能 で,この機能を使って実験参加者の正面顔を簡単に撮影 できる。顔が斜めを向いていたり,髪の毛で顔が隠れて いたりした場合は注意事項が表示されるため,適切に修 正することで効率良く実験に適した顔写真が撮れる。2 つ目は,顔写真の変形機能である。変形は,計測した額 と口の二点弁別閾の値を入力すると,それらの比率計算 によって顔写真が変形して表示される。変形後は,元の 顔とホムンクルス顔を切り替えて表示することができる ため,「実際の顔」と「脳の中の顔」のギャップを簡単 に見比べられるという学習・理解に有効な特徴をもつ (Figure 2)。 (吉田成朗) Figure 1. Examples of “Naive Homunculus” by an elementary school student (left) and a Junior high-school student (right).

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183 池田他: メディアワークショップ: 脳と心の科学教育 FHVを用いた授業 「触力を測定しよう」のワークショップは,①講義, ②実験,③結果: FHVで「脳の中の顔」を見る,④考 察: 身体全体のホムンクルスを想像して描く,という流 れで行われた。 ①講義と②実験では,講師とファシリテータが実際に 触二点閾の測定をやってみせることで,子どもたちは 「触力」や実験手順について無理なく理解することができ ていた(Figure 3左図)。ただし,実験を実施する際は, ノギスの当て方や,平均値の算出において,子どもの年 齢に応じてファシリテータや親のサポートが必要である。 ③実験結果を FHVで見た子どもたちはとても喜び, 変形顔(脳の中の顔)そのものに興味を示した(Figure 3右図)。また,実験に参加した友だちの顔が同様に変 形するのを見て,変形顔が「脳のなかの触力の敏感なと ころを示している」ということを,楽しみながら自然と 理解したようだ。 ④考察(理解のアウトプット)では,子どもは顔の実 験結果に基づいて,身体全体の「敏感なところを大きく 描く」ということは理解しているものの,絵を描くこと 自体が難しく,恥ずかしがる子も見られた。このような ときは,ファシリテータが適度に説明を繰り返すなどし て,描くこと(アウトプット)を上手く促すことも大切 である。 実験後,子どもたちは「敏感なところと痛みは関係す るのか」など興味津々に話していた。鏡で見る顔(物理 的な情報)と心の中の顔(感覚)が異なることを実感を もって理解できているのではないかと思われる。 (上田祥代) お わ り に 本委員会では,小・中学校の教員などが「触力を測定 しよう」の授業を自ら実施できるよう,FHVをはじめ授 業に必要なもの一式をDVDに収めパッケージ化した。本 パッケージは現在,日本科学未来館を通して全国科学館 に貸出されるている(2015年10月より開始)。委員会活 動の詳細はホームページに公開すると同時に,FHVの動 画情報(日本語版,英語版)をyoutubeでも配信している (以下URL参照)。委員会では今回の開発をシリーズ第1 弾として,今後さらに,知覚・認知に関する心理学的現 象を組み込んだ体験型科学教材の開発を進めていく。 (池田まさみ) 心の実験パッケージ委員会ホームページ https://sites.google.com/site/kokorojps/ 触力を測定しよう概要(日本語版,3分) https://www.youtube.com/watch?v=geEd0DzWrsQ Let’s measure “Haptic Acuity” and visualize it with your face!

(英語版,3分) https://www.youtube.com/watch?v=Tj_EH-6dd9k ワークショップ・出前授業に関するお問い合わせ [email protected] 謝   辞 東京大学の佐藤隆夫先生には,本委員会の立ち上げか ら,教材開発およびワークショップの実施に至るまで, 多大なお力添えとご指導を賜りました.また,慶應義塾 大学の川畑秀明先生には有益なご助言をいただき活動を 支えていただきました.先生方に心より御礼申し上げま す.最後に,出前授業やワークショップにご協力くだ さった学校および科学館関係者の皆様,参加者の皆様, 大学院生の方々に,この場を借りて感謝申し上げます. 引用文献

Yoshida, S., Sakurai, S., Narumi, T., Tanikawa, T., & Hirose, M. (2013). Manipulation of an emotional experience by real-time deformed facial feedback. Proceedings of The 4th

Inter-national Conference on Augmented Human 2013, 35–42.

Figure 1. Examples of  Naive Homunculus  by an elementary school student  (left)  and a Junior high-school student  (right).
Figure 3. Photographs of participants  experiences in the workshop.

参照

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