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接触機会が少ない恐怖対象にどのように挑戦するか―祖父母宅の二階恐怖とテレビ恐怖に対応した事例―

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-11 142

-接触機会が少ない恐怖対象にどのように挑戦するか

―祖父母宅の二階恐怖とテレビ恐怖に対応した事例―

○河上 雄紀 長岡記念財団長岡ヘルスケアセンター(長岡病院)心理課 1 .はじめに 不安症に対しては曝露反応妨害法(ERP)が有効と されている(Sisemore, 2012/2015)。しかし接触機会 の少ない恐怖対象の場合はマニュアルをそのまま適用 するのは困難であり、工夫が必要である。今回筆者は 少ない接触機会でERPを適用した事例を経験したた め、報告する。なお、患者より本発表についての同意 を得た。 2 .事例 30代女性。現在は夫、幼児の娘と 3 人暮らし。遠方 に祖父母、父、妹がいる。小学校低学年頃から、祖父 母宅の二階の床が崩れる事を想像し、恐怖を感じてい る。それから派生し、中学生以降祖父母宅の離れ二階 が、さらに大学生以降父親宅二階が怖くなっている。 また幼稚園の時から、テレビの大音量によってテレビ が爆発すると想像し、恐怖を感じている。生活の負担 を減らしたい、夫や子どもに気を遣わせたくないと考 え、来談された。 3 .面接過程 7 ヶ月間に計13回の面接を行った。その結果、主訴 として挙げられた恐怖を日常的に感じる事はなく なった。また患者だけで曝露を計画し実行できるよう になった。 # 1 では主訴を聞き取り、二つの問題を見立てた(表 1 参照)。 二階恐怖の語りは以下のとおり。「祖父母宅二階の 子ども部屋とベランダの床が最も怖い。床の軋む音で 恐怖が強まる。何かの重みで部屋の床が砂みたいに崩 れるイメージ。身体の芯が「うっ」「ぞわっ」となり、 俯く、蹲る等で対処する。いつも祖母が歩いているか ら崩れない等と思うと少し安心する。ここ10年程は子 ども部屋に入れず帰省時は一階で寛ぐ。しかし帰省前 や帰省中に突然怖くなる。また自宅でも月 1 回程度強 い不安が起き、娘を抱いて机の下に入る。」 テレビ恐怖の語りは以下のとおり。「自宅と祖父母 宅のテレビの音量が23以上になると爆発しそう。感情 や感覚は二階恐怖と同じ。自宅では常に音量22以下。 祖父母宅では患者が音量調整できず、恐怖を感じ近づ けない。以前は長時間視聴も同じ理由で怖かったが、 長時間視聴の機会が増えると慣れた。」 二つの恐怖対象について回避による恐怖の維持が推 測されたため、ERPでの対応を検討した。祖父母宅と 父親宅は遠方のため、帰省は半年に 1 回、次回帰省は 1 ヵ月後の数日間であった。帰省に向けた情報収集と 心理教育、曝露の準備を行う事とした。 # 2 〜# 4 は過去に恐怖を乗り越えた経験を例にして ERPの心理教育を行った。そしてHWでテレビの大音量 (音量30〜40間を上下)に挑戦した。最初、自覚的障 害単位(SUD)は40であったが、毎日実施し、 4 日で 0に低減した。 5 日以降も様々な音量や状況を試すも 顕著な恐怖はなく、「実際にやってみたら大丈夫だっ た」と笑顔で話した。また表 1 に基づき二階のイメー ジ曝露も実施し、心理士が口頭で反応妨害した(# 3 〜)。同じ手続きをHWでも行い、夫に反応妨害を依頼 した。 帰省時はHWと同じ勝手で表 1 の内容をランダム実施 し、夫に反応妨害と動画撮影を依頼する事を確認し た。患者が曝露実行への不安を訴えたため、心理士が 電話で曝露の指示を行う事とした。 帰省した# 5 は電話を用いた曝露を行った。患者の 五感や姿勢、SUD等を質問する事、課題や反応妨害を 提案する事、取り組みを励ます事が心理士の役割で あった。曝露中、振動が少ない歩き方やジャンプをす る、ジャンプ 1 回毎に部屋を出る等、心理士との電話 の中で逃避、回避行動が明らかになった。そのため 「音を鳴らし、踵から着地。 5 回連続」等と指示した。 SUDの減少は120→80程度であったが、「怖い」と連呼 する行動や部屋からの逃避行動がなくなり、「初めよ りマシ。大丈夫。家が崩れる想像ができなくなった」 等と報告があった。# 6 に電話以降の曝露を記録した 動画を確認したところ、電話で報告された変化に加 え、スキップ等新しい行為も確認できた。また曝露時 以外での祖父母宅二階とテレビの恐怖減少も報告され た。 # 7 には、祖父母宅等で娘を自由に遊ばせるため次 の帰省も曝露したいと話した。曝露の効果維持のた め、自宅でできる方法を模索した。「最悪の結末」を 作る事や床の軋む音を聞く事、祖父母宅等の写真を見 る事等を試したが、恐怖感は得られなかった。一方で 「二階の床に重いものを載せる」イメージ想起は恐怖 感を得られたため、HWとした。# 5 以来祖父母宅二階 の恐怖はないが、ブランコ等揺れる動作をした際に父

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-11 143 -親宅を連想したと報告があった。 帰省前の#12は父親宅二階の曝露を計画した。夫に 反応妨害と動画撮影を、娘にジャンプを協力してもら う等、恐怖を強める工夫を患者自身で考えた。帰省を 終えた#13は動画をとおし、夫の指示で恐怖の強い行 為に挑戦する姿を確認できた。また娘を抱えて椅子か ら飛び降り、娘が喜び何度も要求する場面も見られ た。二日間で全体的にSUD80→40〜 0 程度低下した。 「怖いはずだがピンとこない。自信がついた」と話さ れた。 生活に大きな支障がない状況が半年維持され、曝露 の知識の定着が十分と考えられたため、#13に終了と した。今後も帰省の際は曝露したいと話した。 4 .考察 本事例では二つの対象への恐怖を取り扱った。祖父 母宅二階では短期間で強い恐怖対象への挑戦のため、 ERP手続きの未達成が心配された。しかし結果として 計画どおりの曝露を実施でき、主訴の解決に繋がった と考える。 曝露場面の工夫では、電話による介入を用いた事で 手続きの最終確認や一歩踏み込んだ反応妨害の実施が できたと思われる。また飯倉(2001)が指摘するよう に、電話を用いた曝露は行為の責任の半分を治療者が 負う欠点はあるものの、決めた行動が実行できたとい う自信を得られる点は非常に有益であると感じた。さ らに実施中は五感の報告を多く求める事で「いつも祖 母が歩いているから崩れない」等の思考面の回避を容 易に妨害できた。一方で逃げ出す、ゆっくり歩く等の 動作面の逃避や回避を治療者が把握しづらく、妨害の 教示も試行錯誤であった。これらの点は今後改善が必 要と思われる。また夫や娘の協力によってERPが容易 になった事も、主訴改善に大きく寄与したと考える。 事前の工夫では、# 4 までに行った二階へのイメー ジ曝露で、課題の内容や動作、反応妨害の方法等を事 前に教える事ができたと考える。またテレビへの現実 曝露では恐怖感を強める事が主訴改善に繋がると体験 でき、その後の曝露行動を自発しやすくしたように思 われる。 引用文献 飯倉康郎(2001). 電話を用いた曝露反応妨害法が治 療の中心的な役割となった強迫性障害の治療過程 日 本行動療法学会大会発表論文集, 27 , 107-108. Sisemore, T. A. (2012). The Clinician's Guide to E x p o s u r e T h e r a p i e s f o r A n x i e t y S p e c t r u m D i s o r d e r s : I n t e g r a t i n g T e c h n i q u e s a n d Applications from CBT, DBT, and ACT.  New Harbinger Publications.(坂井誠・首藤祐介・山本 竜也(監訳)(2015). セラピストのためのエクスポー ジャー療法ガイドブック――その実践とCBT、DBT、 ACTへの統合―― 創元社)

参照

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