-(30)-Sound Luanta の理論から見た 電子集団のスピン変退と相関凾数とについて 阪大理学部物理学教室 西山敏之 (1950年11月27日受理) Ⅰ.序説 電子集団を第二量子化で取扱うことは單なる形式論的要求によるものではない.朝永理論(1) において極めて直観的に示された通り,それはハートリー・フォックの一体近似理論のもつ致 命的な欠点をできるだけ除去しようとする要求にもとづくものである.この小論は最近,少く とも一次元では,一応の成功を収めたと見られる Sound Luanta の理論に從つて二つ の古典的な問題を取扱う.一つはスピン変退を考慮してハミルトニアンの固有値問題をとくこ とであり,外の一つはよく知られたフェルミ穴の問題を足場として,スピンの存在による相関 凾数の変化をしらべることである. Ⅱ.一次元フォノン場 われわれは理論の展開に必要な大部分の道具立を次のラグランヂアン密度におしこめてし まうことができる.密度ρkと正準共軛な変数πk 〔ρk,πe〕=i〓δke (2・1) として,長さLの領域で Q(x)=1LΣkqke-ik′x, qk=√ροm1Ckπk (2・2) なる量を用いる.こゝにρ0は全粒子数,Ckは音波の位相速度,Gkは相互作用のフーリェ 成分,〓kmaxは最大運動量である.フォノンをあらわすラグランヂアン密度は L(x)=12(|Q(x)|2-C20|∂Q(x)∂x|2-C20μ2|Q(x)|2) μ2=ρ0mαC20, α=k2Gk になつて,Q(x),ρ(x)及π(x)は同一の方程式
-(31)-(-1c20∂2∂t2+∂2∂x2-μ2)Q(x)=0 を満足する.運動量は qk=-√mρ0Ckρ-k (2・6) を用いて G=-12∫(Q∂Q∂x-∂Q∂xQ)dx=12∫(ρ∂π∂x+∂π∂xρ)dx (2・7) となる.ハミルトニアンは H=∫H(x)dx=∫(Q2-£(x))dx であるから H=Σk〓ωkMk (2・8) 但し Mk=b*kbk (2・9) bk=1√2〓(√|k|ρ0mCkπk-i√mCk|k|ρ0ρk) (2・10) b*k=1√2〓(√|k|ρ0mCkπ-k+i√mCk|k|ρ0ρ-k) (2・11) 〔bk,b*k′〕=δk,k′, 〔bk,bk′〕=〔b*k,b*k′〕=0 (2・12) 以上で一次元フォノン場の主要部分がつくされている. Ⅲ.スピン変退 密度のフーリェ成分が添字kの他に内部自由度を示す添字λ=0.1をもつ場合にも固有 値問題をとくことができる.今(+),(-)スピン(λ=0.1)をもつ電子集団のハミルトニア ンを H=〓22mΣkk2(Nk,0+Nk,1)+12Σλ,λ′(Σkρkλρ-kλ′Gk +NλNλ′G0-12NλG(0)δλ,λ′) (3・1) とおく.こゝにNk,0,Nk,1は軌道状態kに(+)又は(-)のスピンをもつ電子が存在する 数を示し,Nλは(λ)スピンをもつ電子の総数:(N0〓N1とする),Gkは例によつて, 相互作用のエネルギーのフーリェ成分である.G(0)は次の節で交換エネルギーに関係のある
-(32)-量で,G0はクーロン相互作用を与えることがわかる.HをフォノンのハミルトニアンHpk でおきかえるには,ρk,λの代りに +ρk=1√2(ρk,0+ρk,1), -ρk=1√2(ρk,0-ρk,1) +πk=1√2(πk,0+πk,1), -πk=1√2(πk,0-ρπk,1) (3・2) を用いると,ハミルトニアンのフォノン部分は Hpk=〓Σkω+kM+k+〓Σkω-Mk- (3・3) ω-k=|k|(C20+NmGk)12=|k|C0√Tk+Uk+Tk,ω-k=|k|C0 (3・4) Tk=〓2mkmax|k|,U+k=2|kLπ|Gk (3・5) 全エネルギーは H=Hpk+H0+12Σλ,λ′(NλNλ′G0-NλG(0)δλλ′)+〓2Σk(ω+k-ω-k) (3・6) こゝにH0は完全縮退のエネルギーで H0=〓22mΣ|k|<πN0Lk2+〓22mΣ|k|<πN2Lk2 (3・7) である.-ρkの運動が相互作用のエネルギーに無関係であるのは相互作用が+ρkだけの凾数に なつている結果である. Ⅳ.相関凾数 一般に二つの電子の近づきにくさをあらわすのに二粒子の既約密度演算子: 1N(N-1)ψ*(x)ψ*(x′)ψ(x′)ψ(x) (4・1) を用いる. ψ*,ψは量子化された波動凾数である.そのフーリェ成分は体積Vの箱の中で ψ(x)=1VΣkAkeikx, (4・2) ψ*(x)=1VΣkA*ke-ikx (4・3) で与えられる. 但し,〔a*k,a*l〕+=〔ak,al〕+=0 〔ak,a*l〕=δk,l
-(33)-x=x′+ξとしてx′について全空間で積分(スピン座標を含めて)すると, C(ξ)=1N(N-1)VΣk,lΣλ,λ′Σq〈a*kλa*l+qλ′alxak+qλeiqξ〉AV (4・4) となり,この総和の各項を次の三つに分類する. (ⅰ)クーロン項:C(ξ) これはq=0とした部分和であつて C(ξ)=1N(N-1)VΣk,lΣλ,λ′〈Nkλnlλ′-Nkλδk,lδλ,λ′〉AV (4・5) (ⅱ)交換項:C(ξ)ex これはk=lとした部分和であつて C(ξ)ex=1N(N-1)VΣk,lΣλ,λ′〈Nkλδλ,λ′-Σqa*k,λak,λ′a*k+q,,λ′ak+q,λ〉AV ・eiqξ (4・6) (ⅲ)衝突項:C(ξ)call これは残余の部分であつて C(ξ)call=C(ξ)-C(ξ)c-C(ξ)ex (4・7) で与えられ,電子は位置を定めて議論をするハートリー・フォック近似では省略され る部分である.次に示されるようにこの項を入れて計算した相関凾数が相互作用の ポテンシヤル・エネルギーに関係していることは,粒子の kinematical correlation が利いていることを示している. 即ち,C(ξ)を書き直して C(ξ)=1N(N-1)V(2Σq〈+ρq+ρ-q〉AV e iq・ξ-Σk,λ〈Nk,λ〉AV δ(0) =1V+2N(N-1)VΣq≠0<+ρq+ρ-q〉AV e iq・ξ-1NVδ(0) (4・8) 一方C(ξ)c+C(ξ)exはよく知られたWigner-Seitz(2)の相関凾数(W.S.C)3となり, 1V{1-9π41(kmaxξ)3J32(kmaxξ)2} (4・9) で与えられる.こゝにJ32は32次のベッセル凾数で,アンチ・パラレル・スピンの相関は無 視してある.余談なるが一辺の長さLのn次元の箱についてもC(ξ)exの計算を行うことが できて,それにはkをki=2πnL,niは整数,をi番目のベクトル成分とするn次元のベ
-(34)-クトルとする.まず Σkeikξ をラプラス変換: (L2π)n∫∞-∞…∫∞-∞eik・ξe-βk2dk1…dkn=(L2π)n(πβ)n2e-|ξ|24β, の逆変換をすることによつて求める.それにはベッセル函数の公式: ∫∞0Jy(k|ξ|)e-βk2kν+1dk=|ξ|v(2β)v+1e-ξ24β, を使えばよい.n次元空間の半径kmaxの超球面内で, Σ|k|<kmax eik・ξ=L2(2πn2|ξ|n2-1∫kmax0Jn2-1(k|ξ|)kn2dk =L2(2π)n2(kmax|ξ|)n2Jn2(kmax|ξ|) (4・10) 但し,kmaxは 2πn/2Γn2+1kmaxnLn(2π)n=N (4・11) から定まる. 以上余計なことをいつたのは,現在のところ,一般に一次元しか通用しないと信じられて いる,sound quantaの理論に話をもどす,前置きである.相関函数は一般に (W.S.C)n=1Ln{1-2n-1Γ(n2+1)2(kmax|ξ|)nJn2(kmax|ξ|)2} (4・12) 従つて, (W.S.C)1=1L{1-12(sin ̄|ξ|kmax|ξ|kmax)2 (4・13) これに衝突項を加えて得られる全相関函数は C(ξ)=1L{1-1Nδ(0)+1N(N-1)Σq|Lq2π|<4√TqTq+Uq+(Mq++12)>AVcos(|ξ|q) … (4・14) 始め相互作用を除いて基準状態について相和すると, C(ξ)0g=1L{1-1Nδ(0)+14(|ξ|kmaxsin ̄|ξ|kmax-2sin2|ξ|kmax2|ξ|2kmax2) (4・15) となる.この式は二つの意味で正確でない.それは理論の過程|q|≪kmaxに反して
-(35)-|q|〓kmaxまで相和したこと.及び一番近似の悪いUq+=0の場合を考えていることによる 誤差を含んでいるからである.C(ξ)0gは,しかしながら,正しい相関函数の上限を与える ものとしていみがある. 上記のごとく衝突項はフェルミ穴を埋めてしまう. 次に,アンチ・パラレル・スピンの相互作用が,パラレル・スピンの相関函数に与える影 響を与えて見る.アンチ・パラレル・スピンが互に統計的に独立で,恰も全部が+又は-スピ ンであると考えられる集団の相関函数を, C(ξ)p=1L{1-1Nδ(0)+1N(N-1)Σq|Lq2π|<√TqTq+Uq(2Mq0+1)>AVcos(|ξ|q) として,基準状態において,(+),(+)スピンの相関函数C(ξ)0,0との差をつくると C(ξ)0,0=1L{1-1Nδ(0)+1N(N-1)Σq|Lq2π|<√TqTq+Uq+(Mq++12)+Mq-+12>AVcos(ξq) となるから, C(ξ)0,0,g-C(ξ)p,g>0, if Tq≫Uq,or Uq≫Tq>0 但し Uq+=2Uq =0, if Uq〓0 となり相互作用があれば,パラレル・スピン同士は,アンチ・パラレル・スピンを媒介として 接近し易くなる. V.三次元の問題 密度と流量のフーリエ成分は一つの閉ぢた代数系をつくつている(3).即ち [ρk,ρe]=0. [ρk,je]=〓mkρk+e. [jkx,jey]=〓m(jk+exky-jk+eykx) (5・1) 第1図 L×相関函数
-(36)-但し, ρk=Σeae-k2xde+k2 (5・2) jkx=〓mΣexae-k2xde+k2, xはベクトルのx-成分 である.jkを縦成分jk(e)∥kと横成分jk(h)⊥に分けてmjk(e)=iρ0kπ-kとおく. こゝでρk(k≠0)|k|を微小量として計算の途中にでてくる二次以上の量を自動的に落し てしまうために,交換関係を [ρk,πe]=ihδke [ρk,ρe]=[πk,πe]=0 (5・3) とかく.これは全く計算の便宜上用いたもので,正しい交換関係を用いて計算してもかまわな い.その結果(2・8)の同型のハミルトニアンを得るがその対角要素は,フェルミ面の充分内 部に穴がないとして,全エネルギーから完全縮退のエネルギー及横成分のエネルギーを引去つ たものになる.非対角項は一次元のときと同様にして零.三次元でも朝永理論と同様にρkを 進行波と逆行波の部分ρk+,ρk-に分けることができるが,最早ρk+,ρ-k+は共軛でなくなる. 相関函数も計算できるが割愛する. 終りに,永宮研究室の方々の討論並に伏見教授,南部教授の御教示に対して感謝します. 文献
1)S.Tomonaga prog. Theor. Phys. 5(1950), 544 2)E.Wingner & F.seity Phys. Rev. 43(1933), 804 3)T.Nishijima 物性論研究 31(1950), 7