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第 4 回 血液感染症フォーラム

《学術講演記録》

第 4 回 血液感染症フォーラム

座長 日本大学医学部 第一内科 澤 田 海 彦 座長 日本赤十字社医療センター 血液内科 鈴 木 憲 史 1. 難治性感染症を伴う MDS における collagenase 活性測定の意義 東京医科大学 第一内科 山 口 法 隆 2. 再生不良性貧血にクリプトコックス化膿性脊椎炎を合併した 1 症例 埼玉医科大学 感染症科・感染制御科 岡  陽 子 3. 血液悪性疾患に対する抗真菌剤の予防投与に関する検討 順天堂大学医学部 血液内科 松本古奈木 4. 顆粒球減少患者におけるイトラコナゾール / フルコナゾールの抗真菌予防効果の比較 東京大学医科学研究所 血液腫瘍内科 内 山 倫 宏

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「第 4 回血液感染症フォーラム」学術講演記録の刊行について

「第 4 回血液感染症フォーラム」 担当幹事

順天堂大学医学部 血液内科 森   健

本フォーラムは ,血液疾患の臨床において課題となる各種の感染症に関する実践的な知識を習得し , 血液疾患の治療成績向上を図ることを目的に発足した。 第4回血液感染症フォーラムは,2004年10月2日に東京で開催された。本学術講演記録は,今回のフォー ラムに参加いただけなかった先生方に講演内容を知っていただき,少しでも日常診療に役立てていただ くことを願って刊行するものである。「血液感染症フォーラム」は毎年1回開催されているので,今回ご 参加いただけなかった先生方も次回は是非参加していただき,血液疾患の臨床に携わる先生方に役立つ 会に発展していくことを期待している。 顧   問:山 口 英 世(帝京大学真菌研究センター) 代表世話人:浦 部 晶 夫(NTT 関東病院) 世 話 人 薄 井 紀 子(東京慈恵会医科大学) 友 安  茂(昭和大学医学部) 大屋敷一馬(東京医科大学) 別 所 正 美(埼玉医科大学) 押 味 和 夫(順天堂大学医学部) 掘 田 知 光(東海大学医学部) 澤 田 海 彦(日本大学医学部) 末 永 孝 生(医療法人鉄蕉会亀田総合病院) 鈴 木 憲 史(日本赤十字社医療センター) 泉二登志子(東京女子医科大学) 高 橋 正 知(聖マリアンナ医科大学) 森   健(順天堂大学医学部) 檀  和 夫(日本医科大学) 吉 田  稔(帝京大学医学部附属溝口病院) 戸 塚 恭 一(東京女子医科大学) (五十音順)

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第 4 回 血液感染症フォーラム

《症例報告 1》

難治性感染症を伴う MDS における collagenase 活性測定の意義

山 口 法 隆・伊 藤 良 和・大屋敷一馬

東京医科大学第一内科

Matrix metalloproteinases (MMP)-2, MMP-9など は ,血管基底膜分解に強く関与する蛋白分解酵素 群の IV 型 collagenase に属し ,悪性腫瘍の浸潤・転 移への関与が示唆されている。MMP-2, MMP-8, MMP-9は好中球の三次顆粒中にも含まれており , 感染症病態では好中球活性化による脱顆粒で放出 され ,炎症の病態形成に関与すると報告されてい る。 骨髄異形成症候群 (Myelodysplastic syndrome: MDS)における好中球機能異常については ,これ まで「機能低下による易感染性」の面から論じら れることが多かったが ,好中球より放出された各 種の collagenase が組織傷害などの炎症病態形成に 関与することも推測される。そこで,我々はMDS 患者における末梢血好中球の collagenase 活性を測 定し ,感染症を中心とした臨床経過との関連性に ついて検討した。 【Collagenase 活性の測定】 MDS 患者 50 例(男性 29名 ,女性 21 名 ,22⬃81 歳)と ,対照群として健 常者 39 例(男性 23 名 ,女性 16 名 ,22⬃54 歳)を 試験対象にし,好中球collagenase活性を測定した。 MDS患者のFAB分類は,RA (refractory anemia) 31 例,RARS (refractory anemia with ringed sideroblast) 4例 ,RAEB (refractory anemia with excess of blasts) 5例 ,RAEBt (refractory anemia with excess of blasts in transformation) 1例 ,CMML (chronic myelomonocytic leukemia) 2例 ,post-MDS AML (acute myeloid leukemia) 2例 ,化学療法後寛解例 5 例であった。

好中球 collagenase 活性は CellProbe (Beckman Coulter, Fullerton, CA, USA)を使用して測定した。 CellProbeは好中球に含まれる MMP-2, MMP-8, MMP-9を含むII型およびIV型collagenaseの検出が 可能である。CellProbeは酵素特異的離脱基と色素 の結合体で ,細胞膜を通過すると細胞内の colla-genaseで分解されて緑色の蛍光色素を生成する。 この蛍光強度をフローサイトメーターで測定し , collagenase活性強度としている。今回の試験では CellProbeと末梢血を反応させ ,前方散乱と側方散 乱によって決定した顆粒球分画の蛍光を測定し , 補正後の標準化した相対値を好中球 collagenase 活 性とした。 【MDS 患者の collagenase 活性】 MDS 患者の collagenase活 性 は 対 照 群 の 健 常 者 よ り 有 意 ( p⬍0.05)に高く,FAB分類別にみるとハイリスク 例で高い活性を示したが ,有意差は認められな かった (Table 1)。予後予測のためのスコアである Table 1. Collagenase活性

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IPSS (International Prognostic Scoring System)は骨 髄中芽球の割合,染色体異常,血球減少系統数を評 価項目とするが ,この各項目と好中球 collagenase 活性の関連を検討したところ ,やはりハイリスク 例で高い活性を示したが ,有意差は認められな かった (Table 2)。MDS患者の異常な好中球を検知 す る 簡 易 な 方 法 と し て NAP ス コ ア (Neutrophil Alkalyne Phosphatase Score)が普及している。NAP スコア低値例で好中球 collagenase 活性が高い傾向 を認めた (Table 3)。 【感染治癒遷延とcollagenase活性の関係】 次に, MDS患者の感染症に対するcollagenaseの関与を検 討した。MDS 患者のうち ,好中球数が 1,000/ml以 上あるにもかかわらず 37.5°C 以上の発熱が 7 日間 以上継続し ,腫瘍熱を否定でき感染巣が明らかな 症例を感染症治癒遷延例と定義した。今回検討し たMDS患者50例のうち,好中球減少を伴わない感 染症治癒遷延例は 6 例で ,感染症治癒遷延例の collagenase活性は対照群の健常者に比べて有意 ( p⬍0.01)に高く ,他の MDS 患者に比べても有意 ( p⬍0.01) に高かった(Table 4)。健常者における collagenase活性の平均⫹ 標準偏差 (SD)値である 26.9を超える症例数は ,好中球減少を伴わない感 染症治癒遷延例では6例中5例だが,感染症治癒遷 延が認められない症例では 37 例中わずかに 2 例で あった ( p⬍0.0005)。Collagenase 活性が 26.9 以上で あった感染症治癒遷延例5例をみると(Table 5),好 中球が十分存在するのに症例 1 のように肺炎を繰

Table 3. NAPスコアと collagenase 活性値の関係

Table 4. 臨床経過と collagenase 活性

Table 5. Collagenase活性が高値 * で好中球減少を伴わない感染症治癒遷延を認めた患者 Table 2. IPSS の評価項目と collagenase

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第 4 回 血液感染症フォーラム り返す例などを認めた。 【まとめ】 MDS 患者の好中球 collagenase 活性は 健常者より有意に高値で,MDSの病型や予後因子 のハイリスク例で値は有意ではないが ,やや高い 傾向を認めた。好中球 collagenase 活性が高い症例 の中に好中球が十分存在していても感染症が遷延 する例が多いことが示唆された。このことから,好 中球collagenase活性の測定が,MDS患者の感染症 予後推測に役立つ可能性が考えられた。 【質 疑 応 答】 【問】 好中球 collagenase 活性と NAP スコアに逆 相関の傾向がみられますが ,好中球機能との関係 はいかがですか。 【答】今回は,好中球機能とcollagenase活性の関 連については検討していません。 【問】NAPスコアはG-CSF投与で上昇しますが, G-CSF投与との関連はいかがですか。 【答】 G-CSF 投与前後で collagenase 活性を測定 した症例はありません。ただし ,collagenase 活性 は感染症の発症時と未発症時であまり変化がみら れないことから ,サイトカインストームなどは collagenase活性にはあまり関与しないように思い ます。 【問】感染症治癒遷延が認められた6例の起炎菌 は判明していますか。 【答】脂肪織炎の合併例から黄色ブドウ球菌,肛 門周囲膿瘍の合併例から大腸菌が検出された以外 は同定できませんでした。

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《症例報告 2》

再生不良性貧血にクリプトコッカス化膿性脊椎炎を合併した 1 症例

岡  陽 子

1)

・松 田  晃

2)

・前

繁 文

1) 1)

埼玉医科大学病院感染症科・感染制御科

2)

埼玉医科大学病院血液内科

今回 ,再生不良性貧血に非定型抗菌症およびク リプトコッカス化膿性脊椎炎を合併した 1 例を経 験したので ,その経過を報告する。 【症例】 27 歳 ,男性 ,主訴:腰痛 【現病歴】 1999 年 7 月初旬から 38°C 台の発熱 , 咳嗽が出現して近医を受診したところ ,汎血球減 少を指摘され 7 月 13 日当院血液内科を紹介受診し た。 【初診時所見】初診時の身体所見では肝脾腫,リ ンパ節腫脹を認めなかった。既往歴・家族歴に特 記すべきことはなく ,喫煙歴は 30⬃40本/日で9年 間であった。 血算では白血球数730/m(好中球数510/l ml,リン パ球数210/ml,好酸球数10/ml),赤血球数1.84⫻106/ ml,ヘモグロビン5.8g/dl,ヘマトクリット17.3%,血 小板数6,600/ml,網赤血球数6.3万/mlと汎血球減少 を認めた。肝機能 ,腎機能には特に問題はなく , CRPは 5.27mg/dlと上昇を認めた。腸骨の骨髄穿刺 では著明な脂肪髄を認め ,胸骨の骨髄穿刺ではや や低形成で ,M/E 比 0.54,芽球 5% であったが ,骨 髄異形成症候群 (Myelodysplastic syndrome: MDS) と診断するほどの異形成は認めなかった。染色体 検査は正常核型であった。以上の検査結果から再 生不良性貧血の軽症と診断したが ,その後早期に 中等症に移行した。 免疫学的検査では CD4 53.4% (32⬃48), CD8 32.2% (21⬃33),で ,リンパ球刺激試験では PHA 956 cpm (26,000⬃53,000), ConA 1,230 cpm (20,000⬃48,000) とともに低値であった。喀痰検査 および胃液検査では ,Gaffky は陰性 ,培養により Mycobacterium aviumが検出された。ツベルクリン 反応は 3⫻3 mm(発赤のみ)で陰性であった。 【初診から腰背部痛出現までの経過】 初診時の 骨髄穿刺・骨髄生検などから再生不良性貧血と診 断し ,G-CSF と ciclosporin (CyA) を投与した (Fig. 1)。また ,喀痰および胃液から検出した M. avium により非定型抗酸菌症と診断し isoniazid (INH), ethambutol (EB)を投与開始し ,CRP の上昇を認め たため rifampicin (RFP), clarithromycin (CAM) を併 用した。治療に対する反応は良く臨床症状は軽快 し ,2000 年 1 月には CRP も 1.20 mg/dl と落ち着き 汎血球減少も改善したため,ciclosporinを漸減して 2000年 8 月には一時中断し ,9 月には ethambutol, clarithromycin も投与中止した。しかし,2000年10 月に肺炎および汎血球減少の増悪を認めたため ciclosporin, ethambutol, clarithromycin の投与を再 開して外来で経過をみたが ,2002 年 2 月頃から汎 血球減少が改善したため,4月から再生不良性貧血 の治療を中止して外来で経過をみた。2001 年 8 月 頃より背部痛が出現したが ,この時は対処療法で 軽快した。 【腰背部痛出現後の経過】 2002 年 7 月頃から腰 背部痛が出現し ,8 月の外来受診時には左背部に 10 cm大の膿瘍を認めた (Fig. 2)。整形外科で排膿 などの処置が行われ膿瘍は縮小傾向を示したが臨 床症状は軽快しなかった。10月に撮影した胸部レ

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第 4 回 血液感染症フォーラム ントゲンでは左中肺野に浸潤影を認め ,両側下肺 野に網状影を認めたが ,肺クリプトコッカス症特 有の所見は認められなかった。12月には瘻孔を形 成したため MRI を施行し ,L2 椎体の左半分と T2 に高信号および造影効果を示す領域を認め ,その 領域は脊柱および背筋群に沿って L4 レベルまで 連続し ,体表に向かう瘻孔を認めた (Fig. 3)。血液 検査では白血球 3,950/ml(好中球数 3,349/ml,リン Fig. 1. 初診から腰背部痛出現までの経過 Fig. 2. 腰背部痛出現からの経過

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パ球数568/ml,好酸球数20/ml),ヘモグロビン9.6 g/ dlと再生不良性貧血は軽度であった。肝機能・腎機 能には特に異常を認めず,CRPは4.91 mg/dlと上昇 を認めた。抗原検査ではクリプトコッカス抗原が 陽 性 で ,瘻 孔 部 位 の 培 養 検 査 で Cryptococcus neoformansが検出 (⫹⫹)されたことからクリプト コッカス化膿性脊椎炎と診断した。2003 年 1 月か ら ,Fluconazole (FLCZ) 200 mg/ 日の投与を開始し て6ヵ月間加療した。2ヵ月程度で臨床症状は消失 し,7月にはCRPも2.81 mg/dlまで低下した。2003 年 4 月 の MRI 検 査 で は 前 回 検 査 で 認 め ら れ た L2⬃L4 の高信号領域も消失した(Fig. 4)。 【まとめ】 再生不良性貧血に非定型抗酸菌症を 合併した症例で ,明らかな全身性の細胞免疫低下 および肺クリプトコッカス症を認めないままクリ プトコッカス化膿性脊椎炎を発症した極めて稀な 一例と考えられた。Fluconazole 200 mg を 1 日 1 回 6ヵ月経口投与し,臨床的・画像的に著効を認めた。 【質 疑 応 答】 【問】 クリプトコッカス症は非常に長い経過で 発症しますので ,2001 年 9 月に背部痛が出現した 頃から発症していたのではないでしょうか。 【答】 この時期に撮影した MRI 画像に特に異常 所見がなく ,対処療法で症状は軽快していること Fig. 3. 瘻孔形成時の MRI 画像 (2002 年 12 月) Fig. 4. クリプトコッカス化膿性脊髄炎 治癒時の MRI 画像(2003 年 4 月)

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第 4 回 血液感染症フォーラム から,当時から発症していたかどうかは不明です。 【問】カリエスについては,どのように除外診断 されましたか。 【答】カリエスも考えましたが,瘻孔部位の培養 検査で Cryptococcus neoformans が検出されたこと からクリプトコッカス化膿性脊椎炎と診断しまし た。 【意見】 クリプトコッカス抗原は非常に陽性を 示しやすいため ,陽性かどうかだけで治療効果を 判定することは困難です。そこで,血清を希釈して 何倍まで陽性を示すかを確認することをお勧めし ます。

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《症例報告 3》

血液悪性疾患に対する抗真菌剤の予防投与に関する検討

松本古奈木・森 健

順天堂大学医学部血液内科

血液悪性疾患は基礎疾患が重篤で真菌感染症を 合併することが多く,一旦,真菌感染症が発症する と基礎疾患の治療が難渋して予後不良になる傾向 がある。カンジダ症は比較的治療しやすいのに対 し ,アスペルギルス症などの糸状菌感染症は治療 しても予後不良になることが多い。最近の日本病 理剖検輯報によるとアスペルギル症の合併頻度が 高まっている。血液悪性疾患治療中の真菌感染症 の合併を防ぐために抗真菌剤が予防投与される が,アメリカでは Fluconazole (FLCZ) が,ヨーロッ パではイトラコナゾール (ITCZ) が推奨される傾 向があり ,本邦では FLCZ 投与が多いと思われる。 当院の血液内科では抗真菌剤の特性から ,全身状 態が良い入院後 10⬃14 日間は外因性真菌 ,特にア スペルギルスの感染予防にITCZを,基礎疾患の治 療開始後に FLCZ に変更して内因するカンジダの 発症を予防する方法を試みているが ,各薬剤の予 防効果には一定の評価を得ていない。そこで ,今 回 ,当院の血液内科における抗真菌剤の予防投与 の実態を調べ ,その予後について検討した。 【対象症例】 平成 10 年 2 月⬃ 平成 13 年 10 月(3 年 9ヵ月間)に 7 日間以上入院し ,病歴検索が可能 であった 180 名(男性 92 名:延べ 227 回入院 ,女 性 88 名:延べ 186 回入院)を検討した。担当医の 判断で FLCZ または ITCZ の経口剤を 4 日間以上 投 与 し た 例 を 予 防 投 与 例 と し た 。 FLCZ は 200⬃400 mg/ 日 ,ITCZは主に 200 mg/ 日で 100 mg/ 日投与もあった。なお,薬剤変更時に4日以上あけ た例 ,抗真菌剤を静脈内投与した例 ,10 例以下の 基礎疾患例については除外した。 延べ413回の入院のうち,予防投与なし群(None) 181回 ,FLCZ 単独群 (FLCZ) 71 回 ,ITCZ 単独 群 (ITCZ) 91 回 , FLCZ から ITCZ への変更群 (FLCZÆITCZ) 8 回 ,ITCZ から FLCZ への変更群 (ITCZÆFLCZ) 62 回に分けて検討した。いずれの 群も 51 歳以上の症例が多く ,平均年齢は予防投与 なし群の 61.0 歳が最も高く ,予防投与した群の性 別・年齢に差は認められなかった。 【入院回数・入院期間】 平均入院期間は,予防投 与なし群では 24.3 日と 1ヵ月未満で退院した例が 多かったのに対し ,薬剤変更群の入院期間は長い 結果であった (Table 1)。そこで ,入院回数または 入院期間と死亡率の関係をみたところ ,入院期間 が 長 く な る ほ ど 予 後 が 悪 く な る 傾 向 が あ っ た (Fig. 1)。しかし,FLCZ単独群では平均入院期間が 27.9日と ITCZ 単独群の 40.2日より短かったが ,死 亡率は 14.1% (10/71) と ITCZ 単独群の 4.4% (4/91) より高値であった (Table 1)。また,ITCZ単独群と ITCZか ら FLCZ へ の 変 更 群 の 間 に は 有 意 差 ( p⫽0.01: c2検定)が認められた。しかし ,ITCZ からFLCZに変更した 62 例中14例が薬剤変更を繰 り返していることから,FLCZへの薬剤変更により 予後が悪くなったとは言及できない。また,今回の 検討で死亡した 29 例の病理剖検は 10 例と少なく , ITCZから FLCZ への変更群の 1 例にのみ真菌感染 (カンジダ症)が認められたが,予防投与終了後に 合併したものであった。 【基礎疾患】 抗真菌剤の予防投与例の基礎疾患

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第 4 回 血液感染症フォーラム

をみると,悪性リンパ種 (non-Hodgkin’s lymphoma: NHL) 98例 ,急性骨髄性白血病 (acute myeloid leu-kemia: AML) 67回 ,急性リンパ腫 (acute lympho-blastic leukemia: ALL) 20回,多発性骨髄腫 (multiple myeloma: MM) 15例であった (Table 2)。悪性血液 疾患全体の検討では各群の死亡率に有意差を認め なかったが ,悪性リンパ種の検討においては , ITCZ単独群の 0% (0/34) はFLCZ単独群の19.4% (7/ 36)より有意( p⫽0.02: c2検定)に低く ,ITCZ か ら FLCZ への変更群の間にも有意差( p⫽0.004: c2 検定)が認められた。 【予防投与状況と静注抗真菌剤への変更】 抗真 Table 1. 予防投与別にみた入院回数・入院期間 Fig. 1. 入院回数・入院期間と死亡率

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Table 3. 予防投与別にみた投与開始日と投与期間 Table 2. 予防投与別にみた基礎疾患

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第 4 回 血液感染症フォーラム 菌剤の予防投与開始日と投与期間を検討したとこ ろ ,1 週間以内の投与開始と 15⬃30 日間の投与が 最も多かった(Table 3)。予防投与の投与日数と死 亡率の関係を検討すると,15⬃30日間と31⬃60日 間の間に有意差( p⫽0.009: c2検定)が認められた。 死亡率は入院が長くなるほど高くなったが ,投与 期間と死亡率にはそのような関連性は認められな かった。 今回は死亡例の病理剖検が少なく死亡と真菌感 染との関連が検討できなかったため ,真菌感染を 強く疑って抗真菌剤の予防投与を静脈内投与に変 更したと考え ,FLCZ や AMPH-B の静脈内投与へ の変更例について検討した。ITCZ単独群の静脈内 投与への変更率は 3.3% (3/91) で,ITCZからFLCZ への変更群の 16.1% に比べ有意( p⫽0.01: c2検定) に低かった(Table 4)。 【まとめ】今回検討した悪性血液疾患全体では, FLCZ,ITCZ のいずれの予防投与でも死亡率に有 意差を認めなかったが ,悪性リンパ腫においては ITCZ予防投与の予後は FLCZ 群より有意に良かっ た。薬剤変更例では長期入院が多く死亡率が高 かった。病理剖検例が少ないため死亡への真菌感 染の関与が検討できず ,今後は剖検例を増やして 死因の解明に努める必要がある。また,今回は組み 合わせが多いため基礎疾患に対する治療薬剤につ いては検討しなかったが ,今後の検討が必要と考 える。 【質 疑 応 答】 【問】 悪性リンパ腫のみでITCZ予防投与が有効 でしたが ,他の血液悪性疾患で有意差が認められ なかった理由は何ですか。 【答】 悪性リンパ腫は検討例数が多かったこと と ,白血病に比べて免疫低下への影響が少ないこ とも関与すると思われます。 【問】 入院が長い薬剤変更群では重篤な症例が 多いと考えられますが ,b-D-グルカンなど真菌感 染を示す臨床検査値の変化について検討されてい ますか。 【答】 今回は残念ながら検討していません。 Table 4. 予防投与から静注への変更例

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《症例報告 4》

顆粒球減少患者におけるイトラコナゾール / フルコナゾールの

抗真菌予防効果の比較

内 山 倫 宏・内 丸  薫・二 見 宗 孔・小 沼 貴 晶・野 村 明 子・中 山  紳

大 野 伸 広・曽 田  泰・友 成  章・大 井  淳・長 村 文 孝

高 橋  聡・井 関  徹・東 條 有 伸・浅 野 茂 隆

東京大学医科学研究所 血液腫瘍内科

造血器悪性腫瘍における好中球減少時の真菌感 染症に関して,診断・治療に苦慮しているのが現状 であり ,好中球減少症患者に対する予防的治療が 重要である。一般的には化学療法施行時の真菌感 染予防として Fluconazole (FLCZ) が使用されるこ とが多いが ,アスペルギルスに対する十分な有効 性が認められていない。一方 ,イトラコナゾール (ITCZ)はアスペルギルスに対しては強い抗真菌活 性を持つことが報告されているものの ,吸収に伴 う血中濃度の不安定性が懸念されている。最近,報 告されている欧米の Fluconazole との比較試験で は ,少なくともアスペルギルス感染の発症を減少 させているが,これらの報告のほとんどが,本邦で は未承認のイトラコナゾール液剤 (oral solution) で ある。また,イトラコナゾール血中濃度と真菌感染 予防効果との関連を検討した前向き比較試験は少 数であり,一定の見解は得られていない。そこで, 今回 ,我々は本邦で承認を受けているイトラコナ ゾールのカプセルとFluconazoleを用いて造血器悪 性腫瘍患者における化学療法時の真菌感染予防効 果について比較検討するとともに ,イトラコナ ゾール血中濃度のトラフ値と予防効果の関連を検 討した。 【試験方法】 造血器悪性腫瘍(疾患名は不問)の 寛解導入後,地固め療法,維持強化療法を施行して 顆粒球数 500/ml以下になると予想される患者を対 象とした。対象患者をランダムにイトラコナゾー ル群と Fluconazole 群に分け ,化学療法開始日より 各薬剤200 mg/日を1日1回経口投与した。H2ブロッ カーとの併用で吸収が低下するイトラコナゾール は昼食後に,Fluconazoleは朝食後に投与した。投 与期間は化学療法後骨髄抑制から回復し ,顆粒球 数1,000/ml以上が7日間持続するまでとした。他の 抗真菌剤は予防投与として併用せず ,消化管滅菌 は硫酸ポリミキシン B(300 mg/ 日)で行った。 薬剤投与中に真菌感染症と診断した症例数(疑 診・確診を含む)および抗真菌剤の治療的投与へ の移行症例数を観察し ,各群の真菌感染予防効果 を判定した。また ,投与 1 週間後(8 日目),2 週 間後(15 日目)にイトラコナゾール血中濃度トラ フ値を測定し ,血中濃度と予防効果の関連につい ても評価した。副作用およびb-D-グルカンなどの 臨床検査値異常の頻度も合わせて観察した。なお, 経口投与が不能となった場合 ,患者から中止の申 し入れがあった場合,重篤な副作用があった場合, 顆粒球数1,000/ml以上が7日間以上経過する前に次 の化学療法を開始した場合 ,主治医が投与継続不 適切と判断した場合は除外した。 【試験結果】 イトラコナゾール群と Fluconazole 群は各 14 例で ,各群の患者背景に有意差を認めな かった (Table 1)。抗真菌剤の治療的投与に移行し た症例は,イトラコナゾール群14例中4例 (28.6%),

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第 4 回 血液感染症フォーラム Fluconazole群 14 例中 5 例 (35.7%)で ,有意差を認 めなかった (Table 2)。Fluconazole 群の 2 例に真菌 感染が疑われた (possible)。1 例は口腔カンジダ症 で ,もう 1 例は侵襲型真菌感染症で好中球減少時 (500/ml以下)に発熱を呈し ,胸部 CT 上空洞を伴 う異常影を認め ,肺アスペルギルス症を疑って Micafungin投与開始したところ改善をみた。 侵襲型真菌感染症の予防を期待できるイトラコ ナゾール血中濃度として ,これまで 250 ng/ml 以上 あるいは 500 ng/ml などと報告されているが ,今回 の検討では ,ほとんどの症例が 250 ng/ml 以下で あった (Fig. 1)。イトラコナゾールの代謝物 (OH-ITCZ)は抗真菌活性を持つため未変化体と活性代 謝物を合わせた血中濃度の推移も検討したが ,抗 Table 1. 患者背景 Table 2. 治療的抗真菌剤投与に移行した症例 Fig. 1. イトラコナゾール血中濃度の推移 Fig. 2. イトラコナゾールの未変化体と活性 代謝物の血中濃度の推移

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真菌剤の治療的投与への移行との関連性を認めな かった (Fig. 2)。また ,両群に重大な副作用は認め なかった。 【考察】 イトラコナゾール群と Fluconazole 群で 抗真菌剤の治療的投与への移行症例数に有意差を 認めなかったことより ,造血器悪性腫瘍患者にお けるイトラコナゾールカプセル 200 mg/ 日投与の 真菌症予防効果はFluconazoleと同様に安全でかつ 有用であることが示唆された。抗真菌剤の治療的 投与への移行群と非移行群でイトラコナゾールの 血中濃度(トラフ値)に差を認めなかった。今回 の検討で得られたイトラコナゾールの血中濃度は カンジダ属 ,アスペルギルス属の MIC90と比し比 較的低値であったが,十分な予防効果が得られた。 真菌症予防効果が期待できるイトラコナゾール血 中濃度として 250 ng/ml 以上1),250⬃500 ng/ml2), 500 ng/ml以上3)などの報告がみられるが ,血中濃 度と臨床効果との関係に一定の見解は得られてい ない。今回,我々の検討からイトラコナゾール血中 濃度が250 ng/ml以下であっても,Fluconazole群と 同等の予防効果があることが示唆された。これは イトラコナゾールの高い脂溶性と良好な組織移行 性によるものと考えられるが明確ではない。また, in vitroの検討でイトラコナゾールの活性代謝物 (OH-ITCZ)は未変化体とほぼ同等の抗真菌活性が 報告されている。今後は,活性代謝物を含め組織移 行性も勘案した検討が必要と考える。 【質 疑 応 答】 【問】 イトラコナゾール投与中に嘔気などの消 化器症状で投与中止した例はありますか。 【答】 投与した 14 例にはありませんでした。 【問】 Fluconazole 群で口腔カンジダ症と肺アス ペルギルス症が疑われた 2 例でb-D-グルカンなど の動きはいかがでしたか。 【答】 2例ともb-D-グルカンなどに動きを認めて いません。 【意見】 Fluconazole 群でみられた口腔内カンジ ダ症はFluconazole耐性菌起因の可能性があります し,もう1例も肺アスペルギルス症が疑われており 興味を持たれます。今後,症例数を増やした検討を 期待しています。 文献

1) BOOGAERTS, M. A., et al.: Mycoses, 1989

2) BOYLE, B. M., et al.: Transplant Infection Disease, 2000 3) GLASMACHER, A., et al.: Mycoses, 1999

Table 5. Collagenase 活性が高値 * で好中球減少を伴わない感染症治癒遷延を認めた患者
Table 3. 予防投与別にみた投与開始日と投与期間

参照

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