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商学 60周年記念号/24.内田浩徳

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アメリカ税効果会計における評価性引当金設定の意味

──年金会計・退職後医療給付会計を中心に──

はじめに Ⅰ SFAS 109 号における繰延税金資産と評価性引当金の設定規準 Ⅱ 内国歳入法における年金制度と会計処理 Ⅲ 財務会計における年金制度と会計処理 Ⅳ 繰延税金資産の計上機会拡大 Ⅴ 評価性引当金の設定項目と設定機会拡大 おわりに

は じ め に

税効果会計は,財務会計と税務会計の認識時点の相違から生じる一時的な差異を調整 するために,繰延税金負債または繰延税金資産を計上する。繰延税金負債は,一時差異 が解消する将来年度に税金を支払うと仮定して,その効果(税金の未払い)を負債とし て計上する。繰延税金負債は,税務上支払う税額よりも会計上支払うべき税額の方が大 きい場合に生じる。繰延税金負債は,会計上,課税の繰延を示している。 それに対して,繰延税金資産は,一時差異が解消する将来年度に税金が戻ってくると 仮定して,その効果(税金の前払い)を資産として計上する。繰延税金資産は,会計上 支払うべき税額よりも税務上支払う税額の方が大きい場合に生じる。繰延税金資産は, 将来年度の課税所得を源泉として,会計上,前払いした税金が将来年度に解消すると仮 定している。しかし,実際には,会計上,将来年度に課税所得が確実に得られるか否か は不確かである。 SFAS 96号『法人税等の会計処理』は,繰延税金資産の認識範囲に関して「(1)当期 の繰延税金負債の減額および(2)当期または過年度に支払われた税金を減額するため に,将来年度の欠損金を繰戻すことによって実現可能な正味税額控除額(net deductible amounts)のタックス・ベネフィットとして認識される(将来年度のあらゆる追加的な 正味税額控除額を認識してはならな 1

い)」と規定していた。Richard G. Schroeder, Myrtle W. Clark and Jack M. Catheyは,繰延税金資産の認識を制限した処理について,「当期 ────────────

1 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.96, Accounting for

In-come Taxes, December 1987, para.17(e).

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および過年度に繰戻しができるかもしれない将来年度の正味減算項目となる一時差異に 関して繰延べた税効果は,資産である。しかし,SFAS 96 号は,その他すべての正味税 額控除額に係る便益の認識について,繰延税金負債の減額(部分−内田)に限定してい る。当該プロナンスメントのもとで,これら(減額可能な繰延税金負債を超える額−内田)は, 資産として計上されることはない。−当該処理は,その他の偶発利益の処理と一致して い 2 る」と述べている。

また,Robert S. Kay and D. Gerald Searfoss は,繰延税金資産の認識が制限されてい た理由について,SFAS 96 号にもとづく「財務報告は,取得原価主義にもとづいてお り,その目的はすでに発生した事象や取引のみを会計上認識することである。したがっ て,将来の収益または原価および費用が発生するであろうという予測にもとづくべきで はな 3 い」と述べている。このように SFAS 96 号は,原則として取得原価主義にもとづ いていたため,将来年度の収益や費用に関する税効果を予測すべきではないと考えてい たのである。しかし,会計実務は,繰延税金資産の認識制限などに関して批判が寄せら れてい 4 た。 SFAS 109号『法人税等の会計処理』は,再度,繰延税金資産が概念ステイトメント 6号『財務諸表の構成要素』の資産の定義を満たすか否か検証した。SFAS 109 号は, 繰延税金資産が資産の 3 つの特徴をすべて満たすべきものと結論付け 5 た。SFAS 109 号 は,すべての繰延税金資産を認識することで,繰延税金資産の認識制限に対する批判に 対応したのである。 前述したように,繰延税金資産は,将来の課税所得を源泉としているため,その実現 可能性の判断が重要になる。SFAS 109 号は,Ⅰで述べるように,認識した繰延税金資 産にうち実現するか否か不確かな部分を控除する手段として,評価性引当金という項目 をあらたに設けた。では,SFAS 109 号ではじめて設定が要求された評価性引当金は, 会計上,どのような意味を持つのであろうか。本稿は,SFAS 109 号ではじめて要求さ れた評価性引当金の設定が,会計上どのような意味を持つのかについて考察することを 目的としている。 ────────────

2 Richard G. Schroeder, Myrtle W. Clark and Jack M. Cathey, Financial Accounting Theory and Analysis : Text

Readings and Cases, Eighth Edition, 2005, p.401.(加古宜士,大塚宗春監訳『財務会計の理論と応用』中 央経済社,2004 年,457∼458 ページ。)

3 監査法人トーマツ監訳『アメリカ金融機関・会計実務ハンドブック』中央経済社,1993 年,379 ペー ジ。

4 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.109, Accounting for

Income Taxes, February 1992, para.283.なお,訳出に当たっては,日本公認会計士協会国際委員会訳 財 務会計基準書第 109 号『法人所得税の会計処理』,1994 年 2 月を参考にしている。

5 Ibid., paras.81−83. 422

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Ⅰ SFAS 109 号における繰延税金資産と評価性引当金の設定規準

SFAS 109号は,繰延税金資産の認識規準を以下のように規定している。 「企業は,すべての一時差異並びに繰延欠損金および繰越税額控除について,…… (中略)……繰延税金資産を認識しなければならな 6 い。」 SFAS 109号は,従来のステイトメントとは異なり,すべての繰延税金資産を認識す ることを要求している。そのため,繰延税金資産の実現可能性に不確実性が存在する。 まずは,納税申告書・損益計算書および貸借対照表の一部をもとにして,その点を設例 で確認する。 〈設例 1〉 収益・益金:200(毎期同額) 費用・損金:60 財務会計……初年度に 60 一括償却 税務会計……毎期 20 償却 税率:40% 納税申告書 損益計算書 ──────────── 6 Ibid., para.16. 年 度 1年目 2年目 3年目 益金 200 200 200 損金 20 20 20 課税所得 180 180 180 法人税額 72 72 72 年 度 1年目 2年目 3年目 収益 200 200 200 費用 60 0 0 税引前利益 140 200 200 当期法人税費用 繰延税金費用 72 ⊿ 16 72 8 72 8 税引後利益 84 120 120 アメリカ税効果会計における評価性引当金設定の意味(内田) 423

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貸借対照表の一部 1年目と仮定した場合,1 年目に計上した繰延税金資産が解消するためには,2 年目 および 3 年目に課税所得が得られることが前提になる。しかし,実際問題として,2 年 目および 3 年目に確実に課税所得が得られるか否かは,不確かである。もし,2 年目お よび 3 年目に課税所得が得られなかった場合,初年度に会計上,税金を前払いしたと仮 定して計上した繰延税金資産が解消しない。繰延税金資産が解消しなかった場合,会計 上初年度に費用を少なく計上していたことになる。このような金額を財務諸表に計上し た場合,財務諸表の比較可能性が損なわれる可能性がある。そのため,繰延税金資産が 実際に解消するか否かといった実現可能性の判断が重要になる。そこで,SFAS 109 号 は,繰延税金資産の一部または全部が実現しない可能性がおそらくある(more likely than not)場合,評価性引当金により当該資産を減額して測定することを要求してい 7 る。 SFAS 109号は,実現可能性の判断にあたって,利用可能なすべての肯定的な証拠と 否定的な証拠を考慮しなければならないと規定している。SFAS 109 号は,肯定的な証 拠および否定的な証拠に関する項目として,以下のようなものを列挙している。 A肯定的な証拠の例 「a.現行の販売価額および原価構成にもとづき,繰延税金資産が実現するために十 分な課税所得を生み出すような現在の契約状況または確定した受注残高がある こと b.事業体の純資産の税務上の簿価を上回る資産評価額の超過額が,繰延税金資産 が実現するために十分な金額だけあること c.損失……(中略)……が継続的な現状ではなく例外的な現状であるということ を示す証拠とあわせて考えて,将来の減算額……(中略)……を生じさせる損 失を除いては,高い収益力を示しているこ 8 と」 ──────────── 7 Ibid., para.17. 8 Ibid., para.24. 年 度 1年目 2年目 3年目 資産項目 備品 60 60 60 減価償却累計額 60 60 60 繰延税金資産 16 8 0 負債項目 未払税金 72 72 72 424

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B否定的な証拠の例 「a.繰越欠損金 b.未使用のまま失効した繰越欠損金および繰越税額控除が過去にあったこと c.(現在は利益を計上している事業体による)近い将来年度における損失の予測 d.もし,不利に解決したならば,継続的に将来の営業活動に不利な影響を与える 未解決の状況 e.(1)多額の減算一時差異が単一年度に戻し入れられると予測される場合,もし くは(2)当該企業が伝統的に循環的事業において営業活動を行っている場合 に,タックス・ベネフィットの実現が制限されるほど,繰戻しおよび繰越し期 間が短いこ 9 と」 SFAS 109号は,肯定的な証拠と否定的な証拠に関して「客観的検証可能性の程度に 準じて,潜在的な影響度合いを判断しなければならな 10 い」としている。肯定的な証拠と 否定的な証拠の潜在的な影響度合いの判断は,経営者に委ねられている。 肯定的な証拠と否定的な証拠は,利用可能なすべての情報を考慮しなければならない ため,過年度や当期の会計情報だけではなく,将来の会計情報も予測しなければならな い。SFAS 109 号は,将来年度の潜在的な課税所得の源泉として,以下の項目を例示し ている。 「a.現存する加算一時差異の将来における戻入れ b.一時差異および繰越しの戻入れを除外した将来の課税所得 c.税法によって繰戻しが認められる場合には,過去の繰戻年度の課税所得 d.もし必要であれば,タックス・プランニング戦略が,以下のために実施される であろう。 (1)失効する繰越しを利用するために加算額を前倒しすること (2)加算額または減算額の性格を通常所得または欠損金からキャピタル・ゲイン またはロスに変更すること (3)投資を免税から課税へ変更するこ 11 と」

William J. Read and Robert A. J. Bartschは,これら利用可能な証拠に関して「企業 は,実現可能性の判断を裏付けるために可能性が高い課税所得の源泉を一つひとつ考慮 ──────────── 9 Ibid., para.23. 10 Ibid., para.25. 11 Ibid., para.21. アメリカ税効果会計における評価性引当金設定の意味(内田) 425

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上記の 識閾を 満たす 上記の 識閾を 満たさない 評価性引当金を 設定しない 評価性引当金を 設定する そのまま 繰延税金資産を 測定 評価性引当金により 繰延税金資産を 控除して測定 すべての繰延税金資産を認識 実現する可能性がおそらくある識閾 実現可能性の判断 ・肯定的な証拠 ・否定的な証拠 経営者 が判断 する必要はない。企業のもつすべての繰延税金資産の実現可能性をもたらす課税所得の 源泉に関連する証拠が存在する可能性がおそらくある場合には,それ以外の源泉を考慮 する必要はない。一部またはすべての繰延税金資産が,実現しない可能性がおそらくあ る場合には,すべての潜在的な課税所得の源泉を考慮すべきであ 12 る」と述べている。 以上のように SFAS 109 号における繰延税金資産の認識・測定プロセスを図示した場 合,以下のようになる。 第 1 図から分かるように,SFAS 109 号は,すべての繰延税金資産を認識対象として おり,繰延税金資産の認識を制限していた以前のステイトメント(SFAS 96 号)とは大 きく異なる。SFAS 109 号は,将来の課税所得を源泉として,すべての繰延税金資産を 認識対象としているため当該金額には不確実性が存在する。そこで SFAS 109 号は,そ の不確実性を一定限度減らすために,可能性がおそらくある識閾というフィルターを新 たに導入して繰延税金資産を測定しているのである。 ところで,SFAS 96 号から SFAS 109 号に移行したことで,繰延税金資産を計上する 企業がどのくらい増加したのであろうか。それを示したのが第 1 表である。 SFAS 96号は,1987 年 12 月に公表され,1988 年 12 月 15 日以降に開始する事業年度 から適用することと規定してい 13 た。SFAS 109 号は,1992 年 2 月に公表され,1992 年 12 月以降に開始する事業年度から適用することと規定してい 14 る。この表からは,1992 年 以降,繰延税金資産を計上する企業が年々増加していることが見てとれる。では,繰延 ────────────

12 William J. Read and Robert A. J. Bartsch, Accounting for Deferred Taxes Under FASB 109, Journal of

Ac-countancy Vol.174, December 1992, pp.38−39.

13 SFAS No.96, para.32. 14 SFAS No.109, para.50.

第 1 図 SFAS 109 号における繰延税金資産の認識・測定プロセス 426

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税金資産の認識制限がなくなって以降,徐々に当該資産を計上する企業が増加している のにはどのような要因が考えられるであろうか。 繰延税金資産の計上機会が増加する要因の 1 つに,将来予測要素を伴うステイトメン トの導入があると考える。以下では,将来予測要素を伴うステイトメントの 1 つである SFAS 87号『事業主の年金会計』と SFAS 106 号『年金以外の退職後医療給付に関する 事業主の会計』をもとに考察する。

Ⅱ 内国歳入法における年金制度と会計処理

内国歳入法(Internal Revenue Code:以下,IRC と略称)は,年金制度を「制度に加 入する従業員に年金を給付するため,主として雇用主によって設定されるプラ 15 ン」と定 義している。年金制度は,給付か拠出かといった観点による区分方法と適格か非適格か といった観点による区分方法がある。前者の観点による年金制度は,確定給付型年金制 度と確定拠出型年金制度に区分される。確定給付型年金制度は,契約によって将来受取 ることができる給付額が確定している制度である。確定拠出型年金制度は,給付額の一 部または全部を外部基金に拠出し,その運用による損益によって将来に受取る給付額が 変化する制度であ 16 る。 後者の観点による年金制度は,適格年金制度と非適格年金制度に区分される。適格年 金制度は,基金への最低参加資格要件,参加年齢要件,給付額要件,最低拠出額要件な 17 どある一定の要件を満たした制度である。適格年金制度は,基金に拠出した段階で,一 ────────────

15 CCH, Income tax Regulations Volume 1 as of June 23 1986, §1. 401−1(b)(1)(i).

16 白須信弘『新版 アメリカ法人税法詳解』中央経済社,2002 年,282∼283 ページ。本稿は,損金算入 ・不算入に関連して,後者の観点からの区分について論じる。

17 James E. Smith, Internal Revenue Code of 1986 and Treasury Regulations Annotated and Selected 2009

Edi-tion, §410(a)(b),§412(a). 第 1 表 SFAS 96 号と SFAS 109 号適用前後における繰延税金資産の計上企業数 年度 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 流動資産 129 147 140 143 168 178 192 247 317 363 365 固定資産 13 16 16 12 17 20 34 95 169 167 185 年度 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 流動資産 378 375 400 364 359 403 399 387 422 424 434 固定資産 172 177 177 165 129 196 195 212 237 243 261 出所:American Institute of Certified Public Accountants, Accounting Trends & Techniques, 1986

For-tieth Edition, pp.123, 156, 1989 Forty-Third Edition, pp.175, 195, 1992 Forty-Sixth Edition, pp.150, 217, 1995 Forty-Ninth Edition, pp.182, 220, 1998 Fifty-Second Edition, pp.186, 217, 2001 Fifty-Fifth Edition, pp.159,.200, 2005 Fifty-Ninth Edition, pp.174, 209, and 2007 Sixty-Edition, pp.151, 183をもとに作成。なお,当該調査は,600 社である。

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定の制約を受けない金額を損金の額に算入することができるとしてい 18 る。それに対し て,非適格年金制度は,プラン参加者の給付額をほぼ同水準にしなければならないとい う非差別ルールを適用しないため,ある程度給付額を自由に設計できるというメリット があるが,税制上の恩恵が得られないというデメリットがある制度である。非適格年金 制度は,プラン加入者に給付された段階で損金の額に算入することができるとしてい 19 る。このように,IRC は,適格年金制度と非適格年金制度で損金への算入時期が異なっ ているのである。適格年金制度に該当する例としては,年金などがあり,非適格年金制 度に該当する例としては,医療給付などがある。年金制度および医療給付制度の特徴を 比較すると,第 2 表のようになる。 年金は,給付対象を退職者に限定しているのに対して,医療給付は,退職者のみなら ず配偶者やその他の扶養家族も含まれる。給付額および支払額について,年金は,厳格 に規定された額を毎月給付されるのに対して,医療給付は,利用回数に応じているた め,無制限に給付される。年金は,債務の変動を合理的に見積ることが可能であるが, 医療給付は,債務を予測することが困難である。また,積立に関して,年金は,一般的 に外部の適格要件を満たす基金に積み立てられるのに対して,医療給付は,一般的に積 み立てられないという特徴がある。 これら年金および医療給付を財務会計のステイトメントと関連させた場合,年金につ いては SFAS 87 号,医療給付については SFAS 106 号がそれに該当する。

Ⅲ 財務会計における年金制度と会計処理

SFAS 87号は,年金費用を計算するに当たって,過去・現在の給与水準で計算する累 ──────────── 18 Ibid., §404(a). 19 Ibid., §404(a). 第 2 表 医療給付制度と年金制度の比較 特徴 医療給付 年金 給付対象 退職者,配偶者,その他の扶養家族 退職者(給付を生存配偶者に一部支給 する場合がある) 給付額 一般的には無制限 厳格に規定 給付支払 利用に応じて 毎月 予測可能性 予測困難 変動は合理的に見積可能 積立 一般的に積み立てられない 一般的に積み立てられる

出所:D. Gerald Searfoss and Naomi Erickson, The Big Unfunded Liability : Postretirement Healthcare Benefits, Journal of Accountancy Vol.166 Number 5, November 1988, p.33.

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積給付債務ではなく,将来の給与水準で計算する予測給付債務を用いなければならな い。SFAS 87 号は,予測給付債務を利用しているため,多くの仮定に依存しており,最 善の見積りによって純期間年金費用を計上しなければならな 20 い。純期間年金費用は「一 般的に,制度の給付算定式に組み込まれている多くの将来事象に依存して……(おり−内 田)……従業員とその遺族(もし存在すれば)の生存年数,従業員の提供する勤務の年 数,および退職または雇用終了直前の何年間かにおける従業員の給 21 与」を含めて認識し なければならない。また,「当該従業員が退職したとしても,事業主が約束した給付の 総額および提供された勤務に係る事業主に対する費用は,正確に決定可能ではなく,給 付算定方式と関連した将来事象であり,その多くは事業主の制御できないものの予測値 を使用して見積ることができ 22 る」と規定している。 純期間年金費用は,「従業員勤務の各年度への年金給付の配分および配分された当該 給付の数理的現在価値を計算するための数理上の仮定の使用にもとづいて測定され 23 る」。 それら仮定は,「将来のインフレ率のような同じ将来の経済的条件の期待値を反映する 限りにおいて,整合するものでなければならない。見積られた将来の給与水準にもとづ いて……(中略)……予測給付債務を測定することは,制度によって行われる給付に影 響を与える社会保障給付や給付制限額の既存の法律にもとづく変更といった間接的な影 響を考 24 慮」しなければならない。 SFAS 87号は,純期間年金費用の構成要素として「a.勤務費用,b.利息費用,c. もしあれば制度資産の実際収益,d.その他包括利益累積額に含まれる過去勤務費用ま たは収益があればその償却額,e.認識した範囲の利得または損失(仮定の変更による 影響を含む),f.本ステイトメントの適用開始日に存在し,その他包括利益累積額に残 存する純移行時資産または債務があればその償却 25 額」を挙げている。SFAS 87 号は,こ れら構成要素を含めた金額を,借方:純期間年金費用××× 貸方:未払年金費用×× ×として処理しなければならない。そして,SFAS 87 号は,外部基金に拠出した段階 で,借方:未払年金費用××× 貸方:現金×××として処理しなければならない。こ のように SFAS 87 号は,様々な仮定をもとに将来の給与水準を最善の見積りによって 予測して年金費用を計上しているのである。 それに対して,年金における税務処理規定は,前述したように,原則として基金拠出 ────────────

20 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.87, Employers’

Ac-counting for Pensions, December 1985, para.43.訳出に当たっては,三菱 UFJ 信託銀行 FAS 研究会訳『米 国の企業年金会計基準』白桃書房,2008 年,を参考にしている。 21 Ibid., para.12. 22 Ibid., para.12. 23 Ibid., para.39. 24 Ibid., para.46. 25 Ibid., para.20. アメリカ税効果会計における評価性引当金設定の意味(内田) 429

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段階にならなければ損金算入できない。そのため,財務会計上,予測給付債務で計算し た純期間年金費用のうち,実際に外部基金に拠出した部分しか損金算入できないのであ る。このことは,財務会計と税務会計で年金費用の計上時期が異なることを意味する。 当該差異は,会計の方が費用を早期に計上しているため,会計上,税金の前払い(将来 減算一時差異)が発生する。その将来減算一時差異は繰延税金資産として計上しなけれ ばならないのである。 もう一方の医療給付に関して規定しているステイトメントである SFAS 106 号は,そ の範囲を退職後の医療給付のほかに,生命保険,退職後に提供される授業料の援助,保 育サービスおよび法的なサービス住宅補助金のような福祉給付などを対象にしてい 26 る。 SFAS 106号は,寿命の伸び率,医療費の伸び率,医療技術の進歩および新たな病気の 出 27 現など多くの仮定に依存している。そのため,退職後医療給付会計は,年金会計以上 の将来予測を必要とする。そこで SFAS 106 号は,その仮定(将来予測)を「最善の見 積 28 り」によることを要求している。 SFAS 106号は,退職後医療給付費用の計上方法を現金払い方式(pay-as-you-go)か ら発生主義に移行させた。この移行は,現金払い方式以上に退職後医療給付債務の計上 機会を拡大させ,多くの企業に影響を与えたとい 29 う。たとえば,Leauby らは,発生主 義の採用に伴う財務諸表への影響に関して,従来採用していた現金払い方式に比べて退 職後給付債務を 163%(平均して約 13 百万ドルから約 21 百万ドルに)増加さたと指摘 してい 30 る。 また,財務会計上,現金払い方式から発生主義への移行は,移行債務と純期間退職後 給付費用の計上をもたらしたとい 31 う。前者の移行債務は,あらたな退職後医療給付制度 への移行に伴う債務であり,当該金額は,累積給付債務からプラン資産の公正価値を差 し引いた額(もし未払退職後給付費用があれば,当該金額を加算し,前払退職後給付費 用があれば,当該金額を控除する)で計算され 32 る。SFAS 106 号は,移行債務の処理方 法として,当期に即時に認識する方法か将来にわたって償却(繰延認識)する方法のい ずれかを要求してい 33 る。 後者の純期間退職後医療給付費用の構成要素に関して,SFAS 106 号は,「a.勤務費 ────────────

26 Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Standards No.106,

Employers’Ac-counting for Postretirement Benefits Other Than Pensions, December 1990, para.135.

27 Ibid., para.30. 28 Ibid., para.30.

29 Frederick Gill, Applications in Accounting, Journal of Accountancy Vol.173 Number.6, June 1992, pp.117−118. 30 Bruce A. Leauby, Joseph Y. Ugras, Mary Jeanne Welsh, Early SFAS 106 adopters provide revealing healthcare

date, Healthcare Financial Management Vol.47 No.6, Jun 1993, p.104.

31 Anthony F. Cocco, Daniel M. Ivancevich, Glenn A. Vent and John C. Zimmerman, FASB 106’s Deferred Tax Implications, Journal of Accountancy Vol.172 Number. 4, October 1994, pp.89−90.

32 SFAS No.106, para.518. 33 Ibid., para.112. 430

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費用計上 損金算入 見積 予測 拠出また は給付 認識時点に 一時的な差異 繰延税金資産の発生 税務 会計 財務 会計 年金・退職後医療給付会計 用,b.利子費用,c.もしあればプラン資産の実際利益,d.もしあれば未認識の過去 勤務費用の償却額,e.認識した範囲の利得または損失(仮定の変更による影響を含む) および f.未認識の移行債務ならびに未認識の移行資産の償却 34 額」を挙げている。SFAS 106号は,それら構成要素を,借方:退職後医療給付費用××× 貸方:未払退職後医 療給付費用×××として処理しなければならないのである。このように SFAS 106 号 は,医療技術の進歩や将来の医療技術の進歩など SFAS 87 号以上に予測と仮定にもと づいた退職後医療給付債務の計上を要求しているのである。 それに対して,税務上の退職後医療給付は,一般的に事前積立を行うのではなく,購 入保険や自家保険などを利用しているケースが多いとされ 35 る。そのため,税制上,非適 格年金制度に該当する場合が多い。先に述べたように,非適格年金制度に該当した場 合,給付段階まで損金の額に算入できない。つまり,会計上は退職後医療給付費用を予 測して計上しているが,税務上は給付段階まで損金算入できないことを意味する。この 両処理には,一時的な差異が存在しており,当該差異を繰延税金資産として計上しなけ ればならないのである。

Ⅳ 繰延税金資産の計上機会拡大

年金会計および退職後医療給付会計の導入に伴う繰延税金資産の計上機会拡大メカニ ズムを示した場合,第 2 図のようになる。 年金会計および退職後医療給付会計は,財務会計上,見積や予測といった方法を用い て早期費用計上を行っている。それに対して,税務会計では,拠出や給付といった現金 が移動した事実をもとに損金算入している。この両者の処理の相違は,認識時点の一時 ──────────── 34 Ibid., para.46. 35 中浜隆「アメリカの雇用主提供退職者医療保険」『文研論集』113 号,1995 年 12 月,111 ページ。 第 2 図 年金会計および退職後医療給付会計にもとづく繰延税金資産の計上機会拡大 アメリカ税効果会計における評価性引当金設定の意味(内田) 431

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的な相違であり,税効果会計の対象となる。当該相違は,財務会計上,将来年度の税務 上の控除対象であり,税金の前払い(将来減算一時差異)となる。SFAS 109 号は,す べての将来減算一時差異を繰延税金資産として計上しなければならないのである。 このように年金会計および退職後医療給付会計は,繰延税金資産の計上機会を拡大さ せる可能性がある。とりわけ,退職後医療給付会計の導入は,その性質上,繰延税金資 産を長期にわたって計上させ続ける可能性がある。Cocco らは,「SFAS 106 号の中で最 も重要な効果の 1 つは,繰延税金資産を認識することであり,多くの企業が,繰延税金 資産の重大な構成要素となってい 36 る」と述べている。また,Frederick は,繰延税金資 産が拡大する要因の 1 つとして,SFAS 106 号の早期適用と移行債務の処理があると述 べてい 37 る。前者の SFAS 106 号の早期適用の状況を示せば,第 3 表のようになる。 第 3 表から SFAS 106 号の早期適用は,製造業に多いことが分かる。たとえば,IBM は,1991 年のアニュアル・レポートの中で,SFAS 106 号の早期適用の結果,利益が 2,263 百万ドル縮小し,税効果額が約 350 百万ドル発生し 38 たとしており,SFAS 106 号の適用 による利益への影響と多額の繰延税金の計上という点がうかがえ 39 る。 後者の移行債務の処理に関して,前述したように SFAS 106 号は,即時に認識して移 行年度の費用とする方法または繰延認識する方法のいずれかによることを要求してい 40 る。Frederick は,移行債務の認識に関して,移行債務の償却期間が終わるまでの期間 ────────────

36 Anthony F. Cocco, Daniel M. Ivancevich, Glenn A. Vent and John C. Zimmerman, op. cit., p.91. 37 Frederick Gill, op. cit., p.119.

38 IBM, Annual Report 1991.

39 加藤盛弘教授は,SFAS 106 号の早期適用および移行債務の処理に関して以下のように述べられている。 「多くの制度が,SFAS 第 106 号の採用時に,移行債務を即時に費用認識する方法を採用したようであ るが,そのことによる利益減少の影響はとりわけ大きかった。……(中略)……移行債務の即時認識企 業のうち,AT&T,デュポン,フォード,グラマン,IBM,ロッキードの 6 社が,移行債務の即時認識 によって移行年度に純損失になった。……(中略)……年々計上される退職後給付の期間費用も…… (中略)……巨額である。退職後給付費用が絶対額においても,また税引前利益に対する割合において もいかに大きいかがうかがえる」と。(加藤盛弘,『負債拡大の現代会計』,2006 年,183∼184 ページ。) 40 SFAS No.106, para.112.

第 3 表 SFAS 106 号の早期適用の状況 産業 企業数 産業 企業数 産業 企業数 鉱業 1社 輸送業 3社 卸売業 1社 石油・ガス業 1社 通信業 3社 小売業 5社 製造業 40社 公共事業 2社 金融・保険業 7社 合計 64社 出所:Leauby et. al., Early SFAS 106 adopters provide revealing healthcare date, Healthcare

Fi-nancial Management Vol.47 No.6, Jun 1993, p.102.

(13)

にわたって,将来減算一時差異(繰延税金資産)を作り出す可能性があると述べてい 41 る。 以上のように SFAS 87 号および SFAS 106 号は,年金費用および退職後医療給付費用 を予測・見積りによって費用計上しているが,税務上は,予測・見積りによらず,給付 ・拠出によって損金計上しているため,認識時点の相違(将来減算一時差異)が発生す る。財務会計に将来予測要素を導入した点こそが繰延税金資産の計上機会を拡大させる 要因であると考える。

Ⅴ 評価性引当金の設定項目と設定機会拡大

1 実証研究にみる評価性引当金の設定 (1)評価性引当金の設定に影響を与える項目 評価性引当金は,繰延税金資産の一部または全部が実現しない可能性がおそらくある 場合,それを経営者の判断にもとづき設定する。評価性引当金の設定には,目的適合性 と客観性のトレード・オフ関係が反映しているとい 42 う。では,評価性引当金は,どのよ うな一時差異項目に設定されることが多いのであろうか。その点を Behn らおよび Millerらの実証研究で見てみる。

1)Bruce K. Behn, Tim V. Eaton and Jan R. Williams の実証研究

Behnらは,繰延税金資産に対する評価性引当金の設定と,SFAS 109 号を設定す ることで認識される一時差異項目に関連性があるか否かを検証している。彼らは, サンプルとして,1994 年 12 月現在,CD-Disclosure データサービスで繰延税金資 産を開示している企業 322 社(そのうち,評価性引当金を計上している企業は 196 社であった)を対象としている。Behn らは,評価性引当金の設定と高い関連性が ある一時差異項目として,過年度の課税所得,一時差異の将来年度の解消,一時差 異の源泉,退職後医療給付に関する一時差異,将来所得に対する可能性およびタッ クス・プランニング戦略を挙げている。そして,彼らは,当期の企業の財政状態 (financial situation)が評価性引当金の設定水準に強い影響を与える,と述べてい 43 る。

2)Gregory S. Miller and Douglas J. Skinner の実証研究

Millerらは,稼得利益を管理するために評価性引当金を利用しているか否か(利

益平準化仮説)を検証している。彼らは,サンプルとして,繰延税金資産をもつ大 ────────────

41 Frederick Gill, op. cit., p.118.

42 Bruce K. Behn, Tim V. Eaton and Jan R. Williams, The Determinants of the Deferred Tax Allowance Account Under SFAS No.109, Accounting Horizons Vol.12 No.1, March 1998, p.76.

43 Ibid., pp.63−78.

(14)

企業 200 社を対象としている。Miller らは,評価性引当金の設定に関して,多額の 繰延税金資産を計上している企業は,多額の評価性引当金を設定しており,将来の 課税所得が高い水準になると予測している企業は,少額の評価性引当金額を設定し ていると述べている。また,Miller らは,繰越欠損金や繰越税額控除が,評価性引 当金の設定の主要な要因となるとしてい 44 る。 このように前者の Behn らの実証研究の結果は,SFAS 109 号で例示された否定的な 証拠のほかに,退職後医療給付に関する一時差異といったような,将来予測要素を伴う 項目も評価性引当金を設定する可能性が高いと指摘している。後者の Miller らの実証 研究の結果は,繰越欠損金や繰越税額控除が多く存在する場合,評価性引当金を計上す る企業が多いと指摘しており,Behn らの実証結果と同様,SFAS 109 号で例示した否定 的な証拠と一致している。このように,彼らの実証研究の結果は,当期の利益を減少さ せるような否定的な証拠を示すことができれば,実務上,評価性引当金を設定してもよ いということを容認しているのであ 45 る。 (2)利益平準化仮説の検証 繰延税金資産は,利益数値に対してプラスの効果を持っており,評価性引当金は,利 益数値に対してマイナスの効果を持っている。その両者の会計上の効果を利用すること で,論理的には,利益数値に影響を与えることが可能である。Miller らは,評価性引当 金の取り崩しにより最終利益に影響を与えていた可能性に関して,以下のような事例を 紹介している。 「1993 年,IBM は,繰延税金資産が約 3 分の 1(140 億ドルから 190 億ドル)だけ しか増加しなかったが,評価性引当金は,2 倍以上(19 億ドルから 50 億ドル)に 増加した。……(中略)……1995 年,IBM は,約 12 億ドルの稼得利益を報告した が,そのうち半分(68,300 万ドル)は,評価性引当金を取り崩して得られたもので あっ 46 た。」 上記の事例のように会計実務は,評価性引当金を利用して,利益数値に影響を与えて ────────────

44 Gregory S. Miller and Douglas J. Skinner, Determinants of the Valuation Allowance for Deferred Tax Assets Under SFAS No.109, The Accounting Review Vol.73 No.2, April 1998, pp.213−233.

45 加藤盛弘教授は,実証研究の現実的機能について以下のように述べられている。

「実証研究の現実的な意味は一定の現実分析を示しながらも,既存の会計実務を合理的なものとして論 理化するところにあると考えられる。規範的理論を批判すること自体に意味があるのではなく,現存の 会計実務を肯定するところに意味がある」と。(加藤盛弘「実証的会計理論の内容と現実的機能」『同志 社商学』第 41 巻第 6 号,1990 年 3 月,120 ページ。)

46 Gregory S. Miller and Douglas J. Skinner, op. cit., p.214. 434

(15)

いるのであろうか。ここでは利益数値に影響を与える可能性がある利益平準化仮説を

Millerらおよび Schrand らの実証研究の結果で見て,つぎに,どういった目的をもって

評価性引当金を設定しているのかについて Frank らの実証研究の結果で見てみる。

1)Gregory S. Miller and Douglas J. Skinner の実証研究

Millerらの実証研究の結果は,稼得利益を管理する手段として評価性引当金を利

用しているという証拠はほとんど無いと述べてい

47

る。 2)Cathering M. Schrand and M. H. Franco Wong の実証研究

Schrandらは,産業を銀行業に限定し,評価性引当金を利用して,稼得利益を管 理しているか否かを検証している。彼らは,1993 年の COMPUSTAT に存在する 366 の商業銀行のうち利用可能なサンプル 285 行を対象に実証研究を行っている。 Schrandらは,銀行業は,評価性引当金を利用して稼得利益を平準化していると指 摘しており,利益平準化に強い影響を与える要因として,銀行業特有の規制である 自己資本比率(BIS 規定)がある,と述べている。そして,評価性引当金の変更 は,アナリストの予測とブレがある場合および過去の平均稼得利益と当期の稼得利 益にブレがある場合に行われる,と述べてい 48 る。

3)Mary Margaret Frank and Sonja Olhoft Rego の実証研究

Frankらは,多様な産業が①ポジティブな利益を報告するため,②利益を増加さ

せるためおよび③アナリストの予測利益と一致または超える(beat)ため,といっ た目的を達成するために評価性引当金を利用しているか否かを検証している。彼女 らは,サンプルとして,1993 年から 2001 年にかけて合衆国に上場している製造業 (SIC Code 2000−3999)を対象にしている。Frank らは,稼得利益が,アナリスト の予測よりも低い場合,経営者は,稼得利益を上方に操作(management)するた めに評価性引当金を利用し,アナリストの予測よりも高い場合,経営者は,稼得利 益を下方に操作するために評価性引当金を利用している,と述べてい 49 る。 このように利益平準化仮説と評価性引当金の設定目的に関する 3 つの実証研究の結果 をまとめると,利益平準化仮説について過年度の課税所得や企業の財政状態などが評価 ──────────── 47 Ibid., pp.213−233 なお,実証目的およびサンプルについては,V 1(1)2)と同じである。

48 Cathering M. Schrand and M. H. Franco Wong, Earnings Management Using the Valuation Allowance for De-ferred Tax Assets under SFAS No.109, Contemporary Accounting Research Vol.20 No.3, Fall 2003, pp.579− 611.

49 Mary Margaret Frank and Sonja Olhoft Rego, Do Manager Use the Valuation Allowance Account to Manage Earnings around Certain Earnings Targets?, Darden Business School Working Paper No.03−09, July 2003, pp.1 −44. Mary Margaret Frank and Sonja Olhoft Rego, Do Manager Use the Valuation Allowance Account to Man-age Earnings around Certain Earnings Targets?, The Journal of the American Taxation Association Volume. 28

No.1, Spring 2006, pp.43−65.

(16)

性引当金の設定に強い関連性があるとしながらも,経営者が評価性引当金を利用して利 益を管理(平準化)しているという証拠はほとんどないとしていた。近年では,Schrand らが,銀行業に限定してではあるが,利益を管理(平準化)するために評価性引当金を 利用しているという証拠を発見した。また,評価性引当金の設定目的について,Frank らは,アナリストの予測する稼得利益になるように評価性引当金を利用しているという 証拠を発見した。以上のように SFAS 109 号は,繰延税金資産と評価性引当金を利用し て,利益を管理(平準化)しているとはいえないかもしれないが,会計実務は,ある一 定の効果を狙って評価性引当金の設定をしているのではないかと考える。 2 財務諸表上の開示からみる評価性引当金の設定 では,実際にどのくらいの企業が評価性引当金を設定しているのであろうか。それを 示したのが第 4 表である。 この表は,S&P 500 のうちニューヨーク証券取引所に上場しているアメリカ企業で, MERGENT Onlineで 5 年連続して Form 10−K またはアニュアル・レポートが存在した

189社を対象としている。この表からは,2002 年から 2006 年にかけて 8 割以上の企業 が評価性引当金を設定していることが見てとれる。このことは,SFAS 109 号が,すべ ての繰延税金資産を認識しなければならないと規定しながら,他方で,多くの企業が, 評価性引当金を設定し,その金額を抑えていることを意味する。

お わ り に

将来予測要素を伴うステイトメントの 1 つである年金会計および退職後医療給付会計 の導入は,財務会計上,その費用を早期見積計上している。将来予測要素を伴うステイ トメントの導入は,会計上,費用額を拡大させることで,利益縮小に機能す 51 る。しか ────────────

50 MERGENT Online URL : http : //www.mergentonline.com/(本表は,2008 年 5 月現在のデータをもとに作 成している)なお,当該データは,財務諸表の脚注をもとにしている。 51 加藤盛弘教授は,現代会計を類型化すると,年金会計,退職後医療給付会計に代表されるような費用・ 負債の見積計上を行うもののほかに,以下の 4 つがあると指摘されている。(加藤盛弘,前掲書,3 ペ ージ。) 1 資産・負債の早期両建て計上:リース会計,資産除却債務会計 2 資産の評価替えによる時価計上:(時価評価とその評価差額の処理)金融商品会計,(帳簿価 ! 第 4 表 評価性引当金の設定企業数50 年度 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 評価性引当金 165社 164社 168社 168社 165社 S&P 500のうちニューヨーク証券取引所に上場しているアメリカ企業 189 社を対象。 436

(17)

し,税務上は,そのような処理を認めていない。税務会計における年金および退職後医 療給付は,外部の基金に拠出した段階および給付した段階で損金計上される。そのた め,財務会計と税務会計で認識時点の一時的な差異が発生することになる。当該差異 は,税務会計よりも財務会計の方が早期に費用計上されるため,財務会計上,税金の前 払い(将来減算一時差異)が発生する。SFAS 109 号は,すべての一時差異を認識しな ければならないため,年金会計および退職後医療給付会計の処理の相違から発生する将 来減算一時差異を,繰延税金資産として計上しなければならない。この繰延税金資産の 利益数値への影響は,プラスに機能する。 財務会計上,年金費用や退職後医療給付費用は,予測や見積りによって計算されるた め,不確実性が高い。不確実性が高い場合,否定的な証拠が増加し,評価性引当金の設 定機会が増大する。評価性引当金は,繰延税金資産の実現可能性について,実現しない 可能性がおそらくある場合,それを設定しなければならない。Behn らが,退職後医療 給付会計と評価性引当金の設定に強い関連性があると指摘しているよう 52 に,将来予測要 素を伴うステイトメントの導入は,評価性引当金の設定機会を増大させる可能性が高 い。 現代会計の特徴の 1 つは,認識領域の拡大に伴う費用および損失の早期見積計上によ る会計上の利益の縮小にあ 53 る。会計上の費用および損失の早期見積計上は,財務会計と 税務会計の認識時点の乖離を生み出した。その乖離は,税効果会計の認識対象であり, 繰延税金資産を発生させる。繰延税金資産の計上機会の拡大は,会計上の利益数値縮小 という現代会計の特徴から現れた現象であると考える。SFAS 109 号は,増大する繰延 税金資産を評価性引当金で控除可能にした。SFAS 109 号は,財務会計上の費用および 損失の早期計上に伴い計上機会が拡大する繰延税金資産を控除可能にした点に評価性引 当金の設定の意味があると考える。 ──────────── ! 額切下げによる損失計上)固定資産減損会計 3 資産計上とその償却:企業結合会計,のれんおよび無形資産会計 4 資本と費用の早期見積計上:ストック・オプション会計 これらと税効果会計との関係については,今後の研究課題としたい。 52 Bruce K. Behn, Tim V. Eaton and Jan R. Williams, op. cit., p.76.

53 加藤盛弘,前掲書,1 章。

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