一14一 食物 学会 誌 ・第32号
研 究 報 文
陶 磁 製 食 器 よ りの 重 金 属 溶 出 につ い て
寺 田 公 子*,井
野 真 理 子**,浅
見 益 吉 郎*
On the
Elution
of Heavy
Metals
from
Porcelainous
Table-wares.
Kimiko Terada,
Mariko
Ino and Masukichirou
Asami
1 は じ め に 陶 磁 器 製 食 器 よ りの重 金 属 溶 出 に 関 す る安 全 性 を 確 か め る方 法 と して 公 定 され て い る の は,食 品 衛 生 法*** に基 づ くK陶 磁 器 製 の器 具 容 器 包 装 の 規 格 試 験" (以 下 公 定 法 と呼 ぶ)****で あ る。 この 方 法 に は,非 煮 沸 用 器 具 にっ い て は4%酢 酸 で常 温10分 間浸 出 した 液 を試 料 と し,鉛(ク ロム酸 法,硫 化 鉛 一 硫 酸 鉛 法)及 び 砒 素(塩 化 第1錫 法)の 検 出 が規 定 され て い る が,既 に 種 々 の問 題 点 が 指 摘 され てお り1)-8)こと に, ① 浸 出 剤 の 種 類 ② 浸 出 温 度 ③浸 出 時 間 ④ 検 出 法 の感 度 ⑤検 出 対 象 金 属 な どに つ い て の検 討 が必 要 で あ る と と も に, ⑥被 検 食 器 の 容 積 及 び 表 面 積 と供 試 浸 出剤 の量 の 関 係 の 明 確 化 も要 求 され て い る。 筆 者 らは これ ら諸 点 の うち,既 に か な り詳 細 な検 討 が行 わ れ て い る②3)4)の 問題 及 び合 理 的 な表 面 積 測 定 法 が 提 唱 され て い る ⑥6)の 問 題 点 を除 き,①,③ お よ び ⑤ を対 象 と して種 々 の 実 験 的 検 討 を試 み,併 せ て ④ に つ い て も若 干 の知 見 を得 た の で こ こ に報 告 す る。 砒 素 の検 出 を試 み た と こ ろ,た ま た ま某 市 内 の陶 器 店 で 購 入 し た中 華 皿 〔施 粕 内面 に赤,黄,緑,及 び 青 色 顔 料 で 着 彩 し,焼 付 け て あ る もの,満 水 容 量:620ml, 内表 面 積:380cm2〕(写 真1,及 び 図1)よ り著 明 な
∬ 実 験 方 法
1 検 体 予備試 験 として,現 に市販又 は使用 されて い る各種 の陶磁器 食器 を購 入又 は借用 し,公 定 法 によ る鉛及 び * 衛 生 学 研 究 室 ** 昭和50年 度 本 学 卒 業 生 ***昭 和22年12月24日 ,法 律 第233号 ****昭 和34年12月28日 ,厚 生 省 告 示 第370号(第3-A-5) 図1 検 体 の平面 及 び断 面 図昭和52年11月 (1977年〉 重金属溶出が見られたので,本品を多数追加購入し, 冷水で水分水洗して600
C
で乾燥した後,本実験の検体 としf
こ。 2 試料液の調製 水平に静置した検体に浸出剤 (ill-1参照)400m1 〔接触器壁面積:288cm2Jを満たしてサランラップで 覆い,常温で所定時間 (illー 2参照)経過した後,検 体の内容をビーカーに移し,混濁している場合は定量 用伊紙で伊過して初炉液約20m1を捨て, 以後の炉液 を試験液とした。 3 検出,測定法 試料液を対象として,前記の公定法にもとづいて鉛 及び枇素の検出を行なうと共に,食品衛生検査指針9) に拠って Gutzeit法による耽素の定量を実施した。さ らに, 原子吸光法により試料液中の Pb,Asをはじ め, Cu, Fe, Mn, Crおよび Cd濃度を測定した。 原子吸光法の分析条件は表i
のとおりである。E
実 験 結 果
1 浸出剤の検討 前述のように公定法では浸出剤として,食酢の酸濃 度に匹敵する4 %酢酸が用いられている。しかし,現 -15ー 実の食生活には酢酸以外の各種有機酸,及びこれらを 含有する酸味食品が数多く供用されているので,筆者 ら は 等 濃 度 (4%)の各種食用有機酸水溶液を浸出剤 として,常温, 24時間浸出法により試料液を調製し, 溶出する重金属類の検出及ひ、定量を試みた。その結果 は表2のとおりで,いずれの有機酸溶液を浸出剤とし て用いても,幾らかの差は見られるものの著量の重金 属類,ことに Pbが溶出し,溶出能としては酢酸より も乳酸,クエン酸がいくらかすぐれているように思わ れた。2
浸出時間の相異による重金属溶出量の変化 公定法では非煮沸器具の浸出条件を常温, 10分間と 規定しているが, 日常の食生活では食器に盛り付けて から10分間以内に食用に供するものとは限らず,むし ろ摂食までに数十分間ないし数時間経過する場合の方 が多いと考えられる。さらに極端な場合には梅干漬の ように強い酸味食品が長年月陶壷の内壁に接触してい る事例さえあり得るので,安全性確認の見地から,現 行公定法の浸出条件は決して満足であるとは言い難い と考えられる。そこで筆者らは,各種浸出剤による常 温浸出時間を10分間, 1時間および24時間行い,その 聞における重金属溶出濃度の消長を原子吸光法によ 表 1 原 子 吸 光 分 析 の 実 施 要 目 視)j 定 フじ 素 Pb Cu Fe Mn Cr Cd As 使 用 機 器 Jarrell-Ash, AA-780 J.-A.,AA-1
Mkll 燃 料 ( 流 量 , 圧 力 ) C2H2 (2.5 l/min., 0.4 kg/cm2) H2 (2.5 1/min.,O
.
4 kg/cm2) 助燃剤(流量,圧力) Air (12 l/min., 1.5 kg/cm2) N20 (71/min..1.5 kg/cm2) ノ、一
ナ一
Slit type (Width: 10mm) Slit type (Width: 10mm) 電 流 CmAJ (最高) 6(20) 1ω0) 1ロ
(20) I附 )I凶 0) 1的 2) 17 (19) 波 長(
A
)
2833 1 3247 I 2483 I 2795 1 3578 1 2288 1937 試 料 ( 流 量 , 圧 力 ) 4. 5 l/min.. 0.5 kg/cm2 表 2 各種浸出剤による検体溶出液の分析結果(常温.24時間) 公 定 法 Gutzeit法 原 子 吸 光 法 (ppm) 浸 出 剤 pH1孟
Cr04法IpbS04~1
PbS04法 As As(ppm) Pb I As 1 Cu 1 Fe 1 Mn 1 Cr 1 Cd 4 %酢 酸 12.561+
十│ 浪 跡
1166.251痕跡
IO
.
04 I 3. 75 1醐 │ 痕 跡
10ω 4 %乳 酸 11.881+
十ι
∞
3 1日
7.501川
o
叫
7.40I痕 跡 │ 醐 且
46 4 %クエン酸 11.96 1+
+
│ 痕 跡 │ 加
5010叫
o
叫
4羽 痕 跡 │ 棚
10.46 4 %コハク酸 12.311 十痕 跡 ! 日
7判 痕 跡
1O
.
04 I 2. 45 I痕跡│痕跡
0.22-16
ー 300 (ppm)。
-
{
)
4% Acetic Acid ムーー-/).4% Lactic Acid口
一
一
口
4% Citric Acid.
一
一
・
4% Succinic Acid 2明) " / / , / 〆 〆 / / ' 〆 , e 〆 〆 / 〆 〆 〆 , , 〆 / 100 , " 10 min 1 hr 12 18 24 hrs 図2
時間経過にと色なうPb
溶出濃度の変化 8 (ppm)。
一
一
一
勺
4% Acetic Acid /::,____/::,4% Laclic Acid ローーーーー口4%C】tric Acid 6ト
・
-
-
-
-
-
-
.
4% Succinic Acid , , , , , r J 〆 ; , , , 12 18 24 hrs 10 min. 1 hr_ 図3
時間経過にともなうFe
溶出濃度の変化 り ,P
b
,F
e
ならびにCd
について測定した。その結 果は図2'"
図4
のとおりで,いずれの有機酸を用いた 浸出剤によっても,時間経過にともなって溶出する重 金属量はかなりの増加を示し,特に酢酸と乳酸の溶出 能は顕著で,浸出後の検体には写真2のように着彩顔 料の剥離,脱色が見られた。 3 酸濃度の相異による重金属溶出率の変化 浸出剤として使用した有機酸の濃度が重金属溶出量 に及ぼす影響を検討する目的で,酢酸及び乳酸の各2 %,4 %
および8 %
液による常温2
4
時間浸出のPb
,F
e
およびCd
の溶出率の比較を試みた。その結果は 図5のとおりで,酢酸の濃度を高めた場合, 食物学会誌・第32号 0.5 (ppm) I 0---0 4% Acetic Acid ム一一一._d 4% Lactic 0_4 三一// 〆 / , 〆 / 4 F J 〆 〆 ローーーーーロ 4% Citric.
一
一
.
4 % Succinic Ac川 0_3 0_2 10 mlll 1 hr. 12 18 2.1 hr、 図4 時間経過にともなうCd
溶出濃度の変化r
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2 4 8 (%) いずれの対象重金属も溶出量が増加しないど pgiAcetuaω(0) 2・
65 2・
56 2.32 ころか,逆に減少の傾向を示したのに対し, L Lactic acid(A)2.11 1・
96 1・
72 乳酸は明らかに酸濃度を高くすれば重金属溶 図5 酸濃度の相異による重金属溶出量変化昭和