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日野俊彦著 『森春濤の基礎的研究』

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Academic year: 2021

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― 97 ― 成蹊國文 第四十七号 (2014)

日野俊彦著



  

『森春濤の基礎的研究』



 

 

 

 

1   以前から精力的に森春濤の研究を続けて来られた盟友日野氏がそ の成果をまとめられたのが本書である。基礎的研究と自ら題されて いるように、研究の集大成ではなく研究の出発を宣言した瑞々しい 礎というべき書となった。   一箇の文学者を全体として理解するのは至難の業である。彼も一 箇、我も一箇のはずだが、現実の作家論という営為には高峰の麓を めぐるような感を覚えるものだ。人麻呂しかり、紫式部しかり、漱 石しかり。さて、森春濤は幕末から明治の漢詩壇を牛耳った大詩人 であり、これもまた高峰中の一高峰である。しかもまだ余人に荒ら されていない前人未踏の高峰と言える。   いみじくも序文で揖斐高氏が述べるように、日本漢詩文は、中国 古典文学からは周辺的な亜流文学、日本文学からは所詮中国文学の 摸倣というぐあいに軽視されていた。しかし、もうひとつ幕末から 明治前期の文学は日本文学内のセクションである時代別の研究から 言っても、近世文学からは遥かに全盛期を過ぎた残英的文学と見ら れ、近代文学からは確立以前の習作的時期と見られ、やはりいずれ からも軽視されていたのではなかったか。してみると、この時期の 日本漢詩文というのはよくよく薄幸な運命を負っていたわけである。 し か し、 そ の 内 実 が そ う し た 従 来 の 評 価 通 り に、 亜 流・ 摸 倣・ 頽 廃・幼稚の駄作でないことは、例えば本書によって実際に森春濤や その同時代の作品を一読すれば容易に諒解されることである。江戸 期の漢詩に関してではあるが江戸詩人選集の『菅茶山・六如』の巻 を担当された中国文学が御専門の黒川洋一氏が、江戸漢詩を一読し て「江戸期のあらゆる文学形式の中で、もっとも質の高いものでは ないかとさえ思うようになった」と述べておられるのが参考になる。 明治は江戸と並ぶ日本漢詩文の絶頂期である。本書の読者も同じよ うな感想を洩らすのではないだろうか。 2   日野氏の研究における方法、いやもっと根本的な態度というもの が、筆者ご自身の跋文に明記されている。穎原退蔵氏の言葉に「奥 の細道をたつた一ぺんのぞいたゞけで生半可な芭蕉論をふり廻すよ りも、芭蕉の一句に正しい年代の證憑を與へる方が、どれ程立派な 意義のある仕事であるか分からない」とあるような研究をしたいと いう。いかにも古風なスタイルであるが、学問の本道を堂々と確実 に前進したいということだろう。   本書は全八章からなっている。以下、章ごとに紹介を加える。 第一章   森春濤を取り巻く人々 ― 親族・師のことなど   簡単ながら親族や師を紹介する。また、その関係で春濤の悼亡詩

 

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― 98 ― 山口旬 日野俊彦著 『森春濤の基礎的研究』 の特殊性を読み取ろうという試みだが、わずかな先行作との比較に 留まり、師の鷲津益斎の詩との影響関係もわずかな類似性を指摘す るに留まっており、今後の発展が期待される。 第二章   森春濤「十一月十六日挙児」詩考   比較という方法は単純で効果的であるが、その対象の選び方はよ くよく慎重でなければ意味をなさなくなる。ここは確実に詩の表現 から蘇軾と銭謙益の先行作と適切な比較を試みている。当時の春濤 の状況から考えられる高位高官に対する心情と、蘇軾・銭謙益それ ぞれの時代状況に於ける心情を重ね合わせ深く詩を理解させてくれ る達見がしめされる。 第三章   幕末期における森春濤   どのように時代とコミットするかは、文学者の中でも特に漢詩人 にとっては重要な問題であった。森春濤は時代とコミットしない方 の詩人と目されているが、そうした春濤であってもいくつかの段階 や変化があったことを丁寧に追っている。ここでの比較対象である 岡本黄石は立場も違い、また詩作品も公的な詩と私的感情を詠う詩 では同一詩人でも自ずと違う面が現れることも有り得るのでより精 密な考察が期待される。 第四章   春濤と丹羽花南   ― 明治初年の春濤 ―   丹羽花南と森春濤の人生が連動していることを、いくつかの新資 料 を 用 い て 論 ず る。 『 藩 士 名 寄 』、 『 新 歴 謡 』、 『 花 南 小 稿 』 な ど で、 『 新 歴 謡 』 に 関 し て は 翻 刻 も 附 し て 将 来 の 研 究 に 資 し て い る。 こ う した研究は筆者の本領を発揮したところだろう。 第五章   春濤と槐南   ― 『新文詩』の刊行を通じて ―   『 新 文 詩 』 と い う 漢 詩 雑 誌 を 発 行 す る た め の 前 段 階 と し て、 当 時 の漢詩集の出版に関する方法、その選詩、編集、印刷、費用などま で春濤が学んでいく過程を書翰などの読解を通して丁寧に調査して いる。 『新文詩』論の序論と言えよう。 『新文詩』は膨大な漢詩資料 であり、これ自体今後の大きな研究テーマとなろう。 第六章   春濤と清詩   春濤に限らず、明治漢詩と清詩との関係は重要で大きな研究テー マである。ここでは森春濤と張問陶に限って考察し、その一端に取 り組んだ論である。 第七章   春濤と艶詩をめぐって   第三章とも関連してくるが、春濤の持ち味は一般に艶麗な詩にあ ると思われていた。これは「詩は志」という建前の漢詩人にとって 必ずしも望ましい評価ではない。そうした問題をめぐって周辺の批 難や春濤自身の「詩魔自詠引」に見える意識、また実際の春濤作品 が必ずしも艶詩だけに傾斜しているわけではないことなどを指摘す る。 第八章   野口寧斎の描いた森春濤像   ― 野口寧斎の漢詩集『出門小草』の上梓をめぐって ―   この章は春濤論から言えば附論と言えようが、逆に野口寧斎論と して読むことができる。春濤を描いた一大長編古詩で、こうした詩 を 丁 寧 に 読 ん で い く の が、 「 高 峰 」 春 濤 の 外 堀 を 埋 め て い く 重 要 な 作業となろう。 成蹊国文47(紹介山口).indd 98 2014/02/26 15:47:58

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― 99 ― 成蹊國文 第四十七号 (2014)   最 後 に、 春 濤・ 槐 南 の 略 年 譜 や『 春 濤 詩 鈔 』『 槐 南 集 』 の 詩 題 一 覧、 『 新 歴 謡 』 の 翻 刻、 明 治 漢 詩 人 伝 記 デ ー タ( 稿 ) な ど の 豊 富 な 資料が巻末に附されていることも付け加えておく。 ( 二 〇 一 三 年 二 月 二 六 日 発 行   三 八 二 頁   本 体 一 〇 〇 〇 〇 円 + 税   汲古書院) (やまぐち・じゅん   大学院文学研究科博士後期課程在学) 成蹊国文47(紹介山口).indd 99 2014/02/17 18:23:19

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