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ヒシ属の継続栽培試験に見られる変異 1-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

ヒシ属の継続栽培試験に見られる変異 1.

久 米

修 〒761−4121土庄町渕崎甲2079−5 香川県/ト豆総合事務所森林整備室

升呼anutSVariationcultivated払rgenerationsl.

OsamuKume,KLg‘Ltt・LIPle柾JELl(rlGot:・Cl〃/1Zen[ShoコLSEJL)(/it・iiio17.2079−5. 凡化砧αたちわ〝∂5月0乃ノー4J2J,ノ(甲α乃 られたヒシ殻の変異の多さに興味を持ってい

た。その現状から,分類基準を果実に置くと

すれば,遺伝的変異と偶発的変異の差異を明 らかにする事は不可欠の事と判断される。そ の為には継続して栽培試験を行い,果実の変 異の遺伝性を確認する必要があるが,この様

な栽培事例はNakano(1913,1984)や戸田

(1979)に見られる程度で報告例は少ない。筆 者は,数系統のヒシ属について世代を継続し て栽培した結果,その果実の変異について興 味ある知見を得た。 筆者が栽培したヒシ属は,その果実の大き さから大型,中型,小型に大まかに区別する ことが出来る。さらに,果実の刺の数によ

り,無刺,2刺,4刺に区別できる。こ.れら

を組み合わせて−,大型無刺,大型2刺,大型

4刺,中型2刺,中型4刺,小型4刺のヒシ

属を栽培したが,今回は,大型無刺と大型2

刺,大型4刺として栽培した4系統について

報告する。 試験の方法 栽培試験に使用したヒシ属の親果実は,香 川県内外の自生地で,遺伝的に純系が保持さ れる様,同一個体から成熟した果実を採取す は じ め に 日本に現在自生しているヒシ属乃甲αは,角 野(1994)によればヒメピシTinc・i5a Siebet Zucc”,ヒシT j呼Onlca Flerov,:コオニビシT 〝αJα〃5L var“ク以仇∠JαNakano,オニビシr ′∽−

tans Lvarj呼OnicaNakaiの4分類群とされて

おり,栽培種としてトウビシrあ∫甲よ〃05αRoxb が上げられて−いる。この他にイボビシア.紘画一

no5aRoxbvar・makb10NakanoとメビシT natans

L var.rubeola Makinoについても触れている が,これらは分類学的にあまり意味のない区

別としている。また,これ以外にも多くの種

や変種について報告されているが(岩臥

1939;Nakano,1964;坂口,1982など),−・般

的にはそれらはあまり認められていない(角 野,1987)。

ヒシ属の分類の困難性は,少数の種を除

き,葉や花の形態に分枝学的な区別点が乏し く,果実の外部形態に分類の基準が置かれて いる事による。この傾向は,Miki(1952) が,古生物の埋没遺体と一・緒に得られたヒシ 属の果実遺体に基づき,多くの種を報告した 事にも起因している。 筆者はかねてより,溜他の水際に打ち上げ

(2)

表1.試験に使用したヒシ属の産地.産地名は採集時の地名である. 系統番号 採集年 産 地 種 類 ・ 野生トウビシ競 大型無刺トウビシ 大型無刺トウビシ 大型4刺オ■ニビシ 大型2刺 大型4刺擬角型 大型4刺 大型2刺 大型2刺擬角型 香川県三豊郡大野原町五郷田野々旭「坂口池」 Tl 1995.8.20 佐賀県神崎町姉川上分(用水路) T2 1999..10一.6 香川県木田郡三木町池戸四角寺「女井間池」 T3 1999..10.6 香川県木田郡三木町池戸四角寺「女井間池」 T9 2000年産 T3変異果実 TlO 2001年産 T3変異果実,2003年途中枯死 T4 1999.10.9 香川県三豊郡高瀬町上勝閉山王「大池」 T13 2003年産 T4変異果実 は,角野(1987)の提唱に従ってそれぞれ上 刺と下刺と呼ぶ事にした.。また下位突起につ いては,刺針の先端部に逆刺のつくものを下

刺とし,つかない突起を擬角(Nakano,

1964)とした。 果実各部位の計測は,外果皮が脱落した気 乾状態の果実を用い,各部位について,ノギ スを用いて−0.1mm単位で測定した。ヒシ属は左 右或は背腹面で相称でないが,部位が2箇所

ある場合には,どちらかを無作為に選択し

て,1箇所だけを測定した。今回の報告に関 係する計測部位を図1に示した。 刺針部については,逆刺の生え際までを計 測範囲とし,他物に引っ掛かって欠失し易い 逆刺部分は計測値から除外した。 上刺と下刺の太さ(Dl及びhw)は,最大箇 所を計測したが,先細り型のものについては 刺の基部を計測した。

るか植物体を1茎採取しそれを栽培して得

た。得られた果実は,系統別に翌年∴春まで水 中保存し,発芽した果実の中からその系統と する形態のものを1個選定し,系統別に容器 を分けて\栽培した。以後その年に生産された 果実は,毎年冬期に栽培容器から取り出し, 個数と形態を観察した後系統別に網袋に入れ 栽培容器内で水中保存した。翌年春期には, 発芽果実の中から系統を代表す−る形態の果実 を1個選定し,その年の親株とし、て一系統別に

容器を分けて栽培した。毎年果実は,発芽と

未発芽を問わず,親株決定後水中から全て引 き上げ,自然乾燥後系統毎に標本として保管 した。

今回報告するヒシ属の産地を表1に示し

た。

栽培容器は,深さ47cm,口径39cm,底径33

cm,容量45且の円筒形ポリエチレン製容器

で,培養土として底に厚さ約10cmの田土を敷

いた。栽培容器は,香川県観音寺市粟井町竹

成の日当たりのよい屋外の同一・箇所に,系統 別に隔離して設置した。栽培中水は,常時8 割から満水を保つ様に管理した。追肥は行わ なかった。 果実形態の各部位の名称は三木(1953)に 従った。ただし,上位角と下位角について 図1.果実の計測部位と記号.

(3)

上刺の角度については,上刺基部上側の琴

簡縁辺部の盛り上がった部位(以後肩と音

、う)と上刺先端部までの高さeで現わした。 即ち,eの値が正値であれば上刺先端部が肩 よりも上方に持ち上がっており,負債であれ ば下がっている事になる。 下刺の角度については,考簡基部から下刺 基部上側の付着点と見なされる位置の高さhl と琴簡基部から下刺先端部までの高さh2の差 heで現わした。即ち,heの値が大きくなれば 下刺が下方に下がっており,負債となれば下

刺先端部がその付着点よりも上方に持ち上

がっている事になる。 考簡の厚さを表すD3は,2刺では琴簡の最 大幅を,4刺或は擬角のあるものでは肩から 下刺或は擬角基部上側の付着点までの間の琴 簡最大幅を計測した。考筒と子房との縁辺部 に瘡状或は波状の隆起がある場合は,それも 含めて最大幅を計測した.。 擬角については,擬角先端間の幅Dhを計測 し,直接の長さは計測して−いない。これは擬 角の長さは変異が大きく,癌状隆起から下刺 に近いものまであり,どこまでを擬角として一 計測すべきか判断出来なかったからである。 予備試験について ヒシ属の受粉に関して,自家受粉であるか 他家受粉であるかを知る事は,事後の栽培試 験計画に重要な事項である。今回の試験目的 からすると,他家受粉であれば系統を維持す− るためには厳格な袋かけと人工授粉等の花粉 管理を行う必要があり,自家受粉であればあ まり厳格な管理は必要ない事になる。 文献を見ると,Nakano(1913)は、様々な 系統のヒシ属を隣り合わせの容器で長年栽培 したが雑種は作らなかったとして,他家受粉

には否定的である。Kadono and Schneider

(198鋸 や角野(1987,1988)でIも オニビシ について蔚が花粉を放出する様子や柱頭の状 態の観察と開花前の曹に袋かけをしても結実 した事から,他家受粉は偶発的で通常は自家 受粉をして−いるとして−いる。またアポミクシ スによっても結実すると言う。 一・方坂口(1982)は,ヒシ属は雑種をよく つくるとしており,この見解にたてば他家受 粉が起こっている事になる。 そこ.でこ.の−・連の試験を行う前に,ヒシ属 の受粉様式について予備的に試験しておく事 にした。 予備試験に用いたヒシ属は,栽培地近辺に 生育していないと思われる系統番号Tlのトウ ビシとした。予備試験の期間は,1995年から

1998年の4箇年とし,前述の方法で毎年1株

を純系となるよう継続して栽培した。栽培し た場所は,香川県高松市太田上町の自宅庭先 で,栽培容器は前述のものを1個用い,その 他の条件は前述の通りとした。栽培場所は市 街地にあり,ヒシ属が生育する最も近いため 池まで直線距離で1.5knl離れている事から,栽 培個体以外のヒシ属の花粉の持ち込みはない ものと推定して,花への袋かけは行わなかっ た。 予備試験の結果,毎年確実に3個程度果実

をつけた。果実の形態は図2aの通り,大き

さの変異はあるが形態上は全てトウビシで

あった。

この予備試験の結果,栽培したトウビシ

は,近辺にヒシ属がなくても単独個体で結実 しており,自家受粉により果実が生産される ものと判断した。 栽培試験の結果 今回報告するものは,1999年に生産された

果実を親として,2000年から2005年の6年間

に渡って世代を継続して栽培したものであ

る。その結果を図2及び表2,表3に示し

た。

(4)

各年全て2刺型であった。 上記T3で2000年に出現した4刺型の遺伝的 な継続性を確認するため,2001年にこの4刺 型果実の内3個の下刺をつけた果実を親にし て,系統番号T9として栽培した。当年生産さ れた果実は,T3に酷似した2刺型と擬角型で あり,4刺型は見られなかった。2002年の親 は仕方なく擬角型果実から選択したが,当年

生産された11個の果実の内,1個が2刺型

で,6個が擬角型であり,4個は4刺型で

あった.(他に未熟で小型の1個の2刺型と2 個の4刺型果実がある)。2003年の親は4刺型 果実から選択したが,生産された果実は2刺 型と擬角型であった。2004年の親は擬角型果 実であったが,生産された果実は2刺型と擬

角型であった。2005年の親も擬角型果実で

あったが,得られたのは全て2刺型であっ

た。栽培開始以来,元親の様な3個の下刺を つけた果実は見られなかった。 同様に2001年にT3で得られた4刺型果実の

1個を親として,2002年に系統番号TlOとし

て栽培した。当年生産された果実は全て4刺

型で,T3及びT9の4刺型果実に酷似したも

のであった。2003年は親株が途中で枯死した ため,栽培の継続を断念した。 系統番号T4に、ついて−は,僅かに突起がある が擬角まで発達していない2刺型果実を2000 年の親に選択した。当年生産された果実は, 10個が短い症状の擬角型で,2個は2刺型で あった。2001年から2005年については,毎年 擬角型果実を親に選択したが,2003年以外各 年2刺型と擬角型の両型が見られた。2003年

に生産された8個の果実は,全て擬角型で

あった。この内3個の擬角は,三角形で翼状 によく発達しており(図3c),擬角幅Dh(平

均31.6/範囲27.8∼36.2mm)及び太さhw

(6.8/5.9∼7.9mm)ともT9で出現した4刺型 の下刺と同程度であった。 上記T4で2003年に出現した翼状擬角型果実 1.果実形態の変異 ヒシ属果実の形態変異で最も注目されるの

が,2刺か4刺かという刺の数と擬角の状態

である。 系統番号Tlのトウビシは,上刺が発達する が,通常のヒシ属の様に刺の先端部に逆刺の

ついた刺針が無く,無刺として扱われてい

る。今回の結果では,極稀に3mm程度の短い 刺針が見られる果実があった(図3a)。この 刺針を拡大して一見ると,微細な痕跡的な逆刺 が認められた。下刺或は擬角のつく果実は全

く見られなかった。成熟した果実は,年次に

よる形態変異が少なく安定していた。 系統番号T2は,大型4刺であり,上刺或は 下刺,刺針部の逆刺ともによく発達し,オニ ビシに該当すると判断した。個体内或は年次 による形態変異は少なく安定していた。

親が2刺の系統番号T3とT4の2系統にっ

いては,系統或は年次で形態変異が観察され た。 系統番号T3については,擬角位置に僅かに 症状隆起がある2刺型果実を2000年の親に選 択したが,当年生産された31個の果実の内, 7個は突起があるが擬角まで発達しない2刺 型となり,22個が短い擬角を持ち(以後擬角 型と言う),2個については逆刺のある下刺を 、つけた4刺型であった。この4刺型果実の内 1個では,片側の下刺が基部を異にして2個 出ており,反対側の1個の下刺と合わせれば 合計3個の完全な下刺をつけていた。これら はいずれも1個の同一個体から得られたもの である。上記擬角型果実の内から2001年の親 を選択したが,当年生産された18個の果実の 内,7個が擬角型であり,11個は下刺をつけ

た4刺型であった(図3b)。2002年の親も擬

角型果実であったが,当年生産された14個の 果実の内,1個だけが擬角型であり,13個は 2刺型であった。2003年から2005年は,毎年 2刺型果実が親であったが,得られた果実は

(5)

図2.継続栽培したヒシ腐臭実の変異.

a:予備試験時のトウビシ.Tl・T2・T3・T4は上段が1999年嵐 T9は上段が2000年鼠

T13は上段が2003年産で,順次段毎に2005年産までを示す.TlOは上段が2001年産で下段が

(6)

表2.系統別果実生産数と各部位の計測値.計測は正常果実のみとし,数値は平均値/範囲を示す. 生産数(個) 系統番号生産年 正常票型腐敗 部 位 計 測 値(m) WI HI DI D3 坂口池トウビシ 1999 6 50.8/41.0∼54.838.5/35.9∼43.821.5/18.7∼24.426..1/22…0∼30仙4 Tl予備試験1995∼1998 5 7 47.6/36.8へ′56.230.1/24.9∼39.016.6/14.7∼21.220..7/17..9∼23.3 1999 2 49.5/48.0∼51.030“4/29.3∼31.613.4/12.8∼14.018.3/17.1∼19..5 2000 3 1 1 37.3/32.2∼44.831。6/29…1∼35.014.8/10.4−17.622.6/19.6∼26.8 2001 1 3 35.6 32..8 14.8 21“4 T1 2002 1 2 2003 1 2 2004 2 3 59.7/56.8∼62.530㊥3/26.3∼34,318.7/17.3∼20.125.6/24.1∼27.0 2005 4 55.4/51.6∼57.933.6/29.6∼39.718.1/15..8∼20.723.9/22.7∼25.2 1999 1 44.8 22.6 9.8 15.6 2000 5 1 3 44.0/39.6∼47仙523.6/19.2∼26..110.1/8.3∼11.315.7/12.5∼18.5 2001 10 3 1 43.1/36.9∼48.221.6/18.5∼23.9 8.7/6.1−10.413.3/11.4∼15.2 2002 9 40.6/36.9∼44.020.4/18.7∼23.3 8.9/8..0∼10.213.0/11.4∼15.5 2003 6 1 43.7/40.2∼47.021.9/16.8∼24.5 9.6/8.7∼10.214.9/12.9∼17.2 2004 7 41.4/33.1∼47.721.0/13.6∼23.4 8..る/7.8∼10.0 18.0/7,9∼14.5 2005 6 40.7/27.7∼44.420.2/16.1∼22.8 8..8/6ふ・10.4 15.7/13い6∼18…9 T2 44.8/39..9∼47仙918.6/14.8∼20.611.2/10.0∼12.513.3/11.6∼15.2 1999 4 2000 29 2001 18 1 2002 14 6 2003 4 1 2004 14 2005 13 33..8/23.2∼39.717.8/12.7∼20.9 33.6/23.5∼41.317.4/13.1∼21小8 35.2/26.8∼40.317.5/13.2∼21.4 34..2/29.1∼38.516.6/14.0∼17.8 35..6/28.7∼40.317.7/14.7∼20.6 34.0/31.9∼36.916.2/15.1∼17.3 9.5/7.0∼11り8 9..0/6.2∼11.8 8..8/6..3∼10.7 9..0/8,3∼9.8 8.7/7..1∼9.さ 8.9/7.7∼9.9 14.3/11.2∼17.3 13.7/10.4∼16.9 14.1/10.6∼16.6 12.4/10.9∼13.5 14.2/11..4∼16.3 13,8/12.1∼14.7 T3 32.7/26.5∼38.217.8/13.9∼21り2 31.8/27.0∼37.519.1/16.2∼22.6 32‖1/31.1∼32.816.3/15.7∼16…6 35.3/30..1∼40..418仙0/15.3∼21.4 35.4/27.0∼40.617..5/14..3∼20.7 2001 13 2002 11 3 T9 2003 3 2004 18 2005 14 9.2/7.5∼10.714.3/11.7∼17.7 10.2/7“9∼13.514.1/12.1∼16.8 9.3/9.0∼9.6 14.1/13.6∼14.6 9.7/8.4∼11.613.7/10…6∼17.0 9.8/7..6∼11.414.7/10.9∼17.5 TlO 2002 10 2 1 31.1/28..6∼33..815..5/13.5r−19.2 8.0/6.9∼8.8 11.7/10.5∼13..1 1999 4 2000 12 2001 14 2002 9 2003 8 1 2004 9 2005 9 42.7/36..8∼48一.423..6/22小2∼25.4 43.7/36.5∼51.324.0/21り1∼28.4 43..0/35ひ4∼46..924り4/21.3∼27..4 40..4/37.8∼44.624.1/21.6∼27り2 38..9/35.8∼42.024.0/20.3∼26.4 42.4/38.3∼46.323..5/17..4∼28.4 42..7/39.4∼44.323.9/21.、2∼25.9 11小8/10.9∼13.1 10.2/8い5∼12.2 10..0/8り2∼11.9 9.7/8.7∼10.8 9.5/8.0∼11.0 9。7/8り6∼11.3 9.7/8小8∼10.5 17..3/15‖2∼20.1 17.2/14.6∼19小4 17..2/15.6∼18.8 17.0/14.9∼18.8 16.3/15.2∼18.3 16.4/13.9∼20.2 16..9/16..0∼18.0 T4 2004 11 1 41..1/37..5∼48..124.1/21.2∼29‖410.4/9.5∼11.517.8/16.2∼20.3 2005 13 1 42小7/37..8一−50..125“7/18.4∼31.510..4/8.5∼12…318い6/ほ.7∼23.6

(7)

3偶の内から1個を親として,2004年に系統

番号T13として栽培した。当年生産された果 実は,T4に酉告似した2刺型と短い症状の擬角 型であった。2005年に生産された果実の内, 1個は2003年に出現した翼状擬角型に近く, 残りは2刺型と短い症状の擬角型であった。 また同時に得られた小型果実1個(Dl:24.8

mnl,Hl:17.7mm,D3:13.3mm)は,上刺の片カ

が途中で2双分岐した3刺型果実であり,こ

の3個の上刺には全て逆刺が揃っていた(図 3d)。 上刺先端部の位置については,系統或は年 によりばらつきがあるが,総体としてて1のト ウビシと他の系統どで大きな差が見られた。 Tlについては,上刺が肩よりも下がっている 果実も見られたが,はとんどのものが肩より

も上方に大きく飛び出していた。T3及びT4

の系統のものは,上刺が肩よりも上がってい るものや下がっているもの様々であったが, 平均値としてはやや下がった位置であった。 T2のオニビシでは,上刺が肩よりも上がって

いる果実も見られたが,多くは下がってお

り,平均値はT3系統(T3・T9・TlO合わせ

たものを音う)及びT4系統(T4・T13合わせ

たものを吾う)よりも下がった位置にあった。

下刺先端部の位置については,T2及びT3

系統で,下刺先端部がその付着点よりも上方 に持ち上がっているものは無かった。T2のオ ニビシでは,年によりばらつきがあるがT3系 統より値が大きく,下刺先端部がより下方に 下がっており,考簡基部よりも下がっている ものが少数見られた。 上刺基部や下刺基部或は琴簡と子房との縁 辺部には,Tlを除いて,癌状或は波状の隆起

がある。その形態や程度は、果実により変異

があるが,系統である程度まとまった形態を していた。Tlのトウビシでは,琴簡に瘡状或 は波状の隆起がなく,全体に平滑な表面をし ていた。 表2.(つづき) 擬角型Db e 5.4/1.2∼8.2 1.4/−2.0∼5.9 3.8/2一.0∼5.6 9…6/6..4∼13..2 7.6 7.1/5.3∼9.0 2.8/1.5∼5.9 ・・・2..9 −2り4/・−8.1∼1.7 −2.8/−5小8∼0.5 −3..9/−5..3∼−0.7 −3.5/−5.0・、一−1.4 −4.2/・−5‖9∼−1.0 −3.4/・−4..7∼叫2.1 19..5 −2.3/−4.0∼−1.0擬角型1個 19..6/13.0∼23.9 −1.5/−4..0∼1.9 擬角型22個,4刺型2個 21..6/14.2∼23.7 −2.8/−6.2∼0.7擬角型7個,4刺型11佃 17.3 −1.1/−3.4∼2.1擬角型1個 一−1爪2/−・2.5∼0.3 ・−2.2/−5.0∼・−0.3 −1.6/−4.8∼−0..1 17.8/16.3∼20.7・−1.5/−2..5∼−0,6擬角型8個 17.1/15.0∼18り10.2/一−l.9∼2.4 深角型6個.4刺型4佃 20..6/19.8∼21..4・−0..7/・−1…0∼−0.4擬角型3個 17.4/ほ.9∼20.7 −1.6/−3.2∼1..1擬角型15個 −1.2/−2.9∼0.8 ・−2..0/−4。0∼−0..9 21サ2 1.7/−0−.9∼3。2 擬角型1佃 19.9/17..3∼23..0 0.8/−1.6∼3..2 擬角型10個 221,3/18.6∼25..3・−1.0/−3。0∼3小9 擬角型10個 20.2/18..6∼24.2・−・0.3/−2.2∼2.4 耗角型4個 23.7/18¶3∼36.2 −1.3/−3..8∼1.0凍角型引軋翼状擬角型3個 19‖0/14..9∼24小0」1.5/−2.9∼−0..1擬角型7個 19い2/17.2∼20.7 −0..4/−2叫5∼1.9 擬角型7個 21.9/201,0∼24.2−1.3/−2い9∼−0.2擬角型3個 22.8/ほ.4∼29.1−1.3/−4.3−1.0擬角型7胤実状擬角型1個

(8)

表3… 4刺型果実の下刺に関する計測値.計測は正常果実のみとし,数値は平均値/範囲を示す. 部 位 計測 値(m) Dh hw hl h2 be 10..4 9.3/7.5∼11.2 10.1/9.3∼10..7 9.4/8.1∼10.9 10.5/8.8∼11.7 9小7/9り0∼10..5 9.4/6.1∼10.7 14..3 17.6/12.4∼19.5 14..7/11.3∼17.9 14.3/11.8∼16.6 14.1/9.5∼16..3 13..0/10..2∼16.0 12.2/10.1∼13.5 4.6 6.8/2.1∼10.5 3.0/0.5∼7.1 1.0/−1.5∼4.3 0..5/−2“4∼3サ2 1.2/・−1.1∼3.8 1ひ1/−3“0∼5.0 9.7 10.8/8.5∼13.8 11.6/10ひ7・−13.6 13..3/7.5∼17.4 13…6/10い5∼17..0 11.8/9.7∼14.3 11ul/7.8∼13.9 1999 1 41い5 2000 5 40.8/34.9∼45.5 2001 10 36.9/30.3∼43.4 2002 9 31.2/26.4∼34.7 2003 6 35.3/31.1∼40.1 2004 7 32..2/27叫9∼36一.9 2005 6 33.5/22.0∼39.7 T2 2000 2 24.2/22.4∼26.0 7.9/7.3一−8.4 8.1/6.9∼9.2 4.1/3.8∼4.5 3.9/3.1∼4.7 2001 11 29..9/21..3∼33.8 8.2/5.0∼9.6 9.7/7.9∼11..3 3..6/0.8∼7.7 6.、1/0り5∼9り1 T9 2002 4 30.5/27.3∼33.7 6.4/5.8∼7.0 8.8/7.7∼9.7 7伸2/4..0∼9.2 1伸6/0.5∼3リ6 TlO 2002 10 26.4/24.7∼28サ8 7.1/5.4∼8.5 8…4/6..5∼10..2 2.8/1.5∼4.2 5.7/3.6∼7.8 た。下刺間の幅を表すDhと上刺間の幅Wlの関

係を見ると,T2及びT3系統とも上刺間の幅

の方が大きかった。上刺の太さDlと下刺の太 さhwの関係では,T2の平均値は下刺の方がや や大きく,T3系統の平均値では上刺の方がや や大きかった。琴簡の長さを表すHlは,平均

値で見るとT4系統,T2,T3系統の順の大き

さであった。琴簡の厚さを表すD3石も 平均値

で見るとT2,T3系統がほぼ同程度で,T4系

統がそれらよりやや停めであった。 なおT3系統は,サイズ的には今回報告した トウビシやオニビシよりもやや小さく,ヒシ との中間的な大きさであるが,ヒシより果皮 が厚く,琴簡表面の形態が今回の大型ヒシ属 に類似している事からこごで取り上げた。 3.果実サイズによる発芽能力 ヒシ属の果実は,秋期になり成熟してくる と果梗から外れて−落下し,種皮が茶褐色から

黒褐色に変色する。成熟が遅れた種子は,植

物体の枯死を迎え,葉柄が分離する頃には小 型の未熟果実として果梗をつけたまま浮かん でいる。この果実も果梗の腐敗と共に落下す

るか,果実そのものが腐敗する。この腐敗し

2.果実サイズの変異 ため池などで野生状態で生育しているもの と栽培下のものを比較した場合,果実の大き さに差異が生じる事が想定される。形態的に あまり差異を生じていないトウビシについ

て,少数の果実ではあるが比較してみた。野

生トウピシは,トウビシだけが生育している 1箇所のため池で,前年に発芽したと想定さ れる浮き殻を無作為に採取した。Tlと比較し てみたが,最大値、ではあまり差異は見られな かった。 Tlのトウビシでは,他のヒシ属に比べ,着 花及び果実の成熟期が季節的に遅い傾向があ り,その年の生育条件により,成熟果実と未 熟果実の大きさに大きな差が生じた。成熟果 実では,果実の大きさを現すWlやHl,Dl,D3 の値が,他の系統のものよりも明らかに大き かった。 Tl以外の系統の果実サイズについて見る と,上刺間の幅を表すWlは,T2のオニビシと T4系統が平均値でほぼ類似しており,T3系 統がやや小さかった。上刺の太さであるDlに ついては,同系統内でも年次により変異が見 られ,系統としてのまとまりは見られなかっ

(9)

図3.栽培中に見られた果実の変異と小型果実の発芽.

a:2005年産Tl上刺の刺針,b:2001年産T3果実の変異,C:2003年産T4の実状擬角,

d:2005年産T13上刺の奇形,e:2001年産T2/ト型果実の発芽,f:2002年産T3小型果実

(10)

表4.未熟小型果実各部位の計測値.計測可能な果実のみとし,萎縮腐敗した果実の欠矢部位は除く.

部 位 計 卸 値(皿m) 系統番号 生産年 WI HI DI D3 Dh hw 2002 16.0 17.4 2003 9.8 8.3 T2 2001 18.6 11.8 5.1 8..3 19.6 4.6 6.1 9.7 2002 15..4 10.3 2003 8.6 5.9 小型発芽果実 T3 T9 2002 20.0 11.9 6.4 9.8 20.4 9.7 4.5 7.6 20.7 11.2 5.2 7.7 TlO 2002 T1 2000 11.6

8 5 3 6 6 5

2000 28.4 16.2 25.0 14.6 2001 18.7 12.6 7.3 12.0 6.0 11.3 4.9 9.5 2 3 ▲‖び 1 6 8 3 2 1 5.9 11…1 5.9 11.9 6.5 11.7 5.9 11.9 6.6 10.5 28.6 12.0 26.3 11.0 28.1 12.2 23.3 12.2 30.5 12.2 小型未発芽果実 T3 2002 28.4 17.0 臥7 14..5 25..9 6.3 21.8 11.4 5.8 9.4 13小1 4一.2 T9 2002 T4 2003 25.6 10.5 4.4 7.6 皮の発達が未熟で,発芽後果実が萎縮して計 測出来ないほど縮んでしまった。これらの観 察から,未熟果実が腐敗しない限り小型のも のでも発芽可能なものがある事がわかった。 未熟な小型果実で,発芽したものと未発芽の ものの大きさについてはあまり差異がなかっ た。 考 察

今回は大型果実4系統について報告した

が,今後引続いて中型及び小型果実の系統に ついても報告する予定である。その中でヒシ 属果実の刺や形態の変異を明らかにして−いく なかった小型の果実を収集して\成熟果実と共 に水中保存し,翌春の発芽状態を観察した(表 4)。 トウビシの果皮は他のヒシ属の果実に比べ て薄く,完熟した大型果実以外は翌春の発芽 暗までに腐敗するものがあるが,半腐敗状態 のものや小型の種子でも発芽するものがあっ

た。この様な果実は,発芽後ヒシ穀として原

形が残らないものが多かった。 トウビシ以外のヒシ属では,系統に関係な く,成熟果実の1/3∼1/2程度の大きさの果実 でも発芽するものがあった(図3e・り。また T3で2002年に発芽した極小果実の1個は,果

(11)

なった。この変異した4刺型が遺伝的に固定

されたものであるかどうかについては,なお 長期の栽培を継続して\確認する必要がある。

また今回T3で下刺が,T4で上刺が3刺とな

る果実が出たが,T3の次世代には3刺の下刺 は出現せず,一・時的な奇形が出現したものと 思われる。 戸田(1979)は,擬角のよく発達した果実 を他にまいておいたところ,次世代の果実は 擬角のないものから発達したものまで様々な タイプが見られたと報告して−いるが,これは

今回のT3系統やT4系統の様な現象によるも

のとも解釈できる。 Nakano(1964)は,擬角の命名に際して, 擬角は琴片脱落後の痕跡から生ずる突起であ り,琴片から発生する4刺ヒシの竪角とは発 生が異なるとしている。角野(1987)は,擬 角の発達程度について,同一・植物体上にヒシ とイボビシの両型が混在することがしばしば あるとしている。これは非常に重要な観察で ある。今回のT3系統の結果に、ついて−置き換え て−みれば,同劇個体の中で,琴片が残存して 成熟した果実が4刺型になり,琴片脱落後生 じる突起の発育状態により2刺型になったり 擬角型になったりした結果,変異に富んだ果 実が得られたものと思われる。 ヒシ属の分類に際して,果実形態の多様性 に着目される事が多いが,従来しばしば行わ れていた様な水際に打ち上げられたヒシ殻や 果実単体を対象にした形態変異の議論の仕方 は,再検討する必要がある。 文 献 岩田重夫い1939.ひしの新品種い 植物研究雑 誌15(4):245−252.

Kadono,Yand】ヨ.LSchneider,1986.FloralBi−

Ologyof九甲…融抑Var∴.J呼0〃icd80t・Magl

Tokyo99:435−439.

角野康郎.1987.日本産ヒシ属の変異に閲す

つもりであるが,現段階の見解を概括した

い。 角野(1988)は日本のヒシ属を6タイプに 整理しているが,この中で大型2刺性のもの をトウビシと無名のヒシとして区分して−い る。こ.こで示されたトウピシと無名ヒシの写 真を見ると,筆者がトウビシとして栽培した

Tlとは形態的に違っている。しかし角野

(1994)では,トウピシとして2型の写真を示 しており,この内−・方は今回筆者が栽培した

Tlであり,もう一方はT3系統やT4系統に近

似している。真正のトウピシ議論は置いて,

Tlは,上刺の刺針が痕跡的で,考簡表面が滑 らかであり,擬角が僅かでも出現しないと言 う点で,他の大型2刺性系統と違った特徴が

ある。大型無刺と言う特徴により,ここでは

とりあえずTlをトウビシと呼称した。 今回の栽培結果では,大型無刺であるTlの トウピシと大型4刺であるT2のオニゼシにつ いては,外部形態は安定したものと言えそう

である。Nakano(1964)は,オニビシに3刺

のものが現れる事があるが,子の代に皆4刺 に返り安定性を持たないと報告したが,今回 T2にその様な刺の変異は見られなかった。

問題は大型2刺のT3系統とT4系統で,擬

角或は下刺の有無や形態については大きな変 異が見られた。 こ.の様な現象については,色々なヒシ属の

栽培試験を行ったNakano(1913,1964)も報

告しており,擬角の発達程度は遺伝するとし ている。

今回の結果では,擬角の遺伝性が系統に

よってはある様に見えるが,T3系統とT4系

統を見る限り発達程度まで遺伝するとは考え にくい。またT3系統では,完全な逆刺のある 下刺をつけた果実が混在して生産されている が,この4刺型を親として継代栽培したT9で

は元親のT3と同様混在型となり,TlOでは1

年だけの確認であるが全て4刺型の果実と

(12)

て−.生態学会報2(3):11ト116.

Nakano,H.1913.Beitrage zur Kenntnis der

Variationen von TlqpainJapan Bot“Jahrb

50:440−458.

.1964・FurtherStudiesonフ1qpafrom

JapananditsAqjacentCountr・ies.BotMaghTo− kyo77:159−167. 坂口晴−・り1982.香川県のヒシ属の調査報告 第1報.香川生物10:13−17. 戸田英雄.1979.静岡県西部のヒシについ て.静岡県の生物.330−333. る予察的研究.植物分類地理38:199−

210.

.1988.ヒシ属における種の問題. 日本の生物2(12):21−25. −− .1994.日本水草図鑑.文一・総合出 版,東京. Miki,S”1952・TrapaofJapanwithSpecialRefer・−

encetoitsRemainsWith14Text−figuresand2

Plates・JoumalofInstitute of Polytechni(3, OsakaCityUniversity3,SeriesD・1−30 三木 茂.1953.遺体からみたヒシ仏軍α) の形態的諸性質と水生への適応等につい

参照

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