Title
日米会社法比較研究(1)発起人の行為の効果の帰属関係−
いわゆる“危険なる約束”を中心として−
Author(s)
山城, 将美
Citation
沖大論叢 = OKIDAI RONSO, 11(1): 75-95
Issue Date
1971-12-20
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/11039
日 米 会 社 法 比 較 研 究 (
1
)
発起人の行為の効果の帰属関係
一 一 一 い わ ゆ る " 危 険 な る 約 束 諭 を 中 心 と し て 一 一 一山 城 将 美
目 次.
1
'1L
カ1き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
1 日本法について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 E アメリカ法について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80(
A
)
一般原則 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80伊)
危険なる約束 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.. . . . .. . . 88 皿 危険なる約束の個別的比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
む す び ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94は し が き
株式会社の設立過程において、発起人は諸々の行為をなすが、これらの行為の効 果がすべて成立後の会社に帰属するわけではない。会社は、法人格を取得してひと たび成立するや、発起人の手を離れそこに集積せられた物的財産を唯一の担保とし て、個々の構成員(株主〉を没却した独立の存在となるのであるから、もし発起人 の行為の効果がすべて成立後の会社に帰属するものとなせば、発起人による放漫な 出費や個人的利益の追求によって生ずる損失は、終局的には会社.株主および会社 債権者の負担するところとなる。そして、これについて法が何ら顧慮しないならば、-75-日米会社法比較研鮪1) 株式会社制度に対する法的信績が損われ、遂には制度そのものを崩壊に導くことに もなるであろう。 そこで、当然に発起人の行為の効果をいかなる場合に成立した会社へ帰属せしめ いかなる場合に帰属せしめないかについて一定の原則が設けられなければならない ことになる。 本稿ではこの問題に闘い日米両会社法を比較検討し、ひいて大陸法と英米法と の対照をスケッチしながら、就中大陸法における変態設立事項たるいわゆる拠危険 なる約束凶 (Gefahiliche Abredenl)が、アメリカ法ではいかおうに取り扱われ るかを明らかにしたいと思う。
I
日 本 法 に つ い て
判例および通説的見解によれば、日本法(大陸法)における発起人の法的地位は 次のごとくである。まず数人の発起人の聞に会社の設立を目的とする組合契約関係 が成立し(これを発起人組合.. griiildergesellschaft..という)、この組合契約の 履行としてその趣旨に従って定款の作成その他会社設立のため必要な諸手続が進め られることになる。そして発起人が定款を作成しかっ各発起人が一株以上を引受け た時に、いわゆる「設立中の会社J
(権利能力なき社団)の創立を認め、この時よ (1) り発起人組合は設立中の会社の執行機関となるのである。 更に、この設立中の会社は、執行機関たる発起人組合の諸々の設立活動が進展す るに伴い成長発展し、やがて法人格を取得することによって完全な会社となり、し たがって設立中の会社と成立後の会社とは、恰かも胎児が母体より分離し完全な人 聞となる関係と同様に、実質的には同ーのものであると説かれる(同一性説〉。こ の通説の効用は、設立脚昔における法律関係がそのまま成立した会社の関係となる (2) ことを合理的に説明する点に求められる。しかし、この説は発起人が設立段階にお いてなしたすべての行為の効果が、当然に成立後の会社に帰属するとい9ているの-76-日米会社法比較研矧1) ではなく、発起人が設立中の会社の代表機関としてその権限に属する行為をなした 場合に、その限りにおいてその行為の効果が成立後の会社に当然に帰属するという ことをいっているのである。 そこで問題となるのは、どのような行為が発起人の権限に属するかということで ある。学説は次の四つに分かれる。第一説は、社団法人たる会社の設立それ自体を 直接の目的とする行為のみに限定すべきであるとし、第二説は、第一説の権限以外 に会社の設立手続の遂行上必要な行為を合かせ匂あるとし悌三説は、以上の諸行為の ほか開業準備行為をも含むべきであるとし、第四説はあらゆる種類の行為を発起人 (3) の権限に属せしめるべきであるとする。第二説が通説であり、判例もこれに近い立 (4) 場をとっている。したがって、発起人の権限に属する行為とは、第一説でいう設立 それ自体を直接の目的とする行為、即ち定款の作成および株式引受払込に関する行 為や、第二説でいう会社の設立手続遂行上必要な行為、即ち設立事務所の賃借など の行為をいうのであって、これらの行為の効果は同一性説により当然に成立後の会i 社に帰属すること回目
f
それ以外の例えば開業準備行為(但し、法定の条件を具備した 財産引受を除く一後述)などは、発起人の権限に属さず、これらの行為の効果は当 然には成立後の会社に帰属しないことになる。 次に、発起人の行為が、設立中の会社.発起人組合および発起人個人のいずれの 名においてなされたかによって、権限外の行為の効果の取扱いに差異が生ずる。ま ず、発起人の行為が設立中の会社の名においてなされた場合、それが発起人の執行 機関としての権限に属する行為であれば、その行為の効果は成立後の会社に帰属す るのは当然である。一方、設立中の会社の名においてなされた行為が、権限外の行 為であった場合はどうか。 これについては学説が分かれる。この権限外の行為を無権代理行為とみなして、 会社が成立後これを追認すれば、その効果が会社に帰属するとなす説(無権代理行 (5) 為説〉とJ
を限外の行為は、会社の実質的権利能力の範囲外の行為であるから、追認 (6) を認めず、したがって無効であるとする説(無効説〉とがあり、後者が通説となっ ている。筆者は、 「企業形成の一環として企業主体たる会社の成立を見るときは、-77-日米会社法比較研雪国1) 設立中の会社の実質的権利能力の範囲を、設立の目的の範囲内に限定する理由に乏 しく、また、設立中の会社と成立後の会社の同一性を承認する以上、設立中の会社 の実質的権利態力の範囲は、開業準備行為その他にも及ぶものであって、ただ、そ (7) の機関としての発起人の権限が政策的に制限せられているにすぎなb、
J
と解し、無 権代理行為説を支持したい。しかし、法定の条件をみたさない財産引受(定款に記 載のない財産引受〉をも、追認しうるかどうかについては更に設が分かれており、 筆者はこれを否定的に解すべきだと思う。即ち、 「実定商法の解釈としては・・ー・・・ 会社のための財産取得行為は、例外的にせよ、発起人の権限事項と認められるとと もに、その他の開業準備行為と異なって非常に危険性が多いので、とくに現物出質 と同様の条件を備えた場合にのみ、その効力が成立後の会社に帰属するものとされ (8) た」と考えるのが当然であると思うからである。 「発起人が、その代理権限に属さない行為を発起人組合の名においてなしたとき (9) は、その効果は発起人全員の同意による追認によって発起人組合に帰属する」。ま た、 「発起人が発起人個人の名において取引行為をなした場合には、その効果がそ の個人のみに1帰属することはb、うまでもなb、。そして、発起人組合または発起人個 人に帰属した権利義務を成立後の会社に帰属させるためには、成立後の会社による (10) 追認ではなく、。譲受.転借.債務引受等の移転行為を必要とする」。 以上は、設立段階における発起人の行為の効果が、成立後の会社に帰属するに至 る日本法(大陸法)におけ│る一般原則(通説.判例〉である。 しかし、日本法を含む大陸法系1諸国では、発起人の行為のうち株式会社の設立に あたり通常必要を住ずべき事項ではあるが、その獲用によっては、会社の財産的基 礎を著しく危殆ならしめるおそれのある事項については、特に会社法上厳重な監督 規定をおいている。日本被怯第168条1項に列挙するいわゆる変態設立事項がこ れである。これら変態設立事項は、発起人の個人的利益のもとに会社の財産的基礎 が害される危険の特に大きいものであるから、その意味において会社.株主および 会社債権者に対するm危険なる約束‘(
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ともいわれる。 わが商法は、かかる‘危険なる約束愉(変態設立事項)として、発起人の受くべ日米会社法比較研究:(1) き特別利益.現物出資.財産引受.会社の負担に帰すべき設立費用および発起人の 報酬の五つの事項を挙げている。これらの事項は、定款の相対的記載事項とされ、 定款に記載のないかぎり効力を有しないものとされる〈商1 6 8 1)。更に、定款 に記載された変態設立事項は、会社の設立過程において裁判所の選任する検査役の 調査を受けなければならないこととし(商173.181)、かっ、それらの事項 が不当と認められるときには、発起設立の場合は裁判所、募集設立の場合は創立総 会が、これを変更できることにしている(商173s.185I)。また、変態設 立事項は募集設立の場合には株式申込証にも記載さるべきであるとされ(商175
E
⑦〉、証券取引法により株式の募集または売出に当って発行者が大蔵大臣に提出 しなければならない有価証券届出書(証取4)、および、この届出が効力を生じた 株式の発行者が株式の募集または売出に際して作成しなければならない図録見書 (言E
取13) にも、発起人の受ける特別利益の内容、現物出資の内容.会社成立後 に譲り受けることを約した財産の内容を記載することが必要とされる(有価証券の (11 ) 募集又は売出の届出等に関する省令〉。 このように、日本法においては、発起人が個人的利益をはかるおそれのある事項 を、強行法規制の下に厳しくチェックし、以って会社.株主および会社債権者の損 害を未然に防止せんとしているのである。 以上を要するに、日本法を含む大陸法系諸国では、制定法上発起人の行為の効果 が成立後の会社に帰属するに至る関係についての一世的規定は欠くが、いわゆる" 危険なる約束.については、これらを厳重な監督下におくことによって、この聞に 派生する問題を解決しようとしているのである。く註>
(1) 大森忠夫、新版会社法講義、有信堂, P 8 3 (1 9 68) (2) 注釈会社法(2)、有斐閣, PP43-44 ,北沢教授執筆,参照。 同一性説の他K'、承継説,代理説,事務管理説,第三者のためにする 契約説,法律上当然取得説、譲渡説、創立総会決議説、および信託説-79
一日米会社法比較研究(1) な ど が あ る 。 判 例 は 、 第 三 者 の た め に す る 契 約 説 ( 明 治 期 〉 か ら 、 法 律 上 当 然 取 得 説 ( 大 正 期 ) を 経 て 、 同 一 性 説 ( 緩 判 昭3 6 . 9 . 1 5 民 集1 5 . 8 . 2 1 5 4 )へ と 変 遷 し て い る 。 上 掲 書 、 及 ぴ 野 津 務 「株式会社設立論J P I 0 6 ( 1 9 6 2 ) ;中央大学出版部,参照。 (3) 商 法 演 習l、有斐閣、 P4、実方博士執筆。 (4) 注 釈 会 社 法(2)、有斐閣、 P 4 6、 北 沢 教 際 執 筆 (5) 北 沢 教 授 等 が 主 唱 (的 松 田 熔 土 等 が 主 唱 (7) 商法演習[、有斐閣。 P6、実方樽士執筆。 (8) 同 上 P 7 (9) 注 釈 会 社 法(2)、有斐関、 F 4 6、 北 沢 教 授 執 筆
。
。
同上 帥 注 釈 会 社 法(2)、有斐関、 P8 8、上柳教授執筆。E
ア メ リ 力 法 に つ い て
体 ) 一 般 原 則
発起人による会社設立活動の中には、単に発起人が役務を提供することによって 達しうるものもあるが(例えば単なる定款の作成行為など)、多くは発起人相互間, 発起人と将来会社の構成員となるべき株式引受人問、発起人と第三者問、あるいは 発起人と設立されるべき会社聞における契約を含む広義の合意(agreementl)をそ の主要な内容としているのである。そして法律上問題となるのは、単なる狭義の合 意、ではなく正に契約そのものである。 ところで契約法の原則は、洋の東西を問わず、常に両当事者が実在することを必 要とするのであるから、現実には存在しない設立されるべき会社を契約の一万の当 事者となし、発起人をその代理人になぞらえることは、鍛健法上の特別の規定なく しては、不可能である。この聞の法律関係を、日本法では前述のように同一性説を -80一
日米会社法比較研究(1) もって説明するが、アメリカ法ではどうであろうか。アメりカ法に関しては、主に (1) コーネル大学のHenn教授の所説を中心に考察し たいと思う。 Henn教授によれば、アメりカ法における会社設立前の諸合意は、最広義におい ては次の四つの類型に大別しうる。即ち、 (a) プロモーター聞における会社設立の
(
2
)
(3) ための合意、 (b)株主相互の合意、 (c)基 本 定 説 お よ び(d)会社設立以前のプロ モーター.第三者聞の合意である。 (a) のプロモーター聞における会社設立のため の合意というのは、会社設立の場所であるとか態様、各人のそれぞれの出資金、株 式の割当、議決権に関する内部規定、設立当初の取締役.役員の氏名と彼等に支払 うべき月給の額、財産の譲受、およびプロモーター.第三者聞に結ばれる諸合意の 取扱い等をあらかじめ取り決めることであり、これらの事項の中には、有効な契約 となるものもあれば、単なる仮契約に終るものもあろう。 (b}V株主相互の合意とい うのは、閉鎖会社 (close corporation)の場合におけるものである(これが会社 設立以前になされるかぎりで、は、会社は未存在なるが故に、限株主凶なる用語は正 しくない)0 (c)の基本定款は、会社設立手続の一環として作成されるものであ る。したがって、以上の (a) (b) (c)の類型に属するものは本稿においては 直接的には重要でなく、問題は (d) のプロモーター.第三者聞の合意である。 Henn教授によれば、会社設立以前におけるプロモーター.第三者聞の合意には ( 4 ) 更に次の四つの類型がある。即ち、 (a)設立される会社の名においてなされない プロモーター.第三者聞の契約、 (b)設立される会社の名においてなされ、かっ プロモーターを拘束しないプロモーター.第三者聞の合意, (c)設立される会社 の名においてなされ、かつプロモーターを拘束するプロモーター.第三者聞の契約 および (d)会社設立以前の株式引受である。これら四つのうち、 (d)の株式引 受に関する問題は、本稿とは直接の関連を有しないので省略し、前三者について以 下に順次考察を加えていくことにする。 (a) の設立される会社の名においてなされないプロモーター.第三者聞の契約 においては、プロモーターが第一次的に拘束されるのは当然である。このような契 約の効果を成立後の会社に帰属させるためには、更改 (novation) によって、会-81
ー日米会社法比較研矧1) 社が契約の一方の当事者となることによってその目的を達しうる.かような更改が なされた場合には、当然プロモーターが負担する契約上の義務は免除され、会社が プロモーターの契約上の権利義務を引き継ぐことになる。更改ではなく、単に契約 上の権利の譲渡がプロモーターから会社に対してなされたときは、会社は契約上の 権利を取得すると共に、おそらく義務をも引き継ぐことになるであろう。但し、か ような場合でも、プロモーターは依然として免責されなb、。したがって、契約の相 手方たる第三者は、二重の保証 (double securi ty ) を有することとなるであろ う。なお、更改も譲渡もなされなかった場合には、会社は原則として何らの責任を 負わないことはいうまiでもない。 (b)の設立される会社の名においてなされ、かつプロモーターを拘束しないプ ロモーター.第三者聞の合意は、勿論契約とはいえないが、会社成立後会社に伝達 (5) されるべき‘・申込み愉を含む一種の"紳士協定凶としての性絡は有するoしたがっ て会社が成立後その‘申込み.を明示的か黙示的かを問わず承諾したときには、会 社と第三者との聞に契約が発生することになる。但いかような合意は、会社が承 諾しない限り法律的には無価値に等しいものとなるので、プロモーターが個人的に 拘束されないという意図が合理的に明確にあるいは黙示的にしろ判断される場合に 裁判所ははじめてかかるものとして認めるのであって、これをなるべく厳格に解し ようとする傾向にあることは否めない。なお、プロモーターは、かような合意の当 事者とはならないが、彼が第三者に与えた心理的印象によっては、不実表示
(misrepresentation)あるいは担保違反 (breachof warr佃 ty)に対する責任
(6) を負わねばならないことになる。 (c)の設立される会社の名においてなされ、かつプロモーターを拘束するプロ モーター.第三者聞の契約は、第一次的にはプロモーター.第三者閣の契約であり 会社が不成立に終るか、あるいはたとえ成立しても、会社が当該契約に闘していか なる措置も講じない場合は、この契約は依然としてプロモーター.第三者聞の契約 であるにすぎない。成立後の会社が、当該契約の効果を自己に帰属させるべく何ら かの措置を講ずる場合、あるいは裁判所によって当該契約の効果が成立後の会社に
-82-日米会社法比較研鮪1) 帰属するものと認定される場合、その理論的根拠となる法理論には種々のものがあ るo いかような法理論が用いられるかは、もとより法域によって異なるが、およそ次の ごときものがある。
(a)
追 認 (r
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ゆ 追認説の理論的根拠は、本人たる会社に無権代理人の行為の追認を許容する代理 法の通則である。代理法においては、かかる追認は代理人が行為をなした時にさか のぼり(Nunc
,p
r
otunc)
、前の権限と同ーのものとみなされる。しかし、会社設 立以前の契約にこの代理法のルールを適閉することは、契約を締結する時点におい ては、本人(即ち会社)は未だ実在していないという困難な問題に直面することと なる。したがって追認理論は、普通法上も衡平法上もはっきりこれを否定するイギ (7) リス法に追随しているマサチューセッツ州のように明確にではないが、アメリカの 多くの裁判所や学者によって否定的に考えられている。(b)
採 用 ( 岨o
p
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追認理論の欠陥は、追認は遡及するものであり、行為の当時本人たる会社が存在 していなければならないという命題に矛盾をきたすことであった。採用説は、この (8) 矛盾に応えるべき理論として登場するものである。即ち、プロモーター.第三者聞 の契約は、設立後の会社に対してこれを採用せよという黙示的な継続的申込みであ ると説かれるのである。採用は追認と異なり代理法のルールに従う必要はなく、し たがってその効果は遡及せず、採用の時点において(即ち承諾の時点で〉発生する のであるから、これによって追認説の欠陥は一応補完される。そして採用によって プロモーターの個人的責任は免除されないから契約の相手方たる第三者は、二重の 保証(
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)を有することになる。但しこの場合は、プロモーターが 何らかの契約上の義務を負担Lたときには会社に対して求償しうるとされる。-83-日米会社法比較研究(1) ( c ) 譲 渡 (aSB ignmen t ) 契約上の権利が譲渡可能のものであり、プロモーターが会社成立後これを会社に 譲渡した場合には、会社は契約にもとづくプロモーターの権利の譲受人となる。更 に、会社がプロモーターの義務の転付をも受け入れる場合には、会社はその責任を 負うことになる。この場合にもプロモーターは免責されないが、会社に対する求償 (9) 権を留保する。なお、当事者聞の高度の信頼関係にもとづく契約上の権利や、個人 的関係 (persona1 re 1at ionship)にもとづく権利は、相手の承諾なしには譲渡 (IO) することができない、とされる白 (d) 更 改 (novation ) 更改説は、採用説を発展せしめたものでその延長線上にあるものとして把揮され (11 ) る。即ち、採用説に立てば、発起人は採用がなされても依然として免責されないが 本来、プロモーター.第三者聞の契約はまさに一時しのぎ (stop-gap) のもの として結ばれるのであるから、プロモーターの免責という指向性において理論を発 展させれば、更改説にたとりつくということになる。なお、 「アメリカ法において は、日本の更改契約(民法 513条)中、契約の当事者が変わらずに、契約の内容 だけが変わるものをsubstitute contract(交替契約)とし市、、契約の当事者が変 (12) わるものをnovation (更改)というのである」。 (e ) 会社に対する黙示的な継続的申込み
(加lplied continuing offer to corporation)
採用説や更改説において、プロモーターの契約を会社に対する"申込み"とみる 場合の理論的根拠となるものである。思うに、純理論的には、会社の成立後かよう な契約の存在を会社に対して改めて伝達するという手続があったものと考えること
(13)
日米会社法比較研掬1)
( f ) 第三受益当事者 (third party beneficiary)
会社をプロモーター.第三者聞の契約の第三受益当事者とする理論である。即ち 当該契約を第三者のためにする契約 (contract for the benefi t of third (1-$ parties )とみなすのであって、この場合、第三受益当事者たる会社は、契約締結 帥 当事存在していることは必要でな u、。したがってかかる権利の享有を会社が拒絶し なb、かぎり、会社は当初の契約にもとづく諸権利を享有することになる。 (g) 信託上の受益者 (beneficiary of trust) 会社は適用される法律のもとでかような能力を有するものと仮定して、信託上の 受益者とみなされる。その場合、信託財産 (res)は契約そのものであり、受託者 はプロモーターということになる。信託の受益者は、信託創設の時に実在すること
。
。
を要しなし、から、受益者Tこる会社がかような利益の取得を拒絶しないかぎり、会社 は当初の契約にもとづく権利を享有することになる。なお、会社がかような利益の 享有を受け入れた時に、信託関係は終了することになり、同時に会社は契約上の義 務をも負担することになゐ。また、受託者としてのプロモーターも責任を免除され 刷 る。思うに、信託財産たる契約は、権利とともに義務をも包含するものとの認識に もとづくのであろう。 (h) 身 代 り (al ter ego) 締 法人格を無視して、プロモーターと会社とを一体のものとして捉i
える理論であるo 理論的には、日本法における前述の同一性説にやL近いものと思われる。 ( i ) 法律上当然説 (quantum merui t )帥 会社が、プロモーターの契約上の利益を収受する場合には、同時に義務をも負担 するという理論である。その理論的基礎は、事実上推論される契約 (inferred -側 帥 in-fact contract )、あるいは準契約 (quasi contract)にもとづいて、当事者に 一定の法律上の責任を負付せるべく法の創設する関係である。-85-日:米会社法比較研究(1) ( j ) 禁 反 言 (estoppel) 会社が、プロモーターの契約から利益を収受する以上、その契約上の義務を拒否 伺 するごとき反言を禁ずるとする理論である。 (k) 制定法の規定 (statutory) プロモーター.第三者聞の契約が、成立後の会社に帰属する関係を制定法上明定 しているのは、カンサス州とミシガγ州だけである。 ヵγサス会社法は、 「会社が成立し、開業しうるに至れしかも会社が一定期間 内に、会社成立前に締結された契約に基く義務の負担を明示的に否認しないかぎり プロモーターおよび基本定款署名者(subscriber=イγコーポレーター〉 は、会社 制 成立前に会社のために締結した契約に基くすべての義務から免除される」と規定し ている。 また、ミシガ γ会社法は、 「インコーポレーターが、定款署名前に将来の会社の ために締結した契約は有効であれかつ会社を有利に拘束し、インコーポレーターが 制 その会社のために所持するすべての財産は、その会社の財産とみなすべきである
J
と規定している口 前者が、プロモーター.イγコーポレーター両者の免責について規定する点にお いて後者より更に徹底したものであるといえよう。<註>
(1) H a:rry G. HEJlD. On COI1poratio同 , pp 139-1 50 ( 1 961 ) (2) プロモーターは、日本法の発起人に相当する。アメリカ法における発 起人には、基本定款に署名する形式的意畿の発起人たるインコーポレータ ー (incorporator )と、会社実体の形成に必要な種々の活動をする実 質的怠義の発起人たるプロモーター (pr咽 叫er )の二つがある.アメ リカ法では、日本法の場合と異なり、会社が形式的に創立された後にお-86-日米会社法比較研猪1) い て 、 会 社 実 体 の 形 成 手 続 が 進 行 す る の で あ る か ら 、 会 社 を 形 式 的 自ζ創 立(法人格取得・ lncorporatio口 ) す る た め の 形 式 的 ・ 法 的 手 続 を 分 担 す る に す ぎ
.
t
.
い イ ン コ ー ポ レ - ? ー に 比 し 、 実 質 的 意 義 の 発 起 人 た る プ ロ モ ー タ ー の 役 割 は 、 極 め て 重 要 で あ る と 共 に 、 会 社 設 立 に 関 す る 法 律 問 題 は 主 と し て プ ロ モ - ? ー の 権 限 と 責 任 11:関して生ずる。なお、プロ モ ー タ ー 閣 の 法 律 関 係 は joinも venture (日本泣切組合IC相当)である。日日nTJon Cor戸ratiollS, op, cit., p131。
(3) 会 社 を 形 式 的 に 創 立 す る た め に 、 イ ン コ ー ポ レ ー タ ー が 署 名 し 、 州 務 長 官 (secreもary of state ) IC提 出 す る 文 書 を 基 本 定 款 (articles
or certificate of incorporation ) と 称 し 会 社 の 基 本 構 造 に 関 す る 事 項 ( 日 本 法 の 定 款 の 絶 対 的 記 載 事 項IC相 当 } を 記 載 す る 。 基 本 定 款 に 対 し 附 属 定 款 (by -laws)があるが、乙れには相対的・任意的事項を記 載する。 (4) 但 し 、 裁 判 所 で は か よ う に 明 縫 に 区 分 す るζと を 好 ま ず 、 む し ろ 選 沢 的解釈をなす傾向にある。
O'Rorke v.Geary
,
207 Pa.240,
56A. 541(1903)。
(5) R. A. C. Real
句∞.
V.w
.
O. U. F. Aは 叩 もa Realty. Corp. ) 205 Ga.154,
52 S.E.2d 617(1949)。
( 紛 WeiSB V. B aum,
2 1 8 A pp. D i v. I:!3,
2 1 7 N. Y. S. 8 2 0 ( 2 d D白pも.1926)。 (η 北沢正啓,i
発 起 人 の 予 備 的 契 約J
,名大法政論集1巻2号、 184 (8) McAr七回r V. T imes prin色 白g∞
.
,
48Min込 319,
51N.W.216 (1892).
「追認」と「採用
J
は 、 単 な る 用 語 上 の 相 違 で は な い 。 例 え ば 、 締 結 か ら一年以内に履行さるべき契約でとEい と き は 書 面 に よ る べ き 乙 と を 要 求 す る 詐 欺 法 (s岡 山 初 of frauds)の 適 用 が 問 題 と な る 場 合 は 、 い ずれ の 時 点 を 起 算 点 に す る か で 、 期 間 の 計 算11:差異が生ずる。
(9) Resもateme凶 of tlle L.aw of C叩 もracts
,
~ ~ 1 6 0 ; 1 6 5 (1932)(l~ 並 木 俊 守 、 ア メ リ カ 契 約 法 、 東 洋 経 済 新 報 社 、 P129(1971)
-87-日 米 会 社 法 比 較 研 姉1) 帥 北 沢 正 啓 、 前 錫 論 文 、 P1 7 5 ~ 並木俊守、前錫書、 p1 6 6 帥 定塚英一、 「アメリカ法において発起人の締結した契約を会社が象継 す る に 至 る 関 係
J
、 司 法 研 修 所 報18、pI38(1962)。 帥 並 木 俊 守 、 前 掲 書 、 P1 3 2参 照(1$ Resもaも日nenもof もhe Law of Conもrac七s. ~139(1932)
帥 Resぬも国間も of もhe Law of T rusもs
,
P I 2 ( 1 9 5 9 ) 制 Resもaterrent of the Law of T rusぉ, ~334 (1959)帥 Home News , lnc . v. Goodman , 182 M仏585,35A. 2d442
(1945) (
19) Quanもum Mlruit Iお asIIJUchas he deserv<白u..部授ける lと足るだ
け の も の " と い う 意 で あ る (B lacl
,
'
s Law D ic tionぽy).即ち、会社 がプロモーターの契約上の利益を取得する以上は、法律上当然義務をも 負担すべき乙ととなる。 Ouantum M巴ruiもは、しかし通常は"提供労務相当金額の請求凶と訳され、特別の意義を有する。
r
英米法辞典J(有 斐 閣 } 参 照側 Resta加 盟 叫 of もhe Law of Conもracもs,~5 (1932) 制 並 木 俊 守 、 前 掲 書 、 p1 0 2
伺 Patch v. Sも 油ly, 1 3 5 F. 2 u 2 6 9 ( 7もh C ir. 1 9 4 3
い
McArthur V. T imes P r却もingCo.
,
4 8 Minn. 319,
51 N. W.2 1 6 ( 1 8 9 2 ) 帥 定 塚 英 一 、 前 掲 論 文 。 P1 3 5 帥 同 上
( 悶 危 険 な る 約 束
ア メ リ カ 法 で は 、 日 本 法 と 異 な り 、 " 危 険 な る 約 束 ‘ を 個 別 的 に 分 類 し て こ れ を 規制するという方法は原則として採:らず、プロモーターの会社に対する義務と責任日米会社法比較研強1)
を、プロモーターの会社に対する忠実義務(fiduc iary duty) という広い概念を もってカヴアーする。この忠実義務には、善意.誠実 (goodf ai th ) ,公正取引 (fair dealing)、および充分なる開示 (fuII disclosure) の各義務が包含
(1) される。 したがって、プロモーターは一般の契約については勿論、いわゆる"危 険なる約束凶についても、対会社関係において善意誠実を旨として公正に取引し、 自 主 的 な (independent 、プロモーターの影響を受けなし、〉取締役会および会社に 利害を有するすべての者に対し、その契約内容について充分なる開示をなすことを 要求されるのである(充分なる開示要件は、日本法において危険なる約束は裁判所 の選任する検査役の調査を受くべし、とすることに対応するであろう。〉 一方、かかる普通法上の忠実義務という一般的義務の他に、制定法上危険なる約 束に関 L~、かなる規定が存するかみてみよう。今日、多くの法域ではいわゆる"水 割株式論 (watered stock)に関する規定をおいている。 通常、会社が妹式を発行し得るのは、現実に受領しまたは提供された金銭( money)、 財 産 (property)、および労務もしくは役務 (labor or services) に対してのみである。しかし、金銭以外の財産および労務もしくは役務に対して 株式首ピ発行する際には、これらをいかに評価するかの問題を生ずる。過大に評価 すれば資本充実の原則に反し、会社.株主および会社債権者を害することとなる。 例えば、提供された財産を過大に評価L、その対価として額面株式についてこれを 券匝額以下で発行したれあるいは無額面株式について最低発行価額を割って発行 したりすれば、それだけ一般に株式の価値が稀薄化 (dilution ) されることとな る。このように会計上は、全額払込済 (full paid )として発行されてはいるが 実際にはその一部分しか払込まれていない割引株式 (discount shares) をm 水 割牒式泊と称している。また、プロモーターに対する報酬として株式を無償発行 (bonus shares)することも、水割株式と同一である。 この水割株式は、特に危険なる約束としての発起人の報酬や特別利益あるいは現 物出資との関連で問題となる。即ち、アメリカ法においては、会社設立以前におい てプロモーターによる種々の役務がなされても、その時点では会社は未だ存在して
-89-日米会社法比較研矧1) いないのであるから、その役務に対する補償の問題に関し、プロモーター.会社聞 であらかじめ契約を締結しておくことは不可能である。したがって、プロモーター の補償に関しては、通常は制定法の規定あるいは基本定款に記載するなどの方法に よるほか、前章で述べた種々の法理論を授用してこれをなしている。しかし、殆ん どの法械において、会社設立以前のプロモーターの諸役務は、株式会社に対する有 効な対価としては認められなb、。けだし、これらの諸役務のすべてが要求されたも のとして会社に対してなされたものではないからである。 そこで役務に対する補償を得るため、法を潜脱する一つの方法として、当該プロ モーターが現物出資をなし、これに対して会社が水割株式を発行するとb、う手段が とられる。結果的にプロモーターは秘密の利益を取得し、会社・鎌主および会社債 権者の利益はそれだけ害されることになる。なお、 [現物出資目的物の有効性のテ ストについては、目的物の"真実価値凶(actual or true value~によるもの (2) と、評価額決定の"誠実性‘ (good fai th ) によるものと判例は分かれている」 水割株式に闘しては、多くの制定法がその発行を禁止し、かつ株主は払込残額に (3) っき責任を負うものと規定しているが、これらの規定は過去に唱えられた普通法上 のいくつかの法理論を背景としている。これらの法理論は次のごときものである。
(a) 信託基金理論 (trust fund theory)
この理論によれば、未払込の制式を含む会社財産は、信託者の剰溢のための信託 財産もしくは信託基金を構成するものである。したがって、このような未払込金に ついて筒権者は、会社が支払不能となったときには、水割株式引受人に対して回復 似) 請求権を有する。理論的には、会社および派住訴訟 (derivative suit)における 株主も、同様の理由から回復請求権を有するとされる。しかし、会社は営利団体で あって債権者の受託者ではないから、この理論は実質的には否認されてきたが、な おその痕跡はとどめているといわれる。
(b) 留保理論 (holding out theory) -90
一
日米会社法比較研究(1) 不実表示理論 (misrepresentation) あるいは詐欺理論 (fraud)ともいわれる が、この理論によれば、全額払込済の、あるいは払込まれるべき会社の資本額を信 頼した結果、これにより損失をこうむった債権者は、未払込引受額について、水割 (5) 株式引受人から回復する権利を留保する。しかしここにおいては、水割発行の事実 を知らず、会社の資本は全額払込済なりと信頼Lて、後に債権者となった者のみが 回復請求権を有することとなるから、徹底しないきらいがある。
( c ) 黙示の約束理論 (implied promise theory)
この理論によれば、不充分な対価に対し全額払込済および追徴不能株式 (non-assessable shares )を発行することを会社が同意することは、会社の目的外の 行為 (ultra vj,res; であり、したがって無効であるとされ、水割株式引受人に よるかかる株式の引受は、衡平法t全額払込みをなすとb、う黙示の合意があったも (6) のとみなされる。 (d) 契約理論 (contract theory) (7) ニューヨーク州において普通法上支配的であったこの理論は、上述の諸理論とは いささか異なっている。即ち、この理論は、会社が不充分な対価に対して全額払込 済および追徴不能株式を発行することに同意することは、これを会社.株式引受人 聞の有効な契約とみなす。したがって、制定法上の補足的責任あるいは詐欺につい ての責任がなければ、水割妹式引受人は株式引受契約上の文書以上の責任を課され (8) ることはないとする。 ( d ) 制定法上の義務理論 (statutory obligation theory) この理論は、 「たとえ株式引受契約により券面額以上の払込義務または無償であ ることが定められていても、水割株式の発行の前後を問わずまたその事実の認識の 有無を問わず、会社資産から弁済を受けることのできない債権者は、株式につき払 込をしていない株主に対L、券面額全額の払込をなすべき制定法上の義務を理由と -91
日米会社法比較研宮町1) (9) して、その義務の履行を求めることができる。
J
とする。制定法規制の主要な基礎 そなすこの理論が支配的な見解であるといえるであろう。<註>
(1 ) 星川長七、 「株式会社法はいわゆる『事実の開示』、Jl企 業 法 研 究 創 刊 1 0周年記念論文集、 P7 2以下参照。 (2) 長浜洋一、アメリカ会社法慨説、商│事法務研究会、 P1 50 (3) New York BusinesG Corporaもion Law,
~, 6 2 8参照。(4) Wood v. 0四 ner.30F'ed. Cas. 4 3 5
,
No,
1 7,
9 4 4 ( C. C D. M e . 1 8 2 4 ). Scov ill v. T llayer,
1 0 5 U. S. 1 4 3,
2 6 L. Ed. 9 6 8 ( 1 8 82 )。(5) G. Loewus & Co. v. Highl担.d Queen Rtcking Co.. 125 N. J. E q. 534 6 A 2 d. 54 5 (I 939 ) ; Rhode V. Oock-HopCo.
,
184 Cal.367.194P.ll ,12A. L. R. 437(1920)。
(6) Jolln W . 白oney (ゐ.v. Ar lington f抗 el C O. ( Ou R:mtv. Ball)
,
1 1 Oel. ch. 430,
106 A. 39,
7 A. L. R. 955 ( S up. Cも・ 1918)。
(7) Jeffery v. Selwyn, 220 N.Y.77.115N.E.275,6 A. L. R. 11 1 1 (1 91 7 。)
(8) S out蜘 巾
v
.
Morg如 ;205 N.Y.293,
98N.E.490.51L. R.A.
,
N. S.,
56 ( 1 9 1 2 )。 (9)長浜洋一、前掲書、 P1 5 3。
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危険なる約束の個別的比較
前章までtこわれわれは、会社設立段階における発起人およびプロモーターの行為 の効果がいかように成立後の会社に帰属するかについての日米両法の法的処理に関 -92一日米会社法比較研矧1) する一般原則およひ'いわゆる"危険なる約束愉の取扱いの相違を概観した。本章で は、日本法上危険なる約束として商怯第 168条に列挙されている五つの事項が、 アメリカ法の下では具体的にいかように処理されるかを、前章までに知り得たこと を基礎に考察してみよう。 ( a ) 発起人の受くべき特別利益および報酬 アメリカ法の下においても、プロモーターは会社成立以前に自己の提供した役務 に対する補償、あるいは設立されるべき会社になした貢献に対する報酬を期待する のは当然である。しかし実在しない会社との契約は不可能であるから、制定法の規 定あるいは基本定款もしくは附属定款にあらかじめその旨記載する等の万法による ほかは、前章の一般原則に従わなければならなu、。また、プロモーターの報酬に関 して水割株式が発行されることがあるが、これは制定法が厳しく禁じている。 (b) 現 物 出 資 現物出資はプロモーターに限らず一般的に認められるが、プロモ←ターが個人的 利益を得るために自己に対し水割株式を発行する危険がある。そこで殆んどの制定 法はこれを禁止するか、あるいは引受人は払込残額につき責任を負うものと規定す るのが普通である。 ( c ) 財 産 引 受 財産引受契約については、前章に述べた一般原則に従って処理されるであろう。 ただし財産引受は典型的な開業準備行為である。日本法上、財産引受に聞しては、 設立中の機関としての発起人は開業準備行為をなす一般的権限を有し財産引受につ いて例外的にその権限が制限されたと解するのではなく、むしろ、財産引受につい て例外的にその権限が与えられたものと解するのが通説である。しかしアメりカ法 では、一定の価値ある対価が株式の発行によって受領されるまでは営業を開始して (1) はならない旨多くの制定法が規定しているので、おのずからその制限に服すること -93一
日米会社法比較研矧1) となる。 (d) 設 立 費 用 設立費用についても、前章の一般原則に従コて処理されるであろう。更にプロモ ーターの行為が純然たる会社設立のための行為を超えて開業準備行為となる場合に は、当然上述の営業開始要件に服さなければならない。 なお、いずれの場合にもプロモーターは忠実義務という法の要求する最高の善意 義務に従って行動しなければならないことはいうまでもない。
<註>
(1 ) 模範事業会社法では、 1• 00 0 ドルが営業開始の要件である。Model Business C orporation A ct (Revised 1 9 6 6 ) ~ 4 8.
む
す
び
比較法学という学問分野の基本的存在理由の一つが、他国の法制の研究を通じて その長所を自国の立法政策に反映せしめることであるとすれば、本稿で扱った問題 について彼我いずれの法制が優れているかという比較論は無意味で、はないであろう。 筆者は、発起人(プロモーター)の専横から会社.株主および会社債権一者をいかに 保護するかとb、う命題のもとでは、特に危険なる約束を定款に記載せしめ、裁判所 の選任する検査役の調査を要求し、さらに発起設立の場合は裁判所、募集設立の場 合は創立総会にその変更の権限を留保せしめる日本法の積極的態度をより評価する ことによって、本稿の恨むすび凶としたい。 10年前フルプライト交換教授として 来日したカリフォルニア大学(バークレー)のJennings教授も、この点に闘して は日本法が優れている旨を指摘している。しかし、これは単純に日本法がアメリカ 法より優れているということよりも、一定の確定性が要請される"危険なる約束愉日米会社法比較研矧1) の法的処理に関しては、一般的に判例法中心の英米法系よりも制定法中心の大陸法 系の方が優れているということであろう。 なお、この比較研究を通じての一つの反省点は、一概にアメりカ法といってもそ の内実は50余の法域に分かれているのであり、 (限られた時間と叡幅の下で〉特 定の問題に関 L外部からこれを一個の法制度として把握するためにはいきおい一般 論もしくは描象論に終始せざるを得なかったということである。この点については 各州における個々の判例の分析を通じ今後にその欠を補っていくつもりである。