本書は、技術教育研究会ワーキンググループによる『もの づくりの魅力』シリーズの高等学校(以下、高校と略記する) 編である。同ワーキンググループは、2014 年から会合やメー リングリストでの協議を重ね、これまでに『小学校ものづく り10 の魅力―ものづくりが子どもを変える』(一藝社、2016 年)と『ものづくりの魅力―中学生が育つ技術の学び』(一 藝社、2017 年)を刊行している。 本書は、同ワーキンググループのメンバーのうち高校教員 が中心となり、農業科や工業科だけでなく、普通科において も、ものづくりを通して学び、成長する高校生の姿を、以下 の章構成によって描き出している。 はじめに/第1 章 親の目から見た、農業系専門高校で学ぶ 高校生/第2 章 「自分の未来を揺るがす」工業高校での学 び/第3 章 ものづくりが高校生のストーリーをつくる/第 4 章 普通科におけるものづくりの学び/コラム スポーツ ウエアのものづくり/終章 高校生がものづくりに取り組む 意味/おわりに 第1 章では、農業系専門高校を進路として選択し、子ども が同専門高校で学ぶことで、しっかりと自らの考えをもち高 校卒業後の進路を具体的に決定していく様子を保護者の立場 から読み解いている。具体的には、同専門高校で学ぶ内容が、 社会や職業と結びついており、実習を通して商品として流通 するレベルの食品の製造方法を学ぶこと。また、同専門高校 でともに学ぶ同級生や専門学科の先生方、学科により異なる 校則を含めた学校・学科の文化に刺激されること。これらの 学びや刺激が、子どもを大きく成長させる契機となったこと を読み解いている。 第2 章では、自らが考案したオリジナルの器を、失敗しな がらもその原因を追究し、試行錯誤しながら作り上げること によって成長する工業高校生の姿が描かれている。ものづく りを通して、最新技術の素晴らしさや職人技が「半端ない」 (p.30)ことに気づく。そして、「自分にも『できること』 が社会の役に立つ可能性に気づき、生徒自身が社会とつなが り」(p.38)、「未来を揺るがす良い刺激」(p.38)を受け、 主体的に自分の未来へと踏み出そうとする。ものづくりには、 こうした教育力があることを実践的に明らかにしている。 第3 章では、「課題研究」の授業を中心に、ものづくりに 取り組む過程で成長する工業高校生の姿が描かれている。こ こでも実際に運用できるレベルで動くものづくりをしている。 その過程には、予め用意された学習ではなく、課題解決に必 要な知識や技能を自ら獲得することで、先生や同級生に認め られ、自信をつけていく姿があった。3 年間の学びの集大成 である「課題研究」では、各コンテストでの受賞や特許取得 など、社会的にも有用な製品を作り上げることで、高校生は 自らが学んだことの意味を見出し、それを背景に大学の園芸 学部や経営学部へ進学していく、一人ひとりのストーリーが できる「未来の高校の一つの姿」(p.54)があった。 第4 章では、普通科の高校生が、ものづくりを通して成長 する姿が描かれている。取り上げられた高校では、学校独自 に「課題別学習」の時間を設定しており、その「課題」のひ とつに「生産技術入門」を位置づけている。この授業では、 三本組木や鉋の薄削り等の道具を使いこなせるようになる木 材加工学習に取り組んだ後に、東山慈照寺の観音殿(銀閣) や南禅寺、京町屋、北野異人館等を見学する。自らのものづ くり経験を土台として伝統的な建築技術の価値を実感するこ とで、職人の言葉に刺激を受け、実際に大工にならなくとも 自らの将来を真剣に考える高校生の姿が描かれている。 終章では、ものづくりを「高校生が自信をもって社会とつ ながるためのきっかけを与えてくれるという点で、高校生の 最も重要な発達課題に応える活動」(p.75)と位置づける。 そして、ものづくりを充実させるために必要な共通要素とし て、次の3 つを指摘している。1つは、社会で通用する本格 的なものづくりにチャレンジすること。もう1つは、失敗と 試行錯誤を許容する環境づくり。そして、最後に、高校生の ものづくりを支援する大人の存在である。 これらの3 要素は、第 4 章にもあるように、高校普通科も 備えることができる。本書の成果は、このことを高校生の姿 を通して実感豊かに読者に分かち伝えている点に求められる。 本書を執筆・編集した技術教育研究会ワーキンググループ が、高校生の普段の何気ない会話の中で発する言葉に耳を傾 け、ものづくりを通して高校生が現実社会とつながり、社会 を構成する一員として自らの生き方を具体的に考えていく姿 に目を向けながら実践に取り組んできたことの証左であろう。 ものづくりを通して、受験教科に学ぶ意味を感じられない 子どもが自ら学ぶ意味や喜びを取り戻し、社会に一歩踏み出 す自信と力を育むことをリアルに描いたブックレットである。 本書が、「とりあえず普通高校へ」(p.2)と考える保護者 や中学校において進路指導に携わる教員にとって、「実感あ る学びで社会とつながる」際に高校生が発する言葉に耳を傾 ける機会となることを期待している。多くの会員の目に触れ、 その機会が1 人でも多くの方に提供されることを願っている。 (一藝社、2019 年 5 月刊、1000 円+税、A5 版、78 頁) (図書紹介)
技術教育研究会編 『高校生ものづくりの魅力―実感のある学びで社会とつながる』
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