Ⅰ 本書のねらい 本書は、各国で活躍する女性たち、特に管理職として働く女性たちが、どの ような環境や制度の下で、試練や課題と立ち向かって解決し、どのようにキャ リアを積んで現在の地位にあるのかについて、各国の役員比率データと実態調 査を用いて女性管理職の現状を把握し、課題を考察することによって未来を展 望することを目的として著されている。 男性と同じ働き方が求められた時代に就職し、男性と同じように仕事優先の 生活を選択してきた女性が、現在、役員として活躍している。かつて、志高く 社会で活躍しようとした女性は、仕事か家庭責任かの選択を迫られ厳しい側面 に直面した。現在のグローバル社会において、女性は、すべてに高水準の成果 を求められ超多忙となっている。本書は、このような女性が活躍している各国 の現状を紹介し、女性が今以上に活躍できる社会にするには何が求められるの かなどを明らかにすることによって、次世代を担う女性管理職育成のために必 要な施策の提言を行っている。 このように、各国の企業で活躍する女性会社役員の国際比較をすることに よって、グローバル化が進展するビジネス社会における女性会社役員を輩出す る意義と経緯を本書の概要として紹介したうえで、所感を述べさせていただく
₃.渡辺 峻、守屋貴司編著『活躍する女性会社役員の
国際比較――役員登用と活性化する経営――』
(ミネルヴァ書房、2016 年)
WATANABE Takashi/MORIYA Takashi, International Comparison of Active Women Executives: Their Promotion and Vitalized Management, Minerva Shobo, 2016.木村 三千世
KIMURA Michiyoこととしたい。 Ⅱ 本書の概要 本書は、序章と第Ⅰ部「日本企業の女性管理職・役員の現状」、第Ⅱ部「ア ジア各国企業の女性管理職・役員の現状」、第Ⅲ部「欧米各国企業の女性管理職・ 役員の現状」の三部からなる本論部分および終章により構成されている。概要 を簡単に紹介すると以下のとおりである。 序章「女性の管理職・役員登用の展望」では、先進国の役員比率の国際比較 を行い、その意義を述べるとともに、本書の研究アプローチについて、執筆担 当者は、経営学、社会学、政治学などをバックグラウンドとして、社会体制や 企業組織等の構造的問題に目を向け分析したことが示されている。 第Ⅰ部「日本企業の女性管理職・役員の現状」は、第 1 章から第 3 章の 3 つ の章から構成されている。第 1 章「日本企業と女性労働の特質」では、法制度 を含め、女性労働の歴史的な経緯を紹介しながら女性労働活用の背景を述べ、 企業労働における真の男女共同参画が日本では実現に至らない状況が多様な視 点から示されている。第 2 章「上場企業における女性管理職・役員の登用」では、 上場企業の女性役員比率が向上しているものの世界的には低い水準にあること を多様なデータから紹介し、女性管理職比率の向上が企業に与える影響等につ いての考察がなされ、女性比率を高めて男性中心主義的な働き方や価値観から 脱却し、女性管理職たちが活躍できる企業風土に徐々に転換していくことが重 要であることが提言されている。第 3 章「中小・中堅企業における女性管理職・ 役員の登用」では、中小企業の女性管理職・役員の現状、女性就労に大きな影 響のある仕事と育児の両立という企業支援の状況を明らかにしたうえで、企業 規模等に関わらず、制度の運用として支え合える体制が必要であり、すべての 働く人のための「働きやすさと働きがい」を提供するためには、業務の配分と 働き方の見直しが必要であることが提言されている。
第Ⅱ部「アジア各国企業の女性管理職・役員の現状」は、第 4 章から第 9 章 の 6 つの章から構成されている。第 4 章「韓国企業の女性管理職・役員の登用」 では、高学歴化が進んでいる韓国企業における労働市場の現状を明示し、女性 管理職が女性ならではの視点を活かして乗り越えてきた課題や現職までの経緯 を示した具体的な事例が紹介され、育児のために職業経歴が断絶しないための ワークライフバランス施策に加え、能力開発の機会を増やし、真の意味で女性 管理職の輩出を促進する施策に関する提言がなされている。第 5 章「中国企業 の女性管理職・役員の登用」では、“婦女能頂半辺天”の影響により女性の就 業率が高いと言われた。しかし、改革開放以降は効率優先となり、男女別定年 制やレイオフ等により、女性が就業を続け、活躍できる機会が限られる一方、 起業家として活躍する女性が増加しているものの、現在の中国では女性活用の 意識は低く、多様なサポートが必要であることが報告されている。第 6 章「台 湾企業の女性管理職・役員の登用」では、企業の競争力を高めるために女性の 活用が求められるが、男女分業という点から女性が自力で成功することはほぼ 不可能であることから“性別工作平等法”により女性労働に対する社会的支援 システムを機能させたうえ、労働政策や育児等の社会福祉を検討し、女性管理 職への人材育成制度を整えることが急務であることが明らかにされている。第 7 章「香港企業の女性管理職・役員の登用」では、外国人労働者によって形成 されてきた香港の労働事情に加え、中国の政策“一国二制度”の下、1996年か ら“平等機会法”が実施され、女性労働者が増加した経緯が示されるとともに、 近年、女性役員は増加しているが、男女に給与差があるなどの課題も指摘され る一方、グローバル化等の影響から女性を採用し、女性を取締役に登用する企 業も現れてきたことや、女性の社会進出度はアジア圏で中位に位置しているこ とが示されている。第 8 章「インドネシア企業の女性管理職・役員の登用」では、 中間層・富裕層の子女の高学歴化が進み、女性の社会進出や社会における役割 が拡大している。しかし、宗教中心の社会であり、男尊女卑的考えが強く「男 女は平等でない」とされるイスラームの強い影響を受けている。女性大統領の
登場が女性の社会進出のきっかけを作ったが、女性の生活責任は絶対である上、 保育施設不足が女性の社会的進出の障害となっており、仕事と家庭の両立が困 難であることから結婚を諦める女性管理職もいるなど、課題は多いことが明ら かにされている。第 9 章「シンガポール企業の女性管理職・役員の登用」では、 多文化の中、男女格差が小さく、女性は男性と同じ働き方をして長時間労働で 同じ成果を求められていることから、高学歴をめざし、国内外でのキャリアを 追求する影響から結婚年齢が高くなっている。長時間労働や残業が常習化して おり、今後、少子化が危惧され、女性が育児をしながら働き続けられる柔軟な 働き方が求められることを指摘している。 第Ⅲ部「欧米各国企業の女性管理職・役員の現状」は、第10章から第12章の 3 つの章から構成されている。第10章「アメリカ企業の女性管理職・役員の登用」 では、アメリカでの女性役員登用の推進運動、ジェンダーダイバシティ、女性 の意識改革・キャリア形成から考察されている。女性上級管理職登用を阻む壁 があるものの自由主義経済と民間の強力な推進運動を原動力として女性の活躍 が推進されていることが国家キャンペーン「2020女性役員」などに示されてい る。今後の課題は女性登用の拡大と育児支援制度の一般化であり、ワークライ フバランスにも配慮しなければならないことが述べられている。第11章「フィ ンランド企業の女性管理職・役員の登用」では、ノルウェーでの2003年の会社 法制定後、2005年に改正され、2008年までに男女それぞれの取締役比率を40% 以上にすることが義務化されたことにより、2008年に女性取締役は急増した。 しかし、会社の経営状態が悪化したり、制度の適用を避けるために非上場企業 に移行したりするなど、数合わせは成果に結びつかない場合もあることが指摘 されている。第12章「欧州連合の「クオータ2020戦略」」では、男女数半々の 閣僚内閣をめざし、2020年までに女性比率を40%以上にするものである。EU 加盟28カ国における大企業取締役会の女性比率がこれらの国の平均20.2%(2014 年10月現在)以上で、クオータ制を導入している国は 7 カ国、導入していない 国は 4 カ国、企業の女性比率が平均以下でクオータ制を導入している企業は 4
カ国、導入していない国は13カ国で、クオータ制を導入していなくとも女性比 率が高いのは、ラトビア、スウェーデン、イギリス、イタリアであることが示 されている。その他の国策として「欧州2020戦略」「ジェンダー平等戦略」「バル セロナ戦略」を取り上げ、解説がなされている。 終章の「活躍する女性管理職・役員の国際比較」においては、本書で取り上 げられた国々で、法制度・労働市場・企業制度・経営スタイルは各国の経済や 社会的・歴史的推移に大きな影響を与え、女性の活躍推進や管理職への登用に おいて大きな差異を生んだことに加え、日本の女性労働の課題が明示されてい る。働き方に重要な示唆を与えているアベノミクスの女性の活躍推進を法制化 する光と「しっかり働きながら産みなさい」という陰を指摘し、それを好機と して、諸外国の成功事例を日本の組織土壌に合うように改善・導入し、企業横 断的に日本人女性の意識啓発や能力開発を図っていくことの重要性が述べられ ている。 Ⅲ 所 感 本書に示されているとおり、女性が役員として活躍するために、多くの国の 労働市場で、男性中心主義からの脱却が課題となっていることから、女性にも 男性と同じように労働の場において機会を与え、女性管理職候補となるための 能力開発の実施に加えて、ライフイベントと仕事の両立を支援することが求め られている。1970年代、国連総会において女子に対するあらゆる形態の差別の 撤廃に関する条約が採択されて以降も、性別役割分業による男女格差があり、 家事・育児を中心とする家庭責任を負う女性はその役割が最優先される傾向に あるため、女性が社会で活躍できる場は限られていた。女性が活躍できたとし ても役職者や役員に昇進する機会が限られていたことから、女性役員比率を向 上させるためにクオータ制のように女性枠を強制的に設定すれば即効性はある が、その弊害も考慮しなければならないことは本書に示されたとおりである。
日本においては、本書の「日本の管理的職業従事者数の女性割合」に示され ているとおり、女性の管理的職業従事者比率は低いながらも増加傾向を示し、 さらに「男女共同参画2000年プラン」の達成に向けて女性の管理職登用は進ん だ。しかし、政府の後押しがさらに必要なため、「2020年には指導的地位に女 性が占める割合を30%程度にする」ことを目標とした「女性のチャレンジ支援 策の推進」が決定され、現在はその対象となる女性正規雇用労働者を増やすた めに、女性が働きやすく、活躍しやすい労働環境の実現がめざされている。 女性の社会進出は男女平等という視点から始まったことはすべての国におい て共通であるが、国の歴史的背景等によってその後の経緯は多様である。近年、 日本において女性活躍推進が急激に進んだのは、労働力人口の減少、少子化へ の対策として、育児に直面している女性の労働市場への参画も不可欠となった ことが大きな要因である。企業等が女性の活躍を推進する以上、女性ならでは の能力を発揮すると共に成果を期待する。 そこで、本書は女性労働全般に関する一次データを基に役員として活躍する 女性に焦点を当て、女性役職者たちが文化や労働慣習を変えていくパイオニア として残した足跡を明記し、近年の女性労働全般について紹介されていること から、現在の女性労働に関する状況を把握するには有意義な 1 冊であるといえ る。しかし、本書に紹介されている活躍してきた女性役員や役職者が、今後の 女性役職者のロールモデルであってはいけない。今後は性別に関係なく働き方 を選択し、男性も私生活を犠牲にせず、女性も職業生活が全うできる柔軟な労 働環境の下で活躍する女性役職者をロールモデルとして働き方を進化させなけ ればならない。そのためにはどのような施策が必要となるのか、グローバルな 視点で国際比較し、活躍するすべての労働者の働き方を考えなければならない。 その際の必読の書として本書を薦めたい。 本書は、一貫して各国の経済的・社会的かつ歴史的背景に関する変遷を示し、 女性の労働情勢を示す多様なデータに基づき、女性労働のリアルな現状を明ら かにした上、現在における課題を探究して提言を行うという形式で著されてい
ることから、各国の施策の特徴等が比較しやすく、活用しやすい編集となって いる。