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Kirkwood-Buff積分および揺らぎからみた1-プロパノール水溶液の構造

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(1)

群馬大学教育学部理科教育講座,3718510 前橋市荒牧 町 42

2002

The Chemical Society of Japan

―一 般 論 文 ―

KirkwoodBuŠ 積分および揺らぎからみた

1

プロパノール水溶液の構造

(2001 年 9 月 4 日受理)

中 川 徹 夫

1プロパノール水溶液の構造に関する知見を得るため,KirkwoodBuŠ(KB)積分 G

11

,

G

22

,

G

12

(11

プロパノール,2水),1

プロパノールの濃度揺らぎ N〈

(Dx

1

)

2

,密度揺らぎ

〈(DN )

2

〉/N,密度揺ら

ぎと濃度揺らぎの相関

〈DNDx

1

,両成分の密度揺らぎ

(DN

i

)

2

〈 N

/

i

および両者の相関

(DN

i

DN

j

)/

〈 N

j

を,全濃度範囲,283.15 ― 353.15 K の温度範囲で算出した.KB 積分は,等温圧縮率 k

T

,過剰モルギ

ブズエネルギー G

E m

および過剰モル体積 V

mE

などの熱力学量より計算した.続いて西川の方法により,

KB 積分の値を,各種揺らぎの値に変換した.G

11

,

G

22

,

N〈(Dx

1

)

2

〉,〈(DN )

2

/N および

(DN

i

)

2

/

〈 N

i

は,x

1

 0.2 に極大値が出現し,温度上昇とともに増大した.一方,G

12

,〈DNDx

1

〉および〈DN

i

DN

j

/

〈 N

j

〉は同じ濃度において極小値が出現し,温度上昇とともに減少した.しかし,x

1

>0.3 の濃度領域で

は,これらの温度依存性は逆転した.以上のことより,1プロパノール水溶液の構造に関して,次の

ように解釈できる.x

1

<0.3 では,温度上昇とともに 1プロパノール分子どうしや水分子どうしが会合

し,その結果ミクロな相分離が進行する.これに対して,x

1

>0.3 では,温度上昇とともに 1プロパ

ノール

水間の会合が進行する.

 緒

低級飽和一価アルコールのうち,メタノール,エタノール,1 プロパノール,2プロパノールおよび 2メチル2プロパノー ルの 5 種類は,水と任意の割合で混合する.そして,これらの アルコール水溶液の構造と物性に関して,これまでに実験,理論 およびシミュレーションを駆使した数多くの研究がなされてき た1)2) アルコール水溶液の構造を議論する際,その混合状態を定量的 に表す指標に,KirkwoodBuŠ(KB)積分(あるいは,KB パラ メーター)と揺らぎがある3).KB 積分 G ijは,溶液系の巨視的な 熱力学量と,微視的な構造を表す量とを結び付ける役割を果たし ており,次式により定義されている4) Gij=

f

∞ 0 (i j(r )-1)4pr 2 dr ( 1 ) ここで,r は成分 i, j 間の距離,gij(r )は成分 i, j 間の 2 体相関関 数 で あ る . 一 方 二 成 分 混 合 系 の 場 合 , 成 分 i の 濃 度 揺 ら ぎ N〈(Dxi)2〉,密度揺らぎ〈(DN )2〉/N や密度揺らぎと濃度揺らぎ の相関〈DNDxi〉は,3 種類の KB 積分 G11,G12および G22より求 めることができる5) KB 積分は,系の等温圧縮率 kT,成分 i の活量係数 gi(あるい は系の過剰モルギブズエネルギー G E m )および成分 i の部分モル 体積 Vm,i(あるいは系の過剰モル体積 VmE)などの熱力学量より 算出できる.BenNaim6)は,早くも KB 積分の重要性を認め, エタノール水溶液における KB 積分を計算した.これに引き続い て,さまざまな低級飽和一価アルコールの水溶液に関する KB 積 分が数多く報告されている7)16) 一方,KB 積分や揺らぎは,光散乱や X 線小角散乱等の実験 的手法からも算出できる.これまでに X 線小角散乱法により, エタノール17),1プロパノール18)19), 2プロパノール18)および 2 メチル2プロパノール20)21)水溶液の KB 積分や揺らぎが算出 され,これらのアルコール水溶液の混合状態について議論され た.このうち,2メチル2プロパノール水溶液については, Nishikawa らにより,温度範囲 293.15 ― 328.15 K における KB 積分や揺らぎが詳細に検討されている.その結果,温度上昇とと もに,アルコール分子間および水分子間の KB 積分および濃度揺 らぎの値は,アルコールのモル分率が 0.10 ― 0.15 当たりに極大 値が出現し,これらの値は温度上昇とともに上昇した.これよ り,温度上昇とともに同種分子どうしの会合によるミクロな相分 離が進行するものと結論された. 水と任意の割合で混合する低級飽和一価アルコールのうち,1 プロパノールの水溶液の構造は,最も特異的である.この水溶 液の濃度揺らぎの最大値は,エタノール水溶液の値のほぼ 3 倍, 2メチル2プロパノール水溶液の値のほぼ 1.5 倍である3).ア ルコール分子間の KB 積分の最大値も,2メチル2プロパノー ル水溶液におけるそれのおよそ 1500 倍近い値を示す18)21).それ

(2)

Table 1 Isothermal compressibilitiesk0

T,iof 1propanol and

water Compound k 0 T,i/GPa-1 283.15 K 298.15 K 308.15 K 323.15 K 353.15 K 1Propanola) 0.9102c) 1.006 1.076 1.205d) 1.433c) Waterb) 0.4781 0.4525 0.4444 0.4417 0.4614

a) Ref. 28. b) Ref. 29. c) Extrapolated value. d) Interpolated value. ゆえ,見かけ上均一相を形成するにもかかわらず,ほかのアル コール水溶液の場合よりも一層ミクロな相分離が進行しているも のと予想される.実際に,光散乱22),中性子小角散乱23)25)や超 音波吸収26)の実験あるいは分子動力学シミュレーション27)の結 果からも,水溶液中で 1プロパノールのミセル状態のクラス ターが生成していると報告されている.これらに加えて,KB 積 分および揺らぎの観点から,組成・温度変化に伴う,1プロパ ノール水溶液の構造変化の検討は,極めて興味深い.これまでに X 線小角散乱によって求められた 1プロパノール水溶液の KB 積分および濃度揺らぎは,288.15 K から 308.15 K までのごく限 られた温度範囲にすぎない18)19).それゆえ,より広い温度範囲 においてこれらの値を計算し,1プロパノール水溶液の構造の 温度依存性に関する新たな知見を得る必要がある. 本研究では,系の等温圧縮率 kT,過剰モルギブズエネルギー G E m ならびに過剰モル体積 VmEなどの熱力学量より,1プロパ ノール水溶液における同種・異種分子間の KB 積分 Gijを算出 し た . 続 い て , Gijを 用 い て 1 プ ロ パ ノ ー ル の 濃 度 揺 ら ぎ N〈(Dxi)2〉,密度揺らぎ〈(DN )2〉/N,密度揺らぎと濃度揺らぎの 相関〈DNDxi〉,両成分の密度揺らぎ〈(DNi)2〉/〈 Ni〉および両者の 相関〈DNiDNj〉/〈 Nj〉を得た.計算は,全濃度範囲,5 種類の温度 (283.15, 298.15, 308.15, 323.15 および 353.15 K)において実行し た.そして,得られた KB 積分および各種揺らぎの値を用いて, 1プロパノール水溶液の構造の組成・温度変化について議論し た.

 理

. KirkwoodBuŠ 積分 一般に二成分系溶液の場合,式( 1 )で与えられる KB 積分は 次式により計算できる9)15) G12=G21=RTkT- Vm, 1Vm, 2 VmD ( 2 ) Gii=G12+ 1 xi

(

Vm, j D -Vm

)

i≠j, i, j=1, 2 ( 3 ) ただし, D=xi

(

&lngi &xi

)

T, P +1 ( 4 ) である.ここで kTは溶液の等温圧縮率,Vm,iは成分 i の部分モ ル体積,Vmは溶液の平均モル体積,xiは成分 i のモル分率,T は絶対温度,R は気体定数,giは成分 i の活量係数である.本報 では,成分 1 を 1プロパノール,成分 2 を水と定める. . 揺 ら ぎ Nishikawa は,3 種類の KB 積分G11,G22,G12の値より,揺ら ぎ を 求 め る 式 を 誘 導 し た5). つ ま り , 成 分 1 の 濃 度 揺 ら ぎ N〈(Dx1)2〉,密度揺らぎ〈(DN )2〉/N,および密度揺らぎと濃度 揺らぎとの相関〈DNDxi〉は,次式により算出できる. N〈( Dx1) 2 〉=x1x2[1+nx1x2(G11+G22-2G12)] ( 5 ) 〈( DN )2/N=x 12nG11+x22nG22+2x1x2nG12+1 ( 6 ) 〈 DNDx1〉=x1x2n[ x1(G11-G12)-x2(G22-G12)] ( 7 ) ここで,xiは成分 i のモル分率,n は溶液の平均数密度である. さらに,成分 i の密度揺らぎおよび成分 i と成分 j の密度揺らぎ の相関は,次式により算出できる5) 〈( DNi)2〉/〈Ni〉=niGii+1 i, j=1, 2 ( 8 ) 〈 DNiDNj〉/〈Nj〉=niGij i≠j, i, j=1, 2 ( 9 )

 データ源と計算方法

. 等温圧縮率 等温圧縮率 kTの値は,KB 積分の値に比べて極めて小さな値 であるので,Sulgin らの方法15)にならい,近似的に kT=k 0 T, 1f1+k 0 T, 2f2=k 0 T, 1f1+k 0 T, 2(1-f1) (10) のように,純成分である 1プロパノールと水の等温圧縮率の値 k0 T,1および k0T,2を容積分率 fiで平均した値を採用した.k0T,1の値 は,文献 28 より引用した.ただし,283.15 K および 353.15 K における値は外挿,323.15 K における値は内挿により求めた. k0 T,2の値は,文献 29 より引用した.これらの値を,Table 1 に 示す. . 平均モル体積と部分モル体積 二成分混合系の場合,各成分の平均モル体積 Vmおよび部分モ ル体積 Vm,iは,対応する過剰モル体積 VmEの値より算出でき る30).すなわち,V mやと Vm,iと VmEの間には,次の関係が成 立する. Vm=x1V 0 m, 1+(1-x1)V 0 m, 2+Vm E (11) Vm, 1=V 0 m, 1+Vm E +(1-x1)

(

&Vm E &x1

)

T, P (12) Vm, 2=V 0 m, 2+Vm E -x1

(

&VmE &x1

)

T, P (13) ここで,V0 m,iは,純成分 i のモル体積である.本研究では,1プ ロパノール水溶液の過剰モル体積 V E m の値を文献 31 より引用し ( た だ し , 298.15 お よ び 308.15 K の 値 は 内 挿 値 ), Redlich  Kisterk 式32) VmE=x1x2 5

k=0 Ak(2x1-1)k=x1(1-x1) 5

k=0 Ak(2x1-1)k (14) に合うように係数 Akを決定した.結果を Table 2 に示す.式 (14)を式(11), (12)および(13)に代入することにより,Vmおよ び Vm,iを求めた. . 過剰モルギブズエネルギーとD値 活量係数 giと過剰モルギブズエネルギー GmEとの間には,次 の関係がある33) lng1= 1 RT

(

&nGm E &n1

)

T, P, n2 = 1 RT

[

GmE+(1-x1)

(

&Gm E &x1

)

T, P

]

(15) ここで,n は系の全物質量,niは成分 i の物質量である.式(15) を式( 4 )に代入すると,次式により,D 値が計算できる.

(3)

Table 2 Fitting parametersAkfor Eq. (14) T/K Ak/cm 3mol-1 s/cm3mol-1 A0 A1 A2 A3 A4 A5 283.15 -2.87 0.885 -0.895 -0.335 -2.44 2.79 4.1×10-3 298.15a) -2.61 0.740 -0.724 0.0372 -1.99 1.86 1.5×10-3 308.15a) -2.45 0.732 -0.669 -0.229 -1.63 1.96 2.2×10-3 323.15 -2.21 0.560 -0.611 0.392 -1.34 1.20 3.3×10-3 353.15 -1.86 0.463 -0.454 0.418 -1.14 1.19 4.6×10-3

a) Obtained from extrapolated V E m values.

Table 3 Fitting parametersBkfor Eq. (17)

T/K Bk/kJ mol -1 s/J mol-1 B0 B1 B2 B3 283.15 3.97 -1.28 0.119 -0.405 7.3 298.15a) 4.16 -1.41 0.284 -0.598 8.3 308.15a) 4.26 -1.49 0.361 -0.698 8.9 323.15 4.39 -1.64 0.445 -0.745 9.4 353.15 4.58 -1.89 0.573 -0.869 1.1×10 a) Obtained from extrapolated G E

m values.

Fig. 1 Concentration and temperature dependences of KirkwoodBuŠ integral between 1propanols in 1 propanol aqueous solution.

The symbol of x1is the mole fraction of 1propanol.

The solid (―), dashed (― ― ―), broken ( ), dotted (), and dashdotted (― ―) lines mean the results for 283.15, 298.15, 308.15, 323.15, and 353.15 K, respectively. ◯ : Ref. 18 (at 293.15 K by smallangle Xray scattering); ●: Ref. 9 (at 298.15 K by thermodynamic data); ▲: Ref. 15 (at 298.15 K by thermodynamic data).

Fig. 2 Concentration and temperature dependences of KirkwoodBuŠ integral between waters in 1propanol aqueous solution.

The symbols have the same meaning as in Fig. 1. D=x1(1-x1) RT

(

&2 Gm E &x12

)

T, P +1 (16) 1プロパノール水溶液の過剰モルギブズエネルギー G E m の値を 文献 31 より引用し(ただし,298.15 および 308.15 K の値は内挿 値),RedlichKisterk 式 GmE=x1x2 3

k=0 Bk(2x1-1)k=x1(1-x1) 3

k=0 Bk(2x1-1)k (17) に合うように係数 Bkを決定した.結果を Table 3 に示す.式 (17)を式(16)に代入して,D 値を算出した. なお本研究においては,1プロパノール水溶液の全濃度範囲 (0  x1 1)にわたり,x1を 0.01 間隔で,kT,Vm,Vm,iおよび D 値を算出した.そして,これらの値を式( 2 ), ( 3 ), ( 5 ), ( 6 ), ( 7 ), ( 8 )および( 9 )に代入することにより,KB 積分および揺 らぎの値を得た.

 結果と考察

. KirkwoodBuŠ 積分 Fig. 1, 2 および 3 に,KB 積分G11,G22および G12の組成・温 度依存性を示す.これらに,Hayashi らの 293.15 K における X 線 小 角 散 乱 法 に よ る 実 測 値18)や , Matteoli や Shulgin ら が 298.15 K において熱力学量より算出した値9)15)も併せて記す.こ れらの値との比較により,本研究で得られた 298.15 K における KB 積分の値は,ほかの文献値と比較的よく一致している. x1 0.2 において,G11および G22は極大値を示し,この値は 温度上昇とともに増大している.そして,極大値が出現する 1 プロパノールの濃度は低濃度側へシフトしている.一方,G12は, x1 0.2 において極小値を示し,この値は温度上昇とともに減少 している.そして,極小値が出現する 1プロパノールの濃度は 低濃度側へシフトしている.この傾向は,メタノール9)16)やエタ ノール9),ないしは 2メチル2プロパノール20)21)水溶液の G ij の温度依存性にも認められる.

(4)

Fig. 3 Concentration and temperature dependences of KirkwoodBuŠ integral between 1propanol and water in 1propanol aqueous solution.

The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

Table 4 KirkwoodBuŠ Integrals atx1=0.20

T/K Gij/cm 3mol-1 G11 G22 G12 283.15 255.7±16.0 395.2±6.2 -411.1±5.2 298.15 517.7±58.3 691.9±19.5 -690.7±15.5 308.15 728.1±112.2 934.2±36.0 -917.0±28.3 323.15 1186±280 1476±87 -1416±67 353.15 1743±590 2190±185 -2049±139

Fig. 4 Concentration and temperature dependences of conentration ‰uctuation of 1propanol in 1propanol a-queous solution.

The symbols of x1, ◯ , and ˆve lines have the same

meaning as in Fig. 1. △: Ref. 19 (at 288.15 K by small angle Xray scattering); ▽: Ref. 19 (at 298.15 K by smallangle Xray scattering); □: Ref. 19 (at 308.15 K by smallangle Xray scattering).

メタノールおよびエタノール水溶液の場合,アルコールの低濃 度領域において温度が上昇するにつれて G11の値が増大するの は,アルキル基の疎水性相互作用が増大するためと解釈されてい る9).一方,2メチル2プロパノール水溶液の構造は,光散乱 法を用いた Iwasaki と Fujiyama34)35)の研究により,次のような 解釈がなされている.つまり,アルコールの低濃度領域では 2 メチル2プロパノール分子を水分子が取り囲んだかご状(クラ ストレート)構造ができる.そして,アルコール濃度の増大とと もに,かご状構造をつくる水分子の共有が起こり,結果的にクラ スターが成長するとされている.Nishikawa らも,X 線小角散 乱20)21)や X 線回折36)の研究より,Iwasaki と Fujiyama の解釈を 支持する結果を報告している. 本研究で取り上げた 1プロパノールは,エタノールよりもメ チレン基が 1 個多いプロピル基を有する分子なので,かご状構 造よりもむしろ疎水性相互作用による安定化が顕著に起こると予 想される.よって,1プロパノールの低濃度領域においては,1 プロパノール分子間の水素結合よりも 1プロパノール分子間の 疎水性相互作用が優先し,結果的に 1プロパノールのミセル状 態のクラスターが生成するものと考えられる.一方,1プロパ ノール分子の回りの水分子は疎水性相互作用に伴い一層構造化さ れる.そして,1プロパノール分子間の疎水性相互作用による 自己会合および水分子の構造化による自己会合は温度上昇ととも に増大するため,結果的に G11,G22の増大を生じたものと考え られる.なお,Fig. 1 と Fig. 2 とを比較すると,すべての温度 において極大値は G22>G11である.これより,1プロパノール 分子よりも水分子の方が自己会合しやすいことも理解できる.た だし,この現象が観察できるのは,x1<0.3 という,1プロパ ノールの濃度が比較的小さい領域である. x1 0.3 を境にして,Gijの温度依存性の傾向は逆転する.す なわち,これ以上の濃度領域においては,温度上昇に伴って G11 および G22の値は減少する一方,G12は増大している.これより, 1プロパノール分子数の増加により疎水性相互作用は起こりに くくなり,これによって誘起される水分子の構造化も生じにくい と予想される.この場合は,温度上昇に伴い,1プロパノール 分子間および水分子間の水素結合が切断され,ランダム混合に近 づく.その結果,相対的に 1プロパノール水間の会合が進行す るものと考えられる. x1= 0.2 に お け る Gijの 値 を , Table 4 に 示 す . こ れ よ り , 323.15 K と 353.15 K における G11を除き,各温度間で Gijの値 に有意な差が認められる.したがって,Gijを用いた 1プロパ ノール水溶液の構造の温度依存性に関する議論は,有効であると 判断できる.353.15 K における G11の誤差が極めて大きい原因 は,誤差が x1の逆数に比例して増大することと,G11の極大値の 出現する濃度において誤差が最大になり,この濃度が x1=0.2 に 極めて近いことの相乗効果によるものであろう. . 揺 ら ぎ Fig. 4 から 10 に,各種揺らぎの組成・温度依存性を示す. Hayashi らによって X 線小角散乱法より得られた実測値18)19) 併せて記す.本研究で得られた 298.15 K における各種揺らぎの 値は,これらの文献値とよく一致している. 各種揺らぎの濃度依存性は,KB 積分の場合同様,x1 0.2 で N〈(Dx1)2〉,〈(DN )2〉/N,〈(DN1)2〉/〈 N1〉,〈(DN2)2〉/〈 N2〉は極 大値を,〈DNDx1〉, 〈DN1DN2〉/〈 N2〉,〈DN1DN2〉/〈 N1〉は極小値 を示した.そして,これら値は温度上昇とともにいっそう増大な いし減少し,極値が出現する 1プロパノールの濃度は低濃度側 へシフトしている.x1 0.3 を境にして,揺らぎの温度依存性の 傾向が逆転しているのも,Gijの場合と同様である.

(5)

Fig. 5 Concentration and temperature dependences of den-sity ‰uctuation in 1propanol aqueous solution. The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

Fig. 6 Concentration and temperature dependences of cor-relation between concentration ‰uctuation of 1 propanol and density ‰uctuation in 1propanol aqueous solution.

The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

Fig. 7 Concentration and temperature dependences of den-sity ‰uctuation of 1propanol in 1propanol aqueous so-lution.

The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

Fig. 8 Concentration and temperature dependences of den-sity ‰uctuation of water in 1propanol aqueous solu-tion.

The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

Fig. 9 Concentration and temperature dependences of cor-relation between density ‰uctuation of 1propanol and that of water in 1propanol aqueous solution. The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

Fig. 10 Concentration and temperature dependences of cor-relation between density ‰uctuation of water and that of 1propanol in 1propanol aqueous solution. The symbols have the same meaning as in Fig. 1.

(6)

Hayashi ら18)19)が X 線小角散乱により得た N(Dx 1)2〉と同様, 本研究で算出した N〈(Dx1)2〉にも x1 0.2 で極大値が出現した. これより,Großmann ら22)が提唱するような(CH 3CH2CH2OH)8 (H2O)40のような化学種が形成されるとは考えられない.これに 加えて,Hayashi ら18)19)は,N〈(Dx 1)2〉の顕著な温度依存性がほ とんど見られないことを指摘し,その理由は明らかではないとし ている.しかし,彼らの研究は,288.15 ― 308.15 K と,ごく限 られた温度範囲で行われている.これに対して,本研究では, 283.15 ― 353.15 K と,比較的広範囲にわたる各種揺らぎを検証 しており,Fig. 4 からも,明らかに揺らぎの温度依存性が認めら れる.これより,1プロパノール分子間の疎水性相互作用およ び水分子の構造化が,温度上昇とともに増大するものと解釈でき る. 各種密度揺らぎ〈(DN )2/N,〈(DN 1)2〉/〈 N1〉,〈(DN2)2〉/〈 N2〉

に関しては,次のことがいえる.Fig. 5, Fig. 7 および Fig. 8 を 比較すると,いずれの密度揺らぎの濃度・温度依存性も酷似して いることがわかる.しかし,極大値の大きさはすべての温度にお いて,〈(DN2)2〉/〈 N2〉>〈(DN )2〉/N>〈(DN1)2〉/〈 N1〉でとなっ ている.これより,密度揺らぎに関しては,水分子の寄与が重要 であるといえる. 以上のことより,揺らぎの温度依存性から,次のことが考えら れる.すなわち,1プロパノールの低濃度領域( x1<0.3)におい ては,1プロパノール分子の疎水性相互作用が 1プロパノール 間の水素結合よりも優先する.そして,温度上昇とともに,1 プロパノール分子の疎水性相互作用やそれに伴う水分子の構造化 に基づく同種分子どうしの会合が強まり,結果的にミクロな相分 離が進行する.一方,高濃度領域( x1>0.3)では,Gijの議論と同 様,温度上昇とともに,相対的に 1プロパノール水間の会合が 進行するものと考えられる.

 結

1プロパノール水溶液の等温圧縮率kT,過剰モルギブズエネ ルギー G E m ならびに過剰モル体積 VmEなどの熱力学量より同 種・異種分子間の KB 積分および 1プロパノールの各種揺らぎ を,全濃度範囲,5 種類の温度において算出し,溶液構造の組 成・温度変化について議論した.その結果,次のことが明らかと なった.x1<0.3 という 1プロパノールの低濃度領域では,温度 上昇とともに 1プロパノール分子および水分子どうしの自己会 合によるミクロな相分離が進行し,一方,x1>0.3 という高濃度 領域では,温度上昇に伴って,1プロパノール分子間および水 分子間の水素結合が切断され,相対的に 1プロパノール分子水 分子間の相互会合が進行する. (本報告の一部は,日本化学会第 79 春季年会(2001 年 3 月)に おいて発表した.)

1) F. Franks, D. J. G. Ives,Quart. Rev.,20, 1(1966). 2) F. Franks, J. E. Desnoyers,Water Sci. Rev.,1, 171(1985). 3) 西川恵子,化学総説,25, 63(1995).

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9) E. Matteoli, L. Lepori,J. Chem. Phys.,80, 2856(1984). 10) A. BenNaim, J. Phys. Chem., 93, 3809(1989). 11) A. BenNaim, Pure App. Chem., 1, 25(1990).

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13) Y. Marcus,J. Chem. Soc. Faraday Trans.,86, 2215(1990). 14) K. J. Patil, G. R. Mehta, S. S. Dhondge,Indian J. Chem.

A,33, 1069(1994).

15) I. Shulgin, E. Ruckenstein, J. Phys. Chem. B,103, 2496 (1999).

16) Y. Marcus,Phys. Chem. Chem. Phys.,1, 2985(1999). 17) K. Nishikawa, H. Hayashi, T. Iijima, J. Phys. Chem.,83,

463(1979).

18) H. Hayashi, K. Nishikawa, T. Iijima, J. Phys. Chem.,94, 8334(1990).

19) H. Hayashi, Y. Udagawa,Bull. Chem. Soc. Jpn., 65, 155 (1992).

20) K. Nishikawa, Y. Kodera, T. Iijima, J. Phys. Chem., 91, 3694(1987).

21) K. Nishikawa, H. Hayashi, T. Iijima, J. Phys. Chem.,93, 6559(1989).

22) G. H. Großmann, K. H. Ebert, Ber. Bunsenges. Phys. Chem.,85, 1026 (1981).

23) G. D'Arrigo, J. Teixeira,J. Chem. Soc. Faraday Trans.,86, 1503(1990).

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25) M. Misawa, K. Yoshida, J. Phys. Soc. Jpn., 69, 3308 (2000).

26) W. M. Madigosky, R. W. Warˆeld, J. Chem. Phys., 86, 1491(1987).

27) 秋山 功,五十 嵐建二, 小川雅也, 鈴木善博 ,高橋桂 一,大鳥範和,第 23 回溶液化学シンポジウム講演要旨集, 2000, 2P11.

28) M. Diaz Pe ãna, G. Tardajos,J. Chem. Thermodyn.,11, 441 (1979).

29) G. S. Kell,J. Chem. Eng. Data,20, 97(1975). 30) T. Nakagawa,J. Sci. Educ. Jpn.,24, 179(2000). 31) S. Westmeier,Chem. Tech.,28, 480(1976).

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34) K. Iwasaki, T. Fujiyama,J. Phys. Chem.,81, 1908(1977). 35) K. Iwasaki, T. Fujiyama,J. Phys. Chem.,83, 463(1979). 36) K. Nishikawa, T. Iijima,J. Phys. Chem.,94, 6227(1990).

(7)

Structure of 1Propanol Aqueous Solution through KirkwoodBuŠ

Integrals and Fluctuations

Tetsuo N

AKAGAWA

Department of Science Education, Faculty of Education, Gunma University;

Aramaki, Maebashishi

3718510

Japan

In order to obtain the basic information of the structure of 1propanol aqueous solution, the Kirkwood

BuŠ (KB) integrals,

G

11

,

G

22

and

G

12

(1: 1propanol, 2: water), the concentration ‰uctuation of 1

propanol,

N〈(Dx

1

)

2

, the density ‰uctuation,〈(DN )

2

〉/N, their correlation term,〈DNDx

1

〉, the density

‰uctuations of respective components〈

(DN

i

)

2

〉/

〈 N

i

〉, and their correlation term〈DN

i

DN

j

/

〈 N

j

〉have

been estimated over the whole concentration range and at the temperature range of 283.15 ― 353.15 K.

The KB integrals have been calculated from the thermodynamic properties such as isothermal

compres-sibilities,

k

T

, excess molar Gibbs energies,

G

mE

, and excess molar volumes,

V

mE

. Successively, these KB

integrals have been converted to the ‰uctuations using Nishikawa procedure. In

G

11

,

G

22

,

N〈(Dx

1

)

2

〉,

〈(DN )

2

/N and〈

(DN

i

)

2

/

〈 N

i

, the maxima have appeared at

x

1

 0.2, and increased with the increase

of temperature. On the other hands, in

G

12

,〈DNDx

1

〉and〈DN

i

DN

j

/

〈 N

j

, the minima have appeared at

the same mole fraction, and decreased. However, this tendency is reversed in

x

1

>0.3. These results

sug-gest us the followings: The selfassociations of 1propanol and water molecules are more preferential in

x

1

<0.3 and consequently the microscopic demixing of this system more advances as the temperature

in-creases, in contrast, the heteroassociations between 1propanol and water molecules are more

progressed in

x

1

>0.3.

Table 1 Isothermal compressibilities k 0 T,i of 1 propanol and water
Fig. 1 Concentration and temperature dependences of Kirkwood BuŠ integral between 1 propanols in 1
Fig. 3 Concentration and temperature dependences of Kirkwood BuŠ integral between 1 propanol and water in 1 propanol aqueous solution.
Fig. 7 Concentration and temperature dependences of den- den-sity ‰uctuation of 1 propanol in 1 propanol aqueous  so-lution.

参照

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