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喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践 ―人とともに歌うことを通して

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(1)■自由投稿(報告). 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践 ― 人とともに歌うことを通して 山下世史佳(よしかミュージック) 1. はじめに. よって,人間的な交流を深め,連帯して生活を 改善しようとする人々の意志を高めることを根.  現在,独居の高齢者数や核家族世帯は増加傾. 本にする運動」 (園部 1977,pp. 192 193 )で. 向にある。独居高齢者や核家族世帯等の孤立を. あった。また,うたごえ運動は,終戦後の生活. 防ぐために地域の連携が図られている。例えば,. 苦からの離脱や政治的意味を含み,労働運動. 地域では公的機関が運営する介護予防や認知症. 等をともなって職場,学校,地域で自然発生. 予防の講座が充実し,地域包括ケアシステムの. 的に起こった。長木( 2010 )は,うたごえ運. 構築等の高齢者サポートがなされている。地域. 動について, 「ある種の意図的な大衆の 創成. には他に,民間団体の運営する高齢者のための. や 操作 というものがそこに絡んでおり,同. 活動も多数ある。民間が運営する活動には,カ. 時にある一定の大衆観が予断的に潜んでいる」. ルチャースクールの各講座,フィットネススタ. (p. 81 ) , 「 合唱 という目的意識をもったもの. ジオ,各種教室,店舗で行われる講座がある。. が形成できる」 (p. 98 )と述べている。うたご. 本研究で取り上げるのは,民間が運営する店舗. え運動は合唱の要素を含み,反戦,平和,政治. の,いわゆる,喫茶店での活動である。地域に. 等の意味合いももち,アマチュアの大衆を中心. 古くからある喫茶店の客層をみてみると,モー. に発展した。参加者のなかには, 「職場や地域. ニングやランチの常連客には中高年者が多くみ. の仲間同士で気楽に集い,歌うことによって楽. られる。ゆえに,この喫茶店という場も中高年. しみをもつ」 (戸ノ下 2016,p. 148 )意識で. 者を含む住民の交流の場として活用され,地域. 参加していた者も多数いた。. 活性の一助となることが期待される。.   「 1950 年代にはうたごえ運動の祭典が各地で.  筆者は,2014 年 2 月から 2017 年 11 月の期間. 行われるようになり」 (古茂田 1980,pp. 26. 内に月 1 回,岡山県内の喫茶店で中高年者向け. 31 ) ,歌声喫茶が誕生した。歌声喫茶は,1950. 歌唱教室を開講した。2017 年 11 月に筆者の都. 年代から 1960 年代に最盛期を迎え,歌好きな. 合で活動を休止したが,現在も参加者だけで歌. 人々が集い,喫茶と歌を楽しむ場となった。. 唱活動を継続中である。歌唱教室開講のきっか.   「歌声喫茶の一つで,1954 年に開店した『う. けは,喫茶店での歌唱活動を地域活性,地域交. たごえのみせ灯(ともしび) 』は人気を博し,. 流や支援に繋げたいという経営者の意向と,経. 歌唱指導者を立ててあらゆるジャンルの曲の. 営者自身がベースを弾いたりカラオケを楽しん. 集団歌唱がなされた」 (丸山 2002,pp. 30 78,. だりと音楽に傾倒していたことによる。. pp. 157 160 ) 。この店舗は現在まで継続され,.  喫茶店での歌唱活動の歴史を遡ると,終戦後. 高齢者のみならず中年者も通う。歌のリードは. の青年運動の再出発期に起こったうたごえ運動. 30 代前後の若者で結成されたグループも行い,. が挙げられる。うたごえ運動は, 「歌を歌える. そのグループの追っかけもいる。勢力は縮小さ. 人も歌えない人も,常に集団的に歌うことに. れても,うたごえ運動支持者間で活動は継続さ. 66  音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.

(2) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. れ,現在も出前歌声喫茶や海外ツアーが行われ. 得るのである。. ている。.  仲間とともに歌唱活動をする行為は,うたご.  次に,近年行われる喫茶店での中高年者の歌. え運動で社会や生活をよりよいものにしようと. 唱活動の実践例として,筆者の音楽関係者の成. 最盛した時代を思い起こすことができ,中高年. 功例を 2 例挙げる。1 例目は東京にある音楽喫. ( 2011 )は, 者の生活を明るくする。パーチ 1 ). 茶「acacia」である。ここではカルチャー講座. 「人間が意味をもつのは,自分がさまざまな欲求. が連日開催され,その 1 つの「愛唱歌を楽しむ. を満足させる存在であり,もろもろの積極的な. 会」は 1 クラス約 20 名,計 3 クラスで月 2 回開. 可能性,つまりは価値を実現するための道具で. 催されている。参加者の大半が高齢の女性で,. あることを承認するようにとの要請を受けたも. 心身の健康をテーマに,歌を楽しみながら学ん. のとしてみずからを定立することによってなの. でいる。唱歌,童謡,歌謡曲等幅広いジャンル. である」 (p. 49 )と述べる。人が日常的な社会生. の集団歌唱が行われる。会終了後には喫茶時間. 活のなかで何らかの生きる意味をもつのは,例. があり,地域の人々の交流と憩いの場となって. えば,人が誕生時から欲求を満足させるために. いる。2 例目は,岡山で 50 年続いた喫茶「東. 表現し,自身の存在価値を実感できるときであ. 京」の歌の会である。この会は喫茶「東京」の. る。中高年者が歌唱教室に参加することで,上. 2015 年 4 月閉店時までカルチャー教室の一環. 手く歌唱したい,仲間と交流したいという欲求. として行われていた。参加年齢は 50 ∼ 80 代の. を抱くことは,中高年者が歌唱活動やそれを取. 中高年者でジャンルや年代は幅広く元気で自活. り巻く関係性のなかで自身の存在価値を見出し,. できる者を対象としていた。楽しく歌唱しなが. 生活に潤いや活気を取り込むことに繋がる。さ. ら声を出してストレスを発散して健康になるこ. らに,人とともに歌う活動は,社会全体と自身. とが目的であった。岡山県内では他にも歌声喫. との関係を再認識し,社会での自身の生き方を. 茶が盛んに行われ,歌や歌を通して他者との交. 見つめ直すきっかけともなり得る。. 流を楽しめる場として活用されている。.  社会及び他者との関わりについて,ホルツマ.  内閣府の「高齢者の地域社会への参加に関す. ( 2014 )は, 「人間は世界を創造し再創造 ン 2). る意識調査」によると, 「あなたが生きがい(喜. するために力を振るい,世界は人間と切り離せ. びや楽しみ)を感じるのはどのような時ですか」. ない。このようなかたちで,人びとが自分自身. の問いに対し, 「趣味やスポーツに熱中してい. と,そして他者とつながることを支援すること. る時」と「友人や知人と食事,雑談している時」. は,日常のありきたりのことに歴史的な世界と. が 2 位と 3 位に挙がった。喫茶店という食事や. して関わることを意味する。つまり,常に生成. 雑談が気軽にできる場で趣味に通ずる歌唱を行. している,人生/歴史制作のプロセスに参画す. うことは,中高年者にとって有意義なことであ. る社会的存在として関わるのである」 (p. 164 ). る。また,中高年者が地域で生きがいをもって. と述べる。ホルツマンの考え方に基づくならば,. 健康に暮らすためには, 「仲間作りがきわめて. 歌唱活動を通して他者と関わり,社会的,協同. 重要である」 (瀬沼 2010,pp. 55 56 ) 。つまり,. 的な実践を行うことは,人が人生を創る過程そ. 喫茶店という場での歌唱活動に定期的に参加す. のものであり,人の人生/歴史制作のプロセス. ることで仲間ができ,喫茶店が社交の場となり. に参画することを意味している。これによって. 1 ) Paci, Enzo( 1911 1976 ) :イタリアの哲学者,実存主義 2 )Holzman, Lois( 1946 ) :アメリカの発達心理学者,発達心理言語学者 Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019   67.

(3) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. 人々は,ありきたりな人生という歴史的行為や. した研究は少ない。. 日常を,意味のある人生/歴史として再生し創.  そこで,本研究では,喫茶店にて歌唱教室開. 造していくと換言できる。つまり,筆者が中高. 始後 2 年間に 2 回の質問紙調査を実施し( 1 年. 年者と歌唱活動で関わることも,社会的協同的. 経過時と 2 年経過時) ,参加者の心身の変化を明. な意味合いをもつことになり得るのである。. らかにすることを目的とする。そのために,こ.  近年の喫茶店に関する研究には,コミュニ. こでは,地域の喫茶店の活用法として中高年向. ケーション研究として,学生による喫茶店利用. けの活動の一例を示すとともに,喫茶店という. の歴史に関する研究(山中 2015 ) ,喫茶店で. 異空間の社交場での歌唱教室に参加する中高年. 流れる音楽の調査研究(片桐 2015 ) ,障がい. 者が歌唱活動を通して他者と交流することにど. 者の喫茶店における労働の実践的研究(高橋・. のような意味があるのかに焦点をあてる。. 松本・金澤 2015 )等がある。このように喫茶 店の活用例等の研究が多い。喫茶店の客層調査 や来店者への来店目的の聞き取りを通して社会 関係形成の在り方やコミュニティカフェの必要 性を調査した研究(松宮 2015 ) ,地域におけ. 2. 方 法. 2 . 1 質問紙調査項目の設定方法. る喫茶店がソーシャルキャピタルに与える多様.  計 2 回の質問紙調査項目は,参加者の教室に. な効果を検討した研究(田中・梅崎 2012 )は,. 対しての印象と心身の変化をみるため,教室の. 喫茶店の地域における活用例を各視点で考察し. 善し悪し,心身の変化や歌声の悩みを共通項目. ている。喫茶店での音楽活用の観点では,ジャ. とした。それ以外は質問紙調査実施時点で筆者. ズ喫茶の歴史に関する研究(細川 2007 ) ,演. が参加者から聞き逃していた情報や教室運営の. 奏の場としての喫茶店と演奏者の思いに関する. 改善のために設定したので,第 1 回目と第 2 回. 研究(種村・小林 2013 )があるが,これらの. 目の項目には異なりがある。両調査に参加した. 研究は主に喫茶店での BGM や演奏を概観した. のは 26 名(女性 24 名,男性 2 名)であり,ど. ものである。. ちらか 1 回だけの参加者は 3 名(女性 1 名,男.  中高年者に関する研究では,食生活とメンタ. 性 2 名)である。. ルヘルスの関連性(福士他 2015 ) ,中高年向 け健康弁当の開発(群・蒲・瀬戸他 2015 )等,. 2 . 2 喫茶店の詳細と告知方法. 健康面における研究が多い。これは,中高年が.  本研究における喫茶店は岡山県に位置し,癒. 直面する老化との対峙によると推察される。本. しの空間を提供するために作られた。客層は中. 研究のように中高年者が歌唱活動で心身に何ら. 高年女性が大半で,来客目的は友達との会合が. かの変化を感じることは,健康に関する研究と. 最多であり,営業時間は 9 ∼ 21 時,混み合う. も通ずる。. 時間帯は 10 ∼ 14 時で,5,6 割が常連客である。.  うたごえ運動の研究も多い(河西 2013;神. 歌唱教室の告知方法は,開講 4 か月前の家電量. 長 2012;門奈 2012 )が,歌唱活動参加者の. 販店や食料品店,喫茶店店内でのポスター掲示. 変化には着目していない。社会や思想と歌唱活. で,ポスターには名称,実施日時,料金,対象者,. 動の研究では,集団歌唱やダンス活動での向社. 定員,場所,目的を記載した。. 会的特性との関係に関する研究(山崎 2015 ) , 農民音楽に関する研究(太田 2006 )があるが, 歌唱活動での人々の交流といった社会性に着目 68  音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019. 2 . 3 歌唱教室の概要  表 1 は歌唱教室の概要である。.

(4) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. ハッハー」と言葉を乗せる) ,ビブラートとノ. 表 1 歌唱教室の概要. ンビブラート(アの口で同じ高さの音を伸ばし ながら喉や腹筋を使って声にビブラートをつ け,後半にノンビブラートで伸ばす) ,レガー ト(ドソドの音形に合わせていずれかの母音で 音をつなげるように滑らかに歌う) ,ロングトー ン(パ行やカ行等の発音しづらい音を用い,ド レミファソの音形で,最後の音を 8 カウント伸 ばす) ,声の切り方(講師が手で声の大小コン トロールの指揮をし,声を切るタイミングも示 す)等がある。支え,呼吸,ビブラートも回毎. 2 . 4 実践内容. にポイントを絞って行う。ウォーミングアップ.  表 2 は歌唱教室の内容と進行である。講師が. 終了後,歌唱に入る。. ピアノ伴奏をする。.  ④と⑥の歌唱曲は月ごとに選曲し,曲は主に リクエスト曲で,1 曲は必ず季節を感じる唱歌. 表 2 歌唱教室のプログラム進行例. や童謡を入れる。これは,季節感を取り入れる 意図の他,周知の曲を皆で歌うことでの一体感 も含む。多ジャンルで緩急を意識した曲の構成 にする。参加者による急なリクエストにも対応 する等臨機応変に行う。曲の年代,作詞者名, 作曲者名,歌手名,曲の背景は,歌唱前に伝え ることもあれば参加者に尋ねることもある。曲 によってはシンコペーションの多い曲や弱起で 始まる曲があり,歌唱時にリズムが遅く緩くな  開始前に参加者が来店した時点で水と茶菓子. りがちだが,各小節の拍を縦に感じる等の方法. を振る舞い,歌詞カードを配布する。次に①の. を示すことで改善できることが多い。言葉の頭. 軽い話題でニュースや曲目を伝え,②のウォー. の明確な発音,鼻濁音の口の開け方,ポルタメ. ミングアップの準備体操として,手を広げて周. ントの箇所等注意点を伝える。曲によって,歌. 囲に接触しない位置までの移動を指示する。体. 唱に集中する曲,楽器や手拍子,ステップを取. 操は,歌唱に必要な筋肉を鍛えるものや体ほぐ. り入れて曲のリズムを体で感じる曲,エクササ. しになるもので,飽きのこないよう数十種類. イズを兼ねて曲に合わせて動きを取り入れる. から何種類か選択して行う。体操には,指回. 曲等の変化をつける。⑤の休憩時には懐かし. し,表情筋刺激,首回し,肩回し,片足バランス,. い BGM を流し,ティータイムや他の参加者と. 前屈,上体そらし,ゴリラ体操,四股踏み,軽. の団らん等各自が自由に過ごす。⑦の最後の歌,. いジャンプ,肩甲骨伸ばし,肩の上げ下げ,深. ⑧次回予告で終了となる。. 呼吸等がある。③の発声練習は,頬を高い位置 にして支えを意識し,目を通常より開く等声が. 2 . 5 歌唱教室参加人数の推移と参加者の声. 響きやすい表情にする。発声練習には,スタッ.  参加者数は,初回が 5 名と開講可能な最小数. カート(ソファミレドの音形に「ワッハッハッ. であったが,その後,午前午後ともに増加して. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019   69.

(5) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. いった。最終回の登録者数は,午前 20 名午後 22 名の計 42 名となった。歌唱教室参加者から. 3 . 3 調査内容. 「曲の注意点やポイントを詳しく解説してほし.  第 1 回目の質問紙調査は,歌唱教室開始後. い」 「ブレスのタイミングを知りたい」 「カラオ. 11 ヶ月経過時に実施した。質問項目を表 3 に. ケで声がつぶれるのを防ぐ方法」等の要望や相. 示す。. 談があり,それらに対応したところ, 「歌唱方 法や技術を教えてもらった方が,やりがいがあ. 表 3 第 1 回目質問項目. る」といった感想があった。午前にはカラオケ 大会を数回行い,午後には 3 時間に及ぶ歌声発 表会を行った。その結果, 「目標ができた」と 好評で喫茶店での活動以外でも精力的に歌の練 習を行い,歌唱活動は参加者の生活に浸透して いった。午前の部に初回から参加していた姉妹 は,教室参加当初から人前で歌うことを拒絶し 続けていたが,2015 年 8 月 27 日のカラオケ大 会では互いにマイクをもって歌い, 「いい雰囲 気に飲まれて歌えるようになった」と語ってい た。. 3. 第 1 回目質問紙調査結果. 3 . 1 調査方法 調査日:2014 年 9 月 25 日(木) 対象者:歌唱教室登録者のなかから,質問紙調 査当日の参加者( 50 代から 80 代) 目 的:参加者各自が歌唱教室に参加すること で感じる心身への変化を明らかにする。 形 式:複数択一方式,5 件法,自由記述,無 記名,回収率 100%,回答者数:27 名 (女 25 名,男 2 名). 3 . 2 倫理的配慮. 3 . 4 結果と考察  質問 1 では,歌謡曲 81%,唱歌 67%,演歌 59%,童謡 52%,その他はイタリア歌曲 19%, 聖歌 15%,ジャズ 15%,シャンソン 15%とな り,歌謡曲,唱歌,演歌,童謡の 4 ジャンルは 人気が高く,他は少数であった。今回の調査で.  喫茶店関係者には調査内容を説明し,発表. は曲自体の調査には至らなかった。質問 2 では,. 及び公表への了承を得た。研究の協力は任意. 独唱が 16%なのに対し,合唱は 58%と多かっ. で,個人を特定できないように配慮して表記し. た。少数での歌唱は個人の声が目立つため「形. た。なお,2 回目の調査でも同様の配慮を行っ. 態に慣れていない」という意見があった。また,. た。2 回目の倫理的配慮事項の記載は省略する。. 合唱の選択が多数の理由に,若い頃に合唱団に 入団していた者が数名いることが挙げられる。. 70  音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.

(6) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. 質問 3 の喫茶店での歌唱については,100%が 「非常に良い」 「良い」と回答し,質問 4 の歌う. から,歌唱の楽しみと発声や歌唱の技術の改善 欲求,歌唱の上達意欲がうかがえた。. こと自体についても 100%が「体に良い」と回 答した。質問 5 の歌う前の体操も 92%が「非常 に良い」 「良い」と回答し,残りの回答は「ふ つう」であった。質問 6 の歌唱教室に参加した 感想は,100%が「非常に良い」 「良い」と回答. 4. 第 2 回目質問紙調査結果. 4 . 1 調査方法. した。質問 7 の歌唱教室参加後の精神面やその. 調査日:2016 年 2 月 25 日(木). 他の変化は,77%が「非常に良い」 「良い」と. 対象者:歌唱教室登録者の中から,質問紙調査. 回答し, 「ふつう」は 15%, 「無回答」は 7%であっ. 当日の参加者( 50 ∼ 80 代). た。つまり,大半が喫茶店という場での歌唱活. 目 的:歌唱教室に継続して参加することでの. 動に満足し,歌唱教室への参加に前向きな姿勢. 意識や感じ方の変化と,今後の目標を. をもち,歌うことが体に良いという認識をもつ. 調査する。. ことが確認できた。喫茶店での歌唱教室参加者. 形 式:2 件法,5 件法,自由記述,無記名. は任意で参加していることから,活動に肯定的. 回収率: 100 %, 回 答 者 数:28 名( 女 24 名,. な者が集まっていることが推察できる。質問 8 の参加動機は,仲間との交流や楽しみで参加等 の精神面( 23 件)と健康に良い等の身体面( 5. 男 4 名). 4 . 2 調査内容. 件)に集約できた。前者は「楽しみ」 「昔の回.  第 2 回目の質問紙調査は,歌唱教室を開始し. 顧」 「交流」 「歌が好き」の 4 項目に分類でき, 「歌. て 2 年が経過した時点で実施した。質問 1 ∼ 3,. が好き」は 3 件に留まったことから,歌唱教室. 5 の内容は,経過を知るために前回と同様にし. は主に交流の場と位置づけられる。質問 9 の歌. た。質問項目は表 4 の通りである。. 唱教室参加後の意識変化は,大半が積極的な姿. 表 4 第 2 回目質問項目. 勢の表れた回答であった。  記述内容には, 「楽しい」 「前向き」や, 「歌 うことで気持ちがすっきりし,体に良いことを 実感できた」等の回答があった。これらから, 歌の心身へのポジティブな影響を参加者が自覚 していることが明らかになった。質問 10 の歌 声の悩みの回答には, 「充分に声が出ない」 「腹 式呼吸がうまくできていない」 「おなかの底か ら出せるように頑張っています」 「音域が狭い」 「低音が出づらい」 「声が出ない」 「低い声が出 にくい」 「声が固いので,柔らかい声を出すに はどうしたらいいか」 「高い声が出づらいのと 長く歌うとかすれてくる」 「今は楽しく歌わせ てもらうのが一番」があった。歌声の悩みは,. 4 . 3 結果と考察. 「音域が狭い」 「低音が出にくい」 「声が出ない」.  質問 1 の歌唱教室に参加した感想は,93%が. 等が呼吸法と声域の 2 点に集約できた。これら. 「非常に良い」 「良い」と回答し, 「ふつう」は 7%. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019   71.

(7) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. であった。この質問は第 1 回目の質問 6 と同様. 表 5 参加後の意識変化. だが,前回と比較すると「非常に良い」と回答 した割合が 78%から 64%と減少した。これは, 2016 年 2 月の調査時に,2 ヶ月後の 4 月に行っ た発表会の準備のために,楽しむ歌唱から発表 のための歌唱に移行したため,人前で歌唱する ことに慣れていなかった参加者が少なからずス トレスを感じていたことが影響している。質問 2 の歌唱教室参加後の精神面やその他の変化は, 93%が「非常に良い」 「良い」と回答した。 「ふ つう」 「あまり良くない」は各 4%であった。こ の質問は第 1 回目の質問 7 と同様だが,前回の 「非常に良い」 「良い」77%に比べて割合が増加 した。ここから,歌唱教室への参加を前回から 1 年継続したことで,精神面の変化を意識する 者が出てきたと考察する。 「良くない」と回答 した者もおり,回答には差がある。また,質問 2 の自由回答に, 「とても前向きになった」 「歌 うことが楽しい」 「友達がたくさんできた」等. ある」 (p. 66 )という。他者とともに歌うことで,. の前回と同様の回答以外に, 「心が安らぐ」 「月. 参加者に一人で歌うのとは異なる変化をもたら. に 1 回が待ち遠しい」 「生活する上でハリが出. したのである。また,第 1 回目の回答と比較す. た」 「日常的に歌に関心をもつようになった」. ると歌うことが生活に徐々に浸透し,中高年者. 「歌を覚えられる」等があった。歌唱を通して. の生活を活性化していることが明らかになった。. 精神面の安定,日常生活での歌への興味関心と.  質問 3 の歌声についての悩みや思っているこ. いった何らかの意欲を感じていることが明らか. とは, 「悩みがある」が 43%, 「悩みがない」が. になった。とくに, 「 1 ヶ月に 1 度の歌唱教室が,. 54%, 「無回答」が 4%であった。前回の質問. ウキウキと楽しみ」 「月に 1 回のこの会をとて. 12 と同様の質問の具体的な悩みは, 「お腹の中. も待ち遠しく思っている」の回答から,日々の. からのびのびと声が出せたらいいなあと思う」. 生活に歌唱活動が浸透してきたことがうかがえ. 「高音が出にくいことと声がかすれること」 「上. る。 「いろいろな歌を覚えられ,人前で歌うの. 手にならない。声の変化が出ない」 「年と共に. が平気になった」 「生活する上でハリができた」. 高い音が出にくくなる」 「声が長く続かない」 「裏. の回答(表 5 )も,他者との歌唱活動での変化. 声になる」 「音が出せない」 「音域が狭い」 「普. であろう。. 段大きな声で歌わないので,声が出なくなって.  中( 2011 )は,ブロンデル 3 )における「行為」. いる」 「数曲歌うと声がかすれ,低い音が出な. について, 「われわれの行為はわれわれのもの. くなる」 「出だしの音程が不安定」が挙がった。. だけのものではなく,それは共行為によって,. 前回の呼吸法と音域の悩みに加え,音程,表現. われわれには異他的な諸機能を引き起こすので. 力,声の種類等の新たな悩みが出現していた。. 3 )Blondel, Maurice( 1861 1949 ) :フランスのカトリック哲学者. 72  音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.

(8) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. これらは消極的思考とも感取される。しかし,. これらは参加者自身が,歌唱活動を継続するに. フッサール 4 ) ( 1975 )の「行動が前進するにつ. つれ,歌うことや声そのものへの新たな気づき. れてしだいにみたされて,最初のたんなる目標. があり,歌うことや声への意識の変化を自覚し. 設定から目標達成へと変化していく」 (pp. 187. ている証拠であり,活動を通して向上心が生ま. 188 )に着目すると,新たな悩みの出現は,声. れたと捉えられる。さらに,参加者が自身の歌. を客観的に聞き,解決するという目標に変化し. 声を分析し,歌声をよりよくしたいという気持. 得る。質問 4 の今後の歌唱活動継続意欲は, 「非. ちが表れたと読み取れる。質問 6 の今後の希望. 常にある」 「ある」が 89%であり, 「ふつう」は. 内容は, 「今まで通りで楽しい」 「腹式呼吸の方. 4%, 「無回答」は 7%であった。この調査後に. 法」 「 2 部合唱や輪唱等の実施」 「唱歌,クラシッ. 継続の意向を聞いたところ全員継続を希望した. ク」が挙がった。腹式呼吸が健康に良いという. ことから, 「無回答」に継続を希望しない者は. 考えの定着による生活への歌唱の浸透や,学生. いなかったことが明らかになった。参加当初に. 時代や社会人合唱団で歌った歌だけではなく新. 実施した質問紙調査で,歌の目標の質問への回. たなジャンルに挑戦するという参加者の考えは,. 答は, 「お腹が使えるようになりたい」 「低音を. 歌唱教室運営の重要な知見となった。. 伸ばしたい」があった。しかし,歌唱教室 2 年 経過時に行った同様の質問である質問 5 の回答 には「音域の幅保持」や「歌の意味を表現でき るようになりたい」等,音程,音域,声量,響き, 表現力,声の種類等の多様で具体化した目標が 多くみられた(表 6 ) 。. 5. おわりに.  本研究の質問紙調査結果は以下に集約できた。 ① 参加者は,歌謡曲,唱歌,演歌,童謡の 4 ジャンルを好む傾向があった。 ② 参加動機は,仲間との交流や楽しみであっ. 表 6 今後の目標. た。 ③ 教室に参加することで前向きになる等の心 身の良好な変化を感じ,日常生活でも歌に 興味関心を示す等何らかの意欲を感じてき ていた。 ④ 歌唱を通し,歌唱技術の自己課題を認識し, 多様な曲を歌いたい等の願望が生じていた。 ⑤ 歌唱活動によって参加者は,新たな目標を もち始めていた。  調査結果から,歌唱によって人が前向きにな る変化や他者交流への発展が顕著となった。  また, 「最近の流行歌」 「ジャズ等の新たなジャ.  また,歌唱教室の実践過程である歌唱教室開. ンルへの挑戦」 「歌の意味の表現」 「高音が出る. 始時の 2014 年 2 月の初回から 2017 年 11 月の. ように」 「声域保持等の技術面のこと」 「年を取っ. 通算 3 年 9 ヶ月において参加者個々人の変化も. ても楽しく歌えるように」等,先を見据え,人. 多くみられた。例えば,自宅で音楽を聴くこと. 生を通して歌と関わる目標をもち始めていた。. がなかった者が CD を買ってそれに合わせて毎. 4 )Husserl,Edmund Gustav Albrecht( 1859 1938 ) :オーストリアの哲学者,数学者 Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019   73.

(9) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. 日歌い,次に歌いたい曲を考えるようになった。. 流を深められる憩いの場ともなるであろう。歌. 人前で歌う自信のなかった者が日々歌の個人練. 唱活動による参加者の意識変化は他の活動でも. 習を重ねて老人ホームで歌を定期的に披露する. 起こり得るが,本研究での喫茶店という異空間. ようになった。さらに,積極的に地域活動に参. の活用は,従来の歌声喫茶とは異なる独自の歌. 加してうたごえ広場を主催する者も現れた。時. 唱活動例 5 )となった。今後は,地域住民の交流. が流れて現年齢になった参加者は,青春時代に. を深めるような地域に根ざした活動へとさらに. 流行した曲を中心に歌ってその時代の思い出を. 浸透できるよう,多様な歌唱活動を展開してい. 取り戻し,他者とともに歌うという相互行為を. く。そして,中高年者の他者とともに歌う活動. 重ねて生きる活力を見出していた。これらは,. を多様な形で実践し,生活創造の過程や歌唱活. 他者の存在により生じた現象である。人ととも. 動のもつ社会的文化的な専門的知見を明らかに. に歌い声を重ね合わせる相互行為は,他者と時. していく方針である。これからも,多様な場所. 間/空間を共有することである。参加者同士が. を活用した地域住民の社交場となる独創的な活. 多様な形で関わり合い,互いに関心や意欲を引. 動が発展的に行われることを期待したい。. き出し,新たな行動を連鎖していく。それら一 連の関係性は,中高年者に生きる力や生活を明. 【謝辞】. るくする力を引き起こさせるとともに老いとい. 喫茶店の経営者,歌唱教室関係者に多くのご協. う孤独を解放へと導き出す。本研究における活. 力を賜り,ここに厚く御礼申し上げます。. 動は,参加者の意識変化をともないながら生活 を創造していく活動であり,生涯発達(lifespan. 【引用・参考文献】. development theory) (堀 2010 )やサード・. 太田峰夫( 2006 ) 「イデオロギーとしての『農民音楽』. エイジ(third age) (柴田・長田・杉澤 2007 ). ─バルトークの民謡研究と文化ナショナリズムにつ. として中高年者を元気づけて活性化し,生活に. いて─」 『美学芸術学研究』25,pp. 1 34 .. 彩を加え,エネルギーの源となる活動である。 中高年者が仮に年を重ねることに漠然とした不 安を抱いていたとしても歌唱活動がそれを払拭 し,生きる糧の 1 つとなる。. 片桐早紀( 2015 ) 「ジュークボックスによる音楽聴取 の様相 ─ 1960 / 70 年代日本の喫茶店を事例に─」 『マス・コミュニケーション研究』87,pp. 157 175 . 神長英輔( 2012 ) 「うたごえ運動とは何か ─ミーム学.  本研究の課題は,筆者の一人称での事例によ. の視点から考える─」 『新潟国際情報大学情報文化学. る客観的視野の不足と同様の活動との共通点や. 部紀要』15,pp. 1 14 .. 相違点の曖昧性である。  今回は,中高年者の歌唱活動実践の場として, 公民館講座やアマチュア合唱団とは異なる喫茶. 河西秀哉( 2013 ) 「うたごえ運動の出発 ─中央合唱団 『うたごえ』の分析を通じて─」 『神戸女学院大学論 集』60,pp. 75 91 .. 店という場を活用した研究を報告した。喫茶店. 群俊之・蒲尚子・瀬戸ゆかり・寺下降夫・白坂憲章・. で歌うことは,社会的共同的意味合いをもちな. 川田正敏・川西秀紀・川西孝彦・稲冨聡( 2015 ) 「き. がらも和みや癒しを得られる点で,日常の喧騒. のこを利用した中高年向け健康弁当の開発モデル」. を忘れられる利点があると考察する。喫茶店は 地域の幅広い年代の住民が気軽に足を運べて交. 『日本きのこ学会誌』23,pp. 97 107 . 古茂田信男他( 1980 ) 『日本流行歌史・戦後編』社会. 5 )従来の歌声喫茶はその場で選曲されて斉唱するので,本研究の活動とは歌唱指導,体操,発声練習,エクササイ ズ等が無い点で異なる。. 74  音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.

(10) 喫茶店での中高年者向け歌唱活動の実践. 思想社.. 細川周平( 2007 ) 「ジャズ喫茶の文化史戦前篇 ─複製技. 柴田博・長田久雄・杉澤秀博編( 2007 ) 『老年学要 論 ─老いを理解する─』建帛社.. 術時代の音楽鑑賞空間─」 『日本研究』34,pp. 209 248 .. 瀬沼克彰( 2010 ) 『高齢者の生涯学習と地域活動』学 文社.. 堀薫夫( 2010 ) 『生涯発達と生涯学習』ミネルヴァ書房. ホルツマン,ルイス( 2014 ) 『遊ぶヴィゴツキー ─生. 園部三郎( 1977 ) 『日本人と音楽趣味』大月書店.. 成の心理学─』茂呂雄二訳,新曜社.. 高橋源太郎・松本優・金澤貴之他( 2015 ) 「地域の資. 松宮朝( 2015 ) 「結節点としての喫茶店 ─愛知県長久. 源を活用した教育活動に関する実践的研究 ─特別支. 手市喫茶店来客者調査から─」 『愛知県立大学教育福. 援学校高等部生徒が地域で喫茶店を開く取り組み─」. 祉学部論集』63,pp. 75 88 .. 『群馬大学教育学部紀要.人文・社会科学編』64, pp. 93 101 .. 丸山明日香( 2002 ) 『歌声喫茶「灯」の青春』集英社. 門奈由子( 2012 ) 「 1950 年代後半の『うたごえ運動』. 田中瑞季・梅崎修( 2012 ) 「地域コミュニティにおけ. ─『うたごえ新聞』にみる『音楽の体験』─」 『日本. るソーシャルキャピタル ─神楽坂地域の喫茶店を事. 女子大学大学院人間社会研究科紀要』18,pp. 19. 例にして─」 『地域イノベーション』5,pp. 9 20 .. 30 .. 種村剛・小林泰名( 2013 ) 「演奏する場としての喫茶 店 ─札幌のムジカホールカフェを事例として─」 『事 前人間社会』55,pp. 95 133 .. 山崎晃男( 2015 ) 「集団による歌唱・ダンス活動と向 社会的特性との関係およびその教育的意義について」 『大阪樟蔭女子大学研究紀要』5,pp. 35 42 .. 戸ノ下達也( 2016 ) 『 〈戦後〉の音楽文化』青弓社. 長木誠司( 2010 ) 『戦後の音楽 芸術音楽のポリティ クスとポエティクス』作品社.. 山中雅大( 2015 ) 「喫茶店の大衆化過程における学生 の利用状況 ─昭和初期の学生に関する記述を手掛か りに─」 『コミュニケーション科学』42,pp. 27 55 .. 中敬夫( 2011 ) 『行為と無為 ─《自然の現象学》第三 編─』萌書房.. 【URL】. 福士一恵・鈴木純子・大塚吉則・大久保岩男,清水 真理・白幡亜希・松下真美・百々瀬いづみ・山口敦 子・梅澤敦子・小林良子・斉藤昌之・久保ちづる・ 古川直美・峰岸夕紀子・武蔵学・森谷キヨシ「青年 と中高年における食生活とメンタルヘルスの関連性」 『天使大学紀要』16,pp. 1 19 .. 喫茶 acacia http://members 3 .jcom.home.ne.jp/acacia/ ( 2014 / 12 / 11 にアクセス) ともしび http://www.tomoshibi.co.jp( 2014 / 12 / 11 / にアクセス) 内閣府『平成 25 年度高齢者の地域社会への参加に関す. フッサール,エドムンド・グスタフ・アルブレヒト ( 1975 ) 『経験と判断』長谷川宏訳,河出書房新社. パーチ,エンツォ( 2011 ) 『関係主義的現象学への道』. る意識調査結果概要版 http://www 8 .cao.go.jp/kourei/ishiki/h 25 /sougou/ gaiyo/index.html( 2014 / 12 / 18 / にアクセス). 上村忠男訳,月曜社.. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019   75.

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