教職大学院の学修成果を活用した実践報告 ― 教育相談を契機とした小学校における協働的な学級経営の試行的実践 ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第8号. 教職大学院の学修成果を活用した実践報告 ― 教育相談を契機とした小学校における協働的な学級経営の試行的実践 ― 深 見 智 一*. 1 はじめに 2008(平成20)年4月に開設された教職大学院は、 「地域や学校における指導的役割を果たし得る 教員等として不可欠な確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えたスクールリーダー(中核的中 堅教員)の養成」を目的として、現職教員のリカレント教育を担っている。教職大学院は、 「理論と 実践の往還」を掲げており、 理論を生かした学校現場での実践に重きを置いた教育課程となっている。 その一例として、実践に基づいた事例研究、学校現場における授業観察・分析やフィールドワークな どの実習が挙げられる。 教職大学院への入学目的は院生それぞれで異なるが、現職教員院生に限れば、主に都道府県教育委 員会からの長期派遣研修という形態で入学する院生と、 大学院就学休業制度を利用して入学する院生、 自校に勤務しながら長期履修制度を利用して入学する院生に大別することができる。教職大学院は修 士課程とは異なり修士論文が課されない特徴を有しているが、教職大学院での学修成果(とりわけ修 了研究1)について言及され、なおかつ修了後の実践について報告されている先行研究として、前田・ 箭原(2016)、小林・村田・鈴木(2016) 、伊藤(2016) 、深見(2017)などが挙げられる。 本稿では、教職大学院の学修成果を活用した実践として、教育相談を契機とした小学校における協 働的な学級経営の実践を報告する。一学年一学級の単学級小学校の学級担任(以下、単学級担任)と して、単学級担任特有の課題を克服するために、教職大学院での学修成果、とりわけ、先行研究の検 討・フィールドワーク・異校種の現職教員院生との交流を通して行われた「省察」が生かされた事例 を報告する。. 2 教職大学院での学修成果 1)単学級担任の職務上の課題に着目した理由 単学級小学校は、文部科学省(2015)のいわゆる「学校統廃合の手引き」で、 「統合の適否を速や かに検討する必要がある」対象とされているが、筆者自身は新採用後7年間、単学級小学校で通常学 級の担任として勤務していた。着任当初は、学級が機能しない状況を経験し、管理職や初任者指導教 員、先輩教員等からの指導を受け、自らも研修会に参加したり、書籍を購入したりするなど自助努力 をしていた。その後、前年度に学級が機能しない状況にある学級や個別に配慮を要する児童が多い学 級を担任することが増えたが、経験を重ねるごとに学級経営が順調にいっていると感じることが多く なった2。一方で、教職観が固定化され、自分の実践での経験から導き出した実践知に疑問を感じに ───────────────────── *. 鶴居村立幌呂小学校教諭(北海道教育大学教職大学院 2014年3月修了生). 59.
(3) 深 見 智 一. くくなることを不安に感じ、学問知による理論的な裏付けが必要であると感じた(Korthagen 2010)。このことが教職大学院入学の一つの契機となり、その後の単学級担任の職務上の課題につい ての研究につながった。 単学級担任の職務上の課題に着目するもう一つの契機としては、教職大学院入学後の「リーダー力 育成基礎実習Ⅰ」が挙げられる。本実習は、 学校現場の課題に対して、 組織の「協働遂行力」を育て、 常に学校経営的視点から具体的な解決策を講じ、研究的視点から検証する力を育成することを目的と していた。筆者は、単学級小学校において主担当として取り組んだ校内研修をテーマとしてレポート を作成し、その後、指導教員からの指導や院生との交流を通して省察を深めた。これまで、単学級の 小学校には教職経験年数が低い教員が多く勤務する傾向が見られた。 そのような学校の校内研修では、 事後の授業研究会に重点を置いた取り組みをすることで教員一人一人の授業改善への意識が向上する こと、学期に1回程度の研究・公開授業を契機として、閉ざされがちな学級が開かれていくというこ とを学ぶことができた。また、単学級担任の職務上の課題があるならば、従来取り組まれてきた仮説 検証型の校内研修だけではなく、学級経営や授業技術などに焦点化した校内研修の在り方を検討して いく必要があるという課題意識を持つことができた。 「理論と実践の往還」を掲げる教職大学院では、理論に基づいて実践を再構築し、その実践をさら に検証していくことが期待されていることから、本研究の場合は理論(解決策)を構築するには、ま ずエビデンスが必要であり、そのためには、単学級担任の職務上の課題を明示する必要があった。 2)先行研究の検討 指導教員(津田 順二 教授)との「事例研究」 (いわゆる「ゼミ」 )で文献調査の重要性について指 導を受けていたこともあり、まずは単学級担任に関する研究がこれまでどのように行われてきたのか を検討した。第一に、少人数ゆえに固定化した人間関係を広げるための効果的な指導法を検討する研 究、第二に、小規模校の特性を生かした教育課程の編成に関する研究、第三に、単学級の小学校を統 廃合する際の諸条件を検討する目的の研究が行われてきた。筆者の関心に近いものとしては、単学級 小学校の若手教員の力量形成の在り方や学年経営上の課題を明らかにしていた研究(熊木 2010)が 報告されていたのみである。学級経営や学級担任についての書籍は数多くあるが、単学級担任の職務 上の課題に触れられているものは管見の限りは見当たらなかった。 3)フィールドワーク そこで、客観性のある資料に基づいて職務上の課題を明らかにするために、指導教員の指導を受け て、筆者が勤務していた北海道東部地域の小学校の単学級担任にアンケート調査を実施した(深見 2013)。その結果、単学級担任の職務上の課題として、 ・学年団がないことによる相談機能の弱さ:学級経営上の課題(児童の生徒指導上の課題、保護者 対応)を気軽に相談する相手がいない。 ・分担が難しいことによる仕事量の多さ:学校行事に関わる企画・準備・運営・反省を一人で行う 必要がある。 ・業務の困難さについての若手教員と中堅・ベテラン教員の意識の差:自分の指導がこれで正しい のかを相談したい若手と、学年で同一歩調をとる必要がなく自由に学級経営ができる良さを感じ る中堅・ベテラン教員とで学級経営の困難さについて認識の違いがある。 があることが明らかになった。 一般的に学級経営は、学校の教育目標や学年目標の実現を目指して行われる教育活動である。学校 60.
(4) 教職大学院の学修成果を活用した実践報告. 組織の基本単位としての位置づけがありつつも、実際には各学級担任が児童生徒の実態に即して担任 独自の教育観を生かした活動を行う活動でもあり、 個性的な部分も兼ね備えている。榊原(2000)は、 小学校における学年経営は、学級担任の個業的職務や自律性ゆえに、学級間の連絡調整機能、身近な 同僚同士での補助助言機能に限定されがちであると指摘するが、そのような機能こそが単学級担任に は必要とされていると考えた3。 職務上の課題解決のための試行的実践として、同時期に実施された「リーダー力育成基礎実習Ⅱ」 において、筆者がメンターとなり、教員経験年数の低い単学級担任へのメンタリングを行った4。つ い数年前まで同じような悩みを抱えていたメンターが解決方法を例示することで、メンティが抱えて いた「発問・指示の明確化」 「学級運営上の課題」について改善を図ることができた。一方、教職大 学院の実習期間中で時間的な余裕があったからこそメンターになれたことや、適切な相談相手が必ず しも同じ職場内にいるとは限らないことなど、時間的・人的な制約から継続性に課題が残った。 4)異校種の現職教員院生との交流 共に学んだ現職教員院生との正課内外での交流は、学級経営について多面的・多角的に考える契機 となった。教職大学院入学前の7年間の単学級担任経験で、5年目までは高学年担任を連続して経験 したため、担任一人で児童を指導することを当然と考えていた。後半の2年間は、特別支援学級の児 童の交流学級となっていたため、特別支援学級担任との連携の機会はあった。しかし、それまでの間 に単独で指導することに慣れてしまっていたため、事前の相談や確認が不十分なことがあったり、同 じ学年の児童の指導に共に当たっているという学年経営の意識が希薄であったりした。それで、異校 種の現職教員院生の学級経営への考え方に触れることは、それまでの間、児童に対しても同僚に対し ても独善的な学級経営を行ってしまっていたのではないかと顧みる良い機会となった。 新たに得られた視点の第一は、中学校や高等学校では、学年主任のリーダーシップのもとで、学年 団で生徒を指導し学級を経営するという意識が強いということである。 例えば、学年主任だったA先生(中学校)は、学校行事である体育祭を学級担任兼学年主任として どのように運営していくかという視点で事例発表をしていた。 「学年団の教師で、生徒の良さを認め る指導」を統一することや、学級経営を軌道に乗せるための指導をするよう学年主任として学年団に 働きかけることを行っていた。自身は「学校行事が教師の腕の見せ所」であることを自覚して学級を 指導しつつも、学年の他の複数の学級担任を担任経験年数に合わせて指導し、それぞれの担任が結果 を残すことができるように事前に計画的な助言を行っていた。力量や仕事量の差を互いに補い合った り、複数の教員で生徒の良さや努力を認め、不満や言い分を受け止めたりするという学年団の「組織 の良さ」が感じられる実践であった。 これまでの筆者の単学級担任の経験では、担任の指導によって生き生きしている児童とそうではな い児童が学級にいることを何となく感じることが多かった。 「違う先生が担任であれば、この子の良 さはもっと伸びただろう」と思うことがあり、実際に次の担任の下では生き生きしていたという児童 もいた。単純に複数学級であれば必ずできるということではないが、異なる視点をもった複数の教員 で児童を指導することができればと感じることもあった。また、自分の学級のことが優先となり、交 流学級で共に学習する特別支援学級担任や特別支援学級児童への配慮が足りないことが多くあったこ とを痛感させられた。 A先生の事例から、中学校では、教科担任制と学年・学級経営が交差すること、生徒指導や進路指 導などがあるため、 学級を超えた意思決定がより必要となることから、 学年経営に対する意識が高く、 学年主任のリーダーシップの重要性が高いということを理解することができた。 61.
(5) 深 見 智 一. 新たに得られた視点の第二は、学年団での学級を超えた協調性についてである。 例えば、学年主任や生徒指導主事の経験が豊富なB先生(中学校)は、他の生徒と自分を比べて自 信をなくしてしまう多感な時期の中学生の個性をどのように引き出していくのかを事例として発表 し、「ほとんどの学級活動を(学年で)歩調を合わせて行うことができた」のは、 「たまたまパワーの あるスタッフに恵まれ、同意を得られたからにちがいな(く) 、環境が変われば全くできないような 無茶な実践」と振り返っていた。しかし、発表からは生徒の自己肯定観の高さや主体的な進路決定な ど、目に見える成長・成果が見られる実践であった。A先生と同じく、 学年団の構成メンバーを考え、 協調しやすいように学級担任の意向を踏まえて学年団としての統一した方向性を示していた。そうす ることで、学級や教科の壁を越えた調和のとれた学年経営が行われていた。 これまでの筆者の単学級担任の経験では、5年生と6年生の担任の教育観や学級経営の方針の違い から、例えば、昨年度の6年生は行ったが今年度の6年生はやらない、6年生では禁止されているが 5年生では許可されているなど、児童ですら感じるルールや生活の仕方の違いが多く見られ、教師側 は、 「学年によって発達段階が違うからそのようなこともある」という理解で済むが、児童の視点に 立つと「〇〇先生はこうなのに・・・」という見方になり、学級担任への不満につながっていること も時折耳にしていた。 B先生の事例から、生徒の良さを発見するだけではなく、学年団の先生方の個性を把握し、それを 学年経営での統一した指導に生かすという視点を得ることができた。一方で、小学校では学年ごとに 発達段階が異なることから、中学校のように教育課題が学年単位でまとまりを持っていないことが協 働の壁となることも考えられた。. 3 教職大学院での学修成果を活用した実践 1)研究の方法 公立C小学校で定期的に行われている「教育相談週間」に合わせて、担任していた第5学年の児童 に対して学級担任以外との教育相談を含めた教育相談(個別面談)を実施した。それにより、単学級 の児童に対する指導を担任を含めた複数の教員で行うことができ、単学級担任の職務上の課題(学年 団がないことによる相談機能の弱さ、分担が難しいことによる仕事量の多さ、業務の困難さについて 若手教員と中堅・ベテラン教員の意識の差)を解消できるか検証するため試行的に実践することとし た。 ・期間 201X年10月~11月 ・場所 北海道東部地域公立C小学校 ・対象者 筆者(単学級担任 第5学年) 、児童27名、協力教員8名 ・研究倫理上の配慮 学校長に研究の趣旨を説明し、事前の許可を受けた。保護者にも周知し、個 人の情報が特定されない形で公表することに同意を得て実施した。 C小学校では、教育相談は年に2回実施され、5月および10 - 11月に実施されていた。2回の実施 のうち、10 - 11月で本研究を試行したのは、5月の段階では、筆者が異動したばかりで学級の児童の 様子を十分把握することができておらず、なおかつ、サブメンターとして誰が適任であるか判断する ことが難しいと考えていたからである。 ここでは、保護者への説明のために作成した学級通信の文面を引用しながら、説明をしていく。. 62.
(6) 教職大学院の学修成果を活用した実践報告. ①目的の説明 学芸会が終了してからのことですので、来週以降になりますが、子どもたち一人ひとりとの教育 相談(今年度2回目)を予定しています。 日頃から、子どもたちの必要に応じて、個別に話し合う機会を設けています。その上で、学期に 1回程度は、少し改まった形で子どもたち一人ひとりと話し合いたいと考えています。学習のこと や友達とのこと、クラスでの生活で困っていることや意見や要望などをすべての子どもたちと話し 合う予定です。 日常から、子どもたちや子どもたちの生活の様子に目ざとくあるように心がけているつもりです。 しかし、教師も(←というか私ですが) 、実はよく知らなかったとか気づいていなかった、見落と してしまっていたということもあります。担任としては、子どもたちとじっくり話すことで、普段 見落としている部分を拾い上げていけるような時間にしていければなと思っています。そうするこ とで、子どもたちの学校生活の満足度がさらに向上すればと考えています。 はじめに、教育相談を行うことの目的を伝えている。C小学校においては、年に2度、Q-Uを実施 していた5。その結果を受けて、不登校やいじめ等の課題を少しでも早く発見し、課題が複雑化、深 刻化する前に指導・対応できるようにするため、また、児童の学校生活の満足度の向上に役立てるた めに、生徒指導部の提案で児童一人一人との個別面談である教育相談が行われていた。 ②方法の説明 今回、初めての試みですが、担任(深見)以外の先生と教育相談をする方法を取り入れます。ま ず、担任以外の相談相手( 「サブメンター」と呼びます。 )と相談することで、子ども自身が普段と 違う見方で自分のことを見直してみたり、担任には直接言いにくいことを相談したりする機会を設 けます。サブメンターとの教育相談終了後に、担任とも一人一人教育相談を行います。2度、教育 相談をするということです。 子どもたちには近日中に、サブメンターとして だれと相談したいかの希望調査をする予定です。 サブメンターとしては、今の時点で次の先生方を 予定しています。 ( )D 校長先生 ( )E 教頭先生 ( )F 先生(教務主任) ( )G 先生(特別支援コーディネーター) ( )H 先生(交流学級担任) ( )I 先生(養護教諭) ( )J 先生(栄養教諭) ( )K さん(心の教室相談員) (週1日の来校) もし、保護者の方が「こういうことが気になっているから、話を聞いてほしい」などの要望があ りましたら、遠慮なく連絡帳などでお知らせください。 前年度担任からの引き継ぎ事項として、学習に集中して取り組むことが難しい児童が多かったこと や学級全体として学力の定着に課題が見られることが引き継がれていた。しかし、筆者としては、学 63.
(7) 深 見 智 一. 級経営上の大きな困難とはなっていなかった。これは、筆者が教職大学院での学修成果として単学級 担任の職務上の課題を把握していたこと、以前にも単学級担任の経験が複数回あったことに加えて、 交流学級である特別支援学級担任と協働的な学級経営ができていたことや、高学年ブロックを形成す る6年生担任と相談し合いながら学級経営をしていたことが理由として挙げられる6。それでも、単 学級担任特有の課題である児童への見方が偏りがちになりやすいことを避けることや複数の教員で児 童を指導することの良さを確かめるために、 このような形で教育相談を実施することにした。そして、 教育相談を契機とし、各学級の学級経営案を検討する「学級経営交流会」 、職員会議で行われる「情 報交流」 、月に1~2回行われる「学年ブロックの打ち合わせ」などを通して、情報交流が活発に行 われることで協働的な学級経営がさらに促進されると考えた7。 希望調査の結果、D校長先生に1名、F先生(教務主任、担任外)に1名、G先生(特別支援コー ディネーター、担任外)に2名、H先生(交流学級である特別支援学級担任)に9名、I先生(養護 教諭)に4名、J先生(栄養教諭)に1名、Kさん(心の教室相談員)に9名を担当して頂くことと なった。 2)結 果 サブメンターの教員からは、紙面もしくは口頭で相談内容について報告を受けた。 「特に何もあり ませんでした」という程度の報告ではなく、児童の交友関係や帰宅後の家での過ごし方、学習での困 りごとなどが詳しく伝えられた。一例として、次のようなメモが挙げられる。ただし、個人情報が特 定されない形にするため一部改変している。 (Hさんと話したこと) 〇Iちゃん、Jちゃん、Kちゃんと特に仲良しの気がする。 〇Iちゃんと服のことをお話しするのが好きらしいです。 △グループ活動で、 L君とうまくいかないことがある。先生に言って大ごとにはしたくないけど…。 言い合いになるとお話をしなくなってしまうようです。 この情報をもとに、後日、メンターである学級担任が児童と詳しく教育相談をすることができた。 この教育相談を行ったことで、学級担任の仕事量自体が直ちに減ったわけではなかったが、児童につ いての情報が多い状態で教育相談に臨めるため、聞きたかったことをすぐに聞けたり、児童の話を長 く聞けたりする利点があった。 上記の例では、サブメンターの先生が〇をつけた箇所については、簡単に話を進めた。一方、下線 が引かれていた部分は、サブメンターの先生に話し合いの時の様子を詳しく伺ったうえで、担任も直 接児童に聞くことにした。その際は、 サブメンターの先生と相談したときのHさんの意向を尊重し「先 生に言ってほしくないとは聞いていたけど、教育相談で話した内容は先生たちとの秘密のことだし、 直接先生がL君に何かを言うことはないから、Hさんが後で困ることはないよ」という約束をHさん とした後に、じっくり話し合うことができた。結果的には、サブメンターと担任が同一歩調でHさん の教育相談にあたっているということをHさんに示すこともできた。 翌日、Hさんの保護者から連絡帳で、 「Hが学校から帰ってきたら、今日は教育相談で深見先生に ゆっくり話を聞いてもらえてスッキリしたと言っていました」という連絡を受けることができ、児童 の学校生活の満足度の向上にも資することができた一例と考える。 筆者自身は、単学級担任ゆえの相談機能の弱さはそれほど感じていなかったが、このような試行的 実践を行ったことで図のような好循環が生まれたと考える(図1) 。①担任以外のサブメンターが教 64.
(8) 教職大学院の学修成果を活用した実践報告. 育相談をする、②サブメンターが相 談した内容の報告を担任に行い、児 童についての情報共有が図られる、 ③メンターである担任が教育相談を 行う、④担任が相談した内容の報告 を再度サブメンターに行い、児童に ついての情報共有が再び図られる。 ここまでは、サブメンターがいる場 合の通常の教育相談の流れである。 加えて、今回の試行的実践のように、 サブメンターの教員を設定すること. 図1 サブメンターとの教育相談を契機とする指導の好循環. で、サブメンターの教員は自分のメ. (筆者作成) . ンティ(児童)に対して意識的に関 心を向けるようになり、⑤休み時間や掃除の時間などで日常的に児童への声かけ・励まし・観察が増 え、⑥児童もサブメンターに積極的に話しかけたり、相談したりするようになる。さらに、⑦サブメ ンターが児童の様子を担任に報告することが増え、⑧その報告を受けて、担任は必要に応じて教育相 談を行ったり、意識的な指導を行ったりできるようになり、⑨担任はそれをサブメンターにフィード バックする。このような好循環が起きることで、 サブメンターを媒介とした児童に関わる情報の交流・ 共有が教育相談前より格段に増えたと言える。 例えば、「M君は、中休みに保健室で一人で本を読んでいました。何か元気がなさそうです」 「掃除 の時間にNさんが床拭きを頑張っていました」 「O君が危険な遊びをしていたので、Qさんが注意し ていました」など、担任が見ていない時の児童の情報が伝えられることで、担任のその後の指導に生 かせたり、担任が気づかない児童の個性が把握できたりする成果が見られた。 サブメンターとの教育相談を実施したこととの因果関係は判断できないものの、教育相談後に実施 した学校評価アンケートでは、 「先生はわたしの話を聞いてくれる」という趣旨の評価項目の数値が 上昇し、児童の学校生活の満足度が向上する効果も見られ、児童の側にも益があったと言える。 なお、今回の試行的実践に携わった教員は、筆者も含めて若手教員はおらず、中堅教員とベテラン 教員であったが、管理職を含め全ての教員から積極的な協力を得ることができた。相談したいが聞い てもらう相手がいないということもなく、むしろサブメンターとなった教員からその後も情報提供が 多くあったことから、業務の困難さについての意識の差は解消されていたと考えられる。. 4 結果と課題 本稿では、教職大学院での学修成果を活用した実践として、教育相談を契機とした小学校における 協働的な学級経営について報告した。教職大学院での学修成果、とりわけ、先行研究の検討・フィー ルドワーク・異校種の現職教員院生との交流を通して行われた「省察」を生かせた実践と考える。 近年、北海道においては、人事異動要綱の改訂に伴い、着任を希望する教員が少ないとされてきた へき地の単学級小学校に初任者が配置されることは少なくなってきた。しかし、町村の中心校が単学 級小学校であることが増え、一定の人口を有する自治体であっても、地区によっては人口減少が急激 に進んだ結果、単学級小学校は増加傾向にある。 65.
(9) 深 見 智 一. 単学級においては、学級経営や生徒指導、保護者対応や学力向上を学級担任が一手に担うこととな り、教育問題の複雑化・多様化と相まって初任者がその役割を果たすことは重責と言える。だからこ そ、チームでの相互支援・連携が必要となり、単学級小学校における複数での指導体制の確立、とり わけ初任者教員や教職経験年数5年以下の若手教員が多い小学校では特に必要である。しかし、現実 に目を向けると、単学級小学校における教員の加配措置はそれほど多くないことも事実である。それ で、本報告で示したような限られた人的リソースを効果的に用いる校内体制を提案・構築することが 現実的と言える。 さて、教職大学院在学中は、講義の振り返り・レポート・実習報告書・MOBなど、学修成果を言 語化することが多く求められ、 理論や先行研究を踏まえて、 これまでの実践を省察する機会が多くあっ た。しかし、学校現場に戻ると、学習指導案の作成や学級通信の発行など、校内研修や授業、学級経 営や校務分掌に関係する文書を作成する機会は多いものの、自身の実践を対象とした省察を言語化す るような機会は意図的に行わない限りはない。せっかく獲得したリフレクションの枠組みが忘れ去ら れ、教職大学院入学前の実践知に頼った教育実践に戻ってしまう危惧を感じる。 日常の教育実践の一瞬一瞬で教職大学院の学修成果が活用されていることを殊更感じるわけではな いが、このような紀要への投稿などの機会を通して、自身の実践を改めて省察することで、教職大学 院在学中の正課内外の学びが生かされていることを感じる。学問知(研究や理論)に興味が向いてし まいがちであるが、大学院での学修成果をどのように学校現場で実践していくか、例えば、どんな授 業を子どもたちにするのか、どんな研修をすると教職員の授業力や協働性が高まるのかなどを検討す ることで、より磨き上げられた知識や理論を生かす実践に役立つ研究を今後も行っていきたい。 謝 辞 本研究にご協力いただいたC小学校の教職員、児童の皆様に感謝申し上げます。なお、本稿におけ るC小学校に係る教職員および児童のアルファベットは、登場する順番に付しており、特定の方を表 すものではありません。 付 記 本研究の一部は、JSPS科研費17H00058の助成を受けたものです。 参考文献 korthagen,F.A.J.(2010) 「教師教育学 理論と実践をつなぐリアリスティックアプローチ」 (武田信子・今泉友里・鈴 木悠太・山辺恵理子訳) ,学文社 伊東大介(2016) 「教職大学院での学びを活かした実践報告:研究主任業務の遂行と校内研究の推進」東京学芸大学 教職大学院年報第4号,103-108 河村茂雄(2006) 「学級づくりのためのQ-U入門 楽しい学校生活を送るためのアンケート活用ガイド」図書文化社 熊木崇(2010)「東京都区内の単学級小学校における若手教員の育成に関する研究」東京都教職員研修センター 平 成20年度大学院派遣研修 研修成果報告書,91-92 小林祐一・村田悦子・鈴木稔(2016) 「教職大学院における学びの活用に関する-考察:校長,副校長,指導主事, 教員養成の職場を通した共同省察から」東京学芸大学教職大学院年報第4号,93-102 瀬戸健一(2010) 「協働的指導のための実践テキスト」,風間書店 深見智一(2013) 「単学級の学級担任が抱える困難と課題-釧路管内の普通学級担任へのアンケート結果の考察-」 北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻研究紀要第3号,59-74. 66.
(10) 教職大学院の学修成果を活用した実践報告. 深見智一(2017) 「教職大学院修了後の継続的な研究活動の報告-『省察』による学びを生かして」北海道教育大学 大学院教育学研究科高度教職実践専攻研究紀要第7号,27-37 藤森宏明(2017) 「教職大学院での現職院生の学びとは何か:MOB(マイオリジナルブック)抄録の分析を基に」北 海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻研究紀要第7号,1-14 前田輪音・箭原さおり(2016) 「実践報告 教職大学院および修了後の教師の『研究』過程-『省察』し『学び続ける』 教師の姿から-」北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻研究紀要第6号,96-108 御手洗明佳・松本暢平・飯田陸央(2013) 「なぜ教職大学院で学ぶのか-大学院生へのインタビュー調査から-」早 稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊 20巻2号,117-128 文部科学省(2015) 「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引~少子化に対応した活力ある学校づ くりに向けて~」 横浜市教育委員会(2011) 「 『教師力』向上の鍵-『メンターチーム』が教師を育てる,学校を変える!」時事通信 社出版局. 註 1 修了研究は,各教職大学院で名称・性格が異なり, 「MOB(マイオリジナルブック)」 「リサーチペーパー」「課 題研究」 「教育実践研究報告」など独自性が見られる。 2 この間,校務分掌が生徒指導担当となり,校内の生徒指導上の課題や教育相談に対応する立場になったことで, 学級経営を支えられる側から支える側に変化したことも影響していたと思われる。 3 榊原禎宏(2000) 「学年・学級経営論の構成と課題」日本教育経営学会紀要第42号,2-11 4 メンタリングとは,経験の浅い教員同士で職務上の課題について一緒に悩んだり課題に向き合ったりして教員 としての成長を互いに図る取り組みである。横浜市教育委員会(2011)などを参照。 5 Q-Uは,満足度尺度と学校生活意欲尺度に基づいて,児童生徒の学校生活における満足度と意欲,学級集団の 状態を調べる質問紙である。河村(2006)などを参照。 6 筆者が所属していた高学年ブロックは, 低・中学年ブロックが指導・助言の「縦の関係」と言えたのに対し, リー ダーの年齢や教職経験年数の関係上,相互補完・互恵の「横の関係」によって成り立っていると考えた。そこで, リーダーとしての他の教員への関わり方,特に,運動会に向けた取り組みについて着目し,主要なやり取りを記録 化したが,これについては別稿で詳述したい。 7 「協働」の定義については様々あるが,ここでは瀬戸(2010)にある①2人以上の教師が共通の目的を持ち, ②お互いに連絡をとりながら,③調整された行動をとり,④これらが教師集団の人間関係を通して理解されている 状況を指して用いる。. 67.
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