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学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫 ― 講義「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」での取組から ―

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(1)Title. 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践 の工夫 ― 講義「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」での 取組から ―. Author(s). 藤森, 宏明; 安井, 智恵; 梅本, 宏之; 中村, 吉秀; 松橋, 淳. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 9: 15-30. Issue Date. 2019-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10425. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第9号. 特集. 学校経営力・地域教育連携力を培うための 教職大学院における教育実践の工夫 ― 講義「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」での取組から ― 藤森 宏明*1・安井 智恵*2・梅本 宏之*2・中村 吉秀*3・松橋 淳*4. 1 課題設定 本研究の目的は、教職大学院で育成すべき能力が、どのように培われているかについて、特に「学 校経営力」 「地域教育連携力」に関する講義に着目し検討することで、今後の教育実践上の課題を明 らかにすることにある。 1990年代以降、文部科学省は国の分権改革と足並みを揃えるように学校と地域及び保護者との連携 の強化を制度改革によって目指してきた。具体的には、1998年の中央教育審議会答申「今後の地方教 育行政の在り方について」での提言を皮切りに、2000年の学校評議員制度の導入、2002年の学校の自 己評価の実施と結果の公表の努力義務化、2004年の学校運営協議会(コミュニティ・スクール)の導 入などが挙げられよう。特に2006年の教育基本法改正により同法第13条で「学校、家庭及び地域住民 その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に 努めるものとする。 」との規定が設けられ、今日では学校と家庭・地域が連携することは制度上も不 可欠となっている。特に「チームとしての学校」や「コミュニティ・スクール」は、この法律の具現 化の一つの形であり、従来とは異なった組織体制での学校経営の推進が一層求められている。 このような教育改革の中で、学校組織の構成員である教員の能力開発、すなわち教員養成・教員研 修の改革も同様に重要であることは言うまでもない。教職大学院制度はこの点において最も期待され ているものの一つである。そもそも教職大学院は2008年度にスタートし、2018年度においては全国で 54校にまで拡大した1。そしてその教育実践の成果は毎年開催される「日本教育大学協会研究集会」 や「日本教職大学院協会研究大会」で発表されたり、各教職大学院の大学紀要等で蓄積されつつある2。 特に近年は、その整理・体系化自体が研究対象になり得る程の論文数の量的拡大がなされている。こ の検討については別稿に委ねるが、明確な課題が一つ存在する。それは、教職大学院における教育実 践のあるべき方向性が依然として試行錯誤の段階にあるということである。というのも教職大学院制 度創設から10年以上経過したとはいえ、近年は2016年度から本年度(2018年度)の数年の間に27大学 の教職大学院が開設し、全体の約半数を占めているからである。これらの大学は「先発型(2008年度 に開設されたグループ) 」の教職大学院の取組を参考に手探りで運営を行っていることは想像に難く ない3。この意味でも教職大学院研究の推進が一層期待されていると言えよう。 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)旭川. *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. *3. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)函館. *4. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. 15.

(3) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. ところで筆者の所属する北海道教育大学は「先発型」であり、これまでも学内の各種委員会の活動 等を基に改善が図られ、その研究的視点からの成果の一部は本紀要の特集を中心に発信してきた。本 研究もその一環だが、今回は次の点に着目する。すなわち、教職大学院制度の教育課程による「学校 経営力」 「地域教育連携力」の育成に関する課題である。これらは本院のアドミッションポリシー(入 学者受け入れ方針)に記載されている育成すべき6つの能力4の中の二つでもあり、前述した教育改 革の具現化のためには非常に重要な課題と言える。 この課題に対して、先行研究に目を向けると、例えば本図(2015)では、宮城教育大学教職大学院 の学級・学校経営領域の教育方法を紹介し、当該領域に関する能力育成のための体系化の試みを行っ ている。また中妻(2015)は愛知教育大学教職大学院での実践的指導力に関するガイドラインの自己 評価ツールによって育成すべき能力の評価検討をしている。これら2本は個別の教職大学院の検討だ が、教職大学院学生全国調査プロジェクト(2011)では、全国の教職大学院在院生にアンケート調査 を行い、教職大学院で獲得している能力を検討している。これらの研究に共通して言える点は、在院 生の学びに着目している育成すべき能力の在り方について検討していることである。また高乗ほか (2013)では、京都教育大学連合教職大学院の修了生と修了生の勤務校の校長への聞き取り調査によっ てどのような能力を獲得したかの検証を試みている。加えて石田ほか(2011)も修了生への自由記述 (メールによる)と連携協力校への聞き取り調査によって教職大学院教育の成果検証を行っている。 これらは質的調査が中心であり、自己評価と他者評価に目を向けたものである。量的調査に目を向け ると、宮下・倉本(2015)では現職の在院生及び修了生にアンケート調査を実施し、ミドルリーダー としての力量の獲得について検討を行っている。そして藤森(2017)では、修了生アンケート調査に よって、学校運営管理力が教職大学院特有の学びの一つであることを示している。 以上の先行研究の共通点は複数の科目の関連性を意識しつつも教育課程全体を通じて獲得した能力 を検討しようとしているということである。これは確かに重要な観点であるが、より効率的な運営を 行うためには特定の科目にも着目した教育実践の成果の検証も重要であり、本研究はこの点に関心を 持つ。この意味での先行研究は、特に本院のものに目を向けると、森(2015、2017)や瀬戸(2015、 2016)・川俣(2018) 、そして藤森(2016)が示唆的である。ただこれらの研究対象は授業開発・生徒 指導・学級経営領域に関するものであり、学校経営領域に着目したものではない。特に「地域教育連 携力」は学校経営領域に最も内包したものと言え、その意味で本研究は意義があると考える。 以上の関心を基に本研究は次の構成で進めていく。まず第2節で本研究で取り上げる科目「学校と 家庭・地域との連携における成果と課題」の概要を示すとともに、 「送り手」である授業実践側の感 触を中心に成果と課題を整理する。そして第3節では 「受け手」 である受講者側の分析と考察を行う。 最後に総合考察によるまとめと今後の課題を提示する。. 2 科目「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」の概要と、教員側から見た実践上 の成果と課題の整理 2.1 科目「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」の概要 本研究で取り上げる科目「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」 (以下「本科目」と略記) は学級・学校経営分野(以下「経営分野」と略記)の選択必修科目(2単位)である。教職大学院の 教育課程は、育成すべき能力に対応して体系づけられていることが特徴だが、本科目は「学校経営力」 「地域教育連携力」と最も関係の深い科目である。ただし授業改善(FD活動)や担当教員の交代等 16.

(4) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. に伴い年度によって、内容を多少変化させてきた。特に2017年度と2018年度は担当の入れ替わりが多 数存在した。すなわち2017年度は濱野(札幌) (主担当) ・藤森(旭川) ・梅本(釧路) ・中村(函館) が担当したが、濱野・梅本・中村は当該年度が初の担当であった。2018年度は安井(釧路) (主担当)・ 藤森(旭川)・松橋(札幌) ・中村(函館)が本科目を担当し、梅本の後任に安井、濱野の後任に松橋 が担当した。なお2016年度以前の状況を知る担当者は藤森のみである5。そこでこれらの具体について、 主にシラバスの内容を基に概観していく。表1は各年度のシラバスから授業概要及び到達目標を示し たものである。 表1 年度別「学校と家庭・地域との連携における成果と課題」の概要(シラバスより抜粋) 2017年度. 2018年度 近年、学校・家庭・地域の連携・協働が求められ ており、学校支援地域本部やコミュニティ・ス クール、地域学校協働本部など、様々な施策が行 われている。本授業では、人口減少社会の課題先. 理論と実践の往還への配慮 授業概要. 学校と家庭・地域の連携について、その概念を押 さえつつも具体的な資料や事例報告の中からその 課題や問題点を明らかにし、どのような方策に よって推進していけば良いのかを考えることを主 とする。 . 進地北海道における学校・家庭・地域の連携の意 義や課題について検討し、今後の「学校を核とし た地域づくり」を視野に地域創造型の学校経営と 教員の在り方について展望する。 また、授業の目標は以下の通りとする。 学校・家庭・地域の連携・協働について、理念や 社会的背景を理解し、学校全体や地域を俯瞰して 広い視野から成果と課題について分析できる。今 後の「学校を核とした地域づくり」を視野に、地 域創造型の学校経営と教員の在り方について検討 し、地域連携を推進できる力を身につける。. 学校と家庭・地域の連携について、理念とその意 味する内容を吟味し、その具体的な方法論を獲得 到達目標. することを目標とする。学卒院生は連携の社会的 背景から、その必要性と妥当性を理解する。現職 院生は実践事例の中から自分に取り込める方法を 探り出す。特に自らの実践を省察しつつ学校組織 の一員としてどのように課題に貢献できるかを探 求する。. ・学校・家庭・地域の連携・協働について、理念 や社会的背景を理解する。 ・学校・家庭・地域連携の実践事例について検討 し、そこから人口減少社会の課題先進地北海道に おける学校・家庭・地域連携の成果と課題を考察 する。 ・自らの実践を省察し、今後の「学校を核とした 地域づくり」を視野に、学校組織の一員として地 域連携を推進できる力を身につける。. 注:原文ママであるため、書式が若干異なる。. 2.1.1 2017年度の授業計画の概要 2017年度は前年度まで本科目の主担当教員が退職したため、それまで副担当であった藤森が科目の 概略案を作成し、これを受けて濱野が主担当として具体的な運営計画を作成した。作成に当たり前年 度(2016年度)の反省点として、 「学校と家庭・地域が連携することが制度上示されているにもかか わらず、受講者の勤務校の状況と乖離している部分が多かったことが、学修上の最大の課題」と挙げ 17.

(5) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. られた。そこで「自分事として学校と家庭・地域の連携に関する課題発見・解決の発想をどう醸成す べきか」という目標を掲げ、これを教員間で共有し実践した。このことは、到達目標の「特に自らの 実践を省察しつつ学校組織の一員としてどのように課題に貢献できるかを探求する。 」 (現職)にも反 映されている。そして授業計画(各週のトピック及び担当者)を次のように設定した。 ◆第1週:学校と家庭・地域と連携する重要性についての概念整理(担当:藤森) ◆第2週:学校と地域との連携に関する課題( 「学校支援ボランティア活動」を中心に) (担当:藤森) ◆第3週:学校と地域との連携に関する実践上の課題(特にCS(コミュニティ・スクール)に着目 して))(担当:梅本) (授業協力者にCS運営の関係者である森敏隆氏) ◆第4週:教育課程における地域教材の有効性、学校としての組織的な取組について(担当:中村) (授業協力者に函館校(学部)教員の山口好和氏) ◆第5週:学校と家庭との組織的な連携①(教育課程上の取組) (担当:濱野) ◆第6週:学校と家庭との組織的な連携②(保護者対応に関する課題) (担当:濱野) ◆第7週:院生による発表交流(これまでの勤務校での学校・家庭・地域との連携に関する実践の紹 介とその発表交流) (担当:全員) ◆第8週:担当者全員による総括(担当:全員) 2.1.2 2018年度の授業計画の概要 2018年度は、教育経営学者でCS研究の専門家である安井が本院に着任したため、主担当を安井が 行った。また、退職した濱野の後任の副担当として実務家教員の松橋が入った。そして授業内容につ いては、基本的には前年度の目標を踏襲しつつも本科目が「学校経営力」 「地域教育連携力」の育成 の根幹であることを自覚的にしつつ授業計画を安井が作成した。なお、2017年度の反省点として、 「足元は見えているが当該研究の最前線が見えていない」 「制度上のトピックとして加えた方がいい 項目がある(学校支援地域本部) (社会に開かれた教育課程) 」 「教育経営学特有の知識・理解が弱い」 「受講者が昨年度よりも少ない」点を考慮し、授業計画を藤森による引継ぎも参考に作成した。特に 2017年度と異なる点としては、到達目標がより具体的になったことや、CS研究の最前線の考え方で ある「地域創造型の教師」を知識として理解させ、ここをゴールとして「地域教育連携力」を身につ けさせようとした点である。到達目標の「理念や社会的背景を理解する」という部分は、2017年より は若干抽象的になっているようにみえるが、これは制度設計にとその背景の部分の知識理解に重点を 置いたためである。そして授業計画(各週のトピック及び担当者)を次のように設定した。 ◆第1週:学校と家庭・地域と連携する重要性についての概念整理(担当:安井) ◆第2週:学校と地域との連携に関する課題 ( 「学校支援地域本部」 ・ 「学校支援ボランティア」 に着目) (担当:藤森) ◆第3週:CS制度の概要及び「地域創造型」の事例紹介(担当:安井) ◆第4週:社会に開かれた教育課程における地域の教材の有効性と実践上の課題(担当:中村). (授業協力者に函館校(学部)教員の山口好和氏) ◆第5週:家庭との連携および保護者対応の現状と課題(担当:松橋) ◆第6週:院生による発表交流(これまでの勤務校での学校・家庭・地域との連携に関する実践の紹 介とその発表交流) (担当:全員) 18.

(6) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. ◆第7週:(院生の)グループワーク(KJ法)による 学校と家庭・地域との連携における成果と課題 の検討(担当:全員) ◆第8週:担当者全員による総括(担当:全員) 2.2 担当者から見た各年度での教育実践の成果と課題 本項では、各年度の教育実践の成果と課題について、感触的な側面に着目し、教育内容・教育方法 の観点から整理を行う。 2.2.1 教育内容に関する成果と課題 ⑴ 2017年度 2017年度は「学校と家庭・地域・家庭とがなぜ連携しなければならないか」を実感させることを一 貫して重視した。特に第1週では、佐藤(2016)の指摘する「4つの不」 (①(外部の介入による学 校の)不安感 ②(外部の介入がなくても学校はやってゆけるという)不要感 ③(外部の介入に対 する)不信感 ④(予算や人材の関係からくる)不能感)を紹介し、この課題克服を基本軸に教育実 践を展開していった。そのため、各週の授業で提示される(演習)課題に対し、 「私たちにできるこ とは何か」という方向性で受講者が思考を巡らせていた感触をしばしば受けた。また、授業担当者4 名のうち3名が実務家教員であることをむしろ強みとして、 (演習)課題の提示や事例の紹介も担当 者の実践を基に映像や当時の教材も交えて行った。その結果、自分事として「学校組織の一員として どのように課題に貢献できるか(到達目標より)」という課題の具体例に取り組む活動が多かった。 ただ、理論的な側面や自分自身の経験だけでは足りない具体的実践については、2名の授業協力者に よって補完した。すなわち、第3週では、CSの具体的な運営上の課題について森氏による事例紹介 を行った。また第4週では、山口氏による社会関係資本の理論の説明を取り入れて地域教材に関する 実践の意味付けを行った。そして、自分事としての課題をより鮮明にするため、第7週では、受講者 による発表を行い課題の発見・共有を行った。 以上の実践から、担当者としては、 「4つの不」については、ある程度克服できたのではないかと いう感触を得ることができた。また、 「限られた資源の中で、どのような実践が可能か」という側面 についての建設的な提案を考えることが受講前よりも身についている感触も得ることもできた。しか し、教育経営学の分野では自明とされている理論の理解や、 教育政策上の理想像としての学校と家庭・ 地域の在り方についての理解という点では、不十分(原因は主に時間不足)という課題が残った。 ⑵ 2018年度 2018年度は、CSの研究はもちろん、運営の経験もある安井氏が主担当となった。そのため、学校・ 家庭・地域連携に関する概念整理だけではなく、各制度の理論整理も丁寧に行った。具体的には「CS 制度の背景」 「CS制度の効果」「地域創造型教師中心の学校運営の実例紹介」 「学校地域支援本部制度 概念の理解」などについて多くの時間を用いた。これは佐藤(2012)が「関係者の理解不足」をCS 制度推進の阻害要因として指摘しているが(同、5頁) 、同様の課題が受講者にもあると考えたから である。加えて、最終週の総括においても担当者全員がCSを取り上げ、補足説明を行った。こういっ た実践の成果として、これらの概念及び最先端の運営に関する知識理解は明らかに2017年度よりも感 触を得た。また、2017年度は「(自分事として)できることは何か」という観点が多かったが、2018 6. 年度は「地域創造型 の学校経営と教師の在り方」というゴールを示し、展開していった。 19.

(7) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. なお2018年度は担当者の分担の負担を考慮した授業計画の変更があった。すなわち「学校と家庭と の連携」の週を2017年度よりも1週削減した。代わりに第7週で「これまでの授業での学びの成果を KJ法を用いてグループ単位で整理をする」という演習を行った。このことにより、グループ単位で の「学校と地域・家庭との連携に際しての課題とその解決の整理」が行えた。なお、2017年度に比べ 学部卒院生(ストレートマスター)の割合も多かったため、2017年度と同様の授業を展開しても、実 践経験がない分、 「自分事」でイメージすることが難しい側面もあった。授業協力者による補完につ いては、第4週は2017年度と同様であったが、第3週は、主担当者がCS運営の構成員であったこと を踏まえ、授業協力者を招へいせず、いくつかの先進的な事例紹介を行うにとどまった。 2.2.2 教育方法に関する成果と課題 次に、教育方法に関しての成果と課題を本院の教育実践上の特徴を踏まえ⑴双方向遠隔授業システ ム⑵T.T.の運営の観点からまとめる。 ⑴ 双方向遠隔授業システム 本院では日常的に使用している双方向遠隔授業システムだが、どちらの年度も本システムを用いる のが初めての担当者も多かったため、成果よりも課題の面が多くみられた。例えば、2017年度の函館 や2018年度の釧路の受講者は0名であったため、当該拠点の教員はカメラ越しのみの授業実践ゆえの 戸惑いが多かった。そのため、配布資料やパワーポイント等の発表用ソフトでの一層の工夫等の重要 性が明らかになった。ただ、 電子データの活用の有効性も再確認された。これは拠点間のコミュニケー ションにはMicrosoft Word等のテキストデータファイルが必須だが、これによって受講者の「振り 返り」の集計・交流が容易に行えた。また、電子データであるため統計ソフト等による授業の分析も 容易に行えた。こういったツールの活用で、対面のみの授業よりも丁寧に受講者の理解度等の検討を 図りやすい側面もある。 他の問題点としては、双方向遠隔授業システムでの学習作業の限界という点が挙げられる。特に 2018年度の第7週では、KJ法による検討を行ったが、函館と旭川の受講者がそれぞれ1名、2名で あったため、電子黒板を用いてこの学習作業を行った。これは、完成図がデジタルで見やすい反面、 コミュニケーションが取りづらく、作業の労力の割に合わない取組となってしまった。別な思考ツー ルの開発の必要性が感じられる実践となった。 ⑵ T.T.の運営 教職大学院の授業では制度設計上、T.T.の形態で行うケースが多い。本院の場合は双方向遠隔授業 システムを用いるためT.T.の形態を取ることが多いが、同時に本院特有の課題も存在する。そこでこ こでは今回の授業実践で見られたT.T.に関する成果と課題について整理する。 本科目の毎回の授業の流れは、どちらの年度も基本的には①当該週担当教員の講義②課題の提示③ 各拠点で演習④拠点間の発表・交流⑤当該週担当教員の講評⑥振り返り・各拠点でオフィスアワー (受講者への質疑応答)という構成で行われることが多かった。すなわち、佐藤他(2011)で言うと ころの「輪講型」の形式をとりつつも、講義以外の場面での各教員による自拠点の受講者の学習支援 という構成での実践であった。 この構成によって成果が得られたと感じたパターンは、当該週担当教員の本時の狙いをその他の教 員が理解しつつ課題提示の学習支援をし、⑥で、⑤を受けて各拠点での受講者への補足説明が充実し 20.

(8) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. た場合である。逆に感触が今一つであったパターンは、教員の多忙等の要因によって、連携不足が生 じ7、当該週担当教員の意図を他の教員が理解しきれない状況で④や⑥が展開される場合であった。 また、各教員の特性が強い一方で、③や⑥では各拠点での1名の教員による指導になる。そのため、 当該週教員の授業の意図から外れる指導になるのではないかという不安がよぎることがしばしば存在 する。 以上のような状況での成果と課題は、 前述の佐藤他(2011)が指摘する、T.T.のメリットとデメリッ トと重なる部分が多い。すなわち、メリットとしては①複数の視点から学習を深めることができる② 学習環境の改善(教員と学生が接する機会や教員からのフィードバック量が増える)③パートナーか ら学ぶ(教員自身にとっても他の教員の情報から自分の能力を高められる)という点が挙げている。 一方でデメリットとして、教員間の意見の相違・葛藤が受講者を混乱させる可能性があるという点を 挙げている(そのため、授業の事前・事後の教員間の連携が非常に重要になってくる。 ) 。 今回の実践はこの指摘をほぼ追認している。そのため「連携」 「チームワーク」が鍵となるが、本 院は電話やメールでしか事前事後の連携を取れない。そのため、拠点単位では、研究者教員の理論と 実務家教員の実践とのバランスが悪い状況になりがちである。これをどのように克服していくかが今 後の課題となる(特に、⑥の段階ではこの状況に陥りやすい。 ) 。このような点が双方向遠隔授業シス テム×T.T.による運営の限界ともいえる。教員スタッフの入れ替わりも早いという点も併せると、よ り有効な教員間の連携方法の開発や教授能力開発の在り方が重要となってくる。. 3 年度間の受講者の学びの違いとは―計量テキスト分析による試み 前節では、授業者という「送り手側」から見た実践と成果の課題を整理した。そこで本節では、こ れらを背景に、受講者側、すなわち「受講者はどのように授業が受け止められているか」 (受け手側) の成果と課題を分析する。分析方法としては計量テキスト分析(テキストマイニング)で行う8。 3.1 使用データ及び分析枠組 本分析で用いるデータは、各年度の本科目の最終回講義で行った「振り返りワークシート」の集計 データである。2017年度は提出者13名(うち現職10名、学部卒3名) 、総抽出語数5117、使用語数 1875であり、2018年度は提出者6名(うち現職3名、学部卒3名) 、総抽出語数3635、使用語数1346 であった9。 分析枠組としては、①まず共起ネットワークを作成し、全体的な記述の特徴を見る。②次に「学部 卒/現職別」でJaccardの類似性測度による比較を行う。③そしてこれらの特徴を年度ごとに比較し、 考察を行う、という順で行う。 3.2 分析結果及び考察 3.2.1 2017年度の分析 ⑴ 頻出語の共起ネットワーク図について 最初に共起ネットワーク図10による検討を行う。この図では、使用した語の頻出回数が大きいほど バブルサイズが大きくなる。そして枝の太さや数が関連性を示し、関連が強い語同士が色分けされて いる。例えば、大きなバブルに着目すると、 「学校」 「地域」 「連携」 「考える」が大きく、これらの用 語の関連性も高い。これは授業のタイトルと関連性を持つものであり、このキーワードを手掛かりに 21.

(9) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. 振り返りを作成したと考えられる。 次に、色分けによるカテゴリの中の象徴的な語に着目し、2017年度の特徴を見ていく。これには、 受講者の特徴的なコメントも併せて分析していく(斜体による文章が受講者のコメントである。 )。 ①「発信」(「必要」 「情報」 ) :この語は学校・家庭・地域が連携するために学校として行うべきこと として用いていることがうかがえる。. 「家庭・地域・学校を近づけるために、何が学校ができるのか。その一つが、情報発信であるという 気がしてきた。」 「この講義で得た学びは「地域を知ること」そして、「発信」である。この2つなしでは、地域・家 庭の連携は充実したものにはならない。」 「学校という教育現場の内向き性から脱却し、学校・子ども・教員の素晴らしさを発信し、地域・社 会に認知させていくような外向きの取り組みが必要である。それにより、学校が地域・社会からリス ペクトされながら連携し、子どもや教員・地域に誇りと自信が培われると考える。」. 全体 全体 全体 全体 全体. 講義 講義 講義 講義 講義. 社会 社会 社会 社会 社会. 考え る 考え る 考え る 考え る. 連携 連携 連携 連携 学校 学校 学校 学校 学校. 実践 実践 実践 実践 学ぶ 学ぶ 学ぶ 学ぶ. 感じ る 感じ る 感じ る 感じ る 感じ る. 対応 対応 対応 対応 対応. 大切 大切 大切 大切. 地域 地域 地域 地域 地域. 自分 自分 自分 自分. 立つ 立つ 立つ 立つ 立つ. 能力 能力 能力 能力 能力. 思う 思う 思う 思う 思う 教育 教育 教育 教育 教育. 視点 視点 視点 視点. 必要 必要 必要. 教員 教員 教員 教員 教員 イ メ ー ジ イ メ ー ジ イ メ ー ジ イ メ ー ジ. 進め 進め る 進める る 進め る CS CS CS CS. 発信 発信 発信 発信 発信 子ど も 子ど も 子ど も 子ど も. 自身 自身 自身 自身 自身. 保護者 保護者 保護者 保護者 保護者. 情報 情報 情報. 家庭 家庭 家庭 家庭 家庭. 積極 積極 積極 積極 積極. 今 今 今. 持つ 持つ 持つ 持つ 持つ. 人 人 人 人. 学び 学び 学び 学び. ビ ジ ョ ン ビ ジ ョ ン ビ ジ ョ ン ビ ジ ョ ン. 資質 資質 資質 資質 資質 専門 専門 専門 専門 専門. 考え 考え 考え 考え 考え. 段階 段階 段階 段階. 図1 頻出語の共起ネットワーク図(2017年度). ②「積極」(「保護者」 「対応」 ) :この語は、保護者との連携を推進するための教員としての心構えを 示すために用いられている。. 「家庭・地域との連携において、リスクマネジメントの視点、積極的な保護者対応の視点の両面から のかかわりが重要であると考えます。両面からのかかわりがあってこそ、信頼や真摯な姿勢を理解し てもらうことにもつながると言えます。」 22.

(10) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. 以上の①と②は授業担当者がポイントとして示していた点とも重なる部分である。 ③「CS」:この語は本科目の重要用語だが、CSに対する理解として、次のような使用が見られた。後 述する2018年度とは異なる理解をしていることが窺えるので以下に紹介する。. 「講義の前は「CSは、具体的にどのように進めていけば良いのだろうか」という考えでいた。しかし、 今の考え方としては、どのように各組織をつないでいくかという所に考えの視点が向いているように 感じる。」 「CSについては積極的に進めようという所までは至りませんが、もう少し長い目でその良し悪しに ついて学んでいきたいと思います。」 2017年度はCSのゴールを積極的に示すというよりは、CS導入段階での課題の交流の時間が多かっ たことがこのような形で示されていると考えられる。 ⑵ 学部卒/現職コース別の比較 次に、学部卒/現職間の比較をJaccardの類似性測度によって検討していく。各カテゴリにおける 特徴的な頻出語ほど値が大きい分析である。 まず「学部卒(2017年度) 」に着目する。すると、上位にあるのは「保護者」 「連携」 「子ども」が 上位にある。「学部卒」の場合、自分事として教育現場での課題を考える際、学校云々ではなく、ま ず眼前の「子ども」の姿が浮かび、 「連携」を行う学校外の対象が「保護者」であることを示唆する。 実際、元の文章に目を向けると以下のような記述が典型的である。. 「「子どもたちのために」というメッセージを発信し続けて連携をすることが、4月から求められる。 私が初任者として最初に連携するのは、保護者である」 これに対し、「現職(2017年度) 」に着目すると、上位にあるのは「地域」 「考える」 「学校」 「教員」 表2 学部卒/現職別 それぞれのカテゴリを特徴づけ る頻出語(2017年度) 学部卒(2017年度). 現職(2017年度). 保護者. .250. 地域. .302. 連携. .203. 考える. .212. 子ども. .192. 学校. .196. 講義. .154. 教員. .174. 感じる. .136. 思う. .149. 求める. .118. 必要. .127. 積極. .118. 自分. .118. 学ぶ. .114. 社会. .068. 視点. .108. 教育. .068. 姿勢. .100. 持つ. .067. 23.

(11) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. である。個人というよりは、学校単位で課題を捉え、その中で地域とどのように連携をすべきかを結 果も含めイメージしつつ考えている。例えば、次のような記述にこのことが示されている。. 「学校という教育現場の内向き性から脱却し、学校・子ども・教員の素晴らしさを発信し、地域・ 社会に認知させていくような外向きの取組が必要である。それにより、学校が、地域・社会からリス ペクトされながら連携し、子どもや教員・地域に誇りと自信が培われると考える」 3.2.2 2018年度の分析 ⑴ 頻出語の共起ネットワーク図について 2018年度の分析は3.2.1同様、まず共起ネットワーク図から見ていく。まず「学校」「地域」 「連携」 「考える」のバブルが大きく、関連性も強い点が目に付くが、これは2017年度と同様、授業タイトル と関連性を持つものである。ただし、2017年度に比べ、 「子ども」との関連性が弱かった。これは制 度設計の理解に関する時間を要したため、組織としての在り方などと関係があると考えられる。 次に、2018年度の特徴的な用語に着目する。 ①「実践」(「例」 「組織」 ) :講義の中で学術的な側面を念頭に置きつつ事例を示してきたことで具体 的な実践の方向性を学校組織の観点からも検討しようとしている。. 「8回の講義を受講して、連携の難しさがよくわかった。「地域との連携」というとPTAや親父の 会など表面的な活動しか頭になかった。しかし、先生方の講義や現職院生の実践例を聞いて具体的な. 学ぶ 学ぶ 学ぶ 学ぶ 学ぶ CS CS CS CS CS. 話 話 話 話 話. 本当に 本当に 本当に 本当に. 関わる 関わる 関わる 関わる 関わる. 本校 本校 本校 本校 本校 支援 支援 支援 支援. 時間 時間 時間 時間. 考え 考え 考え 考え 考え. 多い 多い 多い 多い 多い. 思い 思い 思い 思い 思い 学校 学校 学校 学校 学校. 地域 地域 地域 地域. 人 人 人 人 関わり 関わり 関わり 関わり 関わり. 実践 実践 実践 実践 実践. 知る 知る 知る 知る 知る. 家庭 家庭 家庭 家庭 家庭 子ど も 子ど も 子ど も 子ど も 子ど も. 理解 理解 理解 理解 理解. 例 例 例 例. 今 今 今 今 必要 必要 必要 必要. 自分 自分 自分 自分 自分. 方々 方々 方々 方々 方々. 進め る 進め 進める る 進め る 協力 協力 協力 協力 協力. 組織 組織 組織 組織 組織. 保護者 保護者 保護者 保護者. 教員 教員 教員 教員 教員. 講義 講義 講義 講義. 受け る 受ける る 受け 受け る. 考え る 考える る 考え 考え る 考え る. 感じ る 感じ る 感じ る 感じ る 感じ る. 連携 連携 連携 連携 連携. 大切 大切 大切 大切 大切. 仕事 仕事 仕事 仕事 仕事. 図2 頻出語の共起ネットワーク図(2018年度). 24. 見る 見る 見る 見る.

(12) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. 連携の例や、組織がどのように成り立っているのかなど知らないことが多く学べた。」 また、次の例はゴールとなるような具体的な実践を理解しつつも「リーダーシップ」や「組織マネジ メント」の学びを他の科目等(実習も含む)でさらに深く学ばせるべきではないかということを示唆 させる。. 「今までの実践例を見ていてすごいなとは思ったが、一つネガティブな考えを挙げるとすると、やは り組織にスーパーマンが必要だと感じるところである。学校側にしろ、地域にしろ、連携にたけたス ペシャリストに乗っかるしかないという考えがどうしても抜けない。」 ②「支援」:講義の中で「学校支援ボランティア」 「学校支援地域本部」の制度理解について、2018年 度は前年度よりも多くの時間を割いたが、この点が反映されていると考えられる。. 「学校運営協議会が制度化され、五反野小学校がCSの1号に指定されるまでの歩みを調べていくこ とにより、それまで知ることがなかったスクールガバナンスとソーシャルキャピタルの関わり、学校 支援地域本部のあり方、北海道の現状など、たくさんのことを学んできた。」 「学校支援ボランティアの思いを知った時に、ボランティアをしてくれる人たちにとって、「子ども たちのために」だけではなく「子どもたちと関わることで、自分たちにもプラスになることがある」 という思いに触れ、学校支援ボランティアの目的は一つではないことを知ったことが大きい。」 ③「保護者」:2017年度は「保護者に情報を発信すべき」という文脈で用いられたことが多かった。 一方で2018年度では、別の授業担当者によって、保護者対応の具体的実践例の課題が授業で取り上 げられた。以下の記述はその影響を受けたものと考えられる。. 「保護者や、地域の方々との関わり方は、その学校や地域の実態によって様々で、マニュアルのよう なものはないと考えます。赴任した学校で、最適な関わり方を見つけていきたいと感じました。」 また、2018年度は「ソーシャルキャピタル」や「異質な他者と関わる重要性」について、より取り 上げた。以下の記述にもその影響が示されている。. 「保護者や地域と関わることを楽しむことで忙しいけどやりがいを感じられると思うし、地域や保護 者との関りが深くなれば、地域のために考えることもできる。」 ⑵ 「学部卒/現職別」による傾向の把握 次に、2017年度と同様、学部卒/現職間の比較をJaccardの類似性測度によって検討していく。 まず「学部卒(2018年度) 」に着目する。すると、 「連携」 「学校」 「子ども」 「考える」が上位に来た。 2017年度とは異なり「学校」が入った。そして、 「実践」 「例」も析出されている。これは、学校・家 庭・地域との連携に際し、制度概念を理解したうえで、ゴールである実践例を見ながら、客観的に連 携の在り方を考えている姿ではないかと示唆される。. 25.

(13) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. 「学校の連携という物を子どもの立場でしか見ていなかったため、理論だけに染まらないよう様々な 実践例を見聞きすることで、最終的には、CSは今後の地域にとっては必要となるものではないかと 考えるようになっていった。」 「今回の授業を受けて、少なくともこの講義を受けていない人よりは知識と実践例を知っているのだ から、これらを今後の講義や学校の実践に活かしていきたい」 また、 「現職(2018年度) 」に着目すると、 「地域」が最上位にあり、若干低い数字で「教員」 「CS」 「保護者」とある。また、 下位ではあるものの「本校」や「関わる」という語も見受けられる。 「CS」 が上位に析出されたのは、知識としてのCSだけでなく「なぜCSの重要性が教育現場で理解されない のか」という課題に着目していることや、受講者の中にCSの担当者がいたこともこういった結果に 反映されているのではないかと考えられる。. 「いろいろな問題を含んでいるが、自分がとても感じるのは、自分も含めて「学校運営協議会(CS)」 の理解が進んでいないということである。もし、理解がしっかりとなされていれば、もう少し、地域 と連携の具体的な手立てが進むのではという考えでいる。」 また、CSは連携の一手段で、根本の基本概念を理解しつつ取り組むことの重要性も見受けられた。. 「CSとか学校支援地域本部とかではなく、小さな関わりで信頼関係を築いていく中で、自然と意識 が変わっていくのではないかと思う」 表3 学部卒/現職別 それぞれのカテゴリを特徴づけ る頻出語(2018年度) 学部卒(2018年度). 現職(2018年度). 連携. .278. 地域. .313. 学校. .233. 教員. .128. 子ども. .184. CS. .126. 考える. .170. 保護者. .122. 実践. .163. 人. .084. 例. .146. 自分. .082. 考え. .146. 関わり. .073. 講義. .132. 仕事. .061. 家庭. .128. 本校. .061. 組織. .119. 理解. .060. 3.2.3 計量テキスト分析によって見えてきた点とは 前項の分析から、以下の点が示唆される。 第一には、シラバスの到達目標が、受講者の学びにも大きく反映されているということである。 2017年度は、「具体的な方法論を獲得すること」 「特に自らの実践を省察しつつ学校組織の一員として どのように課題に貢献できるかを探求する。 」が、2018年度は(学校と家庭・地域との連携に関する) 26.

(14) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. 「理念や社会的背景を理解する」 「成果と課題を考察する。 」が反映されたと考えられる。池田他(2001) でもシラバスを作る意義として「教師はコースのプランをより具体的なものにすることができる」 (同、60頁)ことを指摘している。特に本科目は複数の教員による担当であり、シラバスは教員間の 共通理解や意思疎通のツールとして特に重要な意味を持つと考える。 第二には、授業構成員の「特性」 (指向性)が反映されやすいということである。本科目は担当の 入れ替わりが多い科目であったが、担当教員の特性(個性)がテキスト分析からも散見された。例え ば2017年度でのみ担当であった教員のコメントに「積極的保護者対応」 「積極的・開発的生徒指導」 という語が用いられたが、これが共起ネットワーク図に反映されていた。本科目の本質的な目標は教 職大学院創設から大きな変化はないが、担当者の指向性(得意分野等や伝えたいこと)は、受講生の 学びの軌跡に影響を与えている。このことからも授業担当者は「科目にふさわしい授業内容をどう提 供すべきか」という根本課題に対し、不断の研鑽が不可欠であるといえる。特に近年は教育改革が一 層進行しており、これらに対応した授業実践が求められると考える。 第三には、学部卒・現職の学びの違いをどう捉えるかということである。すなわち、年度に関係な く、Jaccardの類似性測度によって、両者の学びの傾向に明確な違いが見られた。特に学校経営分野 の領域の科目については、課題意識も、経験も、力量として求められるゴールも全く異なるため、む しろ当然の結果と言える。こういった違いをマイナスに捉えると、分離履修の必要性が問われてくる だろう。一方でプラスに捉えると、課題発見・解決のための多様な価値観の醸成につながる。この点 を踏まえると、本院の学校経営分野の科目には、現職しか履修できない科目もあるが11、合同授業で あってもこの点を考慮した授業計画や運営の工夫が必要であると考える。. 4 まとめと今後の課題 本研究では、教職大学院の講義(演習含む)で培える能力について学校経営分野の授業の一側面か ら検討してきた。その結果は端的には以下のようにまとめられる。 第一にはシラバスにおける到達目標の重要性である。今回の事例はいずれも異なった到達目標で あったが、受講者の学びの実態に目を向けるとどちらも到達目標の影響を強く受けていた。教育実践 をより効果的に行うためにはどのような到達目標を立てるかの一層の検討が必要と考えられる。 第二には、教職大学院という「高度専門職業人養成機関」として、実践と理論の往還を意識した教 育実践をどのように行うかということである。すなわち①自分事として眼前の課題を捉え、最適な課 題発見・課題解決を行えるための能力とは何か②①の課題把握や課題解決は我流ではなく学術的な側 面の知識が不可欠であり、これらをどのように構造化して身につけていくかという点である。今回の 事例はこの観点の課題が顕在化される教育実践であり、教職大学院としての教育実践の方向性を考え るための重要な視点を示すことができたと考えられる。 第三には、双方向遠隔授業システム及び4名による授業体制の長所と短所をどのように自覚しつつ 実践していくかということである。双方向遠隔授業システムという、咄嗟の連携の取りづらさという 短所と、電子データという証拠を残しながら実践が行えるという長所が今回の実践で見受けられた。 同時に佐藤他(2011)でも指摘されているT.T.の長所も短所も数多く見受けられた。これらの観点を 教員間で共有しつつ教育実践を行うことでより効果的な実践を行うことができると考えられる。 なお、今後の課題としては以下の点を挙げておく。第一には、教育実践の成果と課題に関する検討 はもっと多角的な側面から検討しなければならないという部分である。本研究では最終回の振り返り 27.

(15) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. データのみを用いたが、毎回の振り返りデータや、個別インタビュー、そして修了後の活動も分析に 取り込むことで、より課題が顕在化すると考えられる。第二には、学校経営分野の領域全体としてど のような「学校経営力」 「地域教育連携力」を培っているかの体系的な検討である。今回は最も関連 性の強い一科目に着目したが、領域全体の学修内容を綿密に調査し、それらの関連性を明らかにし、 本分野特有の培われている能力とは何かを学術的に検討する必要があるだろう(なお、この中には事 例研究(ゼミ)・実習・修了研究(MOB(マイオリジナルブック)も含まれる。 ) ) 。 そして第三には本院特有の環境を考慮した、教育実践能力の熟達化に関する課題である。今回の事 例では、本科目を初めて担当する教員スタッフが過半数を占めた。この傾向は、現在の教職大学院の 組織体制を踏まえるとやむを得ない部分が多く、この点を克服するのは難しい。そのため、より短期 間での効果的な熟達化の方法の開発が一層求められると考える。 以上の課題の解決は、本院が「先発型」であるにも関わらず、まだまだ多くの労力・時間を要する ものである。しかしながら、これらの課題は教職大学院における教育実践の充実のためには避けられ ないものであり、さらなる研究と教育実践の蓄積が求められる。今後の課題としたい。 <注> 1 文 部 科 学 省HP「 平 成30年 度 教 職 大 学 院 入 学 者 選 抜 状 況 の 概 要 」(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ kyoushoku/kyoushoku/1410105.htm) (2018年11月1日確認)参照。 2 例えば,「日本教育大学協会研究集会」では毎年「大学院段階での教員養成」の分科会が存在し,そこでは教職 大学院の教育実践が報告されている。また, 「日本教職大学院協会研究大会」では,教職大学院単位での教育実践 活動がローテーションで報告されている。さらに,教職大学院が設置されている大学の紀要においても,教職大学 院の教育実践や修了生の取り組みが教育実践論文として数多く発信されてきている。 3 実際,本大学でのFD活動の一環として,後発型の教職大学院にヒアリング調査を行うと,いわゆる「逆質問」 を受けることもしばしばあることからもこのことが言えると考える。 4 本院のアドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)によると,6つの能力とは, 「授業実践力」 「学級・学 校経営力」 「生徒指導力」 「教育相談力」 「協働遂行力」「地域教育連携力」のことを指す。 詳細は 「北海道教育大学HP『北海道教育大学大学院教育学研究科の入学者受入方針(アドミッション・ポリシー) 』 」 (http://www.hokkyodai.ac.jp/exam/graduate/graduate-admission-plicy.html)(2018年11月1日確認)を参照。 5 このように,目まぐるしく担当者が入れ替わってしまう要因は,実務家教員の雇用上の課題ともいえる。そも そも教職大学院の実務家教員の多くは学校現場の管理職経験者が大多数であり,教育委員会との人事交流や,校長 を定年退職した後に勤務する例が数多くみられ,本院も例外ではない。そのため,勤続年数が5年を超える実務家 教員はどうしても少数となってしまう傾向にある。実際,本科目の担当者においても,実務家教員は,濱野,梅本, 中村,松橋と,2年間の担当者6名のうち4名が該当し,4名とも校長経験者である。 6 宮前ほか(2017,4頁)では, 教師の「地域に向き合う姿勢や態度」を以下のように「地域活用型」 「地域参加型」 「地域創造型」の3類型に分類している(附表1)。 7 本院の場合はスタッフ4名が各キャンパスに散っているため,事前事後の打ち合わせは電話とメールのみとな る。そのため,細かな情報交換には限界があった。これは授業中でも,図表が見づらかったり,マイクが聞き取り づらかったりといった,双方向遠隔授業システム独特のコミュニケーションスキルという問題も抱えている。 8 分析に際しては,樋口(2014)で紹介されている「KH-Coder」を用いた。 9 なお,文章の意味合いを踏まえつつ「コミュニティ・スクール」を「CS」, 「教員」「教師」「教職員」を「教員」 , 「児童」 「生徒」 「子ども」 「子供」を「子ども」と統一した。 10 抽出は文単位であり, 共起ネットワーク作成に際し最小出現語数を5とした。使用品詞は「名詞」 「サ変名詞」 「形 容動詞」 「固有名詞」 「組織名」 「人名」 「地名」 「ナイ形容」 「副詞可能」 「未知語」 「タグ」 「感動詞」 「動詞」 「形容詞」 「副詞」 「名詞C」である。これらの意味等については樋口(2014)を参照のこと。. 28.

(16) 学校経営力・地域教育連携力を培うための教職大学院における教育実践の工夫. 附表1 教師の「地域に向き合う姿勢や態度」の3類型 類型. 地域活用型. 地域参加型. 地域創造型. 学校・教師の取組. 地域資源の発掘と教材化. 地域参加・信頼. 協働による地域課題解決. や姿勢. 地域人材の活用. 関係構築. 地域人材形成. 地域教育力の再構築・活用 背景にある理論. 「家庭・学校・地域の連携」論. 「教育コミュニティ」論. 「地域教育(計画)論」. 「開かれた学校」論. 「学社連携(融合)」論. 「地域とともにある学校」論. 学校・地域をめぐ. 学校資源としての地域(学校のための学校). 地域資源としての学校. る位置関係. 学校教育の持続可能性. (地域のための学校). 志向する価値. 地域社会の持続可能性. 注:出典:宮前ほか(2017) ,4頁より 11 実際,本分野の選択科目「学校組織マネジメントの理論と実際」は現職院生のみに履修が認められている科目 であり,この面を考慮したものである。. <文献> 藤森宏明,2016, 「教職大学院における学部卒院生の学びの実態に関する一考察―授業科目「学級の主体性を育む教 育実践活動」での現職院生による実践発表を基に―」 『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研 究紀要』第6号,1-12. ――――,2017, 「教職大学院での学びが修了後の教育実践に及ぼす影響」 『日本教育社会学会第69回大会』発表資 料 樋口耕一,2014, 『社会調査のための計量テキスト分析―内容分析の継承と発展を目指して―』ナカニシヤ出版. 本図愛実・遠山勝治・藤代正倫・齋藤亘弘,2015, 「教職大学院における学級・学校経営領域の教育方法」 『宮城教 育大学紀要』第49号,267-280. 池田輝政・戸田山和久・近田政博・中井俊樹,2001,『成長するティップス先生』玉川大学出版部. 石田純夫・加藤弘通・原田唯司・原田年康,2011,「修了生の自己評価・他者評価及び連携協力校からの評価に基づ いた教職大学院教育の成果検証の試み」 『日本教育大学協会研究年報』第29号,205-17. 川俣智路,2018, 「発達・学習への援助や指導に関する「思い込み」は教職大学院の講義でどう変わるか?―講義受 講前後の「教師ビリーフ」得点の変化と講義振り返りの分析―」 『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実 践専攻 研究紀要』第8号,23-32. 教職大学院学生全国調査プロジェクト(早稲田大学教育総合研究所 B-10部会)(代表 吉田文),2014,『全国教職 大学院学生意識に関する調査研究報告書』 宮前耕史・平岡俊一・安井智恵・添田祥史編,2017,『持続可能な地域づくりと学校―地域創造型教師のために』 ぎょうせい. 宮下治・倉本哲男,2015, 「教職大学院における現職教員院生の学びに関する研究―カリキュラム改善の検討―」 『愛 知教育大学教育創造開発機構紀要』第5号,19-28. 森健一郎,2015, 「教職大学院生は『実践的指導力』をどう捉えているか―講義「教科等の実践的指導力の形成」か ら―」 『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第5号,23-33. ――――,2017, 「教職大学院における現職教員院生の学び―評価についてのコンセプトを明確にする試み―」 『北 海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第7号,15-26. 中妻雅彦,2015,「教職大学院における実践的指導力育成の一考察―「ガイドライン」への自己評価から―」『愛知 教育大学研究報告. 教育科学編』第64巻,103-109. 佐藤浩一・入澤充・所澤潤・山口陽弘・山崎雄介・石川克博・岩澤和夫,2011, 「教職大学院におけるティーム・. 29.

(17) 藤森 宏明・安井 智恵・梅本 宏之・中村 吉秀・松橋 淳. ティーチング」 『群馬大学教育実践研究』第28号,241-266. 佐藤晴雄,2012, 「 「新しい公共」に基づく学校と地域の関係再構築―コミュニティ・スクールの実態から見た新た な関係性―」 『日本教育経営学会紀要』第54号,2-12. ――――,2016, 「学校と地域社会の連携」篠原清昭編『免許更新講習から学ぶ教職論 新・教職リニューアル―教 師力を高めるために―』ミネルヴァ書房,139-154. 瀬戸健一,2015, 「教職大学院における教育実践についての一考察―実践と理論の関係に着目して―」 『北海道教育 大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第5号,15-22. ――――,2016,「『実践と理論の関係』に着目した授業実践についての報告―学部卒院生と現職院生との合同授業 にみる研究的視点―」 『北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻 研究紀要』第6号,13-20. 高乗秀明・竺沙知章・小松茂・杉本和彦・井上雅彦,2013,「教職大学院教育の成果検証によるカリキュラム改革, 授業改善の課題:京都連合教職大学院「教職専門基準」の観点からの試み」 『京都教育大学大学院連合教職実践研 究科年報』第2号,76-89.. 30.

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参照

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