「踏み切り逆上がり」の指導におけるGボールを使用した“踏み切り動作”の援助
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(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第51号(令和元年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.51(2019):79-84. 「踏み切り逆上がり」の指導におけるGボールを使用した “踏み切り動作”の援助 山 本 悟 北海道教育大学釧路校保健体育研究室. Assistance of "step-off movement" using G-ball in instruction of "Back Hip Pullover from Take-off" YAMAMOTO Satoru Department of Health and Physical Education, Kushiro campus, Hokkaido University of Education. 要旨 注1). 「踏み切り逆上がり」の指導では, “踏み切り動作”. から肩角を減少させ, 「上方への移動」と「後方への回転」(金. 子,1984,p.158)が連動した動きとしての“身体をひっくり返す動き”注2)の動感が理解できず, 「粗形態」 (マイネル, pp.375-383)の発生に辿りつけない場合がある。本研究では, “踏み切り動作”から“身体をひっくり返す動き”の発生 を促すために,幇助用具注3)として踏み切り局面にGボール注4),注5)を用いた。 その結果,Gボール特有の反発を利用することで, “踏み切り動作”が援助され“身体をひっくり返す”ことが容易に なることを提示した。. Ⅰ.目的 運動指導において,指導者の役割は多様であるが,学習者に動きの発生を効果的に促していくことは,重要な任務の一 つである。実践場面では, 学習者が「できない」状態で試行錯誤している際に,何かしらの指導が必要になる場面がある。 本研究では, 「踏み切り逆上がり」 (図1)の指導において学習者に「粗形態」 (マイネル,pp.375-383)の発生を促すた めの工夫として,幇助用具にGボールを使用した学習方法を紹介し,この技の粗形態の発生に向けた情報提供を目的とす る。. 図1. 「踏み切り逆上がり」(高橋ら1992から転載). - 79 -.
(3) 山 本 悟 Ⅱ.研究上の観点 本研究では,「踏み切り逆上がり」の学習において,学習者が〈そう動きたい〉のに〈そう動けない〉という状態を乗 り越えるための学習指導の方法について,Gボールを使用した 踏み切り動作 の援助に関する報告を行う。そこでは,学 習者の「踏み切り逆上がり」にGボールを使用した 踏み切り動作 の幇助措置がどのように機能するか,という「こと」 (木村,2008,p.101)について若干の考察を加える。このような研究上の必然性から,スポーツ運動学(金子,2002, 2005a,2005b)の観点を拠り所として報告が進められる。 Ⅲ.エピソードと発想の背景 2019年3月16日(土) ,H大学一般公開講座「てつぼう教室」において, 「踏み切り逆上がり」の練習をしていた。学習者A(4 年生女児)は,踏み切り動作 から, 腕が伸びてしまい,肩角が開いて, 「上方への移動」と「後方への回転」ができていなかっ た。学習者Aは繰り返し練習しているものの,習得に大変苦戦している様子であった。このような状況から筆者は,「跳 び箱を利用して踏み切り位置を高くする方法」 (図2)や「踏み切り板を用いた方法」, (図3), 「柔道帯を用いた方法」 (図 4) ,直接幇助法(図5) ,これらを用いて,踏み切り動作 から「上方への移動」と「後方への回転」が連動した 身体をひっ くり返す動き の「動感」 (金子,2005a,p.305)を促すことを試みていた。しかしながら,各々の方法をしてみたものの, 動きが大きく変容することはなかった。そのような状況下,筆者は,Gボールを用いた練習法を発想し実践した注5)。その 後,Gボールを使用した逆上がりがわずか3回以内で達成された。また,その後,一度だけ「踏み切り逆上がり」が達成 された注6)。その後,似たような傾向をもつ学習者に試してみたところ, 踏み切り動作 から「上方への移動」と「後方へ の回転」が連動した 身体をひっくり返す動き が容易になることが観察された。体験した学習者たちは「Gボールがはね るからやりやすい」 , 「スピードがついた」などと報告していた。. 図2.「跳び箱を利用して踏み切り位置を高くする方法」(高橋ら1992から転載). 図3.踏み切り板を用いた方法(高橋ら1992から転載). - 80 -.
(4) 「踏み切り逆上がり」の指導におけるGボールを使用した“踏み切り動作”の援助. 図4.柔道帯を用いた幇助法(知野ら2013より転載). 図5.直接幇助法(高橋ら1992より転載) Ⅳ.使用例と考えかた 1.使用例 図6は,「踏み切り逆上がり」を未習得の学習者である。 踏み切り動作 から「腕屈伸による肩角減少」はできているも のの「上方への移動」と「後方への回転」が連動した 身体をひっくり返す動き ができていないため, 「腰部で鉄棒をつ かむこと」 (渡辺,2008)ができていない(図6の②∼③)。 図7は,図6と同じ学習者が,踏み切り位置にGボールを置いて行ったものであり,「踏み切り逆上がり」の全体経過が 発生しているのがわかる。 幇助者は,図7のように,実施者の正面に座りながらGボールを押さえ,踏み切り時にGボールが動かないようにする。 2.Gボールの意味 図7-②のような位置で踏み切ることにより, 踏み切り位置が高くなる。踏み切り位置が高くなれば, 「肩角の減少」 (金子, 1984,p159)も容易になる。また,図7の③を見ると, 踏み切り動作 の局面において,Gボールが踏み切り脚によって 沈み(図7-②コマ),その沈み返し(弾み)により,肩角を閉じながら,リズムカルに逆位に持ち込めているのがわかる(図 7の②∼④コマ)。このように,踏み切り位置が高くなること,ならびにGボールの弾みを利用することで「肩角の減少」 が容易になると考えられる。以上のGボールの働きにより, 踏み切り動作 から 身体をひっくり返す動き が連動しやす くなるものと推察される。肩角の減少を助けるために「直接幇助」で腰や背中を支える方法も一般的に行われるが,他者 による直接幇助を受けることなく「踏み切り逆上がり」の全体経過を類似体験できることは,実践上の大きな意味をもつ だろう。なぜなら,Gボールの弾みを利用しながらも踏み切りから自力で肩角を減少させる動感経験の充実は「踏み切り 逆上がり」の粗形態発生に向けた感覚素材として利用され得る可能性があると考えられるのである。まとめると以下のよ うになる。. - 81 -.
(5) 山 本 悟 ⅰ)Gボールを踏み切り位置に置くことによって,踏み切り位置が高くなる。これにより「肩角の減少」が容易になる。 これは,跳び箱を置いたり(図2) , 「踏み切り板」 (図3)を置いたりするような方法と類似した役割である。 ⅱ)Gボール特有の弾力が 踏み切り動作 の際に弾みとなり,その弾みから得られる反動を利用することで, 踏み切り 動作 から 身体をひっくり返す動き が連動しやすくなること。 ⅲ)他者の直接幇助をうけることなく「踏み切り逆上がり」の全体経過の類似体験ができる。Gボールの弾みを利用し ながら,自力で肩角を減少させる動感経験は「踏み切り逆上がり」の学習を進める上で,感覚素材として利用され る可能性がある。. ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑥. 図6.「踏み切り逆上がり」における 身体をひっくり返す ことができない動き(未習得者による実施) ①. ②. ③. ④. ⑤. ⑥. 図7.Gボールを使用した「踏み切り逆上がり」の実施例(未習得者による実施) Ⅴ.終わりに 本研究では, 「踏み切り逆上がり」において,踏み切り動作 から 身体をひっくり返す動き ができない学習者について, Gボールを使用した 踏み切り動作 の援助の例を提示した。こうした練習方法の工夫は実践現場の学習者や指導者が練習 を進める上での手がかりとなるだろう。今回の報告では,学習者の動感内容に触れていない。また,幇助用具を外すプロ セスや他の幇助法との機能の違いについては触れることができていないため別稿で報告したい。. - 82 -.
(6) 「踏み切り逆上がり」の指導におけるGボールを使用した“踏み切り動作”の援助 Ⅵ.文献 朝岡正雄ら訳(1995) : 『選手とコーチのためのスポーツの技術トレーニング』,大修館書店:東京. 知野昌夫・周東和好・山本悟(2013) : 「鉄棒運動『踏み切り逆上がり』の幇助用具と練習方法の開発」,スポーツ運動学 研究第26巻,pp.119-131. 林 恒明(2009) : 「器械・器具を使っての運動遊びから器械運動の指導」,体操競技・器械運動研17,pp.45-46. 金子明友(1974) : 『体操競技のコーチング』 ,大修館書店:東京. 金子明友(1984) : 『教師のための器械運動指導法シリーズ3鉄棒運動』,大修館書店:東京. 金子明友(2002) : 『わざの伝承』 ,明和出版:東京. 金子明友(2005a) : 『身体知の形成(上)』 ,明和出版:東京. 金子明友(2005b) : 『身体知の形成(下)』 ,明和出版:東京. 金芳保之・高橋健夫(1985) : 『逆上りの指導(その2 ) -逆上りのつまずき-』 ,体育科教育33(12),pp.56-61. 川島 孝・太田昌秀・丸山芳郎(1986) : 「鉄棒運動のさか上がりに関するモルフォロギー的研究」,日本体育学会 第37回大会号A巻,p.254. 木田 元・村田純一・野家啓一・鷲田清一(1994):『現象学事典』,弘文堂:東京. 木村敏(2008) : 『自分ということ』 ,ちくま学芸文庫:東京. クルト・マイネル/金子明友訳(1981) 『スポーツ運動学』,大修館書店:東京. 栗原英昭・楠戸辰彦・吉田茂(2014) : 「器械運動の道しるべ-鉄棒運動『逆上がり』」,日本体操競技・器械運動学会プロジェ クト研究報告,http//jsg.sakura.ne.jp/works/project/pro2014_sakaagari.pdf(2019年9月現在) 長澤靖夫(1982) : 「逆上がりのできない子『あしかけ逆上がり』から入る『逆上がり』の練習法」 ,体育科教育30(10), pp.39-41. 野田智洋(2004): 「踏み切り逆上がりの習得におけるブランコ運動の有効性に関する事例研究」,体操競技・器械運動研 究12,pp.11-25. 太田昌秀(1987) : 「鉄棒運動のFelgaufschwung vl.rw.に関する体系論的考察」 ,上越教育大学研究紀要6( 3 ),pp.215227. 太田昌秀編(1990) : 『小学校体育実践指導全集第4巻器械運動』,日本教育図書センター,pp.167-178. 太田昌秀(1992) 『楽しい器械運動』 ,ベースボールマガジン社:東京. 高橋健夫・三木四郎・長野淳二郎・三上肇編著(1992):『器械運動の授業づくり』,大修館書店:東京. 渡辺敏明(2008):「運動学に基づいた『逆上がり』の教材づくり」,日本スポーツ教育学会第28回大会号,p.46,配付資料. 注 注1) 踏み切り動作 「踏み切り」については文献によって「踏切り」「踏み切り」など,送りがなが異なる。本論では,引用する際には引用 元をそのまま使用し,筆者の論述には「踏み切り」とした。ここでいう 踏み切り動作 とは, 「上方移動」と「後方回転」 という課題を解決するための「肩角減少の技術」(金子,1984,p.159),すなわち「腕屈伸による肩角減少技術」と「振 り上げ足による肩角減少技術」 , 「踏切り足による肩角減少技術」 (金子,1984,p.160)とが関連した意味での「踏み切 りの局面」の動きを指している。 注2) 身体をひっくり返す動き 踏み切り局面では,上体が上で下体が下にある。踏み切って,腹部で鉄棒をつかむ局面では,上体が下で下体が上にな る。ここに至るまでの 踏み切り動作 から肩角を減少させ「上方移動」と「後方回転」をするという動きを 身体をひっ くり返す動き とした。 注3)幇助用具 金子によれば「一般に,コーチまたは同僚が練習者の技さばきを直接に支えてやったり,抱きかかえてやったり,或い は安全のために着地位置に立ってやったりすることを『幇助』する」という(金子,1987,p.250) 。補助との違いにつ いて「補助とは何らかの不足を補充して助けるという意であり,補うことが活動の中心であり,その補充の結果,今まで の不足が解消されて助かるという,極めて消極的意味しかない。技を正しく成功させるために積極的に手助けをしていく 行為を表す必要がある。 (中略)消極的な 補助 ではなく,積極的意活動として捉えられてはじめて,コーチング上に重 要な位置を占め得る」と述べている。本論でこのような金子の意味において,幇助という語を用いる。. - 83 -.
(7) 山 本 悟 注4)Gボール 本論で使用したGボールは,ギムニクボール65(品番:LP9565,サイズ:65cm,カラー:青)である。 注5)Gボールを使用した踏み切り幇助 逆上がりの学習にGボールを使用した方法は紹介されているが(栗原ら,2014) ,それは背中側にGボールを置き,学 習者の身体を支えるものであるため,自力で「踏み切って逆さになる」という動感経験とは本質的に異なる。また,踏み 切り板を用いた場合は, 「踏み切って逆さになる」という動感経験はできる。しかし,事例の学習者は踏み切り板では, 踏み切り板が固く,弾まないため,動きが大きく改善されなかった。Gボールは踏み切り板より柔らかく,初心者の弱い 踏み切りでも弾むと発想したのである。 注6) 一度だけ「踏み切り逆上がり」が達成されていた… この事例においては,一人で「踏み切り逆上がり」が達成されたが,その際の映像は収集することができていない。し かしながら, 踏み切り動作 から 身体をひっくり返す動き の局面がスムーズになっていることは確認できており,その 様子は映像として保存できている。. - 84 -.
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