任することができることとすることは、憲法14条1項に
違反しないとした事例
Author(s)
武市, 周作
Citation
沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL
OF LAW & ECONOMICS(5): 85-94
Issue Date
2005-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/5970
沖縄大学法経学部紀要第5号 【判例研究】
地方公共団体が、公権力の行使にあたる行為を行なう
ことなどを職務とする地方公務員の職を包含する
一体的な管理職の任用制度を設け、日本国民に限って
管理職に昇任することができることとすることは、
憲法14条1項に違反しないとした事例
武市周作 キーワード地方公務員・公務就任権・定住外国人 管理職選考受験資格確認等請求事件(最高裁判所平成10年(行ツ)第93号平成17年1月26日大法 廷判決) 【事実の概要】 韓国籍の特別永住者X(原告・控訴人・被上告人)は、昭和63年に、保健婦として、東京都(被 告・被控訴人・上告人)に採用され、平成6年度及び平成7年度に管理職選考を受験しようとした。 しかしながら、受験資格について、東京都人事委員会の定める平成6年度管理職選考実施要項で明 文規定はないものの、受験者が日本の国籍を有することを前提としており、また、平成7年度の同 要項には、受験資格として日本国籍を有することが明記されており'、両年度ともにXは受験する ことができなかった。これに対して、Xが、平成7年度及び平成8年度の管理職選考試験受験資格 を有することの確認と、試験を受けられなかったことを理由として、損害賠償を求めたのが本件訴 訟である。 第一審(東京地判平成8年5月16日)は、Xの管理職選考試験受験資格を認めず、確認請求を却 下し、損害賠償請求を棄却した。理由は、次の通りである。すなわち、平成7年度の受験資格につ いては、「既に当該年度の試験は実施ずみであることが明らかであり、右の確認が現在の原被告間の 法律関係に何らの影響を及ぼすものではないから、その確認の利益がないというほかはな」く、ま た、平成8年度の受験資格については、当該年度の管理職試験実施要項が決定されていない限りに おいて、「原被告間の具体的な権利義務関係をめぐる紛争が存するということはできないのである から、確認の利益がないといわざるを得ない」という理由である。さらに、損害賠償請求について は、外国人が、「公権力の行使あるいは公の意思の形成に参画することによってわが国の統治作用に かかわる職務に従事する地方公務員に就任すること」は、憲法上保障されておらず、「上司の命を受 けて行う補佐的・補助的な事務、もっぱら専門分野の学術的・技術的な事務棟に従事する地方公務 員に就任すること」が憲法上「許容されている」として、請求を破棄した。 控訴審(東京高判平成9年11月26日)は、次のような理由で、受験資格確認請求については棄却、 損害賠償請求については認容した。受験資格については、-審判決後、平成8年度の管理職選考も 実施済みであるから、受験資格の「確認の利益がないといわざるを得ない」とした。損害賠償請求 -85-については、H本国籍を要件とすることができるかどうかは、公務員の種類を分けて考えなければ ならず、本件管理職試験の受験機会を奪うことは、「憲法22条第1項、第14条第1項に違反する違法 な措置である」とした。その概要は、次の通りである(ここでは上告審のまとめたところを引用す る)。地方公務員の「管理職は、地方公共団体の公権力を行使し、又は公の意思の形成に参画するな ど地方公共団体の行う統治作用に関わる蓋然性の高い職であるから」、外国籍の地方公務員が、当然 に管理職に任用される権利を保障されているとすることは、国民主権原理に反する。しかし、「管理 職の職務は広範多岐に及び、地方公共団体の行う統治作用、特に公の意思の形成へのかかわり方、 その程度は様々なものがあり得るのであり、公権力を行使することなく、また、公の意思の形成に 参画する蓋然性が少なく、地方公共団体の行う統治作用かかわる程度の弱い管理職も存在する。し たがって、職務の内容、権限と統治作用とのかかわり方、その程度によって、外国人を任用するこ とが許されない管理職と許される管理職とを分別して考える必要がある。そして、後者の管理職に ついては、わが国に在住する外国人をこれに任用することは、国民主権の原理に反するものではな い。」「上告人の管理職には、企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行い、事案の決定権限を有 せず、事案の決定過程にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在している。このように、管理職 に在る者が事案の決定過程に関与するといっても、そのかかわり方、その程度は様々であるから、 上告人の管理職について一律に外国人の任用(昇任)を認めないとするのは相当でなく、その職務 の内容、権限と事案の決定とのかかわり方、その程度によって、外国人を任用することが許されな い管理職とそれが許される管理職とを区別して任用管理を行う必要がある。そして、後者の管理職 への任用については、我が国に在住する外国人にも憲法22条1項、14条1項の各規定による保障が 及ぶものというべきである。」「上告人の職員が課長級の職に昇任するためには、管理職選考を受験 する必要があるところ、課長級の管理職の中にも外国籍の職員に昇任を許しても差し支えのないも のも存在するというべきであるから、外国籍の職員から管理職選考の受験の機会を奪うことは、外 国籍の職員の課長級の管理職への昇任のみちを閉ざすものであり、憲法22条1項、14条1項に違反 する違法な措置である。」 【判旨】 地方公共団体は、職員に採用した外国人について、国籍を理由として、給与、勤務時間、昇格等 について、差別的取扱いをしてはならない(労働基準法3条、112条、地方公務員法58条3項)が、「普 通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異な る取扱いをすることまで許されないとするものではない。また、そのような取扱いは、合理的な理 由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもない。」「管理職への昇任は、昇格等 を伴うのが通例であるから、在留外国人を職員に採用するに当たって管理職への昇任を前提としな い条件の下でのみ就任を認めることとする場合には、そのように取り扱うことにつき合理的な理由 が存在することが必要である。」 「地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当 たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画 することを職務とするもの…については」、その職務の遂行は、「住民の権利義務や法的地位の内容 を定め、あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわ -86-
i''1細大学法経学部紀要第5弓
りを有するものである」から、「国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治の在
り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条、
15条1項参照)に照らし、原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任する
ことが想定されているとみるべきであり、我が国以外の国家に帰属し、その国家との間でその国民
としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体
系の想定するところではないものというべきである。」「そして、普通地方公共団体が、公務員制度を構築するに当たって、公権力行使等地方公務員の職
とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用
制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべき
である。そうすると、普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で、日本国
民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由
に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、
労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。そして、
この理は、前記の特別永住者についても異なるものではない。」
「これを本件についてみると、…被上告人は、東京都人事委員会の実施する平成6年度及び同7年
度の管理職選考…を受験しようとしたが、東京都人事委員会が上記各年度の管理職選考において日
本の国籍を有しない者には受験資格を認めていなかったため、いずれも受験することができなかっ
たというのである。そして、当時、上告人においては、管理職に昇任した職員に終始特定の職種の
職務内容だけを担当させるという任用管理を行っておらず、管理職に昇任すれば、いずれは公権力
行使等地方公務員に就任することのあることが当然の前提とされていたということができるから、
上告人は、公権力行使等地方公務員の職に当たる管理職のほか、これに関連する職を包含する一体
的な管理職の任用制度を設けているということができる。」「そうすると、上告人において、上記の
管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して、職員が管理職に昇任するための
資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めたとしても、合理的な理由に
基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置
は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではない。原審がいうように、上告人の
管理職のうちに企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行うにとどまり、公権力行使等地方公
務員には当たらないものも若干存在していたとしても、上記判断を左右するものではない。」
【検討】 1.事案の確認と検討の順序本件は、特別永住者である在日韓国人xが、東京都職員の管理職昇任選考試験を受けられなかっ
たことについて、受験資格があることの確認と、損害賠償を請求した事件である。xは、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」に
定められた特別永住者であるが、昭和63年4月から、保健婦として東京都に採用されている(東京
都は昭和61年から保健婦の採用要件から国籍要件をはずしていたが、それまでは、旧自治省が内閣
法制局による「当然の法理2」が地方公務員にも当てはまるとしていたことを受け、採用時に国籍
要件を設けていた。昭和61年に旧自治省は、保健婦は、「専門的、技術的な業務であり、公権力の行
-87-便、公の意思の形成への参画には該当するものではない」と通知した)。 東京都人事委員会が実施する管理職選考は、東京都知事、東京都議会議長、人事委員会その他が 任命権を有する職員に対する課長級の職への第1次選考としてされ、この選考に合格した者は、任 用候補者名簿に登載された後、数年後に最終的な任用選考を経て管理職に任用される。この過程に おける第1次選考こそが、Xの受験しようとした試験である。この試験は、東京都人事委員会の定 める管理職選考実施要項に基づいて実施されてきた。裁判所の認定した事実によると、平成6年度 の同実施要項には、受験資格の国籍要件について明文規定はないものの、日本国籍を有することを 前提としており、また、翌年度の同実施要項の内容は前年度のものとは異なり、受験資格の国籍要 件が明記されるようになった。 さて、本件は、原審が、外国人の公務就任権の国籍要件について、公務員を大きく3つに区別し て考えたものとして注目されたのであるが、それに対する上告審であり、大法廷において、どのよ うな判断を下されるか注目を浴びていた。上告審は、結論として、Xを敗訴させたのであるが、そ の理由は次の通りである。すなわち、(1)公権力の行使にあたる公務員への就任権は、-特別永住者 であるとを問わず-外国人には保障されていない、(2)地方公共団体は管理職任用制度の構築にあ たって、日本国籍職員と外国籍職員とを区別することは合理的であり、憲法14条に違反しない。 一審からの当事者の主張を眺める中で、本件の法的問題点を挙げていく。Xと東京都の主張は、 次のようなものである3゜とりあえずここでは主張の結論だけを示すことにする。まず、Xは、次 のように述べて、管理職選考試験の受験資格を日本国籍だけに限定することの不合理性を主張す る。 ①国籍要件は法律に基づいておらず、法律による行政の原理違反 ②公務就任権を保障した職業選択の自由違反 ③出生を理由に人格の自由な発展可能性を奪い、幸福追求権違反 ④国籍の違いによる差別的待遇であり、憲法14条違反 ⑤労働基準法3条(均等待遇)違反 ⑥地方公務員法(以下、地公法)13条(平等取扱い)違反 ⑦能力の実証以外の国籍で昇任を阻害し、地公法15条(能力の実証による昇任)違反 ⑧地公法19条1項(受験資格の平等原則)違反 これに応える形で、東京都は次のように主張する。 ①公務就任権は、外国人には保障されない。 ②機関委任事務があるから、「国家/地方」公務員の区別は合理的ではない。 ③外国人は公務就任権が保障されていないから、法律による行政の原理に違反しない。 ④憲法13条に公務就任権は含まれない。 ⑤管理職は公権力の行使や公の意思の形成への参画に携わる。 ⑥地方公務員法13条にいう「国民」には外国人は含まれない。 ⑦日本国籍を有しない者は、地方公務員法19条1項の適用を受けない。 ⑧管理職選考は、地方公務員法19条にいう「競争試験」とは性質の違うものである。 -88-
沖縄大学法経学部紀要第5号
本稿では、Xの公務就任権を侵害するという主張について、憲法上の問題点を中心に論じていく。
以下では、まず-外国人の-公務就任権の憲法上の根拠について今日の学説の整理を確認し、次に、
公務就任権の限界としての「公権力を行使する職務」・「公の意思に参画する職務」、さらに、今日外
国人の類型論が説かれることが多いが、それが本件にどのような影響を及ぼすか、という順で検討
する。なお、国籍要件については、地公法をはじめ、法律上の明文規定が置かれておらず、先にみ
た「当然の法理」が事実上の根拠となっていた点について、Xは、「法律による行政の原理違反」
を主張しており、この点も重要な問題であるということだけは記しておく。
2.公務就任権マクリーン事件』を代表するように、外国人の人権保障について、「権利の性質上日本国民のみを
その対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ」とし
て、権利性質説の立場に立つのが通説・判例である。その限りにおいて、まず、公務就任権の性質
を検討する必要がある。その際、公務就任権は、憲法上明文で規定されていないから、そもそもど
のように保障されるか、あるいは、保障されないか、を明らかにしなければならない。
公務就任権の憲法上の根拠としては、-審判決は、「外国人に対して憲法22条1項の職業選択の自
由…の各規定の適用があるとしても」と述べ、また、控訴審判決も、外国籍の職員から管理職の機
会を奪うことを、憲法22条1項に違反すると判示しているように、公務就任権の問題を憲法22条の
問題と捉えているように読める。これに対して、最高裁は、外国籍職員に対して管理職選考試験を
受けさせないことについて、外国籍であるというだけで差別してはならないとして、平等権・平等
原則の問題として捉えているため、公務就任権の憲法上の根拠については触れていない。
学説においても、今日、憲法22条の職業選択の自由を根拠とする見解が有力に説かれている5゜
これは、就職の選択肢としての公務員という側面から、「その人がその人らしく暮らすこと(=自己
実現)に深く関わるものである、職業選択の自由の一環としてとらえる6」考え方である。職業選
択の自由が、「権利の性質上」、外国人に保障されることは認められるとするのが一般的であろうが、
さらに保障の範囲については検討の必要性が残されている。公務就任権を除いて考えても、職業活
動には公共の利益に大きく影響を及ぼすものもあり、そのようなものについては、政策的な制約な
ど特別な限界が課されると一般的には考えられる7゜しかし、それを考える場合に「公務員になるこ
とすべて」を公務就任権と捉えて、経済的自由権の制約に関する-比較的一緩やかな違憲審査基準
を適用してしまうのでは意味が失われる8.公務員には「一くくりにはできないくらい多種多様な
職種があり9」、その限りで、制約目的も様々なものが考えられうる。保障範囲の答えは、決して単
純ではないが、概ね、すぐ後にみるように、公権力の行使にかかわるか否かが大きな区切りになる
ようである。すなわち、最高裁の立場や学説における消極説によると、違憲審査の論理でいえば、 公権力の行使にかかわる職務について外国人を排除することは、合理的であると結論づけられるこ とになるだろう。 これに対して、公務員の職務の公務'性を重視して、憲法15条で公務就任権を扱うのが従来の通説・判例の立場である'0.選挙権の延長として公務就任権を保障することになると、公務就任権の公務
性が強調される。この点、公務'性を強調しすぎると、公務員全体とまではいかないまでも、東京都
の主張のごとく、管理職全体から外国籍職員を排除することを安易に繋げる傾向にあるように恩わ -89-れる゜しかしながら、他方で、「自己統治に関わる参政権と理解するなら、『孤立する少数者』の声 がきちんと反映するという意味でも、(定住)外国人を排除すべきではないという結論」を導いたり、 さらには、「国家・社会を構成する人たちの多様な声が公務の遂行に反映する必要があることを考え るなら、『公権力を発動し人民に対する命令強制を内容とする職務』や『地位』の公務員を含めて広 く、(定住)外国人も就任できると結論づけることもできうる」と指摘する見解は有意義である。 公務就任権の憲法上の根拠を明確にすることは、本来ならば、その保障の程度を明らかにするこ との一端になるだろうが、次にみるように、外国人の公務就任権についていえば、結局、権利の性 質論とはうまく関連させられてこなかった印象を受ける'2゜これは公務就任権においては、やはり その公務性、とくに公権力との関係が指摘され、職業選択の自由と捉えるとしても、制約の要請が 強く働く可能性を残し、また、参政権と捉えると、権利と公務の』性格について判然としないことか らくるように思われる。 従来の学説は、外国人の公務就任権について、消極説、中間説、積極説に分かれてきた'3. 消極説は、外国人であるからという理由だけで全面的に排除することの問題は残っていると指摘 しながらも、「憲法上の権利としては」保障させるに及ばず、それは、世界人権宣言21条2項、国際 人権規約25条(c)にも現れているとする。これらの条約はどれも、自国における公務就任の権利を 調うだけで、決して、「他国」において公務員に就任することを意図していないということになる。 しかし、他方で、このように述べたからといって、常に消極的でなければらないわけではない。す なわち、確かに、憲法上の「権利としては」保障する必要はなくとも、保障が許容されていると考 えることもでき、そうなると、外国人を公務員に就任させるかどうかは国あるいは地方公共団体の 裁量ということになる。ただし、このような考え方は、消極説とは一線を画する立場となろう。 これに対して、積極説は、公務就任について外国籍の者を排除することを当然視する無制限な「当 然の法理」は、窓意的に過ぎると指摘する。そして、外国人を類型化することなく「日本国籍のな い者=外国人」と捉える見解を批判し、一般外国人と定住外国人のそれを区別することなく、まし て、特別永住者の特殊な地位を考慮することなく、公務就任あるいは管理職任用から一律に排除す るのは不合理であるとする。さらに、たとえ外国人の公務就任を抑制することが合理的であったと しても、目的と手段の関連性から考えて、一律に排除するのではなく、一定の比率に限定した任用 を考えるなど、より人権を制限しない手段でなければならない。より制限的でない規制を考えるな らば、国家意思形成に直接参与する公務員と一般事務職・一般技術職・教員などの公務員とを区別 し、後者の公務員について、定住外国人を排除することは、排除する側が、職務の機能や目的上の 強い必要性を積極的に立証しなければならないとする。 中間説は、「非管理的・機械的な公務/公権力を行使する公務」の区別だけでなく、公権力を行使 する公務であっても、「公権力の発動として人民に対する命令強制を内容とするような職務」か、そ うではなく、「調査的・諮問的・教育的な職務」など、さらに細かく分類することも可能である。 中間説・積極説の述べるような、公務員の種類に応じた対応の違いを、本件控訴審判決は展開し た。このようにして当然の法理を限定している限りにおいて、中間説や積極説の立場を-全面的で はないにしろ-踏まえているとみることもできる。ちなみに、周知の通りであるが、控訴審は、① 「国の統治作用である立法、行政、司法の権限を直接に行使する公務員」、②「公権力を行使し、又 は公の意思の形成に参画することによって間接的に国の統治作用に関わる公務員」、③「上司の命を -90-
沖縄大学法経学部紀要第5号
受けて行う補佐的・補助的な事務又はもっぱら学術的・技術的な専門分野の事務に従事する公務員」
に区別している。そうした上で、地方公務員の管理職であっても、公権力を行使するわけではなく、 公の意思形成に参画する職務でないものもあることを認めたのである。 これに対して、上告審は、公権力の行使・公の意思形成への参画という区分に基づいて論を展開 している。すなわち、公権力の行使に当たる行為を行ったり、地方公共団体の重要な施策に携わる 職務については、「国民主権原理に基づき」、日本国籍を有する者に任せられなければならないとし た。さらに、管理職任用制度の構築について、地方公共団体は広い決定権をもち、外国籍職員と日 本国籍職員とを区別することは合理的であるとした。 ここで問題なのは、公務員の種類を分けた控訴審も含めて、-審から上告審まで、外国籍職員の 管理職選考から排除する根拠として、「国民主権原理」を挙げている点である。控訴審においても、 「国民主権原理だけから、公務就任の制約基準を導こうとする裁判所の苦心のあとが」みえると指 摘されている'4゜この論理は、憲法は特別永住者の地方選挙権を保障することを許容しているとした 最高裁判決(最三小判平成7年2月28日民集49巻2号1頁)においても用いられている。この事件 は、確かに、特別永住者に地方参政権への道を開いたという点で意義のある判決ではあるが、国民 主権原理を用いることで、外国人の国政選挙権を否定することになっており、また、地方選挙権に ついても「許容」されるにとどまっているのは、まさに国民主権原理によって、憲法15条1項の参 政権が外国人には保障されず、「地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであ ることを併せ考え」、憲法93条2項にいう「住民」から外国人は排除されることになったからである。 しかしながら、「国民主権原理にもとづく『国家的正当性」は、自治体選挙から外国人を排除する ことを要求するものではない'5」と考えるべきであろう。したがって、外国人の国政選挙権を否定す る論拠として、同原理を援用することはできたとしても、地方公共団体の公務員においては常に援 用できるわけではない。 地方参政権最高裁判決のように地方公共団体を国家統治機構の不可欠の要素とすると、国民主 権原理によって簡単に公務就任権からの外国人排除の論理が導かれることにはならないかが懸念さ れる。さらに、公務員となると、国家統治機構の不可欠の要素である地方公共団体の事務を執り行 うことになり、より外国人排除の論理に近づくことになるとも考えうることにはならないか。こう なると、地方自治の活動であるといっても、-裁判所の論理に従えば-国家の要素となりうる蓋然 '性は極めて高く、そうであるから、一括して、地方公務員への就任権を否定してしまうということ になりかねない。このように考えれば、先に挙げた東京都側の主張②にあるように、機関委任事務 をその職務の一部とする可能性がある職については、国家の職務に携わる可能性がある限りで、そ れを根拠に外国人を排除しやすい。他方で、機関委任事務が全廃された今日においてはもはやこの 論拠は適用できない。ただし、訴訟上は、平成7.8年度の受験資格をめぐった争いであるから、 機関委任事務を論拠とする議論が少なくとも当時は一応の有効性をもつことを否定するものではな い。とはいえ、機関委任事務であるからという理由だけで、国民主権原理を根拠に外国人を排除で きるかどうかは当時から問題ではあった。 やはり控訴審判決が述べたように、公務員の種類にも様々なものがあり、その職務に応じて個別 的に判断していかなければならないという枠組みが重要となる。その限りで、上告審が管理職任用 制度を単純に肯定してしまうのは、怠慢な印象を受ける。管理職内に様々な職務があることと、管 -91-理職である限りにおいて公権力行使に携わったり公の意思形成に参画せざるをえないことのバラン スが求められる。この際、確かに、後者にだけ重点を置いてしまえば、一括して管理職任用制度に ついて外国人を排除することは容易であるが、-上告審の結論からすれば、そもそも公務就任権が 保障されたものではないから「制限的である」という問題が生じないということになるが-制限的 に過ぎるであろう。 このように公務員の職務の種類だけで捉えては、公権力の行使・公の意思形成参画という基準に 合致した公務員であるというだけで、すべて外国人は一律に排除されてしまうことになろう。ま た、さらにいえば、地方参政権に関する最高裁判決においては、「永住者等であってその居住する区 域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常 生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地 方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を識ずること」を憲法上許容し ており、少なくとも永住者については「公の意思形成参画」が認められているのにもかかわらず、 本件では「公の意思形成参画」に携わる管理職に就任することは認められないという論理になって いるのは適当でない'6。 3,外国人の類型 地方参政権に関する最高裁判決においては、永住者等を特別に扱ったが、そうであるならば、地 方公務員の管理職昇任についても、特別永住者であるXに対して、その実態に見合った対応を求め られているのではないだろうか。ここでは、永住者が他の外国人に比べて保護を厚くされているの であるが、外国人の類型についてみておく必要がある。 外国人の人権保障について考える場合、権利の性質論にとどまることなく、さらに、外国人の類 型についても加えて考察していく必要がある。一般に、外国人の類型については、大きくは「定住 外国人」と「一般在留外国人」に分けられる'7゜ ここでいう特別永住者は前者に含まれることになるが、定住外国人とは、①第2次世界大戦時に 日本の侵略によって、直接あるいは間接的に、日本に来ることが避けられなかった韓国・朝鮮人、 中国・台湾人など、②①の子孫で日本で生まれ育った者、さらに③日本に3年以上居住し、生活 の基盤が日本にあって納税の義務を果たしている外国人などが挙げられる'8.本件Xは、②に該当 することになる'9. 定住外国人は、このように、国籍は異なっても、日本がまさに生活の本拠なのである。そうであ るとすると、少なくとも、地方公務員に就任する(地方公務員採用試験を受験する)権利は、日本 国籍を有する者と等しく保障することが求められるのではなかろうか。しかし、本件は、就任より
進んだ、管理職への昇任の問題で、その限りで、先の職務に関する公権力性の区別が大きく影響す
ることになる。本件では、場合によっては、最高裁は、日本国籍職員に最も「近い」特別永住者職員であっても
保障されないのだからと強く排除しているようにとることもできなくはないが、むしろ、外国人の
種類について無頓着にも読める。特別永住者が、歴史的にみても、また、実際の生活状況、すなわち、日本に生まれ日本で育ち日本で職業に就くという道がいわば余儀なくされている状況から考え
ても、その法的扱いは特別なものでなければならないであろう。その特別さがどの程度まで求めら -92-沖縄大学法経学部紀要第5号 れるかは難しい問題ではあるが、少なくとも先の地方参政権に関する最高裁判決に関連させ、「公の
意思形成参画」に関わる管理職への昇任は認められるべきであろう。もちろん、永住者に対する地
方参政権の許容説に立っている限りにおいて、立場を一貫させるべきであるという視点からは、管
理職選考試験受験資格についても許容するというのが第一段階にはなろう。さらにここから、要請
されているとするためには公務就任権が保障されているところから論じ、また、「公の意思形成参 画」に関わる管理職を許容したとしても、結局、「公権力の行使に関わる管理職」というカテゴリーを提起すれば、その範囲が暖昧であることもあって、Xのような特別永住者らを排除することは難
しくないように思われる。しかしながら、論理的にいえば、公権力の行使だけを基準とする方が分 かりやすいであろう。 4.現状 現在、10を超える政令市や、大阪・神奈川などの府県が、公務員の一般職の採用に際して、国籍条項を撤廃している。このような流れは、平成8年から、当時の自治省が、「当然の法理」の基本原
則は維持するものの、職種に応じて対応を変えるのは地方自治の責任であり、運用次第では一般事 務職員についても国籍要件をはずすことはでき、外国人の採用機会の拡大に向けて努力すべしとい う方針転換をしたため、1111埼市が、消防職を除くすべての職種で採用時の国籍条項を撤廃した(川 崎方式)のを受けてのことである。しかしながら、他方で、管理職への任用については制限を置い ているところの方が多い。川崎市は職種によって管理職の任用制度を整備しているし、兵庫県川西 市では、外国人男,性が管理職に昇任しているなどという例もあるが、大勢としては、採用時の国籍 条項撤廃どまりである。 国際的な対応を見ると、EU諸国では、外国籍であるEU市民に公務員に就任することを認めるこ とも少なくないようであるが、さらに「スウェーデンやアイルランドでも、公務員の国籍要件は、 別に憲法や法律が明文で定める場合であり、そうでなければ原則としてEU市民以外の外国人住民 も就任可能である」ようである20゜ このような対応を見る限りでは、地方公共団体は、各地方によって対応は異なるが、外国人の採 用には前向きな姿勢である。しかし、管理職への任用については、難しいようである。本件の結果 が、これからの地方自治体の管理職も含めた公務員任用制度に対して、萎縮的な影響を与えるので はないかが懸念される。 圧 ’一般的には、「日本国籍を有する人で、昭和○○年4月2日から○○年4月1日までに生まれた 人」という形で資格が定められている。反対に、国籍条項を廃止している職については、「日本国 籍を有する人で、」までがなくなっている。 2「当然の法理」とは、「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員となるために は日本国籍が必要」とする見解で、旧自治省や法務省の見解であった。 3中谷実「外国人の人権一選挙権・公務就任権一をめぐる司法積極主義・司法消極主義(-)」南 山法学24巻2号(2001)11頁。 4最大判昭和53年10月4日。 -93-浦部法穂『全訂憲法学教室」498頁以下(日本評論社.2000)、井上典之・小川剛・山本一編 『憲法学説に聞く-ロースクール・憲法講義一』157頁以下(日本評論社.2004)。 根森健「『外国人の人権」論はいま」法学教室183号(1995)46頁。 例えば、芦部信喜編「憲法Ⅲ人権(2)有斐閣大学双書」73頁以下(有斐閣・’981)参照。 近藤敦「居住権と正規化一立憲性質説の概要と在留特別許可の比較研究」エコノミクス4巻3.4 号(2000)240頁によると、職業選択の自由としての公務就任権である限りで、「公益としての安全 保障上の必要性と個人の当該公務員職を選択する利益との比較衡量に基づく制約のみが許される と解すべきである」(近藤敦「外国人の公務就任権」憲法判例百選I(別冊ジュリスト154号)15頁)。 これは、公務就任権の限界に関する論理を明確に示している点で評価できるが、「公益としての安 全保障上の必要性」に優る「個人の利益」を想定することは、とりわけ外国人であることに配慮 すると、容易ではないように思われる。とはいえ、このような具体的な指摘は極めて有用である。 根森・前掲注(7)46頁。 最大判昭和43年12月4日は、立候補の自由に関する事件であるため、公務員への就任も含めた 公務就任権とは少し異なるが、公務就任権の根拠として憲法15条1項を挙げる。なお、佐藤幸治 『憲法〔第三版〕』464頁以下(青林書院・1995)は、「公務就任の端的な根拠は、『幸福追求権』 にあると解される」としている。 根森・前掲注(7)46頁。 根森・前掲注(7)45頁は、これまでの権利性質論について、「きわめて抽象的で観念的で形式 的な『性質』論であ」ると指摘している。 中谷・前掲注(3)、12頁以下。 近藤敦「外国人の公務就任権」憲法判例百選I(別冊ジユリスト154号)14頁。 長尾一紘「外国人の地方参政権」同「外国人の参政権」81頁(世界思想社.2000)〔初出:徐龍 達『共生社会への地方参政権』(日本評論社.1995)所収〕・ 近藤敦・前掲注(14)15頁。 今日の憲法学説によると、このように、外国人を「定住外国人/一般在留外国人」さらには「難 民」も含めて分類し、それぞれの類型に応じて保障の程度を考えていくというのが一般的であろ う。これに対して、近藤敦『外国人の人権と市民権』343頁(明石書店、2001)(初出:「在留特 別許可の展望と課題」法政研究68巻1号271頁(2001))は、在留外国人の実態をさらに詳しく分 類し、「一般在留外国人」の中にも、「非永住型の正規滞在者」と「非正規滞在者」を区別する必 要があることを説いている。確かに本件のような特別永住者の場合には問題は少なく、外国人 の類型の中でも特別な保障を及ぼす論を展開しやすい側面を持っているが、他方で、外国人一般 の人権論を論じる際には-また、これは、先の権利性質論と同様により具体的に検討していく必 要があろう-,超過滞在の外国人が様々な意味で社会問題となっていることは否定できず、それ が外国人の人権保障にとって特別な配慮を必要とする限りで、この指摘は注目すべきである。 徐龍達『定住外国人の地方参政権』5頁以下(日本評論社・’992)。 本件一審判決で認定された事実において、「Xは、昭和25年に岩手県で出生した大韓民国籍の外 国人であり」と記載されている。 近藤敦「外国人参政権と国籍』171頁以下(明石書店・1996)、近藤・前掲注(14)15頁。 5 6 8 9m 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 -94-