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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六)

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Academic year: 2021

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一 298 凡  一 、﹁翻刻 ﹃雪梅芳譚犬の草紙﹄ ︵ 十五 ︶ ﹂ ︵ ﹃ 京都光華女子大学/京都光華女 子大学短期大学部 研究紀要﹄第五十三号 、平成二十七年十二月︶の後を 承けて、 京都光華女子大学図書館蔵﹃雪梅芳譚犬の草紙﹄の﹁八編下﹂を、 図版を掲げつつ翻刻する。合巻 ﹃雪梅芳譚犬の草紙﹄ については、 ﹁初編上﹂ の翻刻を掲載した﹃光華日本文学﹄第十二号の﹁凡例﹂を参照いただきた い。 一、翻刻の方針のみあらためて掲出する。 1、図版は各丁見開きを一面とし、丁付けにより﹁一ウ、二オ﹂のように 示す。 2、本文翻刻は、やはり︹一ウ︱二オ︺のように冠し、改行位置は/で示 し、丁移りは   ]で示すが、書入れについては丁付けにこだわらない。 3、一面が二枚の絵組から成る場合、翻刻の方のみ半丁ごとに分離する。 4、原文はできる限りそのままとするが、漢字仮名とも、異体字、略体字 は現行のものに改めた。 5、読みやすくするため、句読点を補い︵ただし、序文の句点は原文のま まとし、その旨を断わった。まれに原文中に出てくる句点には、 ︹ ママ︺ と傍注した︶ 、 会話文については﹁   ﹂を、 会話中の会話文には   を 補った。原文にある﹁   は﹃   に改めた︵原文の ﹂あるいは   ﹄は、﹄と した︶ 。さらに仮名を適宜 、漢字に置き換え 、その場合もとの仮名をルビ に移した。 6、 原 文の振り仮名は、 右と区別するために︵   ︶に入れた。ただし、 袋 ・ 表紙および序文等、一部原文のままの振り仮名に︵   ︶をつけなかった

翻刻﹃雪梅芳譚犬の草紙﹄

︵十六︶

川  

嘉  

隅  

田  

三  

図版 1 八編上原裏表紙(色刷)、八編下原表紙(色刷)

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二 297 ところがある。その場合は、その旨を断わった。 7、書入れは本文のあとへ一段下げて、文意の通り易い順に記した。 8、本文中にある読み進めるための合印については 、すべて ● で統一し た。 9、﹁初編下﹂に至って出てきた、本文中の ○︵段落を改める意識で使用 されている模様︶は、その位置にそのまま翻刻した。 一 、末尾に 、前号までに倣って 、﹁八編下﹂に出るもののみながら 、登場人 物名︵まれに地名もある︶と、元の読本﹃南総里見八犬伝﹄の相当する名 称との対照表を付した。 ︹原表紙︺ ︵振り仮名は原文のまま︶ 一名八犬傳/犬 の/草 紙 八編下 一陽齋豊國画 ︹原表紙見返し︺ 犬の/雙紙 八編/下/巻 仙果鈔録 豊國画圖 紅英堂梓 立齋筆 図版 2 原表紙見返し(色刷)、十一オ

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 三 296 ︹十一オ︺ 三 ○昨 夜の/酒 に非 義 /六夫 婦 /よく寝 て/篠 児が行 き/しも知 らず。/五 ゝ 過 ぎに● ●目 を覚 まし 、/ ﹃やい男 共 /女 共 、篠 児めは/はや行 きをつ たか﹂/ ﹃はい 、もう疾 つくに● ●御 発 足 。二里か三里は行 かれませう﹂ /﹃なんぢや、もう行 つたと。無 礼 者 め。/旅 立 ちに黙 つて行 くとは何 /事 だ﹂ ﹃いへ 〳 〵 貴 方の枕 元 へ/若 旦 那 はおいでなされ 、もう参 り/ます と 仰 つたれば、 行 き遣 れ〳 〵 と、/たゞ一 口 ﹂ ﹃ 何 、そんなことを﹂/ ﹃それでは寝 言 でござりまし/たか。道 理 で乙 なお声 で/あつた﹂ト笑 へば、 非 義 /六いよ〳 〵 腹 立 ち、/﹃何 のそれが汝 等は/可 笑しい。可 笑しい手 間 /で、お 佂 の前 より/まづ/庭 口へ/塩 を/振 れ。/其 処らも/三遍 /掃 き /出 し/をれ 。/嗚 呼まづ/一 方 /休 まつて 、何 だか今 朝は/暇 なやうな 。 破 魔 児 は如 何/した 、まだ起 きぬか 。何 だ 、/気 合 が悪 いと 。大 事 の/体 ゝ、気 を付 けろ。 つぎへ ︹十一ウ︱十二オ︺ つゞき 瓶 さゝ、あれが口に/合 ふ物 を拵 へ食 はせ/てたも。持 ち越 しのせ へか/して俺 も胸 が/痛 いやうな﹂/○さても篠 児、岳 藏は、/大 須 賀 村 を 離 るゝ/時 、岳 藏は足 を/止 め﹃今 に帰 る/旅 なれど、親 の/墓 へ立 ち寄 り て/暇 乞 ひしたし﹂/と言 ふ。 ﹃ 兄 弟 の/誼 を結 べば/御 身 が母 は/即 ち我 が/母 ﹂篠 児も ﹁共 に/行 かん﹂とて 、田の畔 /三丁余 り/入 れば 、 注 連/縄 を引 き/纏 ひて/古 りたる/大木の● ●榎 あり。/この下 に土 / 高 く小 さき/祠 を建 てたるが 、/岳 藏が母 の/墓 なりけり 。をち/こち人 これを/名 付 けて行 女権 /現 と呼 びなしつ 。/香 の煙 不 断 /燻 り、 手 向 け の花 /何 時も枯 れず、常 に/詣 づる人 絶 えず。こは/その始 め、岳 藏が/母 は雪 にて凍 え死 に/なせしを 、非 義 六指 図 /してこの木 の下 に埋 み/させ 、 榎 の肥 やしにならば/なれと、石 の標 はさて/おきぬ、小塔 婆 一 本 立 て/ てもやらず 。その後 岳 藏/十に余 り 、この/ことを悔 しく/思 へど 、幼 / 図版 3 十一ウ、十二オ

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四 295 ければ力 /もなく 、 /常 に/これを/苦 に病 み/しが 、きつと思 ひつくこ と]ありて 、或 る夜 、かの墓 へ行 き/榎 に登 りて高 き枝 に/注 連縄 を一 筋 引 き掛 け/置 きつ 。明 けの朝 、田に出 づる/人 〴〵 見 付 けて怪 しみ恐 れ、 ﹁この/木は神 の憑 きたるか 、またこの塚 の/亡 霊 が今 に中 有 に迷 うて /ゐて 、問 ひ弔 ひが受 けたさに妖 しき/業 をするにやあらん 。如 何にも/ あれ、捨 て置 かば/祟 りあらん﹂と/言 ひ出 だし 、/祠 を/建 て注 連を/張 り/供 物 /なんど/供 へて/祀 れば、/聞 ゝ伝 へて/遠 くより/参 詣 する/ 者 少 なからず 。 / の頭 も/信 心 〴〵 から 、/ましてやこれは/孝 の為 /謀 りし/ つぎへ ︹十二ウ︱十三オ︺ つゞき 幼 子 の/ 志 を/天 道 の哀 れ/と思 し召 したりけん 、 誰 言 ふとな くこの墓 の霊 は 、 /女の病 には かなる験 ありと 、次 第 〳〵 に / 人 の群 れ来 て、 祈 れば忽 ち利 益 あり 。/非 義 六も聞 ゝ捨 てられず 、人の挙 りて信 ずるに/恐 気 立 ちて祟 りを恐 れ、 始 め祠 を/建 てし人に米 一俵 づゝ取 らし ける/とぞ。こは八九年 昔 のことなり。/衛 次 が妻 は幸 ひなく、知 らぬ/ 旅 路 に行 き疲 れ、浅 ましき]死 に様 なりしが、良 き子 を/持 ちて天 道 の/御 恵 み深 く 、/亡 き霊 を/神 にさへ祝 ゝれて/斯 く人 〴〵 に / 敬 はるゝは 、 /また羨 ま/しき幸 ひなら/ずや 。されば二 人は/母 の塚 懇   ろに/伏 し 拝 み、それより洲鴨 す  かも /西瓦 にし   かはら 、箕回 みの わ 、石濱 いし はま 、墨田河 すみだ がは /渡 れば武 蔵 も/後 になりぬ 。/疑 ひ深 き/非 義 六等 、後 /より人 を/付 けまじき/も のにあらずと、/道 にては猶 打 ち解 け/ては物 言 はず。されども/然 様 の気 色 も見 え/ねば 、 やう 〳 〵 に/安 なし 、/その夜 は/栗 橋 の/駅 に宿 り ぬ。 / は や 許 我 こ が へは/四里 の道 中 、●]● 暁 /がけて発 つ/にも/及 ば/ ず。相 /宿 りの/人も/無 け/れば、/こよ/ひは/夜 す/がら語 り/明 か し日 頃 の鬱 /を晴 らさんと 、嘆 /きつ笑 ひつ物 /語 る言 葉 に絶 え間 は/な かりけり。]篠 児は/再 び/神 宮川の/一 /件 /を詳 /しく/語 り、/非 義 六が/浅 ましき/巧 みを/語 り 、 / ﹁さり/ながら/我 /水 れ/んを/ ●●/得 たる/故 、はかり/ことも空 しく/なり、年 頃 /執 念く念 がけし/ 御 太 刀をも思 ひ切 り、手 放 して/許 我 へ遣 るは定 めて本 意 なく思 ふらん﹂/ 図版 4 十二ウ、十三オ

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 五 294 ト言 へば岳 藏声 を潜 め、 ﹁ 御 太 刀のことも/念 は抜 けず 。神 宮川にて仕 損 じ て も、 猶 /懲 りずまに和 殿 をば殺 さん心 はいよ 〳 〵 /止 まず 。和 殿 を 片 付 け御 太 刀を奪 ひ、 預 け/置 かれし田畑 も返 さず 。陣 代 ひがみを婿 /に 取 らんと 、 この四ツを一 つも欠 ゝさず一 度 に/成 就 あらせん手 配 り﹂ ﹁そ れを知 るは如 何に﹂/と言 ふに、 ﹁昨 日各 〳〵留 守 のほど、伯 母御 は つぎへ 大權現 狸益子 狸 賽銭 賽 行女大權 行女大 ︹十三ウ︱十四オ︺ つゞき 我 を/招 き寄 せ、 岳 /藏 、手 前 を/供 に遣 るは大 /事 の用 事 を/さ せう為 。言 ひ/出 し難 きこと/なれど、篠 児は/甥 にてありながら/前 の世 にはかた/きであつたか 、此 方/の人 を親 の/仇 の、 年 頃 /日 頃 付 け狙 ひ、 /寝 首 を掻 ゝんと/する様 子 。/確 かに証 /拠 もなきこと/なれば 、言 へ ば/血 で血 を/洗 ふ恥 と、/盾 になり/陰 に/なり/●]●今 日まで/事 な く暮 らし/たが、彼 奴 が/今 度 許 我 への/旅 立 ち、●]●事 も遂 げずに/帰 るならば、いよ〳 〵 /此 方の人を恨 み]何 事 をし出 すか知 れず。/事 の起 こ らぬその先 に、 / 頼 むは手 前 が剛 勇 大 力 。/一 刀   に刺 し殺 し腰 物 を/奪 ひ 取 り、そつと持 て来 て儂 に/渡 しや。残 りの路 用 も其 方に/やる。為 果 せた らば大 きな手 柄 。/七 つから使 ひ慣 れて心 の知 れた/正 直 者 。婿 にして跡 /取 らせう。この脇 差 は我 が/父 上 、正 作 様 のお差 添 。/守 り刀 に貰 うて おいた/きりいちもんじと呼 ぶ業 物 。/これを貸 さうと、これこの脇 差 / 渡 して無 理 に泣 き面 で甥 を/殺 すも夫 の為 。俺 ほど因 果 な/者 はないな どゝ、出 もせぬ洟 を 䔯 み/二 人が日 頃 仲 悪 しく見 するに/ され、浅 はかに 心 の底 を/打 ち明 けらるゝに、その時 我 は/勇 み立 ち、 犬 須 賀 殿 には遺 恨 あり 。/お主 の光 を刃 に添 へ 、/討 たば手 利 ゝの犬 須 賀 殿 もやはか/討 図版 5 十三ウ、十四オ

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六 293 たれぬことあらじ 。一 命 捨 てゝ/仕 留 めませうと真 しやかに/肯 ひし が、 我 なればこそ事 も/起 こらぬ 。余 人 に剛 毅 の者 ありて/この謀 計 を肯 はゞ用 心 /弛 まぬ和 殿 なれども、こと面 倒 に/候はん﹂ト言 ひつゝ刀 を つ ぎへ ︹十四ウ︱十五オ︺ つゞき 指 し示 せば 、﹃かの人 /達 の腹 汚 さ 。さもあらん/さもあらん 。 養 ひの恩 にむ/くいず立 ち去 るは義 にあらねど 、/亡 き父 の遺 言 にも ﹁姉 /夫 婦 か 志 改 まり/なば、汝 もまた実 を/尽 くせ。弥 増 しに悪 心 勝 / らば、御 太 刀を守 護 して早 く/去 れ﹂とは今 際の教 訓 。預 け/置 きたる田 畑 あれば彼 処の/養 ひ実 は受 けねど 、 かほどの/心 底 見 る上 は 、いよ 〳 〵 以 て/義 理 は な し。 御 太 刀も凶 事なく/持 ち出 づれば 、何 を嘆 き誰 を/恨 み ん。嗚 呼この刀 も祖 父の/形 見 、今 思 はずも見 る嬉 しさ。/兄 弟 の御 身 が 手 に渡 りたるも/自 然 の幸 ひ 。 いざやこれより諸 /共 に、 許 我 へ行 きて身 を立 て給 へ﹂ト/言 へば 、岳 藏吐 息 を吐 き﹃ 元 来 /望 むことなれど 、従 ひ 難 き/謂 はれあり 。見 殺 しにされた/母 の敵 と言 はゝ言 ふべきなれど 、/ 七ツ八ツより養 はれ 、人 に隠 /せど剣 術 、柔 、馬 に乗 り/弓 を引 く武 道 のあらまし/心 得 しも、師 匠 を取 らぬ/我 が儘 なれど、今 人 並 みの/人 ゝ 成 るも推 して行 けば主 ]人 の恩 。暇 も乞 はで立 ち/退 きては 、友 達 には義 あれ/ども主 人 には忠 に/あらず 。されば少 し身 に傷 /付 け、 篠 児は討 ち 漏 らしたりと/偽 り言 ふて帰 り行 き 、その/上 にて暇 を取 り、 後 より/ 許 我 へ赴 くべし 。また愛 ほし/きは破 魔 児 殿 。 暁 方 に/立 ち聞 ゝして男 泣 きに泣 き/ました 。我 だにあらば如 何にも/して過 ちもせさすまじ 。と もかくも明 日はまづ大須 賀 へ/帰 るべし﹂ト言 ふ言 葉 には強 ひ/ても止 め得 ず。次 の日猶 よく/言 ひ語 らひ、二 人は左 右 へ/別 れけり。○破 魔 児 は篠 児 に/別 れてより、蚊 帳は取 れども/起 きも上 がらず、心 地悪 し/とて物 を食 はず 。二 親 は/気 を苛 ち、 医 者 よ按 摩 と/騒 ぎても 、いよ 〳 〵 心 は/爽 や かず 。﹁ 陣 代 への婚 礼 /如 何に 〳 〵 ﹂とぬるでより日 毎 /夜 毎 に催 促 して 、 今 日も/また手 紙 を遣 せ﹁ 今 非 義 六に/来 れ﹂とあり 。驚 き入 つて駆 け/ 行 くに、媒 次は苦 りきつたる/顔 色 。 ﹃ 今 に篠 児は家 に/居 るか、婚 礼 は何 図版 6 十四ウ、十五オ

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 七 292 とする 。何 時までも●]●延 ばしておくは余 りで/あらう﹂とやり込 むれ ば、/﹃もうお案 じなさり/ますな。今 朝ほど篠 児は/追 ひ遣 りました。但 し/何 と取 り留 めた病 /でなけれど、娘 が/ぶら〳 〵 、 今 にまだ/起 きま せぬ﹂ ﹃ そりや当 /分 のことであらう 。まァ/一 つの邪 魔 払 うて/大 慶 。こ の由 告 げて/取 り決 めすべし﹂ト/機 嫌 直 して非 義 六を/待 たせてひがみが /屋 敷 へ行 き、やゝ久 しく/して帰 り来 り、/﹃ひがみ殿 にも/大 喜 び。 嫁 /御 は風 邪でもひいたで/あらう。此 方へ迎 へて/婿 が手 ゝ療 治 を/すれば 直 治 らう。/さてこの程 は大石殿 、/鎌 倉 の留 守 なれば/婚 礼 の願 ひは/出 されず 。 親 の服 喪 /まだかゝれば 、表 /立 ちての披 露目は追 つて 。/まづ 客 分 で]ひつそりと美 味い物 は/宵 に食 へ。明 日は吉日/内 祝 言 、婿 入 り を/兼 帯 で四 つ過 ぎに/村 長 が所 へ/行 つて 杯 済 まし、/嫁 御 を誘 ひ帰 る/べし 。かの内 〳 〵 のこと/なれば 、 道 具 は遅 く/なつてもよい 。着 の 身 /着 のまゝ、体 さへ/連 れて来 ればそれでよい。/早 く〳 〵 と大 急 ぎ。 /その通 り用 意 /召 され。万 一 明 日/の夜 、間 違 ひがあつ/ては、貴 様 は言 ふまで/なし 、 俺 も腹 を/切 らねば済 まぬ﹂トおご/そかに言 ひつけられ 、 /非 義 六は一 義 に/及 ばず 、たゞ ﹁はい 〳 〵 ﹂と/畏 まり 、﹁ あ 。 しか し/ 破 魔 児 があの病 気 。/垢 だらけても良 い/ならば、これも如 何か/なり ま せう﹂ト/嬉 しい中 にも/心 は済 まず、/帰 りて つぎへ   ﹃年 寄 りはいけません 。何 時かもお嬢 /様 のさう 仰 つたものを 、また /今 日も忘 れました。帰 るとすぐに/お届 け申 します﹂ ﹁ 白 粉は中橋 の/ 蔦 屋 の曙 の富 士 、白 芙 蓉 の/上 はござりませんと、破 魔 児 も/常 に申 し てをります 。/不 躾 ながら代 /物 が安 くて/沢 山 で/そして極 上/製 で /ござり/ます﹂ ︹十五ウ︱十六オ︺ つゞき この由 /瓶 ざゝに物 語 れば/大 きに喜 び、 ﹁ 陣 代 /殿 へ嫁 入すには 拵 へに/気 が張 つて並 大 抵 ではある/まいと 、有 り様 胸 に痞 へたが 、/後 は如 何なれ、差 し当 たり● ●着 替 へ/にも及 /ばぬとは/注 文 /しても/ できぬ/仕 合 /はせ 。 /たゞ/片 /意 地 な/あの/むす/め 、● ●納 得 / さすに骨 が/折 れう﹂ ﹃俺 も/それが何 より/苦 労 。もし/違 つては/ 四の 図版 7 十五ウ、十六オ

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八 291 /巻 へ ] 四 三の巻 より 互 ひの身 の上 。斯 う〳 〵 / 言 つたら斯 うやつて﹂と言 ひ合 はせ て 、/瓶 ざゝは破 魔 児 が寝 間 へ赴 き/つゝ 、﹃ 小 屏 風 でもこの暑 さに引 き /回 しては鬱 陶 し い、 病 に障 る﹂ト/押 し畳 み﹃ 何 ぞ食 べたい物 はない か。/嫌 ひな酒 もちと飲 んで、うき〳 〵 と /しやらぬか。先 の薬 か効 いた かして/今 朝よりは色 も良 い。 其 方の病 気 の/原 ゝいふは大 方 篠 児が痞 への種 。/そりや許 嫁し た 男 、/娘 心 の一 筋 に思 ひ/込 んでゐやらう が 、あれは此 方の/父 様 を親 の敵 と/付 け狙 ひ、 怪 しい/素 振 りのある/ 故 に/世 間 でも/評 判 /悪 く 、 この/村 にも/居 難 ゝなり/許 我 へ参 ると /噓 吐 いて、実 は/何 処へか逐 電 /した。神 宮川て/勿 体 ない、非 義 六/殿 を突 き落 としたは/去 に掛 けの駄 賃 とやらか。/運 が強 くて船 頭 が助 けたの でまァ幸 せ。 ● ●斯 う言 ふが/偽 りか 、/岳 藏が/帰 つたら聞 いてみや れ。 / 違 ひはない 。あの様 な/悪 者 が一 つに/寝 たこともなくて● ●/何 の/其 方を/思 うて/ゐよう。/をゝ、/怖 や恐 /ろしや。あんな/者 に貞 女 /を立 て、 く し 〳 〵 / 思 ふは愚 痴 のい/たり 。親 に苦 労 /をかけるは不 孝 。/あれには百倍 /男 も良 い/婿 を、 母 が/取 つてやる 。それ 、/何 時 ぞやお泊 まりなさ/れたひがみ様 が/御 懇 望 。提 灯 に/釣 り鐘 の不 釣 り合 ひも/御 承 知 。非 義 六殿 は/昔 気 質、 つぎへ ︹十六ウ︱十七オ︺ つゞき 悪 者 /でも篠 児は先 /約 、其 方のこゝ/ろも量 りかねる/と御 辞 退 はな/されしが、 今 では/篠 児は家 に居 ず、 /駆 け落 ちしたこと/御 存 じで、 仲 人 の/ぬるで様 、矢 の催 促 /に嫌 とは言 はれず、/今 に 杯 さすで/あら う。早 う気 合 ひを/ようしやれ。嫌 と/言 やれば親 も其 方も/身 の詰 まりに なるはいの﹂と/脅 しつ賺 しつ/勧 むれば 、破 魔 /児 は ﹁ はつ﹂と/肝 潰 れ、/はやはら〳 〵 と/涙 を/催 し/泣 き沈 /みしが、気 を/取 り直 し/ ﹃思 ひも寄 らぬ/縁 組 み沙 汰 。嫌 と/申 すは不 孝 なれど 、 /あいとは如 何も 図版 8 十六ウ、十七オ

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 九 290 言 はれ]ませぬ 。犬 須 賀 様 に/恐 ろしい心 根 あるとは/気 の迷 ひ。 十 年 ば かり/一 つに居 れど 、私 の/目 にはさうは見 えぬ 。/縦 し悪 人 で/あらう とも、一旦 /家 出 をなさ/れうとも、/親 様 /達 の口 /づからおさ/だめな された/私 の/夫 。なかう/どは村 の/お衆 。/去 り状 /を取 らぬ/内 、 /また/他 へ/嫁 入しては間 男 では/ござんせぬか 。止 せと言 ふこそ/親 の役 。勧 めて不 義 をさせうとは 、/私 は合 点が参 りませぬ 。犬 須 賀 /様 の お手 づから 、去 り状 を貰 /はぬ内 は何 処へも行 きや致 し/ませぬ﹂トすつ かり言 はれて口 /あんごり 。 非 義 六つッと進 み入 り、 ● ●洟 打 ち/ 䔯 んで ﹃これ/瓶 ざゝ 、もう/何 も言 はしやるな 。なに/破 魔 児 、手 前 はまァ親 も /恥 ぢ入 る貞 女 かな 。なま/じひなことし出 来して母 も/さそ 、俺 も赤 面 。 可 愛い/余 り好 い目 が見 せたく/恩 も義 理 も忘 れたを、恨 みに/思 ふも無 理 でない 。篠 児が家 に居 ぬ/上 はと 、陣 代 殿 ゝ厳 しい催 促 。/長 いものには 巻 かれろ。水 は低 みで/ものも言 はせず、退 つ引 きならぬ手 詰 めの縁 談 。/ 当 座 逃 れに承 知 したれば 、はや結 納 も/贈 ら れ て、 明 日は斯 う〳 〵 斯 う 〳 〵 と、 今 ではとても嫌 とは/言 はれず 。 言 へば我 等 もたゞでは置 かれぬ 。 あの陣 代 の権 威 / で は、 一 村 空 にしようと儘 。親 子 三人殺 されるも/それ だけの約 束 と諦 めもしておかうが 、それよりは我 が/皺 腹 切 つて言 ひ訳 す るかみんなの為 。瓶 ざゝ止 めるな 、/俺 や死 ぬ ﹂ ト、 脇 差 すらりと逆 手 に 取 れば、 つぎへ 手跡指南青地 ︹十七ウ︱十八オ︺ つゞき 瓶 さゝは腕 に縋 り、 破 魔 児 も/寝 床 を転 び出 で ﹃まァ 〳 〵 待 つて﹂ /﹃いや止 めるな﹂ ﹃ゑゝ危 ない﹂ ﹃いや〳 〵 /死 ぬ。死 んで言 ひ訳 するはい やい﹂ ﹃あれ/のう父 さん 、待 たしやんせ﹂ ﹃そんなら/嫁 入 り得 心 か﹂ ﹃さ ァそれは﹂/﹃ゑゝ殺 しをれ、邪 魔 するな﹂/﹃これ破 魔 児 。嫌 と言 やれば /目 の前 に父 様 殺 /して手 前 は済 むか﹂ ﹃応 /と言 やるか﹂ ﹃あい﹂ ﹃実 に/ 行 く気 か﹂ ﹃あい 。行 くから/死 んで下 さんすな﹂/ ﹃ その場 で嫌 と/言 ふ 気 なら 、今 /殺 せ﹂ ﹃いゝゑィ/なァ 。 例 へば不 義 よ/悪 戯 よと言 はれた/ とて是 非 がない。 仰 る/通 りになりませう﹂/﹃本 当 ぢやの﹂/﹃あい﹂● 図版 9 十七ウ、十八オ

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一〇 289 ●/ ﹃そん/なら/痛 い]腹 は切 らぬ 。/をゝ 、愛 い/奴 ぢや 〳 〵 。/何 もかも/親 〳〵 が / 悪 いやう/にはせぬはい/やい﹂ト言 ひ/つゝ刃 を/ に収 め、 /笑 顔 作 /れば泣 き伏 す/破 魔 児 。/瓶 ざゝは/背 を撫 で/擦 り、 /湯 を/与 へ/●]●薬 を飲 ませ慰 め/ても 、頭 も擡 げず/泣 き噦 り して居 たりけり。/○十九日の真 昼 なりけり。鱧 次郎はやう〳〵起 き出 で、/ 楊 枝 銜 へて門 に佇 み/彼 方此方見 て居 るところへ 、● ●非 義 六が僕 の/ 湍 すけ 、/夏 大根 と/鍬 とを持 ち、 畑 の方 より通 り/掛 ゝり ﹃先 生 、只 今 お目 覚 めか。/よつほど早 い﹂ ト打 ち笑 へば/ ﹁朝 寝 坊 でも斯 うでもないが、 /神 宮川の川 風 があまり涼 /しいと思 ふとはや 、嚔 〳〵 と / 寒 気 立 ち、 水 洟 が不 動 の/滝 ほどたらり 〳 〵 と流 れ/出 すと 、火 炎 なら背 中 /といふと ころを腹 がほか〳 〵 / 熱 く、つひ〳 〵 一 日 /半 怠 けて、今 では大方 /まづ全 快 。それはさうと/庄 屋 殿 は盆 煤 掃 き/やらしやるか 、畳 を叩 くか]あ の物 音 。とんだ回 し/のよいこと﹂ゝ/言 へば、湍 すけは/打 ち/笑 /ひ/ ● ●/﹁なァに、/今 夜 は/婿 入 りが/あるとて/朝 から/大掃 除 。/障 子 を貼 るやら/垣 を結 ふやら/台 所 は猶 /混 雑 。この大根 /も膾 の用 意 。 /味 を擂 るより買 ひ/物 ゝ使 ひで足 も/擂 り粉 木 ﹂ト口 合 ひ/言 へば、鱧 次郎﹃何 、婿 /入 りとは、そりや誰 が。 つぎへ ︹十八ウ︱十九オ︺ つゞき 犬 須 賀 殿 は旅 へ行 くと聞 いたが 、延 ばして/俄 にまた﹂ ﹃何 の 〳〵、 他 の人 ﹂ ﹃ 他 とは誰 /ぢや﹂ト急 き立 つ顔 色 。 ﹃ 儂 も詳 しいことは/知 らぬ が、婿 様 は御 陣 代 ひがみ虬 六様 と/やら。何 時の間 にやら頼 みも来 て、座 敷 に立 派 に/飾 つてある 。見 がてら早 う取 り持 ちにお出 で/なされや﹂ト言 ひ捨 てゝ 、湍 すけはとつかは/急 ぎ行 く。 鱧 次郎はむしやくしや/腹 。 ﹃ 篠 児 は元 来 許 嫁 、 / 娶 されても是 非 なけれど、瓶 ざゝが/斯 う〳 〵 と 俺 に約 束 しておきながら 、陣 代 の襟 に/付 き、 大 事 を明 かし刀 をば掏 り替 へさせし 俺 をば/構 はす。よし〳 〵 、この返 報 には婚 礼 の座 敷 へ/踏 ん込 み、非 義 六 等 が悪 事 を顕 し]しくぢらして腹 を癒 ようか 。イヤ 〳 〵 此 方も/悪 事 の同 /類 。かの/太 刀さへ●]●我 が/手 にあれ/ば、第 一/我 が咎 /重 /から ん 。/刀 の/ことは/隠 し て / お き、 婿 に/せうと瓶 ざゝが/言 つたこと 図版 10 十八ウ、十九オ

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 一一 288 を/持 ち/出 し/ても/証 拠 /もなし 。/す/ぢも/立 ゝず 、/公 事 に/ しても/裁 /許 を/受 ける/陣 代 が婿 /なれば 、争 ひ/立 てをしては敵 / はぬ。とあつて、破 魔 /児 をぬく〳 〵 と ]虬 六連 れに/添 はしては、/この 虫 が/堪 忍 せぬ。/とても寝 返 り/打 つた奴 原 、 / 婚 礼 の最 中に/駆 け入 り、 婿 も親 子 も/斬 り尽 くし立 ち退 くも心 地良 し。/しかしこれは最 も危 ふし。 /それよりは忍 び込 んで破 魔 児 /をば拐 かし 、遠 くへ連 れ退 き/親 切 を尽 くしたらば 、篠 児とは/別 れる 、篠 児より俺 は男 も/良 し、 満 更 嫌 /とは 言 ひもせまい 。/もし強 情 を/張 つたなら 、売 女に/売 つても金 になる 。 /またかの太 刀も故 /主 へと思 うたが、出 所 を/推 されたら、ちと答 へ難 し。 許 我 殿 /も篠 児が居 つて理 屈 を言 ふと/こと怖 し 。 いつそ京 都 へ持 ち /出 して室 町 御 所 へ差 し上 げ/たらば 、きつと出 世 の手 蔓 に/ならう 。い づれに此 処を立 ち退 くが/上分 別 ﹂と心 を定 め、 着 類 /手 道 具 値 に構 は ず忙 /しく売 り代 なし 、路 用 として●]●/腰 に付 け 、日の/暮 れ行 くを 待 ち居 たり 。 ] ○破 魔 児 はとても死 ぬ覚 悟 、/死 骸 の見 苦 しからぬやう/ 人 に油 断 させんため、気 を/鬼 ゝして髪 取 り上 げ、湯 に/こそ入 らね、顔 先 手 足 /久 しぶりにて洗 ひ清 め、/汗 染 みたりし着 物 も取 り/替 へ、見 違 ふば かりになりけ/れど、臥 所は未 だ出 で/ざりけり。はや日も暮 れて/初 夜 近 き宵 闇 /紛 れ臥 所を抜 け/出 で縁 側 伝 ひ、 塗 /籠 の間 の垣 に/身 を寄 せて 外 面へ/巡 り出 でけるが、此 処は/納 戸の裏 に当 たり/崩 れなりの築 山 /あ り。 此 処に小 高 き松 /ありて高 塀 に添 うて/立 てり 。﹁ 何 時まで存 らふべき /身 ぞや。人の見 ぬ間 に疾 く/死 なん﹂と持 て来 し巻 き帯 /引 き伸 ばし、松 の下 枝に投 げ/掛 けて縊 れ死 なんと為 しつゝも 、 思 ひ/切 つても懐 かしき 篠 児がこと 、また実 の/親 、それやこれやに心 惹 かれて猶 /忍 び音 に泣 き 居 たり。かゝるところへ鱧 次郎、横 手 の/塀 の崩 れより四 つ ひになり忍 び 入 り、 暗 さは暗 し手 探 りに/蜘 蛛の巣 摑 む、 植 木 で目 を突 く、 辛 くも り 築 山 の つぎへ ︹十九ウ︱二十オ︺ つゞき 木 陰 に立 つたは確 かに破 魔 児 、縊 れ死 なんとする様 なり。 ﹁ 婿 を/嫌 うて命 を捨 てる操 は篠 児へか、この鱧 か。危 ないところへ/我 ながらよく 図版 11 十九ウ、二十オ

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一二 287 こそ来 れ﹂と、窺 ふとも知 らぬ破 魔 児 は念 仏 の/声 諸 共 に取 り付 く巻 き帯 、 鱧 次郎はしつかと抱 き留 め、 ﹃驚 き/給 ふな、 鱧 だ ョ 〳〵。 死 ぬには及 ばぬ、 連 れて行 く。無 得 心 な親 の非 道 、/腹 に据 ゑかね盗 み出 し、駆 け落 ちする用 意 はしつかり。案 じ給 ふな、/大 丈 夫 ﹂ト一 人飲 み込 み慰 むれば/﹃誰 か と思 へば鱧 次郎 、妨 げ/するな 、邪 魔 するな 。此 処を放 /して死 なせて﹂ ト振 り放 し/ても離 ればこそ 。﹃そん/なら篠 児が為 にする/真 実 であつた のか。/それではちと可 笑しく/ないが、斯 うなつては/もう意 地 尽 く。/ 腕 尽 くでも/連 れて退 く﹂ト、かよ/わき破 魔 児 を押 し/伏 せて、手 拭 ひ食 ませ小 脇 に/掻 い込 み、枝 に掛 けたる巻 き帯 は/天 の助 けと、また引 き纏 ひ /先 の方 を外 面へ投 げ出 し、/松 の梢 にひらりと登 り/帯 を力 にずり下 が り/野 良 の方 へぞ帰 り行 く。 母 屋 離 れし/所 なれば 、非 義 六夫 婦 その余 の 者 もこの物 音 も/聞 ゝつけず 、ひたすら今 宵の しの用 意 に余 念 /なかり しが 、はや初 夜 の鐘 音 すなり 。﹃ 今 夜 は格 別 /夜 が短 い 。もう其 方此 方婿 殿 ゝござる時 刻 に間 も]あるまい。遠 見 を出 しておくがよいぞ。破 魔 児 には 着 物 をば/着 せ替 へさせておくがよい。せめては紅 は付 けてやれ。案 ずるよ り/産 むが易 いと 、世 話 も焼 かせず湯 も使 ひ、 美 しうなつてゐた 。/いや まだ花 も生 けてない。 佂 の飯 が焦 げ臭 い。とんだ/ところに煙 草盆 、既 に踏 み壊 すところだ 。嗚 呼忙 しや﹂/ト非 義 六が喋 り回 れば 、瓶 ざゝは破 魔 児 が部 屋を差 し/覗 き﹃ 枕 に掻 い巻 きふはりと着 せ、 寝 た様 にして娘 は/ 居 ぬ 。どうも可 笑しい案 配 ぢや 。申 し 〳〵、 破 魔 児 は/居 ませぬ﹂ ﹃何 ぢ や、 娘 が見 えぬ 。てう/づにでも行 つたらう﹂ ﹃いゑ 〳 〵 居 ま/せぬ﹂ ﹁そ んなら湯 殿 か。蔵 でも/あるまい。さァ大 変 ﹂と呼 び/立 つれば、家 内 の者 も/肝 を消 し、 隈 〴〵 捜 /せど影 も無 し。 ﹁ 怪 し/きは高 塀 に瓦 の/落 ち たる所 もあり 。/松 から下 げたる巻 き/帯 は、 お 嬢 様 の何 時/もなさる ゝ黒 天 鵞 絨 で/ござります﹂ ﹁さては逃 げた﹂/と非 義 六は手 に持 つ花 /生 け投 げ出 だし 、眼 /据 わつて尻 居 にべつたり 、呆 れて顔 も青 褪 めたり 。/ ﹃さては篠 児めが釣 り出 したか﹂ト疑 ふ瓶 ざゝ 、非 義 六は/ ﹃いや 〳 〵 岳 藏 が付 いてゐれば、さう自 由 にはなるまじきが、/気 遣 はしいは鱧 次郎。家 に居 るか見 て来 い﹂と僕 を遣 れば/ ﹁空 き店 になつてゐます﹂と告 げ来 れ ば、 ﹁さてこそ彼 奴 が/業 なり﹂と﹁誰 は西 、彼 は東 、年 寄 りでも容 /赦 は 図版 12 二十ウ、原裏表紙見返し

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 一三 286 せられぬ 。湍 すけも行 け﹂と追 つ手 を出 だし 、二 人は顔 を●]●見 合 はせ て、 非 義 /六が花 生 けの水 に濡 れたる袴 も/拭 はず 、手 に冷 や汗 す。 握 り詰 め 、 ] ﹁ 白 粉を付 けぬばかり 、湯 を使 つたり/髪 結 うたに 、出 し抜 かれ たは此 方の粗 相 。/早 う連 れて戻 ればよいが﹂ト案 じに/暮 れたるその折 から 、神 宮川の/と太郎は け事 に打 ち負 けて/元 手 を借 りんと入 り来 れば/ ﹃良 いところへ 〳 〵 、 褒 美 は/幾 らほどでも遣 る。 斯 う〳 〵 の / 子 細 にて、/娘 と/鱧 が駆 け落 ち/した。追 つ手 に/行 つて下 され﹂/と頼 まれて /打 ち頷 き、/﹃そんなら先 /途 中 で見 た駕 籠の/女 中 は此 方の/ 娘 御 、 侍 は/鱧 めであつたか 。/駕 籠舁 きも知 つた奴 等 、/礫 川から 本 郷 へ/行 つたに違 はぬ 。もうち づ と/手 遅 れしたが 、追 つ付 かれぬ/こ ともあるまい。そんなら直 ぐ/様 、どりや一 走 り﹂と/尻 引 つ縛 れば﹃鱧 次 郎も/武 士 の浪 人 、素 手 ではあぶ/ない。これ差 して﹂と非 義 六が/差 し出 す脇 差 つぎへ ︹二十ウ︺ つゞき 取 るより早 く腰 にぼつ込 み、 /﹃ ぬ ら く ら 者 ゝ鱧 の骨 切 り 、/この 切 れ物 にも及 ばねど、/これでは龍 に/翼 とやら、羽 節 に/掻 い込 み雌 鳥 /雄 鳥 、手 捕 りに/するは今 の間 。/酒 熱 くして/お待 ちなせへ﹂ト/言 ひ捨 て/宙 を/飛 んで行 く。 来ル六月十九日/申下刻 火定/お円塚/山麓 寂寞道人肩柳 一名八犬傳/犬の草紙 舌者   仙果 画師   豊國 中橋つたやニて 九編引続 け/売 り出し   ○御薬 白 粉/白芙 蓉 /一包/三十六文   ○同薄 化 粧 /曙 の富 士 /一包/三十六文 図版 13 八編下原裏表紙八編上下袋

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一四 285   ○顔 の白 粉/桜 香/一包/廿四文   ○襟 白 粉/ぱつちり/一袋/四十八文   右は/板元/蔦 屋 /吉蔵方/にて/賣/広 め/申候 ︹原裏表紙見返し︺ ︵振り仮名は原文のまま︶ 嘉/永/□/甲/寅/春/新/鐫/目/錄 大 日 曙 草 紙  廿編/廿一編    京山作/芳綱画 連 理翅 山 䧗 奇 縁  五編/大尾    西馬補/芳綱画 八 犬傳犬の草 紙  廿八編/ヨリ/卅三編/マデ   仙果錄/豊國画/國貞画 松 浦船 水 棹 婦 言  三/四    仙果錄 /國芳画 御 贄 美 少 年 始  十編/十一編    同錄 /國綱画 八 重 撫 子累 物 語  二/三    同錄/國貞画 俠 客傳   摸 略 説  十編/十一編    西馬譯/同画 花 蓑 笠 梅 雅物 語  三/四    西馬譯/國輝画 嶋 巡 浪 間朝 日 奈  六編/七編    種員譯/國貞画 小 幡 小 平 次 物 語  初/二/三    五瓶作/國貞画 盬 屋 /文 正 今 草 紙合   十一編/十二編    仙果作/國輝画 東都南傳馬町一丁目/ 地本 草紙 問屋蔦屋吉藏板 ︹原裏表紙︺ 南/傳 ︹袋︺ 雪梅/芳譚 いぬの/さう/し 八編 立齋筆   廣/重 仙果録/豊國画 図版 14 七編八編改装裏表紙

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翻刻『雪梅芳譚犬の草紙』(十六) 一五 284 紅英堂梓 捺印 ︹十一オ︺ 衣/笠 濱 ︹原裏表紙︺ 北仲通/巴屋/四丁目 登場人物一覧 ︵八編下︶ 次に ﹃雪梅芳譚 犬の草紙﹄八編下の登場人物名 ︵その他︶を掲げ ︵読み 仮名 ・漢字とも表記は原文のまま︶ 、その下の ︻   ︼に 、相当する ﹃南総里 見八犬伝﹄の登場人物等の名を示す。 犬 須 賀 篠 児戍 孝︻犬 塚信 乃 戍 孝︼ 犬 須 賀 磐 作一 戍︻犬 塚番 作一 戍︼の子。磐作の死後、伯母瓶 ざゝと伯母 婿非 義 六夫婦に養われる。亡父から託された亡君持 氏︻足 利持 氏︼の宝 刀村 雨丸︻村 雨︼を、非義六の刀とすり替えられたことに気づかないま ま、持氏の末子成 氏︻成 氏︼に献上するために許 我 ︻許 我 ︼へと旅立っ た。 岳 藏︻額 藏 ︼ 非義六の下男。篠児と兄弟の義を結ぶが、非義六夫婦を欺くため仲の悪 いふりをしている。篠児の出立直前に、 瓶ざゝから篠児を殺すようにと、 密かに篠児の祖父大 須 賀 正 作 参 戍 ︻大 塚 匠 作 三 戍 ︼の脇差きりいちも んじ︻桐 一 文 字 ︼を渡されたことを、許我への旅に同行する途中の栗 橋 ︻栗 橋 ︼の宿屋で 、篠児に話した 。その翌日 、篠児と別れて一人 、大須 賀 村︻大 塚 村︼へと帰った。 大須 賀 非 義 六︻大 塚蟇 六 ︼ 大須賀村の村長。瓶ざゝの入り婿。磐作の死後、篠児を引き取り養育し ていた。篠児が許我へと旅立った翌日、娘の破 魔 児 とひがみ虬 六との婚 礼の準備をしている最中、破魔児と鱧 次 郎 の駆け落ちを知り、家中の召 使い達に破魔児を連れ戻すように命じた。 瓶 ざゝ︻龜 篠 ︼ 篠児の父磐作の異腹の姉で、非義六を婿に迎えた。篠児の旅に岳藏を同 行させ、途中で篠児を殺すようにと亡父正作の脇差を渡した。

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一六 283 破 魔 児 ︻濱 路 ︼ 非義六、瓶ざゝ夫婦の養女。許婚の篠児が許我へ旅立った翌日、突然自 分が虬六と婚礼させられることになっているのに驚き、初めは拒むもの の、非義六に脅されて一旦は承諾する。しかし篠児への思いから首を括 ろうとしたところを、鱧次郎に阻止され、連れ去られてしまう。 青 地 鱧 次 郎 ︻網 乾左 母 二 郎 ︼ 大須賀村に住む浪人。瓶ざゝに、破魔児の婿にする代わりに村雨丸を非 義六の刀とすり替えるように唆され、これに協力するが、実は更に密か に村雨丸を自分の刀とすり替えて盗み取っていた。虬六と破魔児との婚 礼を知り、腹いせに破魔児を無理矢理連れ去った。 ど太郎︻土 太 郎 ︼ 神 宮川︻神 宮河︼の船頭。非義六のもとへ金の無心に来たところを、破 魔児を連れ戻すようにと非義六に頼まれ、鱧次郎を追いかける。 湍 すけ︻背 介 ︼ 非義六の老僕。 ひがみ虬 六︻簸 上 宮 六︼ 大石ひやうゑのじよう ︻大 石 兵 衛 尉 ︼の陣代 。ひがみじや太夫 ︻簸 上 蛇 太 夫︼の子。父の死後跡を継ぎ、巡見した先の非義六の家で破魔児に 一目惚れをする。篠児が許我へ旅立った翌日に、自分と破魔児との婚礼 を挙げるようにと非義六に迫った。会話にのみ登場。 ぬるで媒 次 ︻軍 木五 倍 二 ︼ 虬六の下司 。虬六と破魔児の縁談を取り持ち 、篠児の旅立ちを聞いて 、 虬六と破魔児の婚礼を急がせた。 寂 寞 道 人 肩 柳 ︻寂 莫 道 人 肩 柳 ︼ 挿絵に名前のみ登場。

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