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東日本大震災と情報通信ネットワークのあり方

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Academic year: 2021

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(1)情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). 招待論文. 東日本大震災と情報通信ネットワークのあり方 服部 武1,a) 受付日 2013年9月13日, 採録日 2014年5月10日. 概要:我が国は,自然に恵まれている一方で,自然災害の多い国である.情報通信は災害においてきわめ て重要な役割を果たす.災害に強い情報通信ネットワークであることが望ましいが,災害の規模が大きく なると予測や想定がきわめて困難である.そのため,歴史や経験に学び対応をとることが大切である.本 論文では,3 年前に発生した東日本大震災における被害を振り返り,災害に情報通信の在り方について論 ずるとともに今後の課題について考察する. キーワード:震災,通信規制,固定と携帯電話,インターネット,eSIM. The Great East Japan Earthquake and Resilient Information and Communications Networks Takeshi Hattori1,a) Received: September 13, 2013, Accepted: May 10, 2014. Abstract: Information and Communication System will make an important role in case of disaster. However, the damages caused by disaster may not be predicted. We should learn the lessons from the history and experience. This paper shows the damage caused by the Great East Japan Earthquake flowed by the discussions and proposals of the countermeasures against large-scale disaster. Keywords: earthquake disaster, traffic control, fixed and mobile telephone, internet, eSIM. 1. はじめに 平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では,震. ある.東日本大震災を契機に,災害と情報通信に関して各 方面から様々な議論が行われたことは周知のとおりであ る [8], [9], [10], [11], [12], [13], [14], [15], [16], [17], [18].. 災に加え未曾有の大規模な津波により多くの尊い人命失. 本論文では,震災まもなく総務省が開催した「大規模災. われた.物的な被害としても建物,道路だけでなく通信. 害等緊急時の情報通信の在り方」[1] を中心にして述べる.. 設備にも大きな被害をもたらし通信が断絶される状況と. 同委員会では,有識者および通信事業者およびインター. なった.情報通信は日常的な活動における利用だけでな. ネット事業者およびプロバイダーなどをメンバとし,筆者. く,大規模災害などにおける災害情報,緊急通報や安否確. も委員会の構成メンバとなるとともにネットワーク WG. 認および復興などの手段としても重要な役割を担ってい. の主査およびインターネット利用 WG の副主査を務めた.. る.災害の規模が大きく広域の場合は,通信のニーズもそ. 本論文では,東日本大震災の被害を振り返るとともに同委. れだけ大きくなりトラヒックも通常に比べ飛躍的に増大. 員会の取りまとめの主要な内容および筆者の体験および意. し,逆に通信疎通能力が大きく低下すれば社会的な影響. 見を含め,災害に強い情報通信ネットワークの在り方と課. もきわめて大きくなり,災害に強いネットワークである. 題と考察および若干の提案について述べる.. ことおよび被災した場合に早急な普及がきわめて重要で 1. a). 上智大学理工学部 Faculty of Science and Technology, Sophia University, Chiyoda, Tokyo 102–8554, Japan [email protected]. c 2014 Information Processing Society of Japan . 2. 東日本大震災で生じた主な状況 東日本大震災は,当初マグニチュード 8.8 程度と報道さ れたが,その後 9.0 に訂正され数百年に 1 回といわれる地. 1718.

(2) 情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). 表 1 大規模震災比較. 表 2. Table 1 Comparison of two great earthquake.. 16 年間における通信システムの変化. Table 2 Communication systems after 16 years.. 震であった.約 16 年前の平成 7 年 1 月 17 日に発生した阪 神・淡路大震災との比較を表 1 に示す.両地震とも大きな 災害をもたらしたが,東日本大震災は,これまでになく広 域であることおよび大規模な津波の発生,さらには原子力 発電の被災ということが大きな特徴である.人的被害,家 屋の被害は,平成 26 年 3 月 11 日現在で判明した被害は, 死亡 1 万 5,884 人,行方不明 2,633 人,負傷者 6,148 人,家 屋全半壊 40 万 151 棟,家屋一部破壊 74 万 8,777 棟であり, 被害総額は最大 25 兆円と見積もられている [2], [3], [4].さ らに,原子力発電の被災により近傍の設備の復旧が困難と. 図 1. なった.また,首都圏では,鉄道の運行が見合わされ道路. 5 月 20 日時点の被災地の状況(報告者視察撮影) Fig. 1 Status and damage on 20th, May.. 交通が麻痺し大規模な帰宅困難者発生し,徒歩による帰 宅では,長時間にわたる自力帰宅となった.三菱総研のシ ミュレーションデータでは,長時間の帰宅困難者が 260 万 人,遠距離による非帰宅者が 600 万人となり,今までにな い新たな被害の側面であった [5].. 3. 16 年間における通信システムの変化 表 2 に阪神・淡路大震災時と,東日本大震災時における 主な公共通信システムの変化を示す.固定電話の加入数に 大きな変化はないが,公衆電話が大幅に減っている一方で 携帯電話が大幅に増加していることが分かる.さらに,携 帯電話のサービスも阪神・淡路大震災のときは電話が主体. 図 2. 検討会の構成. Fig. 2 Structure of study committee for anti-earthquake measures.. であったが,東日本大震災時では,データ通信やインター ネットアクセス,メッセージなどと大きく変わっている.. ことを認識した.総務省では,通信の被害状況および今後. インターネットについては,阪神・淡路大震災時では,一. の在り方について取りまとめを行うため委員会と WG を. 般に利用開始されてまもない状況で,一方で東日本大震災. 発足させた [1].その体制と構成を図 2 に示す.各事業者. 時は,普及と利用が大幅に向上していることが特徴である.. の報告による固定電話と携帯電話の被災状況を図 3 にそ. その他の変化は表に示すとおりである.. れぞれ示す [6]*1 . 具体的な被害としては,固定通信網については,NTT 東. 4. 通信設備の被災状況. 日本で,385 ビルが機能停止し,架空ケーブルが 6,300 km 筆者は,同年 5 月 20 日に仙台地域を視察した.仙台空 港が回復した当日である.図 1 にその状況を示す.写真に 見るように地震はもとより津波の破壊力がきわめて大きい. c 2014 Information Processing Society of Japan . (沿岸部)流出・損傷し,中継伝送路が 90 ルート切断され *1. 総務省「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方」参考 資料より作成 [6], [7].. 1719.

(3) 情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). 図 5. 東日本大震災における通信発信規制の状況. Fig. 5 Originating call restriction percentage after earthquake.. 図 3 東日本大震災における通信の被災状況. Fig. 3 Damages of communication systems due to earthquake.. 図 6. 固定電話のトラヒック量と通信規制(NTT 東日本)の時間的 推移. Fig. 6 Traffic volume and originating call restriction in time 図 4. basis.. 携帯電話基地局の停波の推移. Fig. 4 Number of disabled base stations in day basis.. を示す.固定電話は,80∼90%の発信規制を行っており, るとともに,電柱が 6.5 万本(沿岸部)流出・折損した.こ. 携帯電話もほぼ同様である.一方,携帯電話におけるパ. の結果,アクセス回線では,約 190 万回線(うち,KDDI,. ケット通信に関しては,NTT ドコモが東北地方で 30%規. ソフトバンクテレコム分が約 40 万回線)が被災した.. 制を行ったが他の事業者は規制を行わなかった.通信疎通. また,携帯電話については,総計で 1 万 4,890 局が機能停. 能力の特徴を表しており興味深いデータである.. 止したが,直接基地局が設備被害を受けた以外に複合的な. トラヒック量の時間的推移について,NTT 東日本の東. 要因によるものである.基地局と交換機の間の伝送路(エ. 京と宮城の例を図 6 に示す*2 .都内のトラヒックは発信・. ントランス回線)に NTT 東日本の伝送路を用いており,. 着信ともピーク時は平常時の 4 倍であった.一方,宮城県. 当該伝送路の被災の影響を受けたこと,また,長時間の商. では,全国からの着信が平常時の 9 倍,圏内通話は,平常. 用電源の停電によりバッテリーなどが枯渇したことによる. 時の 4 倍であった.被災地においては全国からの問合せに. ものであることが明らかとなった.. よるものと推定できる.. 携帯電話基地局の停波の時間的推移を図 4 に示す.同図 には停電戸数を合わせて示してある.震災直後に停電戸数. 次に,図 7 に NTT ドコモの東北地方における携帯電話 のトラヒックと発信規制の状況を示す*3 .ピーク時におい. は最大となっているが,携帯電話の場合は,1 日遅れで最. て発信で約 12 倍,着信で約 8 倍のトラヒックで,実際の. 大となっている.これは,携帯基地局はバッテリーにより. 要求ベースの呼量は発信で 60 倍,着信で 40 倍のトラヒッ. 電源を確保したためである.しかし,バッテリーのエネル. クと同事業者は推定している.東京においてもほぼ同様の. ギー切れや発電機の燃料切れにより停止したことを示して. データが報告されている.. いる.全体として停電戸数と高い相関を示しており電源の. 次にパケットに関しては,同様に NTT ドコモの東北地. 重要性を意味している.また,4 月 7 日には震度 6 強の余. 域の状況を図 8 に示す.東北地域で発着とも平常時の約. 震が発生しこの後にも停波基地局が一時的に増大している.. 3∼4 倍程度で,翌日の 12 日は 2 倍強となっているが,規. 5. 通信輻輳の発生と通信規制 図 5 に固定電話と携帯電話の各事業者の発信規制の割合. c 2014 Information Processing Society of Japan . *2 *3. 総務省「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方」参考 資料より作成 [6], [7]. 総務省「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方」参考 資料より作成 [6], [7].. 1720.

(4) 情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). 7. 災害に強い情報通信ネットワークの在り方 災害に強いということは,設備そのものが堅牢であるこ とが第一となるが,絶対に壊れないということは保証でき ない.それは設備コストとの経済性とのトレードオフとな るためである.したがって,一定以上の規模の災害では, 設備が被害を受けたときにネットワークとしての機能をど のように維持するかが重要となる.その次は,被災を受け 図7. た場合にいかに早い回復をするかである.委員会の報告書 携帯電話における東北地域音声トラヒック状況(NTT ドコモ). Fig. 7 Relative traffic volume of mobile telephone in north east region (NTT DOCOMO).. とその後の IP ネットワーク委員会における報告書および 事業者の対応の主要点を述べ,在り方と今後の課題を考察 する.主要名論点とその後の通信事業者などの対応および 今後の課題を表 3 に示す.同表の今後の課題は,筆者の論 点を含めている.. (1) 緊急時の輻輳状態への対応 音声通話の確保,音声以外の通信手段の充実・改善,災 害時の通信手段に関する利用者などへの情報提供,輻輳に 強いネットワークの実現が主要な課題である.ネットワー ク設備が稼働可能な状況でトラヒックが急増した場合,優 先呼に対して通信を保証するため,一般呼に強い規制をか けるのが現状の取り組みである.絶対的通信容量の増加は 図8. 設備に大幅に負担がかかるため経済的にはかなり困難であ 携帯電話パケットの東北地域のトラヒック状況(NTT ドコモ). Fig. 8 Relative traffic volume of mobile packet in north east region (NTT DOCOMO).. る.そのため,通話時間規制,音声の品質を下げる両者を 行うことにより通信呼数を相対的に増加させることは原理 的に可能である.特に,無線回線では,ビットレートはす. 制はかけていない.これは,パケットは送信できれば,再. でに可変となっているので,無線区間での導入は困難では. 呼がないため,雪だるま式に増加しないためである.しか. ない.しかし,現状では,無線区間だけでなくコアネット. し,一方では,パケット通信に習熟していないユーザも多. ワークの制御処理能力に限界があり,導入が困難とされ,. かったとも考えられ,将来的に習熟度が増すとパケットの. こういった能力を持つシステム全体の開発は今後の課題と. トラヒックも大幅に増加する可能性は否定できない.. して残されている.音声以外の通信手段の確保は,メール. 6. 通信に対するユーザの評価 [15]. などのパケット通信はリアルタイムでないこと,映像系を 除けば情報量の絶対的大きさが小さいため,効率的な伝送. 特に携帯電話に関して,被災地域のみでなく東京近郊で. が可能である.通信規制も一時的またはまったく行わない. も長時間にわたって使用できなかった.これは先に述べた. で対応できたことがその有効性を示している.被災者の情. ように携帯電話事業者が強いトラヒック規制をかけたため. 報を相互に周知して情報交換することは,災害伝言ダイヤ. である.システムダウンを避け,優先電話の疎通を維持す. ルなど放送系,インターネット系,携帯電話系などかなり. るためある意味でやむを得ないと考えられるが,疎通力の. の取り組みが行われ大きな役割を果たした.しかし,相互. 改善が必要である.一方,固定電話は装置や中継線がダウ. の連携が必ずしも十分でないことが明らかとなり,その後. ンしていないエリアでは比較的利用可能であった.また,. TCA の安全・信頼性委員会で検討が進められつつある.こ. 公衆電話は優先電話のため疎通力はあったが,現在は大幅. れらを可能な限り一元化する方向で取り組みが進められて. に減少しておりまたその場所が分からないということが他. おり,いっそうの取り組みが望まれる.さらにユーザへの. の調査からも判明している.. 周知やリテラシーの向上など日頃の訓練が重要である.特. 一方,インターネットは比較的利用できたが,通常時に. に,高齢者への配慮が望まれる.また,エリアメールや緊. 比べ遅延が大きかった.また,インターネットを利用した. 急地震情報が今回の情報提供として有用であったと評価さ. Twitter,Facebook,ミクシーなどソーシャルメディアは. れている.エリアメールは当時の導入は,NTT ドコモの. 伝達も早く活用できたとの声が多かった.しかし,一方で. みであったが,その後,各事業者が対応し,情報入力を共. 情報源の信頼性の確保が課題となっている.. 通化したこと評価に値する.今後は,情報提供側の迅速か つ適格な対応が望まれる.一方で,入力手段が異なること. c 2014 Information Processing Society of Japan . 1721.

(5) 情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). 表 3. 災害に強いネットワークの在り方と対応および課題. Table 3 Anti-disaster network and issues.. や情報の相互の連携が必ずしも十分でないことが明らかと. の向上や効率的な利用および平時の運用コスト負担および. なり,今後の連携が望まれる.. 緊急時における可搬性や配備方法などが課題である.. (2) 基地局や中継器が被災した場合における通信手段の確保 被災した通信設備の応急復旧対応,被災した場所などに. (3) 東日本大震災をふまえた今後のネットワークインフラ の在り方. おける通信手段の確保と提供,電源の安定的な確保,緊急. ネットワークの耐災害性の向上,災害に即応できる体制. 情報や被災状況などの情報提供が取り組むべき課題であ. 整備の 2 つが重点課題である.前者に対しては,耐震性の. る.電源の確保に関しては,商用電源が長期にわたり復旧. 強化,設備設計の見直しなどが対応として考えられるが,. が困難となり,バックアップ電源や発電機の燃料の枯渇に. 事業の採算性とのトレードオフとなる.それ以外の対策と. より復旧が遅れたことが大きな課題であった.その後の通. して,津波の被害を受けやすい局舎を高台へ移転すること,. 信事業者の取り組みとして,バックアップ電源能力を高め. また共同構の導入が考えられる.局舎移転に関しては,そ. ること,燃料の予備設備を充足させるなど一定の取り組み. の後,すでに破壊された局舎を移転する取り組みは一定の. により強化されつつある.一方で,燃料を補給するための. 箇所に行われている.一方,後者に関しては,導入コスト. 運送手段の確保については十分な解決策が得られていない. が最大の課題である.しかし,通信設備が重要な社会イン. のが現状である.指定公共機関となっている通信事業者で. フラであることを考えれば,共同構を電力などと共有し,. も輸送にかなりの困難をきたし,今後,さらに効率的な輸. 公共投資の一貫として行うことが望まれる.東京オリン. 送を行うための方策が望まれる.. ピックのときに青山通りの電柱をすべて地中化し美観と安. 基地局設備の被災への対応に関しては,震災後,大ゾー. 全性を回復したことは今後の例をとして検討すべき課題で. ン化(NTT ドコモ) ,バルーンによる臨時基地局(ソフト. ある.. バンク) ,船舶による臨時基地局(KDDI)などが提案され. (4) 今後のインターネットの利用の在り方. 通信の確保への取り組みとして評価できるが,今後継続的. インターネットの接続機能の確保,インターネットの効. かついっそうの強化が望まれる.また,中継回線に関して,. 果的な活用,クラウドサービスの活用および災害発生時に. NTT 東日本など重要なルートは多元ルートを新たに設置. 備えた通信事業者の協力体制の構築が取り組むべき課題で. した取り組みもあるが,全国規模からすればさらに回線を. ある.インターネットの接続に関しては,東京に ISP や IX. 確保することが望まれる.一方,災害時において衛星回線. が集中していることが課題として議論され,首都圏直下型. は重要な役割を果たしていることは周知のとおりであり,. 地震における大きな被害が想定されている.そのため,地. 今回においても重要な役割を果たした.具体的には,衛星. 方への分散化が望ましいが,事業者への負担とのトレード. 携帯電話,衛星公衆電話さらには中継回線の衛星による迂. オフであるとともに人材の育成が課題であり,事業者の努. 回などである.衛星の限界は,通信容量が限定されること. 力とともに国として何らかの支援策が望まれる.インター. さらに遅延がともなうため,常時の双方向のリアルタイム. ネットの活用に関しては,今回の災害ではきわめて効果的. の通信回線として必ずしも適していない.そのため,容量. な活用であったと評価できる.また,箇別的には,SNS や. c 2014 Information Processing Society of Japan . 1722.

(6) 情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). ツイッターなどにソーシャルネットワークの活用が有効で あったが,情報の信頼性の担保が課題として残されている. 一方,クラウドサービスは,多くの企業では導入が進んで いるが,自治体への導入は必ずしも進んでいないため,今 後の課題である.また,情報の保全の観点では,自治体は 紙ベースの膨大な情報を保有しており,これらの電子ファ イル化とその分散管理が大きな課題である. また,被災者情報の伝達に関して個人情報保護法のため 情報発信や共有が非常に困難となり周知が不可となったり 図 9. 大幅に遅れたことも大きな問題として浮き彫りになった. 災害時に被災情報に関して一時的に解除するなどの検討が. 携帯・固定・衛星複合ネットワーク構成例. Fig. 9 Integrated networks with eSIM roaming.. 必須である.. 8. ネットワーク構成の提言 これらの状況をふまえ,災害に強いネットワークの構成 の提言を以下に示す.. 8.1 組み込み SIM による複数のネットワークの相互利用 平常時および非常災害用の端末として,組み込み SIM による複合端末の利用を提案する.組み込み SIM は,現 在携帯電話システムにおける M2M の利用として GSMA で検討が進められている.この概念を拡張し,携帯だけで. 図 10 分散と集中構造による移動・固定融合網の構成と相互制御 の例. Fig. 10 Fixed mobile conversion with NFV and cross control.. なく,衛星,固定,さらには無線 LAN で利用可能とする 方式を提案するものである.網のアクセスには認証とアク. 手段で迂回することにより通信機能を継続することが望. セスの機能が必要となるが,認証番号を広域ローミングと. ましい.ここでの提案は,ネットワークのソフトウェア化. して定義することで可能である.アクセス機能はソフトウ. とともに,相互に制御を乗り入れ可能とする構成である.. エア無線によりそのとき利用可能なシステムに自動的に変. ネットワークノードを代替ノードに変えるには,異なる. 更することが考えられる.携帯,衛星,固定のシステムは. ネットワークで相互にノードを融通しあうこと,さらには. それぞれの基盤が異なるため,耐災害性も異なり,その相. 制御を代替するなど,種々の構成により対災害性を高める. 互利用も有用である.重要なことは 1 つの端末で利用可能. とともに残存設備の有効利用を図ることが方法として考え. とすることである.異種ネットワークの相互利用を共通の. られる.平常時の運用と非常災害時における運用をどのよ. 端末で行うイメージを図 9 に示す.FMC(Fixed mobile. うに行うかについて事前にコンセンサス形成がきわめて重. Convergence)として最近は携帯と固定の融合が進められ. 要である.. ており,これを積極的に展開することも災害に強いネット. 9. おわりに. ワークとしての可能性がある.. 東日本大震災を振り返るとともに,情報通信への影響お. 8.2 機能を維持するための分散構造と集中構造のハイブ リッド構成. よびその重要性について考察した.災害に強いネットワー クにすることは重要であるが,事業としての性格上,経済. ネットワークの機能をソフトウエアで制御するネット. 的な限界もあり,歴史と経験をふまえて英知をだすことが. ワーク NFV(Network Functions Virtualization)および. 大切である.また,不断かつ継続的な取り組みが必須であ. SDN(Software Defined Network)により柔軟なネットワー. る.最近では,災害後,ネットワーク強化の取り組みや災. クを構成の考え方はすでに多くの検討が行われており,実. 害に強いネットワークの研究開発が行われてきており,研. 用化に近い段階である.NFV/SDN の主要な狙いは,コス. 究のみで終わるのではなく実際への導入が望まれ,安心・. ト削減,運用経費削減,スケーラビリティの確保であるが,. 安全な社会の形成向け,いっそうの努力を期待したい.. 対災害性を考慮することが新たな取り組みとして望まれる. 本課題は,今後の研究課題と思われるが,報告者の提案. 謝辞 本執筆の機会を与えてくれた編集委員に感謝し ます.. をここに紹介する.構成のイメージを図 10 に示す.災害 によってネットワークの設備が破壊された場合,何らかの. c 2014 Information Processing Society of Japan . 1723.

(7) 情報処理学会論文誌. Vol.55 No.8 1718–1724 (Aug. 2014). 参考文献 [1] [2] [3] [4] [5]. [6] [7] [8] [9] [10]. [11] [12] [13] [14] [15] [16]. [17] [18]. 総務省:大規模災害等緊急事態における通信確保の在り 方の検討会の開催 (2011). 警察庁緊急災害警備本部広報資料:東日本大震災 (2014). 内閣府:防災情報のページ 広報・報道 平成 11 年以前 の防災局広報資料阪神・淡路大震災について. 内閣府:地域の経済 2011:2 章 2 節震災の経済への影響 (2011). 三菱総研による帰宅困難者数シミュレーション,入手先 http://www.mri.co.jp/NEWS/press/2011/ icsFiles/ afieldfile/2012/05/30/nr20110613 ssu02rev.pdf. 総務省:大規模災害等緊急事態における通信確保の在り 方—中間報告 (2011). 総務省:大規模災害等緊急事態における通信確保の在り 方—最終報告 (2011). 中島康弘:東日本大震災に関する通信復旧の取り組みと 課題,CIAJ Journal, Vol.51, No.7, pp.4–10 (2011). 中村 功:大規模災害と通信ネットワーク,CIAJ Journal, Vol.51, No.7, pp.11–17 (2011). 服部 武:東日本大震災における情報通信への影響と今 後の情報通信の在り方,電子情報通信学会無線通信シス テム研究会 特別招待講演 (2011). 情報通信研究機構,電波産業会主催:周波数資源開発シ ンポジウム 2011—災害に強い無線通信 (2011). 東日本大震災被災自治体 ICT 担当連絡会公開セミナー: 東日本大震災と自治体 ICT (2011). 東日本大震災からの復興の取り組みと震災から得た教訓, 電子情報通信学会誌,Vol.95, No.3 (2012). 災害と情報通信特集,Nextcom, Vol.11 (2012). 総務省:災害時における情報通信の在り方に関する調査 結果 (2012). 総務省情報通信技術分科会報告書:IP ネットワーク設備 委員会報告—ネットワークの IP 科に対応した安全・信頼 性対策に関する事項 (2012). 情報処理学会:第 75 全国大会特別セッション:災害に強 い情報通信ネットワークの実現に向けて (2013). 総務省情報通信技術分科会報告:災害に強い情報通信技 術の実現に向けた研究開発の取組状況 (2013).. c 2014 Information Processing Society of Japan . 服部 武 (正会員) 1974 年 3 月東京大学工学系研究科電 子工学博士課程修了.同年 4 月日本電 信・電話公社横須賀電気通信研究所入 所,1985 年研究開発本部 SE 担当部 長,1992 年 NTT 無線システム研究所 パーソナル通信研究部長,1998 年上 智大学理工学部電気・電子工学科教授,2004 年上智大学評 議員,2009 年∼総務省情報通信審議会委員,2011 年∼法務 省知財高裁・専門委員,2012 年∼上智大学客員教授.電子 情報通信学会(フェロー) ,IEEE(Life Member) ,画像電 子学会,日本シミュレーション学会各会員.主な著書:『移 動通信の基礎』電子情報通信学会誌(共著) , 『Visual Slam による無線システムシミュレーション』共立出版(共著) , 『HSPA+/LTE/SAE 教科書』インプレス社(共編著)等.. 1979 年電子情報通信学会学術奨励賞,1981 年 IEEE VTS 論文賞,1983 年全国発明協会賞,2011 年総務大臣個人表 彰等.. 1724.

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Table 1 Comparison of two great earthquake.
Fig. 7 Relative traffic volume of mobile telephone in north east region (NTT DOCOMO).
表 3 災害に強いネットワークの在り方と対応および課題 Table 3 Anti-disaster network and issues.
Fig. 10 Fixed mobile conversion with NFV and cross control.

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