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マウス視床下部・下垂体・生殖腺系における転写因子Runx3の役割

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Academic year: 2021

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記 念 講 演 要 旨

マウス視床下部・下垂体・生殖腺系における転写因子 Runx3 の役割

Transcription factor Runx3 in the mouse hypothalamo-pituitary-gonadal system

高橋 純夫

Sumio Takahashi

岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質科学専攻

Graduate School of Natural Science and Technology, Okayama University

Runx3 is a transcription factor that belongs to the Runx family. Female Runx3 knockout (Runx3−⁄−) mouse

was anovulatory and infertile. Ovarian transplantation experiment suggested that lack of ovulation in

Runx3−⁄− mice was caused by alteration of gonadotropin secretion in Runx3−⁄− mice. Cyp11a1 mRNA expression was less in Runx3−⁄− mouse ovaries than in wt ones. Hypothalamic Gnrh1 mRNA was increased, and Kiss1 mRNA expression in the anteroventral periventricular nucleus was decreased, but Kisspeptin mRNA in the arcuate nucleus was increased in Runx3-/- mice. Pituitary Fshb mRNA levels were increased in Runx3−⁄− mice. Cholesterol side-chain cleavage enzyme gene (Cyp11a1) expression was decreased in ovaries of Runx3−⁄− mice. These findings suggest that anovulation in Runx3−⁄− mice was partly due to the alterations in hypothalamus-pituitary-ovary system. Runx3 plays a key role in female reproduction through alteration of gonadotropin secretion.

はじめに

Runx1, Runx2, Runx3 は runt ドメインをもつ

転写因子で, Runx ファミリを形成している。 Runx3 は,胃の腺上皮の増殖を抑制し,且つア ポトーシスを誘導し,胃がんや食道がんのがん 抑制遺伝子といわれている[1]。そこで, Runx 3 の子宮内膜細胞の増殖制御への関与を調べ るために,Runx3 ノックアウトマウス(Runx3−⁄− マウス)の子宮を調べたところ,予想に反して, 子宮内膜は退化し,子宮内膜細胞のエストロゲ ンに対する反応性は低下し,さらに卵巣には黄 体がなく無排卵であった [2, 3]。この結果より, マウスにおいて Runx3 は卵巣機能や排卵制御 に関与することが示唆された。しかしながら, 雌マウスの生殖機能の制御機構における Runx 3 の役割の詳細は不明である。そこで雌マウス の視床下部・下垂体・生殖腺系における Runx 3 の役割を明らかにすることを目的として解 析をおこなった。 雌マウスにおけるRunx3 の発現 Runx3 は,脳,下垂体前葉,卵巣,子宮など の様々な器官や細胞に発現していた。Runx3 mRNA は,視床下部においては,生殖機能の 制御に関わる視索前野・視床下部での発現が認 められ,卵巣では1次卵胞から,発達した胞状 卵胞に至る卵胞の顆粒膜細胞に発現し,子宮内 膜では内腔上皮細胞や間質細胞の一部に発現 していた。したがって,Runx3 は,これらの組 織や細胞の機能の制御に関与することが示唆 された[4]。 視床下部におけるRunx3 の役割 排卵や,その他の卵巣機能は視床下部・下垂 体によって制御されている。視床下部,下垂体, 卵巣にはRunx3 が発現しているので,いずれの 器官において Runx3 が排卵の制御に関与する のかを調べるために,Runx3−⁄−マウスと野生型 マウスとの間で,卵巣の交換移植をおこなった。 野生型マウスの卵巣をRunx3−⁄−マウスの皮下に 移植したところ,移植卵巣では黄体化がおきず 無排卵であった。その一方,Runx3−⁄−マウスの 卵巣を野生型マウスに皮下移植したところ,移 植卵巣では黄体化が認められ排卵をしている ことがわかった。これらの結果から,Runx3−⁄− マウスにおける無排卵は,視床下部・下垂体の 機能低下に起因することが示唆された[4]。 排卵制御機構におけるRunx3 の関与 卵巣からの排卵は,下垂体ホルモンである黄 体形成ホルモン(LH)の一過的な大量分泌(LH サージ)によって引き起こされる。LH の分泌は, 視床下部ホルモンである生殖腺刺激ホルモン 放出ホルモン(GnRH)によって制御されている。 さらに,GnRH の分泌は,視床下部のキスペプ チンニューロンが制御している。すなわち,卵 巣からのエストロゲン分泌が高まると,視床下 部の前腹側室周囲核に局在するキスペプチン ニューロンの活性が高まり,キスペプチンが GnRH ニューロンを刺激し,その結果 GnRH 2 0123456789

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の分泌が亢進し,LH サージ,それにひき続い て排卵が引き起こされる。その一方,視床下部 の弓状核にもキスペプチンニューロンが局在 しているが,このキスペプチンニューロンはエ ストロゲン分泌が低下すると,活性が高まるこ とが知られている。このことは,前腹側室周囲 核にあるキスペプチンニューロンは,エストロ ゲンによるLH サージ誘起(排卵誘起)に関与 し,弓状核のキスペプチンニューロンは,排卵 誘起期外の期間の LH 分泌の制御に関わると 考えられている。 無排卵である雌Runx3−⁄−マウスの視床下部の GnRH と,GnRH の分泌を制御するキスペプチ ンニューロンについて解析した。Runx3−⁄−マウ スにおいて,前腹側室周囲核の Kiss1 mRNA 発現が低下する一方,弓状核の Kiss1 mRNA は増加していた。GnRH 遺伝子の発現は増加し ていた。同時に下垂体におけるLH と卵胞刺激 ホルモン(FSH)の遺伝子発現を調べると,FSH サブユニットのmRNA 発現が高まっていた。 これらのことから,卵巣からのエストロゲン分 泌は低く,そのために弓状核のキスペプチンニ ューロンの活性が上昇し,FSH の産生・分泌 が高まっていることが推測される。その一方, 前腹側室周囲核にあるキスペプチンニューロ ンの活性は低下していることが推察される。 卵巣の移植実験の結果と合わせると,雌 Runx 3−⁄−マウスにおいては前腹側室周囲核にあるキ スペプチンニューロンの機能が低下し,無排卵 となったと考えられる[4](図)。 卵巣におけるRunx3 の役割 卵胞の顆粒膜細胞にRunx3 mRNA が発現し ているので,卵巣のステロイド産生機能を解析 した。Runx3−⁄−マウスではステロイド合成酵素 の遺伝子である Cyp11a1 の発現が低下してい た。Cyp11a1 は卵胞莢膜細胞に発現する遺伝子 で,ステロイドホルモンの出発材料であるコレ ステロールの側鎖を切断する酵素をコードし ている。この結果より,Runx3−⁄−マウスではエ ストロゲンの産生が低下していることが推測 される。このことからRunx3 は,卵巣において ステロイドホルモン産生の制御に関与するこ とが示唆された[4]。 Runx3−⁄−マウスでは卵胞発達に遅延が認めら れ,Runx3 は卵胞発達の制御にも関与している [2, 4]。我々の研究と前後して,Runx1 や Runx 2 も,排卵直前の卵胞顆粒膜細胞や黄体に発現 し,卵巣の黄体化の制御に関与することが分か ってきた[5-7]。Runx3 は,卵胞形成の初期から 排卵前の胞状卵胞に発現し,排卵により発現が 図 視床下部・下垂体・卵巣系による卵巣機能の制御 機構 転写因子Runx3 が脳や卵胞の顆粒膜細胞に発現して卵 巣機能の制御に関わっている。 消失する。このようにRunx 転写因子は,各々 が卵胞発達の段階に応じて卵胞機能の制御に 関与すると考えられる。 まとめ Runx3 転写因子は,雌マウスにおいて,視床 下部,卵巣,子宮に発現し,生殖機能制御に関 わることが分かった。Runx1 や Runx2 も卵巣 機能に関与しており,3 種の Runx 転写因子が 雌動物の生殖機能の制御に関わることが示さ れた。 謝辞 岡山実験動物研究会の会員の皆様には,長期 にわたり様々なかたちでご支援を頂きました ことに心から御礼を申し上げます。本研究は, 岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質 科学専攻生体統御学グループの教員,大学院学 生の方々とすすめてきた研究であります。日本 学術振興会科学研究費助成事業によるご支援 を頂きました。 参考文献

1. Li QL, Ito K, Sakakura C, Fukamachi H, Inoue K, Chi XZ, Lee KY, Nomura S, Lee CW, Han SB, Kim HM, Kim WJ, Yamamoto

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H, Yamashita N, Yano T, Ikeda T, Itohara S, Inazawa J, Abe T, Hagiwara A, Yamagishi H, Ooe A, Kaneda A, Sugimura T, Ushijima T, Bae SC, Ito Y Causal relationship between the loss of RUNX3 expression and gastric cancer. Cell 2002; 109:113-124.

2. Sakuma A, Fukamachi H, Ito K, Ito Y, Takeuchi S, Takahashi S Loss of Runx3 affects ovulation and estrogen-induced endometrial cell proliferation in female mice.

Mol Reprod Dev 2008; 75:1653-1661.

3. Tsuchiya Y, Saito Y, Taniuchi S, Sakuma A, Maekawa T, Fukamachi H, Takeuchi S, Takahashi S Runx3 expression and its roles in mouse endometrial cells. J Reprod Dev 2012; 58:592-598.

4. Ojima F, Saito Y, Tsuchiya Y, Kayo D, Taniuchi S, Ogoshi M, Fukamachi H, Takeuchi S, Takahashi S Runx3 transcription factor regulates ovarian functions and ovulation in female mice. J

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5. Park ES, Choi S, Muse KN, Curry TE, Jr., Jo M Response gene to complement 32

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Endocrinology 2008; 149:3025-3036.

6. Park ES, Lind AK, Dahm-Kahler P,

Brannstrom M, Carletti MZ, Christenson LK, Curry TE, Jr., Jo M RUNX2 transcription factor regulates gene expression in luteinizing granulosa cells of rat ovaries. Mol Endocrinol 2010; 24:846-858.

7. Park ES, Park J, Franceschi RT, Jo M The role for runt related transcription factor 2 (RUNX2) as a transcriptional repressor in luteinizing granulosa cells. Mol Cell

Endocrinol 2012; 362:165-175. 4

参照

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