〈研究ノート〉韓国における英語熱と教育の平準化
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(2) 教養・外国語教育センター紀要. われる計算になるという(통계청 2013:4) 。これらはすべて日本円にして 2 万円強という 額である。 政府による英語教育推進と国民による教育熱・英語熱の高さが相まって教育的にも経済 的にも効果をあげているように見受けられるが、問題も多い。その 1 つが大卒者の就職難 である。1997 年の IMF 危機以降、韓国では求人倍率が 1 を下回っており、例えば 2012 年 現在の求人倍率は 0.68 である ii。朴昌明は企業の労働力不足人員と不足率を分析した上で 大学生たちの中小企業就職回避の傾向と大企業の労働需要不足を指摘しており、韓国にお ける雇用のミスマッチを明らかにしている(朴 2009:133-5) 。また、地域間・階層間の教 育格差も大きい。例えば 2012 年度には 11,038 名もの小中高生が早期留学している iii。し かし、その半数以上がソウル・京畿道の生徒たちであり、それ以外の地域、例えば釜山か ら早期留学した小中学生は 467 名であった iv。政府も企業を含めた国民も英語教育・習得 を熱望し、推進してきたにも関わらず、なぜこのようなミスマッチが起こるのか。 筆者は 2012 年 9 月 1 日から 2013 年 8 月 31 日までの 1 年間、日本学術振興会「頭脳循 環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」の一環で大阪市立大学都市文化研究 センターより韓国・釜山大学校韓国民族文化研究所に派遣された。その目的は「グローバ ル言語」としての英語が韓国第 2 の都市である釜山でどのように教育され、学ばれ、また それが人々の生活にどのような影響を与えているのかを考察することであった。 それに際して特に注目したのは韓国社会に生きる人々が英語を扱う「手つき」である。 つまり、人々が英語をどのようなものと考え、どのように教育・学習し、どのように使用 しているのかを考察の対象にしたのである。教育制度側にいる人々、現在教育を受けてい る学生たち、私教育に携わる人々、企業に関わる人々などにインタビューすることで韓国 社会における英語の意味、つまり韓国社会において英語がどのような機能を担っているの かを明らかにしようと考えたのである。 本稿ではまず韓国政府が行なってきた教育の「平準化」について紹介しておき、次に釜 山派遣以降現在に至るまでの調査の過程を示し、これからの調査を行なう上での仮説を提 示する。 教育の「平準化」 韓国における公教育制度の歴史は教育の機会均等化の歴史である。その中でも注目に値 するのが 1970 年代・朴正煕政権下に行なわれた中学・高校の「平準化」と 1981 年の課外 教育に対する規制である。韓国では解放後、金東椿が指摘するように、 朝鮮戦争・農地改革などによって事実上ほとんどすべての人が似たような境遇の無一. −208−.
(3) 韓国における英語熱. 文の身となり、そのうえ日帝が引き上げ、戦争によって多くの若い男性が死亡したと いうのに、政治階級の地位、とくに官僚機構のように政治・経済・社会的資源の分配 を担当する「地位」が「競争の領域」におかれるという社会現実は、逆説的にすべて の人に「うちの家族もやればできる」という能力主義の神話を植えつけた。そのう え、こうした能力主義の神話は、人々を教育による「看板」獲得と各種の個人的便法 へと仕向けたのである。 (김동춘 2000=2005:158-9) 教育こそが誰にとっても開かれた、社会的地位の上昇を果たすための手段であった。人々 は家族総出で子どもたちに教育を授け、しかるべき地位に就かせることによって家族の生 活状況を改善しようとした。 ところが、それは中学校受験競争の熾烈化、私教育費の増大、子どもたちの心身育成の 阻害、中学校の序列化など、様々な問題をもたらした(石川 2011:31-2) 。韓国において 義務教育は初等教育のみであり、2004 年になって初めて中学校が無償で完全義務教育化さ れた。したがって、中学校以上へ進学するためには入学試験を受けなければならなかっ た。社会的地位の上昇・生活状況の改善を求める人々の熱意は名門中学校への受験者集中 を招来し、子どもたちが体や心をいためるまでになったのである。 そこで政府は「学校別競争入試の禁止」 、 「学群の設定」 、 「抽選による入学者の配定」と いう原則のもと、1969 年度ソウル市、1970 年度釜山市・大邱市など 9 都市、1971 年度に は全国的に「中学校無試験進学制」を実施した。これは公立・私立を問わず全ての中学入 学試験を廃止し、進学希望者を抽選によって学区内の中学に振り分けるというものであっ た。さらに、高校・大学進学を有利にすると考えられていた「一流」中学校が廃校処分と なった。 (有田 2006:86-7、石川 2011:32-3)韓国政府はこうしてすべての中学校進学希 望者に教育の機会を与え、中学校の義務教育化への基盤を整備していった。 ところが、このことは高校入試での競争を激化させる結果となった。これも中学校のと きと同様に、1974 年度ソウル市・釜山市を皮切りに「人文系高校平準化」が進められてき た。 (有田 2006:87-8、石川 2011:34-6) 。 一方で、1981 年、政府は家計における私教育費の割合を減らすべく、塾や家庭教師など の課外教育への規制を行なった(高安 2011:1 頁) 。しかし、政府による努力にも関わら ず、また景気の動向にも関わらず、人々は私教育費を増額しこそすれ減らすことはなかっ たのである。 中学・高校の平準化や課外教育に対する規制など、韓国政府は教育機会均等に努力をし てきた。これは「よりよい教育を受ければよりよい地位を手に入れ、よりよい生活を送る ことができる」という人々の思いと合致したであろう。ところが、それは結局のところ大. −209−.
(4) 教養・外国語教育センター紀要. 学入試の際の競争を激化させた(有田 2006:96 頁) 。教育の機会が平等に与えられること によって人々は高校までの公教育に不安を感じたのである。競争もなく、誰もが同じこと をさせられたのでは、将来しかるべき地位を獲得できるという確証が得られない。その確 証が得られる第一の、しかも唯一の機会として、大学入試が認識されるに至ったのであ る。 釜山グローバル・ビレッジ 韓国政府が目指してきた国民に対する平等な教育機会の提供という理念を体現した英語 教育施設が釜山グローバル・ビレッジである。釜山グローバル・ビレッジの特徴は、韓国 内にある他の英語村と違い公教育機関であることだ。英語村とは「早期留学の過熱を緩和 させるため、また、経済的理由で海外に留学できない家庭の子どもたちのために、韓国国 内で留学と同じような状況を作り出し、廉価に疑似留学が体験できる機会を与えようとい うことで地方自治体により設立された」 (カレイラ松崎 2014:19)英語教育施設である。 釜山グローバル・ビレッジは釜山広域市教育庁(以下、教育庁)が都心部である西面(ソ ミョン)の旧・ケソン中学校跡地を提供し、釜山市が 320 億ウォン(約 32 億円)を入れ て建設した公共外国語教育機関なのである(강경옥 2011:131) 。 釜山グローバル・ビレッジは 2009 年 7 月、全国初の通学型英語学習空間として開 院し、世界的な教育都市を指向している釜山広域市の英語教育に責任を負っていま す。 釜山広域市と釜山広域市教育庁が共同で造成した釜山グローバル・ビレッジは、ま るで英語圏の国に来たような実際同様の環境と様々な体験教育を通じて、英語を使う ことに対する自信を持たせ、幼児から一般人まで釜山市民全体を対象にしたプログラ ムを運営し、高水準の英語学習の機会を提供しています。 (釜山グローバル・ビレッジパンフレットより) 筆者は釜山グローバル・ビレッジの施設を見学する機会を得た。見学させていただいた のは平日の一般授業であったが、かなり多くの生徒たちが授業を受けていた。 「小学 6 年 生の授業です」と男性職員が教えてくれた。これは釜山市内にある小学校の授業の一環な ので受講料はかからない。各学校が交代で火・水、木・金のいずれか 2 日間で約 17 時間 の体験学習が行なわれる。しかしこれは小学生だけであり、幼稚園児や中学・高校生など は受講料を払うことによって別のコースを受講することになる。例えば午後 6 時以降にあ る放課後教室、土日に行なわれる一日体験授業や Speech and Debate クラス、学校休暇時. −210−.
(5) 韓国における英語熱. に行なわれる 8 泊 9 日の「英語キャンプ」などである。ちなみに、一日体験授業は 25,000 ウォン(2,500 円) 、英語キャンプは 750,000 ウォン(75,000 円)という値段設定である。 生徒たちが使うのは主に「体験施設棟」と呼ばれるヨーロッパの寄宿学校を思わせるよ うな建物で、そこには約 50 種類のテーマ別教室がある。建物に入るとまずはイミグレー ション・オフィスを模した施設がある。英語による入国手続きの練習をするのである。そ の奥には「Air Busan」と書かれた、空港のチェックイン・カウンターを模した施設があ る。 「エアプサンがスポンサーなのです。釜山銀行やロッテも大きなスポンサーです」と また男性職員が教えてくれた。スポンサーであるとはいえ、出資しているわけでもないよ うで、それぞれの企業が専門とする分野に関わる教室のデザインやロゴのデザインをした とのことである。 次のフロアは「UK Street」と呼ばれていて、銀行やホテルなどを模した教室が並んで いる。 「ホストファミリーのリビングルーム」という部屋で数人の子どもたちが授業を受け ていた。1 クラスあたり 15 人前後で構成され、1 授業時間が 40 分、休憩は 10 分だという。 その他にも郵便局、警察署、病院、薬局、またクッキング体験ルームやマジックルーム、 カラオケルーム、放送局まであり、英語で説明を受け、実際にやってみることで英語を体 験的に身につけることができるようになっている。 50 ほどあるという教室のうち、約 20 教室で授業が行なわれていた。講師には韓国人も いれば外国人もいるようなので尋ねてみると、比率は半々で、総勢 40 名だとのことであ る。 2010 年現在、韓国には 43 ヶ所の英語村が存在する(강경옥 2011:83-4) 。しかし、それ らの大半は赤字経営であり、2004 年に国内初の英語村として開院された「京畿英語村安山 キャンプ」は民間委託されたにも関わらず経営不振で閉鎖されている v。一方で、釜山グ ローバル・ビレッジは唯一黒字経営の英語村として知られている vi。男性職員は京畿道の パジュ・キャンプなど韓国内にある他の英語村との違いについて、釜山グローバル・ビ レッジは市と教育庁が関わる公教育施設であり、学校と連携していることを強調した。こ れは家庭の所得水準に関係なく子どもたち全員に英語体験の機会を与えようという釜山市 および教育庁の姿勢の表れであると思われる。しかし一方で、親たちは子どもたちに少し でも多くより良い教育を受けさせたい、との思いから私教育への出費を惜しまないのであ る。 人々の英語熱 韓国政府は「世界化」の理念を掲げ、英語教育制度を整備してきた。そして人々はその 理念を受け入れたようである。松本麻人はソウル市・蔚山市の中学・高校の生徒と英語教. −211−.
(6) 教養・外国語教育センター紀要. 師に質問票調査を行ない、その結果から、生徒たちは1.英語能力が社会的選抜の指標と して認識されていること、2. “世界化”や“国際化”といった概念が現代社会の一面を 表すキーワードとして社会全体に浸透しており、英語能力を国際化社会の一員として備え るべき資質として認識していること、を指摘している(松本 2007:41) 。しかし、生徒た ちのそうした回答にも関わらず、英語教師たちは大学入試偏重教育を憂慮しており、意思 疎通能力を備えるための学習活動が不足していると感じているという(松本 2007:41) 。 つまり、生徒たちは理念的にはコミュニケーション・ツールとしての英語とその駆使能力 の重要性を理解しつつ、実際的には選抜の道具としての英語を必要としているのである。 韓国では幼い頃から英語を習わされ、大学卒業までのいずれかの期間、英語圏の国へ留 学することを求められる。現在、就職の際に英語使用能力は「無条件」だと言われてい る。大学生たちは就職活動直前に TOEIC、TOEFL、OPIc などの英語テストの点数を一 定水準以上に上げるため必死で勉強する。韓国の多くの有名企業では採用時の英語試験資 格基準が設けられている。例えば西京大学校の調査によると、毎日経済新聞調べによる 2010 年度売上額を基準に抽出した上位 199 社のうち、156 社が採用時に TOEIC、TOEFL、 TEPS、OPIc などといった英語試験の成績の提示を求めている vii。その多くが TOEIC ス コア 700 以上を基準にしている。最近、韓国企業では採用に際してスピーキング能力を重 視する姿勢が見られ、例えば TOEIC Speaking のレベル 6 以上 viii を要求することも多い。 釜山大学校近くにある小さな会社の経営者にインタビューしたところ、 「仕事上、英語を 必要としないのになぜ社員選抜に英語能力を見るのか」という問いに彼は「実力がどんぐ りの背比べだと選べないから、少しでも差をつけるために利用するのだ。あと、学生の努 力をみるためのものだ」と述べている。 また別のインタビューの際、工科大学(工学部)の男子大学生が「就職試験のために OPIc の勉強をする」と言った。OPIc とは全米外国語教育協会が開発した外国語コミュニ ケーション能力評価テストである。韓国では英語のスピーキング力を評価しようという流 れがあるので、彼は英語のスピーキング力の向上を図ろうとしていたのである。そこで彼 はもう 1 人いた人文大学(人文学部)の女子学生に「一緒に OPIc の勉強をしませんか」 と話しかけると、彼女は「まずは TOEIC を終わらせないと」と言った。彼女は、 「人文大 学所属の学生の TOEIC 平均スコアは 950 なんです。いくら勉強しても同じようなレベル の学生はたくさんいるし、しかも女子は男子より採用されにくいので、余計に大変なんで す」と言い、 「こんな社会イヤだ」と頭を抱えた。 もちろん、コミュニケーション・ツールとしての英語を駆使する能力を積極的に身につ けようとする学生たちもいる。韓国には「LanguageCast」という多言語を学ぶための集ま りがある。ソウル、釜山、バンクーバー、ウィーンのカフェで開催されるのであるが、釜. −212−.
(7) 韓国における英語熱. 山における開催場所は釜山大学校の近所にあるカフェ「J-Square」で、毎週金曜日夕方 3 時間程度、様々な国籍の人々が集まって会話を楽しむのである。とはいえ、暗黙の共通語 は英語であり、ビンゴ大会などのゲームはすべて英語でなされる。実質的には「英会話の 練習」サークルなのである。 その集まりに参加したとき、隣に座った男子大学生は力強く「英語ができると多くの人 とコミュニケーションができる。何より、英語はパワーだ」と言った。ここで語られてい ることは英語能力が「国際化社会のメンバーシップ」であることについてだけではない。 英語能力を獲得することが「すべてを手に入れる」源泉であるということである。つま り、英語は全能性を備えた言語として認識されているのである。 「世界化」の理念は広く受け入れられ、早期英語教育の導入は親たちに歓迎された。し かしそれは、学歴主義的受験競争において「選抜の道具としての英語」を際立たせる結果 となった。 両極化 当然のことながら競争は勝者と敗者を生み出す。公教育は教育機会の平等を保障するた めのものであるので、国民が子どもたちの英語能力の向上を求めるのであれば、公教育の 場で平等に英語教育が行なわれるのは当然である。しかも、ソウルや京畿道にある英語村 や釜山グローバル・ビレッジといった公的な英語教育機関も準備されており、まさに「国 を挙げて」英語教育が行われている。 すべての親が子どもたちを留学させるわけにはいかない。こうした状況は人々に不公平 感をもたらすであろう。実際、例えばソウル特別市にあるヨンフン国際中学校の「裏金入 学」が問題視され、非難されている ix。 釜山市内にある小さな塾の経営者にインタビューした際、その塾で小学生たちの「スク リーン・スタディ」の様子を見学した。コンピュータ・ソフト「Skype」を通して、フィ リピンにいる英語講師と韓国にいる小学生 5 人が英会話の練習をするのである。その塾の 経営者は「この方法は安価で効率的です。しかし、お金のある家庭では子どもたちを実際 にフィリピンに留学させます」と言った。費用を尋ねると、 「1 ヶ月の滞在でおよそ 2 ∼ 300 万ウォンです」とのことであった。一つの建物で生活のすべてが賄われるそうで、外 に出る必要がないという。また、別のインタビューで、釜山大学校国際言語教育院で行な われた“2013 SUMMER ENGLISH CAMP” (2013 学年度夏休み大学連携初等英語キャン プ/主催:釜山広域市東莱教育支援庁)のコーディネーターは「将来を見越して中国語を 勉強する人も増えている」と述べていた。 そこまで英語を学習しても、韓国の学生たちにとって就職は「狭き門」である。先述し. −213−.
(8) 教養・外国語教育センター紀要. た塾経営者はインタビューで「韓国人の海外留学生が多いこと」について話を向けると、 「それは、いつでも国外で生活できるように、英語を使えるようにするためです。現代、 サムソン、LG などの会社がありますが、そこへ入れなければ、どこか外国に仕事がない か、とみんな思っているのです。韓国は狭いですからね。しかも競争が激しいですから、 外へと向うしかないのです」と述べていた。 結論―韓国社会において英語が担う意味 インタビューの際、ある男子大学生が「韓国人は他人が自分をどう見るかを気にしすぎ る」と発言した。その真意を問うと、彼は「韓国人は他人から『格好良く』見られたいの です」と言った。その「格好良さ」とは、容姿や服装もさることながら、どのような学校 を出て、どのような職業について、どれくらい賢くて、どれくらい儲けているか、が基準 となる。しかも、その理想像はほぼ一定であり、誰もがそれを目指すのである。 韓国では毎年 11 月に行なわれる大学修学能力試験の様子がニュースになる。その結果 いかんで彼/彼女らの進学希望大学が決定するからである。そしてそれは、大学卒業後の 進路をも決定する。ソウル大学を頂点に幾つかの有名大学に入学志望者が集中し、現代や サムスンなど幾つかの大企業に就職希望者が集中する。 韓国政府にとって、英語とは国民の基礎的素養であった。韓国の「世界化」実現に向 け、それに貢献してくれる国民を形成するのに必要なものが何よりもまず英語教育であっ た。しかし、韓国社会に暮らす人々にとって英語は何よりもまず社会的選抜の指標であっ た。いや、それ以上に英語は「本人の能力を証明するためのもの」であった。それは単な る言語ではなく、全人的な能力を社会的に認められるものなのである。言い換えれば、英 語を駆使する能力の保有者は万能な人間であるとみなされ、英語能力を手に入れさえすれ ば、自ずと将来への道が開け、以後の生活が保障されるものと考えられているのである。 つまり、政府にとって英語は国民形成の基礎的素養であるが、国民にとって英語は他者と 差をつけるためのものなのである。両者の英語に対する認識の差異が、政府による教育機 会の均等化と熾烈な競争の抑制への努力にも関わらず国民間の格差が拡大し、さらなる競 争の激化をもたらしているのではないかと考えられるのである。 意思疎通のツールとしての英語は、いつしか「本人の能力を証明するためのもの」と なった。その証明書を手に入れるため学生たちは勉学に励む。しかしそれを手に入れるた めの道は様々であり、少しでも確実に手に入れられる道に人々は殺到する。そこに不平等 が生まれ、または不公平感がもたらされるが、それを是正する方向はまだ示されていな い。. −214−.
(9) 韓国における英語熱. 注 i. 統計庁「2012 年私教育費調査結果」によれば、私教育費とは「小中高校生が学校の正 規の教育課程以外で私的な需要により学校外で補習教育のために個人が負担する費 用」である(통계청 2013) 。. ii. 統計庁「求人倍率(市道) 」より。. iii. 韓国教育開発院・教育統計 DB より。. iv. 韓国教育開発院『2013 年教育統計年報』より。. v 「국내 1 호영어마을 , 적자로 8 년만에문닫아(国内1号英語村、赤字により 8 年で門 を閉じる) 」 ; 『朝鮮日報』ウェブサイトより(2012 年 11 月 6 日付) 。. vi 「매년 흑자 내는 곳도 있다…부산글로벌빌리지의 비결(毎年黒字を出すところもある …釜山グローバル・ビレッジの秘訣) 」 ; 『中央日報』ウェブサイトより(2012 年 8 月 16 日付) 。 vii 韓 国・ 西 京 大 学 校 総 合 人 材 開 発 セ ン タ ー ウ ェ ブ サ イト(http://job.skuniv.ac.kr/ skuniv/main/)より。 viii 8 段階のうち、上から 3 番目のレベル。 「意見を求められて意味のある返答ができ、複 雑な要求にも答えられる程度。ただし時々、発音のまずさなどが理由で聞き手に理解 してもらえない」 (Toeic® Korea ウェブサイト:http://toeickorea.co.kr/) 。. ix 「영훈국제중 결국 입학비리… ‘귀족학교’ 의 예고된탈선(ヨンフン国際中 結局入試 不正… ‘貴族学校’の予告された脱線) ; 『ハンギョレ』ウェブサイトより(2013 年 3 月 5 日付) 。 参考文献・引用文献 日本語文献 有田伸(2006) 『韓国の教育と社会階層―「学歴社会」への実証的アプローチ―』東京大 学出版会 石川裕之(2011) 『韓国の才能教育制度―その構造と機能―』東信堂 カレイラ松崎順子(2014) 「韓国の英語教育における格差とその対策」 ; 『東アジアへの視 点』2014 年 3 月号(第 25 巻 1 号)17-25 頁 河合忠仁(2004) 『韓国の英語教育政策―日本の英語教育政策の問題点を探る―』関西大 学出版部 高安雄一(2011) 「韓国の私教育に関する検証」 (韓国経済システム研究シリーズ No. 18) ; 環日本海経済研究所『ERINA discussion paper』No. 1101(http//www.erina.or.jp/. −215−.
(10) 教養・外国語教育センター紀要. jp/Research/dp/pdf/1201.pdf) 田中慎也(2007) 『国家戦略としての「大学英語」教育』三修社 田中光晴(2008) 「韓国における初等教育改革への取り組み―「世界化」政策の現状と展 望―」 ; 『九州大学大学院教育学コース院生論文集』第 8 号,83-98 頁 朴昌明(2009) 「韓国における若年層の失業・未就業問題:大卒者を中心に」 ; 『駿河台大 学論叢』第 38 号 123-44 頁 松本麻人(2007) 「韓国社会における英語熱と学校教育」 ; 『BERD』No. 8(2007 年 4 月) 36-41 頁 韓国語文献. KB 금 융 지주 경영연구 소(2012) 「 한 국 의유 학 시장 동 향 」;『KB daily 지식 비타 민 』 2012.3.28(12-38 호) (KB 金融持株経営研究所(2012) 「韓国の留学市場動向」 ; 『KB. daily 知識ビタミン』2012.3.28(12-38 号) ). 강경옥(2011) 『영어교육기관 교육과정 개발 및 평가』 (カン・ギョンオク(2011) 『英語 教育機関の教育カリキュラム開発と評価』韓国文化社). 교육과학기술부(2012) 「2012 년「교육기본통계」조사결과」 (教育科学技術部(2012) 「2012 年「教育基本統計」調査結果」 ). 교육부(2013) 「2012 국외한국유학생통계」 (教育部(2013) 「2012 国外韓国留学生統 計」 ). 김동춘(2000) 『근대의 그늘 한국의 근대성과 민족주』당대(金東哲著、水野邦彦訳 (2005) 『近代のかげ―現代韓国社会論―』青木書店). 통계청(2013) 「2012 년 사교육비조사결과」 (統計庁(2013) 「2012 年私教育費調査結果」 統計庁ウェブサイト http://kostat.go.kr/portal/korea/). −216−.
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