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IRUCAA@TDC : 義歯による口腔組織及び機能の保全

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Academic year: 2021

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

義歯による口腔組織及び機能の保全

Author(s)

矢﨑, 秀昭

Journal

歯科学報, 111(2): 140-145

URL

http://hdl.handle.net/10130/2352

Right

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抄録:歯牙の喪失により,歯槽骨の消失だけでなく 口腔の組織全体に影響が出てくる。特に上下顎の残 存歯による咬合が喪失した場合の補綴には顎堤の吸 収などへの配慮が必要となる。さらに喪失した部分 を補填するように口腔軟組織が変化する事もある。 欠損が生じた場合に早期に可撤性の補綴をする事に より,口腔組織と機能の保存が有る程度可能とな る。 はじめに 高齢社会をむかえて,種々の要因から,歯牙を喪 失した状態で長期経過している患者が多くなってい る。最近の傾向としてインプラントにより欠損部を 補綴する傾向にある。しかしながら日本の現状から 全ての患者がインプラントによる治療が可能ではな く,多くの症例は義歯による補綴が行われている。 義歯による補綴をする場合には,残存している歯牙 と顎堤など口腔組織を保護する事を,優先的に考慮 することが大切となる。長期にわたり義歯による生 活が快適に過ごせることは,その人の人生にとって 多大な幸福をもたらすこととなる。義歯装着後の口 腔組織と機能の保全について臨床を通じて考察して みた。 1.義歯による口腔組織の保護 1)義歯装着による咬合負担域の確保 長期にわたり欠損部の顎堤に義歯などの補綴物が 装着されていないと,頬側の可動粘膜の付着部が次 第に顎堤の中央部にまで延長してくる傾向が認めら れる。このような状態にさせないためには抜歯時の 適切な処置と共に,早期に補綴することが大切とな る。(図1)さらに早期に補綴により対顎の残存歯の 挺出を防ぐこととなる。 2)支台歯を保護する維持装置の設計 ①出来るだけ義歯が安定する維持装置の設定 装着された義歯が口腔内において安定している事 (rigid support)が支台歯や顎堤を保護するためには 必要である。クラスプ等を維持装置に応用する際 は,連結装置など使用して左右両側に維持装置を設 定することが必要となる。支台歯の清掃性なども考 慮すると,コーヌスクローネは維持装置として有効 である。 ②根面アタッチメントの応用 歯冠が崩壊している歯牙や,根管に維持を求める 必要がある支台歯の場合など,磁性アタッチメント やOリングなどを使用することにより,支台歯にか かる側方圧などを軽減することができる。 3)残存歯を保護する連結装置の設定について パーシャルデンチャーの連結装置の設定位置によ り残存歯へ多大な影響がある。連結装置と残存歯と の距離は一定以上(3mm 以上)が必要である1) 。こ のような距離の設定が困難な症例においては残存歯 の歯頚部に密接した設計とすべきである(図2)。

臨床ノート

義歯による口腔組織及び機能の保全

矢 秀昭

キーワード:顎堤の吸収,上顎大臼歯の1本残り,複製義 歯,咬座印象 東京歯科大学臨床教授 (2011年1月17日受付) (2011年1月27日受理) 別刷請求先:〒161‐0034 東京都新宿区上落合2−27−16 矢 秀昭

Hideaki YASAKI : Removable Dental Prosthesis For

Con-servation of Oral Tissue and Function(Clinical Professor of Tokyo Dental College)

140

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4)義歯装着後のメインテナンス ①支台歯のメインテナンス 義歯装着後のメインテナンスは特に支台歯を守る ことを優先して考慮すべきである。特に注意すべき 点は支台歯の補綴側の隣接面の清掃である。プラー クの貯留状態を見てみると圧倒的に義歯隣接面に多 くみられる1) ②義歯床部のメインテナンス 義歯装着部の顎堤は経年的に変化するが,その程 度には大幅な個人差が認められる。さらに同一の口 腔内においても,対顎の残存歯の状況などにより義 歯床に加わる咬合力により,その義歯床下の顎堤の 吸収などの変化により大きな差異がみられる。顎堤 の変化に対応して床の裏装等をする前に,適合試験 材を用いて義歯と顎堤の適合状態を観察することが 必要である。しかしながら,適合試験材はその練和 の状態や咬合力の加え方により,結果に差が生じる ことがあり,十分なる注意が必要である。 ③夜間の義歯の装着について 顎堤粘膜を一日中,義歯床で被覆するより夜間は 粘膜を開放しておいた方が良いとの考え方もある。 しかしながら,特にパーシャルデンチャーにおいて は歯ぎしりなどの影響を考えると,就寝時に確実に 口腔清掃をすることを前提として,義歯を装着した ままの方が加重負担から残存歯を保護することとな る。 2.義歯による顎堤の吸収を抑制する工夫 1)一律でない顎堤の吸収の進行について 歯牙の喪失後に歯槽骨の吸収が生じる事は避けら れない事である。さらに顎堤の吸収は加齢と共に吸 収は持続的に進行するものとされている2) 。しかし ながら義歯装着後にその予後を長期にわたり,経年 的に観察していると必ずしも一律に顎堤の吸収が進 図2 歯周組織への影響を考慮すると,連結装置の辺縁は 残存歯より3mm 以上離す必要があるが,設定が困難 な場合は残存歯の舌側歯頚部に密接した設計とする。 図1 大臼歯部を抜歯後に補綴処置をしていないため,頬 側の可動粘膜の付着部が顎堤の歯槽頂近くまで延長し ている。 図3 顎堤の経年的な吸収進行は一律ではなく,個人差や同一の口腔内においても 差異が有る。 歯科学報 Vol.111,No.2(2011) 141 ― 13 ―

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行しているものとは思えない症例が多数存在してい る(図3)。どのような状況において顎堤の吸収が進 行するのか,さらにどのような対応により顎堤の進 行が抑制されているかを,実際の臨床的な経過から 知っておくことは,口腔組織の保全の上で重要なこ とである。 2)義歯による顎堤の吸収の進行について ①すれ違い咬合による顎堤吸収の進行について (図4)のようなすれ違い咬合の症例に対して,残 存歯をそのままとしてパーシャルデンチャーを装着 する事により,著しく顎堤の吸収が進行することが ある。出来るだけ咬合力が義歯床に偏在して加わら ないようにすることと,義歯のメインテナンスによ る安定を図ることが大切となる。 ②下顎前歯部残存による上顎前歯部の顎堤の吸収に ついて 高齢者において下顎前歯部のみが残存している症 例が多数見られる(図5)。このような症例において は上顎の前歯部の顎堤に咬合力がより強く作用する こととなり,この部分の顎堤の吸収が進行し,フラ ビーガムの状態となる傾向がある。臼歯部での咬合 の確保ができるような義歯の設計と,定期的な検診 により,前歯部の咬合調整が必要である。 3)顎堤の吸収の進行を抑制する義歯の設計 ①咬合平面を整える工夫 残存歯を含めた義歯の咬合平面を整えることによ り,顎堤への義歯の咬合圧が均等に加わるようにす ることは大切なことである。コーヌスクローネや根 面アタッチメントなどは,咬合平面を整えるのに有 効な方法である。 ②上顎大臼歯部の1本残りの症例への対応 上顎の症例において,残存歯が片側に大臼歯が1 本だけ残存している症例がかなりの頻度でみられ る。通常はこの大臼歯にクラスプを設定してパー シャルデンチャーを装着することが多い。特に下顎 が前歯部のみ残存している症例において,上顎の前 歯部に強い咬合力が加わることとなり,この部分の 顎堤の吸収が進行し,フラビーガムとなる傾向がみ られる。このような症例に対しては(図6)のように 1本残存している支台歯にOリングや磁性アタッチ メントなどの根面の維持装置を使用し,総義歯の形 態とすることにより,義歯床の吸着による維持力が 著しく増加する。これにより前歯部への偏在した咬 合圧を避けることができ,この部分の顎堤の吸収を ある程度抑制することができる。 さらに,この上顎大臼歯の1本残りの対顎が義歯 の場合は,咬合力の作用によりこの部位の下顎の顎 堤の吸収が進行する。この上顎を根面アタッチメン トにすることにより,この部位の下顎の顎堤の吸収 の進行をもある程度抑制できる。 ③オーバーデンチャーによる顎堤の保護 残根の状態でも歯根が歯槽骨に存在することによ り顎堤の吸収は抑制される。根面板で根面を被覆す るだけでの状態でもこの部分の歯槽骨の吸収の進行 は大幅に遅延する。但し,歯冠のない歯牙について はプラークの貯留が生じやすく,より確実な清掃指 導と定期的な観察が不可欠である。 4)義歯装着後のメインテナンス ①総義歯の場合 総義歯装着後の義歯の安定が顎堤の吸収の進行を 図4 すれ違いに残存歯が有ると顎堤の吸収が進行しやす い。出来るだけ咬合力が偏在しないような補綴処置が 必要となる。 図5 上顎の全顎および下顎臼歯部が喪失し,下顎の前歯 部のみが残存している症例が多々見られる。臼歯部で の咬合の確保と定期的な調整が必要である。 矢 :義歯による口腔組織及び機能の保全 142 ― 14 ―

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抑制することとなる。特に義歯装着後の咬合調整が 大切である。義歯装着後の定期検診時に咬合紙等で 診査してみると,臼歯部より前歯部の方が強く接し ている事が多い。このような場合は前歯部の咬合を 調整し,臼歯部との咬合が均一に咬合するように調 整することが必要となる。さらに抜歯後短期間で義 歯を装着した症例においては義歯床下の顎堤の吸収 の進行が均一でなく,床の安定が得られなくなるこ とが多い。このような状況になるとさらに顎堤の吸 収が進むこととなる。適合試験材を応用して診査す るとともに,裏装などによる義歯の安定を図ること が大切である。 ②パーシャルデンチャーの場合 総義歯よりも少数歯残存のパーシャルデンチャー の方が,顎堤の吸収を促進する要因になっている事 が多い。特に,すれ違い咬合の症例において,対顎 に残存歯が有る床の部分に咬合力が偏在して作用 し,その床下の顎堤の吸収が進行することとなる。 さらに小臼歯や犬歯が1本残存している症例などに おいて,クラスプ等が設定されていると,そこを支 点として義歯の動きが生じ,さらに顎堤の吸収が進 行することとなる(図7)。このような症例において は4カ月程度おきに定期検診を行い,残存歯を支点 とした動きが認められた場合は,床の裏装等により 義歯の安定を図る必要がある。 3.より口腔組織に調和し機能する義歯の作製 1)複製義歯(治療用義歯)の活用 総義歯や多数歯のパーシャルデンチャーを作製す る場合に,適切な咬合位を決める事は困難なことが 多い。さらに人工歯の排列位置や,より義歯の安定 が得られる床縁の位置を模型上や口腔内での試適だ けで確認することは,難しい事である。このような 場合にはそれまで使用している義歯の複製義歯(図 8)を作製し,これを大幅に改造し,ティッシュコ ンディショナーを併用し,口腔内においてある期 間,繰り返し調整することにより,機能時の咬合位 や床縁の位置を,より的確に確認することができ る3) 。口腔内で調整した複製義歯の上下顎を固定 し,その床の基礎面に石膏を注入し,咬合器に装着 図7 犬歯や小臼歯が1本残存し,クラスプ等の維持装置 が付いていると,この歯を支点として義歯に左右の動 きが生じ,顎堤の吸収が進行することが有る。 図6 上顎大臼歯の1本残りの症例においては,この部分 を根面アタッメントにする事により,総義歯と同様な 義歯の吸着を得ることができる。 図8 使用中の金属床義歯とその複製義歯。金属床の義歯 の調整は困難であるが,複製義歯は調整がしやすく, 適切なる咬合位や床縁の位置を確認することが容易と なる。 歯科学報 Vol.111,No.2(2011) 143 ― 15 ―

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する事により,咬合位を新義歯に正確に移行するこ とができる3) 。 2)口腔周囲組織からみた難症例義歯の診断 ①開口時の口輪筋や口唇圧の義歯への影響 顎堤の吸収の進行が比較的少ない下顎において も,機能時の義歯の安定が得にくい症例がある。こ れらの症例の多くは,開口時に口輪筋や口唇の圧力 が義歯を浮き上がらせる力となって義歯に作用し, 義歯の安定を阻害するためである。まず顔貌を診査 し,特に開口時の口唇が下顎顎堤のどの位置まで作 用を及ぼしているかを確かめることが大切である。 開口時に下顎の口唇が顎堤の歯槽頂部を越えて舌側 にまで入り込んでいる症例もある(図9)。このよう な症例の場合,下顎前歯部の排列位置や,床の唇側 の形態と,口唇との関係に十分注意を払う必要があ る。 ②舌側の可動粘膜組織の付着 下顎舌側に明確なる可動粘膜の付着が認められる 症例が有る(図10)。通常は片側性に出現することが 多い。この粘膜の付着部が舌側から下顎顎堤の歯槽 頂近くまで及んでいる症例も多々見受けられる。こ のような症例において義歯の設定が困難となり,さ らに装着後の安定が得にくいことから,可能ならば 外科的な処置が必要となる。 ③舌下ヒダの状況 舌下腺のふくらみにより出来た小舌下腺の開口部 が数個ある粘膜の高まりがある。この舌下ヒダと舌 側の床縁と接する事により,下顎の義歯の辺縁封鎖 が良好となり義歯の安定が得られる4) 。顎堤の状況 が良好でなく,さらにこの舌下ヒダの隆起が少ない 症例においては,下顎義歯の安定は得にくく,難症 例となることがある。 3)咬座印象法による義歯の作製 義歯の印象として,広く採用されている方法は, 各個トレーとモデリングコンパウンドを併用した筋 圧形成印象法である。この方法は顎堤の状態を明確 に印象でき,床の被覆範囲を決定するには大変優れ た方法である。 しかしながら,総義歯の印象としては義歯の安定 に必要な,頬舌側の可動粘膜と義歯の研磨面との調 和した関係を印象する事は困難である。 図10 下顎大臼歯部の舌側に,かなり大きく可動粘膜組織 の付着がある症例が有る。義歯の安定が得にくく,可 能なら外科的な処置が望ましい。 図9 義歯の作製にかかる前に,開口時の口 輪筋や口唇圧が,いかに義歯に作用する かを,確認しておくことが必要である。 図11 咬座印象により,頬粘膜などの可動粘膜の開口時の 状態を印記し,義歯の床研磨面に再現する。先に上顎 から行い,必ず上下顎別々に咬座印象を行う。 矢 :義歯による口腔組織及び機能の保全 144 ― 16 ―

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これに対して咬座印象法は義歯の安定に有効な手 段である5,6) 。人工歯を排列したワックスデンチャー の床基礎面に印象材を盛り,軽く咬合させ,さらに 開口等により,可動粘膜により印記された義歯研磨 面の形態を義歯に移行することができる。これによ り口腔組織調和し,さらに口腔機能を保持するのに 役立つものである(図11)。 おわりに 義歯を装着することは,単に歯牙が欠損した部分 を補綴して咬合咀嚼を回復するだけではない。対合 歯の挺出や,その周囲の軟組織の変化を,欠損部に 可徹性の補綴物を装着しておくことにより,ある程 度,有歯の時と同様に保つことができる。また,歯 牙喪失部分の顎堤の吸収は,その部分に加わる咬合 力などにより,進行状態に差異が生じてくる。でき るだけ長期に顎堤を守ることを考慮して,補綴処置 とメインテナンスを行う事が必要である。 文 献 1)矢 秀昭:下顎可徹性局部義歯が残存歯の歯齦に及ぼす 影響について,歯科学報,82:1627∼1667,1982. 2)浦郷篤史:口腔諸組織の 加 齢 変 化,第1版(浦 郷 篤 史 著),28∼33,クインテッセンス出版,東京,1991. 3)矢 秀昭:複製義歯を応用した咬座印象法による総義歯 の臨床,第1版(矢 秀昭 著),78∼95,医 歯 薬 出 版,東 京,2004. 4)阿部二郎:下顎総義歯を吸着させるために,日本歯科評 論,681:141∼157,1999. 5)矢 秀昭:矢 正方の総義歯に学ぶ,第1版(矢 秀昭 著),71∼96,医歯薬出版,東京,1995. 6)矢 正方:総義歯学,第3版(矢 正方著),171∼178, 而至化学工業株式会社,東京,1967. 歯科学報 Vol.111,No.2(2011) 145 ― 17 ―

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