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MEMS-on-LTCC技術を用いた小型チューナブルフィルタ

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(1)

and Fumihiko NAKAZAWA

あらまし 本論文はK (18∼26 GHz),Ku (12∼18 GHz),S (2∼4 GHz) バンドの MEMS チューナブルフィ ルタの開発成果について報告する.開発した各バンドのフィルタは世界最小のサイズとトップクラスの挿入損を 実現している.これらのチューナブルフィルタはMEMS バラクタと一体化したマイクロストリップ共振器から なるフィルタ構造を採用し,高誘電率LTCC 配線ウェーハ表面上に直接形成した.K,Ku バンドのフィルタに は比誘電率20 の LTCC 基板材料を,S バンドのフィルタには比誘電率 50 の LTCC 基板材料をそれぞれ適用し た.製造技術としてはMEMS-on-LTCC 技術を新たに開発し,高誘電率 LTCC 配線基板の大口径ウェーハ化と LTCC ウェーハ表面への MEMS 構造の直接形成に成功した.また,抵抗ビアを LTCC 基板に内蔵する技術も開 発し,抵抗ビアによる高周波信号の漏えい遮断効果を検証した.S バンドの MEMS チューナブルフィルタを用 いてRF 信号に対する耐電力試験を行い,携帯電話の電力レベルに対して十分な線形性を有することを確認した. キーワード 高誘電率,LTCC,MEMS,チューナブルフィルタ,リコンフィギュラブルな RF フロントエンド

1.

ま え が き

将来の無線通信技術として,限られた周波数資源の 有効利用のためのソフトウェア無線(SDR: Software-Defined-Radio)やコグニティブ無線(Cognitive radio solution)が提案されている[1].ソフトウェア無線と コグニティブ無線は使用する周波数帯域を自由に選択 できるようなリコンフィギュラブルなRFフロントエ ンドモジュールを必要とする.また,レーダシステム も広い周波数範囲をカバーするためには,リコンフィ ギュラブルRFフロントエンドを必要とする[2].通 常,このような周波数可変RFフロントエンドには フィルタバンクが使用される.フィルタバンクは周波 数固定のフィルタを必要な数だけ並べ,スイッチで使 用するフィルタを選択する構成であるため,バンド数 の増加に伴い,RFフロントエンドモジュールの規模 (株)富士通研究所機能デバイス研究部,明石市

Innovative Device Lab., Fujitsu Laboratories Ltd., 64 Nishi-waki, Okubo-cho, Akashi-shi, 674–8555 Japan

††技術研究組合超先端電子技術開発機構三次元集積化技術研究部,明

石市

3D-Integration Technology Research Department, Associa-tion of Super-Advanced Electronics Technologies, 64 Nishi-waki, Okubo-cho, Akashi-shi, 674–8555 Japan

a) E-mail: [email protected] の拡大や,通過損やコストの増加が不可避である[3]. また,フィルタバンクは周波数特性が固定のため,ソ フトウェア無線が求める将来の通信帯域幅や中心周波 数への拡張性が望めないという本質的な欠点がある. チューナブルフィルタはフィルタ自身が周波数を自 在に変更する機能をもち,1チップでマルチバンド対応 が可能である.実現すれば,より小型で柔軟性のある リコンフィギュラブルRFフロントエンドが構築可能 になるため,将来技術として注目が高まっている[3]∼ [5]. 近年,チューナブルフィルタの研究は盛んに行われ ている.強磁性共鳴や静磁波素子を用いたチューナブ ルフィルタは高い共振Q値とマルチオクターブの周 波数可変が可能であるため,高周波用計測機器に用い られている.しかし,高消費電力,高コスト,サイズ が大きい,及び低い線型性などの欠点も有しているた め,無線通信端末への適用は難しい[6]∼[8]. 電気共振器フィルタに半導体またはMEMS (Micro-Electric-Mechanical-System)スイッチやバラクタを 組み合わせたチューナブルフィルタがある[3]∼[5]. この種の可変フィルタは半導体やMIC (Microwave-Integrated-Circuit)のバッチプロセス技術を用いて製 造できるため,小型化と低コスト化が可能である.集

(2)

中定数回路に比べてQ値が高く,数十GHzまでの動 作も可能な分布定数型フィルタが採用されている例が 多い.しかし,半導体スイッチやバラクタを可変素子 として使うと,可変範囲が大きく高速動作も可能であ る利点があるものの,挿入損が大きく,線形性とアイ ソレーションも低いという欠点があり,良好なフィル タ特性の実現が困難である.一方,MEMS素子は低 損失,高い線形性,広い可変範囲に加えて駆動電力が 小さいなどの利点があり,チューナブルフィルタ用の 可変素子として有望である[3]. MEMSスイッチとキャパシタバンクを組み合わせ て容量を可変するディジタル式チューナブルフィルタ の開発例がある.広い周波数範囲で離散的に周波数を 切り換えることができる.例えば,K. Entesariらが 報告した4ビットディジタル式MEMSチューナブル フィルタは12.2 GHzから17.8 GHzまで,37%の中 心周波数可変を達成した[9].3段共振器の直列接続で 構成され,サイズは8 mm× 4 mmであり,挿入損は 5.5∼8.2 dBである. アナログ式チューナブルフィルタにはキャパシタバ ンクの代わりにMEMSバラクタがよく使われている. 大きな可変範囲が得られないものの,通過帯域の連 続的な周波数可変が得られる.A. Tamijaniらは3段 アナログ式MEMSチューナブルフィルタを試作し, 4.15 dBの挿入損で,18.6 GHzから21.4 GHzまで, 14%の中心周波数可変を報告した[10].デバイスの長 さは3.62 mmである. MEMSスイッチと可変キャパシタは盛んに研究さ れており,実用に近い特性が報告されている[11].圧 電アクチュエータと静電アクチュエータは駆動に要す る消費電流が小さいため,様々の応用に使われている. 圧電アクチュエータは出力が大きい利点がある.静電 アクチュエータは構造と製法が単純である.本研究は 静電アクチュエータを用いた. チューナブルフィルタの基板にはガラスや高抵抗シリ コンの使用例が多い.フィルタ回路はコプレーナ導波路 (CPW:Co-Planar Waveguide)または集中定数回路 から構成される.その課題は挿入損低減と小サイズ化で ある.本研究では,高誘電率(High-k) LTCC (Low-Temperature-Co-fired-Ceramics)配線ウェーハの上 でMEMS構造を直接に形成するMEMS-on-LTCC 技術を新たに開発した.この技術を用いてK,Ku,S バンドのチューナブルフィルタを試作した[12]∼[15]. 試作にはマイクロストリップ共振器にMEMSバラク タを組み合わせた構成を用いた.また,MEMS駆動 用のDC配線経路へのRF信号の漏えいを防ぐため, LTCC基板の内層ビアにRF遮断用高抵抗を埋め込む 技術を開発し,この抵抗ビアをBias-Tとして機能さ せることに成功した[15].本論文は上述したMEMS チューナブルフィルタのコンセプト,設計,製造技術 及び評価結果について報告する.

2.

コンセプト及び設計

我々はMEMS チューナブルフィルタを高誘電率 LTCC配線基板上に直接形成し,動作を実証すること を世界で初めて成功した.本章では原理,コンセプト 及び設計手法について解説する. 2. 1 原理とコンセプト 開発したK,Ku,Sバンドの各チューナブルフィル タの構成を図1∼図3に示す.K,Kuバンドチューナ ブルフィルタは3段のλ/2分布定数共振器の直列接続 構成となっており,各共振器はk-inverterによって結 合されている.Sバンドフィルタは並列接続された四 つのλ/4分布定数共振器からなり,λ/4共振器の一端 が接地されている.四つの共振器はフィルタの中心に 図 1 Kuバンド MEMS チューナブルフィルタの構成 Fig. 1 Configuration of Ku band MEMS tunable

filter.

図 2 Kバンド MEMS チューナブルフィルタの構成 Fig. 2 Configuration of K band MEMS tunable filter.

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図 3 Sバンド MEMS チューナブルフィルタの構成 Fig. 3 Configuration of S band MEMS tunable filter.

配置されたカップリング可変キャパシタによって結合 されている.各々の共振器をまたぐ形でMEMSバラ クタを配置した.これらのバラクタとk-inverterはビ アを介して基板に内蔵されたグランドに接続されてい る.MEMSバラクタは分布定数共振器にslow-wave 効果をもたらし,分布定数線路の伝搬定数を増大させ ることにより,共振器の物理的な長さを等価的に短縮 する効果がある.MEMSバラクタの容量値を大きく なるように調整することで,共振器の有効電気長が増 加し,フィルタの通過帯域の中心周波数が低くなるよ うに可変できる. マイクロストリップ共振器は基板内蔵のグランドと 表面に形成された信号線から構成される.LTCC技術 がこのようなマイクロストリップ線路を可能にした. また,表面の信号線とグランド間の距離を自由に設計 できるメリットがあり,共振器のQ値の最大化が図れ る.CPW構造に比べて,マイクロストリップ線路は Q値が高い,有効誘電率が高い,耐電力性が優れる, 電磁波の放射や拡散が少ない,電磁波の局在空間が小 さいなどの利点があり,伝搬損の少ない共振器が実現 できる. 分布定数線路を用いたフィルタのサイズは基本的に 基板の誘電率で決定される.分布定数線路における波 長は以下の式で表される. λ = ω√μ2π 0ε0√εe (1) ここで,μ0,ε0はそれぞれ自由空間の透磁率と誘電 率である.ωは電磁波の角周波数である.εeは分布定 数線路の有効比誘電率であり,実際は基板の比誘電率 図 4 信号線と基板内蔵グランド間の距離h に対する共振 器の無負荷Q 値の依存性

Fig. 4 Dependence of microstrip resonator’sQ factor on the distanceh between the signal line and

built-in ground. に正比例する.フィルタのサイズを縮小するためには, 高誘電率(high-k)を有する誘電体材料の使用が必須 である.本研究では,K,Kuバンドのフィルタに比 誘電率20のLTCC材料を導入した.Sバンドのフィ ルタには比誘電率50のLTCC基板材料を適用した. 2. 2 設 計 手 法 フィルタの通過損を低減するため,無負荷Q値が最 大になるようにマイクロストリップ共振器の構造を最 適化する必要がある.基板表面に形成される信号線と 基板に内蔵される内部グランドとの間の距離hに対す るマイクロストリップ線路の無負荷Q値の変化を計算 した.計算にはマイクロストリップ線路の導体損,基 板における誘電損と放射損を考慮した.計算から,無 負荷Q値はその距離hに強い依存性があることが分 かった.Kuバンドチューナブルフィルタの場合,特 性インピーダンス63 Ωのマイクロストリップ線路を 共振器に使用した.63 Ωのマイクロストリップ線路の 15 GHzにおける無負荷Q値の計算結果を図4 に示 す.無負荷Q値がh = 600 μmのとき,最大値の140 に達することが分かった.内部グランドにおける損失 が距離hに反比例し,hが小さいときに支配的である. 一方,放射損はhに正比例し,hの増大とともに支配 的になる.そのため無負荷Q値に図4のような極大 点が現れる.KバンドとSバンドフィルタも同様の計 算を経て,マイクロストリップ構造を決定した[13]∼ [15]. 次に,フィルタ回路を回路シミュレータ上で合成し た.フィルタの詳細設計とレイアウトは三次元電磁 界解析ツールを用いて行った.Kuバンドフィルタは, 16 GHzを中心周波数とする比帯域13%の3段チェビ

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表 1 Kuバンドフィルタの電気パラメータ Table 1 Model parameters for Ku band filter

synthesis.

図 5 Kバンドフィルタの電磁界解析特性と実測値の比較 Fig. 5 Simulated and measured performances of K

band tunable filter.

シェフフィルタを合成した.構成したフィルタの電気 パラメータを表1に示す.更に,このフィルタの最適 化を三次元電磁界解析で行った.MEMSバラクタの ギャップが2μm時の最適化したフィルタの電磁界解析 特性と実測値の比較を図5に示す.最適化の結果,こ のKuバンドフィルタでは1.3 dBの低損失が実現でき ることが分かった.また,電磁界解析結果が17 GHz 以下では実測値とほぼ一致していることから,設計手 法の有効性も確認できた.KバンドとSバンドフィル タも同じ手法で最適化設計を行った[13]∼[15]. 2. 3 MEMSアクチュエータの配置 図8 の4に示すように,平行平板型静電アクチュ エータをMEMSバラクタに適用した.マイクロスト リップ線路はCPW構造のように信号線に近接して配 置するグランド線が不要のため,信号線の両脇に大き な静電アクチュエータを配置することが可能になる. 同じ駆動電圧で,CPW構造に比べて,大きな駆動力 を提供することが可能になるため,より大きな可変範 囲が実現できる.言い換えると,マイクロストリップ 構造の適用によって,一定の可変範囲の調整をより低 い駆動電圧で実現できる,あるいはMEMSバラクタ の可動電極に,より硬いばねの使用が可能になるなど の利点が生まれる. 2. 4 高周波信号の漏えい防止 チューナブルフィルタはチューニングのための駆動 信号を必要とするため,フィルタチップ上で高周波信 号とDC信号が混在する.高周波信号のDC配線への 漏えいは損失の原因になる.特にフィルタを小型化し た場合,高周波信号とDC信号の配線が近接するよう になり,高周波信号の漏えいがより深刻になる.Kバ ンドとKuバンドの場合は,基板表面に形成した高抵 抗線をDCの駆動線として使用して高周波をDC配線 から遮断した. Sバンドフィルタの場合,比誘電率50のLTCC材 料を基板として適用しており,フィルタ構造はK,Ku バンドフィルタに比べて更に小型化しているため,上 述の高抵抗DC配線を配置することが難しくなった. そこで,高周波漏えいを防ぐため,LTCC基板の内層 ビアに高周波遮断用高抵抗を埋め込む抵抗ビア技術を 開発した.Sバンドフィルタの中心に配置されたカッ プリング可変キャパシタの構成と等価回路をそれぞれ 図6,図7に示す.MEMSバラクタは基板上に形成 されたくし型電極対とその真上に配置した可変上部電 極から構成されている.くし型電極対は等価回路上で, 固定容量C1で表される.可変上部電極とくし型電極 対との間には,可変容量VC2を生じる.このC2は 可変上部電極の変位によって変化する.二つの平行平 板型静電アクチュエータをくし型電極対の両側に配置 し,可変上部電極を駆動する.可変上部電極と平行平 板型静電アクチュエータの駆動電極が,基板内部に形 成されている抵抗ビアを介してDC駆動信号に接続さ れている.これらの抵抗ビアはLTCC基板及び基板内 部の金属配線と同時に焼成される.抵抗ビアは10 kΩ である.これらの高抵抗ビアはバイアスTの役割を 果たし高周波信号のDC配線への漏えいを防ぐと同 時にMEMSバラクタへのDC駆動信号を供給してい る.以上により,このMEMSバラクタの等価回路は 図7 (b)に示すように簡略化できる. 新たに開発した抵抗ビア技術はバイアスTをMEMS デバイスの直下の基板内部に集積できることになり, フィルタのいっそうの小型化に寄与した.

(5)

図 6 カップリング可変キャパシタの構成 Fig. 6 Configuration of the MEMS coupling

varactor.

図 7 カップリング可変キャパシタの等価回路 Fig. 7 Equivalent circuit of the MEMS coupling

varactor.

3. MEMS-on-High-k-LTCC

技術

本研究では,ウェーハレベル製造プロセスを用いて, 高誘電率LTCC基板上に直接MEMS構造を形成する MEMS-on-High-k-LTCC技術を開発した. MEMS-on-High-k-LTCCのプロセスフローを図8に示す.基 本的なコンセプトは大口径のLTCC配線基板ウェー ハを製作し,その表面に直接MEMS構造または受動 回路を形成することである.LTCC基板にはグラン ド層,配線パターンを内蔵でき,高密度のマイクロス トリップ線路の構成が可能になる.また,LTCC基板 の裏面にI/Oパッドが形成できる.更に,他のファ 図 8 MEMS-on-High-k-LTCC技術のプロセスフロー Fig. 8 The process flow of MEMS-on-LTCC

technology. ンクションデバイスを基板表面に形成されたMEMS や受動回路の上に実装することにより,システムをモ ジュール化することができる.LTCC基板がデバイス 基板とパッケージ基板を兼ねていることは上述したコ ンセプトの特徴である.以下に,図8に示した製造プ ロセスの詳細を述べる. 3. 1 LTCC配線ウェーハ技術 まずは大口径の高誘電率LTCC配線ウェーハを製 作する.必要な配線パターンと金属ビア,抵抗ビアを それぞれのセラミックスグリーンシートに印刷技術で 形成する.各グリーンシートを位置合せし積層するこ とで焼成前のウェーハが形成される.焼成工程を経て プロセス可能なLTCC配線ウェーハとなる.基板内 部に形成された配線やビアも同時に焼成される.一般 的には,焼成工程におけるLTCCウェーハの収縮に よりビア位置がずれる.ウェーハ表面のビアが設計位 置からずれると,後続のフォトリソグラフィ工程にお

(6)

いて,ビアと表面パターン間のアラインメントができ なくなる.そこで,焼成後のビア位置が設計位置と一 致するようウェーハ全面のビア位置を精密に制御する 技術を確立した. 後続のフォトリソグラフィと薄膜形成プロセスのた め,ウェーハの反りを100μm以下に抑制することと 表面の平滑化処理技術も開発した.以上の技術を用い てLTCC配線ウェーハの開発に成功した. 3. 2 プロセス技術 LTCC配線ウェーハの表面に薄膜と電気めっき技術 を用いて,信号線と平行平板型静電アクチュエータの 下部電極を形成する. 次に,信号線と静電アクチュエータの下部電極の上 に犠牲層を形成する.静電アクチュエータ及びMEMS バラクタの上下電極間のギャップは犠牲層の厚みによっ て規定されるので,厚みを精密に制御する必要があ る.また,犠牲層の上に形成される上部電極の平たん 性を確保するために,犠牲層の表面の平たん性が要求 される.これらの要求を満たすため,電気めっき銅犠 牲層技術を新たに開発した.信号線と同じ高さの第一 の銅犠牲層を形成する.第一の銅犠牲層または信号線 の上に第二の銅犠牲層を形成する.第二の銅犠牲層 によって,MEMSバラクタのギャップが規定される. また,第一と第二の銅犠牲層の総厚によって静電アク チュエータの上下電極間の距離が規定される.駆動電 極に印加した駆動電圧の上昇とともに,上部電極が固 定電極に向かって下向きに変位する.一般的には,可 動電極が電極間ギャップの1/3以上移動したら,静電 引力がばねの復元力よりも大きくなって,可動電極が 固定電極に吸い付いてしまうことを静電プルイン現象 と呼ぶ.静電アクチュエータのプルイン現象を避ける ため,第二銅犠牲層の厚みを犠牲層の総厚の1/3にし た.電気めっき銅犠牲層は他の樹脂,Si,誘電体犠牲 層に比べて,内部応力が低い,剛性が高い,成膜レー トが速い,パターンの形成と除去が容易であるなどの 利点があり,厚い犠牲層形成に有利である. 銅犠牲層の上にAu上部電極を形成する.上部電極 は両持ちばねの役割も兼ねる.上部電極を変位させる ときに,信号線と重なる上部電極の中央部の平たん性 を維持するために,中央部を電気めっきで厚くし剛性 を上げた.上部電極を形成した後,電気めっきのシー ド層と銅犠牲層を除去してMEMS構造をリリースす る.最後にチップをウェーハから切り出す. 上述したように,全ての製造工程をウェーハレベル で行うので高い製造精度と量産性が得られる. 3. 3 試 作 結 果 上述したMEMS-on-LTCC技術を用いて試作した チューナブルフィルタのSEM写真をそれぞれ図9∼ 図11に示す.Ku,K,Sの各バンドのフィルタサイ ズはそれぞれ3.3 mm× 1.7 mm,2.9 mm× 1.5 mm, 3.7 mm× 4.1 mmであり,各バンドにおいて世界最小 サイズを実現した.Ku,Kバンドチューナブルフィル タの全体SEM写真をそれぞれ図9 (a)と図10 (a)に 示す.ウェーハから切り出したチップ単体のSEM写真 をそれぞれ図9 (b)と図10 (b)に示す.MEMSバラ クタ部の断面SEM写真をそれぞれ図9 (c)と図10 (c) に示す.上部電極が内部の金属ビアを介して内部グラ ンド面に接続されている.上部電極の拡大写真をそれ ぞれ図9 (d)と図10 (d)に示す.上部電極の各部位を 同じ倍率と角度で観察した.SEM観察から,上部電 極全体が平たんで同じ高さに位置していることを確認 できた.以上の試作結果から,開発した銅犠牲層技術 図 9 試作した Ku バンド MEMS チューナブルフィルタ Fig. 9 SEM photographs of fabricated Ku band

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図 10 試作した K バンド MEMS チューナブルフィルタ Fig. 10 SEM photographs of fabricated Ku band

MEMS tunable filter.

は微小なギャップ構造の形成に有用であることを実証 した. Sバンドフィルタの全体SEM写真を図 11 (a)に 示す.MEMS結合バラクタの拡大写真を図11 (b)に 示す.図 11 (b)の左は上部電極が付いている状態の 写真であり,MEMSバラクタの全体を示している. 図11 (b)の右は上部電極を取り除いた写真であり,く し型電極対と静電アクチュエータの下部電極を示して いる. 以上のSEM観察から,LTCC基板表面にMEMS 構造体及びマイクロギャップが精度良く形成されてい ることが確認できた.

4.

開発したKu,K,Sバンドチューナブルフィルタの チューニング特性,抵抗ビアの高周波隔離効果及びS バンドフィルタの耐電力性について評価した.以下に 図 11 試作した S バンド MEMS チューナブルフィルタ Fig. 11 SEM photographs of fabricated S band

MEMS tunable filter.

評価結果の詳細を述べる. 4. 1 チューニング特性 Kuバンドチューナブルフィルタのチューニング特 性を図 12 (a),(b)に示す.最大60 Vの駆動電圧を 印加することで,フィルタの中心周波数が12 GHzか ら17.3 GHzまで,36%の連続チューニングを実証し た.フィルタの挿入損は1.23∼2 dBであり,反射損 は−10 dB以下である.フィルタ特性としては3.5以 下のシェープファクタ,13%の比帯域と−25 dB以上 の帯域外抑圧を実現した. Kバンドチューナブルフィルタのチューニング特性 を図 13 (a),(b)に示す.最大60 Vの駆動電圧を印 加することで,フィルタの中心周波数が19 GHzから 26.5 GHzまで,32%の連続チューニングを実証した. フィルタの挿入損は2.79∼3.58 dBであり,反射損は −15 dB以下である.フィルタ特性としては3.5以下 のシェープファクタ,7∼11%の比帯域と−25 dB以上 の帯域外抑圧を実現した. Sバンドチューナブルフィルタのチューニング特性を 図14 (a),(b)に示す.最大100 Vの駆動電圧を印加 することにより,フィルタの中心周波数が3.4 GHzか ら4.2 GHzまで,21%の連続チューニングを実証した. フィルタの挿入損は2.3 dBであり,反射損は−15 dB

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(a) Insertion loss of the fabricated Ku band tunable filter.

(b) Return loss of the fabricated Ku band tunable filter. 図 12 試作した Ku バンドフィルタのチューニング特性 Fig. 12 Tuning responses of the fabricated Ku band

tunable filter.

図 13 試作した K バンドフィルタのチューニング特性 Fig. 13 Tuning responses of the fabricated K band

tunable filter.

図 14 試作した S バンドフィルタのチューニング特性 Fig. 14 Tuning responses of the fabricated S band

tunable filter. 以下である.フィルタ特性としては6以下のシェープ ファクタと−25 dB以上の帯域外抑圧を実現した. また,抵抗ビアのRF信号の遮断効果についてSバン ドのチューナブルフィルタを用いて検証した.MEMS アクチュエータのDC駆動パスに抵抗ビアが導入され たフィルタと導入されていないフィルタの挿入損の比 較を図15に示す.抵抗ビアが導入されていないフィ ルタの通過損を測定する際,駆動パッドと外部DC電 圧源との間に外部バイアスTを挿入した.抵抗ビアに より,挿入損が6.8 dBから2.3 dBに向上し,高周波 のDC配線への漏えいが大きく低減されていることが 確認できた. 4. 2 耐 電 力 性 Sバンドチューナブルフィルタを用いてRF信号に 対する耐電力試験を行った.評価手法を図16に示す. まずは,高周波アンプの出力電力値によるOFDM信 号のEVM (Error Vector Magnitude)値の変化を信 号アナライザで評価した.次に,高周波アンプと信号 アナライザ間にMEMSチューナブルフィルタを挿入

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図 15 抵抗ビアの導入によるフィルタ挿入損の向上 Fig. 15 The insertion loss reduction from integrated

resistive vias.

図 16 RF耐電力性能の評価方法 Fig. 16 Method used to measure RF-power-proof

performance.

図 17 入力 OFDM 信号の電力に対する S バンドフィル タの EVM

Fig. 17 EVM vs. input OFDM power measured from S band filter. し,チューナブルフィルタを通過した後のEVM値を 測定し,比較する.測定したEVM値のフィルタへの 入力電力(PAの出力電力)に対する依存性を図17に 示す.チューナブルフィルタにDC駆動電圧を印加し ない状態で平均電力29 dBmのOFDM信号を投入し た場合のEVM測定値は,高周波アンプ出力から直接 に測定したEVM値と略一致する.チューナブルフィ ルタにDC駆動電圧100 Vを印加した状態で平均電 力26 dBmのOFDM信号を投入した場合のEVM測 定値(−28.2 dB = 0.0015)は,高周波アンプ出力から 図 18 試作したバンドフィルタのチューニング特性 Fig. 18 Benchmark for planar tunable filters.

直接に測定したEVM値(−32.2 dB = 0.0006)と比 較して,0.0009の軽微な増加が見られる.投入する OFDM信号の平均電力が26 dBm以上では,MEMS 可変キャパシタの線形性が悪化し,結果として,フィ ルタのEVM値が増加し始めると考えられる.これら の評価結果から,試作したMEMSチューナブルフィ ルタは平均入力電力26 dBmまでのOFDM信号に対 してほとんどひずみを発生せず,十分な線形性をもつ ことが分かった. 4. 3 ベンチマーク 試作したK,Ku,Sバンドチューナブルフィルタと 他の報告例とのベンチマークを図18に示す.図18 (1) は挿入損のベンチマークである.図18 (2)はフィルタ サイズのベンチマークである.以上の比較から,本研 究で試作した各バンドのチューナブルフィルタは最小 のサイズとトップクラスの挿入損を実現したことが分 かった.

(10)

5.

む す び

本研究では,K,Ku,SバンドのMEMSチューナ ブルフィルタを開発した.開発した各バンドのフィル タは世界最小のサイズとトップクラスの挿入損を実現 している.これらのチューナブルフィルタはMEMSバ ラクタと一体化したマイクロストリップ共振器からな るフィルタ構造を採用し,高誘電率LTCC配線ウェー ハ表面上に直接形成した.K,Kuバンドのフィルタに は比誘電率20のLTCC基板材料を,Sバンドのフィ ルタには比誘電率50のLTCC基板材料をそれぞれ適 用した.製造技術としては,高誘電率LTCC配線基 板を大口径ウェーハ化し,LTCCウェーハにMEMS 構造を直接形成する,MEMS-on-LTCC技術を新たに 開発した.また,抵抗体材料をLTCC基板のビアに 詰め込み,基板と同時に焼成する技術も開発した.抵 抗ビアが高周波信号のDC信号への漏えいを防ぎ,挿 入損の向上に寄与している効果を実証した.Sバンド のMEMSチューナブルフィルタを用いてRF信号に 対する耐電力試験を行い,携帯電話の電力レベルに対 して十分な線形性を有していることを確認した. 謝辞 本研究の一部は,NEDOの「立体構造新機 能集積回路(ドリームチップ)技術開発」プロジェク ト(日本政府経産省「ITイノベーションプログラム」 に基づく)の一環として実施した. 文 献

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1989静岡大・理・物理卒,1991 同大大 学院理学研究科修士課程了.1991(株)富 士通研究所に入社,電子デバイス開発に従 事,現在に至る. 上田 知史 1977神戸大・工卒.1979 同大大学院修 士課程了.同年富士通(株)入社.現在, 通信デバイスの研究に従事. 中澤 文彦 (正員) 1982慶大・理工・電気卒.同年富士通(株) 入社.1991 富士通研究所に異動.2010 よ り超先端電子技術開発機構兼務.現在,基 盤技術研究所主管研究員.入社以来センサ デバイス,MEMS デバイスの研究開発に 従事.

図 2 K バンド MEMS チューナブルフィルタの構成 Fig. 2 Configuration of K band MEMS tunable filter.
Fig. 4 Dependence of microstrip resonator’s Q factor on the distance h between the signal line and built-in ground
表 1 Ku バンドフィルタの電気パラメータ Table 1 Model parameters for Ku band filter
図 6 カップリング可変キャパシタの構成 Fig. 6 Configuration of the MEMS coupling
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参照

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