収益性指標の時系列特性に関する研究
古 山 徹
キーワード:収益性指標、時系列特性、平均回帰性、ROE、ROAはじめに
本稿は、収益性の財務指標の時系列特性を調べることを目的としている。この研究の最 終な目的は収益性指標の平均回帰性について調べることであるが、本稿ではその第一歩と して収益性の財務指標の時系列特性についての確認作業を行った。 収益性指標が平均回帰性を有しているとすれば、一定期間にわたって収益性指標を観察 するとその分布は代表値を持つ正規分布に近い形になるはずである。逆に言うと、一定期 間における収益性指標の分布が明確な代表値を持つ正規分布に近い形であることが確認で きれば、収益性指標が平均回帰性を持つ可能性を示していることになる。 そこで、本稿では収益性の財務指標の時系列データの分布とその期間のデータから想定 される正規分布を比較することで収益性の財務指標の時系列特性について確認を行った。 具体的には、法人企業統計季報のデータを用いて財務指標を算出し、その財務指標の時系 列データの分布状況をグラフ化して、実際の分布状況の確認を行い、同時に平均値、標準 偏差から想定される正規分布のグラフと比較することで財務指標の時系列分布がどのくら い正規分布に近い分布になっているかについて調査した。 財務指標の持続性や平均回帰性については、大日方(2013)や村宮(2010)などの先行 研究がある。これらの研究で想定されている平均回帰性は、産業平均への回帰性であっ て、時系列に見た特性に主眼が置かれているわけではない。本稿では、産業平均への回帰 性を考えるのではなく、収益性の財務指標を時系列に見た場合の特性について取り上げて いる点に特徴がある。また、財務指標の中でも ROE、ROA といった収益性の指標に限定 してみている点にも特徴があると言えよう。さらには、データの制約もあって、ROE や ROA を四半期のデータから計算した値で確認作業を行っている。四半期のデータはデー タ数が年度のデータに比べて多くなるというメリットがある半面、季節性を持つデータで あるというデメリットも含んでいる。 以下、第 1 章では使用したデータと評価方法について、第 2 章では本稿で用いている収 益性の財務指標について説明し、第 3 章では本稿で確認作業を行った収益性の財務指標の 時系列分布の状況について述べる。第 1 章 データと評価方法
データについては、法人企業統計季報のデータを用いている。具体的に行った確認作業 は、次の通りである。 法人企業統計季報のデータを用いて、全産業(業種区分 104)、製造業(業種区分 108)、 非製造業(業種区分 144)の三つの業種区分と資本金全区分(規模区分 26)、資本金 10 億 円以上(規模区分 25)、資本金 1 億円から 10 億円(規模区分 24)、資本金 1000 万円から 1 億円(規模区分 19)の四つの規模区分の合計 12 区分について 1954 年 4︲6 月期から 2020 年 4︲6 月期までの四半期ごとの収益性指標を算出した(265 期間)(算出した収益性 指標については後述)(規模区分 25 と規模区分 24 は 1954 年 4︲6 月期から 1959 年 4︲6 月 期の期間についてはデータが存在しないため、244 期間)。 算出した財務指標ごとにデータからヒストグラムを作成し、そこに対象期間の平均値と 標準偏差から想定される正規分布の確率密度関数の値を算出し、重ねてプロットした。観 測された分布と想定された正規分布の確率密度関数の値の関係を数値的に把握するため に、MIC(Maximun Information Coefficient) を用いて相関係数を算出したi。さらに、HSICtest iiを行い、相関の有無について検定を行った。
第 2 章 収益性の財務指標について
ここで用いている ROE の分析体系と分析と評価についての考え方について説明する。 ここでは、森脇(2002)に示されている次の分解式で ROE を分解するという考え方に 従って収益性の財務指標を計算している。ただし、データの制約から税引前当期純利益の 部分を経常利益で置き換えて計算している。 図表 2︲1 ROE の分析体系ROE(%)=当期純利益÷純資産合計(期首期末平均)× 100 1 -τ(%)=当期純利益÷税引前当期純利益× 100 ROEBT(税込みベース)(%)=税引前当期純利益÷純資産合計(期首期末平均)× 100 ROA(%)=利払前税引前当期純利益÷資産合計(期首期末平均)× 100 ただし、利払前税引前当期純利益=金融費用+税引前当期純利益 M(%)=利払前税引前当期純利益÷売上高× 100 T(回/年)=売上高÷資産合計(期首期末平均) I(%)=金融費用÷(資産合計(期首期末平均)― 純資産合計(期首期末平均))× 100 RAMDA(倍)=(資産合計(期首期末平均)― 純資産合計(期首期末平均)) ÷純資産合計(期首期末平均) D(%)= ROA―I EOL(%)= D × RAMDA (出典 : 森脇(2002) iii)
第 3 章 収益性の財務指標の時系列分布の状況
全産業全規模区分のデータ(1954 年 4︲6 月期から 2020 年 4︲6 月期までの 265 期間) の ROEBT(図表 3︲1)についてみると、実際の分布とこの期間の平均値と標準偏差から 想定した正規分布の確率密度関数の値との相関係数は 0.94 と非常に高く、有意な値になっ ている。それゆえ、この期間の ROEBT の値は正規分布に従った分布になっていると見る ことができる。 図表 3︲1 ROEBT の分布の状況(全産業、全規模区分) (出典 : 筆者作成)ROA(図表 3︲2)についてみると、同様の相関係数は有意な値ではあるものの 0.65 と 中程度の相関にとどまっている。さらに、実際の分布は双峰の分布になっているようにも 見えるので、90 年以前と 90 年以降の二つの期間に分けて確認してみた。これをみると、 90 年以前と 90 年以降の分布はいずれも単峰型になるが、相関係数はそれぞれ 0.57、0.66 と中程度の相関にとどまっており、ROA の分布については正規性がやや弱いと見なけれ ばならない。 図表 3︲2 ROA の分布の状況(全産業、全規模区分) (出典 : 筆者作成) 図表 3︲3 ROA の分布の状況(全産業、全規模区分、1954︲1990) 実測値 理論値 (出典 : 筆者作成)
図表 3︲4 ROA の分布の状況(全産業、全規模区分、1990-2020) 実測値 理論値 (出典 : 筆者作成) EOL(図表 3︲5)についてみると、相関係数は 0.86 と非常に高く、有意な値になって おり、この期間における EOL の分布は正規分布に従っていると見ることができる。 図表 3︲5 EOL の分布の状況(全産業、全規模区分) (出典 : 筆者作成) つぎに D についてみると、相関係数は 0.94 と非常に高く、有意な値になっているので、 この期間の D もまた正規分布に従って分布していると見ることができる。一方、EOL の もう一方の内訳要素である RAMDA については、相関係数が 0.35 と有意ではあるものの
弱い相関にとどまっており、正規分布に従って分布しているとは言いにくい。さらに、D の内訳要素の一つである I についてみると、相関係数は 0.33 と有意ではあるが弱い相関 にとどまっており、これも明確な正規分布に従って分布しているとは言いにくい。 ROA の内訳要素である、M と T については、次のとおりである。M については、相関 係数が 0.90 と非常に高く、有意な値になっており、正規分布に従った分布になっている と見てよい。T については、相関係数が 0.94 と非常に高く、有意な値になっており、正 規分布に従った分布になっていると見てよい。 三つの産業区分、四つの規模区分に分けて測定した相関係数と相関の検定結果は図表 3 ︲6 に示したとおりである。 図表 3︲6 収益性指標の分布の状況
ROEBT ROA M T EOL D RAMDA I 全規模 104 0.938 (0.001) 0.652 (0.001) 0.903 (0.001) 0.938 (0.001) 0.864 (0.001) 0.938 (0.001) 0.350 (0.042) 0.332 (0.001) 108 0.887 (0.001) 1.000 (0.001) 1.000 (0.001) 1.000 (0.001) 0.808 (0.001) 0.935 (0.001) 0.482 (0.002) 0.492 (0.001) 144 0.685 (0.001) 0.485 (0.001) 0.698 (0.001) 0.838 (0.001) 0.848 (0.001) 0.772 (0.001) 0.228 (0.395) 0.498 (0.002) 10 億円以上 104 0.914 (0.001) 0.954 (0.001) 0.935 (0.001) 0.861 (0.001) 0.848 (0.001) 0.914 (0.001) 0.297 (0.043) 0.337 (0.003) 108 0.899 (0.001) 0.954 (0.001) 0.938 (0.001) 0.938 (0.001) 0.935 (0.001) 0.974 (0.001) 0.338 (0.010) 0.349 (0.002) 144 0.997 (0.001) 0.570 (0.001) 0.759 (0.001) 0.782 (0.001) 0.935 (0.001) 0.875 (0.001) 0.291 (0.442) 0.351 (0.007) 1 億円以上 - 10 億円未満 104 0.656 (0.001) 0.534 (0.001) 0.652 (0.001) 0.928 (0.001) 0.749 (0.001) 0.938 (0.001) 0.227 (0.598) 0.622 (0.001) 108 0.997 (0.001) 1.000 (0.001) 0.797 (0.001) 0.914 (0.001) 0.810 (0.001) 1.000 (0.001) 0.377 (0.051) 0.549 (0.001) 144 0.828 (0.001) 0.605 (0.001) 0.675 (0.001) 0.914 (0.001) 0.759 (0.001) 0.612 (0.001) 0.250 (0.744) 0.523 (0.001) 1 千万円以上 - 1 億円未満 104 0.713 (0.001) 0.928 (0.001) 0.813 (0.001) 0.736 (0.001) 0.938 (0.001) 0.914 (0.001) 0.183 (0.143) 0.397 (0.006) 108 0.997 (0.001) 0.938 (0.001) 0.938 (0.001) 0.914 (0.001) 1.000 (0.001) 0.914 (0.001) 0.225 (0.567) 0.483 (0.001) 144 0.887 (0.001) 0.928 (0.001) 0.656 (0.001) 0.736 (0.001) 0.785 (0.001) 0.769 (0.001) 0.227 (0.329) 0.365 (0.003) 注 : は 全 産 業 、 は 製 造 業 、 は非製造業 のデータを示して いる。表中 の 数 値 は 観 測 さ れ た 分 布 と 想 定 さ れ る 正 規 分 布 の 確 率 密 度 関 数 の 値 の 相 関 係 数 、 カ ッ コ 内 は の に よ る 相 関 検 定 の 値 で あ る 。 (出典 : 筆者作成) 図表 3︲6 を見ると、ROEBT、ROA、M、T、EOL、D の 6 指標は産業の区分、規模の 区分に関わらず総じて正規分布に近い分布をしていることがわかる。とくに ROEBT、M、 T、EOL、D の 5 指標は正規分布との相関が非常に高い。また、ROA は、正規分布に近い
が正規分布との相関はそれほど高くはない。一方、RAMDA と I の 2 指標は正規分布との 相関が低く、代表値を持つ山形の分布にはないっていない。 規模別の区分間では目立った違いは見られないが、業種別区分では製造業に比べて非製 造業の収益性の財務指標の正規性はやや弱いものであることがわかる。
おわりに
以上、収益性の財務指標の時系列特性について確認を行った。その結果、ROEBT、M、 T、EOL、D の 5 指標は時系列に見て正規分布に近い分布を示しており、明確な代表値を 中心とする山形の分布をしていることが確認された。ROA については他の 5 指標に比べ ると、正規性は弱いものの、正規分布に近い分布を示しており、明確な代表値を中心とす る山形の分布をしていることが確認された。 これら収益性の財務指標は、T と RAMDA を除くと基本的には 0 から 1 の間の値を取 るものであるから(利益などがマイナスの場合にはマイナスの値も取り得る)、ある意味 ではこのような分布になるのは当然であると言われるかもしれない。しかしながら、60 年間の長期にわたるデータにおいてそのような分布が確認されるということは、これらの 財務指標が正規分布に従って分布する(出現する)可能性が高いことを示しているわけ で、これはこれらの財務指標が時系列に見て平均回帰性を有するという可能性を示してい るということができる。 規模別にみてもこの傾向に大きな差は見られないので、どの規模の企業の収益性の財務 指標もこのような傾向を持っているとみられる。一方、産業別にみた場合、製造業と非製 造業との比較においてやや差が見られた点については今後さらに詳細に調べていく必要が ある。 最後に、今後さらに詳しく見ていく必要がある点について確認しておく。 第 1 点目は ROA についてやや正規性が弱いものの、その構成要素である M と T につ いては ROA より強い正規性が確認されている。これは、一般的に考えて M と T は逆相 関の関係にあると考えられ、M と T がそれぞれ正規性を有しているとしても、それが ROA に対して相乗効果として伝わるものではないためだと思われるが、今後さらなる確 認が必要である。 さらに考えなければならないのは、分布の形状が時間の経過とともに変化するかどうか という点である。例えば 10 年ごとの期間で刻んで同じ見方をしたとき、全期間を通じた のと同じ傾向が見られるのであれば、同じ傾向が繰り返されることを意味する。そうでな いとすると、このような財務指標の時系列特性はある程度の長さの期間についてみた時の 固有の特性と考えねばならない。つまり短い期間で見た時にはそのような傾向はみられな いが、ある程度の長さの期間について見ればそのような傾向が見られるわけで、これはあ る程度傾向に持続性が見られることを意味する。 もう一つ見なければならないのは、代表値のレベルの問題である。期間を刻んでみた場合にそれぞれの期間において代表値は異なり、散らばりの度合いも異なってくると考えら れる。それが、統合した期間における代表値や散らばりの度合いとどのような関係にある のかについては確認する必要があろう。 今回の確認作業に用いた値は、業種や規模の集計値であって、そのために、安定した数 値が観察された可能性もある。今後、個別企業のデータを用いた詳細な確認が必要になっ てくると考えられる。 注 i 実際の計算は R の “minerva” パッケージを用いて行った
ii R の dHSIC(d variable HSIC)パッケージを用いて再生核ヒルベルト空間を用いたノンパラメト リックな独立性検定(Hilbert-Schmidt Independence Criterion test)
iii 森脇[2002]15 ページ <参考文献> 大日方[2013]、大日方隆『利益率の持続性と平均回帰』、中央経済社、2013 年 3 月 古山[2019a]、古山徹「ROE 及び分析指標の業種間比較可能性についての研究」嘉悦大学研究論集 62(1)、pp39︲49、2019 年 10 月 古山[2019b]、古山徹「ROE およびその分析指標の業種間における比較可能性について」、日本財 務管理学会第 48 回春季全国大会報告、2019 年 6 月 村宮[2010]、村宮克彦「残余利益モデルを構成する財務比率の特性分析」、『企業価値評価の実証分 析―モデルと会計情報の有用性研究』、pp230︲269、中央経済社、2010 年 6 月 森脇[2002]、森脇 彬『企業の安定経営のための財務諸表の役立て方』、税務研究会出版局、2002 年 9 月