• 検索結果がありません。

協働的なグループ活動が育む自律へのプロセス

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "協働的なグループ活動が育む自律へのプロセス"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

̶ 133 ̶    

協働的なグループ活動が育む自律へのプロセス

       土屋 真理子 要 旨  本研究は、自律的な学習を基盤とした教室授業において、学習者が主体となって行った グループ活動の学習の過程を、コース途中までグループで同一の学習を進めていた 1 つの グループを対象に分析した。そして、その後の学習の選択に関する調査結果を基に、2 名 の学習者に焦点を当て、学習が個別化してから、どのような自律へのプロセスをたどって いったかを、見ていった。  グループ活動の分析の結果、グループで学習を共有していく過程で、学習者間の関係性 に変化が生まれ、グループでコーディネーター的な役割を果たしてきた特定の学習者の役 割が消滅し、学習に参加する個々の学習者が必要に応じて、その場その場で役割を担う 協働的な形に変わっていったことがわかった。また、教室で共に学習するグループ内、グ ループ外のレベル差や進路、出身地の差のある他の学習者との関わりから、自身や自身の 学習について深く考える機会を持つようになったことがわかった。その結果、学習者は自 身の学習を選択するようになり、自律へのプロセスが育まれていったことが明らかになっ た。  【キーワード】 グループ活動、協働的、選択、共有、自律へのプロセス 1.はじめに  現代社会は情報通信技術の進歩に伴い、これまで実現不可能と思われてきたさまざまな コミュニケーションが可能になった。しかし、一方、急激に変化する社会状況において、 人と人とのつながりや社会との関わりが希薄になっているようにも見える。このような社 会的背景の中、地域行政や福祉活動、支援活動の場では自律的な取り組みや協働的な活動 が注目されている(杉万 2006、渥美 2008)。教育の世界では「学習者の自己学習力の育成」、 「生きる力の育成」のための授業改善が日々行われている。また、日本語教育の世界でも学 習者の多様化への対応が大きな課題として認識されており、「学習者の自律性」、「協働的 な活動」に注目した研究や実践が多く見られる。  本実践を行った日本語教育機関は、大学や大学院進学のための予備教育を中心に行って いる。したがって、学習者の大多数は進学を目指していた。しかし、中には進学を希望しな い者も在籍していたため、クラス内には目的が異なる学習者が混在していた。このような クラス事情の中、筆者はすべての学習者がクラスの中で自分の目標を達成できるようにす るために、自律的に学習できる授業を行うことにした。自律学習(autonomous learning)

̶事例報告̶

(2)

とは、学習者が自分自身のために、自ら知識とスキルを構築しようとして、仲間や教師や その他のリソースと協力し、交渉しつつ行う学習を、自分自身の手で管理することである (Holec 1981:Little 1991: 青木 1996)。約 9 ヶ月間にわたる本実践を通して見えてきたものは、 コース開始 3 週間後の第二ステージから始めた学習者が主体となって行ったグループ活動 の重要性である(土屋 2006a、2006b、2008)。グループで学習の目標を決め、行動計画を立 て、学習を選択し、学習するというプロセスが、学習者の学習が個別化していったコース 後半の第三ステージ、第四ステージでの展開に大きく関わっていたように思われる。本研 究では、学習者が主体となって行ったグループ活動を詳細に分析し、それらが学習者の自 律とどのように関わっていたのか、そのプロセスを探る。 2.先行研究  バフチン(1995)は自己とは既存のものではなく、関係の中で産出されるものであるとし、 他者との相互作用を通じて自分を知ろうとする視点もしくは意識について述べている。  カミイ(1987)はピアジェが自律性をどのように考えていたか論じる中で、他者の観点と 自分の観点を調整し、関係づけることによって、より自律的になっていくと言っている。 また、久保田(2000)は学習とは、まわりの人たちとかかわり合いながら、互いに教えあい、 学びあい、自分たちの問題を解決するために知恵を出し合うプロセスそのものであると考 えている。そして、このプロセスでは、「教えられたことを丸暗記」することよりも、学生 自身が「自律的に学ぶ」能力が求められるとしている。これらの指摘は他者との関わりによ って、自己が認識され、自律性が育っていくことを明示している。  杉万(2006)は、グループを基本的に動いていく存在、変化していく存在ととらえ、その 動態を研究していくことの重要性を述べている。また、文野(2007)は、教室における学習 を、一方向的なものではなく、参加者による多様な相互作用によって行われるダイナミッ クな活動であると考え、学習者同士で行われた「サイド発話」に注目している。これらの研 究から、グループ活動や学習者間のやりとりを分析し、その後のプロセスを見ていくこと は、意義のあることだと言えよう。  現在、「自律」、「協働」をテーマとした実践研究は数多く見られる。しかし、自律的な学 習をコースの柱としながら、教室という場での協働的活動に注目した報告はあまり見られ ない。齋藤(2002)、齋藤他(2007)はレベル差、出身国の差のある漢字クラスにおいて、 自律学習をコースの基本方針とすることによって、一斉授業では対応しきれない個別の学 習支援を試みている。そして、その学習過程において、励ましあえる仲間の存在が心理的 サポートとなり、他の人と話し合うことによって、体験の自己確認ができるメリットを指 摘している。しかし、グループでの活動が学習者ひとりひとりの自律へのプロセスとどの ように関わっていたか、という視点での報告はされていない。したがって、本研究は自律 的な学習を基盤とした教室授業の実践における協働的な学びに新たな視点を生み出す可能 性がある。

(3)

̶ 134 ̶ ̶ 135 ̶ 3.研究の目的と調査概要  本研究は、自律的な学習を基盤とした教室授業において、学習者が主体となって行った グループ活動の実態とその学習過程で学習者間で行われた学習活動や話し合いを分析し、 それらが学習者の自律へのプロセスとどのように関わっていたのかを、明らかにすること を目的とする。  調査はコース中と終了時にアンケート調査、インタビュー調査を合計 4 回行い、グルー プ活動中の発話の録音とビデオ録画も実施した。本研究では、そのグループ活動中の発話 の録音記録とビデオ録画記録を主データとし、グループ活動の分析を行った。また、自己 評価シート、学習計画書、担当教師である筆者が作成した参与観察記録など学習者の学習 に関するすべてものを調査の参考とした。グループでの学習が個別化してから、自律への プロセスを探るにあたっては、インタビュー調査の結果を中心に考察を行った。その他の データは補足データとした。 4.実践の概要  本実践は大学、大学院の進学を希望する学習者が大半を占める日本語学校において、 2004 年 4 月から 2005 年 2 月までのコース開始から終了まで、大学院進学コースの学習者を 対象として行った。 4. 1 クラス概要  本実践を行ったクラスは、大学院進学希望者を対象としたクラスで、クラス人数は 20 名1、日本語のレベルはコース開始時は中級後半程度、終了時は上級以上程度である。日 本語の基礎的な学習をする中級後半スタートの 6 レベルある日本語のクラスの中から、大 学院進学希望者を集めたクラスである。したがって、学習者間の日本語力にはかなりの差 が見られた。また、クラス内には大学院進学を希望しない学習者、進学未定の学習者が 4 名ほど在籍しており、日本語のレベル差だけでなく、学習目的も異なる学習者が混在して いた。 4. 2 実践の目的と授業概要  異なる学習目的、学習能力の学習者が混在するクラス事情の中、筆者はすべての学習者 がクラスの中で自分の目標を達成できるようにするために、自律的に学習できる授業を行 うことにした。授業設計の中で重点を置いたのは、「クラスメイトや教師との協力と話し 合い」、「選択できること」、「楽しさ」である。  具体的には 2004 年 4 月から 2005 年 2 月までの授業を 4 つの段階に区分し、学習者の自律 性を促す働きかけ、すなわち仕掛けを行った。各ステージの特徴は以下のとおりである。 ・第一ステージ:2004年4月∼ 5 月:教師主導・グループ学習主体 ・第二ステージ:2004年5月∼ 7 月:グループまたは個人による学習者主体

(4)

・第三ステージ:2004年8月∼ 12月:学習者が学習の評価項目を選択 ・第四ステージ:2005年1月∼ 2 月:学習者が学習の評価者を選択 5.グループ活動の分析 5. 1 調査協力者  コース開始 3 週間後の第二ステージで、個々の学習者の学習目標、学習に関する興味に 基づいて、教師が 20 名の学習者を 4 つのグループに分け、今後グループで学習目標、学習 内容、学習計画などを決め、学習を進めることを指示した。グループ分けに関しては、所 属グループの変更や個人での学習を希望といった学習形態の変更が可能であることを告知 した。しかし、グループの変更や個人学習の希望を出した学習者はいなかった。  4 つに分けたグループのうち、分析の対象は、第二ステージから第三ステージ前半まで グループで同一の学習を進めていたグループ(以下 GA グループと記す)とする2。GA グル ープの学習者の卒業後の進路予定は、クラスの大半の進学希望者とは異なり、進学を希望 しない学習者が 3 名、未定 1 名であった。なお、GA グループが第二ステージと第三ステー ジ前半で行った学習は、「手紙の書き方」、「新聞記事の作成」、「エッセイを読む」、「旅行 広告を書く」、「ビジネス文書を読んで書く」、「音楽、ドラマ」、「日本の歌」、「履歴書を書く」 などであった。 表1 GAグループの調査協力者プロフィール 協力者 国籍 日本語学習歴、学習機関など SA 韓国 韓国の大学で約 1 年半。2004 年 4 月より当校に在籍。 SB タイ タイの高校で 3 年間。タイの大学で1年間。2003 年 10 月より当校に在籍。 SC 台湾 台湾で約 1 年(週 2 回、2 時間ぐらい)。2003 年 10 月より当校に在籍。 SD 台湾 台湾の大学の日本語学科で 4 年間。2004 年 4 月より当校に在籍。 5. 2 分析方法と手順  久保田(2000、2003)は参加が学習者の主体的な選択としてなされたとき、意味ある行為 となり、参加する人々との間に関係性、一体感が生まれ、このプロセスの中で既存の知識 との関連付けが行われていくと考えている。渥美(2008)は災害救援活動のあり方を分析し、 その活動デザインに「即興」の概念を用いている。「即興」を、安定した規範が崩壊したとき に、多様な参加者が、それぞれに習得した技術・知識を前提として、現場の複数の声に臨 機応変に対応していく集合的な振る舞いと定義し、(1)固定したシナリオの不在 (2)既存の 知識・技術の活用 (3)個人と全体の連動 (4)異なる立場の者が協働でニーズを構築 (5)流動 するコーディネーターという 5 つの視点を示している。また、「即興」に関する考察は、災

(5)

̶ 136 ̶ ̶ 137 ̶ 害救援の現場に限らず、組織で仕事をする場合など、日常生活の至る所で行われているこ とも指摘している。本研究では、学習の過程での「関係性」(久保田 2000、2003)と災害救 援活動から見出された活動デザインの 5 つの視点(渥美 2008)に注目し、以下の 2 点につい て、GA グループのグループ活動の分析を行う。 ①異なる背景を持つ学習者が学習を共有していく過程で、グループ活動がどのように展開 され、その過程で学習者間の関係性がどのように変化していったか。 ②グループ活動において、コーディネーター的な役割、知識の確認はどのように行われて いたのか。また、学習者が学習を共有していく過程で、それらに変化が見られたか。  分析はまず、グループ活動中のグループ内会話を文字化し、録画したビデオと合わせて、 学習者の学習のプロセスを見ていく。次に、補足データである学習計画書、自己評価シート、 教師の参与観察記録などを参考に、より深く学習の過程での変化を追究する。 5. 3 分析結果  グループによる学習が開始された初日は、なかなか話し合いが進まない様子であった。 学習者はコースが開始され、既に 3 週間ほどは共に同じ教室で教師主導による授業を受け、 その中でグループ活動も行っていた。しかし、第二ステージで始まったグループによる活 動は、グループで長期的に継続して学習を進め、学習目標から学習内容や行動計画まです べてをグループのメンバーで選択し、決定するというこれまでにない形のグループ活動で あった。そこでは 1 回限りのグループワークとは異なり、グループ内で意見交換を含めた 内容の濃い話し合いが必要とされる。グループが結成されてすぐの初日はまだグループ内 でお互いの関係も築かれておらず、不安定な状態であったと推測される。この日提出され た自己評価シートには新しい形でのグループ活動に対する戸惑いが記されていた3。それ ではグループで話し合いが進まない中、学習項目などの決定までにどのようなプロセスを たどっていったのだろうか。グループ内でさまざまな学習に関する項目を選択し、決定し ていくまでの話し合いの過程を見てみると、話し合いの進行に SA が大きな役割を果たし ていることがわかる。SA は学習内容や学習計画などの話が行き詰まり、進まなくなると、 話題を日常の出来事や他の日本語の授業の様子などに変え、そのあと、再び本題である学 習に関する話題に戻している。このように、SA が中心となり、状況に応じて本題からは ずれたり、戻ったりすることを繰り返すことによって、少しずついろいろなことが決まっ ていく様子が見られる。また、SA は学習者だけでは判断できない問題が生じたときは、 すぐに教師を呼び、質問し、解決方法へと導いている。つまり、グループでの話し合いの 決定の過程で、SA はコーディネーター的な役割を果たしていると言える。SA のコーディ ネーター的な役割はその後、グループで学習が開始されてからも続く。例 1 は 5 月 14 日の 録音記録の一部抜粋である。

(6)

例1 SAのコーディネーター的役割(5月14日のグループ内会話より) SA 今日の司会者は SB さん、SB さんの当番だから、勉強を進行することを SB さんがして ください。 SC 司会? SA 司会、がんばって!タイ語はわかんないから。先生になって質問をしたり、答えをした り…。 SB ああ。もしわからない言葉があったら、 SD 手を挙げて。 (中略) SA 退屈する。 SD 退屈するは何? SA 退屈は暇なとき退屈だとか、遊びたいんですけど、だれでも遊ばないとか、一人で、意 味わからない? SD あ∼。わかる。わかる。 SC 暇愉快は何ですか?暇一つ、愉快一つ、暇愉快?   (SD と SC が母語で話す) SA いろいろな単語とか表現があるから、特別に難しい単語はないと思いますよ。いい? SD はい。 (中略) SA はい。いい発音でした。わからない言葉とか単語とかはないですか。いい? SD 大丈夫。    前日に学習の計画などが決まり、この日から実際に学習が始まった。授業が開始されて も、なかなか学習に入らないので、SD がテキストのタイトルを読み始める。その直後に SA はグループの進行役として司会者に SB を指名し、教師のような役割をすることを指示 している。SB は突然司会という役割を任せられ、戸惑っているようだったが、拒否する ことなく、引き受ける。しかし、その後の録音記録から、SB は司会をしてはいるが、実 際に学習の進捗を調整しているのは SA であることがわかる。例えば、SD が「退屈する」 という語彙の意味がわからず質問したとき、例を挙げわかりやすい言葉で説明し、説明後 意味がわかったかどうか確認している。また、SC と SD が母語で話している様子を見て、「特 別に難しい単語はないと思いますよ。いい?」と暗に母語で話すことをやめるように促し ている様子がうかがえる。さらに、学習者の発音をほめる行動も見られ、一斉授業で教師 が担う役割を SA が模倣しているようであることがわかる。  一方、このように SA を中心として学習が進められる過程で、知識の確認はどのように 行われたのだろうか。

(7)

̶ 138 ̶ ̶ 139 ̶ 例2 知識の確認(5月14日のグループ内会話より) SA あの、尊敬語と謙譲語の差について知っていますか。 SC あ。尊敬語は偉い人すること。 SD 目上、目上の人…。 SA 謙譲語は? SC 謙譲語は下の人が偉い人に、 SD 話したとき。 SA でも、謙譲語は自らあの同じ人だけど、自分を下げて、自分が自分を呼ぶこととか、な んだっけ、同じ、 SC うん?下の人は上の人 SA 上に人について、上の人はもっと上におれはもっと下に、 SC わたしはあげますのときは尊敬語じゃないでしょ、でもわたしあげますのときさしあげ ますとか…。 SA 自分することは謙譲語で、ほかの人のことは尊敬語。 SC いいえ、偉い人は尊敬語、ほかの人は別。 SD 頼みのするとき丁寧ないつも尊敬語、目上に人についていつも尊敬語。    例 2 は「手紙の書き方」を学習しているときの会話の抜粋である。実際に日本人が書いた 年賀状や手紙を見ているうちに、敬語の話になり、SA がグループのメンバーに尊敬語、 謙譲語について問いかけを始めたところである。会話の録音記録から尊敬語と謙譲語の定 義を SA、SC、SD の 3 名で話し合っていることがわかる。尊敬語と謙譲語はどのような状 況で、どのような人間関係において使われるか、という詳しい状況説明がされていないた め、意見が一致しないようである。このように尊敬語と謙譲語の知識の確認が 3 名の学習 者の間で行われたが、うまく確認がとれず、例 2 の会話の後、SA は教師を呼び、「尊敬語 や謙譲語をよく覚える方法はないか。」と助けを求めている。録音記録を見ると、学習にお ける知識の確認は尊敬語と謙譲語のような概念の理解から、言葉の意味や読み方、発音の 訂正と多岐に渡っている。そして、知識の確認をグループで行い、その場で解決している こともあれば、例 2 のようにグループのメンバーだけでは確認がとれず、教師に質問をし、 解決策を求めることもあった。  グループ活動が始まって、3 週目ぐらいに入ると、学習の話から学習と直接関係のない 話題へと移行している場面が見られるようになった。

(8)

例3 学習と直接関係のない話題展開①(5月26日のグループ内会話より) SA タイの国の中で一番有名な文化産業はありますか。映画とかうた、歌手とかコメディア ンとか放送の中で、あの、外国のもののほかのタイの人気のあるたくさん番組とかあり ますか。 SB はい。あります。 SA どんな、どんな番組ですか。 SB 番組は「×××」という会社。東南アジアの中で…。 SA はい。 (中略) SB いろいろな人、タイのアイドルとか SA ああ、アイドル。タイの中で今、アイドル歌手がはやっていますか。 SB うん? SA はやって、流行していますか。 SB 流行? SA あ。タイの中で、高校生とか…。 SB ああ。  この日の行動計画は、新聞記事を読んで討論するという活動内容であった。初めは新聞 記事を読みながら、グループで知識の確認を進め、学習していたが、学習の途中から記事 の内容に関連したドラマ、アニメ、映画などへと話題が転換して行った。例 3 は SB が自国 の新聞記事を他の学習者に見せ、その内容を話したあと、SA が質問を始めたところである。 例4 学習と直接関係のない話題展開②(5月26日のグループ内会話より) SA 今日本でも人気がありますよ。 SD 全然ハンサムじゃない。眼鏡をかけて、 SA そうそう。あの人のメリットですよ。それが。メリットは特徴とか。自分の特徴。あん まり眼鏡をかけて放送番組で出演する人は少ない…。 SD 実は彼は近視がない。 SA 近視? SC 眼鏡が必要ではありません。 SA ああ。 SC 目がいい。 SA ああ。

(9)

̶ 141 ̶  例 4 は新聞記事の映画の話題から、韓国のドラマの俳優の話題へと話題が転換した直後 の会話である。新聞記事の学習をきっかけに、自然に学習とは直接関係のない話に、話題 が転換している。  例 3 と例 4 の会話から、学習とは直接関係のない話題の中でも、学習項目に沿って学習 していたときと同様に、言葉の意味を説明したり、わかりやすい言葉に置き換えたりして、 学習が進められている様子が見られた。例えば、例 3 の会話で、SA は、「はやっている」 を「流行している」という他の表現に置き換えたり、「タイの中で高校生とか…。」と状況を 説明したりして、SB の理解を促そうとしている。また、例 4 では、「メリットは特徴とか。 自分の特徴。」と詳しく説明したり、近視がないことについて「眼鏡が必要ではありませ ん。」、「目がいい。」のように他の表現に変えたりして、グループのメンバーに伝えようと している。 例5 コーディネーターの不在(6月2日のグループ内会話より) SD 一人ぼっちの…卒業式…。 SA ぼっちは何? SB 一人ぼっち…。 SD 一人さびしい SA 一人さびしい? SC 一人ぼっち。 SB ぼっちは…。二人さびしくない? (中略) SC 今日は学校の…(中略) SB さあ、次はわたし…(中略) SA 立ち上る(たちあがる)。 SC これは、のぼるでしょう、わかんない? SB あ、のぼる。 SA 起きあがる、のぼる? SD 起きのぼる。 SA のぼる?  例 5 は「エッセイを読む」という学習計画に沿って、学習が行われている録音記録を抜粋 したものである。SD が「一人ぼっちの卒業式」とエッセイのタイトルを読み始めると、SA が「ぼっち」について質問し、それに対して、SB、SC、SD は返答を促されることなく、互 いの考えを聞きながら答えていることがわかる。そのあと、SC は、グループのメンバー

(10)

の指名によってではなく、自ら「今日は学校の…」とエッセイの本文の音読を始めている。 SC が途中で止まると、今度は SB が「さあ、次はわたし。」と言って、自ら音読を始めてい ることがわかる。また、SB の音読の途中で、わからない言葉や読み方があると、そのと き疑問に思った学習者が率先して質問している様子が見られる。学習が進んでいく過程で、 これまでとは違って、SA が進行を促すことなく、自然な文脈の中で会話が進んでいるこ とに気づく。つまり、グループのだれかが舵をとらなくても、グループ内で自然に会話が 進むようになったと考えられる。  第二ステージ後半、第三ステージとグループでの活動が進むにつれて、SA の意図的な グループへの働きかけ、行き詰まりを解消するための別の話題の提供などは、全く行われ なくなった。音読を順番で行うときも、だれに指示されることなく、まだ読んでいない学 習者やそのとき読みたいと思った学習者が率先して読み、質問の答えもそのとき答えられ る学習者が答えている様子がうかがえる。すなわち、特定の学習者が中心となって、指示 を出したり、進行を促したりする様子は第二ステージ後半以降全く見られなくなった。  グループで学習目標を設定し、学習内容を選択し、計画を立て、学習を進めるという活 動の過程を録音記録を中心にたどっていくと、学習者間の関係性に変化が起こっているこ とがわかった。初めはなかなか学習が進まないように見えたグループ活動であった。しか し、リーダーシップをとる学習者を中心に、異なる学習者同士が話題を共有し、知識の確 認が進められていく中で、グループ内で少しずつ人間関係が築かれていった。そして、そ の過程で、学習者の国の映画、テレビ番組などの文化産業や学習者自身や家族の話など学 習以外の話題が自然に起こるようになっていったことがわかった。このように学習以外の 話題も学習者間で共有するようになり、関係性に変化が見られるようになると、常にコー ディネーター的な役割を担っていた特定の学習者の役割が自然に消滅し、コーディネータ ーが固定しない形に変わっていった。すなわち、だれかがリーダーになって進めるという 一斉授業でよく見られる教師対学習者のような形から、学習に参加する個々の学習者が必 要に応じて、その場その場でコーディネーターのような役割をする協働的な形に変わって いったと言えよう。また、学習以外の話題においても、学習をするようになったことがわ かった。 6.自律へのプロセス  第二ステージ終了後学習者全員にアンケート、インタビュー調査を行った。質問内容は 授業形式、グループ活動、自己評価シート、選択したことに関することなど 7 項目を挙げた。 GA グループのグループ活動についてのインタビュー結果を見ると、GA グループの学習者 全員がグループでの学習を肯定的にとらえている4。しかし、第三ステージ半ばにさしか かった 10 月中旬ごろから、GA グループはグループ全員で同一の学習をすることをやめ、 個々の学習者が異なる学習をするようになる。いったい学習者にどのような変化が起こっ たのだろうか。その変化を探る前に、学習者の選択したことの調査結果を見てみたい。  本実践において自律へのプロセスを見ていくとき、もっとも重点を置いたのは学習者が

(11)

自身で学習したいことを選択する5ようになったかどうかということであった。第二ステ ージでグループで学習目標を設定し、学習内容を決め、行動計画を立て、学習を進める活 動をしたことによって、学習者は今後継続して、または新たに学習してみたいと思うよう になったことはあるのだろうか。GA グループ 4 名の学習の選択に関する調査結果は表 2 の とおりである。 表2 学習の選択に関する調査結果(第二ステージ終了後のインタビュー調査より) 学習者 学習してみたいと思うようになったこと 学習の環境 SA ①やさしい文学作品、エッセイ。 ②日本の音楽 ①、②は個人的に学習したい。ク ラスでは協同的なものがいい。 SB ①小説。 ②テレビドラマ、映画のききとり。 ③作文についていろいろな種類の練習。日本  人らしい文章。履歴書の書き方。 ①∼③のすべてをクラスでクラス メイトとグループを作って学習し たい。一人はさびしい。 SC ①仕事に役立つこと。(ビジネス日本語) ②新聞、ニュース、スポーツ。 ③若い人の興味のある音楽、映画。 ①∼③すべてどんな環境での学習 でもいいが、③は友人とクラス以 外で学習したい。 SD まだわからない。  学習者 4 名のうち SB は自身で選択した学習すべてをクラスでグループ活動の中で学習 したいと思っている。また、SD はグループ活動を通じて、学習してみたいと思うように なったことは第二ステージ終了後の時点では「まだわからない。」と答えている。グループ 活動に関する調査結果では、グループのメンバー全員が肯定的な回答であった。中でも、 SB はグループ活動にこだわっており、選択した学習もすべて今後グループで学習をした いと考えている。それに対して、SD はグループでの学習を肯定的にとらえながらも、グ ループ活動によって、今後も続けたい学習や新たに興味を持った学習はないと言っている。 そこで、本研究では第二ステージ終了後の調査結果で、学習の選択に関して全く異なる回 答であった SB、SD の 2 名に焦点を当て、学習が個別化した第三、第四ステージにおいて、 どのような学習のプロセスをたどっていったか、個々にその詳細を追い、協働的なグルー プ活動が育む自律へのプロセスを考察する。 6. 1 SB の自律へのプロセス  第三ステージに入り、GA グループの学習者全員が、第二ステージのときと同じメンバ ーで、グループで同一の学習をすることを選択した。そして、第三ステージ後半に入り、 教師は成績評価の評価項目を、教師と学習者が話し合って決めるのはどうか、という新た な仕掛けをクラス全体に行った。そのころから、これまで常にグループで同一の学習をし ̶ 143 ̶

(12)

ていた GA グループに変化が訪れる。机を向き合わせ、グループという形はとっていたが、 個々の学習者が学習する内容は全く違うものに変わっていった。それでは、GA グループ の中で特にグループ活動に価値を抱いていた SB の学習は、このような状況の中でどう進 んで行ったのだろうか。  第二ステージ終了後の調査結果で SB が選択した学習は、第三、第四ステージでも継続 されていることがその後のアンケート、インタビュー調査からわかる。SB が選択した学 習は、第三ステージの後半以降はグループの活動としてではなく、SB 個人の学習として 授業中や教室外での学習に転換しているが、このような変化を SB はどう受け止めている のか。また、SB は第三ステージの後半はグループから離れ、教室内の他の場所へ移動して、 一人で学習したくなった様子がうかがわれる。さらに、第四ステージでは、SB は個人で 学習目標、学習内容、学習計画を決め、座席もグループから離れ、一人で学習していた。 このグループからの離脱には何か理由があったのか。これらを探るにあたって、第三ステ ージ、第四ステージに行ったインタビュー調査の結果を見てみたい。まず、第三ステージ 終了後のグループ活動に関する質問に対しての SB の回答をまとめると、「他の日本語の授 業は教科書の中で勉強していて、友達と意見交換することはないが、グループ活動は国籍 が違うことによって、話し合って、いろいろなことがわかる。」ということである。すなわ ち、グループで同一の学習をしていなくても、必要に応じてグループ内のさまざまな学習 者と意見交換や話し合いをしており、グループという形をとっていることで、SB は他の 学習者と交流する機会が持て、学習の幅が広がると考えていたのではないか。一方、席の 移動について、第三ステージ終了後のインタビューでは「ときどきグループのメンバーの 活動が違うので、(中略)集中力があんまりない。」と話している。しかし、席を移動するこ とには迷いが見られ、他のメンバーが心配するのではないかと案じている様子がうかがわ れる。ところが、第四ステージ終了後のインタビューの回答は一転している。回答の概要 を記すと「友達と会って、また、話すと集中できない。他のメンバーとは目標が変わった から、一人で読んだほうがいい。」ということである。すなわち、SB が第二ステージ終了 後選択した学習は、第三ステージ前半ではグループ活動として継続され、第三ステージ後 半ではグループという形式で、他の学習者との交流の中で SB 個人で行われている。そして、 第四ステージではグループから完全に離れ、SB 個人により学習が進められようになった。  以上より、SB の自律へのプロセスを振り返ると、第二ステージでグループ活動をした ことがきっかけとなり、学習したいことを自身で選択するようになり、必要に応じたグル ープのメンバーとの学習の共有を経て、やがて、SB 個人の学習が行われていったことが 明らかになった。 図1 SBの自律へのプロセス 学習の選択 グループ活動 の継続 グループの 形での  個人学習 SB個人の学習

(13)

̶ 144 ̶ ̶ 145 ̶ 6. 2 SD の自律へのプロセス  第二ステージ終了後のインタビュー調査で、グループ活動を通じて、学習してみたいと 思うようになったことはあるかという質問に対して、SD は「まだわからない。」と話してい る。第三ステージに入り、SD は第二ステージ同様グループで学習することを選択した。 第三ステージ前半終了後のインタビュー調査で、SD は、グループで学習したことによって、 「能力試験の準備」、「ビジネス文書」について勉強したくなったと答えている。日本語能力 試験のための学習は、GA グループの学習計画の中には入っておらず、第三ステージ前半 の SD の学習の取り組みをメモした教師の参与観察記録からも、SD が能力試験の準備に取 り組んでいる様子が見られないことが記されていた。そこで、SD の回答を疑問に思った 教師は、能力試験の準備がしたくなったことが、本当かどうか確認したところ、「本当よ。 先生はわたしのそばにいなかった。見なかったでしょう。」と返答している。さらに、続け て SD は「みんなの日本語はわたしよりほんとに上手。日本で生活 1 年間。わたしは大学院 も受けたくない。日本で続けて生活したくない。だから、わたしは、日本でたぶん、能力 試験受けなければ…。自分の能力の証明書がほしい。」と話している。SD は、第三ステー ジ前半まで、GA グループで同一の学習に取り組んでいた。そのため、教師は、GA グルー プにおける SD の学習にしか注目していなかったが、実際には教室内で行われている他の グループの学習からも大きく影響を受けていることに気づいた。また、進学を希望しない SD 自身が何を目指していけばいいのかということを、異なる進路希望の学習者との進路 の比較によって、考えるようになったことがわかった。  第三ステージ後半に入り、GA グループの学習者の学習が個別化してから、SD は、選択 した「ビジネス文書」、「能力試験の準備」をそのままのグループの形で、GA グループの学 習者や他のグループの学習者と学習しているようであった。第三ステージ終了後のインタ ビューでは特に選択した学習に変化はなく、また、新たに学習したいことも明確ではない ようだった。一方、第三ステージ前半終了後のインタビューに引き続き、SD 自身の日本 語力の不足について、他の学習者と比較し、日本語の実力をアップしなければならないと 話している。  第四ステージに入り、それまでのステージとは違って、SD の学習態度に大きな変化が 見られた6。SD は第三ステージで選択した「ビジネス文書」に関する学習を第四ステージで 引き続き選択した。さらに、第四ステージではグループという形で学習は続けるが、学習 目標、学習内容、行動計画は SD 個人によって決定され、SD 個人で学習が進められる。第 四ステージ終了後のインタビュー調査で、コース開始からコース終了までの約 1 年間の学 習を振り返って、できるようになったと感じていることがあるか、という質問をした。こ の質問に SD は「わたしは大学のときあまり勉強しなかった。でも、このクラスでグループ でみんな一緒に勉強したとき、計画を立てて、計画通りにやって、1 月から自分で計画を 立てて、自分がやりたいことを書いて、順番にやりました。」と答えている。つまり、グル ープで計画を立て、学習したことによって、1 月からは自分で学習の計画を立て、学習で きるようになり、以前と比べて、学習するようになったと感じていたのではないか。さらに、

(14)

SD は「真面目になった。」と答えている。その理由として、グループで活動したときは分担 が決まっており、SD の担当した役割のみ準備すればよかったが、第四ステージに入り、 SD 自身が学習を選択し、学習を進めることで、学習の準備から実行まですべて自分です ることになり、学習への取り組みが変わったことを述べている。  以上より、SD の自律へのプロセスを振り返る。第二ステージ終了後の時点では、グル ープ活動をしたことによって、学習への新たな関わりは見られなかった。しかし、グルー プで学習目標を設定し、学習計画を立て、学習を進めるという活動を重ねるにつれて、学 習の取り組みに変化が生まれたことがわかった。また、GA グループの学習者や GA グル ープ以外の進学という異なる目標を持つ学習者と教室という同じ学習の場を共有すること で、SD 自身の日本語力の不足を考えるようになり、さらに、SD 自身の進路に沿った学習 の選択をするようになったことが明らかになった。 図2 SDの自律へのプロセス        7.まとめと課題  本研究では、自律的な学習を基盤とした教室授業において、学習者が主体となって行っ たグループ活動の学習の過程を分析した。そして、グループ活動による学習の選択に関す る調査結果を基に、2 名の学習者に焦点を当て、学習が個別化してから、どのようなプロ セスをたどっていったかを、見ていった。学習者は、学習に関わるさまざまなことをグル ープで話し合い、選択していく過程で、何を話したらいいのか、どう進めたらいいのか、 手探りの状態で活動に臨んでいたようであった。このような状況の中で、特定のリーダー シップを執る学習者を中心に、グループ活動が進められるようになり、学習が始められた。 学習を共有していく過程で、それぞれの国の文化や習慣、映画、歌、アニメなどの学習以 外の話題も共有するようになり、学習者間の関係性に変化が見られたことがわかった。学 習者間の関係性に変化が見られるようになると、常にリーダーシップを執り、グループで コーディネーター的な役割を果たしてきた特定の学習者の役割が消滅し、コーディネータ ーが固定しない形に変わっていった。すなわち、それぞれの立場を固定化せず、そのとき どき、その場その場でニーズを構築していく(渥美 2008)協働的な形に変わっていったこ とがわかった。単なるグループでの活動から協働的な活動に変化していく過程で、学習者 は自身の学習を選択するようになった。しかし、そのプロセスは個々の学習者によって違 い、学習の選択をするようになる段階も異なることがわかった。また、グループごとに独 立した学習をしているかのように見えたが、実は異なる目標を持つ他のグループの学習や 学習者からも影響を受けていた。すなわち、学習者は一つのグループに所属し、学習目標 グループ活動 の継続 教室内での学習 による気づき 進路に沿った 学習の選択 選択した学習 の不在

(15)

̶ 146 ̶ ̶ 147 ̶ を設定し、行動計画を立て、学習を選択し、グループで共に学習を進めていても、教室と いう大きなコミュニティーの中の一個人であることに変わりはなく、レベルや進路、出身 地の違いがあっても、教室内の他者との関わりを常に持っていることが示された。このよ うに教室におけるさまざまな学習者との必要に応じた協働的な活動を経て、学習者は自身 や自身の学習について深く考える機会を持つことができ、その結果、自身の学習を選択す るようになり、自律へのプロセスが育まれていったように思われる。  本研究ではクラス内の 4 グループのうち、第二ステージから第三ステージ前半までグル ープで同一の学習を進め、かつ進学を希望しない、または未定といった進路の学習者のグ ループについて分析、考察を行った。一方、クラスには大学院進学を希望する学習者で構 成されたその他のグループが 3 グループほどある。これらのグループも調査結果からグル ープ活動を肯定的にとらえていたことがわかる。しかし、GA グループとは異なり、第二 ステージ開始当初からグループで同一の学習と別々の学習の混合型の行動計画を立ててい た。そして、第二ステージ終了後のインタビュー調査から、グループ活動によって学習の 選択をしている学習者と選択していない学習者が見られた。これらのクラス内の大多数の 学習者のグループ活動の実態、その後の個々の学習者の学習の選択と変化については分析、 考察を行っていない。今後は進学希望者のグループ活動とその後の個々のプロセスをたど り、クラス全体で協働的な学びがどのように行われ、その過程で学習者の自律がどのよう に育まれていったか、追究していくことが課題と言えよう。 付記  本研究は文部科学省の科学研究費補助金(平成 20 年度,基盤研究 C,課題番号 18520412「自 律学習を基盤とした個別対応型日本語授業の基礎的研究および実践モデルの構築」研究代 表者齋藤伸子)からの助成を受けたものである。 1 20 名の国籍の内訳は、台湾 10 名、中国 7 名、タイ 2 名、韓国 1 名である。 2 GA グループ以外の 3 グループは、グループで同一の学習をする時間と各自が進学に向 けた異なる学習をする時間に分け、計画を立て、実施していた。 3 5 月 13 日に提出された GA グループの学習者の自己評価シートには、「日本語はまだ上手 ではないので、ときどき話しにくかったです。」、「グループのメンバーのみんなの会話 する能力を改善するために、一生懸命努力しなければならないと思います。」、「グルー プの勉強は初めてだから、少し難しい。」といった記述が見られた。 4 第二ステージ終了後の GA グループのグループ活動についてのインタビューの回答の概 要を記すと、「他の学習時間より自由に討論したり、考えたことがあるから、自分のた めの勉強だったと思う。」、「みんなで一緒に努力して、自分の責任になる。」、「前は先生 が授業して、学生たちは聞くだけ、覚えただけ。グループ学習はみんな考えて、相談して、 いろいろな方面の意見をしている。」、「いろいろの国の人の発音がわかるようになった。」

(16)

ということであった。 5 青木(1996)はどんな小さいことでも「自分で選ぶ」という経験が autonomous learning へ の第一歩であると述べている。また、青木(2005)は学習者オートノミーを学習者が自分 で自分の学習の理由あるいは目的と内容、方法に関して選択を行い、その選択に基づい た計画を実行し、評価できる能力であると定義している。 6 教師の参与観察記録には「真剣に取り組んでいる様子が感じられた。」、「学習態度に真剣 で生き生きとした表情が見られた。」と記述されている。 第四ステージで学習者が成績評 価に参加できるという選択肢を与えたことについて、SD は「自分が先生に評価してもら いたいから、もっと一生懸命にもっと真面目になった。」と答えている。また、教師が提 出物を決め、教師が課題を要求することに対して、「嫌な感じがあるかもしれない。」と 話し、「自分が先生に要求したとき、もっと真面目になった。わたしは教室じゃなくて、 部屋でも真面目に勉強した。」と答えている。 参考文献 青木直子(2005)「自律学習」日本語教育学会編『新版日本語教育事典』大修館書店 pp773-775 渥美公秀(2008)「即興としての災害救援」山住勝広、ユーリア・エンゲストローム編『ノ ットワーキング―結び合う人間活動の創造へ―』新曜社 pp207-230 カミイ, C(1987)平林一栄監訳『子どもと新しい算数―ピアジェ理論の展開―』北大路書房 久保田賢一(2000)『構成主義パラダイムと学習環境デザイン』関西大学出版部 久保田賢一(2003)「『総合的な学習』における異文化間教育―学びのパラダイムの転換」 『異 文化間教育』第 17 号 異文化間教育学会 pp12-25 齋藤伸子(2002)「留学生対象の漢字クラスにおける自律学習の試み」『津田塾大学 言語文 化研究所所報』第 17 号 pp120-125 齋藤伸子・関麻由美・林さと子(2007)「漢字クラスにおける自律学習と協働的活動」『第 2 回日本語・日本語教育学会論文集』イタリア日本語教育協会 pp359-377 杉万俊夫編(2006)『コミュニティのグループ・ダイナミックス』京都大学学術出版会 土屋真理子(2006a)『自律学習に向けた教室授業の実践―他者との関わりを通した自律への プロセス―』修士論文 桜美林大学 土屋真理子(2006b) 「自律学習に向けた教室授業の実践 ―教室授業の評価・改善を考え る―」 『日本語教育学会実践研究フォーラム予稿集』日本語教育学会 pp55-58 土屋真理子(2008)「自律的な学習を目指した教室授業における自己評価シートの役割」『桜 美林大学言語教育論叢』第 4 号 桜美林大学言語教育研究所 pp1-13 バフチン, M(1995)望月哲男、鈴木淳一訳『ドストエフスキーの詩学』筑摩書房 文野峯子(2007)「学習者はどう学んでいるか」井上優編集『教室活動における「協働」を考え る』国立国語研究所 pp5-14

(17)

̶ 148 ̶ ̶ 149 ̶

Holec, H. (1981) Autonomy and Foreign Language Learning, Oxford: Pergamon. (First published

1979, Starsbourg: Council of Europe.)

Little, D. (1991) Learner Autonomy 1: Definitions.Issues and Problems. Dublin: Authentik.

青木直子(1996)Autonomous Learning: What, why and how? ASTE Newsletter   http://www.bun-eido.co.jp/aste81.html#anchor270575(2003年12月26日検索)

参照

関連したドキュメント

■はじめに

また自分で育てようとした母親達にとっても、女性が働く職場が限られていた当時の

という熟語が取り上げられています。 26 ページ

賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか

下山にはいり、ABさんの名案でロープでつ ながれた子供たちには笑ってしまいました。つ

したがいまして、私の主たる仕事させていただいているときのお客様というのは、ここの足