本書はタイトルの固さにかかわらず、コンパク トなサイズおよび著者の手による刺 をデザイン した装丁の優しさによって、手に取りやすい気軽 な印象を与える。しかしながら、内容の重さは、 章を読み進めるほどに身にしみるものがある。 重さを感じる原因の一つは、二人の著者が長年 取り組んできた研究の知見に基づく分析 著述の 深さ、確かさにある。言葉は平易であっても、と ても軽く読み流せない行間の重みがある。本来、 論理的な文章は、記述された言葉によって理解す べきであって、行間に込められた思いなど読み取 るべきではないのかもしれない。あるいは、読者 が読み取ったと思うものは勝手な自己満足かもし れない。しかし、女性農業者やその家族の思いを 聞きとり、農業経営 農村生活の合理化を通じて 支援をしてきた普及員 (現普及指導員) の経験知 をくみ取るには、客観的な事実を明らかにしたい という探求心だけでは不足なのではないかと思う。 評価されない労働を担い、みえない存在とされて きた女性農業者の側に立つ思い 共感がなければ、 語られない思いや意味を理解することはできない のではないだろうか。生活時間調査等によって、 綿密な生活把握の手法を積み上げ、地道な生活普 及活動によりそう著者らの研究態度が、行間を埋 めていることに改めて敬意を表したい。 重さを増しているもう一つの理由は、まさに男 女共同参画時代にありながら、未だ改善されない 女性農業者の社会的地位、とくに家族のなかにあ る壁の存在が明らかにされているためである。も ちろん、嫁の立場で言ってはならない、知っては ならないタブーの多かった過去に比べれば、語り 始めた女性はふえ、意見を主張する女性さえあら われた。明らかに農村における男女共同参画を推 進する動きは広がり、女性農業者の地位は向上し つつあるのである。壁は高さを失い、厚さも減じ た。しかし、まだ固い壁がある。それは、女性自 身と家族のなかに存在する。農業以外の分野で職 業労働に進出した女性たちも、もちろんその地位 の向上のためには、長期の裁判を辞さない覚悟で 闘ってきた。だが、雇用労働における男女不平等 の問題は、個人の問題を超えて社会の問題とみな されるうえでは、女性農業者に比べれば、ずっと 可視的であった。家族経営の中で家族従業という 形で働く女性農業者が、家庭内の生活問題を「プ ラ イ バ シ ーの問題 」 にとどめず、社会的視 点 で 捉 えなおし、解 決 をはかるという 最後 の固い壁をど う 乗 り 越 えるかが問われる時代になったのである。 それは、おそらくはこれまでに 乗 り 越 えた壁以上 に固いのではないだろうか。著者らはこの事実を 明らかにしたうえで、女性農業者が「 当 事者 」 と しての 発 言 力 を 発揮 することによって、農業者と 消費 者の 関係 を 変 え、 「 リ ーズ ナ ブル (道理にかな った) 」 な社会になる可 能 性を 示唆 している。 この 結 論にいたる過 程 を章 ご とに 紹介 しよう。 ― 68― 2008年 3月 31日発行 ドメス出版 A5判 256頁 定価 2400円(本体) 学苑 第八 二 六号 六八~七 一(二 〇〇九 八 )
宮城
道
子
『
男女共同参画時代の
女性農業者と家族
』
天
野
寛子
粕谷美砂子
著
新刊紹介
1 章は、近年の農林水産省の女性農業者支援と、 その支援による状況変化について述べている。男 女共同参画を明確に意識した施策や数値目標など をかかげた取り組みを評価しながらも、行政とし ての支援体制から、 「女性」 「生活」という言葉が なくなり、普及員による支援が従来と異なるもの にならざるを得ないという事実の指摘は重要であ る。女性農業者の交流による相互支援や民間に期 待せざるを得ない中で、 「経済的自立力の弱い一 般の女性農業者が 『民間サービス価格』 で 『支援』 を 『 購入』 することはかなり難しい ( 33頁) 」と の事実認識は、男女共同参画をめざすということ は人権問題の解決であるという基本認識に直結し ている。 2 章では、女性農業者のエンパワーメントの程 度もその結果も、多様かつ個性的なものであると 指摘したうえで、自立し活躍しながら家族を大切 にしている女性農業者二人を紹介している。まさ に語り始め、意見を主張する女性であるからこそ、 三人称の紹介ではなく、一人称での紹介である。 3 章は、 マーサ C . ヌスバウムが提案した 「 人 間の中心的ケイパビリティ ( 潜在能力) 」 による 十の普遍的価値に基づいて、女性農業者の生活の 問題点を把握できる指標リストの試みである。 4 章は、農村生活におけるパートナーシップを 多方面から検討し、農村の魅力を向上させる提案 を行っている。この二つの章は、次章で家族経営 協定を取り上げる視点を明らかにする上で欠かせ ない。 5 章においては、農林水産省のパートナーシッ プ指標に位置づけられている家族経営協定が、何 を実現し、何を実現できていないか実証的に明ら かにしている。二〇〇四年京都府、二〇〇五年山 口県において、それぞれの協力を得て行われた、 家族経営協定締結農家を対象とした意識調査結果 である。前者は夫婦を対象とし、後者では協定参 加者全員を対象としているので、世代間比較も行 われている。一九九五年に始まった家族経営協定 は、それ以前の家族協定が父子に限られていたの に対し、協定当事者として女性を位置づけ、女性 の経営参画を文書で明らかにするものである。経 営のみなら ず 生活協定も 可 能であり、 合理 的な経 営 改善 に 役 立つ だ けでなく、女性の 地 位向上、民 主的な家族 関係 の確立 等 、 使 い方によっては多様 な 効 果が期待できる ツ ー ル である。家族経営協定 によって家族 内 の 話 し 合 いが実現するといわれて いるが、締結農家においてさえ、夫婦 親 子の意 識にま だ隔 たりがある 分野 のあることが 示 された。 本書 巻末 の 補論 は、普及員の視点からは協定締結 の 条件 が 整 っているとみえるにもかかわら ず 、協 定締結に 至 らない三事 例 の 分 析 がされている。 5 章とあわせ、家族経営協定の 今 後を 考 える上で、 貴 重な 研究成 果といえよう。 6 章は本書の結 論 にあたる 部 分 であり、女性農 業者がエンパワーメントによりワー ク ラ イ フ バ ラ ンスを実現する 可 能性を 示 し、前述したリー ズ ナ ブ ル な 社会へ の 展望 が述べられている。さら に、あとがきで現代の 日 本の農業には明るい 材料 がないが、女性農業者に限って明るい 話 題として 取り上げられているという現状に 触 れている。 NHK の「明るい農村」という 番 組は、農村が明 るくなかったからこその 番 組 タ イト ル ではないか という 話 を 思 い 出 した。わが 国 における農業や農 村は、いつも 負 の面を 担 わされてきたのであ ろ う か。しかし、ど ん なに 厳 しい 環境 からでも女性農 業者のエンパワーメントは、 着 実に状況を変える ことができるという 希 望 をもたらしてくれる。本 書は、農業以 外 の 分野 における男女共同参画のあ り方にも 示 唆 深 いものである。また、農業 農村 に 関 わりがないと 思 っている都 市住 民 消費 者に も、生活の基 盤 へ の 関 心を 深 めてもらう 好機 とな ろ う。 ( みやき み ち こ十 文 字学園 女子大 学 人間生活 学 部 人間 福祉 学 科 教授 ) ― 69―