医師の説明義務と患者の同意
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(2) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 行われたが,回復できず, そこで,. Aは,. C病院で死亡した。. Ⅹら(Aの妻及び子2人:Aの相続人)は,. 行すべきでなかったのに施行した,. ①FrCAを施. Yに対し,. ②FrCA施行についての説明義務違反があ. ③FrCA施行中に手技上のミスにより左前下行枝に穿孔を生七させた,. る,. ④. 左前下行枝に穿孔が生じた時点で心のうドレナ-ジを行うべきであるのに怠っ た,. ⑤左冠動脈主幹部に亀裂が生じた後,直ちにステントを挿入すべきである. のに怠った,. ⑥異常が生じた痛点で冠動脈造影を行うべきであるのに怠った,. ⑦経皮的心肺補助装置を準備・使用すべきであるのに使用しなかった,. ⑧緊急. の冠動脈バイパス手術の準備をしなかったと主張して,不法行為(使用者責任) 6062万1647円. 又は診療契約上の債務不履行に基づき,亡Aの損害として, (逸失利益:. 3062万1647円,慰謝料:. 1910万円(慰謝料:. 3000万円),. 1200万円,弁護士費用:. Ⅹら固有の損害として,. 710万円)の損害賠償を請求した。. 【判旨】 裁判所は, FrCAの適応の有無の問題と医師の説明義務違反の有無の問題は, 密接に関係するとして,. ①本件PTCAを行うべきではなかったのに行った過. 失・債務不履行があるか否か,および,. ②本件FrCA施行についての説明義務. 違反の有無という2つの争点につY、て併せて検討し, E医師らの説明義務違反 を認め, Yに対し,不法行為(使用者責任)により亡Aが被った精神的損害に E 対する慰謝料として1200万円の支払いを命じた。その他の争点につい七は,. 医師らの注意義務違反を認めなかった。 「担当E医師らが,亡Aに対しても,その家族に対しても,本件FrCAの具 体的な危険性や本件FrCAと比較した場合のCABGの利点について何ら説明せ ず,むしろ,. CABGの実施が困難である旨の誤った情報を提供し(・-),かつ,. pTCAの侵襲性がCABGよりも低いことを強調したために,亡Aは,本件 FrCAは亡Aの症状に村して一般的適応を有するもので,特に難度(危険性) 270.
(3) 医師の説明義務と患者の同意. の高いものではないと誤解し,また,亡Aの症状に対してCABGを実施するこ. とは困難であると誤解して,本件PTCAの実施に同意したものと認められる (-)ので,■担当E医師らに説明義務違反があることは明らかであり(-),本 件FrCAの実施についての亡Aの同意は,一般的適応に欠けるところのある本 件FrCAが正当な医療行為として認められるための同意としても,自己決定権 の行使としての同意としても,その有効性を欠くものというべきである。」 「本件FrCAの最大の問題は,. CABGという別な治療方法の選択肢が存在し,. その方がむしろ危険性が低く,再狭窄が防げるという利点もあったにもかかわ らず,この点についての説明をしないまま本件FrCAを実施したという点にあ り,この違法性は非常に重いというべきである。」 「本件fyrCAには,本件説明義務違反という重大な違法性があり(・・・),そ のために本件PrCAは,正当な医療行為と認められるための有効な同意を欠き, 亡Aの自己決定権が大きく侵害される結果になったと認められる。」 「本件説明義務違反と亡Aの死亡との間の因果関係は認めることができない. ので,本件説明義務違反の不法行為による損害賠償として,亡Aの死亡による. 逸失利益や慰謝料等号認めることはできないが,亡Aは,本件説明義務違反に よって,長期間にわたって通常の生活を送ることを可能とするようなCABGを 選択する機会を奪われ,しかも,正当な医療行為と認められるための有効な同 意を欠いたまま本件FrCAを実施されたのであるから,これによって多大な精 神的苦痛を被ったというべきであり,それに対する慰謝料は,本件説明義務違 反の不法行為による損害賠償として認められる。」. 【参照条文】 民法709条,. 715条, 415条. 271.
(4) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 【研究】 1.本判決の意義 一近時,わが国では,医師の説明義務を認める判決が数多く出されている.し かし,患者の同意の根拠やその内容について詳細に論じたものは少ない。 本判決は,第1に,医師の説明義務違反により,患者の同意が,その有効性 を欠き,患者の自己決定権を侵害したことを認めているため,医師の説明義務. と患者の同意と の関係について詳細に論じており,その点で大きな意義がある。 第2に,医師の説明義務違反により,. pTCAに対するAの同意がその有効性を. 欠き,亡Aが,他の治療方法を選択する機会を奪われたことに対し,. 1200万円. という高額な慰謝料が認められており,損害論の点でも,注目に値する判決で ある。. 本稿では,本判決の意義に着目し,. (1)医師の説明義務と患者の同意,. (2). 医師の説明義務違反と損害の範囲に焦点をあてて論じる。. 2.従来の判例・学説の状況 (1).医師の説明義務と患者の同意 ( i ).医療行為の正当要件 医療行為は,患者の病気の治癒を目的とするものであるが,患者の医的侵襲 を伴う行為である。そのため,. ①医学的適応性,. ②医療技術の正当性,. ③患者. による同意の3要件がそろってはじめて,その違法性が阻却され,適法な行為 になる。これらの3要件は,医療行為の正当性のためには,いずれも欠くこと ができないが,. 「医師が愚者の身体に対して手術等の侵襲を加える場合には,. 緊急やむを得ない等の特段の事情がないかぎり,その侵襲に対する承諾があっ て初めてその違法性が阻却されるものである」. 1)。医師が,患者の同意を得な. いで医療を行った場合には,当該医療行為の違法性が問題になる2)。. 272.
(5) 医師の説明義務と患者の同意. ( ii).医師の説明義務に関する議論の展開 昭和40年の唄教授による研究以来3),学説では,医師の医療行為につき,原 則として,患者の同意が必要であり,その有効な同意を得るために,医師は, 患者に必要な事項を説明しなければならない,と論じられてきた4)。それらの -議論は,最近では,医師の説明義務と一体化し,いわゆるインフォームド・コ ンセント法理として発展してきた5)。 一方,判例では,昭和40年代から,医師による説明と患者の同意が必要で あるとされ6),昭和56年に,最高裁は,頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた10歳の 少年の関頭手術につき,. 「医師には,右手術の内容及びこれに伴う危険性を患. 者又はその法定代理人に対して説明する義務がある」と判示した7)。同判決は, 一般論として医師の説明義務を認めた初めての最高裁判決である。このような 医師の説明義務に関する判例は,同判決と同じ昭和50年代以降に定着し8),莱 積されてきたが9),医師の説明義務の根拠,内容および程度,患者の同意の内容 および性質等については,必ずしも学説や判例が-敦しているわけではない10)。 最近の医師の説明義務に関する判決の中には,患者の自己決定に言及するも のもあり11),説明義務の内容が発展してきている。・医師の説明義務は,患者の 自己決定権の保障とも深く関係するからであろう。医師の説明義務の法的根拠 は,診療契約上の義務と・して構成されたり,不法行為上の違法性を阻却するた めの要件として,構成される。 なお,医師の説明義務の種類については,学説では, 説明義務12), ②療養指導方法としての説明義務,. ①同意の前提としての. (彰転医・勧告としての説明義. 務に分類されている13)。. ( iii).医師の説明義務の判断基準 医師の説明義務の判断基準については,学説上, 患者説, ③具体的患者説,. ①合理的医師説,. ②合理的. ④複合基準説という4つの基準が示されてきた14)。. ①合理的医師説とは,合理的医師ならばどのような説明を患者に行ったかを基 273.
(6) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 準とする見解である。. (参合理的患者説・とは,平均的ないし合理的な患者ならば. 重視するであろう情報が患者に説明されたかを基準とする見解である。. ③具体. 的患者説とは,当該患者が自己決定権の行使において重視する情報が患者に説 明されたかを基準とする見解である,. ④複合基準説とは,具体的患者が重視し,. かつ,そのことを合理的医師ならば認識できたであろう情報が患者に説明され たかを基準とする見解である。. 近年,医師の説明義務に関する判例では, るものの15),今なお, 説明で足りる」と述べ,. ④複合基準説を採用する判決もあ. 「通常の医師であれば通常の患者に対して行うであろう ①合理的医師説を採用する判決も多い16)。. (iv).医師の説明義務に関する議論の展開 このような医師の説明義務に関する議論は,はじめは,一般的医療行為にお いて展開されてきたが,.次第に,様々な判決で問題になるに従い,特定の医療 毎に,医師の説明義務について具体的に議論されてきている。それらの議論に より,例えば,美容整形における説明義務の内容・程度は,一般的医療行為に おける説明義務よりもより詳細なものが求められる等,それぞれの違いも指摘 されている17)。同じように,試行的医療行為についても,一般的医療行為にお ける場合と比較して医師の説明義務の内容・程度や患者の同意との関係につい て違いがあるように思える。試行的医療行為とは,ある疾病に対する医療行為 として未だ確立されていないが,より良い医療行為の発展にために,患者に対し 試行的に行われる医療行為のことである18)。医薬品の臨床試験を除くと19),読 行的医療行為に関する医師の説明義務について具体的に論じられることは少な い20)○. 脳動静脈奇形(AVM)手術事件判決では,裁判所は,手術の適応性につい て十分なコンセンサスが得られていなかった事案につき,. 「医師が患者に対し,. 当該手術の危険性及び手術をしない場合に将来懸念される症状について単に説 明したに止まり,具体的な説明をせず,それらの危険性を村比して説明するこ 274.
(7) 医師の説明義務と患者の同意. とも十分に行わなかった」と判示し,医師の説明義務違反を認め,患者が手術 を受けるか否かを選択する機会を奪われたとして,. 1600万円の慰謝料■を認容. した21)。. (2).医師の説明義務違反と損害の範囲 医師の説明義務違反では,それが患者の死亡等との間で因果関係を有する場 合には,逸失利益と慰謝料を含む全損害が損害賠償の対象となる。他方,医師 の説明義務違反が患者の死亡等との間で因果関係を有しない場合には,そのよ. うな全損害を被告に賠償させることはできか、。しかし,医師らによる説明義 務違反があるにもかかわらず,被告にその賠償責任が全くないというのは,公 平に反する。. 医療過誤事件において,医師の義務違反と患者の死亡等との間の因果関係の 証明の困難性を克服するために,学説では,患者の「延命利益」の喪失22), 「期待権」の侵害や「治療機会」の喪失23)等の構成により,独立した法益侵害 として,損害を認める議論が展開されてきたが,学説は未だ分かれている。 判例では,. 「延命利益」の喪失24),. 「期待権」侵害25),. 「治療機会」の喪失26). 等の様々な構成により,患者に対し精神的苦痛に伴う慰謝料を認める判決が蓄 積されてきた。. 「延命利益」・という法益は,昭和40年に初めて認められ27),昭和50年代に, 地裁の多くの裁判例において,認められてきた。最高裁は,平成11年,肝癌 検査事件において28),医師が適切な治療を行っていれば,患者が延命したであ. ろうという場合に,治療し考かったことと早期死亡との因果関係を是認しうる 高度の蓋然性を証明すれば医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係が肯定 されるものと解するべきであると判示た29)。本判決は,. 「延命利益」という法. 益を認めた判決として評されている30)。 その後の最高裁判決も,本判決を踏襲し31),. 「延命利益」という法益を認め. ている。円谷教授は,本判決が延命利益という新たな法的保護に値する利益を 275.
(8) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 確立したと述べられ,. 「÷-の領域において判例法における一つの法形成(「相当. 程度の可能性論に基づいた延命利益の承認」)がなされたといえる。」と指摘さ れる32)。もっとも,. 「延命利益」の喪失場合には,医師の過失ある行為と患者. の死の早期到来との間の因果関係を立証する必要がある。 他方, 「期待権」侵害や「治療機会」の喪失の場合には,生命や延命可能性 の証明を必ずしも前提としない。これらの法益は,昭和50年代から地裁の裁 判例において「期待権」・侵害として,昭和60年代から「治療機会」の喪失と して,患者の精神的苦痛に対する慰謝料が認められてきた。これらの法益侵害 については,未だに統一的な見解は見られない33)。. 医師の説明義務に関する判決セも,医師の説明義務違反と患者の死亡等との 間に因果関係がない場合に「期待権」侵害や「治療機会」の喪失による慰謝料 が認められてきたが34),.近時,患者の自己決定権を根拠に慰謝料を認める判決 が増加している35)。. 3.検討 (1).本判決の位置づけ ( i ).医師の説明義務と患者の同意 (a).患者の同意の性質と内容 本判決では,はじめに,一般論としてではあるが,患者の同意の性質と内容 について詳細に述べている。手術について, 的適応がない場合に分け,. (丑一般的適応がある場合と②一般. 「一般的適応のある治療方法であっても,. -患者の 自己決定権に基づく同意は必要であり,患者の同意がない場合は,原則として,. その治療行為は違法性を有するものと解される。」と述べ,他方,. 「一般的適応. のない治療行為が行われた場合(-I)は,原則として,その治療行為は違法性 を有する。」と述べる。裁判所は,本件FrCAには,適応ガイドラインに従う. と,一般的適応が率いが,本件については,Y病院のような高度先進医療を担 うべき施設においては,適応がないとされる症例についても積極的にFrCAを 276.
(9) 医師の説明義務と患者の同意 PTC・A. 試みることが期待されている場合があるとして,■患者の同意があれば, を実施することが許されるものであったと認めた。. 「患者が. そして,裁判所は,患者の同意が有効であるための要件について,. 同意するか否かを合理的に判断できるだけの情報が医療従事者から患者に村し て与えられたかどうか,すなわち,説明義務が尽くされたかどうかにかかるこ とになる。」と述べる。医師の説明義務の種類について`は,前述のように,お 「同意の前提としての説明義務」. おむね3つに分類されているが,本判決では, が認められている。. 裁判所は,本件について,. E医師らが,. を得たこと自体は,認めているものの,. FrCAについて亡Aらに説明し同意. E医師らの説明義務違反を認め,亡A. のPrCAに対する同意はその有効性を欠くとして,以下のように判示した。医 師が, FrCAの具体的危険性について説明せず, 提供・したこと等により,亡Aが,. CABGについて・誤った情報を. 「FrCAが一般的適応を有するもので,特に難. 皮(危険性)の高いものではないと誤解」し,. 「CABGを実施することは困難. であると誤解」して,本件FrCAの実施に同意したものであり,そのような同. 意は,有効性を欠」く。裁判所は,患者の同意の有効性を考慮する際に,医師 が,誤った情報を提供したことを重視している。. (b).医師の説明義務の内容・程度 医師に求められる説明義務の内容・程度としては, 療の効果と危険性,. ①代替治療の有無,. ②治. ③より危険性の低い治療方法が挙げられる36)。本件では,. 一般的適応がない医療行為において,医師の説明義務の内容・程度が問題にな っているo一般的適応がない医療行為は,広義では前述の試行的医療行為に含 まれる。. 裁判所は,一般的適応がない場合の医師の義明義務について,以下のように 述べる。 かも,. E医師らは,亡Aの症状が,. 「合併症の危険性の高いものであり」,し. 「危険な側副血行路」が存在すること,本件PTCAが,. 「難度(危険性) 277.
(10) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). の高い治療」であることといった「具体的な危険性」,本件PTCAが,実施し ても再狭窄の可能性が高く,. CABGの方が危険性が低いことについて何も説明. していなかったとして,亡Aに対して,. PTCAとCABGについて治療効果や,. 「選択肢のいずれかを選択することができるために必要な情報」を説明するべ きだった。. 手術において,その適応がない場合には,患者への危険性がより高くなるこ とが多い。患者に行うことができる他の治療があるにもかかわらず,より危険 性が高い治療を行う場合には,患者が医療を選択し,同意または拒否するため に,他の治療方法と比較したより具体的訓育報が必要である。本件では,医師 は,患者に説明を行い同意を得ていたものの,その内容・程度に問題があった。 手術において一般的適応がない場合には,患者が医療を選択できるために,特 に,その危険性についての具体的説明が不可欠である。 それと同時に, ■医師は誤った情報を患者に提供し,誤解に基づいて医療を決 定させてはならない。本件CABGのように,患者への侵襲性が高いが危険性は 低い医療行為の場合には,患者に危険性も高いという誤解を与える可能性があ るため,その旨を説明する必要がある。わが国では,がん告知のように,患者 に病名を告知することが患者に悪影響を与える等の一定の場合に,医師の裁量 により,本人に知らせない方が望ましい情報を本人に説明しないことが認めら れている37)。しかし,一般的適応がない手術においては,そのような医師の裁量 は原則として認められないだろう。. (c).医師の説明義務の判断基準 本判決では,医師は,患者が治療を「選択することができるために必要到青 報」を患者に説明するべきだったと述べている。医師の説明義務の判断基準に ついて,本判決がどの基準を採用したかは明確ではない。しかし,裁判所は, 前述のように,一般論として,患者による同意が,自己決定権の行使として, あるいは,一般的適応が欠ける治療行為を正当化するために,有効であるため 278.
(11) 医師の説明義務と患者の同意. の要件として,. 「患者が同意するか否かを合理的に判断できるだけの情報が医. 療従事者から患者に対して与えられたかどうか,すなわち,説明義務が尽くさ れたどうかにかかることになる。」と述べており,合理的患者説が採用されて いると言えなくはない。. 患者の自己決定権を認める判決が増加する中で,今後,合理的医師説を採用 しない判決が増え,医師の説明義務の範囲が拡大していくかは,興味深いとこ ろである。. ( ii).医師の説明義務違反と損害の範囲 本判決では,. FrCAとCABGの治療効果や危険性等について,. 説明を行っていたとしても,亡Aが,. ・医師が十分を. 「本件FrCAを選択した可能性を否定す. ることもできないので,本件説明義務違反がなければ,亡Aが本件FrCAを受 けることはなく,死亡という結果を免れたと断定することはできない。」とし て,医師の説明義務違反とAの死亡との間の相当因果関係が否定され,逸失利 益を含む全損害の賠償は認められなか?た。因果関係の認定については,. 「患. 者が同意したか否かの判定をすべきであるとする主観説(具体的患者説)と, 一般的な患者であづたらどうであろうかということを裁判所が判断する客観説 (合理的患者説)がある」 認められた余地があるが, いため,. 38,。本判決では,主観説に依拠すれば,因果関係が Aが死亡しており,主観説に依拠することはできな. 「十分に説明されていれば,. ・・・亡Aが本件FrCAの実施に同意しなか. った可能性は相当に高いものと認められるが,本件FrCAを選択した可能性を 否定することもできない」として,客観説に依拠してい る。本判決と同様に, 相当因果関係が否定される場合にも,説明義務違反のある手術は違法であると して,逸失利益全体を認める判決もある39)。 本判決では,. 「十分な説明を受けていれば他の治療方法を選択した可能性が. 相当に高く,その治療方法を選択していれば死亡という結果が生じなかった可 能性が高いばかりか,通常の日常生活を送れる可能性が高かったような場合, 279.
(12) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月). 説明義務違反と死亡との間の因果関係を完全に否定することの相当性には問題 がないわけではない」と述べられる。慰謝料の算定においてこれらの事情が考 慮され,高額な慰謝料が認容されている。. (2).私見. 本判硬は基本的に妥当であると考える。裁判所は,医師の説明義務違反を認 めただけではなく,手術について一般的適応がない場合の医師の説明義務の内 容・程度を一般的医療と比較して加重している。判決は,医師が,. 「選択肢の. いずれかを選択することができるために必要な情報」を説明するべきだったと. 述べ,埠に,危険性について,医師に,具体的な説明義務を課している。他の 治療の有無,それぞれの侵襲性,危険性と効果について詳細な説明が必要であ る。. 医療における選択権が最終的に誰にあるのかという問題は,医師の裁量との 関係で議論があると ころである。本判決では,自己決定権として患者の医療に おける意思決定過程における関与が認められており,注目に催する。本判決で. は,医師が患者に適切な説明をしなや、った結果,本件FrCAはAの有効な同意 を欠き,. Aの自己決定権が侵害され,. CABGを選択する機会を喪失したとして. 慰謝料が認められている。 本判決は,. 「延命利益」の喪失,. 「期待権」侵害や「治療機会」の喪失による. 慰謝料の認容額が低いことが問題にされている中で,. 1200万円という高額な. 慰謝料を認めており,その意義は大きい。近時,慰謝料の高額化も指摘されは じめてはいるものの,本判決のように高額な慰謝料を認める判決はまだ少ない。 本判決は,控訴されており,高裁の見解が待たれるところである。. 本稿は,横浜国立大学民事法研究会(2006年1月31開催)での報告に基づいて執筆したもので ある。. 280.
(13) 医師の説明義務と患者の同意 1)東京地判平成3年3月28日(判時1399号77頁)。 (判時1343号89頁)。. 2)広島地判平成元年5月29日. 『契. 3)唄孝一「治療行為における患者の承諾と医師の説明一西ドイツにおける判例・学説-」 約法大系Ⅶ』 (有斐F乳1965年). 67頁- (『医事法学への歩み』 (岩波書店, 1970年) 3頁に所収)。. 4)新美育文「医師と患者の関係」加藤一郎-森島昭夫編『医療と人権-医師と患者のよりよい (有斐閣, 1984年). 関係を求めて』. 違法阻却論との関連において(-) 2号(1981年). 83頁,町野朔「治療行為における患者の意思-刑法上の (二)上智大法学論集22巻2号(1979年). 65頁,同24巻. 41頁等。. 5)もっとも立法レベルでは,医療法(昭和23年法律205号,平成13年改正)第1条の4第2項 は,. 「医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他の医療の担い手は,医療を提供するに当たり,. 適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」として,努 力義務を定めるにすぎない。 6)インフォームド・コンセント法理に関する先駆的判決として,東京地判昭和46年5月19日 (下民集22巻5. ・. 6号626頁)。. 7)最判昭和56年6月19日(判時1011号54頁)。 8)広島高判昭和52年4月13日(判夕357号269頁)。大阪高判昭和61年7月16日(判夕624号. 202頁)o東京高判昭和由年3月11日(判決夕666号91頁)0 9)東京地判平成3年3月28日(判時1399号77頁),東京高判平成3年11月21日(判時1414号 54頁)等。医師の説明義務違反を否定した判決として,札幌高判平成5年6月17日(判夕 848号286頁),最判平成7年4月25日(判時1530号53頁)等。 (昭和62年,青林書院). 10)医師の説明義務については,野田寛『医事法中巻』 太郎「医師の説明義務」判夕34巻14号(1983年) ド.コンセント論への-疑問(-) て-」. 123頁,吉田邦彦「近時のインフォーム. (二・完). (民商法雑誌110巻2号(1994年). 440頁,浦川道. -日本の医療現場の法政策的考察を中心とし. 254頁,. 3号(1994年). 399頁)等o. ll)静岡地沼津支判平成2年12月19日(判時1394号137頁),京都地判平成4年10月30日(判時. 1475号125頁),最判平硬12年2月29日(民集54巻2号582頁,判時1710号97頁)。 12)医師の説明義務の中で,患者の自己決定権との関係で問題になる説明義務は,同意の前提と しての説明義務である。 13)野田・前掲注て10). 440頁,浦川・前掲注.. (10) 123頁,吉田・前掲注(10). 254頁,. 399頁. 等。 14)医師の説明義務の判断基準については,新芙育文「医師の説明義務と患者の同意」. 『民法の. 争点Ⅲ』 (1985年) 230頁等。 15)最判平成12年2月29日(民集54巻2号582頁)等。 16)最判昭和56年6月19日(判時1011号54頁)等。 17)福岡地判平成5年10月7日(判時1509号123頁),広島地判平成6年3月30日(判時1530号 89頁),東京地判平成9年11月11日(判例夕■986号271頁)。美容整形における医師の説明義 務について論じた論文として,松井和彦「美容整形施術における医師の説明義務」,修道法 学21巻2号(1999年). 343頁。 281.
(14) 横浜国際経済法学第14巻第3号(2006年3月) 18)これまでの試行的医療行為に関する訴訟では,試行的医療行為の一般的適応の有無が争点に なることが多かった。そのため,それらの判決では,医師の注意義務を尽くしたものとして, 試行的医療行為が法的に許容されるための要件が明らかになってきた(大阪高判昭和41年6. 月24日(高刑19巻4号407頁),東京高判昭和42年7月11日(下民13巻7. 8号794頁)等。)。. ・. そのため,試行的医療行為について,医師の説明義務違反を認めた判決はほとんどなく(莱 京地判平成4年8月31日(判夕793号275頁)),それらは,当事者間で説明義務について争 いがないか(高松地判平成3年12月9日(判夕783号197頁)。),主要な争点になっていない ことが多い(静岡地判平成3年10月4日(判夕773号227頁))。試行的医療行為に対する説 明義務について論じた論文として,中村哲「試行的医療行為が法的に許容されるためのガイ ドラインー主として試行的な治療行為について-」判夕825号(1993年). 6頁。本稿では,. 医薬品の臨床試験については,検討していないが,医薬品の臨床試験に対するインフオ∵ム ド・コンセントについて論じたものとして,甲斐克則「医薬品の臨床試験とインフォーム 『被験者保護と刑法』 (成文堂, 2005年). ド・コンセント」. 75頁)0. 19)金沢地判平成15年2月17日(判時1841号123頁)。. 20)本判決解説(判夕1149号96頁)。 21)東京地判平成4年8月31日(判時1463号102頁)。その他の脳動静脈奇形(AVM)手術事件. 判決として新潟地判平成6年2月10日(判夕835号275頁)。 22)石川寛俊「治療機会の喪失による損害」自由と正義39巻11号(1988年). 27頁,宇都木伸・. 判評・ 218号23頁(判時841号137頁),稲垣喬「延命利益の評価と検討」判夕513号(1984 年) 84頁,山寄進「診療債務の不履行と死亡との因果関係が肯定されない場合の損害の成否」 ジュリ949号(1990年). 125頁。. 23)石川寛俊「期待権の展開と証明責任のあり方」判夕686号(1989年) 者の死亡と医師の責任」ジュリ787号(1983年). 25頁,新美育文「癌患. 78頁,浦川道太郎「いわゆる『期待権』侵. 害による損害・民法判例レビュー(民事責任)」判夕838号(1994年) 「損害論の『新たな』展開」 (1995年,日本評論社). 54頁,松浦以津子. 『森島昭夫教授還暦記念論文集・不法行為法の現代的課題と展開』. 89頁等。. 24) 「延命利益」の喪失が認められた判決として,大阪高判昭和40年8月19日(判時428号61 頁),東京地判昭和58年2月17日(判夕492号120頁),東京地判昭和58年6月15日(判時 1082号56頁,判夕509号217頁),静岡地判平成2年12月19日(判時1394号137頁),東京地 判平成3年7月23日(判夕778号235頁),大阪地判平成4年1月29日(判時1427号111頁), 東京地判平成6年3月30日(判時1522号104頁),東京地判平成6年6月1日(判時1539号 118頁)。認められなかった判決として,東京高判昭和52年3月28日(判夕355号308頁), 東京高判昭和58年3月15日(判夕503号152頁,判時1072号105頁),東京高判昭和59年9 月13日(判時1133号81頁)。 25) 「期待権」侵害が認められた判決として,東京地判昭和51年2月9日(判時824号83頁), 福岡地判昭和52年3月29日(判時867号90頁),宇都宮地足利支判昭和57年2月25日(判夕 468号124頁),大阪地判平元6月26日(判夕716号196頁),東京地判平成4年10月26日(判 時1469号98頁) 282. 0.
(15) 医師の説明義務と患者の同意 26) 「治療機会」の喪失が認められた判決として,東京地判昭和60年9月17日(判夕572号75 頁),名古屋高判昭和61年12月26日(判夕629号254頁)等。 27)大阪高判昭和40年8月17日(判時428号61頁)0 (民集53巻2号235頁)。. 28)最判平成11年2月25El. 29)最判昭和50年10月24日(民集29巻9号1417頁)。 『転換期の取引法. 30)加藤新太郎「医療過誤訴訟における因果関係」 (商事法務,. 2004年). 事務管理.不当利得一判例による法形. 374頁,円谷唆『不法行為法. 成』 (成文堂, 2005年). 取引法判例十年の軌跡』. 93頁等。. 31)最判平成12年9月22日(民集54巻7号2574頁)。この他,近時,スキルス胃がん事件最高裁 判決は適切な治療による延命の可能性を認め,原審判決を破棄し,差し戻した(最判平成16 年1月15日(判時1853号85頁))。 32)円谷・前掲注(30). 96頁。 h仕p://courtdomino2,courts.go.jp/schanrei.nsf). 33)最判平成17年12月8日(判例集未登載。 高裁では,. 。最. 「期待権」侵害について裁判官の意見が分かれた。多数意見は,期待権侵害が認. められるためには「適切な治療を受けていれば生命身体の侵害はなかったということが, 『相当程度の可能性』として証明されることが必要」という過去の裁判例を引用し,期待権 侵害を認めず,患者側の上告が棄却された。 34)仙台高判平成10年3月9日(判時1679号40頁)0 35)仙台高判平成6年12月15日(判時1536号49頁),東京高判平成11年9月16日(半抑寺1710号 105頁)0 36)診療契約に基づく医師の説明義務の内容について述べた判決として,大阪高判昭和61年7月 16日(判夕624号202頁)等。 37)新美育文「痛の告知をめぐる医師の責任とその限界」伊藤進教授還暦記念論文集編集委員会 編『伊藤進教授還暦記念論文集』 医師の病名告知義務(1) 111頁,. 15号(20.01年). 133頁,. (第一法規,. 1997年). (4 ・完)法学研究論集13号(2000年) 16号(2002年). 69頁,. 14号(2001年). 73頁等。. 38)塚本泰司「東大脳動脈奇形(AVM)事件」医療過誤判例百選(2版) (1996年). 448頁,小西知世「癌患者本人への. 〔別冊ジュリ140〕. 20頁。. 39)横浜地判昭和54年2月8月(判時941号81頁);新潟地判平成6年2月10日(判夕835号275頁)0. 283.
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