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効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討 : 我が国のODA理念の視点から

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(1)効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討 ──我が国の ODA 理念の視点から── 長 谷 川 涼 子. はじめに. た実績がある中で,欧米の新しい概念をそのま ま日本の援助の中枢へ据えることへの危険性が. 日本 の 政府開発援助(Official Development. 危惧される.. Assistance: ODA)拠出額は年を追うごとに減. 本稿では,まず我が国の ODA 理念や方針を. 少している1).現段階で ODA 拠出額が増加す. 概説 し た 上 で,キャパ シ ティと は 何 か,そ し. る見込みはないため,量より質を重視した効果. て CD とは何かをこれまで開発協力の中で用い. 的な援助が求められている.このような動向は. られてきている他のアプローチとの比較から明. 日本に限らず,世界のドナー諸国も同様に起. 確にする.そして効果的に援助を行うための一. きており,ハイレベルフォーラムなどにおい. 方法として注目を浴びている CD が,我が国の. て,効果的な援助の方法が提案されている2).. ODA 理念や方針の中で遂行可能であるかを検. その提案された方法の一つが「キャパシティ・. 証する.. ディベ ロップ メ ン ト(Capacity Development: CD) 」である.日本の援助機関である国際協力. 1.我が国の政府開発援助(ODA). 機構(JICA)で は, 「CD と は,途上国 の 課題. 国際協力を先進国から途上国への資金の流れ. 対処能力(キャパシティ)が,個人,組織,社. によって区分すると,ODA,その他の政府資. 会などの複数のレベルの総体として向上してい. 金,民間資金,NGO による贈与の 4 つに区分. くプロセス」と定義している.これは UNDP. される.そのうち ODA は,①中央・地方政府. などの概念にならい定義づけられている.. を含む公的機関やその実施機関より供与され. 現在 CD は JICA の中でも援助概念のトレン. る,②途上国の経済開発及び福祉向上を主たる. ドとなっており,これまでの成功事例をもとに. 目的とする,③緩和された供与条件(グラント・. 研究を進め,報告書等も出されている.しかし,. エレメント3)25% 以上)という 3 つの条件を満. 現状の CD という概念は不明瞭であり,またそ. たす資金の流れのことを言う.ODA には,国. の評価方法も確立されていない.CD の達成に. 連機関への拠出や出資を通じて行われる「多国. はかなりの年月を要すると予想され,通常の技. 間援助」と特定国を対象とする「二国間援助」. 術協力の支援期間である 3~5 年でどの程度の. がある.ODA の実施方法には開発に必要な資. 達成度を見込む必要があるかの設定も必要であ. 金 を 提供 す る「資金協力」と,途上国 の 開発. る.加えて CD 概念はその定義からもわかるよ. に必要な技術を提供する「技術協力」がある.. う に,UNDP や 欧米諸国 の ド ナーか ら な らっ. CD の議論として用いられているのは,この「技. たものである.技術協力において日本はこれま. 術協力」である.技術協力とは,途上国の開発. で欧米諸国とは異なった援助方法で実施してき. を担う人材を養成するための協力活動で,①専.

(2) 20. (530). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). 門家の派遣による技術指導,②相手国の専門家. 針を示している.一人ひとりの人間を中心に据. の日本,相手国,又は第三国での技術研修,③. えて,個人及び地域社会の保護と能力強化を通. 技術協力に必要な機材の供与,を組み合わせ. じ,各人が尊厳ある生命を全うできるような社. て通常 5 年間行われる(友松,桂井 2006:10─. 会づくりを目指す考え方である.このような考. 16) .日本では,JICA が担当している.. え方は,これまでの援助の成果や効果が,被援. 我が国の ODA は,1992 年 6 月 30 日に閣議. 助国の経済成長を目標にし,評価の対象として. 決定 さ れ た「ODA 大綱」 (旧)の も と 行 わ れ. いたのに対して,被援助国の貧困削減を援助の. てきた.旧大綱では「自助努力支援」がその理. 目標として評価対象に移行したことが分かる.. 念として位置付けられた.その後 2003 年 8 月. 日本 の ODA 理念 の 他 ド ナーと の 違 い は,旧. 29 日の閣議決定によって,ODA 大綱は改訂さ. ODA 大綱から引き継がれてきている「自助努. れ,新理念 と し て ①開発途上国 の 自助努力支. 力」と「要請主義」である.近年開発援助にお. 援,②「人間の安全保障」の視点,③公平性の. ける国際的な潮流は,支援受け入れ国である途. 確保,④我が国の経験と知見,⑤国際社会にお. 上国の主体性(オーナーシップ)を重視し,途. ける協調と連携,が掲げられている.新 ODA. 上国自身の開発計画や優先課題を援助国や援助. 大綱によると,日本の ODA の目的は「国際社. 機関が共同で支援していく,援助協調の考え方. 会の平和と発展に貢献し,これを通じて我が国. に移行してきている.しかし,このような考え. の安全と繁栄の確保に資する」ことである.つ. 方は,日本ではすでに行われてきていたことで. まり国際社会の発展に貢献すると共に,日本の. あり,とりわけ新しい支援方法ではない.国際. 国益になることが前提となっていると解釈でき. 社会では,援助効果を向上させる方策として援. る(外務省 2008:2─5) .相互依存関係 に あ る. 助協調を取り上げ,具体的な方策の一つとして. 国際社会において日本が平和と繁栄を確保する. 「国家能力開発と開発効果」の強化が挙げられ. ために,ODA は必要な国際協力の手段である.. て い る(外務省 2009:160─163).こ れ が キャ. 国際社会が一致して人類共通の課題に取り組も. パシティ・ディベロップメント(CD)である.. うとしている中で,日本が十分な信頼感を得. 上述のような ODA 理念の中で,近年開発援. て,自らの国益を追求していくためには,それ. 助の潮流となっている CD を遂行することは可. 相応の援助の量を確保することが重要である.. 能か,また CD を導入することで援助の効果は. し か し,2006 年 に 閣議決定 さ れ た「経済財政. 向上するのだろうか.本稿では「CD とは何か」. 運営と構造改革に関する基本方針 2006」にお. を明確にし,そこから我が国の ODA において. いて,2007 年度から 5 年間の歳出改革として. CD の適用可能性を検討する.. ODA 予算を前年度比 2~4% 削減することが決 定したことを受け,減額の傾向にある(外務省. 2.キャパシティ・ディベロップメント(CD). 2008:12) .援助の量を増加させることが困難. ⑴ CD 概念の創出経緯. な状況にあることから,援助の質,つまりより. アフリカ援助の失敗と冷戦の終結から,ド. 効果的な援助を行う必要性が求められている.. ナー諸国の援助疲れが顕在化した 1990 年代に. 2005 年に発表された ODA の中期政策では,. かけて「援助は役立っているのか?」という議. ODA 大綱の基本方針の一つである「人間の安. 論が盛んに行われるようになった.例えば,ド. 全保障の視点4)」から重点課題である①貧困削. ナー主導の構造調整や技術協力における途上国. 減,②持続的成長,③地球的規模の問題への取. 側のオーナーシップの欠如が援助効果をゆがめ. り組み,④平和の構築,そして⑤効率的・効果. てきたとの反省が,「途上国との対等なパート. 的な援助の実施に向けた方策」を取り上げ,方. ナーシップ」,「政策対話」,「住民参加」などの.

(3) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (531). 21. 重要性を主張する議論につながっている(国際. するパリ宣言(以下,パリ宣言という)のコミッ. 協力機構 2006:99) .多くのドナー国や機関は,. トメントにも掲げられ,その内容は,ローマ調. 1980 年代に行われてきた技術協力が期待され. 和化宣言にプラスして,相互説明責任,脆弱な. ていたほどの結果を生んでいないことから,技. 国家における援助効果向上,開発成果管理,そ. 術協力の見直しや評価を行っている.この技. し て CD が 付 け 加 え ら れ た.(三輪 2008:10,. 術協力の見直し・評価の一つの集大成が 1991. 淵 ノ 上,松岡 2006:6).ド ナーか ら の 援助額. 年 に OECD/DAC 上級会合 で 採択 さ れ た「技. が減少していく中で,援助の量ではなく質を求. 術 協 力 原 則( Principles for New Orientations. め,さらにドナーからの支援が終了したプロ. in Technical Cooperation) 」で あ る.こ の 技. ジェクトがその後も継続していくことを視野に. 術協力原則 の 中 で は「キャパ シ ティ・ディベ. 入れた「持続可能な支援」を行うために CD が. ロップメント」という言葉は用いられていな. 必要であるとしている.. いものの, 「途上国が長期的な観点に立ち,自 分たちの力で開発の課題を解決できるような. ⑵ キャパシティ(Capacity)とは何か. 支援 を 考 え る」や「技術援助 の 戦略目標 と し. 国際社会においてすでに当たり前に使われ. て,途上国の『短期的な状況改善』よりも『長. て い る CD の キャパ シ ティ(Capacity)と は. 期にわたる能力構築』を中心に据える」といっ. 何を意味するのかを考えていく.辞典を引く. た,CD の概念に先立つような新たな技術協力. と,Capacity は 4 つ の 意味 に 分類 さ れ る.第. の方向性が記されている.そして 1994 年には. 1 に,建物や部屋などの「収容・収納」能力を. OECD,世銀,UNDP 主催 で 技術援助改善 に. 意味する.ある部屋の定員が何名なのかという. 向 け た 国際会議 “Improving the Effectiveness. のが,その部屋の Capacity ということになる.. of Technical Cooperation in the 1990s” が 開催. 第 2 に,法的な制限,資格,能力,または適正. された.UNDP は同年にこの会議の成果を取. を 意味 す る.第 3 に,人 の 能力(ability),才. りまとめ,その報告書の中で初めて「キャパシ. 能(caliber),進歩や発達の度合い(stature),. ティ・ディベロップメント」の用語を用いて,. 精神力や能力(capability),そして有効な問題. 技術協力の目指すべき方向性を示した.これ以. へ の 洞察力 な ど を 意味 す る.こ れ は,第 1 の. 降,ドナー国・機関では技術協力において CD. 意味 で あ る「収容・収納」が 原義 で,人間 の. を巡る議論や取組みが活発化している.2003. 頭を容器に見立てて,「物事を受け入れて処理. 年 2 月にはローマで調和ハイレベルフォーラム. す る 能力」の 意 が 生 ま れ て い る.第 4 に,有. が開催され,開発効果向上の方策の一環として. 効なまたは可能な状況を意味する(Webster’s. 調和化を着実に推進することの重要性や,途上. Third New International Dictionary ).CD の. 国側の政策・制度に対してドナーの政策・制度. Capacity の意味は 3 番目の意味であると考え. を調和させていく重要性が確認された.そして. られるが,具体的に誰の,どのような「物事を. 会合の結論として「ローマ調和化宣言」が採択. 受け入れて処理する能力」を意味すると定義さ. された.今後は途上国ごとに調和化の実施が推. れるかは,各ドナーにより異なっている.. 奨され,ドナーは支援の進捗状況の報告をする. 佐藤は,人々が持つ「力(パワー)」との比. ことが合意された.このローマ調和化宣言の中. 較として「能力」の意味を定義している.「パ. では,途上国のオーナーシップやリーダーシッ. ワー」とは,「物事を決定し,実行し,実現す. プを協調させていく中で,キャパシティ・ビル. る力」であり,単なる能力とは異なる.パワー. ディングが必要である,とされている.. は個人の能力の結果としておのずと湧き上がっ. CD は,2005 年に採択された「援助効果に関. てくるものではなく,他者との関係性の変化に.

(4) 22. (532). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). よって獲得しなければならないものである,と. 凶作・不作,経済危機や暴動・紛争など)が起. し て い る.こ れ に 対 し て「能力」は,他者 と. きても,自己防衛出来る蓄えや安全の確保を出. の関係性の変化なしに獲得することが可能であ. 来ることを意味する.これら 5 つの能力のうち,. る.体力(重たいものを持ちあげる,高い所に. 経済的能力や人的能力については UNDP や世. あるものに手が届く) ,知力(字が読める,計. 銀により指標があるためそれらの報告書から入. 算ができる)などの能力は外部者(教師など). 手が可能であるが,他の能力の指標については,. が教えることによって自ら身に付く.識字能. 標準化された定量的指標がないため,把握する. 力,計算能力などもこれに当たるが,これら. ことが困難である.. を 獲得 す る こ と に よって 自動的 に「パ ワー」. UNDP で は,キャパ シ ティを「役割 を 果 た. を獲得することには結びつかない,としてい. す,問題を解決する,そして目標を設定し,達. る(佐藤編 2005:211─212).. 成する能力」であると定義している(Fukuda. 2001 年に DAC から出された貧困削減ガイ. 2002:8).個人や組織といった,それぞれの社. ドラインでは,貧困の定義を「様々な側面に. 会がそれぞれの役割や目標があり,複雑な社. わ た る 剥奪状態 を 意味 し,具体的 に は 経済,. 会構造となっている.また国によっても異なる. 社会,その他の豊かさの基準を達成するため. キャパシティを発展させる必要があるが,国の. の基本的な能力が欠如した状態を指す」とし. キャパシティは単に個人のキャパシティの総体. た.その「基本的な能力」を DAC は 5 つに分. ではないことに注意しなければならない.国や. 類 し て い る.そ れ は ①経済的能力,②人的能. 社会のキャパシティを発展させたいのであれ. 力,③政治的能力,④社会・文化的能力,⑤保. ば,個々の人間の技術を広げる必要があり,そ. 護能力である.①経済的能力とは,所得,消費,. のためには個々人が持った技術を使える機会の. 資産所有などを指し,これらの度合いは,食糧. 増加やインセンティブを与えることが求められ. 確保,物質的豊かさや社会的地位を決定する要. る,としている(Fukuda 2002:8─9).. 因 と な る.②人的能力 と は,保健,栄養,教. オランダ外務省は,キャパシティという広. 育,安全な水や住宅などの確保を示す.病気や. い概念は 5 つの能力(capability)によって成. 非識字は生活活動や経済的向上への大きな阻害. り 立って い る と し て い る.そ れ は,①適応,. 要因になる.人間の幸せや豊かさにとって,人. 自己再生能力,②外部 の 利害関係者 と 連携 す. 的能力の向上は中心的な要素であり,この能力. る 能力,③行動 し,全力 を 傾 け る 能力,④首. を持つことが貧しい人々の生計や生活を改善さ. 尾一貫して目的を成し遂げる能力,⑤開発目. せる.③政治的能力とは,人権や政治的な自由. 標を果たす能力,の 5 つである.これらの能. (公共政策や政治的重要課題に対する影響力及. 力はどれも個々に作られているのではなく,. び言論の自由)の保障を意味する.これらの要. 密接に相互関係がある.特定の時期に評価の. 因が剥奪されていると,政府当局による独裁や. ための基準が設けられ,その組織のキャパシ. 不公正などが横行し,暴力や紛争などを生み出. ティがどのように発展しているのかを査定す. し,貧困層に多大な被害を与える結果となる.. るために,組織のキャパシティはモニターし,. ④社会・文化的能力とは,人々が地域社会にお. 時間をかけて追跡記録することが出来るよう. いて価値あるメンバーとして参加することを意. になっている(Piet 2009:2).. 味し,それは非常に重要なことである.特に,. JICA で は,キャパ シ ティを「途上国 の 個. 社会的地位,尊厳,誇り,帰属している文化的. 人,組織,社会などの複数レベルの総体とし. 背景などが大きな影響要因となる.そして⑤保. て の 課題対処能力」で あ る と 定義 し て い る.. 護能力とは,経済的,外的ショック (自然災害,. そ し て キャパ シ ティは「テ ク ニ カ ル・キャパ.

(5) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (533). 23. シティ」,「コア・キャパシティ」,そして「環. 3―1 CD の定義. 境基盤」という 3 つの構成要素からとらえて. これまでの援助における問題点としては,①. い る.ま ず「テ ク ニ カ ル・キャパ シ ティ」と. 途上国のオーナーシップに対する認識不足,②. は,組織 を 構成 し て い く 各個人 の「知識,技. 先進国の知識・モデルのそのままの移転,③. 能(技術)」,あるいはそれが集まっている組. CD を 取 り 巻 く 政治・社会・経済環境 の 不十. 織として蓄積される「暗黙知」のように,業. 分な考慮などが挙げられている(三輪 2008:. 務を遂行する上で個人や組織に求められる特. 11).このような問題を踏まえて CD 概念につ. 定 の 技術能力 を 意味 す る.次 に「コ ア・キャ. いては,各ドナーがそれぞれ定義付けを行って. パシティ」とは,個人や組織において,すべ. いる.以下に代表的なものを紹介する.. ての行動を方向づける根本的な能力(課題対. ま ず,CD 概念 を 初 め て 発表 し た UNDP で. 処能力の中心となる力)を指す.事業や業務. は,「個人,組織,社会が個別に,あるいは集. を執行していく際の「マネジメント能力」や. 合的にその役割を果たすことを通じて,問題を. 個人や組織の行動を方向づける「意思・姿勢」. 解決し,また目標を設定してそれを達成してい. や「リーダーシップ」と いった も の(意思 や. く能力の発展プロセス」としている.国や社会. 姿勢といったものに裏付けられた実務的な業. のキャパシティを発展させたいならば,個々. 務執行能力)の こ と で あ る.そ し て 「環境基. の人間の技術をより向上させなければならない. 盤」とは,技術協力が対象としている組織がそ. としている.だがここで押さえておくべきこと. の能力を発揮し,成果を出すことを可能にす. は,「CD は人的資源の発展のみではなく,よ. る諸条件(enabling environment)のことであ. り大きな概念であることである.それは,技術. る.具体的には,政策枠組み,法制度,市場経. を獲得することだけではなく,獲得した技術や. 済制度などであり,物的な資産,資本,社会イ. 能力を使うことまで含まれる」としている.こ. ンフラといった資源も含まれる(国際協力機構. れがひいては,雇用の構造ではなく,ソーシャ. 2008:14) .. ル・キャピ タ ル と 市民活動 に 人々が 参加 し 始. 以上 の よ う に,各 ド ナーや 研究者 に よって. める様々な理由となる,としている(Fukuda. キャパシティの定義は異なる.このような異な. 2008:9─10).. る定義の中で,CD がどのように定義付けられ. 日本の援助機関である JICA では,CD は「途. ているのかを,次項で概説する.. 上国の課題対処能力が,個人,組織,社会など の複数レベルの総体として向上していくプロセ. ⑶ CD とは何か. ス」である,と定義づけている.途上国の課題. CD 概念の創出経緯からわかるように,CD. 対処能力の向上を支えることこそ援助の役割で. は,これまでの援助方法が見直され,効果的な. あるとしている.. 援助と開発成果の達成に向けて注目を浴びるよ. 表 1 にあるように,いくつかのドナーや国際. うになった.CD は特別に新しいアプローチ方. 機関もそれぞれの定義付けを行っている.しか. 5). 法ではない が,過去の取組みの反省をもとに. し,表 1 に記載されているドナー以外のドナー. 見直しが行われてきた.国際社会での具体的な. や国際機関は CD という表現を用いずに,似た. 議論から出された新しい CD とは, 「途上国主. ようなアプローチをとっている.. 導による持続可能な開発の鍵」である.ではそ. 表 1 からもわかるように,各ドナーの CD の. の鍵とは具体的にどのようなものか,以下で述. 定義は若干の違いがあるものの,基本的な考. べていく.. え方は同様である.表 1 に記されていないド ナーでは,CD という表現は用いていないもの.

(6) 24. 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). (534). 表 1 主要ドナーの定義 ドナー 機関名. Capacity の定義. CD の定義. UNDP. 役割を果たす,問題を解決する,そし 個人,組織,制度や社会が個別にあるいは集合的にその役割を果 て目標を設定し達成する能力6) たすことを通じて,問題を解決し,また目標を設定してそれを達 成していく能力の発展プロセス. JICA. 途上国の課題対処能力. GOVNET/ DAC. 個人,組織,社会が自分たちの課題を 個人,組織,社会が全体として自らのキャパシティを発揮,強化, 全体として望ましい方向に管理してい 構築,適用,そして維持していくプロセス く能力. CIDA. 定義なし. 途上国の個人,グループ,組織,社会が開発問題を持続的な方法 で同定,解決する能力を向上させるプロセス. GTZ. 定義なし. 個人,組織,社会がそれぞれの目標を持続的に達成するために, 資源を効率的,効果的に使用する能力を強化するプロセス. EC7). 課題を実行しアウトプットを出すこと, 個人や組織が時間の経過とともに自らのキャパシティを創造し, 課題を明確にし解決すること,そして 強化していくプロセス 情報を選択する能力. 世銀. 人々,組織,社会 が 全体 と し て,課題 人的資本と組織慣習の変化と強化に基づいて運用することによっ を解決し,十分に周知された選択を行 て,途上国が必要なものに対応する介入を調整するように主導権 い,優先事項 を 決定 し,将来 の 計画 を を持つような,緩やかなプロセス 立てられる能力. 途上国の課題対処能力が,個人,組織,社会などの複数のレベル の総体として向上していくプロセス. 出典:Fukuda 2002,JICA 2006, GTZ 2003 を元に筆者作成. の,援助方針に CD 概念が記されている国もあ. は間違いない.では,CD の定義に「国」を入. る.例 え ば 英国国際開発省(Department for. れるかどうかで何が変わるのかというと,達成. International Development: DFID) で は, 貧. の評価が異なる.JICA や CIDA のように「国」. 困削減戦略の遂行のために制度強化に重点を置. という言葉を入れるということは,支援された. くべきであるとしている.そして開発事業を成. 「国」が何らかの形で能力の向上を示さなけれ. 功させるためには,技術競争力を高めるだけで. ば,CD の 達成 に は な ら な い.一方,「国」を. なく,同時に制度面の整備を行う必要があると. 定義の中に入れていない場合は,支援を行った. 考え,キャパシティ・ビルディングは組織だけ. コミュニティや団体の能力向上が示されれば,. でなく制度面も考慮に入れて実施すべきである. それで CD の達成という評価が出来るという違. としている.このように,DFID では CD では. いが生じる.以上のことを踏まえた上で,本. なく「キャパシティ・ビルディング」を用いて. 論文 に お い て キャパ シ ティと は「課題 を 認識. いるが,実際にはその概念は CD と同様である.. し,その解決策を選択し,実行する能力」とし,. CD の定義はドナーごとに異なるが,基本的. CD と は,「個人,組織,社会 が 自 ら の キャパ. な考え方は類似しているといえよう.しかし,. シティを構築し,強化し,適用していくプロセ. 明らかに異なる点が 1 点ある.それは,CD の. ス」と定義づける.. 対象を「国」としているか否かである.本稿で. 3―2 CD の特徴. 取り上げている CD はあくまでも開発協力にお. では,実際に CD はどのような方法を用いて. ける概念であるため,ドナーから援助受入国で. 援助を行う概念であるのか,その特徴を概説す. ある途上国に対する支援概念の一つであること. る..

(7) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (535). 25. 出典:国際協力機構 2006:2. 図 1 CD の包括性(3 層の捉え方). 出典:国際協力機構 2006:5. 図 2 CD の内発性. CD の特徴は 2 点ある.第 1 に, キャパシティ. ことが重要であるとしている.また,各レベル. を個人,組織,制度・社会といった複数のレベ. は相互に影響しあう関係であり,1 つのレベル. ルで包括的にとらえることである.つまり,こ. だけに支援や成果を集中させてしまうと,無効. れまでの援助は対個人のみ,あるいは政府機関. 果であると考える概念である.. に対する支援といった対組織のみの支援であっ. 第 2 の特徴は,キャパシティの内発性である.. たが,CD の概念は途上国の主体を個人,組織,. ドナーからの支援が終了した後も途上国自身で. 社会などの複数のレベルでとらえていることで. 持続的に課題を解決していく能力をつけるため. あ る(国際協力機構 2006:1─2) .各 ド ナーの. には,途上国自身の主体性を重視する必要があ. 定義からもわかるように,この特徴はすべての. る.つまり,途上国のオーナーシップを重視し. ドナーで一致している考え方である. この個人,. ている.途上国が自ら課題を解決するためには,. 組織, 社会などの複数のレベルを別個ではなく,. 途上国の持つキャパシティの「内発性」を引き. 総体として「包括的な」視点を持って見ていく. 出し,後押しするような支援方法を用いる必要.

(8) 26. (536). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). がある.これまでの支援のように問題解決のた. CD とリーダーシップの関係は,根本的なもの. めに途上国の足りない部分を埋めるというよう. であるとしている.リーダーシップを醸成する. な支援ではなく,問題解決につながるように途. ことは,個人,組織,社会のキャパシティ向上. 上国自身の内発的な発展8)を引き出すことが求. へ 向 け た 投資 の 効果 を 保証 す る.一方,リー. められている.ドナーの持つ近代的な技術をそ. ダーシップを欠くことは,個人や組織の育成と. のまま途上国に導入するのではなく,途上国に. いう数十年にわたる粘り強い作業を無駄にする. 昔からある技術と統合出来るような技術や知識. 可能性がある,と述べている.そして⑤知識. とドナーの持つ知識を共有し,途上国が自ら問. は,CD にとって重要な要素として 2 つに分類. 題解決に必要な事項を考えて新たな方法を見出. される.それは,①現地で想像し獲得する知識. していくことである.どれだけ途上国自身にコ. と,②蓄積し国際的に享有する知識である.②. ミットメントさせられるかが, ポイントとなる.. は途上国同士の南南協力も,国際的な知識共有. 3―3 CD 促進のためのドナーの役割. の方法として注目されている.知識は途上国の. 以上のような途上国の自助努力のもとに能力. 能動的な学習によって「獲得」されるものであ. 向上を支援する,いわゆる内発的発展を支援す. り,途上国が先進国で長年培われた知識をその. ることが援助の役割であるとする CD の考え方. まま単純に取り入れることは出来ない.そして. に基づくと,ドナーは途上国の CD を側面支援. ドナーは,まず現地に存在する知識や慣習を深. する「ファシリテーター」としての役割を担う. く理解し,それらを伸ばす方法を見出すことか. ことになる.つまり,ドナーは途上国に CD を. ら始める必要がある.. 促す良好な環境づくりをしなければならない.. これら 5 つの要素もまた,相互に関連し合っ. それには①オーナーシップの確保,②良好な政. ていると言えよう.日本の ODA は先にも述べ. 策・制度環境 の 整備,③ イ ン セ ン ティブ,④. たように,自助努力を理念として掲げているた. リーダーシップ,⑤知識,という 5 つの要素が. め,①オーナーシップはこれまでの支援で既に. 必要になる.①オーナーシップは,成果の持続. 行われている.また,もう一つの重要な理念で. 性を確保するために重要であり,CD 支援の大. ある要請主義で支援を行っていることも,③イ. きな目的でもある.ドナーがファシリテーター. ンセンティブが途上国に少なからずある状況を. としての役割を果たすことが大前提として挙げ. 保ちながら支援を行っていることになるだろ. られていることからも,途上国側のオーナー. う.. シップは必須である.②良好な政策・制度環境 (enabling environment)は,ど の よ う な 環境. 3.他のアプローチ方法と CD の比較. のもとで協力を行うかで開発効果及び CD に大. 前述のように,CD 概念はとりわけ新しい手. きな影響を及ぼす.マクロ経済の安定や一貫し. 法ではないため,これまで開発協力の中で利用. た政策,政策決定者の高いコミットメントなど. されてきたアプローチ方法と類似していたり,. は CD を促進するが,実施可能性の低い政策や. 関係していたりするものが多い.そこで,他の. 汚職などは CD を阻害する.③インセンティブ. アプローチとの比較をすることによって,より. は,個人のモチベーションを高め,学習を促す.. 詳細な CD を見出すことを試みる.. それは法律や契約,政府の構造のようなフォー マルなものもあれば,文化のようなインフォー マルなものもある.またインセンティブの大き. ⑴ キャパ シ ティ・ビ ル ディン グ(Capacity Building)との相違点. さは, リーダーシップの強さにも影響を受ける.. CD の概念を理解するためには,これまで開. ④リーダーシップに関して UNDP(2003)は,. 発協力の中で用いられてきたキャパシティ・ビ.

(9) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (537). 27. ルディング(CB)との違いを理解する必要が. アプローチに対して,その個々人の実質的な. ある.これまで用いられてきた CB とは,途上. 生活そのものの質・暮らしぶりの良さ(QOL:. 国の能力を新しく作り上げることである.課題. Quality of life)によって良い生活を捉えよう. の解決や予防の方法を支援の対象となる個人や. とする志向の枠組み・フレームワークである.. 組織のみを対象として行ってきた.国際協力機. ケイパビリティ・アプローチは「ある個人が社. 構(2006)に よ る と,CD と CB の 相違点 は 3. 会,経済及び個人的な資質の下で達成すること. 点ある.第 1 に,CB は主に組織や個人の能力. が出来る,『~であること(being)』と『する. 向上を対象とするのに対し,CD はそれらに加. こと(doing)』を代表する,一連の『選択的な. えて制度や政策の整備,社会システムの改善な. 機能(functioning)』の集合体」として生活そ. どまで広く対象に含めている点である. 第 2 に,. のものを捉えている.それらの機能が実行でき. CB はキャパシティを外から構築する介入行為. る可能性や自由,選択の幅がどれくらいあるか. を指す用語であるのに対し,CD は途上国自身 による内発的なプロセスそのものを指す用語で. によって生活の質や良さを捉えるものとして 「ケイパビリティ」という概念を創出した.. ある点である.そして 3 点目として,CB はキャ. そして人々の良い生活とは,この「ケイパビ. パシティを構築する段階のみを視野に入れてい. リティ」の向上として理解し取り組むことが重. るが,CD はキャパシティを構築,強化,維持. 要であるとした.その理由は,すべての人間は. する継続的なプロセスであることを強調してい. 異なっていると考えるからである.例えば所得. る点である.つまり,これまで JICA が行って. という手段が同一であったとしても,実際にそ. きた CB は,カウンターパート(C/P)機関に. の手段が有効に活用されるかどうかはその個人. 対して援助者である専門家等が事業を行って. の特性と社会の環境によって決定される「ケイ. きたものであり,CD は相手側のプロセスの. パビリティ」によって異なる.そのため,実際. 側面支援 を 行 う ファシ リ テーター9)としての. にその人がある「機能」を達成出来る可能性で. 役割を担うことを意味している点が基本的な相. ある「ケイパビリティ」によって見なければ,. 違点である(国際協力機構 2006:6─7) .. 実質的な生活を捉えることが出来ないのであ. 以上のように,相違点は示されているが,実. る.また達成された「機能」ではなく,選択の. 際の現場においては明確な違いがないことが現. 可能性・自由としての「ケイパビリティ」とし. 状である.そもそも開発協力は途上国への介入. て良い生活を見るのは,選択された「機能」が. 行為であるので,ファシリテーターとしての役. 同じだとしても選択の幅・自由があることでそ. 割を担ったとしてもそれは介入行為になるとも. の意味が異なる.ゆえに,ケイパビリティ・ア. 考えられる.また,CB の対象を複数のレベル. プローチは,貧困という概念も単に所得という. で捉えるように行えば,CB は CD の第 1 段階. 手段の程度が低いことではなく,ケイパビリ. と捉えることが出来る.. ティの制限として捉えている.ケイパビリティ は社会という環境を反映する概念であることか. ⑵ A. Sen のケイパビリティ・アプローチと CD. ら,差別や社会からの疎外という状況を反映す るフレームワークとなっている.また,ケイパ. 2―1 ケイパビリティ・アプローチとは. ビリティとは選択の幅であるため,選択の自由. センのケイパビリティ10)・アプローチとは,. という意味での「自由」と密接に結びついたも. それまで経済学において主流であった所得とい. のとなる.. う手段や効用という結果によって人々の福祉. ケイパビリティ・アプローチのもう一つの重. 又はよい生活(well-being)を捉えようとする. 要な点は,個人の生活の質という良い生活とい.

(10) 28. (538). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). う側面と同様に,その個人の生活の質向上とは. え,人間の自由の向上を基準の開発プロセスと. 直接関係なくとも,その個人が追求する理由と. 判断している.センは「自由の拡大」は①一義. 価値があると認める目標に対して,主体的・能. 的な目的であり,②開発の主要な手段であると. 動的に行動する「エージェンシー」という側面. 見ている.これらはそれぞれ,開発における自. についても同様な注意を払っている点である.. 由の「本質としての役割」と「道具としての役. すなわちケイパビリティ・アプローチとは,す. 割」と呼ばれ,本質としての役割とは,人間の. べての人間は異なる(人間の多様性)という理. 生活を豊かにする上での本質的な自由の重要さ. 解に立ち,人の生活の良さを,生活の手段や結. と関わっており,飢餓や栄養失調,避けること. 果ではなく生活そのものを見ることによって捉. のできる病的状況といった欠乏状態を回避する. え,資源,個々人の特性,そして環境という生. ことが出来る基本的な能力,識字や計算能力,. 活に影響を与える 3 つの多様な要素をそれぞれ. 政治的参加の享受等との関係ある自由を指す.. 別々に捉えるのではなく,それらを生活の構. センは道具としての役割の自由として,①政治. 成単位 で あ る「機能」と そ の 選択可能性 で あ. 的自由11),②経済的便宜12),③社会的機会13),. る「ケイパビリティ」に変換し捉えるアプロー. ④透明性の保証14),⑤保護の保障15),という 5. チである.「ケイパビリティ」として捉えると. つの種類の自由を例に挙げている.これら手段. いうことは,手段や環境という形式的な機会. としての自由は,ある人が自由に生きるための. の均等化ではなく,実質的な機会の平等と選. 一般的なケイパビリティを高める傾向があり,. 択の自由を検討することになる.この個人の. 相互に補完している.またセンは,人間は機会. 生活の良さと同様に,ある価値に対する主体. が与えられれば自らの運命の形成に積極的に関. 的な行為としてのエージェンシーが重要視さ. 与するものと考えている.国家と社会には人間. れる志向の枠組みである.. のケイパビリティを強める上で広範囲の役割が. センがこのケイパビリティ・アプローチに. ある.それは,出来合いのものを提供するので. よって明確にしようとしているのは「何の平等. はなく,人を助ける補助的な役割であるとする.. か?」という点についてである.すべての人間. つまりセンは,国の政治が改善されなければ,. が同質であれば, 例えば, 所得という手段 (変数). 個々人の生活は変化しないと考えているのであ. を平等にすればそこから生ずる結果も平等にな. る.. る.しかしながら,すべての人は個々人の特性. 2―2 ケ イパビリティ・アプローチと CD の相. (内的な特質:年齢や性,一般的な力量や特別. 違点. な才能,病気にかかりやすいかどうかなど)に. ケイパビリティ・アプローチと CD はどちら. おいてだけでなく,置かれている環境(外的な. も日本語訳をすると「能力」となる言葉を用い. 状況:社会的背景,環境条件など)においても. ている.しかし,キャパシティがその人の状況. 多様であり,所得という変数が平等であっても. に鑑みた上での「考えられる能力」であるのに. それがそのまま良い生を平等に向上させるとは. 対して,ケイパビリティは「どのようなことが. 限らない.ゆえにセンは手段や環境という間接. 出来るか選択肢を考え,そしてその選択肢の一. 的なものの平等ではなく,あることを選択しよ. つを実行する能力」を意味すると考えられる.. うとしたときにすべての変数を考慮した上で,. CD とケイパビリティ・アプローチにはいく. それが実質的に可能であるかどうかという点で. つかの相違点がある.第 1 に,援助の結果の捉. の平等,つまり実質的な機会の平等・均等化を. え方である.CD は個人,組織,そして制度や. 重視しているのである.また,開発を「人々が. 社会といった複数の層からキャパシティを捉え. 享受する真の自由を拡大させるプロセス」と捉. て,最終的には援助受け入れ国の能力の持続可.

(11) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (539). 29. 表 2 CD とケイパビリティ・アプローチの相違点 CD. ケイパビリティ・アプローチ. 定義. 途上国の課題対処能力が個人,組織,社会などの複 人々が享受する真の自由を拡大させるプロセス 数レベルの総体として向上していくプロセス. 目的. 途上国の持続可能な開発. 個々人の生活の質,実質的な機会の平等,. 視点. 複数の層(個人,組織,社会). 複数の層(個人,組織,社会). 方法. 国,地域,組織,人により異なるため,柔軟性を持っ 全ての人間は異なるという理解に立つため,統一方 て取り組む(統一方法なし) 法なし. 判断基準. 特定の判断基準なし 取組みにより異なる. 人間の自由の向上を基準に開発プロセスを判断. 個人の捉え方. 特定の記載なし. 人間は機会が与えられれば自らの運命形成に積極的 に関与する. 出典:筆者作成. 能性を引き出すことを目的としている.一方,. いた理由は,CD の対象としている援助は貧困. ケイパビリティ・アプローチは複数の層に対し. 削減だけではなく,途上国が貧困削減をされた. て支援をすることは CD と同様であるが,その. 後の持続可能性を持つようになるといったより. 効果を個々人の実質的な生活の質で捉えてい. 包括的な援助であると考えるため,貧困削減の. る.この実質的な生活の質とは,人々の享受す. みならず他の支援も含まれて作成された CDF. る自由の大きさである.CD は複数の層の個々. と CD の関係性を考察する.. を点で捉え,点同士の相互に与える影響から面. 3―1 CDF とは. で援助の結果を求めるのに対し,ケイパビリ. 1997 年秋,香港 で 行 わ れ た 世界銀行・IMF. ティ・アプローチは,面の質を点から見てい. 年次総会において,世銀グループのウォルフェ. るのである.対象とする国や地域,組織や人. ンソン総裁は,「すべての人々を社会に包含す. によって異なることから統一した枠組みを決. る と い う 課題(The Challenge of Inclusion)」. めず,柔軟性を持って取り組む点は両者共に. と題するスピーチの中で,開発効果を高める. 同じであるが,ケイパビリティ・アプローチ. た め に 他 の 関係機関 と の 緊密 な 協力体制構築. は最もミクロな点である,個々人の相違から. の重要性を訴えた.そのスピーチを受けて世. 捉えている.. 銀は,1998 年夏に「開発のためのパートナー シップ:世銀に期待される活動(Partnerships. ⑶ 包括的 な 開発 フ レーム ワーク(CDF)と CD. for Development:Proposed Actions for the World Bank)」と題されたディスカッション用. 本項では,世界銀行が 1999 年に提唱した包. のペーパーに基づいて,政府,二国間・他国間. 括的 な 開発 フ レーム ワーク(Comprehensive. 援助機関,学者,NGO,市民社会団体,民間. Development Framework:CDF)と CD 概 念. セクターなどと協議を行った.ウォルフェンソ. の関係性について述べる.CDF は現在も世銀. ン総裁は,1998 年 10 月の年次総会でこのテー. や世銀 グ ループ などのドナーによって貧困削. マを再度取り上げ,開発はそれぞれの国が自ら. 減戦略 ペーパー(Poverty Reduction Strategy. オーナーシップを持ち「参加する」枠組によっ. Paper:PRSP)という形で使われている援助. て,より包括的なアプローチで実施されるべき. 手法である.本項で PRSP ではなく CDF を用. であると述べた.これが,現在 CDF としてま.

(12) 30. (540). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). とめられた考え方である.. ビスの提供を保証する必要がある.これらの問. CDF は 貧困緩和 と 開発 の 有効性 の た め に,. 題は教育,宗教,そして利用可能な医療サービ. 実践に向けた枠組みを提案している.CDF は. スに関連しており,政府が適切な対応をするこ. 開発効果達成のための手段であり,基本的には. とが求められる.. プロセスである.CDF の枠組みは,①構造面,. 物理的側面では,①水と下水設備,②エネル. ②人的側面,③物理的側面,④特定の戦略の 4. ギー,③道路,輸送機関,通信,④持続可能な. 点に分けられている.まず構造面では,グッド. 開発,環境,文化の問題といった,インフラの. ガバナンスにおいて必要なことが挙げられてい. 問題が挙げられている.上記の 4 点が整備され. る.そ れ は 良 い 政府,有効 な 法律及 び 司法制. ない状況では,健康への影響や知識の差によっ. 度,組織が確立され監督が行き届いた金融シス. て貧富の格差が拡大し,成長の抑制につながる. テム,そして社会セーフティ・ネットと社会プ. ことになる.. ログラムである.良い政府,クリーンな政府と. そして,特に注目すべき 3 つの戦略グループ. いうのは,国家が教育を受け,しっかり組織さ. として,農村,都市部,民間セクターがある.. れた政府が必要であることを示している.これ. まず,貧困層の多くが農村部に集中しているた. には,能力構築,開かれた立法制度,透明な規. め,農村部に対して統合された農村開発に取り. 制システム,適切な訓練を受け,適切な報酬を. 組む必要がある.次に,経済成長は都市部に集. 得ている政府職員,汚職排除への固い決意が必. 中し人口の集中が特殊な問題を引き起こすた. 要である.汚職は開発を損なう最大の要因であ. め,国家戦略とは別の都市戦略を打ち立てる必. るため,全レベルで体系的に戦っていくことが. 要がある.そして,民間セクターは経済成長の. 求められる.そのためには有効な法律や司法制. 原動力であるため,活力ある民間セクターの創. 度,確立された組織や,監督の行き届いた金融. 出のために,貿易政策や企業統治といった構造. システムが必要となる.また,社会的弱者に対. 政策をとる必要がある.. するセーフティ・ネットと社会プログラムも必. 以上のような事項を実践する前提として,対. 要である.社会プログラムは予算によって内容. 象国の戦略枠組みの中にある必要条件(前提条. が左右されるが,途上国の国家予算の中では他. 件)に対処していくことが必要である.それは. の分野に予算が回ってしまうため,途上国政府. ほとんどのプロジェクトの成功が前提条件に左. と協力体制を組んでいるドナーや国際機関のプ. 右されているからである.また,戦略枠組み策. ログラムを優先事項にしていく必要がある.. 定の段階から,途上国のオーナーシップが不可. 次の人的側面では, 教育と保健が重要となる.. 欠である.そしてプロジェクトや改革のペース,. この 2 つは,社会における個人の能力強化の根. 支援順序についてより戦略的に考えるために,. 本となる.教育では,男女平等に与えられる初. 支援の枠組みを包括的,全体的に構築すること. 等教育や,開かれた競争力のある中高等教育が. が重要である(世界銀行 2000).. 始まる必要がある.先住民やその共同体の慣習 や歴史を慎重に学ぶことも重要であり,成人教. 3―2 CDF と CD の関係性. 育や女子教育などの特別なニーズが見出せる.. このような CDF アプローチに基づき,途上. 保健に関しては,母親に支援が与えられ,就学. 国が自ら策定する貧困削減のための具体的な. 前,就学中の子供たちに適切な医療が提供され. 行動計画として用いられたのが PRSP である.. ることが極めて重要である.また政府は,共同. PRSP は,参加型 プ ロ セ ス を 通 じ て 途上国自. 体や地域レベルで成人や高齢者に対する医療. 身 が 作成 す る,貧困削減 を 具体的 に 実現 さ せ. サービスの提供や,家族医療・家族計画のサー. る た め の 包括的・長期的 な 戦略・政策 で あ る.

(13) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (World Bank) .PRSP は 導入後 わ ず か 2 年 で. (541). 31. れるようになった.その顕著な例として,「女. 絶大な影響を及ぼし,世界的な潮流となった.. 性のエンパワーメント」が挙げられる.「ジェ. PRSP には評価すべき点が多くあり,実績も残. ンダーと開発」の領域の中でエンパワーメン. しているが批判も多い.それは世銀が示してい. トという用語が普及したのは,1985 年にナイ. る援助効果の根拠はそう主張するだけの根拠に. ロビで開催された第 3 回世界女性会議以降であ. 乏しいことや,良い政府の判定基準はコンディ. る.しかし,女性の国際的ネットワーク「新時. ショナリティの導入とみなされるからである.. 代の女性開発オルタナティブ」(Development. し か し,CDF は 途上国 が オーナーシップ を. Alternative with Women for a New Era:. 持って参加する枠組みであり,開発効果達成の. DAWN)が 1980 年代初期に女性が個人ではな. ための手段であり,プロセスであると位置づけ. く共同で行動することが真の「力をつける」こ. られている.また,CDF の構造面は政府など. とであるという意味でこの用語を用いた最初で. の組織や,法や制度といった社会への取り組み. あると言われている(目黒 1995:35).また,. が明記されていることから,CD の定義と類似. ジェンダーと開発の領域で普及していること. している.そして人的側面での支援は,個人に. は,UNDP が毎年発行する人間開発報告書に,. 対する能力向上などを必要としていることが分. 1995 年以降ジェンダー・エンパワーメント指. かり,CD の特徴である,個人,組織,社会と. 16) 数( Gender Empowerment Measure) が出. いう包括的な 3 層の取り組みと同様であること. されていることからも顕著である.さらに,経. が分かる.. 済開発協力機構(OECD)の 開発援助委員会. 4.エンパワーメントと CD. (DAC)は 1998 年に,「開発協力におけるジェ ンダーの平等と女性のエンパワーメントのため. 本項では,エンパワーメントと CD の比較を. のガイドライン」を発表している(藤掛 2003:. 行う.エンパワーメントという概念は,CD と. 33).1990 年代に入って,開発協力の様々な分. 同様に明確な定義付けがなされていないため,. 野において,エンパワーメントという概念が用. 分野によって異なった定義が用いられている.. いられるようになったが,未だ明確な定義が国 際的にも定められておらず,多様な意味が付与. ⑴ エンパワーメントとは. されて使用されている(蜂須賀 2005:26─27).. エンパワーメント(empowerment)という. 一方で,多様な意味があるものの,エンパワー. 言葉は,概念の定義が論者によって異なり明確. メントに対する共通理解もある.それはエンパ. ではない.語源は, 「権利や権限を付与するこ. ワーメントの構成要素として,①当事者の気付. と」という法律用語として使われ始めたと言わ. きや主体的意欲(心理的変化)がエンパワーメ. れている.社会的に広く使われ始めたのは米国. ントの達成に大きく寄与すること,②ドナーな. の公民権運動や,カウンセリング,フェミニズ. どの外部者の機会付与(訓練,教育など)によっ. ム運動などの社会変革活動が契機とされている. て,当事者が自らの能力を開花すること,そし. (久木田,渡辺 1995:5) .なかでも, バーバラ・. て③当事者の開花した能力を発揮できるような. ソロモン(1976)が著した「黒人のエンパワー. 社会環境を整えること,の 3 点が挙げられる(佐. メント─抑圧されている地域社会におけるソー. 藤編 2005:8─9).エ ン パ ワーメ ン ト の 対象者. シャルワーク」以来,エンパワーメントの概念. は何らかの形で社会から否定的な評価を受け,. が普及した(久保田 2005:28) .. 本来人間が持っている能力や感性などの力が発. 1980 年代になると,エンパワーメントとい. 揮できない「力が欠如した状態」にある.エン. う用語は開発協力の文脈の中で頻繁に用いら. パワーメントはその対象者に対して「力をつけ.

(14) 32. (542). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). る」過程を意味する.最近は黒人だけでなく,. 位置付けられており,世帯が社会的パワー,政. 女性,障害者,高齢者,子どもなどの社会的弱. 治的パワー,心理的パワーの 3 つのパワーを行. 者などにも「力の欠如状態」が見られ,エンパ. 使するとされる.社会的パワーとは後述する 8. ワーメントの対象になっている.エンパワーメ. つの資源へアクセスするパワーであり,社会的. ントには 2 つの意味がある.第 1 に,何かの目. パワーの獲得は世帯の資源へのアクセス増加を. 的達成のためにエンパワーメントを手段として. 意味する.政治的パワーとは,世帯の個々の成. 用いることである.そして第 2 に,プロジェク. 員が自らの将来に影響を及ぼすような様々な決. トの目的が対象者のエンパワーメントであるこ. 定過程に加わるパワーであり,選挙において投. とである.どちらの意味でエンパワーメントを. 票するパワーだけでなく,意見の表明や集団行. 使っているかを明確にすることが必要である.. 動によるパワーも意味する.そして,心理的パ ワーとは個人が潜在力を感じるパワーであり,. ⑵ フリードマンの(ディス)エンパワーメン トモデル. 心理的パワーを増すと世帯の社会的パワーや政 治的パワーの強化に相乗的なプラス効果が生. エンパワーメントの明確な定義がいまだ存在. じるとされる(フリードマン 199572─74,近田. していない中で,唯一学際的にモデル化したの. 2005:55). が,ジョン・フリードマン(John Friedmann). 2―2 フ リードマンの(ディス)エンパワーメ. である.本項では,フリードマンが考えるエン. ントモデル. パワーメントとは何かを概説し,その後フリー. フリードマンは,(ディス)エンパワーメン. ドマンの(ディス)エンパワーメントモデルを. トモデル(図 3)をいかに貧困が克服され,真. 述べる.. の開発が推進されるかを把握することが出来る. 2―1 フリードマンが考えるエンパワーメント. エンパワーメントのモデルとして提示してい. フ リード マ ン は 主 に ラ テ ン ア メ リ カ で の. る.このモデルは前提として,貧しい世帯はそ. フィールド調査と事例研究をもとに,開発援助. の構成員の生活条件を改善するための社会的な. の文脈におけるエンパワーメントについて論じ. 力を欠いている存在であると仮定しており,社. ており,エンパワーメントを 3 つの形態に分類. 会的な力の場の中心に世帯経済を置いている.. している.それは,社会的エンパワーメント,. 社会的なパワーとは市民社会に関連する力で. 政治的エンパワーメント,そして心理的エンパ. あり,国家権力や経済的な力,政治的な力とい. ワーメントである.エンパワーメントの対象と. う対照的な形態の権力によって制限される.社. なるのは,力を剥奪され(反エンパワーメント. 会的なパワーには 8 つの基盤があるとしてお. 状態) ,ほとんど,あるいはまったく力を行使. り,それらは暮らしの糧の生産において世帯経. できない人々である.経済実態の核をなす単位. 済をさせる主要な手段であるとしている.その. として「世帯」に焦点を当てている.生計を立. 8 つのパワーを以下のように説明している.. てるための生産の場である世帯が,社会的な力. 第 1 に,防御可能な生活空間である.安全で. の基盤を相互的,螺旋状的に築いていく中で,. 恒久的な生活空間は人々が最も高い価値を置く. 社会的な力を獲得し,その過程を通してさらに. 社会的パワーである.世帯はこれを得るために. 「政治的な力」が生まれてくる.これらの螺旋. どんな犠牲も払う覚悟が出来ている.. 状を進むプロセスのあらゆる局面において「心. 第 2 に生存に費やす時間以外の余剰時間であ. 理的エンパワーメント」 は生じるとしている (フ. る.2 番目に高い価値を持つ社会的パワーで,. リードマン:4─6) .. 日々の生存のために必要な時間以外の時間であ. このアプローチでは, 「世帯」が主体として. る.余剰時間なしでは,その世帯の持つ選択肢.

(15) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (543). 33. 出典:フリードマン 1995:115 より引用. 図 3:フリードマンの(ディス)エンパワーメントモデル. (社会的パワーの資源へのアクセス不足としての貧困). は著しく制限される.. 帯の生産のための手段である.例えば,健康で. 第 3 に,知識と技能である.長期的視点から,. あること,安全な水へのアクセスが確保されて. その世帯が経済的に発展していくために必要な. いることなどを指す.. パワーであり,世帯の少なくとも何名かは教育. 第 8 に,資金である.フォーマル,インフォー. を受けることが必要である.. マルな金融へのアクセスと同様に,世帯の純貨. 第 4 に, 適正な情報である. 世帯の生存にとっ. 幣所得も含まれる.. て有用か否かを判断するための情報が必要とし. そしてフリードマンは,世帯がこれら 8 つの. ている.. 社会的パワーの資源を相互的,螺旋状的に築い. 第 5 に,社会組織 で あ る.世帯 メ ン バーが. ていくのがエンパワーメントのプロセスである. 所属するフォーマル,またはインフォーマル. と考えている.また最も貧しい人々(例えば,. な組織のことで,意味ある情報や相互支援の. 飢餓の犠牲者や土地なしの農村労働者,大都市. こ と で,集団的行動等 の 手段 と も な り,世帯. の無断居住地帯で女性が長の世帯構成員など). と社会をつなぐものである.. は自助努力出来る手段を欠いている可能性が高. 第 6 に,社会ネットワークである.家族,友. く,自然発生的 な コ ミュニ ティ活動 と いった,. 人や隣人との間の水平的ネットワーク,または. 集団的な自己エンパワーメントの発生は稀であ. 社会的ヒエラルキーの垂直ネットワークのこと. るため,外部エージェントの関与は非常に重要. を指す.社会ネットワークは加入する社会組織. であると述べている.しかし,モデル上では,. 数が増えるにつれて増加する.. 外部エージェントの存在は示されていない(フ. 第 7 に,労働と生計を立てるための手段で世. リードマン 1995:118─121,近田 2005:56─58) ..

(16) 34. (544). 横浜国際社会科学研究 第 14 巻第 5 号(2010 年 1 月). 2―3 エンパワーメントと CD の相違点. 人的側面,物理的側面,特定の戦略といった 4. CD とエンパワーメントは非常に類似した概. つの枠組みから成る開発効果達成の手段及びプ. 念であるが,大きな相違点がある.第 1 に,対. ロセスであるため,CD の定義や特徴と類似し. 象が異なることである.エンパワーメントの. ている.エンパワーメントも,個人の気付き,. 対象者は,その国や地域,組織の中における対. 能力開花,社会環境の整備という,個人に焦点. 「人間」で,特に社会的弱者を対象としている.. を当てているが社会の変革も求めていく点が. それはエンパワーメントを手段として用いよう. CD の方向性ときわめて近い.このような既に. が,目標として用いようが変わらない.それに. あるアプローチを組み合わせたような概念が,. 対して CD は,人間個人を対象とするのではな. 今なぜ大きく取り上げられ,トレンドとなって. く,個人,組織,社会を包括的に捉えて支援の. いるのか.それは恐らく何らかの政治的意図が. 対象としている.もちろんこれらすべての対象. あるのではないだろうか.. が発展するというのは,個人が集まった組織が. CD 概念の取り組みが特に技術協力に焦点を. 発展したからこその結果であるが,個人や組織. 当てている点に鑑みると,それは自然と ODA. が発展しても,それが政策や法制度として結果. に対して変化を求めていると考えることが出来. を出さなければ真の CD 達成とは位置づけられ. る.我が国の ODA は人道的な観点から途上国. ない点が異なる点である.つまり,エンパワー. に対して支援をしているが,それは当然に外交. メントは CD 達成の一手段であり,非常に重要. 政策の一つとして国益(我が国の安全と繁栄の. な役割を果たすと考えられる.個人や組織にお. 確保に資すること)を目的とした支援であると,. いて,ターゲット層がエンパワーされなければ. ODA 白書に記されている.しかし,CD をこ. キャパシティの向上は困難であると予想出来る. れから ODA に取り込んでいくためには,これ. ため,エンパワーメントは CD 達成に必要な一. までの ODA 概念を変化させる必要がある.し. 手段ではあるが,必要不可欠な過程である.. かしこれまでの日本の取り組みは,一定の成果. CD は個人,組織そして社会が自らのキャパ. を挙げていると考えられる.それは他の先進. シティを向上していくプロセスであるため,ド. 国とは異なり,日本自身も途上国としてアメリ. ナーが援助を行っている間や,援助が終了した. カから援助を受けていた過去があるからであ. 直後に政策や法制度の構築がなされても CD 達. る.途上国が持続可能性を持ってその国なりの. 成とは言えない.その後の時代の流れに応じ. 発展をしていくためには何が必要かを,他のド. て,政策や法制度の変更すべき点などを自ら見. ナーより理解できているのである.そのため,. 出し,対象社会の発展につながるように自助努. ODA 理念 に は 自助努力 や 要請主義 と いった,. 力をしていくことで,CD の目標である持続可. 途上国自身が必要としていることを認識した上. 能な開発が達成されたとされるであろう.. で技術や資金を提供するという援助を行ってき. 5. 結論:我が国の ODA 理念の中での CD. ている.そのため,CD で重要とされているオー ナーシップはすでに日本の援助の中には存在し. CD という概念は近年大きく取り入れられた. ている.途上国側がインセンティブを持つよう. ものであるが,その内容はこれまでに開発協力. な支援をすることや,知識をつけることも,こ. の中で用いられてきた概念や手法などの中に既. れまで敢えて文章として示してこなかったが,. に含まれていた概念であることがわかる.ケイ. これまでの援助の中で当然に行われてきたこと. パビリティ・アプローチでは,個人,組織,社. なのではないだろうか.もちろん,途上国の主. 会といった複数の層への視点で支援を行うべき. 体を包括的に捉えることや,ドナーがファシリ. ことが記されている.また CDF も,構造面,. テーターとしての役割を担うことなどは,日本.

(17) 効果的な援助に向けたキャパシティ・ディベロップメントの検討(長谷川). (545). 35. の援助にとっても新しい概念である.しかし,. は ODA 実施機関の一つであるが,JICA の上. 他のドナー国や国際機関が CD という概念を大. にはいくつかの省庁がまたがっている.省庁間. きく取り上げるように,日本が CD を援助方法. の横のつながりが,JICA 内の横のつながりに. の中に取り上げる必要はなかったのではないだ. 影響を及ぼし,プログラム援助実施可能性を左. ろうか.. 右する.しかし省庁間の連携は簡単にはとれな. CD は 包括的 に 内発的 な 途上国 の キャパ シ. いと考えられるため,国際開発省の設立が最も. ティを向上させるプロセスであることから,既. 効率的な方法であると考えられる.省庁間の争. 存の援助よりも長期的なタイムスパンで取り組. いに左右されず,独自の予算で責任を持って援. んでいかなければならない.そこで問題となる. 助を行うことが可能となる.また横のつながり. のが,評価の時期と手法である.実際の CD 評. としてもう一つ重要であるのが,研究者とのつ. 価可能時期 は,援助開始 か ら 10 年以上経った. ながりである.援助の現場とアカデミックの世. 時期である.現在の 3~5 年というスパンの支. 界は異なるという意見もあるが,客観的なアカ. 援方法ではドナーの支援が終了してからである. デミックの意見も援助の方法を構築していくた. ため,目的達成を誰がどのように評価するのか. めには必要である.. が明白でない.また,ドナーからの援助が終了. 上記の 2 つに加えて,NGO との連携の強化. する際には終了時評価が行われるため,終了時. や,本当に援助を必要としている人に援助が届. 評価の段階でどの段階まで目標を達成できてい. いていない現実を知ることも必要であると考え. れば,CD 達成への兆しが明るくなるかという. る.日本は他のドナーと比較して NGO とのつ. 指標も明白でない.このような状況では,外交. ながりが希薄である.より現場に近い NGO と. 政策の一環である ODA で,CD 概念を導入し. の連携は,見落とされがちな脆弱な人々への支. て援助することは国益が見込めないため難しく. 援を可能にする.効率性を求める方法は効果の. なるのではないだろうか.. 出にくい人々を排除しがちである.不可視化. しかし CD を日本にも敢えて取り入れる必要. されている人々をいかに CD の中に入れていく. があると考えるのであれば,今後日本は次の 2. か,今後援助の中で CD を導入していく際に考. 点を実施していかなければならないだろう.第. えるべき重要な点になるだろう.不可視化され. 1 に,支援方法の改訂である.CD の達成を見. ている人々を主体として CD を導入した援助を. 込むためには 10 年以上は確実に必要であるた. 行っていくことは,非効率的に見えて,援助効. め,プロジェクト援助からプログラム援助への. 果を向上させる最も効率的な方法になり得るだ. 移行が必要となる.そのためには独自の評価手. ろう.. 法が必要となり,またモニタリングの強化も求. . められる.CD は先にも述べたように,欧米ド ナーのアフリカに対する援助の失敗から,その 反省として新たに出された概念である.一方我 が国は,アジア地域を中心とした援助を行って きており,援助によるアジア地域の発展は目覚 ましい.JICA では欧米ドナーとの足並みを合 わせて,プログラム方式の援助を行う方向にあ るようだが,日本は日本独自の援助手法を構築 することで,より効率性が増すだろう. 第 2 に,横のつながりの強化である.JICA. 注 1)日本の ODA 拠出額は年々減少している.平 成 19 年度 の 拠出額 は 12.109.99 億円,平成 20 年度は 11.111.46 円である.今年度(平成 21 年 度)の 予算(目標)13.897.00 億円 と 金額 は 増 額しているが,最終的な拠出額としてこのまま の金額を保持できるのかは不明である. 2)援助効果向上と開発成果の実現 3)グラント・エレメント(Grant Element)とは, 援助が途上国にとってどの程度有利かを一般の 銀行からの借入と比較して表した指標である..

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