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インドにおける公益訴訟,その発展と展開 : 環境権の確立とその救済手続の発達を中心に

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(1)インドにおける公益訴訟,その発展と展開 一環境権の確立とその救済手続の発達を中心に伊. 藤. 美穂子. 政策により工業化が進んだが,経済発展が優 はじめに. インド憲法は世界でもっとも長い憲法典であ. 先され,環境保護はなおざりにされていた. NGOを中心に環境保護が叫ばれたが,インド. るが,その核心部分は第3編「基本的人権」に. の環境立法が,ほとんどの場合,意思決定過程. あるといわれている.インド憲法の人権規定の 中でも特徴的なものは,憲法32条令状請求権. への参加から国民を排除した官僚的な構造でな されてきたことや,行政の窓意性と怠慢さのゆ. 規定であり,この規定は,基本的人権の救済手. え,いきおい国民の期待は裁判所に向かったの. 段を保障するものである1).. である4).. インド公益訴訟は1970年代半ば,社会改革 と弱者救済を旗印に掲げて憲法32条を根拠に 憲法訴訟として創設された.インド特有の制 度や貧富の差から生じた隷属的労働者,囚人と. 現在,インド環境訴訟の大部分は公益訴訟 によると言われている5).従来,環境訴訟は不 法行為法,集団訴訟で争われてきf=6).また,. いった社会的経済的弱者の権利救済に資する中. 1970年代から存在していた環境立法も紛争解 決の方法についての規定を持っていたにもか. で,. 1980年代前半には制度としての確立をみ. かわらず,環境問題は司法の保護をさほど受け. た2),その後,インド社会の現代化と経済成長. てこなかったといわれている7).これら従来の 手段に対して,公益訴訟は,通常の訴訟と異な. に伴い,公益訴訟をとおして環境問題,政治汚 職,消費者間題といった一般的な社会問題も, 最高裁判所(以下,. 「最高裁」とする)に大量. り,第三者も原告となって社会の利益のために 申立をし得ることや,必ずしも当事者は対審構. に持ち込まれるようになったが,わけても,環 境判例の展開は,量的にも質的にも際立ってい. 造をとらないことや,継続的な指令および命令. る3).. どの特徴をもつ.その上,その手続の簡便さと. を含む判決が将来にわたる方向性を示すことな. そこで本稿では,公益訴訟の展開を検討す. 訴訟進行の速さもあり,社会問題に対する意識. るにあたって環境判例に焦点を当てることにし た.実際に,環境破壊の被害を最も直接的に被っ. の高いNGOや公共的精神に基づいて行動する 個人が,環境汚染の原因者に重大な圧力を生じ. てきたのは,森林に住む部族民や,第一次産業. させて汚染排除の方法を採らせることが出来た. に従事する低カーストの貧しい人々であること. といっても過言ではないだろう.. からも,インドにおける環境問題は一般的であ. 1987年の判例サーベイは,インド国内で環. ると同時に,インド独特の問題性を帯びている. 境保護運動の気運が高まる中,公益訴訟がその. ともいえよう.. 手段として用いられるようになったこと,最高. インドでは,. 1970年代以降の経済の自由化. 裁自らもそのような社会の要請に応えようとし.

(2) 62. (410). 横浜国際社会科学研究. たことを指摘している8).インド環境法を知る. 第11巻第3号(2006年9月). 規定の性格の変化である.. 上で,公益訴訟の貢献からも,公益訴訟を論じ. インド憲法21条は, 護」と題して,. ることは不可欠であろう. 本稿では,まずインド憲法における環境権規. 「生命と人身の自由の保. 「何人も,法律の定める手続に. よらないでは,生命,または人身の自由を奪わ. 定を検討し,次に1980年代のリーディング・. れてはならない」と規定している.公益訴訟の. ケースである1986年のシリラム・ガス流出専. 草創期,最高裁は,人権擁護に前向きな姿勢を. 政事件を中心に,公益訴訟における主要な環境. 明らかにし,新しい憲法理論を編み出した.そ. 判例を紹介する.本稿のねらいは,環境権理論. Gandhi の契機となったのが, 1978年のManeka unionof)ndia (以下, 「マネカ事件」とする). の発展および権利救済手続の発達を検討し,そ れらがインド環境法の発展にどのように貢献し. v.. たかを論証することによって,インド公益訴訟. である9).本件で原告は,旅券法の当該規定が 憲法14条の平等権, 19条の自由権,そして21. の発展と展開を検討することである.. 条に違反すること,および被告から理由を告げ られることなく下された指令が当該規定の稔越. 1.インド憲法と環境権. であることを訴えた10).これに対して,最高. (1)環境権規定と基本的権利(憲法21条). 裁は,海外渡航の自由は21条の「人身の自由」. インド憲法は,裁判規範性のない国家政策の 指導原則にて,環境保護を政策の努力目標にす. に含まれ,そして何人も法律によって定められ た手続によらなければこの権利を奪われないと. ることを規定している.. 48A条は,. 「環境の保. 述べた.また,本件被告であるインド政府の指. 護と改善,森林と野生動物の保護政策」として,. 令が公平性を欠いており,手続的に適切でない. 「国家は,環境を保護し改善し,そして国土の. ことを理由に,当該指令を取り消し,旅券を原. 森林と野生動物に対する保護政策に向かって努. 告に返すよう命じたのである.. 力しなければならない」と規定している.また,. マネカ事件の意義は21条の解釈に関して先 例がとっていた限定的な解釈を覆し,人身の自. 51A条は,国民の基本的義務を定めているが, その(蛋)項で, 「森林,潤,川そして野生動物を. 由を制約する行政による手続は,公正かつ合理. 含む自然環境を保護し改善すること,および生. 的かつ公平(just,. き物に同情を寄せることは,すべてのインド国. ればならないとしたことにある.この新しい解. 民の義務である」と規定している.. 釈は,環境判例の中でも,人権救済の理論とし. 51A条は,. 原則的には国民に科された義務であるが,これ も裁判規範性をもたない.. reasonable,. and. fair)でなけ. て成長していった.すなわち,最高裁は,マネ カ事件の解釈からさらに進んで, 「生命」の部. このように,元来,インド憲法は環境権を基 本的権利として規定していなかった.では,な. 分に環境権を読み込むことにより,環境権に基. ぜ,基本的権利を救済する規定である32条の 令状請求訴訟が,環境権をめぐる問題に用いら. 48A条と51A条を引用しながら指令および命 令を下す手法を用いて,救済を与えることと. れ得たのであろうか.ここに,公益訴訟が基本. なったのである.その論理を,公益訴訟の環境. 的権利として環境権保障を推し進めた理由があ. 分野における定着の過程とともに,以下に紹介. り,それゆえに,公益訴訟が環境権の確立に貢. する判例をとおして検討する.. 本的権利の性格を与えたのである.あわせて,. 献し,その後のインド法における環境法分野の 発展を導くことになったのである.そして,こ の発展の鍵となったのが, 21条の解釈と,国 家政策の指導原則規定および国民の基本的義務. (2)シリラム・ガス涜出事故事件までの公益訴 訟における環境判例の経過 環境判例は,公益訴訟が設立されてまもな.

(3) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤). (411). 63. く最高裁に持ち込まれた1980年のMunicIPal. 判のプロセスの発展には,新しい「実施」とい. council,. う側面があると述べ,公益訴訟において新しく. Ratlam. v.. Vardhichandからはじまる1]). この事件は令状請求訴訟によらなかったため基. 「実施」という概念を明らかにして,原告自治. 本的権利としての環境権を論じたものではない. 体に都市衛生の管理を命じている12).これが公. が,公益訴訟における環境判例の展開の礎と. 益訴訟手続の特徴の一つとなる継続的な命令へ. なった重要判例である.本件原告はラトラム. と発展する.裁判所は,命令実施のための行動. 自治体であり,被告は同自治体の管区の住民で. 計画を示し,命令の遵守状況を見守りながら,. あった.本件は,刑事訴訟に類する特別許可申. 行政の怠慢によって侵害された国民の権利救済. 立である.本件被告は近隣のスラム街から流出. を図ることが可能になったともいえるのであ. する排水および排壮物から生じる悪臭に悩まさ. る.. れていた.当該住民らは,本件に先立って,. 「裁 判所は生活妨害の除去を自治体に要求すること. また,本件では,被告住民の受けた損害が明 確でなかったにもかかわらず,最高裁は本件被. ができる」と定める刑事訴訟法の規定をもとに, 自治体に汚物を流すための配水管を設置すべき. 告が公益を問題にした訴訟を提起したことに前. 義務の履行を求めて,下位裁判所裁判官に訴え. 境判例の発展に貢献した点であるといえる.. た.訴えを受けた下位裁判所裁判官は,. 向きな評価を示した13).このことも,今後の環. 6ケ月. 1983年から始まった一連のRuralLitigation. 以内に悪臭という生活妨害を取り除くための行. and. 動計画の作成を自治体に命じたが,この判決を. pradeshandothers. 不服とした自治体は,セッションズ裁判所に上. 件」とする)は,インド環境法上初めて,生態. 訴した.セッションズ裁判所は,下位裁判所が. 系の保全と開発の利益が衝突する利害のバラン. 下した命令を留保した.そこで,今度は住民が 高裁に上訴したところ,高裁は下位裁判所の指. スを正面から論じたものである14),本件は,原 告が1983年に最高裁に書き送った-通の手耗. 令を支持した.さらに本件で,自治体が下位裁. を,最高裁が憲法32条の令状請求訴訟として. 判所の指令の違法性を問うて最高裁に上訴した. 扱ったところから始まった.被告は,ウッタル・. のである.. プラデシ州政府及び100以上の鉱山借地人らで. 本件では,多額の費用と長い時間を要する下 水施設の建設を共同体に対する義務として実施. Entitlement. Kendra,. Dehradun. v.. State. Uttar. of (以下, 「デラドゥン渓谷事. ある.原告によると,ヒマラヤ近くに位置する. することを,財政難を主張する自治体に強制す. デラドゥン渓谷は,自然の美しい名所であるが, 無秩序な石灰石採掘活動のせいで森林伐採が進. ることが出来るかどうかが争点となった.最高. み,水質汚染が発生し,村落-の飲料水の供給. 裁は,財源不足を理由に行政は責任を免れるこ. が妨げられ,港概も低下し,地域全体の生態系. とはできないとして,下位裁判所の指令を維持. が乱されることとなったという.訴えを受けた. した.もし法律の定めを無視し,裁判所の命令. 最高裁は,被告である州政府とデラドゥン地域. を遵守しないならば,自治体と議員は法律の定 める罰則を受けなければならないとも述べた.. の収税官に通知を出し,新たな採掘活動の停止 措置を命じ,下位裁判所裁判官とデラドゥン地. 最高裁は,原告の厳しい財政状況を考慮して3. 域の警察署長に対して,その命令を厳格に実施. 通りの計画を提示し,そのうちの一つを実施す. するよう命じた.そして聴聞を経た後,委員会. るように命じたのである.. を招集し,その委員会に鉱山法で定められた基. この判決の意義は,アイヤール判事が「実施 (enforcement)」という概念を明らかにしたと. 準に基づいてその地域の鉱山を調査させた.. ころにある.すなわち,アイヤール判事は,戟. 開発と環境保全それぞれの利益を両立する必. 1985年12月の判決で最高裁は,衝突する.

(4) 64. (412). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第3号(2006年9月). のように発展させてきたかを, 1978年のマネカ 事件, 1980年のRadam判決,そして1983年か. 要性を強調したが15),中間的な指令(interim order)を下しつつ16),鉱山活動の停止と当該 採石場の閉鎖を命じるに至った.最高裁は,以. ら始まる一連のデラドゥン渓谷事件を見ながら 検討した,. 下のように述べて,鉱山閉鎖の根拠を「健康的 な環境の中で生活する国民の権利」に求めたが,. インド憲法は,国家政策の指導原則と国家お よび国民の義務規定で環境権保護規定を設けて. 憲法21条には言及していか、17) 「(閉鎖は労働者にとって)間違いなく 困難をもたらすであろうが,生態系バラ. いるが,もともと両規定に裁判規範性はなかっ た.しかし,公益訴訟では, 「人身の自由」を. ンスに対する侵害を最低限にとどめて, 健康的な環境の中で生活する国民の権. 規定する憲法21条の「生命権」に環境権を読. 利,および国民とその家畜,秦,塵地へ. 訴訟として訴えを受理し,救済を与えることを. の危険を避けて,空気,水,環境に対す. 可能にしている.. み込んで基本的権利として,. 32条の令状請求. また,環境権の救済手続に関する発展は,. る過度の影響を受けずに生活する権利を 保護するためには支払われなければなら. 1980年のRatlam判決が示した「実施」概念に. ない代償である.しかし,借地人の苦難. 見られる.本件で環境保護のために裁判所が既. を和らげるために,州内のほかの地域に. 存の立法をもとに命令を下すというスタイル. 石灰石やドロマイト採掘用地を開設する. は,その後の環境判例でも踏襲されている.そ. 場合は,彼らに優先的に与えるよう--・. の後,この判決で示された「実施」概念は,裁 判所が継続的な指令および命令を下しながら,. インド連邦政府とウッタル・プラデシ州 政府に命令する. 」 そして,閉鎖に伴って職を失った従業員への. その実施状況を継続的に監督する手続として発 展し多用されることとなる.. 対して,緑化事業や土壌保全プログラムでの雇. 1983年から始まった一連のデラドゥン渓谷 事件では,環境権の輪郭が形成された.すなわ. 用を命じた.また,閉鎖を迫られた採石場経営. ち,環境権の内容に関しては,最高裁は,鉱山. 者に他の地域で採石活動を行うための優先権を. 閉鎖の根拠を「健康的な環境の中で生活する国. 与えるよう,政府に命じた.. 民の権利」に求めた.とはいえ,まだこの時は. 雇用の確保のため,インド中央政府と州政府に. 1986年の判決で最高裁は,. 「環境保全と生態. 憲法21条の生命権については論じられておら. 系のバランスを保つことは,政府だけでなく国. ず,次章で検討する1986年のシリラム・ガス. 民も担わなければならない義務である.それは. 流出事故事件を待たねばならなかった.しかし,. 社会的義務であり,我々は憲法51A条(蛋)が定. 本件で注目されるのは,国民の基本的義務規定. めるインド国民の基本的義務であることをすべ. である51A条を引用して,採掘活動の停止を 命じる指令が下されたことにある19).. てのインド国民に想起させる」と述べて,. 51A. 条(g)の定める自然環境の保護と改善が国民の義. また,救済手続に関しては,手紙による裁判. 務であることを強調した18).最高裁は個人の生. 権が認められた.公益訴訟は,環境判例である. 令,身体,財産権,人格権に属さない生態環境. 本件においても,手紙や雑誌記事に基づく報告. の保護に積極的な姿勢を示したのである.. をもって開始される場合が多いこともあって, 審理に必要な詳細な事実の確保が問題となって. (3)小括. くる.特に環境問題の場合,専門的な見地から. 本節では,公益訴訟が環境権確立にどのよう. の見解や情報収集が必要である.本件で最高裁. に貢献してきたか,また環境権の救済手続をど. は,憲法32条を根拠に法廷の友や専門家によっ.

(5) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤). (413). 65. て構成される委員会を活用して情報収集にあた. 請求訴訟を中心に扱うことにする.その理由は,. らせた.そして,改善状況に応じて随時,数種. 前者が本件の重要論点の1つである工場の再開. 類の委員会を任命し,命令の実施状況の監視に. 許可に関する議論を検討していること,そして. もあたらせたのであった.. 後者が新たな環境権理論,損害賠償理論,不法. 2.. v. UnI'on of/nd/'a 1986年M. C. Mehta (シリラム・ガス流出事故事件) others. 行為理論を提示したことにある. and. (1)事件の経過と争点 1985年12月,デリー市内に位置し,致死の. (2)判. 決. まず, 1986年2月17日判決を検討する.ま ず,工場の再開許可にあたっては,シリラム側. 化学物質やガスの製造に関わっていたシリラム. が数々の委員会の報告書による勧告を実践した. 食品・農薬工場で発煙硫酸ガスが漏れ出る事故. かどうかが争点となっていた.シリラム経営陣. が発生した.この事故の結果,死者を含めた被. は,それらすべての勧告を実践したこと,そし. 害者が出た.なお,この事故に先立って,危険. て労働者およびその地域住民への危険の可能性. 性を帯びた化学物質を扱う当該工場が人口密集 地域に存在することの危険性と従業員および近. は減少し殆ど無となったこと,ゆえに操業再開 許可が下されるべきであると主張した21).バグ. 隣住民の健康と安全に対する危険性を訴える訴. ワティ長官は,政府が任命した専門家の委員会. 訟が本件原告により提起されていた.. による報告書を丹念に検討した結果,シリラム. 本章で論じるのは,事故後まもなく,社会活. 経営陣は安全基準に対する委員会の勧告を実質. 動家であり弁護士でもある原告メータ(M.C.. 的に達成したとの結論に帰着した.そして,本. Mehta)が憲法32条に基づく令状請求訴訟と. 事故に対する行政の無関心を指摘しつつ,工場. して最高裁に提訴した一連のシリラム・ガス淀. 閉鎖がもたらすと思われる4000人の労働者の. 出事故事件である20).この事故は,多数の被害. 雇用喪失,科学技術の利用に内在する危険性,. 者が続出し,死亡者も出る大惨事であった.本. そして工場閉鎖による塩素不足がデリー市の水. 件は,原告が近隣住民および労働者の健康と生. 道供給に与える打撃を勘案した.その結果,蒔. 命への危険から工場再開に反対して,憲法32. 精しながらも11の条件付で一時的な再開を許. 条に基づいて最高裁に指令を求めた事例であ. 可した22).. る.本件被告は,インド政府,シリラム食品・ 農薬工場らである.また,この一連の訴訟の中. 最高裁は,たとえ,委員会による勧告をすべ て実行したとしても,塩素ガスの放出による危 険が完全になくなるわけではないことから,完. で,デリー法律扶助勧告委員会がシリラム食 品・農薬工場での亜硫酸ガスの流出事故で被害. 全な危険性の除去は人家のない地域に工場を移. を受けた人々に代わって損害賠償を求めた申請. 転することであろうとの考えを示しつつも,危. もあわせて処理された.. 険物質を扱う工場の移転のために国家の政策論. 本件で最高裁は,証拠収集のため,専門家を. を展開することは,政府に委ねた23).. 委員に任命し,工場を訪問させ,レポートを提. バグワティ長官は,インド政府に対してま. 出させた.そして,専門家による委員会に,プ. ず,環境汚染,生態系破壊といった問題が今後. ラントの挽業再開が許されるかどうかを明らか. ますます増加すること,それらの問題は科学的. にし,環境に対する脅威を少なくするための方. データの査定を要することから,最高裁自らが 専門家を探すことの困難さを訴えつつ,他にも. 策を提案することを求めた. 本章では,. 1986年2月17日付,および同年. 12月20日付のバグワティ長官が執筆した令状. 熟練した専門家から構成される生態学科学研究 グループの設置を,さらに,職業裁判官と前述.

(6) 66. (414). 横浜国際社会科学研究. 第11巻第3号(2006年9月). の研究グループから選出される専門家による環 境問題を専門的に扱う法廷の各地域単位での設. 求める主荘がもともとの令状請求訴訟になかっ. 置を要望した24).. るように訴えを改正しなかったことを理由に, 被告側は裁判所がこの間題を決定すべきではな. 被害者の救済に関しては,最高裁は,すぐに. たこと,および原告が損害賠償の申立を挿入す. 被害者に医療を施すべきであるとの立場から,. いことを主張した28).これに対して,最高裁は. デリー市に対して,被害者に医療を与えるため. 32条に基づいて被害者に救済を与える権限を有. の措置を講じるように命じた25). 次に同年12月20日判決では,事故被害者の. すことから,企業は事故の被害者全員に損害賠. 憲法21条が保障する「生命に対する基本的権. けたのである.しかし,最高裁は,. 利」を認めた上で,損害賠償の有無,. 21条の 民間企業に対する有効性と12条の「国家」と. て損害賠償が認められる場合を以下の場合に限 定した.すなわち,それは,基本的権利の侵害. いう文言の射程が主たる争点となったが,加え. が甚大で明白でなければならないこと,貧しさ. て,バグワティ判事は工場の危険に対する責任. や無能力といった被害者の社会的経済的立場が. に関する理論を新たに論じた.. 不利なゆえに,その侵害が不当にまたは過度に. 償を支払う義務があるとして,被告の異議を斥. 判決はまず,デリー法律扶助助言委員会とデ. 32条によっ. 過酷で抑圧的でなければならか、ことである29).. リー弁護士会が申し立てた,被害者-の損害賠 償の申請が,憲法21条の生命に対する基本的. この判決で最高裁は,化学危険物質の製造と 販売に従事する大企業の責任を決定する規範と. 権利の実施を求めるものであると述べた.憲法. 原則を明らかにすることと,そのような責任. 32条は通常の令状請求訴訟の手続にこだわる ことなく,最高裁-の1通の手紙によっても提. の場合に損害賠償を定める際依拠する規準を決 定することを求められた.そこでバグワティ長. 起できること,そして最高裁がそのような手紙. 官は,憲法32条に関して,. を受け入れることが出来ないならば,被害者の. 利の侵害を受けた個人の援助に無力ではないの. 21条の権利実施の申請を受理してはならない との理由は存在しか、と論じた26).. で,最高裁の訴訟上の救済は,適正な事例なら ば損害賠償を命じる権限を含む.ここで適正な. 判決は続いて,. 1982年のGupta判決や1984. 「最高裁は基本的権. 事例といったのは,基本的権利の侵害があるな. 年の隷属的労働者解放戟線事件といった過去の. らば,最高裁が必ずしも,. 公益訴訟の判例を引用しながら詳細な憲法32条. に損害賠償を命じるとは限らないことを明らか. 論を展開し,当事者適格要件の緩和傾向が先例. にしなければならないからだ.その場合,基本. によって確立されたことを確認した.手紙によ. 的権利の侵害は,甚大かつ歴然としたものでな. る裁判権に関しては,. くてはならない」と述べて,損害賠償を令状請. 1通の手紙によって裁判. 32条に基づく訴え. を提起できること,そして貧しく無知な人々に. 求訴訟の手続で認めるのは,例外的な場合であ. 正義-のアクセスを確保するため,どの裁判官 宛ての手紙も拒否すべきではないと述べた.バ. るとの限定的な姿勢を見せた30). 次に,民間企業であるシリラムに憲法21条. グワティ判事のこの見解に対して最高裁の中で. 「生命権」侵害の主張を申し立てるかどうかに. も批判があることを踏まえて,各裁判官に宛て. 関しては,基本的権利保障の義務が12条の「国. られた手紙は一旦,公益訴訟審査室(PIL. 家」に該当する場合に科せられることから,シ. Cell). リラムが12条の「国家」に該当するかどうかが. に集められ,スタッフがその訴えを調べた上で 長官に浸出されることにしていることを理由に,. 争点になった31).被告側は,シリラムは「国家」. 批判が懸念する問題の存在を否定した27).. には該当しないと反論した.ここでバグワティ. 次に損害賠償の件では,原告から損害賠償を. 長官は,先例を引用した長い検討の末,時間不.

(7) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤). (415). 足を理由に,憲法12条の意味する機関に含ま. 至った.工場再開にあたって最高裁は,近隣. れるかどうかを決定することを避け,シリラム. 住民および工場労働者への危険を最低限にと. が21条の基本的権利の規律に服するかについ. どめるために採るべき措置を11の命令という. て明らかにしなかっfL・32).. 形にし,. 不法行為法に関してインドでは,. 67. 1つでも遵守できない場合は許可を取. 1866年の. り消すという厳しい姿勢で臨み,先に検討し. Fletcher判決がとる 厳格責任の原則が先例として存在していた.本. たRatlam判決で示された「実施」概念に続き, 被告企業に対して厳しい姿勢を見せた.インド. 件で,バグワティ長官は,現代のインド社会が. 最高裁は,経済よりも環境権の擁護者であると. この原則が創設された当時のイギリス社会とは 異なっていること,法はその国の社会のニーズ. みてよいだろう.. を満たし,経済発展に並行するものでなければ. ティ長官は,政府に対して,環境訴訟専門家団. ならないと述べて,新たに「絶対責任の原則」. の設置や各地域単位での環境法延の設置を要望. を打ち立てた.その内容は,危険物を扱う産業. した.しかし,これらの提案は実行されていな. は,最も高い安全基準で操業しなければならな. いという指摘がある35).すなわち,このことは, 環境問題に関する専門性に欠ける裁判所が,辛. イギリスの先例Rylands. v.. いこと,その活動のせいで危険が生じた場合, 企業は被害を償う絶対的な義務があること,ま. また,命令とは別に,本件を執筆したバグワ. 件の度毎に結成される場当たり的な委員会の報. た,企業側はその事故に対していかなる言い訳. 告を寄せ集めた不完全なデータをもとに,持ち. も許されないこと,被害から派生する関連要因. 込まれる訴えを処理するしかないということを. に対しても厳しい責任が生じること,そして企 業が十分な注意を払っていたか否かにかかわら. 意味する36).これらの要望は,公益訴訟の問題. ず,事故の影響を受けうるすべての人々に償う. 次に,同年12月20日判決では,事故の被害. べき厳格かつ絶対の責任があるとするものであ. 者への損害賠償の申請は,憲法21条の生命に. る33). 対する基本的権利の実施を求めるものであると. なお,損害賠償額の算定については,企業の. 点を浮き彫りにしているといえよう.. 論じられた.このように,環境権が憲法上の基. 規模と能力に対応しなければならないとした.. 本的権利に含まれるとし,. このような損害賠償は抑止的な効果を持たなけ. の裁判管轄権の行使を正当化したことは,本件. ればならないことから,大規模で収益を上げて. の大きな意義であろう37). 憲法32条の裁判管轄権の対象は,憲法12条. いる企業ほど,企業の危険な事業の遂行の際に 起こる事故の結果生じた害に対する支払可能額. 32条による最高裁. が大きくなければならないと論じられた.最高. の「国家」に該当しなければならない.このこ とから本件では民間企業であるシリラムが,憲. 裁は,デリー法律扶助助言委員会に対して被害. 法12条の「国」に該当するかどうかが問題と. 者の申立を取り上げ,被害者に代わってシリラ. なった.しかし,最高裁は時間不足を理由に,. ムに対する損害賠償の申立のため適当な裁判所. 結論を明らかにせぬまま,. に提訴するよう命じた34).. 32条の裁判管轄権 を発動してしまった38).このことに対しては,. 批判がある39).. (3)検. 討. 1986年2月17日判決で,最高裁は,工場閉. 本件は,. 32条令状請求訴訟によって損害賠 償を請求しうるかどうかに関して, 「適正な事. 鎖によってもたらされる失業と工場操業によっ. 例」ならば32条が規定する最高裁の人権救済. てもたらされる周辺住民への危険などを慎重に 議論し,蒔措しつつも工場再開の決定を下すに. の権限に損害賠償を認めることも含むという解 釈を,初めて示した40).但し,最高裁は「適正.

(8) (416). 68. 横浜国際社会科学研究. 第11巻第3号(2006年9月). な事例」という32条の文言にこだわり,基本. 問題は生じなかった47).このことは,裁判官が. 的権利の侵害が甚大かつ深刻な場合に限るとし. 作った法が国会の法律より効率的な場合がある. た.しかし,危険物質を扱う産業の毒ガス流出. ことを示している.特に本件は,裁判所の立法 機能の成功例であるといってもよいだろう.. 事故の犠牲者に対する責任に関する損害賠償が 支払うための規範を決定する問題を検討されて いか、ことが指摘されている41). 手紙による裁判権は公益訴訟の手続の1つと してすでに定着していたが,慎重派裁判官から. 3.その後の傾向 (1) 1980年代後半の傾向. はその簡便さゆえに荘訴の懸念が示されてい. 1980年代後半以降,公益訴訟における環境 判例は増加し続けた.判例が蓄積される中で,. た.本件でバグワティ長官はこの批判に対し. 環境権の内容はさらなる深まりを見せる一方. て,手紙による裁判権の意義を改めて強調しな. で,公益訴訟独特の手続ゆえの問題が顕在化し. がら,最高裁が公益訴訟審査室を設置している. た.. ことから審査室の存在を強調して,その懸念を 否定した.しかし,公益訴訟審査室の問題点を. C Mehta v, Union 1987年のM. oflndiq and (以下, 「ガンジス川汚染(I)事件」とする) others. 指摘する見解も出ている42).また,バグワティ. は,社会活動家かつ弁護士であるメータがイン. 長官は,社会的経済的弱者にも正義-のアクセ. ド連邦政府,連邦政府環境汚染防止委員会委員. スを確保するためには手紙が裁判官個人に宛て. 長,ウッタル・プラデシ州政府環境汚染防止委. て出された場合も令状請求訴訟として受理すべ きだとの考えを,先例に引き続いて示した.こ. 員会委員長,ガンジス川地域の約80社に上る. のことに対しても,批判的な見解がある43).. 川への廃液の流出をやめさせるための職務執行. インド不法行為法における損害賠償の原則に ついて,イギリス法の先例を変更したのも本件. 皮なめし工場らを相手取って,工場にガンジス 令状に類する令状,指令及び命令の発給を求め た令状請求訴訟である48).. の特徴である44).本件が提示した「絶対責任」. 原告は,町々から出る下水や皮なめし工場. の考え方は,企業はその事業が危険性を帯びて. からの排水がガンジス川に垂れ流されているの. いる場合,その地域に住む誰に対しても,危 険がないことを確証することを絶対的な義務と. に,政府も人々もガンジス川の汚染防止のため. し,さらにそのような企業は最高の安全基準を 提供する義務を有し,無過失の主張を認めない. の浄化のために措置を講じるべきであると主張 した.これに対して,被告インド政府は,当該. という厳しいものである.この新しい原則は,. 地域の環境汚染の存在を認め,工場の排水設備. イギリス法の先例からインド不法行為法を解放. が不充分であることを認めた.また,被告であ. した意義があるといわれており45),その後の環. る43工場も,水質汚染が工場排水によるもの. 境法の発展にも貢献したといえよう.しかし,. であることを認めた49).. 他方で,賠償額の算定は裁判所の負荷を増すこ とになるのではないかとの指摘がある46). また,本件では一企業の事故により生じた被 害に対して,. 「絶対責任」というまったく新し. に十分な注意を払っていないことを指摘し,川. 判決の中で最高裁は,憲法48A,. 51A条,. 水質(保全・汚染コントロール)法,環境保護 法,ストックホルム人間環境宣言から,ガンジ ス川の清潔さを守るための措置がとられなけれ. い基準が表明された.もし同様の事柄が国会で 立法化されようとしたならば,合理性に欠け窓. ばならないとした50).. 意的であると憲法14条違反との批判を受けて. インド政府は皮なめし工場によって引き起こさ. いたであろうが,本件で裁判所にはそのような. れた重大な公害を防止するために,ほとんど何. 最高裁は,環境保護法の規定にも関わらず,.

(9) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤). もしてこなかったことを指摘した51).また,イ. (417). 69. 「州政府が5つ星ホテルの建設のため. ンド政府が1985年に発表した「ガンジス川保 全のための行動計画」に基づいて,工場廃液の. 土地を,動物園の費用で割り当てたので. 処理責任は工場にあるとした52). 「水質保全およ. うか.明らかに政府が-=・それらを考慮. び汚染防止法」は水質汚染を防止し,水質の安. に入れた上で良心的な決定に帰着したな. 全性を維持または回復させるために制定された. らば,悪意がないところに裁判所が介入. が,最高裁は,この立法が詳細な鹿足を有して. すべきではないかもしれない.他方で,. いるにも関わらず,州環境汚染防止委員会がガ. 関連する考慮がなされておらず不適切な. ンジス川への廃液排出の防止のために何ら効果 的な措置を講じてこなかったことを指摘した53).. 考慮が決定に影響を与えているならば,. 最高裁は,州政府-も指令の実行を命じるとと. 介入してもよいかもしれない.坐態系の. もに,設備を導入しない工場に,閉鎖命令を下. 問題が最高裁に持ち込まれるときはいつ. し,処理設備をすでに設置している工場には, 操業許可を下した.. でも,最高裁は憲法48A条と51A条を 考慮しなければならない. ・--国家政策. この判決に対しては,最高裁が,憲法21条. あるが,裁判所は介入してもよいのだろ. 裁判所は公共の偏見の可能性を防ぐため. に関する議論をせずに32条の令状請求訴訟と. の指導原則に効力を与えるために裁判 所が説明を求められるとき,裁判所は肩. して審理を進行したこと,また,工場や民間企. をすくめて優先権は政策問題にあり政策. 業が基本的権利侵害に対して責任を負うもので. 決定当局の問題であるといってはならな. あるかどうかという重大な問題を議論すること. い.裁判所は,少なくとも,適正な掛酌. を避けたことに批判がなされている54).また,. がなされているか,そしてお門違いの批. 最高裁が任命した委員会が収集した証拠に基づ. 評が取り除かれているかどうかも審理し. いて,対審尋問を経ずに一方的に閉鎖命令を下. なければならない.適正な事例ならば,. したことについても,批判がある55).. 裁判所は更に審理を進めてもよいかもし. 1987年のSachidanand Bengalandothers. Pandey. of West (以下, 「カルカッタ・タ-ジ v.. State. れないが,その程度は当該事例の状況次 第である.裁判所は,いずれにしても,. ホテル事件」とする)は,被告州政府が動物園. 必要な命令を下してよい.. の敷地をタ-ジ・グループホテルの建設に割 り当てた件に関して,原告が本件割当の取消を. 関連ある考慮すべき問題のほどよい衡量. 求めた特別許可申立である56).原告は,野生動. を認めるのがよいからである.」. 物愛好家と自称する2名のカルカッタ市民であ. -その間題が. に関わる場合,裁判所は関係省庁の決定 すなわち,被告の行為が悪意によらなければ. る.最高裁は,ホテルに割り当てられた土地は 動物園の主目的に使われておらず実質的な部分. 裁判所は介入できないとして公益訴訟における. ではないこと,州政府が動物園拡張の必要性を 認識していた上でホテル側-の土地割り当てを. 条および51A条に基づいて裁判所の環境保護. 決定したこと,および渡り鳥の問題についても. 響を与えたのである.また,最高裁は,単に社. 州政府は生態系の研究に対しても関心を払って. 会的義務を科すにとどまる基本的義務規定と裁. いたことを理由に,州政府の行為は誠実(bona 丘de)であるとして,訴えを斥けた.. 判規範性のない国家政策の指導原則から,国と. この事例で最高裁が以下のように述べた点に 意義がある57),. 判所に提起しうるとの見解を明らかにした.加. 司法審査の範囲が限定されたこと,および48A 義務の重要性を強調したことが,後の展開に影. 国民に生態系のバランスに関する訴えを上訴裁 えて,裁判所は政策問題に対しても無関心で.

(10) 横浜国際社会科学研究. (418). 70. (2) 1990年代の傾向. あってはならないと述べた.. 翌年1988年のM. andothers. C. 第11巻第3号(2006年9月). Mehta. v.. Union. lndia. of (以下, 「ガンジス川汚染(II)事件」と. する)で最高裁は,原告メータからガンジス川 がその沿岸に住む人々によって排出されるゴミ や排植物などで汚染されているという訴えを受. 1990年代に入ると公益訴訟は,インド環境 法を急展開させた.それを示すものとして,以 下の2つの判例を挙げることができよう. 1991年のSubhash. Kumar. v.. State. ofBihar. and. 所有者(riparian)ではないにもかかわらず,. othersは,原告が憲法32条に基づいて,ビハル州政府らを相手取って,州のある地域の炭鉱 担当官に対して企業によるスラリー排出をやめ. 「彼はガンジス川の水を利用する人々の生命を. させる命令を下すよう命じることを求めた令状. 守ることに関心のある人物である」との理由で. 請求訴訟である64).本件原告は影響力の強い企. 原告適格を認め,請願を公益訴訟として受理し. 業家である.また,本件被告には,州政府以外に,. た59).本件では,ガンジス川流域全体に裁判管. 原告のライバル企業(以下,. 轄権を有している自治体が,ガンジス川への下. る)と炭鉱担当官も含まれている.原告は,被. 水汚物の流入を見過ごしてもよいかどうかが争. 告5番のスラリー排出行為が水質汚染防止法の. われた.. 水質汚染を規制する規定に反すること,および. けた58).最高裁は,メータがガンジス川の河岸. 最高裁は,. 「ガンジス川汚染が引き起こし. 「被告5番」とす. 州政府,および州汚染規制委員会(以下,. 「委. た生活妨害は,公的ニューサンス(public. 員会」とする)が被告5番のこのような行為に. nuisance)である.そしてその妨害は,広範囲 に広がりその作用は無差別に及ぶ.ゆえに,辛. 対して何ら措置を講じてこなかったことを主張. 続をとって垂れ流しを阻止させることを特定の. 人々の健康が危険にさらされていること,およ. 人に期待するのは合理的でないだろう,」と述. びスラリーが原告の土地に堆積していることを. べて,ガンジス川汚染による妨害を,公的ニュー. 訴え,水の衛生状態の回復を求めたのである. これに対して,被告側は,原告の主張を否定. サンスであると認めた60).. 本件で注目すべき点は,最高裁が,インド国 民の基本的義務を定める憲法51 て,. した.そして,排水が河川に流れ込み,地域の. A条に基づい. 「インド全国のすべての教育棟閑で,週に. し,委員会が被告5番の排水行為にあたって, 川の水質汚染が発生しないと調査分析し,その 後監視を続けていたこと,被告5番は委員会の. 一時間は森林,潤,河川,野生動物を含む自然 環境の保護と改善に関係した授業を行うよう命. 命令にしたがって,洗鉱のための水槽や廃液貯. じることが,連邦政府の義務である」と述べて. 物質であり燃料として貴重であり市場価値も高. インド政府に環境保護教育の実施を命じたこと. いため,被告5番はスラリーが流出しないよう に措置をとっていたことを主張し反論した.. である61).そして,国民の間で環境美化に対す る意識を高めるために, 「街をきれいにしよう. 水池を作ったこと,スラリーは高度に炭素質の. 最高裁はまず,. 21条「生命権」に関して,. 週間」 「村をきれいにしよう週間」をすべての. 憲法32条が市民の基本的権利を保障する特別. 市町村で開催することを命じたのである62).こ. 「生命権 の手続を規定していると述べた上で, は汚染されていない水と空気を享受する権利を. のように,憲法51A条に基づいて行政に命令 を下すパターンが定着したといえよう.ガンジ. 含む.人は,生活の質の維持のために不可欠な. ス川の水質汚染の主要な責任は自治体にあると して,自治体に対して,酪農業者に郊外-移動. 水や空気が汚染されたならば,汚染の除去を求. させることなどの命令を下した63).. て生活の質に害を与えるものが存在するなら. めて憲法32条に頼る権利を持つ.法を軽んじ ば,国民は憲法32条に頼って生活の質に不可.

(11) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤). (419). 71. 欠な水や空気の汚染を取り除くことを求める権. 因者負担の原則」フう言インド環境法上の権利とし. 利を持つ.」と述べて,環境権の基本的権利的. て認められた.このことを包括的に論じたのが,. な性格を明らかにした65),. 1996年のVellore. 続けて,. 「環境汚染の除去を求める32条の請. Citizens. oflndiaandothers. WelfareForum v. Union (以下, 「タミル・ナドゥ州. 願は,被害を受けた本人,若しくは社会活動団. 水質汚染事件」とする)である69).本件は,塞. 体やジャーナリストによってでさえも維持可能. 法32条に基づいて,原告NGO団体がインド. である.. 32条の手続は社会を代表してその保 護に真正に関心を持つ個人によってとられなけ. 政府らを相手取って,タミル・ナドゥ州の皮な. ればならない.」と述べて,第三者も環境保護. を垂れ流していることから生じた水質汚染の被. に真正な関心を持つ場合,原告となりうるとし. 害を訴えた令状請求訴訟である.皮なめし産業. た66).. はインドの主要輸出産業であり,かつ同州での. 最高裁は,原告と被告(4番,. めし工場とその他の工場が大量の未処理の廃液. 5番)がスラ リーをめぐって争う敵対関係にあったという被 告側の主張や,原告が被告5番に対して嫌がら. 生産高が輸出量の8割を占めている.本件で最. せを働き刑事訴訟にて係争中であったことなど. が求められた.. 高裁は,環境の保護と,開発の利益および雇用 の確保といった経済利益のバランスをとること. から,原告の訴えの動機は彼の敵慌心を晴らす. 原告側の訴えによると,廃液による水質汚染. という私的なものであり,かつ本件原告のビジ ネスのためのスラリー収集といった私益のため. のせいで地下水も汚染され,地域住民は飲料水 を求めて数マイルを歩かなければならなくなっ. であると判断し,訴えを斥けた.憲法32条を. たという.原告側が任命した同州法律扶助勧告. とおして個人的な利益の実現を目指してはなら. 委員が作成した報告書によると,当該地域自治. ないこと,まして私的な恨みや敵悔心の弁護の. 体は,皮なめし産業がインド有数の外貨獲得産. ためであってはならないとした.. 業であることから,水質汚染防止法が水質汚染. このことに関して最高裁は,以下のように述 べた67).. 防止のために自治体に与えている権限を行使し ていないという70).. 「もしこのような訴訟が受理されるな. これに対して,被告側は宣誓供述書を提出し. らば,真正の原告への迅速な救済が妨げ. て反論した71).これによると,被告州政府は,. られ,裁判所の過程が濫用されることに. 工場の廃液処理を進めるために各工場に廃液処. なる.個人的な利益が公益訴訟を装って. 理設備の設置を命じ,この命令に対し33工場. 32条に基づく最高裁の過程をとおして 実現されてはならない.公益訴訟は,蘇. が廃液処理設備を設置したという.また,州環. 力,貧困,法に対する無知のために自ら. う.. の基本的権利を実施できない者に基本的 権利の擁護と実施の法的手続を予定する ものである.」 このように,本件は公益訴訟の当事者適格要 件に関して,私怨と私益のために公益訴訟を濫. 境汚染規制委員会は廃液の基準を規定したとい 最高裁は,国家環境工学研究院(NEERI) の報告書に基づいて,. 5つの地域に存在するす. べての皮なめし工場に対して下していた閉鎖命 令を停止し,新たに廃液処理設備の設置を命じ た72).その他の地域の工場に対しては,与えた. 用してはならないと一定の基準を明示したこ. 損害に対する回復費用の支払い,被害者への損. と,および生命権に認められる環境権の内容を. 害賠償の支払い,罰金の支払いを命じた.また,. 示したことの2点に意義がある68).. インド政府に対しては,環境法の規定に基づい. また, 1990年代に入って,. 「予防原則」と「原. て本件の環境汚染を処理する機関の設立を命じ.

(12) 72. 横浜国際社会科学研究. (420). 第11巻第3号(2006年9月). るとともに,その機関に任務を果たすための権. そして,環境訴訟の増加傾向から,高裁に対し. 限を与えた.さらに,最高裁の継続的な命令を. ては環境法廷(Green. 実行させるための監視を命じた.. のである.. Bench)の設置を命じた. この判決がインド環境法発展に貢献した点 は,国際法上の原則である「予防原則」と「原 因者負担の原則」を21条の生命権に含まれる. (3)小. 括. 本節では,. 1980年代後半以降の環境判例の. 権利であると認めて,環境権の内包を拡げたこ. 中から主要なものをとおして,公益訴訟がいか. とである73). 21条「生命権」を根拠に,危険物. にして環境権保障を実現させ,そしてその手続. を扱う産業は,必要な措置を講じ,地域への危. 上の特徴ゆえに生じる問題に対処したかを明ら. 険を最低限にし,かつ科せられている安全要求. かにした.. を最大限遵守しなければならか、と述べた74). 最高裁は, 「持続可能な発展」の概念に開発. 1987年のカルカッタ・タ-ジホテル事件は, もともと裁判規範性のない憲法48A条と51A. とエコロジーの両立の解を求めたのであるが,. 条が21条の解釈をとおして裁判規範的になる. 「持続可能な発展」の2つの特徴である慣習国. との見解を明らかにした.. 1987年ガンジス川. 際法上の「予防原則」と「原因者負担の原則」. 汚染(Ⅰ)事件は,憲法21条,. 48A条,. が国内法との間に矛盾が存在しない限り国内法. 項,および環境保護法,水質汚染防止法を合わ. に受容されているとした.そして,その根拠を. せて,ガンジス川の保全を被告に命じた.ま. 51A条(蛋). び水質汚染防止法,大気汚染防止法,環境保護. た,翌年のガンジス川汚染(Ⅱ)事件では, 条をもとにインド全国の教育機関での環境保. 法に基づいて,. 護教育を,政府に命じた79).そして,. 憲法21条,. 47条,. 48A条,. 51A条(g)項,およ. 「上記のような憲法観走および. 51A. 1991年. Kumar判決で最高裁または高裁へ. 立法規定は環境法の一部をなす」と述べた75).. のSubhash. まず, 「予防原則」に関しては,国内法に照ら. の令状請求訴訟によって,政府に対して健康的. して, 「(i)環境基準は環境悪化の原因を前もっ. な環境を享受する権利を主張することが可能に. て処理しなければならないこと,. (ii)深刻かつ. なった.これらを通して,環境法の基本的権利. 回復不可能な損害の脅威が存在する場合,科学. としての性格が明らかになった.しかし,国家. 的確実性の欠如を理由に環境悪化を防止する措 (iii)立証責任 置の遅延を正当化できないこと,. 政策の指導原則に法的権利性を与えることに関. は行為者または企業側にあり,その行為が環境. いう批判が存在すがo).. 的に害のないものであることを示すこと」だと. これらの流れから,. 論じた76).続けて,. 「原因者負担の原則」に関. しては,事実上憲法を書き換えることになると 1996年のタミル・ナドゥ. 州水質汚染事件は,憲法21条の権利として,汚. しては,前出のシリラム・ガス流出事故事件で. 染されていない水と空気を享受する権利を認め. 論じられた「絶対責任」の考え方を発展させて,. た.さらに,. 「環境への害に対する絶対責任は,. -環境悪化 回復の費用をも補償しなければならない」と論. および環境立法に基づいて,慣習国際法上の「予. じた77). 「インド憲法とインド国内法が与える,. 法に受容されたと述べた.前出のシリラム・ガ. 新鮮な大気,清潔な水,汚染されていない環境. ス流出事故事件で打ち出された損害賠償の原則. に対する権利は,コモンロー上の清潔な環境に 対する権利とは相容れないものである」と述べ,. が本件で「原因者負担の原則」に発展するなど,. コモンローからの離脱を図りつつ,環境権論を. とを意味するものである81).. 論じた78).. 21条,. 47条, 48A条,. 51A条(g)項,. 防原則」と「原因者負担の原則」フうミインド環境. 公益訴訟がインド環境法に多大な貢献をしたこ 公益訴訟の手続的特徴は,件数増加傾向や裁.

(13) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤). (421). 判所の仕事量の増大をもたらすなどの問題点も. 割が,規定上の枠組みの外で生じた88).結果と. 惹起している.そこで,最高裁は,カルカッタ・. して,裁判所は行政の仕事まで負うことになっ. タ-ジホテル事件で公益訴訟の司法審査の範. てしまい,公益訴訟以外の訴訟の遅滞を招くな どの問題を生じさせている89).また,公益訴訟. 囲を限定した.また,. SubhashKumar判決は,. 73. 私怨や私欲のために公益訴訟を混用することは. では裁判所が政府に対して数多くの命令を下す. 出来ないと述べて,公益訴訟の原告適格要件の. が,命令は実施されないことが多く,そこに公. 緩和傾向に歯止めをかけた.このような濫用を. 益訴訟の限界が存在するのである90).. 懸念する立場から,公益訴訟における原告適格 を制限し明確にするべきだという見解がある82).. 本稿で取り上げた環境判例はわずか一部であ り,紙面の都合で割愛した判例も多数ある.ま た,環境判例以外の分野でも公益訴訟の発展は. おわりに. 目覚しい.それらを検討し,公益訴訟の可能性. 本稿は, 1980年代および90年代の公益訴訟. と限界を考えていくこと,延いては裁判所の機. のうち,環境判例をとおして,インド憲法にお ける環境権の確立とその救済手続の発達を検討. 能の可能性と限界を示していくことが,筆者の 次の課題である.. した.公益訴訟は,もともとは社会改革の手段 として生まれた.そして,その機能を果たすべ 注. く発達させた救済手続によって基本的権利とし ての環境権が確立し,インド環境法が発展した といえよう.公益訴訟の初期の判例で編み出 された数々の手続は,環境判例においてもその まま利用され定着した.最高裁は,どちらかと いうと経済発展よりも,生態系の保護および環 境権の擁護に熱心なようである83).それもあっ てか,判例の年次サーベイが2000年から新た に環境法の章をおいたことからも明らかなよう に,インド環境法は着実に発展していが4). 公益訴訟では,最高裁は行政に対しては被害 者救済のために中間命令を下しモニタリング活 動を通してその実践を迫り,立法府に対しては 法律改正を提案するスタイルを採る.こうして, 裁判所の活動はますます立法的な性格を強めて いくこととなった85).インドでは,. 「行政府と. 立法府が無反応かつ怠慢であり続ける限り,公 益訴訟が合法的に正義を実現させる唯一の武 器」なのであり86),. 「司法が慈恵性という閣の. 中の唯一の灯火」なのであが7). 公益訴訟の展開の過程で,裁判所の監視に よって強制されない限り十分に機能しなかった 行政に,継続的な命令と監視によって憲法上の 義務を果たすための実施を担保させるという役. 「この編の規定する権利 1)インド憲法32条は, 行使のための救済措置」として,第1項で, 「こ の偏によって与えられた権利を実現していくた め,適正な手続きにより最高裁判所に提訴する 権利が保障される」とし,続く第2項で, 「こ の編によって与えられた権利を実現していくた め,最高裁判所は,適正な指令,命令または人 身保護令状,職務執行令状,禁止令状,権限開 示令状,もしくは移送命令書の性質を有する令 状を含む令状を発する権限を有する.」と規定 している.. 条文を訳すにあたって,孝忠延夫「3インド (抄)」 〔阿部照哉・畑博行編『世界の憲法集』 第3版所収40頁以下(2005)〕を参考にした. 2)インド公益訴訟に関する先行研究は,安田信 之『アジアの法と社会』 (1987),稲正樹『イン ド憲法の研究』 (1993),孝忠延夫「人権の裁判 2 的保障の制度と現実」憲法問題11号(2000) 頁,佐藤創「『現代型訴訟』としてのインド公 益訴訟(Ⅰ)」アジア経済42巻6号(2001) 2頁, 同「『現代型訴訟』としてのインド公益訴訟(Ⅱ)」 アジア経済42巻7号(2001) 18頁,拙稿「セ クシャル・ハラスメントと公益訴訟-ヴイシヤ カ判決の検討-」横浜国際社会科学研究第8巻 (2003) 31頁などがある. 3) 1976年から2001年前半までの約1000の判例に 目を通した結果,環境訴訟の増加が目に付いた. DIVAN ARMIN RozENCRANZ, 4) SHYAM and AND PoLICY IN INDIA (2001), ENVIRONMENTAL LAW at 23-39.行政は20年の間,十分に機能しな.

(14) (422). 74. 横浜国際社会科学研究. 第11巻第3号(2006年9月) 表現の自由, (b)平和にそして武力を備えずに 集会すること, (c)団体または連合を形成する こと, (d)インド領域内を自由に移動すること, (e)インド領域内のどの部分においても居住し定 住すること, (f)削除, (g)あらゆる専門的職業 に従事すること,あらゆる職業,公益,または 商業を営むこと.」と定めている. ll) Municipal Council, Ratlam v. Vardhichand, A.Ⅰ.R 1980S.C. 39頁. 1579.拙稿・前掲注9, 12) Ibid., at 1623. in Judicial 13) S. P. Sathe, "public Participation. かったと指摘する.インド政府の環境政策に関 しては,第6次五カ年計画(1980年から85年) にて本格的に「環境と開発」というテーマで環 境問題が論じられるようになった.続く第7次 五カ年計画(1985年から90年)では,持続可 能な発展が強調された.こうして環境に対する 意識が高まる中, 1980年代後半までに,イン ドの指導者の間で,貧困と発展の遅滞が数多く の環境問題をもたらすという認識が生まれた. この認識から第7次計画は,産業,科学,技 術,農業,エネルギー,教育のようなすべての 主要な部門の計画に環境的配慮が含まれること になったという.. Process:. Special 1. Ibid., at 133.. 5) 6). 14). 157-157.集団訴訟は,民事訴訟法(the of 1908)の規定に従っ て行われる.環境裁判における集団訴訟の利点 は,公益訴訟による令状請求訴訟が金銭賠償を 認めないのに比し,金銭賠償は集団訴訟によっ てのみなされること,また,集団訴訟は審理の間, 詳細な証拠が提出されうるため,裁判官が宣誓 供述書をもとに争点を決定することができるこ と.専門家は対審尋問に資料を提出することが 要求されるため,複雑な事案の解決には集団訴 訟の方が適していること.欠点としては,原告 おのおのの足並みが揃わない場合,集団として の統一性が失われること,負債または救済に関 して集団のなかで意見の不一致が見られる場合, 訴訟そのものが複雑化することが挙げられる. Ibid., at. code. 7). of Civil Procedure. Ibid., at through. 36.,. Public 85. D.. K.. Bhat,. Interest. All. India. Reporter. at. the Indian 120. 121.. 139.. 9). Maneka. Gandhi. v.. Union. lndia,. AJ.R.. 1978. Rural. S.. of C.597.拙稿「インドにおける公益訴訟,その 誕生と展開」横浜国際社会科学研究第10巻第 5号(2006) 41-42頁.原告は1977年7月,イ ンド政府から,旅券法の規定に基づいて一般的 公共の利益のため原告の旅券を押収したとの通 知を受けた.原告の質問に対して,被告インド 政府は押収の理由を述べない旨を告げた. 「国は,イン 10) 14条は法の下の平等と題して, ド領域内で,法の下の平等,法律の平等な保護 を何人に対しても否認してはならない.」と定 めている.また, 19条は言論の自由などに関 する特定の権利の保護と題して, 1項「すべて (a)言論および の公民は,以下の権利を持つ.. in Law. of. Referenceto Administrative. Locus. Standi. Lmv,''26. with I・. J・ Ⅰ・L・. Litigation v.. State. and. Entitlement. Kendra,. Uttar. Pradesh 1599 (12.3.. and others, of 1985).最高 (PIL) 1981-97, 裁は,本件とその他の申請を連結して扱ってい る.本渓谷は,インド有数の美観を誇る丘陵地 帯にあり,観光地としても,教育・研究の中心 としても,また, Bl防の拠点としても重要な町 である.本稿で扱うのは令状請求訴訟のみであ るが,申請の方は鉱山賃借人らを相手取って民 事訴訟でなされている. 先行研究では,稲正樹「インドにおける社会活 動訴訟」南アジア研究第7号54頁(1995)が 66頁にて,本件が一大環境訴訟となっており, 1991年に至るまで8つの判決・命令が出されて いるが訴訟の終結をみていないと述べている. 15) 1985年9月の判決でセン裁判官は,経済発 展と環境保全のバランスに関して, 「産業発展 はより大きな国益において国家の経済発展に必 要である.しかしながら,もし産業発展は生命 の損失の結果として無計画で無配慮な鉱山活動 によって達成されることが求められるならば, 究極的には真の経済成長と真の繁栄はありえな SCALE. (1998), Bhatは,環境立法が環境汚染防止に効 果がなかったこと,国民の基本的権利の擁護者 として高裁および最高裁の監視活動がこれらの 立法の実施を強制していると述べている. 8) parmanand Singh, "public Interest Litigation," 32 Annual Survey 139 (1987),at of lndian Law Experience,". Trends. (1983),at 6.. Dehradun. "JudicialActivism. Litigation:. New. いだろう.適正なバランスを打ち立てる必要が ある.私の意見では,適正な当局が借地の授与 の時にこれらすべての事実と要因を考慮に入れ て,鉱山の借地の間は十分な安全策を講じなけ ればならない.十分な安全策が借地の時に講じ られたならば,実際鉱山の閉山命令の必要はな かっただろうし,地元の人々の苦しみは避けら れたであろう.」と述べた. 16)その内容は事例ごとに多岐にわたるが,その 共通した特徴をあえて挙げるならば,立法的な 内容を含むもの,委員会を任命するもの,戟 告書の提出を委員会に命じるもの,行政に対 する指令が実施されるよう監督する機関の設置 を命じるものがある.その性格は,最終的な判 決に至るまでの間,裁判所は数々の中間的な命 令(interim directions)または中間的な指令 (inter血order)を通して,行政側に改善を迫り,.

(15) インドにおける公益訴訟,その発展と展開(伊藤) 憲法上および法律上の責任をとるようにさせる ものである.このような特徴を, Baxiは徐々 に改善に向かって動いていく管轄権(creeping Upendra Baxi, jurisudictioⅢ)と呼んだ. "Taking SuHering Seriously,"inJAGGA KAPUR(ed.) S口PRENE. CouRT. P口BLIC. ON. vol.1(unknown) A-93, 17). supra. 14, at. note. INTEREST. LITIGATION. A-98.. at. 1604.. Singh,. 8. note. supra. at147.稲・前掲注14も同様の指摘をしている. 18) Rural Litigation Entitlement Kendra, and Dehradun SCALE. State of (PIL) 1981-97, v.. Uttar. Pradesh. 1614. and. others,. (18.12. 1986).. THE CoNSTITUTION OF INDIA 19) p. M. BAKSHI, at (2001), 96-97.この場合の裁判所の判断を, 基本的義務規定を義務が国民に科せられた義務 であるように国もまた当該規定を遵守すべきで あるという原理に則ったものであるという. SCALE v. Union 20) MC.Mehta of lndia and others, 1981197, 1551 v. (PIL) (7.12.1985);MC.Mehta Union lndia and others, SCALE 1981197, (PIL) of 1516 (20・12・1986); v. Union MCMehta lndia and of (PIL) 198ト97, 1554 (31.1.1986); others, SCALE M.C.Mehta. Union. v.∼. 1981197,. (PIL). SCALE. of lndia and others, v. (17.2.1986);M.C.Mehta 1981-97, others, SCALE (PIL). 1555. Union. of lndia and MCMehta v. (24・2・1986); SCALE 1981-97, (PIL) others, 1575. MC・Mehta. Union. v.. 1577. (PIL) 1981-97, Union. 1583. Union 1551. of lndia and (10.3.1986);. others, SCALE (10.3.1986);M.C.Mehta. of. lndia. and. v.. of lndia and. (PIL) 1981197, others, SCALE v. Union MCMehta lndia and (24・3・1986);. others, SCALE MC.Mehta. (PIL) v.. Union. (PIL) 1981197,. 1582. and. others,. oflndia (24,3.1987). 21) M.C.Mehta. 1981197,. of (20.12.1986):. 1516. lndia. SCALE. and others, of v. MC.Mehta (3.2.1987); SCALE (PIL) 1981197,. Union 1583. Union SCALE (PIL) of Zndia, at 1562. (7.12.1985), 22) Ibid.,at1570.最高裁は, 11の条件を一つで も遵守しなかったら許可を取り消すとの厳しい 姿勢をとった.それらの内容は,各委員会に対 する最高裁への報告義務,視察官に対する工場 の安全装置の監視義務,シリラム経営陣に対し ては損害賠償の支払い,およびその親会社から の業務引継,労働者の防災訓練,拡声器の設置 などの労働環境の整備義務が命じられた. 23) Ibid" at 1573-75. 24) Ibid. 25) Ibid., at 1552-1554. v. Union SCALE 26) MCMehta (PIL) 1981oflndia, 97, 1516 (20.12ユ986), D. S. Sengar, at 1518.また,. 198ト97,. ``pIL. to. v.. 1551. Ensure. Public Access. that Institutions to. EnvirlOnmental. Behave Justice. Lawj:ully: J.. in India, ''45. (423). 75. Ⅰ.L. Ⅰ.62, at 67. 27) Ibid., at 151911520.. 28) Ibid., at 1518. 29) Ibid., at 1520. 30) Ibid. 「この事で,その文脈が他のす 31)憲法12条は, べての点で要求しない限り, 「国家」はインド 政府,インド議会,および各州政府と州議会, インド領域内またはインド政府の支配下にある あらゆる地方またはその他の機関を含む.」と 規定する. 32) supra note 26, at 1521. 33) Ibid., at 15281530. 34) Ibid" at 1530. 35) parmanand Singh, "public Interest Litigation," 23 A, S. Ⅰ.L. 483 (1986),at 496. 36) Ibid., at 495. Saxena, "L7udicial Activism: Instrument 37) Shobha ofEnvironmental Protection:'All India Reporter 1(1995),at4.直接的ではないにせよ,本件で 最高裁が示した環境権を生命権に含まれるとの 見解は,生命権の範囲と射程を広げるには卓越 した見解であると述べた. 38) Singh, supra note 35, at 495. BAKSHI, supra note19,atlO-ll.憲法12条は,第3章の基 本的権利規定にあるが, 「本文が他のあらゆる 点で要求しない限り, 『国家』は,インド政府 と国会,州の立法部,インド領域内またはイン ド政府の支配の及ぶあらゆる地域その他の機 関を含む,」としている.ここでの「州の行為」 の理論は,アメリカのそれとは異なるが,理論 (「州の行為」の色合いを与えるために私的な活 動に馴染むような州の援助,支配,規制)の背 後にある原則は,インド化されインド憲法学と 交じり合って調和しうる限られた程度におい て,重要であるという. 39) singh, supra note 35, at 497. 4, at 532. 40) DIVAN and RozENCRANTZ, supra note parmanand "public Interest Litigation, 41) Singh, 26 A. S. Ⅰ.L. 139 (1987),at 139-146. 42) Ibid. Cassels, "Judicial Activism 43) Jamie and. ". Public. Interest. Litigation. the Impossible?" Comparative Law C.. Jain,. Litigation:. Hurra,''36. "Book. Amrican. 495. (1989),at. Reviews. Attempting. in India:. 37. on. Journal 507.. "public. of. Subhash Interest. In. Quest of Justice(1993)," by Sonia J. I. L. Ⅰ.249 (1994), at 252.ち,. shoppingforjudgesとなってしまうことを懸 念する見解を示している. 44) Singh,supra note 41.田中英夫『英米法総論 上・下』 168, 315, 541頁(東京大学出版会, 初版, 1980年)によると, RylandsvFletcher,.

(16) 横浜国際社会科学研究. (424). 76. (ライランズ対フレッチャ事 件)は,自分の土地に貯水池を作ったところそ L.R.3且L.330.. の水が逸失し,地中の古い坑道-流れ込んで水 浸しにした事件について,土地を自然的利用 (natural user)以外のやり方で利用した者は, ・故意過失の有無にかかわりなく,損害賠償責任 を負うと判示した, 45) Saxena,supranote37,at5.インド最高裁 が新たに示した,この絶対責任の原則は,憲法 規範と社会の事情に合致していると評価してい Singh,. "Contribution Due. 出されているが,最終的にはそこからガンジ ス川に流れ出ている以上,工場が法律の規定を 実施しなくても許されるということにはならな い」と,厳しく論じている. 53)この法律は,憲法252条に基づいてウッタル・ プラデシ州議会でも,議決されている.その内 容は,インド政府および各州政府に,環境汚染 防止委員会の設立を規定し,その24項は,拷 染物廃棄のために小川や泉を使うことを禁じて 干潟な いる.この「小川」は,川,水路,敵. どを意味する.その他,委員会の機能,商業車. る.. 46). 第11巻第3号(2006年9月). Process. supra. note. of Public Law in of. 41・. B・. L・. Interest Litigation India," 32. Civil &. Sharma, towa71ds Military. LawJournal 19, at30. Sbarmaは,賠償額の 算定作業が実態的な法律問題の処理以上に裁判 所の時間を奪うことになること,裁判所は基本 的権利の侵害救済にもっとも時間をさくべきで あるとを指摘した. 4, at 534・ note 47) DIVAN and RozENCRANTZ, supra この基準の設定は最高裁が当時係争中だった ボパール事故をにらんだものではないかとも指 摘している. v. Union 48) M. C. Mehta of lndia and others, 1981-97, 1585 SCALE (PIL) (22. 9. 1987), at 1596-1597.. 49)予備的聴聞の際,最高裁は,民事訴訟法の規 定に基づいて,工場,地方自治体,地方議会に 通知を発行し,ガンジス川が流れる地域に裁判 管轄権を持つ裁判所-の出廷命令を下した.最 高裁は本件を代理訴訟として扱った.この命令 に対して,ほとんどの工場は出廷に応じ,評議 会によって代表されている工場は共同宣誓僕述 書を提出した. 50) Ibid" at 1586.特に,事実の検討に先立ち,環 境保護の重要性と必要について一言述べる必 要があるとして, 「憲法48A条は国家が環境保 護および改善のために,および森林と野生動物 保護のために努力をすべきであると規定して いる.憲法51A条は,国民に森林,潤,河川, 野生動物を含む自然環境の保護と改善に対し て,および生き物に同情を寄せること規定して いる」ことに言及した. 51) Ibid., at 1589. 「環境保護法」の規定について も詳細を検討し,その3項がインド政府に,環 境保護,改善,汚染防止のために必要だと思わ れるあらゆる措置を講じるための権限を与えて いること,さらにインド政府に環境汚染物質 の排出に関して基準を設定する権限を与え,閉 鎖命令を含めた命令を下す権限を与えているこ と,その他,義務,罰則についても定めている ことを示している. 52) Ibid. 「この廃液は,市の下水処理槽にまず排. 液についても定義を行っている. 54) Singh,. supra. note. 42, at. 145・. Sengar,. supra. note26,at70.特にSengarは,この事件の命 令から,環境訴訟では裁判所は特定の基本的権 利が原因者によって侵害される可能性があるこ と,および原因者が公的企業であるか,官公庁 であるかを結論付ける必要はないと推測する. このようにして, 32条によって最高裁が場所 と原因者にかかわらず,環境汚染によって生じ る公的妨害を防ぐための命令を下すことが出来 ると説く. 55) Cassels, supra note 43. at 5001 v. State West Pandey 56) sachidanand and another of Bengal (PIL) 1981J97, 1828 and others, SCALE (ll.7. 1987). 57) Ibid., at 1831. 58) M. C. Mehta v. Union of lndia andothers, SCALE (PIL) 198ト97, 86 (12.1.1988) 59) Ibid., at 86. 60) Sengar, supra note 26, at 71・ 61) supra note 58, at 88・ 62) Ibid. 63) Ibid.最高裁は,地方自治体に対して下水道 の拡張を,地方自治体と警察に対して動物の死 体をガンジス川に流すのを止めさせることを命 じた.インド政府環境省に対して,環境問題に 国民の意識を喚起させようとする最高裁の提案 への考慮を求めた.酪農業者が排出するゴミを 除去すること,そして付近の労働者集団居住地 に下水設備や公衆便所を増設するよう命じた. また, 「水質保全および防止法」は委員会に汚 染原因者を起訴する権限を与えており,起訴さ れた個人は刑事訴訟法の規定に基づいて訴訟を 提起できると定めているが,委員会は立法の規 定を実施していないこと,諸問題の事実をまだ 調査できていないといった,委員会の怠慢を指 摘し,高裁にこの種の訴訟の処理は2ケ月以内 でするよう命じた. Kumar v wrest Bengal State 64) subhash and of 1981-97, 266 (9.1. 1991)・ SCALE (PIL) others, 19, note BAKSHI, supra 65) Ibid., at 269-270.また, at54.もこの判例が生命権に「汚染されていな.

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