氏 名 相良 裕子 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医科学 ) 学 位 記 番 号 医工博甲 第427号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 人間環境医工学専攻 学 位 論 文 題 名 身体活動歴が児童期の認知機能と運動イメージに及ぼす影響 The influence of physical activity experience on cognitive function and motor imagery in childhood.
論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 山縣 然太朗 委 員 講 師 玉置 寿男 委 員 講 師 三森 徹
学位論文内容の要旨
(研究の目的) 近年,小学生を対象とした発達研究では,体力と学力/認知機能の間には正の関係があることが示 されている.しかしながら,これらの研究は小学生の,ある一時点での体力や有酸素能力を指標に捉 えられているもので,小学校入学前の幼少期からの身体活動歴を独立変数として扱った研究は皆無で ある. そこで本研究は, 未就学時期からの発育・発達過程での習慣的な身体活動刺激が,児童期の認知機 能にどのように関係するのかを明らかにするため,対象者に認知機能課題を課し,課題遂行中の脳血 流応答を測定,その結果から身体活動歴とその後の認知機能,および脳血流応答の結果との関連性を 検討することを目的とした.また,幼少期の身体活動経験が,認知機能同様,脳の神経活動を必要と する「運動イメージ」にもたらす影響も検討するため,運動イメージ課題を実施した.課題遂行中の 脳血流応答を測定し,過去の身体活動レベルとの関連を検討した. (方法) 山梨県内の小学校 5, 6 年生の児童 11 名を対象に,認知機能課題として Trail-Making Test (TMT) と運動イメージ課題を実施し, 課題遂行中の脳血流応答を機能的近赤外分光法 (f-NIRS) にて計測し た.さらに運動イメージ課題で取り上げた運動の実際の運動パフォーマンスも評価した.また,過去 から現在に至るまでに経験した習い事の種類,実施頻度 (回/週),開始時期,継続期間を保護者にア ンケート調査し,それぞれの習い事の身体活動強度を国立健康栄養研究所による METs (metabolic equivalent) に当てはめ,METs × 実施頻度 × 実施期間の計算によって算出された値をこれまでの身体活動レベル (Total METs 値) と定義した. (結果)
Total METs 値と TMT 遂行時間を相関分析した結果,有意な負の相関関係が確認された (r=-0.631, p< 0.05).これは,Total METs 値が大きい対象者ほど,TMT 遂行時間が短かったことを示している. また,Total METs 値と TMT-Part A 遂行中の Oxy-Hb 変化量を相関分析した結果,有意な負の相関 関係が確認された (r=-0.658, p< 0.05).これまでの身体活動レベルが大きい対象者ほど TMT 遂行中 の Oxy-Hb 変化量が小さかったことを示している.運動イメージでは,体験した習い事の数と反復 横跳びの記録,習い事の数と反復横跳びイメージ中の左運動野 Oxy-Hb 変化量をそれぞれ相関分析 した結果,両項目とも有意な正の相関関係が認められた (r=0.657, p< 0.05:r=0.60, p< 0.05).つまり 習い事の数が多い対象者ほど反復横跳びの記録が良く,跳ぶことをイメージした際の Oxy-Hb 変化 量が大きくなることを示唆している. (考察) 複 数 の 身 体 活 動 を 経 験 し , 現 在 ま で の 身 体 活 動 レ ベ ル の 高 い 対 象 者 は , 効 率 的 に 認 知 機 能 課 題 を遂 行 する ス キル と 運 動イ メ ージ 能 力を 身 に つけ て いる 可 能性 が 示 唆さ れ た. (結論) 身体活動歴が児童期の認知機能と運動イメージ能力,それに伴う脳血流応答に影響を与える可能性 が示唆された.
論文審査結果の要旨
1.学位論文研究テーマの学術的意義 本研究は子どもの身体発育刺激が、未就学児期からの発育・発達過程で、児童期の認知機能に関連 するのかを明らかにする目的で、認知機能課題に対する脳血流応答測定値(f-NIRS)と身体活動歴 およびその後の認知機能の関連を明らかにして、幼児期の身体活動経験が児童期の運動イメージにも たらす影響を検討したものである。身体活動と脳の活性は現在最も注目されている分野であり、脳科 学と教育における重要な研究として本研究の意義がある。 2.学位論文及び研究の争点,問題点,疑問点,新しい視点 本研究で結論された幼児期の身体活動歴が児童の認知機能と運動イメージ能力を向上させるとい う結論は理論的には納得できるものである。一方で、運動の種類による結果の相違や対象者属性によ る影響についても検討が不十分な点があり、本研究だけで結論を出すことはできない。しかし、研究 の視点としての運動能力、運動イメージの脳メカニズムの解明に重要な知見をもたらした。 3.実験及びデータの信頼性 本研究は対象児童および保護者に対して十分なインフォームド・コンセントよびインフォームド・ アセントを行って実施しており、倫理委員会の承認も得られており倫理的に問題はない。機能的赤外線分光法による測定や専門家による運動能力測定を実施するなど信頼性と妥当性のある研究である。 4.学位論文の改善点等 子どもへの配慮から一度の測定である点、対象者属性によるバイアスの対応が不十分な点を改善す る必要がある。また、運動の種類によって結果が異なることに対して新たな仮説を立てた研究が望ま れる。 以上より、学位論文として十分な水準にあると審査員一同、一致した意見であった。