水素混合ガス利用技術の調査検討事業
飯田敬子、葛西 裕、赤平 亮、阿布里提 バイオマス由来の混合ガスには主に水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素などがあり、一般的 には燃焼エネルギー源としての利用が中心だが、最近では次世代のエネルギー源としてのバイオマ スからの水素製造が大変注目され、潜在的に豊富なバイオマス燃料は環境負荷が少ないといった利 点がある。 本事業ではバイオガス由来の水素混合ガス条件で使用する目的で、水素ガスセンサーの現状調査 (市場調査、技術調査)を実施した。更に、蒸着重合装置を作製し、センサーに利用できるポリイ ミド膜を成膜した。A technical and market investigation on hydrogen sensors used for Mixture gases
Keiko Iida, Yutaka Kasai, Akira Akahira, and Abuliti
The gasification process of biomass is one of promising methods for the biomass utilization and the hydrogen fuel for FC’s can be obtained from the gasification of biomass. Gasification is a thermochemical process that converts biomass into a combustible gas called biogas. biogas contains carbon monoxide, hydrogen, water vapor, carbon dioxide and hydrocarbons etc, which is a renewable form of energy.
In this study, the detail information on hydrogen sensors for bio-gases measurements is reported on the basis of the technical and market investigation. In addition, a deposition device was developed for polyimide film coating.
1.諸 言 地球規模で地球温暖化問題、エネルギー問題が懸念されているなか、平成14年12月、経済産業省 及び関係5府省は連携して「バイオマス日本総合戦略」を策定した。青森県でも環境エネルギー特 区構想に見られるように、地域経済でのバイオマスの利活用を推進している。 バイオマス由来の混合ガスには主に水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素などがあり、一般的 には燃焼エネルギー源としての利用が中心だが、最近では次世代のエネルギー源としてのバイオマ スからの水素製造が大変注目されている。水素は、潜在的に豊富な燃料であり、環境負荷が少ない といった利点がある反面、爆発しやすい等で取り扱いにくい(爆発下限界濃度4%)ことは良く知 られている。 今後の燃料電池社会において、バイオガス由来の水素の需要が見込まれるなか、一般的な半導体 センサーでの検出機構は酸化性または還元性のガスかを見分ける方法であり、測定の時には、素子 を高温に加熱する必要があり、選択性が乏しく、現状のままではバイオガス下では利用できない。 また、ガスクロマトグラフでは混合ガスでもカラムにより分離し、測定することが可能であるが、 バッチ毎でしか測定できない等の問題がある。 その為、バイオガス中で水素を選択的にセンシングするセンサーの開発は今後の水素利用社会に
本事業はバイオガスの環境下で動作できる水素 センサーについて調査を行った。 2.概 要 2.1 市場調査 ガスセンサー素子の市場は現在約1.1億個/年で あり、649億円/年といわれている1)。 しかし、大半が湿度結露センサーであり、次に自 動車用酸素センサー、家庭用ガス漏れ警報用セン サーとなっており、残りのセンサーは全体の数% である。水素ガスセンサーもこの中に含まれてお り、数億円以下のニッチ産業であることがわかる。一方で、水素は固体高分子型燃料電池の燃料で ある。今後5年間における燃料電池の市場予測をFig.1に示す2)。当初、燃料電池市場は約200 億円位であり、自動車用燃料電池が大半を占めると予測されるが、2007年以降は家庭用燃料電 池が増加する見通しとなっている。なお、全般的に見ても、燃料電池市場は2005年に200億 円産業であったものが、2010年には1000億円以上の産業に、楽観的見通しでは2000億 円以上の産業に発展すると予測できる。それ故、燃料電池の需要が増加するにつれ、燃料電池の燃 料である水素をセンシングする水素センサーの需要も急増すると予想でき、これに伴い、バイオガ ス下で水素を選択的にセンシングするセンサーの需要も増加すると予測できる。 Fig.1 燃料電池市場調査 2.2 現状調査 技術的な内容については特許調査、文献調査、インターネット調査を実施した。最初にガスセン サーの現状調査を実施した。各種ガスセンサーの分析方法一覧を、Table 1に示す3)。 Table 1 各種ガスセンサーの分析方法一覧 分析方法 NOx CO2 CO SOx H2S O2 オゾン H2 CS2 Cl2 炭化 水素 NH3 C2Hy N HCN 1 溶液導電方式 ○ ○ ○ ○ 2 定電位電解方式 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 3 隔膜ガニバル電池方式 ○ 4 重量法 ○ ○ ○ 電気 化 学 5 隔膜電極式 ○ ○ 6 赤外吸収法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 7 可視部吸光高度法 ○ ○ ○ ○ 8 光干渉法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 9 化学発光法 ○ ○ 光学 10 試験紙光電光度法 ○ 11 水素炎イオン化法 ○ ○ 12 熱伝導法 ○ ○ 13 接触燃焼法 ○ ○ ○ 電気 14 半導体法 ○ ○ ○ ○ 他 15 ガスクロマトグラフ法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 大気汚染ガス 工業用家庭用ガス
ガスセンサーの検知方式は電気化学的、光学的、 電気的などがある。水素以外では各ガスさまざま な方法で研究され、商品化されているが、水素は 酸化物半導体以外、商品化されているものはない。 しかし一方で、水素ガスセンサーに関する論文数 は1981年から2005年までの間に628件あった(Tabl e 2)4)。N型酸化物半導体は特許が15年前に成 立していている方法であり、この形状をベースに して作成方法や反応する表面積を制御する方法、 選択性をあげるための添加物に関する方法が多く 研究されている3-6)。 Table 2 論文検査結果 •N 型酸化物半導体(SnO2) (特許 15 年前に成立) 一般的 → 作成方法、反応する表面積の制御方法 → 選択性を上げるために添加物 •Pd;熱量(焦電) •Pd:(電気抵抗の変化、膨張時の変位量) •熱量(熱電変換材料を利用)30) •水素貯蔵合金 (水素の吸着の場合の膨張率) •ポーラス Si(吸着能) その一方でPdの特異的な性質(水素の吸蔵、 膨張、反応時の熱量、電気抵抗の変化等)を生か し、水素センサーに応用する研究も多くされてい る4~10)。 •有機半導体 •希土類金属の薄膜が水素を吸収 → 透明 (調光ミラー)15)16) •水素ガスセンサ (1981~2005.4.1) 論文数 628 件 特許調査結果11)をFig.2に示す。この調査では燃 料電池方式を利用して水素センサーに応用する報 告が多く見られた11~14)。この一つが限界電流方 式である17~27)。限界電流方式の模式図をFig.3 に示す。電圧をかけた時に流れる限界電流が水素 の濃度に比例することを利用するものであり、酸 化物半導体のように加熱を必要としない。 2 16 6 2 1 1 1 1 1 1 燃料電池 金属酸化物 熱電変換 配位高分子金属錯体 接触燃焼式 水晶振動子 Pd 片持ち梁状 水素貯蔵 水素ガス濃淡電池式 その他 Fig.2 特許調査 一般的に水素センサーに利用されている酸化物 半導体方式とPd方式及び限界電流方式について 比較結果をTable 3に示す。その結果、高温加熱 の必要性がない、水素脆化の問題がない、真空技 術を利用すれば薄膜化が容易となり小型化が図ら れる等の点で限界電流方式の水素センサーをモチ ーフにすることにした。 さらに、限界電流方式での技術調査、試作調査 を進めていく過程で以下の2点が示唆された。 Table 3 水素センサー比較 被測定ガス V セラミックス多孔質材 A 基準電極(参照電極) 補助電極(対極) 動作電極 (作用電極) セ ラ ミ ッ ク 固 体 (高 分 子 )電 解 質 H+ 酸化物 半導体 Pd 限界 電流型 高温加熱の必要性 ○ 水素の脆化 ○ 選択性 △ × × センタにおける薄膜化技術 △ ○ ○ 独自性・新規性の付加 ○ 総合評価 ○ Fig.3 限界電流方式の模式図
①COが含まれているとPt電極 上では水素より先にCOが吸着して しまう。その為、水素が反応をおこ せなくなる。(CO被毒の問題) ②水素以外のアルコールでも水素 と同じようにプロトンと電子を生じ るので、水素由来かアルコール由来 で流れた電流か区別つかないという 問題等がある。 2.3 試作検討調査 蒸着重合法は真空中で高分子を作 製する方法である28~29)。この技術 を応用し、電解質膜を真空技術で作 製することにより、センサー素子構成上、問題となっているシールの問題を回避でき、薄膜化、集 積化を図ることが出来る。そこで限界電流方式のセンサー素子の心臓部であり、ガスのセンシング に必要な電解質膜をこの蒸着重合法で作製するために装置を作製した。 (1) 装置および成膜 装置については、有機蒸発源及び蒸発源加熱用のヒーター制御盤を設計製作し、既存の真空装置 に追加することにより、蒸着重合装置を作製した。 装置概観図を Fig.4 に、蒸着重合装置構成図を Fig.5 に示す。有機蒸発源はバルブを介して蒸発 槽とモノマー導入管から構成されており、これらは全てリボンヒータで覆われていて、熱電対によ り制御されている。 尚、排気系にターボ分子ポンプと油回転ポンプを用いた。尚、測定条件をTable 4に示す。予め、 真空チャンバーは 1×10-3Pa以下まで排気しておいた。 更に有機蒸発源を所定温度まで加熱しておき、所定の温度で安定したらバルブを開いて、基板上に 成膜した。 到達圧力 5.2×10-4 (Pa) PMDA蒸発槽温度 108 (℃) PMDAバルブ 180 (℃) ODA蒸発槽温度 100 (℃) ODAバルブ 180 (℃) 成膜中圧力 1.56×10-3 (Pa) 基板 glass、Al 基板温度 室温 成膜時間 40(min) 熱処理条件 300℃ 1 時間 Fig.4 装置概要図 有機蒸発源 排気系:RP+TMP 有機蒸発源 反応槽 有機蒸発槽 (ジアミン) 基板 モノマー導入管 モノマー導入管 導入バルブ 導入バルブ 有機蒸発槽 (酸無水物) Table 4 成膜条件 Fig.5 蒸着重合装置写真
(2) 薄膜評価 Fig.6にFT-IRの測定結果に示す。縦軸に吸光度、横軸に波数(cm-1)を示す。右上から モノマーとして使用したPMDAのFT-IR、左上はモノマーとして使用した。ODAのFT-I R、右下は成膜直後の薄膜のFT-IR、左下は熱処理後の薄膜のFT-IRである。ODAのスペ クトルには 1500cm-1にベンゼンを意味する特徴的なピークが見られる。一方、PMDAのスペク トルでは 1860cm-1に酸無水物を示す特徴的なピークが見られる。成膜直後の薄膜(PAA)では アミド(-CONH-)に由来する 1670cm-1のピークを確認した。このことから、ポリアミド酸膜が 成膜(合成)できたことが証明された。更に、この膜に 300℃ 1 時間の熱処理を実施した。その後、 この膜の化学構造をFT-IRのATR法にて測定した結果、1720cm-1、1780cm-1、1380cm-1 にイミドに由来するピークが確認され、蒸着重合ポリイミド膜が合成できたことが確認できた。 3.結果及び考察 水素センサーに関して市場調査と現状調査をした。さらに、試作検討調査として限界電流方式 で利用する固体電解質膜を作製するために、装置を改造し、蒸着重合装置を作製しポリイミド膜を 成膜した。更に調査を進めていく段階で①COが含まれているとPt電極上では水素より先にCO が吸着してしまうCO被毒の問題と②水素以外のアルコールでも水素と同じようにプロトンと電子 を生じるので、水素由来かアルコール由来で流れた電流か区別つかないという問題が示唆された。 すなわち、これらの問題を解決し、バイオガス下で利用する為には電解質膜よりも分離膜(水素 の選択透過膜)の方が重要であることが示唆された。 Fig.2 成膜直後の薄膜 (ポリアミド酸) 熱処理後の薄膜 (ポリイミド) PMDA ODA Fig.6 FT-IR測定結果
4.参考文献 1)政府統計より抜粋 2)日経BP社 燃料電池2006 3)工業調査会 センサー技術入門 4)科学振興技術事業団 文献検索 5)株式会社 昭晃堂 センサー工学の基礎 6)株式会社 フジシステム 普及版 センサ技術
7)Andreas Mandelis, Jose A Garcia, Sensors and Actuators B (1998) 258-267 (1998) 8)Chinhua Wang,Andreas Mandelis and Jose A Garcia, REVIEW OF SCINRNTIFIC INSTRUMENTS 4370-4376 (1999)
9)Chinhua Wang,Andreas Mandelis and, Keung Patrick Au-Ieong, Sensors and Actuators B 100-105 (2001)
10)Chinhua Wang,Andreas Mandelis and Jose A Garcia, Sensors and Actuators B 228-237 (1999) 11)特許庁 特許広報検索結果 12)特開2000-19152 13)特開2003-166972 14)特開2003-192380 15)特開2004-53542 16)特願2005-83832 17)特願平11-66994 18)特願平11-333421 19)特願2000-307375 20)特願2001-265756 21)特願2001-279772 22)特願2002-77703 23)特願2002-325573 24)特願2003-13817 25)特願2003-359404 26)特願平10-301401 27)特願2001-265755 28)高橋善和、飯島正行、稲川幸之助、伊藤昭夫 真空 28 440-442(1985) 29)飯島正行、高橋善和 真空 32 531-536(1989) 30)水素利用技術集成 Vol.2