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「アジアの星物語」が本になりました!

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Academic year: 2021

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「アジアの星物語」が本になりました!

吉 田 二 美/海 部 宣 男

〈国立天文台 〒181‒8588 東京都三鷹市大沢2‒211〉 e-mail: [email protected]/[email protected] 東アジア・太平洋地域の星と宇宙の神話・伝説を集めた『アジアの星物語』が,

2014

2

月, (株)万葉舎から出版されました.この本は,

2009

年の世界天文年に際し「アジアに伝わる豊かな 星の神話・伝説を掘り起こし,アジアにも世界にも広めよう」という私たちの提案に賛同したアジ アの天文関係者の共同プロジェクトで生まれました.アジアでの自国の星物語の出版は以前にもあ りましたが,アジア各国から星物語を集めて

1

冊の本にする試みは,世界でも初めてです.参同者 は

2009

5

月にアジア各国から国立天文台三鷹に集結し,持ち寄った物語を報告し,出版の方針 を定めました.その後も神話伝説を集め,地域で長く親しまれてきた物語などを選び編集し,日本 語の翻訳完成まで,約

4

年を費やしました.美しい本に仕上げるデザインにも,さらに

1

年かけま した.こうして出来上がったこの本には,アジアの

13

の国・地域からの

68

個の神話・伝説を収め ています.本稿ではこの本が出来上がるまでの経緯を紹介します.詳しくはぜひ本を手に取ってお 楽しみください.このプロジェクトは来年の英語版の出版からアジア各国語での出版まで,まだ数 年続きます.

アジアの星・宇宙の神話伝説が三鷹へ

集結

2008

年 に 中 国・ 雲 南 で の

APRIM

IAU

ア ジ ア・太平洋地域会議)で,著者の一人(海部)が 参加者にこう呼びかけました. 「日本でもアジア各国でも,プラネタリウムや 学校・家庭で語られている星の物語は,ほぼギリ シャ・ローマ神話です.アジア諸国には豊かな星 の神話や伝説が伝わっているはずなのに,それら は語られることが少なく,ほとんど知られていな いのではないでしょうか? 私は,アジア地域に 伝わる宇宙や星にまつわる神話・伝説を私たちが 協力して収集し,美しい本にまとめて英語で世界 に発信してはどうか,またそれをアジア各国語に 翻訳し直して,それぞれの地域で出版してはどう かと思っています.来年は世界天文年です.この 機会に,アジアの星物語をアジアにも世界にも広 める共同プロジェクトを立ち上げませんか?」

2009

年に,世界天文年の活動が始まりました. 上記の呼びかけは日本では世界天文年

2009

アジ ア共同企画「アジアの星プロジェクト」と銘打っ て主要企画の一つに位置づけられ,国内・国外の 協力者がたくさん集まりました.

2009

5

11

13

日,国立天文台の三鷹キャン パスで『アジアの星国際ワークショップ』を開催 し ま し た.アジア

11

カ国・地域(バングラデ シュ,インド,インドネシア,香港,韓国,ネ パール,マレーシア,モンゴル,タイ,ベトナム からの合計

19

名,日本から

31

名)

50

名が,それ ぞれの国に伝わる星・宇宙の神話や伝説を持ち寄 り,報告しました.台湾と,太平洋諸島地域の代 表は残念ながら出席できませんでしたが,星・宇 宙の神話伝説をメールで送っていただき,代理の

(2)

天球儀  方に紹介してもらいました.合わせて

13

の国・ 地域からの

70

あまりの神話・伝説が集まり,東 アジア・太平洋地域の星文化の豊かさを実感する ことができました. このワークショップの最後に,『アジアの星物 語』の出版計画を海部が提案し,それを踏まえて 全参加国・地域の代表からなる国際編集委員会が 結成されました.このときのベトナムの編集委員 は,なんと

16

歳の女の子でしたが,お母さんは 天文学者で,その後もしっかり代表を務めてくれ ました.今はアメリカの大学に留学中とのことで す. ここで決まった『アジアの星』国際編集委員会 は,以下のとおりです.

Dulmaa Altangerel

(モンゴル),

Sze-leung

Cheung

(香 港・ 中 国),

Yong Bok Lee

(韓 国),

Norio Kaifu

(日 本: 編 集 委 員 長),

Yi-nan Chin

(台湾),

Quynh Ngoc Loung

(ベトナム),

Leena

Damle

(インド),

Jayanta Acharya

(ネパール),

F. R. Sarker

(バングラデシュ),

Siramas

Komon-jinda

(タイ),

Noriah Mohamed

(マレーシア),

Widya Sawitar

(インドネシア),

Akira Goto

(太 平洋諸島地域). また,日本での編集作業をサポートし,さらに 日本での独自出版『日本の星(仮称)』を検討し ようと,以下の国内ワ−キンググループが立ち上 げられました. 事務局: 海部宣男

*

,吉田二美,嘉数次人, 矢治健太郎,協力者: 北尾浩一

*

,古屋昌美

*

, 後 藤  明

*

, 宮 地 竹 史

*

, 茨 木 孝 雄

*

, 日 下 部 展彦,川越至桜,漆畑 充,匠 あさみ(

*

印は 神話・伝説の採録者でもあります).

苦労した編集作業

国際編集委員の中には英語のネイティブスピー カーはいませんが,共通言語は英語しかないの で,すべての物語を英語で提出してもらいまし た.したがって当初は,集まった物語を英語の本 にまとめてから各国後に翻訳する計画でした.

2009

5

月の国際ワークショップ以降も国際 編集委員からさらに多くの物語が集まり,物語総 数は

100

近くまで増えました.この中からよいも のを残し,重複する話や短すぎて半端なものは除 き,地域ごとのバランスもある程度考慮して,国 際編集委員の合意を得,最終的に

68

話を収録す ることにしました.実は当初,このアジアの星物 図1 2009年5月に国立天文台の三鷹キャンパスで開かれた「アジアの星」国際ワークショップ.各国の代表者がそれ ぞれの国・地域に伝わる星や宇宙の神話・伝説を携えて集結し,星物語をきれいな絵とともに紹介しました.

(3)

語は

2

冊の本にまとめるつもりでした(天文月報

2009

9

月号

p. 552

参照)が,出版コストや販売 などを考慮して,結局

1

冊にまとめることにしま した. また各国・地域の編集委員には,物語のそれぞ れの提出国・地域の画家に頼んできれいな挿絵を 描いてもらうように依頼しました.この本の最大 の特徴の一つは,東アジア・東南アジア,また文 化的につながりのある太平洋地域からそれぞれの 国・地域で親しまれてきた物語を選び,地域色豊 かな絵で飾って,アジアの星文化を広く知っても らおうというところにあります.神話・伝説は, それを生み出した地域や民族の文化をまとってこ そ生き生きと伝わります.この本を手に取っても らえばすぐにわかるように,ページを開くごとに 挿絵のタッチや色使い,雰囲気が異なります.一 冊の本としての統一感には欠けるところがありま すが,この多様性こそ,アジアの文化を象徴する ものだといえます.モンゴルの物語ではデールと 呼ばれる民族衣装を着た男たちが活躍し,インド の物語ではサリーを巻いたお姫様,そしてタイの 村人やインドネシアでは人形劇の人形たちが登場 します.各国・地域の画家によるフルカラーの挿 絵は,人々やお国柄の違い,その国・地域の植 生,地形,時には空気の乾きや湿り気まで読む人 に感じさせてくれると思います.挿絵を一人の画 家に頼んだとしたら,到底この多様さを伝えるこ とはできません.これらの挿絵は教育やプラネタ リウムなどでどんどん使ってもらえるようにとい うのが,当初からの狙いでした. さて,大事なのは出版社探しです.英語版と日 本語版の検討を並行して進めましたが,どちらも 難航しました.まず日本で英語の本を出すことは ほぼ不可能であることがわかりました.出版社に 英語の本の販路がないからです.そこでこれはと りあえずあきらめて,まず日本語版を出すことに するとともに,英語版については国立天文台ハワ イ観測所の

Public Information and Outreach

As-sociate

であるスザンヌ・フレイザー(

Suzanne

Frayser

)さんの好意で文法チェックをしていた だき,海外での出版の可能性を探り始めました. 日本語版については,以下のような希望を出版 社に提示しました.翻訳者を見つけて美しい日本 語にしてくれること,美しい装丁であること,挿 絵を活かすようにフルカラーであること,大人か ら子どもたちまで多くの人たちが楽しめること. けっこう無理な条件での出版社探しだったかもし れません.海部は意気に感じて乗り出す出版社を 期待して大手出版社を回ってみたところ,軒並み 断られました.それでも読売新聞のコラムで取り 上げられたことなどをきっかけに,

10

社近くの 出版社から筆者らのところへ問い合わせがきまし たが,上記の条件で本を作ってくれるところはな かなか見つかりませんでした.なかには「とても 採算が合わないのでご辞退申し上げます」と丁寧 なお手紙をいただいたところもありました.最終 的に残った熱心な

2

3

社から,優れた翻訳者を 提示された「万葉舎」に決定しました.とても小 さい出版社ながら特徴のある丁寧な本づくりをさ れていることも,気に入りました.

2010

年の夏,「アジアの星プロジェクト」ワー キンググループの有志の合宿で,第

1

回目の本の 編集作業を行いました.このときまでに吉田が日 本語への下訳を終えましたが,英語の原稿を日本 語に訳す際につじつまが合ってないところや説明 を追加しないとわかりにくい点などが多数見つか りました.集まった物語を整理し,いくつかの国 で同じような物語が提出されている場合は,完成 度が高く美しい挿絵のあるものを選びました.例 えば,ドゥルーバという少年が継母に玉座を追わ れて悔しい思いをし,修行を重ねて宇宙の不動の 中心である北極星になったお話は,バングラデ シュ,インド,ネパールなどのヒンドゥー文化圏 で採録されています.語り口は各地域で多少異な りますが,登場人物の名前や筋書きはほぼ同じで した.ここではネパールのお話を選びました.ア

(4)

天球儀  ジアにおける文化の流れも考慮しました.日本で 最もポピュラーな星物語と言えば七夕伝説です が,この伝説は中国文化の影響を強く受けた韓半 島,日本,ベトナム地域に伝わっています.基本 的な筋書きは同じですが,地域によってかなり変 容も見られます.これは古代中国からの文化の流 れによる共通性と各地の民族性を反映した多様性 をともに示すものですから,それを読み取っても らおうと,中国,日本,ベトナムに伝わるそれぞ れの七夕伝説を載せることにしました.同様なこ とは東アジアにおける文化の二大潮流のもう一 つ,古代インドを源流とするヒンドゥー文化圏に もあります.太陽や月を食べて日食月食を起こす 首だけの悪魔「ラーフ」については,七夕の場合 と同様,インド,バングラデシュ,インドネシア の話を収録しました. 挿絵に関しては,編集過程で不十分と判断され たものは,各国の編集委員に連絡して新たに描き 起こしてもらいました.挿絵は各地域の画家にの びのびと描いてもらうため,サイズや縦横比,画 材などに注文は付けませんでした.おかげでバラ エティ豊かな挿絵をそろえることができました が,挿絵に統一規格を設けなかったことは,のち に本全体のデザインを決めるときに出版社と担当 のデザイナーを悩ませることになりました.この 本は何人ものデザイナーを経て,ようやく現在の 形に整ったのです. 画像の解像度も問題でした.挿絵は国際編集委 員から電子メールで送られてきましたが,いよい よ印刷の段階で,本の印刷に耐えられる解像度に 満たない挿絵がいくつも見つかりました.これは 私達に一般のプリンターと絵本の印刷をする専門 のプリンターの違いについての知識がなく,私達 がプリントしたものでは全く問題がなかったため 挿絵に解像度が低いものがあることに気付かな かったためです.最初に挿絵をいただいてから本 の印刷までにすでに数年のタイムラグがあり,解 像度が十分高いものを送り直してもらうことはと ても困難でした.しかしそのような場合は挿絵を 高性能なプリンターでプリントしてから高解像度 でスキャンした画像を使うとプリンターが自動的 に色を補間してくれてうまくいくということが あって,なんとかしのぎました. 挿絵の著作権については,

2009

年のワーク ショップの段階で著作権はすべて国際編集委員会 にあることを確認しましたので,その了解のもと で描いてもらった挿絵には問題がありませんでし た.にもかかわらず,なかにはインターネットか ら取ってきたものがいくつか混ざっていることも 判明しました.そこでこうした問題になりそうな ものについては国際編集委員を通じて,新たに絵 や写真を提出してもらうことで,最終的に挿絵の 問題は解決しました. 文章の翻訳も,なかなかたいへんでした.出版 社が紹介してくださった翻訳者のお二人(柹田 紀子さん,川本光子さん)はベテランの翻訳者 で,丹念に下調べをしながら英語から日本語へ翻 訳してくださいました.しかし天文学者ではあり ませんから,特に古代の天文学にかかわる部分の 言葉の問題や英語の原稿に齟齬があった場合など は苦労されたようです.お二人からは盛んに質問 が寄せられ,私たちでチェックしたり調べたりし ましたが,お二人の質問で初めて問題に気づくこ とが多々ありました.混乱を招きそうな記述の一 つは,星の見え方についてでした.これは北半球 と南太平洋諸島など南半球とでは星の見え方が異 なることにも起因します.例えば「あの星の右下 にある星」という言い方をする場合,それが南を 向いて星空を見ているときと,北を向いて星空を 見ているときで,「右下にある星」は異なります. 典型的な例はオリオン座の三ツ星を挟んで位置す るリゲルとベテルギウスです.オリオン座は天の 赤道付近にありますから,北半球では南の空に, 南半球では北の空に見えます.北半球から南を向 いてオリオン座を見ている人にとってはベルトの 三ツ星の右下の星はリゲルですが,南半球から北

(5)

を向いてオリオン座を見ている人にとってはベル トの三ツ星の右下の星はベテルギウスです.この 本は北半球から赤道地域をまたいで南半球に至る までのさまざまな地域の物語を収録しているた め,星座を見る方向も変わるのです.混乱しそう なところは,「上下左右」ではなく,「東西南北」 で表すように書き換えました.

本の構成と登場する天体たち

この本はパート

I

,パート

II

と解説の部分にわ かれており,北から順に,モンゴル,中国,韓 国,日本,台湾,ベトナム,インド,ネパール, バングラデシュ,タイ,マレーシア,インドネシ ア,太平洋諸島の

13

カ国・地域からの神話・伝 説の計

68

話が収録されています.パートⅠには 国・地域ごとに

32

話の代表的な神話・伝説をま とめ,パート

II

には太陽・月,惑星,星座,天の 川など天体ごとの物語

36

話と,バラエティーを もたせて編集しました.それぞれの話につけた現 地の画家によるカラフルな挿絵は,

97

に及びま す(一部写真も含む).物語が生まれた地域の画 家の手によって神話・伝説を育んだ地域の民族 性・文化性が表現され,大人から子どもまで楽し める本になったと思います.本の最後に,学校の 先生やプラネタリウムや科学館の解説者,また家 庭の大人たちのより深い理解のために,各地域の 神話・伝説の背景となった古代インド,古代中 国,それに太平洋諸島の宇宙観・文化とその流れ について,専門家による解説を加えました. 物語に出てくる天体は,一般的には目で見える 明るいものに限られています.この本に登場する 天体を国・地域名と本のページ数とともに,星図 (図

2

)に示しました.太陽や月は地球のどこで も明るく圧倒的な存在ですから,それらの物語は 多くの場所で見られます.太陽と月それぞれ単独 の物語もあれば,双方の誕生にまつわる話,食に 関する物語など多彩です.北斗七星やオリオン 座,プレアデス星団(すばる)も目立つ星の並び なので,多くの地域で物語に取り込まれたようで す.ベガとアルタイルの対は七夕伝説で有名です が,それ以外の物語にはこの組合せは登場しませ ん.アルタイルは太平洋地域では航海の目印とし て重要視されており,単独で物語に登場します. 全天で最も明るいシリウスは,収録された物語の 図2 物語に登場する天体たち.「アジアの星物語」に収録された物語に出てくる天体を国名と本のページ数ととも に星図上に表しました.

(6)

天球儀  中ではなぜか脇役として登場します.ほかの星座 でも同様ですが,おうし座は西洋星座に出てくる 「牡牛」の形での認識はもちろんなく,この星座 の中のヒアデス星団,アルデバラン,プレアデス 星団らが個々に物語に登場します.一般にそれぞ れの地域から見えやすい明るい星が物語になる傾 向がありますが,カノープスに関しては地平線や 水平線ギリギリに見えたり見えなかったりするこ とがかえってありがたがられて,北半球の国のお 話にしばしば登場します.

さまざまな物語の類似性と特異性

集まった物語を全体的に眺めてみると,ある種 の類似性に気づく方も多いでしょう.前にも述べ ましたが,この本に収録された物語の多くは,元 をたどれば大きく中国起源とインド起源,それに 太平洋諸島起源に分けられます. 長い歴史をもつ中国文化は,儒教やいわゆる北 伝仏教を中心として,日本を含む周辺諸国に非常 に大きな影響をもたらしました.前述したように 日本やベトナムに伝わっている七夕伝説は中国起 源の物語ですし,韓国の「北斗七星と南斗六星」 も,元は中国から伝わった物語です.モンゴルの 七つの太陽を弓で射る話も,中国の弓の名人羿 (げい)が

9

個の太陽を次々に射落とす話と類似 しており,起源は同じと思われます. 一方,インドはヒンドゥー教と仏教という兄弟 ともいえる宗教を生み出し,まず仏教が北を通っ て中国へ,南を通って東南アジアへと伝わってい ます.次いでヒンドゥー教がインドを席巻するよ うになると,周辺諸国にはヒンドゥー文化の流れ が広がりました.この本ではタイの物語に仏教の 業,輪廻転生などの思想が読み取れますし,イン ド,ネパール,バングラデシュ,インドネシアの 物語にヒンドゥー教の影響が色濃く見えるものが 収録されています. 太平洋諸島はアジアの影響を受けているもの の,かなり独特です.広大な太平洋諸島の民族は 太陽や月,星を頼りに航海し,星を生活の中に位 置づけて独自の宇宙観を生みました.また太平洋 地域のお話に惑星が一つも含まれていないのは, 惑星は徐々に位置を変えるので,航海には頼りに ならないものだと見なされたからなのかもしれま せん. こうした物語の基盤をなす宇宙観やアジア各地 域の文化や物語の流れと変化の過程については, 本書の最後に三つの「解説」に加え,太平洋地域 の民俗学を専門家としておられる後藤 明先生に 総合的な解説をいただいています.

日本の星物語

この本では,日本に伝わる星の神話伝説・星文 化を,八つ紹介しました.パート

I

には「サマエ ンの星」(北斗七星),「徳蔵と北極星物語」,「七 夕さまと瓜畑」,「むりかぶしゆんた」(すばる), パート

II

には「天岩戸に隠れたアマテラス」(太 陽),「イワンノチュウ」(すばる),「船人たちの 星歌」(月,金星,すばる,天の川),「七夕祭り」 です. 日本は古代中国と古代朝鮮の文化の影響を大き く受けていますが,しかしそれだけではありませ ん.北はオホーツク文化,南は太平洋文化の影響 も受けています.したがって,日本の北東部には オホーツク文化系の影響を受けた物語が,中部は 中国系,南西部は中国と海洋系の文化の影響を受 けた物語が語り継がれています.中国系の文化 は,天と人とは相互に関係し合い作用し合ってい るという「相関宇宙論」を基礎とし,地上は天の 北極に坐す天帝の意向で治められるという「天の 思想」に基づいています.ですから「天下」,「天 子」,「天命」,「則天去私」などという言葉や概念 があるのです.こうした考えに基づく中国星図は すなわち天の世界地図で,天の北極に天帝,周囲 の星は天官(天の官僚,貴族)であり,それを取 り巻く城郭や街です.皇帝は天を観測する天文官 を置き,天象を観測させて日食,彗星,新星など

(7)

の異常な天象から天の意志を読もうとしました. したがってこの文化を統治制度とともに輸入した 大和朝廷では,星は天皇に直結する畏れ多いもの であり,星を見るのは官僚の仕事でした.このた め万葉から平安の間,星を愛でる歌は詠まれるこ とがなく,独自の星の神話伝説もかなり時代が下 がるまで生み出され難かったと,著者の一人(海 部)は考えています.ただ,中国渡りの七夕伝説 だけは,恋する宮廷貴族たちに愛されて広まって いきましたが. これに対し,和人から追われたこともあって孤 立し,北のオホーツク文化と深く交わった北海道 地域のアイヌ民族では,星に対する思いはかなり 異なります.本書に収録した「サマエンの星」や 「イワンノチュウ」では,星はどちらかといえば 空にじっとしていて働かない怠け者の象徴でもあ ります.その一方で,中国文化や南アジアの影響 を受けた沖縄地方の物語「むりかぶしゆんた」で は,星は農業にたいへん役に立つものとして尊敬 され,農民たちは星の動きを見て種まきや収穫の 時期を知り,農作業に精を出して,たくさんの実 りを得て幸せになったと語られます.同じ日本の 中でも星に対する捉え方が大きく違っていること がこれら限られた物語からも伝わってきて,面白 いことです.

プロジェクトは終わらない

この本を生み出した「アジアの星」国際プロ ジェクトの目的は,アジアの星の神話伝説をアジ アでも世界でも広く知ってもらうことにありま す.ですから,本書の内容も挿絵も,教育・普及 の目的であれば,プラネタリウムでの使用も含め て無料で使っていただけます.ただし,お使いに なる場合は本文末尾の問い合わせ先までご一報く ださい.また,末尾に記したウェブサイトも,ぜ ひ訪問ください.著作権などの注意事項がありま す. プロジェクトはまだ終わっていません.今後は まず,英語版の出版をハワイ大学出版局といっ しょに進めます.

2015

年の夏の出版を目指して います.さらに,完成した英語版原稿をもとに, プロジェクトに参加したアジア各国・地域でのそ れぞれの言葉での出版を進めます.アジアの国の 中には自国での出版費用がままならないところも ありますので,日本での本の売り上げの

5

%はア ジアの各国・地域での現地語での出版費用の補助 に使われます(編集委員をはじめこの本に参加し たメンバーは全員,著作権料を返上しています). 皆さん,ぜひ本を買って,広めてください.学校 にも家庭にも,『アジアの星物語』を! さらに,もうひとつ.「アジアの星プロジェク ト」ワーキンググループは,プロジェクトのため に日本全国の星物語や星文化を探しました.その 過程で,全国区に伝わっている七夕やお月見の習 慣など,地方によってかなり異なっていることが わかりました.また,まとまった伝説や物語はあ まりないけれども,日本の庶民が日常的に星を仰 ぎ親しんでいた証拠は,たくさんの星の和名に 残 っ て い ま す. 例 え ば「茶 が ゆ 星」 は ア ー ク トゥールスで,初冬の夜明け前に東から昇ってき ます.ちょうどそのころ漁師たちが起きて茶粥を 食べてから漁に出るため,この名前がついたと言 われています.「こと座」を「まな板星」,「かん むり座」を「籠星」と呼んだり,星に身近な生活 道具の名前を付けることが少なくありません(西 洋星座の一部の目立つ部分に和名が付けられてい ます).星の和名を収集している北尾浩一さん (ワーキンググループのメンバー)によれば,「ス マルさん」(プレアデス星団),「ミツボシさん」 (オリオンのベルトの三ツ星)など,日本人は星 を「さん」付けで呼ぶことが多いとのこと.これ は日本人の星に対する親しみのあらわれではない でしょうか. こ の ほ か星 に 関 す る 神 社 仏 閣 や 石 碑 な ど,

2009

年から四年間のワーキンググループの活動 で星に関する日本独自の資料がたくさん集まりま

(8)

天球儀  した.ワーキンググループはこのプロジェクトの 副産物を利用して本にまとめ,「日本の星(仮 称)」の出版を企てています.この本では,日本 の各地方独特の星の名前やその起源を探り,星の 名所を訪ねる旅の企画もたてました.そう,日本 の星ガイド.そんな本を作る作業が進んでいま す.まだ本のタイトルは決まっていませんが,近 い将来出版される「日本の星」,ご期待ください. 最後に,本号の書評ページにこの本が紹介され ています.ぜひご覧ください. 問合せ先 海部宣男(かいふ・のりお) 「アジアの星」国際編集委員会委員長 電話:

042

675

5150

FAX

042

375

4967

e-mail: [email protected]

吉田二美(よしだ・ふみ) 「アジアの星」編集ワーキンググループ 電話:

0422

34

3947

FAX

0422

34

3800

e-mail: [email protected]

アジアの星

web

ページ

http://www.astronomy2009.jp/ja/project/

asian/publication/book.html

謝 辞 国際ワークショップの開催,本の出版準備作業 など「アジアの星プロジェクト」の活動にあたっ ては,放送大学教育振興会,天文学振興財団,国 立天文台から資金面などでの援助をいただきまし た.深く感謝いたします.また本文でも述べまし たが,アジア各国から集まった多彩かつ難解な英 文を辛抱強く翻訳してくださった柹田さんと川本 さん,そして「アジアの星プロジェクト」の趣旨 に賛同し,儲けを度外視して美しいフルカラー, かつ安価な本として出版していただいた万葉舎の 尾関とよ子社長ほか社員の皆様の心意気に,心か ら感謝いたします.

参照

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